自衛隊(自衛官)に関する社説・コラム(2024年11月6日)


不足する自衛官 安心して任務果たせる体制に(2024年11月6日『読売新聞』-「社説」)
 
 予算を増やして防衛力を強化しようとしても、その役割を担う人材が不足していては話にならない。自衛官の処遇を改善することが急務だ。
 政府が、自衛官の給与水準の引き上げや、再就職先の拡充などを検討している。関係閣僚会議で年内に具体策をまとめ、2025年度予算案に関連経費を盛り込む方針だ。
 自衛官の人数は今年3月末時点で約22万3500人で、定員割れは2万人を超えている。昨年度は約2万人を募集したが、有為な人材を選抜した結果、約1万人しか採用できなかった。
 無論、少子化で人手不足に陥っているのは、自衛隊に限った話ではない。とはいえ、国民の生命、財産を守る役割の自衛官の不足は、日本の安全を揺るがしかねない。頻発している災害での救援活動に支障を来す恐れもある。
 自衛官の処遇改善を重要課題に位置づけた石破政権の問題意識はその限りでは理解できる。
 近年、防衛省は人材を確保するため、護衛艦や潜水艦の乗組員の手当や、24時間態勢でサイバー防衛に携わる隊員の手当などを引き上げてきた。
 だが、公務を志望する若者の間では、自衛官は離島や 僻地 へきち を含めて全国に転勤するため敬遠されがちで、全国転勤のない警察や消防などを選ぶ人が多いという。
 自衛官に関心を持つ人が、日本の平和を守っているというやりがいを感じるとともに、過酷な任務にも耐えられるよう、十分な待遇を確立することが欠かせない。
 勤務内容に応じて支給される手当だけでなく、基本給の引き上げは重要な検討課題となる。老朽化した隊舎の改修を進め、住環境の改善にも取り組みたい。
 自衛官の定年年齢は、原則として55~58歳だ。民間より早期に退職するのは、年齢を重ねて精強さを保てなくなることを避けるためだ。ただ、退職後に収入が低下することを心配する人は多い。
 再就職先を増やして、将来不安を 払拭 ふっしょく すべきだ。自衛官が現役時代に得た知見や技能は、航空や海運、警備といった民間の各分野で生かされるに違いない。国のために働き、退職した自衛官を社会全体で支えていくことが大切だ。
 自衛官のなり手不足は、近年のセクハラやパワハラ、手当の不正受給といった不祥事の続発とも無関係とは言えまい。
 組織の規律を正し、信頼を回復することも、志願者を増やすうえで不可欠となる。

自衛隊演奏会 不当な抗議は容認できぬ(2024年11月6日『産経新聞』-「社説」)
 
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コンサートを「無防備な中学生を実力組織へ取り込む」機会と考えるべきだと主張する抗議文
 いまだにこんな時代錯誤の「抗議」を行っているのかと、啞然(あぜん)とするほかない。
 広島県廿日市(はつかいち)市と同市教育委員会などが後援し、同市で開かれた陸上自衛隊音楽隊のコンサートに地元中学校の生徒が参加したのは問題であるとして、革新系の「教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま」や「九条の会・はつかいち」など3団体が市などに抗議した。
 自衛隊によるコンサートへの参加は「中学生にとって非常に危険」と主張している。
 自衛隊は合憲で、国会が議決した自衛隊法などに基づいて存在している。隊員は命がけで、国と国民を守る崇高な任務にあたっている。今回のような抗議は自衛隊を貶(おとし)めるのに加え、明白な職業差別でもある。断じて容認できない。
市と市教委が抗議に応じなかったのは当然だ。子供たちのためにも、自衛隊員のためにも今後も毅然(きぜん)と対応してほしい。
 コンサートは広島県自衛隊家族会の主催で9月に開かれ、同県駐屯の第13音楽隊と市立中の吹奏楽部が合同で演奏した。
団体側は抗議文で、自衛隊が音楽という手段を利用して「教育現場に侵入し、将来の自衛隊員へのリクルートに繫(つな)げようとする側面がある」とした。市と市教委に、後援中止や中学生を自衛隊に積極的に近づけないことを要求した。
市などによると、コンサートは今年で5回目で、音楽隊の高い演奏技術に触れる機会であるため生徒にも好評だという。だが2回目の開催以降、団体側が激しく批判してきた。
 昨年の市議会では共産党の市議が「平和教育や平和行政と相いれない」などと後援を批判した。市教委はコンサートの利点を挙げ、「後援することに問題ない」と答弁した。
 昭和60年代ごろまでは日本各地で、革新団体などによる自衛隊へのバッシングが相次ぎ、隊員の子供が学校で日教組系の教師らから名指しで批判されるという人権侵害もあった。今回の抗議は、当時の差別、攻撃を想起させるものだ。
 日本は厳しい安全保障環境下にあり、平和を守る抑止力や対処力として自衛隊の役割は高まっている。災害救援でも自衛隊は汗を流している。自衛隊への誤解や偏見を広める「抗議」は決して許されない。