フリーランス法に関する社説・コラム(2024年10月24・29日・11月1・2・4・5・13・17・19・27日)

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この法律で言う「フリーランス」とは、「業務委託の相手方である事業者であって、従業員※1を使用しないもの」をいいます。自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得ている個人だけではなくて、一人社長といったような形態で事業を行う法人も該当します。具体的には、デザイナー、カメラマン、イラストレーター、システムエンジニアといった方々はフリーランスとしてイメージしやすいですが、建設業、配送業、理容師、美容師、インストラクター、講師、営業職など、様々な分野・業種で企業に雇われずに個人で仕事を請け負っているかたも、従業員を使用していなければ、この法律のフリーランスに当たります。

フリーランス新法施行 働き手の不安拭う運用を(2024年11月27日『毎日新聞』-「社説」)
 
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「買いたたかれている」と語る軽貨物ドライバーの男性。運送会社からの業務委託でアマゾンの荷物を配達している=神奈川県横須賀市で2024年6月、中島昭浩撮影
 企業や団体と雇用関係にないフリーランスを保護する新法が施行された。だれもが安心して働けるよう、新しい仕組みを最大限に活用していかなければならない。
 業務委託契約を結び、成果に対する報酬を受け取る働き方だ。ITエンジニアや宅配ドライバーなどさまざまな職種がある。国の調査では約460万人に上る。
 働く場所や時間を比較的自由に選べる一方、発注する側より立場が弱く、不当な取引を余儀なくされるケースが少なくない。
 政府のフリーランスに関する実態調査によると、報酬など取引条件が明示されなかった経験のある人は4割を超えた。十分に協議しないまま報酬を決められた人は7割近くいた。
 新法は発注者に対し、取引条件を書面やメールなどで明確化するよう義務づけた。報酬額を著しく低く定める「買いたたき」や、発注者側の都合で納品物の受け取りを拒否する行為などを禁止した。
 育児や介護と両立できるよう、納期の変更や在宅での勤務を認めるなどの配慮を求めている。ハラスメントの相談や苦情に対応する体制の整備も必須だ。
 違反した発注者が是正に応じなければ、社名が公表される。罰金を科されることもある。
 課題は実効性だ。
 違反行為を受けたフリーランスは自ら公正取引委員会などに申し出る。だが、政府の調査では、フリーランスの8割近くが法の内容を知らなかった。発注者側も過半数が知らないと答えた。
 政府は周知の徹底を図るべきだ。発注者が適正な対応を取っているか、監視の強化も欠かせない。
 新法ではカバーできない問題もある。スマートフォンアプリなどを通じて発注者から指示を受けて働くような場合、雇用に近いにもかかわらず、労働者とみなされない。労働時間の規制や最低賃金などの保護の対象外となる。雇用保険や厚生年金にも入れない。
 デジタル化で就労形態が多様化し、現在の労働法制では対応しきれなくなっている。
 政府は成長戦略の一環として、フリーランスを含む多様な働き方を推進してきた。働き手を守るルールを、社会の変化に即して見直していく必要がある。

フリーランス法/多様な働き方守る一歩に(2024年11月21日『神戸新聞』-「社説」
 
 企業や団体に所属せずに個人で仕事を請け負う人を保護する「フリーランス新法」が施行された。働き方は多様化している。立場の弱い個人が安心して働けるよう、環境整備を着実に進めねばならない。
 「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれる。仕事を発注した事業者側に、きちんと報酬を支払うことやハラスメント対策などを義務付けた。
 法成立は昨年4月だが、まだ十分に知られていない。政府の調査によると、新法の内容を知らないフリーランスは76%、発注側の事業者は54%に上る。兵庫県内では兵庫労働局が説明会を開き、相談を受け付けている。周知を徹底してほしい。
 フリーランスで働く人は、政府推計で400万人を超える。IT技術者やデザイナー、建設、食事宅配サービスの配達員、芸能など分野は幅広い。企業での定年後にフリーランスになる人も増えている。
 自由な働き方に魅力を感じる人は多い。その半面、一方的に仕事を取り消されるといったトラブルが後を絶たない。泣き寝入りをした人も少なくないとされ、働き手を保護する必要性が高まっていた。
 新法は、「取引の是正」と「就業環境の整備」の2本柱からなる。仕事の発注側は、業務の内容や報酬などの取引条件を書面やメールで明示し、業務完了から60日以内に報酬を支払わなければならない。ハラスメントの相談体制を整えることも求められる。
 フリーランスへの業務委託が1カ月以上に及ぶ場合は、発注した成果物の受け取りを理由なく拒否することや、報酬を不当に低くする「買いたたき」といった七つの禁止行為を定めた。取引が6カ月以上になれば、発注側はフリーランスが育児や介護と業務を両立できるよう配慮義務を負う。
 違反した場合は、公正取引員会が発注元に勧告や命令を出し、事業者名を公表する。命令に従わなければ50万円以下の罰金が科される。取引の実態を監視し、フリーランスセーフティーネット(安全網)としての実効性を高める必要がある。
 しかし、残された課題は多い。フリーランス労災保険に特別加入できるが、保険料は全額自己負担となる。最低賃金の保障はなく、労働時間の規制も及ばないなど、極めて不安定な立場に変わりはない。加えて、発注側の指示を受け、雇用に近いにもかかわらず、労働法令で守られない「名ばかりフリーランス」の救済が急がれる。
 発注側はもちろん、フリーランスで働く人は自分を守るために新法を理解し、活用することが重要だ。

フリーランス新法 周知徹底し実効性を高めよ(2024年11月19日『河北新報』-「社説」) 

 

 企業や団体に属さずに個人で働く人を保護する「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)が施行された。

 まずはフリーランスを保護する一歩ととらえたい。一人の働き手として、生活と尊厳が守られる社会をいかに築くか。政府や企業は早急に環境を整えてほしい。

 雇用されない働き方が広がる今、フリーランス新法の周知を徹底し、誰もが安心して働ける安全網の充実に取り組まなくてはならない。

 フリーランスは個人で仕事を請け負う働き方だ。IT技術者やデザイナー、食事宅配サービスの配達員など職種は幅広い。副業や定年退職後の働き方として選ぶ人もいる。2020年の政府推計で462万人に上るという。

 新法は、フリーランスに業務を委託する事業者の義務と禁止行為を定めている。

 事業者に対し、仕事の内容や報酬額を書面やメールで明示し、業務の完了から60日以内に報酬を支払うよう義務付けた。報酬を不当に低く抑える「買いたたき」や発注した成果物の受領拒否、報酬減額などを禁じる。

 ハラスメント対策の体制整備も発注事業者に課した。セクハラやパワハラに関し、相談や苦情に応じて適切な対応が求められる。

 6カ月以上の業務委託では育児や介護と業務が両立する配慮、中途で契約を解除する際の事前予告や理由開示も必要になる。

 新法の目的は、取引の適正化と働きやすい環境整備だ。これまでフリーランスは、業務の発注者より立場が弱く、不利な契約や無理な発注が問題視されてきた。報酬の未払いや減額などのトラブルにも泣き寝入りを強いられるケースが少なくない。

 実際、公正取引委員会が10月に発表した調査によると、新法で義務化された「業務内容や報酬の明示」をされなかった人は44・6%に上った。新法が禁じる成果物の受け取り拒否は20・1%が経験し、28・1%は理由のない報酬減額をされていた。

 こうした就業環境の改善が期待されるが、まだ一歩を踏み出したに過ぎない。病気やけが、失業などに備える安全網は十分ではない。

 雇用関係がないフリーランスは、基本的に労働法の保護対象から外れる。労働時間の規制が及ばず、長時間の就業をどう規制するのか。雇用保険も適用されない。厚生年金に加入しないため、老後の保障なども課題となる。

 新法の認知度も決して高くない。公取委の調査では、法律の内容を知らないフリーランスは76・3%で、発注側も50%を超えている。

 政府は新法の周知を徹底することはもちろん、取引の実態を監視する方策を講じるべきではないか。新法の実効性の向上と不断の見直しに努めてもらいたい。


 
フリーランス法 安心して働ける環境を整えよ(2024年11月17日『読売新聞』-「社説」)
 
 組織に属さずに働くフリーランスを保護する新たな法律が、11月から施行された。多様な働き方が広がる中で、安心して仕事ができる環境を整えていくことが大切だ。
 フリーランスは、ITエンジニアやアニメーター、ライター、通訳などが代表的な職種で、働き方の一つとなっている。
 料理の宅配など、単発で仕事を引き受ける「ギグワーク」と呼ばれるフリーランスも増えている。民間の調査では、2023年にフリーランスを本業とする人は約320万人に上るという。
 ただ、無理な発注やトラブルが生じても泣き寝入りする事例が後を絶たない。仕事を打ち切られることなどを恐れるからだろう。
 公正取引委員会が行った調査によると、フリーランスから、「多くは口約束で、事前に契約書を作るのはまれ」「足元をみた報酬額や条件、休日返上の納期を求められることが多い」といった不満の声が多く寄せられたという。
 買いたたきについては、フリーランスの約7割が「報酬額を一方的に決められたことがある」などと回答していた。
 フリーランスには原則として労働基準法が適用されない。立場の弱い個人が安心して働ける環境整備を進めていかねばならない。
 新たな「フリーランス取引適正化法」は、企業が業務を発注する際に、著しく低い代金しか支払わない買いたたきや、一度決めた報酬の不当な減額を禁じる。
 仕事の内容や報酬額を書面やメールで明示し、60日以内に報酬を支払うことも義務づけた。
 下請法では対象外となっている資本金1000万円以下の中小企業にも新法が適用されるため、多くのフリーランスに恩恵が及ぶだろう。また、発注する企業側には、ハラスメント行為に対する相談体制の整備も求めている。
 フリーランスの立場の弱さは根深い問題だ。公取委は今月に入っても、出版大手「KADOKAWA」が、ライターやカメラマンの報酬を著しく低い額に設定したとして下請法違反を認定した。
 公取委は、新法を踏まえて取引状況の監視を強め、違反行為には厳正に対処してもらいたい。
 新法の認知度の低さも課題である。公取委の調査に、フリーランスの8割弱、企業は半数が、法律の内容を知らないと回答した。
 これではフリーランスを十分に保護できない。公取委は、経済団体などと協力して、周知の徹底を急ぐ必要がある。

フリーランス法】働き手守る環境整備急げ(2024年11月13日『高知新聞』-「社説」)
 
 どんな働き方でも安心して働ける環境づくりが急がれる。
 組織に属さず個人で仕事を請け負うフリーランスの人を保護する新法が今月施行された。
 フリーランスはIT技術者や食事宅配サービスの配達員など幅広い分野で広がり、2020年の調査によると、国内に約460万人いると推計される。時間や能力を有効活用できる一方、発注者より立場が弱いことによる不公正な取引を強いられる事例が問題視されている。
 典型的な事例が、きのう公正取引委員会が対応した出版大手「KADOKAWA」(東京)などの行為だ。雑誌製作で記事作成業務などを委託したライターやカメラマンへの支払いを一方的に引き下げたとして公取委が下請法違反を認定。再発防止を勧告した。
 公取委によると、KADOKAWA側は委託した26事業者に対し、代金を事前協議せず一方的に引き下げる通告を行った。引き下げ幅は最大約40%で、引き下げ分の総額は約590万円だった。ライターらの多くはフリーランスで、仕事を受ける立場上、契約の打ち切りや関係悪化などを恐れて不当な取引でも応じざるを得なかったとみられる。
 こうした不当な行為はこれまでは下請法で監視されていたが、同法は資本金1千万円を超える発注元を対象としていた。新法では、実際の契約で多数を占める資本金1千万円以下の発注元も適用対象にするとともに、フリーランス保護の観点から新しい義務も課す。
 法律の柱の一つは「取引の適正化」だ。発注元が業務内容や報酬額などの取引条件を書面やメールで明示し、業務完了から60日以内に報酬を支払うことを義務付ける。報酬の不当な引き下げや成果物の受領拒否も禁じている。
 もう一つは「就業環境の整備」で、発注者は、育児や介護などの事情を抱えるフリーランスの申し出に配慮しなければいけなくなった。また、セクハラやパワハラ行為の相談体制の整備も義務化された。
 発注側には適正な取引を行う責任があるのは言うまでもない。着実に対応しなければならない。
 課題は新法の認知度が高まっていないことだ。公取委などの調査では、新法の内容を知らないフリーランスは7割超、発注側の企業も5割超に上った。建設や医療・福祉分野で特に低かった。
 政府は経済団体や労働団体などと連携し、周知徹底を進めなければならない。実効性を高めるためにチェックに力を入れる必要もある。
 新法施行はフリーランス保護強化に向けた一歩になるが、企業に雇用される労働者と比べ、権利の保護は十分とは言い難い。労働法令の保護対象からは基本的に外れ、雇用保険は適用されず、労働時間の規制もない。労災保険は特別加入できるようになったが保険料は自己負担だ。
 時代とともに雇用形態や働き方は多様化している。働き手の実態に沿った安全網の充実が求められる。

フリーランス新法 多様な働き方守る社会に(2024年11月13日『西日本新聞』-「社説」)
 
 企業や団体に属さずに働く人を不利な取引から守る「フリーランス新法」が1日に施行された。
 多様な働き方が広がっている。誰もが安心して働ける環境づくりは急務だ。政府は新法を浸透させるとともに、フリーランスの実態を把握し、安全網の充実に取り組まなくてはならない。
 フリーランスとは個人で仕事を請け負う働き方で、副業や定年退職後に選ぶ人が増えている。IT技術者やデザイナーといった専門的な職種から、食事の宅配サービスの配達員まで幅広い。
 問題は、フリーランスが業務の発注者より弱い立場にあることだ。2020年の政府の調査では、約4割が報酬の未払いや一方的な減額などのトラブルを経験している。取引の打ち切りを恐れ、泣き寝入りした事例も少なくない。
 新法の目的は取引の適正化と働きやすい環境整備だ。
 頻発するトラブルを防ぐため、業務を発注する事業者に業務内容、報酬額などの取引条件を書面やメールで明示することを義務付けた。
 発注者がフリーランス以外であれば、業務完了から60日以内に報酬を支払うことやハラスメント対策を求める。
 1カ月以上の業務委託の場合は、報酬を不当に低くする「買いたたき」や発注した成果物の受領拒否、報酬減額などを禁止した。
 6カ月以上の業務委託は、育児や介護と業務が両立するように必要な配慮を義務付けた。契約を中途で解除する際は事前に予告し、理由を開示することも明記した。
 発注側と受注側の取引を適正化する法律には「下請けいじめ」を防ぐ下請法がある。資本金が1千万円を超す親企業が対象で、建設工事は対象外となっている。発注者の規模や業種を問わない新法の方が対象範囲が広い。
 フリーランスに対する理不尽な扱いは許されない。社会全体で目を光らせたい。
 気がかりなのは新法の認知度が低いことだ。公正取引委員会厚生労働省が5、6月に実施した調査では、法律の内容を知らないと回答したフリーランスは4人に3人に当たる76・3%だった。発注者も50%を超えた。
 政府は経済団体や労働組合などと連携し、新法の周知徹底に努めるべきだ。
 新法による就業環境の改善を期待したい。ただ病気やけが、失業に備える安全網は極めて脆弱(ぜいじゃく)である。労災保険に特別加入する制度があるが、保険料は全て自己負担だ。
 昨年、ネット通販の商品配達中のフリーランスが負傷し労災と認定された。実態は雇用労働者に等しいと労働基準監督署が判断した。働く側が不利益を被る「名ばかりフリーランス」は放置できない。
 ネットを介して単発で仕事を請け負うギグワーカーのように、新しい働き方も定着している。労働実態に応じた安全網の見直しが必要だ。

フリーランス新法 権利の確保が欠かせない(2024年11月5日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 

 不公正な取引の是正を図り、立場が弱い働き手を保護することは重要だが、それだけでは足りない。権利の保障を確かなものにする法制度が不可欠だ。
 フリーランス新法が施行された。雇用契約を結ばず個人で業務を請け負う働き手と企業との取引の適正化に主眼を置く。企業側に取引条件の明示を義務づけ、不当に低い報酬や一方的な減額を禁じたほか、60日以内に報酬を支払うことを明記した。
 政府の2020年の調査で、国内のフリーランスの働き手は推計460万人余に上る。組織に縛られない働き方として広がりを見せる一方、取引で理不尽な扱いを受けることが少なくない。
 公正取引委員会がこの5、6月に行った実態調査では、不当に低い報酬で仕事を請け負わせる「買いたたき」を経験した人が7割近くいた。ほかにも、新法が禁じる成果物の受け取り拒否や報酬の減額といった行為が横行する実情が明らかになっている。
 今後は、違反した企業に対して指導、勧告し、従わない場合は命令を出して社名を公表するほか、悪質な場合は罰金を科す。行政による監督を強化し、働き手が泣き寝入りを強いられる状況を改めなければならない。
 ハラスメントの防止や育児・介護への配慮を定めたことを含め、新法はフリーランスの保護に向けた一歩になる。しかしなお、権利を保障する仕組みは弱い。
 とりわけ目を向けなければならないのが「名ばかりフリーランス」だ。会社の指示を受け、雇用された労働者と変わらない働き方をしているのに、形式上、請負契約を結んだ個人事業主として扱われている人たちを指す。
 労働法令による保護の枠外に置かれ、極めて不安定な立場にある。最低賃金の保障はなく、時間外労働の割増賃金も支払われない。雇用保険の対象にならないため、失業手当も支給されない。
 本来、労働法令が適用される労働者かどうかは、契約の形態にかかわらず、働き方の実態による。労働基準監督署が昨年度、フリーランスでありながら労基法上の労働者にあたると判断した人は、全国で150人余いたという。
 労基署が把握した事例に限られるため、氷山の一角であるのは明らかだ。政府、国会は、法制度上の労働者の位置づけを明確にし直す必要がある。請負契約を隠れ蓑(みの)にして、働く人の権利がないがしろにされ続けている現状を放置してはならない。

フリーランス保護 多様な働き方を広めたい(2024年11月5日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 組織に属さずに個人で働くフリーランスを保護する新法が、1日に施行された。業務を発注する事業者に適正な取引やハラスメント対策を求める法整備だ。
 会社員や公務員に比べ弱い立場に置かれやすい個人が安心して働ける環境を整える意義は大きい。働き方の選択肢が広がれば、人手不足の解消や経済成長などにもつながるのではないか。
 新法は発注元に対し、業務内容や報酬額を書面やメールで明示することや、業務完了から60日以内に報酬を支払うことなどを義務付けた。報酬を不当に低くする「買いたたき」や、発注した成果物の受領拒否は禁止した。育児や介護などの事情に配慮し、セクハラやパワハラについてフリーランス向けの相談体制を整備することも求めた。
 公正取引委員会が調査し、違反を認定した場合は発注元に勧告や命令を出す。事業者名や違反内容も公表する。命令に従わなければ50万円以下の罰金が科される。
 2020年の政府の調査によると、フリーランスは全国に462万人いると推計される。IT技術者やデザイナー、食事宅配の配達員など業種や職種は幅広い。
 組織に縛られずに働く場所や時間を自由に選びやすい半面、交渉力や情報収集力が弱いため、報酬の不払いや取引条件の一方的な変更など不利な扱いを受ける事例が相次ぎ、問題となっていた。
 新法でフリーランスの働く環境が改善されれば、副業を含め仕事の選択肢が増える。高齢者や障害者、主婦などより多くの人が、それぞれの事情に合わせて働きやすくなると期待される。
 深刻化する人手不足を補うためにも、幅広い人材の活用は欠かせない。多様な個性と能力の発揮によって新しい技術やサービスが生まれ、経済成長の原動力となる可能性も秘めている。発注元は事務の負担が増えるが、企業の責務として取り組んでほしい。
 新法の施行後も社会の理解が進まなければ状況は変わらない。当面の大きな課題は周知徹底だろう。公取委厚生労働省が5~6月に実施した調査では、フリーランスの8割弱、企業の5割強が新法の内容を知らなかった。
 フリーランスの4割強は取引条件を明示されたことがなく、企業の2割弱が明示していなかった。買いたたきに遭ったフリーランスは7割弱に上り、成果物の受領拒否は2割、理由のない報酬の減額は3割弱が経験したと答えた。
 国はまず新法の趣旨や内容を広く知らしめる必要がある。口約束によるあやふやな発注や理不尽な取引が横行していないか実態の監視に努めてほしい。問題に直面したフリーランスが気軽に相談できる窓口の充実も求められる。
 フリーランスは労働時間の制限や雇用保険労災保険、厚生年金といった安全網が十分ではなく、不安定な立場にある。新法の効果や課題を注視しながら、多様な働き方が広がる環境づくりをさらに進めたい。

フリーランス法 働く人たち守るために(2024年11月4日『東京新聞』-「社説」)
 
 企業などに雇用されず個人で仕事を請け負うフリーランスの人を保護する「フリーランス新法」が1日に施行された。立場の弱い働き手を守るための法律だが、周知は十分でない。働きやすい環境に向けて新法の浸透を急ぎたい。
 フリーランスIT技術者や食事宅配の配達員、フリーライターなど幅広い職種で働く。働き方の多様化に伴って増え、政府の推計で約462万人いるとされる。
 ただ、企業など発注側に比べて立場が弱く、契約実態に関する政府調査では、取引条件が明示されなかった経験のあるフリーランスは44・6%に上り、不十分な協議で報酬が決められる「買いたたき」も67・1%あった。
 調査からは、フリーランスが不利な取引でも泣き寝入りを強いられる実態が浮かぶ。発注者からのセクハラなどハラスメント被害もあり、安心して働ける取引環境の整備が課題となっていた。
 新法の柱は「取引の適正化」と「就業環境の整備」。
 「取引の適正化」では、発注者側に書面やメールなどで取引条件の明示を義務付けた。違反には社名が公表される場合がある。
 また、仕事の成果物の受け取りを理由なく拒否することや、報酬の削減、返品、理由のない仕事のやり直しなど七つの禁止行為を定めた。これらは取引上のトラブルを未然に防ぐことが狙いだ。
 「就業環境の整備」では、発注者はフリーランスに対するハラスメント防止や、相談に応じるための制度を整備する義務を負う。
 取引が6カ月以上にわたる場合は、育児や介護をしながら働けるよう配慮も求められる。
 新法は、フリーランスの就業環境の整備に欠かせない内容だが、十分に周知されているとは言い難い。政府の調査では、新法の内容を知らないフリーランスは76・3%、発注者も54・5%だった。
 発注者には、新法の趣旨や禁止行為を理解し、フリーランスが能力を十分発揮できるよう就労環境を整える責任がある。
 フリーランス側も適正な取引を通じて報酬を得たり、ハラスメントなどから自身を守るための法律として活用する必要がある。
 厚生労働省は、新法施行に合わせ全国の労働基準監督署に相談窓口を設置した。新法の周知を徹底するとともに、取引の実態を監視し、適正化に取り組むべきだ。

フリーランス新法 安心して働ける環境整備を(2024年11月2日『京都新聞』-「社説」)
 
 企業などの組織に属さずフリーランスとして働く人を、不利な取引から守る新たな法律が、きのう施行された。
 フリーランスは、仕事を発注する側に比べて立場が弱いことが多く、不利な契約や無理な発注が横行する実態が問題になっていた。「多様な働き方」の土台として、新法による実効性ある環境整備を進めねばならない。
 フリーランスを「特定受託事業者」と位置付けた。業務委託をする事業者に対し、仕事の内容や報酬額を書面やメールで明示し、仕事の成果物を受け取ってから60日以内に報酬を支払うことを義務化している。
 報酬の不当な減額や買いたたきも禁じる。下請法の対象外だった資本金1千万円以下の発注事業者にも適用される。
 また、フリーランスが育児や介護を抱えている場合に発注者が配慮すべきことや、ハラスメントについての相談体制の整備も求める。
 スキルや知識を生かし企業などと直接契約して報酬を得るフリーランスは幅広い産業分野にわたる。近年は食事宅配などの分野に広がり、「スポットワーク」や「ギグワーク」と呼ばれる単発・短時間の働き方も増えている。
 無理な発注や報酬の不払い、減額などの問題が起きても泣き寝入りを強いられる事例が少なくない。公正取引委員会の調査に答えたフリーランスのうち、約70%が報酬を一方的に決められた経験があると答えている。
 政府は法施行後も十分な実態調査を続け、安全網の充実を講じる必要がある。
 気になるのは関係者の間で新法の認知度が低いことだ。公取委の5~6月の調査では、フリーランスの76・3%、発注側の企業も54・5%が新法の内容を知らないと答えている。
 経済団体や労働団体と連携して周知徹底を急ぐ必要がある。
 フリーランスの間には、新法が働き方の実態に対応できるかという疑問の声もある。
 発注元の企業に日常的に「通勤」、「常駐」して仕事を請け負う「常駐フリー」も少なくない。実際は雇用労働者に近いのに、契約条件などに問題があっても声を上げにくいといった指摘がある。
 業務の形態や指揮、権限などの実態に応じた法的保護が求められよう。
 フリーランス雇用保険が適用されず、厚生年金に加入していない。俳優など芸能関係者の労災保険の特別加入制度ができたが、保険料は全て自己負担だ。社会保障面の整備はさらなる課題といえる。
 業務によっては、労災保険料を発注元が負担する必要もあるのではないか。
 近年は定年後に業務委託契約などで働く人も少なくない。誰もが安心して働き続けられる環境作りが不可欠だ。

フリーランス保護法施行 多様な働き方できる社会に(2024年11月1日『中国新聞』-「社説」
 
 組織に属さないフリーランス個人事業主)を保護する新法が、きょう施行された。働き方の多様化を進める機会にしたい。
 
 新法は、仕事を発注する事業者に適正な取引を求める内容だ。報酬額や業務内容を明確に定めた書面の交付や、業務を終えて60日以内の報酬支払いを義務付けた。報酬を不当に低くする「買いたたき」を禁じ、セクハラ・パワハラ対策も盛り込んだ。
 公正取引委員会公取委)が違反を認定した場合は発注元に勧告や命令を出し、事業者名や違反内容を公表する。命令に従わなければ50万円以下の罰金が科される。
 フリーランスで働く人は2020年の政府推計で全国に462万人。荷物配送や建設、情報技術者、デザイナー、飲食店など幅広い。働く時間や場所を選べるのが魅力とされるが、発注元の事業者に業務を指示、管理され、立場が弱い人もいる。「名ばかりフリーランス」と呼ばれる実態が問題視されてきた。
 通販大手アマゾンジャパンの商品を運ぶフリーランスの配達員は労働組合をつくり、配達量の多さに抗議している。人工知能(AI)で「最適」な配達ルートが示されるが、車で通れない細い道や坂も多く、「こんなに配れるわけがない」との声が漏れる。
 労組を支援する弁護士は、配達量を決める同社が実質的に勤務時間を管理しているとして「雇用と変わらない」と話す。残業代や労災保険雇用保険の支払いを免れるためフリーランスに委託しているのであれば許されまい。
 一方、トラブルがあっても仕事の打ち切りを恐れて泣き寝入りするケースも多い。公取委の調査では買いたたき行為を67・1%が受けていた。
 定年後や副業としてフリーランスを選ぶ人も増えている。多様な働き方を支え、誰もが安心して働ける環境を整えていく必要がある。
 しかし新法の知名度はいまひとつだ。公取委厚生労働省が今年5、6月に調ベたところ、新法の内容を知らないフリーランスは7割超、発注側も5割超に上った。行政は周知に本腰を入れるべきだ。
 法が守られているかどうか監視する役割も忘れてはならならない。現状では相談の内容によって公取委出先機関都道府県ごとの労働局に窓口が分かれている。フリーランスは協力者が身近にいない場合もある。ワンストップで対応する窓口が欠かせない。
 発注する企業側は、書類作りやハラスメント対策など業務が増えるかもしれない。ただ、多様な働き方が根付くことで働き手が増えれば、深刻な人手不足を和らげる効果が期待できる。前向きに対応してほしい。フリーランスで働く人も自分の身を守るために、契約書をよく確認するなど意識づけをしておきたい。
 新法が施行されてもフリーランスは原則として労働基準法の対象にはならない。労働時間の規制はなく、最低賃金雇用保険も適用されないままだ。セーフティーネットが十分かどうか、不断に見直していくことが求められる。

新法施行を機にフリーランス保護進めよ(2024年10月29日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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副業や定年退職後の働き方にフリーランスを選ぶ人が増えている(東京・丸の内)
 組織に属さずフリーランスとして働く人を、不利な取引から守る新たな法律が11月から施行される。副業や定年退職後にフリーランスを選ぶ人も増えている。立場の弱い個人が安心して働ける環境づくりを前進させるべきだ。
 フリーランス・事業者間取引適正化等法は業務委託をする事業者に対し、仕事の内容や報酬額を書面・メールで明示し、60日以内に報酬を支払うことを義務付ける。報酬の不当な減額や買いたたきを禁じている。下請法の対象外だった資本金1000万円以下の発注事業者にも適用される。
 無理な発注や報酬面でトラブルにあっても、仕事を打ち切られるのを恐れて泣き寝入りするフリーランスは少なくない。公正取引委員会が今年5〜6月に実施した調査では、十分な協議がないままに報酬額を一方的に決められたという人が67.1%にのぼった。
 新法は取引の適正化に加えて、育児・介護への配慮や、ハラスメント行為に関する相談体制の整備を発注側に求める。働く個人にとって条件交渉の後ろ盾となり、安心材料になるだろう。
 気になるのは新法の認知度が低いことだ。公取委の調査ではフリーランスの76.3%、業務委託者の54.5%が法律の内容を知らないと答えた。政府や経済団体、連合は周知徹底を急ぐべきだ。企業は法令を順守し、公取委などは違法行為を厳しく監視、摘発することを求めたい。
 新法の施行はフリーランス保護の一歩にすぎない。雇用関係がなければ基本的に労働法の保護対象からは外れる。雇用保険も適用されず、安全網は脆弱だ。労働時間の規制がないため、働き過ぎにも陥りやすい。
 厚生年金に加入しないため、老後の保障をどう充実させるかも課題になる。労災保険には特別加入できるが、保険料は全て自己負担だ。ウーバーイーツなどの料理宅配や荷物配送には交通事故のリスクが伴う。業務によっては労災保険料の企業負担を検討する余地があるのではないか。
 規制を強めすぎれば働く個人の自由度を狭めたり、企業が委託を減らしたりする恐れはある。バランスをとることも重要になる。
 フリーランスは400万〜500万人いるとされ、職種も年収水準もまちまちだ。政府は就労実態をきめ細かく調査し、多面的な保護策を講じる必要がある。

フリーランス新法 安心して働ける環境整備を(2024年10月24日『山陽新聞』-「社説」)
 
 企業などの組織に属さずフリーランスとして働く人を、不利な取引から守る新たな法律が、きのう施行された。
 フリーランスは、仕事を発注する側に比べて立場が弱いことが多く、不利な契約や無理な発注が横行する実態が問題になっていた。「多様な働き方」の土台として、新法による実効性ある環境整備を進めねばならない。
 フリーランスを「特定受託事業者」と位置付けた。業務委託をする事業者に対し、仕事の内容や報酬額を書面やメールで明示し、仕事の成果物を受け取ってから60日以内に報酬を支払うことを義務化している。
 報酬の不当な減額や買いたたきも禁じる。下請法の対象外だった資本金1千万円以下の発注事業者にも適用される。
 また、フリーランスが育児や介護を抱えている場合に発注者が配慮すべきことや、ハラスメントについての相談体制の整備も求める。
 スキルや知識を生かし企業などと直接契約して報酬を得るフリーランスは幅広い産業分野にわたる。近年は食事宅配などの分野に広がり、「スポットワーク」や「ギグワーク」と呼ばれる単発・短時間の働き方も増えている。
 無理な発注や報酬の不払い、減額などの問題が起きても泣き寝入りを強いられる事例が少なくない。公正取引委員会の調査に答えたフリーランスのうち、約70%が報酬を一方的に決められた経験があると答えている。
 政府は法施行後も十分な実態調査を続け、安全網の充実を講じる必要がある。
 気になるのは関係者の間で新法の認知度が低いことだ。公取委の5~6月の調査では、フリーランスの76・3%、発注側の企業も54・5%が新法の内容を知らないと答えている。
 経済団体や労働団体と連携して周知徹底を急ぐ必要がある。
 フリーランスの間には、新法が働き方の実態に対応できるかという疑問の声もある。
 発注元の企業に日常的に「通勤」、「常駐」して仕事を請け負う「常駐フリー」も少なくない。実際は雇用労働者に近いのに、契約条件などに問題があっても声を上げにくいといった指摘がある。
 業務の形態や指揮、権限などの実態に応じた法的保護が求められよう。
 フリーランス雇用保険が適用されず、厚生年金に加入していない。俳優など芸能関係者の労災保険の特別加入制度ができたが、保険料は全て自己負担だ。社会保障面の整備はさらなる課題といえる。
 業務によっては、労災保険料を発注元が負担する必要もあるのではないか。
 近年は定年後に業務委託契約などで働く人も少なくない。誰もが安心して働き続けられる環境作りが不可欠だ。