国連女性差別撤廃委員会の日本の女性政策を審査する会合(共同)
国連の
女性差別撤廃委員会が、日本の女性政策について「最終見解」を公表した。8年ぶりとなる日本への対面審査を経て、選択的
夫婦別姓を導入するよう勧告した。
同様の勧告は2003年、09年、16年に続き4回目。日本は20年以上、世界でもまれな
民法の夫婦同姓義務規定に
固執してきた。16年の勧告では「女性に夫の姓を強制している」と指摘。今回は「これまでの勧告に対し何の行動も取っていない」と日本側に厳しく批判した。
どちらかの姓を選択できるというのは公平と受け取られるが、現実に姓を変えているのは90%以上が女性で、背景には家父長制的な社会意識がある。
国内では、30年以上前から選択的
夫婦別姓の導入を求める声はあった。法制審議会は1991年から議論を始め、96年には導入を含む
民法改正案の要綱を答申した。だが
自民党保守系議員の反対などで国会への提出が見送られた。
その後も男性が多くを占める政界は、差別的な状況の改善に手を付けてこなかった。
一方で、結婚後も働き続ける女性は増え、職場などで通称として旧姓を使う人は珍しくない。旧姓で仕事を続けることでキャリア形成に支障がないようにしている。女性が意に反して夫の姓に変えることは、夫婦の関係が対等でなくなるとの指摘もある。
働く女性が旧姓を使用することを認めている企業は多いものの、通称では契約の際や海外
渡航時にトラブルとなることもあり、企業リスクとなり得るとした。
「最終見解」はこのほか、人工妊娠中絶の際に配偶者の同意を求める規定の見直しや、未成年が緊急避妊薬を入手しやすい環境づくりなどに言及した。沖縄の米兵による性暴力の問題にも触れ、加害者への処罰や被害者への補償をするための適切な措置を講じることを求めた。
憲法は、条約や
国際法規の誠実な順守を求めている。女性が不利益を受ける制度や社会システムが、広い分野で指摘された。政府と国会は速やかに取り組むべきだ。
人権に関する「世界の女性の
憲法」と言われる
女性差別撤廃条約を批准しているにもかかわらず、日本には差別の解消に消極的な面があると言わざるを得ない。政府と国会の主体性が問われる。
国連の
女性差別撤廃委員会が条約の履行状況を審査した。日本の女性を取り巻く問題として指摘されたのは、男女の賃金格差や、人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要とすることなど多岐にわたる。
まず勧告されたのは、世界で日本のみとされる夫婦同姓を義務付ける法規定を見直し、選択的
夫婦別姓を導入することだ。同様の勧告は2003年から受けている。
日本では夫婦の9割超が夫の姓を選んでいる。生き方や人格の象徴として別姓を望む人にとって、名字の変更は精神的苦痛を伴うことがある。旧姓の通称使用は夫婦の一方が名字を使い分ける煩雑さを負うことになり、ビジネス面での弊害も指摘されている。
女性が受ける精神的な苦痛や不利益の解消に取り組む責任がありながら、政府と国会が、選択的
夫婦別姓導入の議論を棚
ざらし同然にしてきたことが問題だ。
石破茂首相は
自民党総裁選時には選択的
夫婦別姓の導入に前向きだったが、首相就任後は慎重な姿勢に転じた。党内の慎重派への配慮があるとみられる。従来ならば勧告を受けても議論を先送りしたであろうが、
少数与党となったことで状況は変わった。
ほとんどの政党は選択的
夫婦別姓の導入に前向きで、自民は議論を避けて通れない。
与野党は早急に議論に着手すべきだ。
衆院選では過去最多となる73人の女性が当選したものの、全
衆院議員の2割に満たない。意思決定に関わる女性議員の少なさが、差別撤廃の取り組みが進まない要因の一つと指摘されている。
ジェンダー論に詳しい福島大の前川直哉准教授(
社会学)は「結婚しても名字が変わらないことの多い男性は、同姓の何が不利益なのか実感しにくい。結果的に問題解決の優先順位が下がる。女性議員が増えれば、
有権者の半分である女性の問題の優先度を上げて議論しやすくなる」と話す。
国連の委員会は、国会議員の男女比を平等にするための一時的な措置として、
女性候補の供託金の減額と、
議席や候補者の一定数を女性に割り当てるクオータ制の導入を勧告した。
議員だけでなく、候補者の男女比も平等とは程遠い。勧告を受けるような状況の改善が急務だ。国会は、女性が立候補しやすくなる仕掛けを講じる必要がある。
石破政権の外交 国際協調のけん引役を(2024年11月14日『北海道新聞』-「社説」)
安倍政権以降、外交・安保政策は国会での議論が軽視されてきた。石破首相は丁寧に議論することが欠かせない。政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中ではなおさらだ。
ロシアによる
ウクライナ侵攻や中東の戦乱が長期化し、国際秩序は不安定だ。アジアでも中国の軍拡や
北朝鮮の核・ミサイル開発が緊張を高めている。
さらには米国第一主義を掲げるトランプ前大統領の返り咲きが決まり、国際機関や多国間枠組みを軽んじる恐れがある。
世界経済や気候変動問題など各国が協調しなければ太刀打ちできない難題は山積みだ。だからこそ首相は民主主義や法の支配といった普遍的な価値を重視する国々を中心に連携し、国際協調をけん引する必要がある。
首相は米国も訪れてトランプ氏との会談を模索している。
1期目のトランプ氏とは当時の
安倍晋三首相が親交を深め、良好な関係を保った。とはいえ貿易協定では米側の意向を丸のみして農産物の日本市場開放が進んだ一方で、自動車の米国市場開放は見送られた。
また
貿易赤字解消などを迫られ、高額な防衛装備品の大量購入で応じた。結局は従属的な関係を強めたと言うほかない。
次期政権も
在日米軍駐留経費の日本側負担(
思いやり予算)の増額などを要求してくる可能性がある。追従一辺倒ではない関係の構築に尽力するべきだ。
首相は持論の
日米地位協定改定を「必ず実現したい」と明言していた。その言葉通り、トランプ氏にしっかり提起し、粘り強く働きかけてもらいたい。
首相は南米で中国の
習近平国家主席と初の首脳会談を調整している。中国の軍用機が日本領空を侵犯するなど軍事活動が活発だ。
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受けて中国が停止した日本産
水産物輸入の再開時期も決まっていない。
懸案が多い時こそ首脳間の対話が不可欠である。
トランプ氏は次期政権の高官に対中強硬派を起用する意向で、米中対立はいっそう激化しかねない。首相は米中の橋渡し役になり、地域の安定に積極的に取り組むことが求められる。
選択的
夫婦別姓の導入と並んで、国連の
女性差別撤廃委員会から重ねて勧告を受けていることがある。個人通報の制度を定めた「選択議定書」の批准だ。
委員会は、
女性差別撤廃条約の締約国の取り組みを定期的に審査し、総括所見(勧告)を出す。選択議定書の批准について、検討中との回答を繰り返す日本政府に対し、先月の勧告で、あらためて早期の批准を促した。
個人通報は、国内で裁判などの手だてを尽くしても人権侵害の回復が図られない場合に、当事者が国連の条約委員会に対して直接、救済を申し立てる制度だ。
女性差別撤廃条約については、付属する1999年の選択議定書で制度が設けられた。
条約の締約国189カ国のうち115カ国が既にこの議定書を批准し、制度を受けれている。委員会は今回、日本政府の対応を、時間がかかり過ぎていると指摘し、議定書批准の障壁を速やかに取り除くよう求めた。
ほかにも、
国際人権規約や
人種差別撤廃条約をはじめとする人権条約はそれぞれ、個人通報の制度を置いている。日本は各条約を批准しながら、個人通報については一つも受け入れていない。
政府は理由として、国内の司法制度と関連して問題が生じる恐れがあると説明する。関係省庁による研究会を設けているというが、いつになっても結論は出ず、非公開の会合で何が検討されているのかさえ定かでない。
全国のおよそ350
自治体の議会で、選択議定書の批准を求める意見書が採択されたという。とりわけ県内は、市民らの働きかけで県議会を含む70議会で可決され、県内全
自治体の9割に上る。
国際条約によって人権を確保するための重要な制度であり、当事者の救済にとどまらず、国内の人権状況の改善を図る上で有益だ。通報を踏まえて条約委が示す見解は、司法の独立を脅かすのではなく、人権のとりでとしての司法の役目を補い、支える。
背を向ける理由はなく、たな
ざらしのままにしてはならない。国会が動き、すべての人権条約について、個人通報制度の受け入れに必要な手続きを取るべきだ。
女性差別撤廃 主体的な対応が必要だ(2024年11月9日『東京新聞』-「社説」)
国連
女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本政府の対面審査を行い、選択的
夫婦別姓導入などを勧告する最終見解を公表した。日本が1985年に締結した
女性差別撤廃条約に基づく審査で、今回の勧告内容は日本社会に
女性差別が根強く残ることを示す。
政府や国会は勧告内容を重く受け止めるとともに、勧告によらずとも、主体的に
女性差別をなくすために動かねばならない。
CEDAWは条約締約国の女性に不利益な制度や慣習の改善状況を定期的に審査しており、日本政府に対しては2016年以来。
同条約は、姓を選択する権利を妻と夫に平等に保障するよう定めている。日本では法相の諮問機関である法制審議会が1996年に選択的
夫婦別姓制度を導入する
民法改正案要綱を答申したが、いまだ実現していない。
CEDAWは条約の趣旨に反すると問題視。2003年から選択的別姓制度の実現を日本政府に勧告し続けており、今回の最終見解でも同制度導入を勧告した。
今回の審査で日本政府代表団は「夫婦が別姓を名乗ることを認めるかどうかは国民の意見が分かれている。日本社会の家族のあり方にかかわる重要な問題で国民の理解が必要」と述べたが、女性の
アイデンティティーや人権にかかわることを軽視してはいないか。
最終見解では、緊急避妊薬を利用しやすくするとともに、人工妊娠中絶に配偶者の同意を必要とする規定の廃止も求められた。
子を産むのか産まないのかを決める主体は女性自身であり、その自由が侵害されないことは、国際社会が認める人権でもある。
さらに、女性の国会議員が少ないことにも懸念が示され、沖縄で頻発する米兵による性暴力にも初めて言及された。
議論を呼ぶのは、男系男子が
皇位を継承すると定めた
皇室典範も改正が求められたことだろう。
政府は遺憾を表明し、削除を求めたが、
共同通信が今年行った
世論調査では
女性天皇を認めることに計90%が賛同している。
国際公約の条約順守は当然だが、国民の意見と誠実に向き合い、必要な施策を主体的に講じるべきである。
選択的夫婦別姓の導入を国会で議論する素地が、かつてないほど整った。
10月の衆院選で与野党の多くが実現や推進を公約した。選挙の争点として党首討論会で繰り返し議論されたのは、国民の要請でもあるだろう。国会は今こそ、実現に向けた議論を始めるべきだ。
民法は結婚時に夫婦同姓を義務付けている。1996年に国の法制審議会(法相の諮問機関)が選択的夫婦別姓の導入を答申した後も、議論は長く停滞している。
特に自民党内で「家族の一体感が失われる」「伝統的家族観を損なう」などと反対する議員が多いからだ。
このため夫婦別姓を望むカップルの中には婚姻届を出さず、あえて事実婚を選ぶことが珍しくない。パートナーの姓への変更を「自己の喪失」と捉える人もいる。
同姓を義務付けられ、不利益や苦痛を受ける人がいる現状は放置できない。
政府は結婚しても旧姓で仕事を続ける人が増えたこともあり、旧姓が使える機会を増やしてきた。銀行口座の多くは旧姓で開設でき、運転免許証には旧姓が併記できる。
とはいえパスポートのICチップには国際規格で併記できないなど、旧姓使用の拡大には限界がある。そもそも夫婦別姓を望む人たちには何の解決にもならない。
最高裁は2021年、夫婦同姓とする民法の規定は合憲と判断する一方、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で議論し判断されるべきだ」と対応を促した。
衆院選中に共同通信社が実施した世論調査によると、選択的夫婦別姓の導入に67・0%が賛成し、反対の21・7%を大きく上回った。
6月には、経団連が早期実現を求める提言を発表した。社会的にも導入機運は高まっている。
国際社会も厳しい目を向ける。国連の女性差別撤廃委員会は10月、日本政府に民法の改正を勧告し、選択的夫婦別姓の導入を要求した。
同趣旨の勧告は03年以降で4回目だ。法的拘束力はないが、尊重が求められる。
法務省の調査では、夫婦同姓を義務化している国は日本しかない。
委員会は、結婚後に改姓するのはほとんどが女性であることから、民法の規定を「差別的」とする見解を示してきた。今回は日本政府が過去の勧告に対処していないことを批判している。
選択的夫婦別姓が導入されても、同姓か別姓かを選ぶのは個人の自由だ。家族は同姓であるべきだという考えも尊重される。
衆院選で与党の議席が過半数に満たず、国会はこれまでよりも与野党による政策協議の機会が増える。選択的夫婦別姓は与野党で熟議するテーマにふさわしい。
党内で意見が分かれる自民党はこれ以上、議論を先送りすべきではない。
女性差別で国連委勧告 根絶に動くのが国の責任(2024年11月6日『毎日新聞』-「社説」)
国連の
女性差別撤廃委員会による対日審査について記者会見する
NGOのメンバーら=スイス・
ジュネーブで2024年10月18日(一般社団法人「あすには」提供)
女性が不利益を受ける制度や社会システムの存在が、多岐にわたる分野で指摘された。政府と国会は重く受け止める必要がある。
国連の
女性差別撤廃委員会が、日本政府に女性政策の改善を勧告する「最終見解」を公表した。
女性差別撤廃条約にのっとった対応を取っているか、締約国を定期的に審査しており、日本政府への対面審査は8年ぶりだった。
ジェンダー平等に取り組む市民団体の関係者からも意見を聞いた。
女性差別撤廃条約の履行状況を審査する国連の会合に向け、各省庁の担当者(写真左側)から取り組みを聞く女性団体のメンバーら=東京都
千代田区の
衆院第1
議員会館で2023年12月4日午後3時21分、大和田香織撮影
最終見解がまず勧告したのは、選択的
夫婦別姓制度の導入だ。夫婦が同じ姓を名乗るか、結婚前の姓をそれぞれ維持するか選べる仕組みである。
条約は、姓を選択する権利を夫と妻に平等に保障するよう定める。夫婦同姓を義務づけている国は日本だけとされ、夫婦の95%が夫の姓を選んでいる。
選択的
夫婦別姓の実現は2003年から求められており、今回で4度目だ。いまだに
民法などが改正されていないのは、条約の趣旨をないがしろにしていると言わざるを得ない。
最終見解は国会で女性議員が少ないことにも懸念を示した。
女性候補者を増やすため、供託金を一時的に減額する措置を提案した。
先月の
衆院選では、過去最多となる73人の女性が当選し、割合も15・7%で最高を更新した。ただ、人口の半数が女性であることを考えれば、不十分だ。
政党の自主的な取り組みに任せていては、迅速な改善は見込めない。
政党交付金の配分に
女性候補者の比率を反映させるなど、実効性のある対策を講じるべきだ。
「性と生殖に関する健康と権利」への対応も取り上げられた。緊急避妊薬を利用しやすくし、人工妊娠中絶に配偶者の同意を不要とするよう求めた。
委員会は今回、
皇位継承を男系男子に限る
皇室典範に言及し、条約の理念と相いれないとして、改正を勧告した。政府は「国家の基本に関わる事項だ」として抗議したが、安定的な
皇位の継承は喫緊の課題である。国会が主体的に議論を進めなければならない。
憲法は、条約や
国際法規の誠実な順守を求めている。女性の人権を守り、差別を根絶する責任を国は果たすべきだ。
【夫婦別姓で勧告】今度こそ改善へ前進を(2024年11月6日『高知新聞』-「社説」)
日本の女性政策に対する世界の目は厳しさを増している。政府は勧告を真摯(しんし)に受け止める必要がある。
女性差別撤廃条約の履行状況を審査する国連の
女性差別撤廃委員会は日本政府に対する最終見解を公表した。夫婦同姓を義務付ける
民法の規定を見直し、選択的
夫婦別姓を導入するよう4回目の勧告を出した。
委員会は「これまでの勧告に対し、何の行動も取られていない」と日本政府の姿勢を批判した。
法務省によると、夫婦同姓を義務付けているのは世界でも日本だけとみられ、
ジェンダー平等を求める国際社会との溝は大きい。政府は今度こそ改善に向けた議論を前に進めなければならない。
「世界の女性の
憲法」と呼ばれる
女性差別撤廃条約は1979年、国連総会で採択された。締約国に対し政治、経済などあらゆる分野で性に基づく差別を撤廃する措置を求めている。
日本は85年に批准した。女性のみが対象だった再婚禁止期間の撤廃や男女で異なる婚姻年齢の是正など、勧告後に女性を取り巻く状況が改善されたケースがある。
一方で、選択的
夫婦別姓の導入は、繰り返し勧告されたにもかかわらず進展してこなかった。
96年、法相の諮問機関・法制審議会が
民法改正を答申したことで導入への道が開けた。だが、
自民党保守系議員の反対で法案提出が見送られた経緯がある。
日本では結婚の際、9割以上が夫姓を選ぶ実態がある。姓の変更は、行政手続きでも仕事上でも不便や不利益を生じる。導入を求める当事者の声は強く、訴訟も起こされてきた。今年5月の
共同通信の
世論調査では賛成が7割超だった。経済界からも要望は強く、
経団連は早期実現を提言した。
何より問題なのは、慣れ親しんだ姓の変更で自己喪失感を抱く人がいることだ。個人の尊厳に関わる問題と言える。
日本への対面審査で政府は、旧姓の通称使用拡大に取り組んでいるとの従前の回答にとどまった。しかし、国会も
衆院選で導入を公約にした野党の一部が躍進。議論を前に進める環境にはなったはずだ。
ほかにも人工妊娠中絶の配偶者同意要件の撤廃や、緊急避妊薬を入手しやすい環境づくり、沖縄の米兵による性暴力の適切な処罰の必要性などにも言及。委員会が示した課題は多岐にわたる。
女性の政治参画のハードルを下げる施策も求めた。
衆院選では女性当選者が73人と過去最多だったが、全体の約16%で世界に立ち遅れている。委員会は、国会での男女平等を進めるために国政選挙供託金の減額を勧告した。
条約批准から約40年たつが、日本は
世界経済フォーラムの男女格差報告で146カ国中118位と下位にいる。
女性差別をなくすことは、人権や多様性が尊重される社会づくりにつながる。政治は率先して実現しなければならない。
別姓選択肢へ好機逃すな/女性差別撤廃委の勧告(2024年11月5日『東奥日報』-「時論」)
国連の
女性差別撤廃委員会が、日本の女性政策について「最終見解」を公表した。8年ぶりとなる日本への対面審査を経て、選択的
夫婦別姓を導入するよう勧告した。
同様の勧告は2003年、09年、16年に続き4度目。日本は20年以上、世界でもまれな
民法の夫婦同姓義務規定に
固執してきたことになる。16年の勧告では「女性に夫の姓を強制している」と指摘されたが、対応しなかった。今回は「これまでの勧告に対し何の行動も取っていない」と厳しく批判された。
どちらかの姓を選択できるというのは、一見公平に見えるが、現実に姓を変えているのは90%以上が女性だ。家父長制的な社会意識が背景にある。
国内外から「差別だ」と指摘されている状況を、日本政府は長い間放置してきたことを自覚し、
夫婦別姓を選択できる法整備に向け、動き出すときだ。
国内で選択的
夫婦別姓の導入を求める声は30年以上前からあった。法制審議会は1991年から議論を始め、96年には導入を含む
民法改正案の要綱を答申した。
しかし、
自民党保守系議員の反対などで国会への提出が見送られた。その後も男性が大半を占める政界は、この差別的な状況の改善に手を付けなかった。
一方で、結婚後も働き続ける女性は増え、職場などで通称として旧姓を使う人も珍しくなくなった。二つの姓を使い分けることで、
アイデンティティー喪失の問題が生じたり、仕事上でのトラブルも起きたりと、不満は膨らんできた。
今年5月の
共同通信世論調査によれば、選択的
夫婦別姓に賛成の人は76%に上り、反対派の割合を大きく上回る。
経団連も6月、選択的
夫婦別姓の早期実現を求める提言をまとめた。旧姓を使用して働く女性たちの不利益や不都合につながり、ビジネス上のリスクになっているからだ。
石破茂首相は、9月の
自民党総裁選時には、選択的
夫婦別姓の導入に前向きな意見を述べていたが、首相の座に就いた途端に、その発言を後退させてしまった。
だが10月の
衆院選で、別姓に抵抗してきた
自民党は大幅に
議席を減らした。女性の当選者は前回より28人増えて73人となり、過去最多だ。さらにこの勧告が出た。長年の懸案を解決する好機を逃すべきではない。
「最終見解」はこの他、人工妊娠中絶の際に配偶者の同意を求める規定の撤廃や、未成年が緊急避妊薬を入手しやすい環境づくりに言及。沖縄の米兵による性暴力の問題にも触れ、加害者への処罰や被害者への補償をするための適切な措置を講じることを求めた。いずれも弱者や少数者の立場を大切にする提言であり、政府は速やかに取り組んでほしい。
皇室典範が
皇位継承を男系男子に限っていることも問題視し、改正を促した。政府は強く反発して国連に抗議したが、
世論調査では女性・
女系天皇を容認する声が広がってきている。民意を重く受け止める必要がある。
踏みつけられていると感じている人たちの声に耳を傾けること。差別だという指摘や批判に真摯(しんし)に向き合うこと。そうすれば、この社会の生きづらさは少しずつ解消に向かう。未来に希望が見えてくるはずだ。
皇室典範に勧告 歴史や伝統を無視した発信だ(2024年11月5日『読売新聞』-「社説」)
皇位継承のあり方は、国家の基本にかかわる事柄である。その見直しを国連の名の下に、付属機関で活動している個人が要求してくるとは、筋違いも甚だしい。
国連の女子差別撤廃委員会が、
皇位継承を「男系男子」に限っている
皇室典範について、男女平等を保障する内容に改めるよう、日本政府に勧告した。
日本の皇室制度は長い歴史の中で培われてきた。男系男子による
皇位継承は、
今上天皇を含めて126代にわたる。また、一時的に女性が
天皇になった例もある。
王室や皇室のあり方は、それぞれの国の伝統や国柄が反映されており、尊重されねばならない。
委員会は、23か国の専門家で構成されている。今回の勧告は、ネパールの委員がまとめたものだ。勧告に法的拘束力はないが、この発信は、あたかも
皇室典範に
女性差別があるかのような誤った印象を広げる恐れがある。
政府が委員会に抗議し、
皇室典範に関する記述の削除を求めたのは当然だ。国際社会に対し、勧告が日本の皇室制度の特徴を何ら理解せず、誤解に基づくものだと説明していくことも欠かせない。
そもそも
憲法は、
天皇の地位について「国民の総意に基づく」と定めている。皇室をどう安定的に維持していくのかは、国民が考えて決めるべき問題である。
法制審議会が1996年に選択的
夫婦別姓の導入を答申して以来、国内ではその是非について議論が続いている。先の
自民党総裁選でも論戦のテーマとなった。
夫婦が別々の姓を名乗ることになれば、社会や家族のあり方に大きな影響を及ぼす。子供は、父親か母親と別の姓になるという問題も無視できない。導入の是非については慎重に検討すべきだ。
このほか委員会は、日韓両国が2015年に「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した
慰安婦合意について、賠償請求への対応を求めた。かつては合意自体を「解決していない」と否定していた。
合意に基づき、日本政府は、韓国が設立した元
慰安婦支援のための財団に10億円を拠出した。その財団から、多くの元
慰安婦が支援金を受け取っている。
2国間の合意にまで口を出すとは、あきれてものが言えない。
女性差別に勧告 真摯に受け止め改善図れ(2024年11月5日『新潟日報』-「社説」)
女性を差別する見えない「圧力」が社会に存在していると指摘した。政府は真摯(しんし)に受け止めて改善を図り、
ジェンダー平等の実現に取り組まなくてはならない。
夫婦同姓を義務付ける
民法の規定を見直し、選択的
夫婦別姓を導入するよう勧告した。同様の勧告がされるのは4回目で、委員会は「これまでの勧告に対し、何の行動も取られていない」と日本側の姿勢を批判した。
繰り返し指摘されたことで、日本が男女平等の取り組みに消極的な国だという印象が強まる。政府と国会は勧告を踏まえて検討を加速させねばならない。
審査では、婚姻時にほとんどが夫の姓を選ぶ現状を、委員が「社会的な圧力だ」と指摘した。
そうした状況の背景には、家父長制に基づく男女の役割への
固定観念が根強く社会に残っていることがある。選択的
夫婦別姓には、「伝統的な価値観を損なう」といった反対論もある。
しかし働く女性が増えるなど環境は変わっている。姓の変更は行政手続きの不便にとどまらず、仕事でも不利益があるとして、今や経済界も導入に前向きだ。議論を前に進める時にあるだろう。
勧告は、人工妊娠中絶の配偶者同意要件の撤廃や、緊急避妊薬(
アフターピル)を入手しやすい環境づくり、沖縄の米兵による性暴力の適切な処罰の必要性など、多岐にわたった。
国会での男女平等に向けて、女性が選挙に立候補する場合、300万円の供託金を一時的に減額する措置を取ることも求められた。
10月の
衆院選では、
女性候補者を35%とする政府目標に、多くの政党が届かなかった。女性当選者は過去最多の73人となったものの、全体の16%に過ぎない。
女性議員を増やすにはどうしたらいいか。供託金を減額する手法の是非を含め、具体的な方策を考えてもらいたい。
これには
林芳正官房長官が「大変遺憾だ」と述べ、削除を申し入れたと明らかにした。国家の基本に関わる事項で、取り上げるのは適当ではないとの判断だ。
皇室典範を巡っては、8年前の前回審査でも、改正勧告を盛り込む最終見解案が示されたが、日本側が強く抗議し、記述が削除された経緯がある。
勧告は、日本に対する国際社会の見方を示すものと受け止めたい。性に基づく排除や制限、区別を「差別」と定義する条約の理念に合致するかどうか。あらゆる場面で考えなくてはならない。
女性差別撤廃条約の締約国の取り組みを監視し、不十分な点を勧告する国連の
女性差別撤廃委員会が、日本の女性政策について最終見解を公表した。
夫婦同姓を義務づける
民法の規定を見直し選択的
夫婦別姓を導入すること、人工妊娠中絶で女性に配偶者の同意を求める規定を撤廃することなどを勧告している。
条約の規定からかけ離れた日本国内の差別の数々が指摘されている。政府は真摯(しんし)に受け止め、解消に動くべきだ。
女性差別撤廃条約は1979年に国連総会で採択された。政治、経済、社会などあらゆる分野で性に基づく排除や制限、区別を「女性に対する差別」と定義し、締約国になくす措置を求める。
日本は85年に批准。委員会の対面審査は8年ぶり6回目となる。
過去には勧告を複数回受けた後、女性のみの再婚禁止期間や、結婚年齢が男女で異なる
民法の規定が改められた。
一方、改善されない課題もある。その一つが選択的
夫婦別姓だ。
条約は姓や職業の選択などを含めて、夫と妻に同一の権利の保障を求めている。夫婦同姓の強制は世界で日本だけとされ、9割が夫の姓を選んでいる。
法制審議会が96年に選択的
夫婦別姓の導入を答申。
女性差別撤廃委員会も2003年以降、再三勧告して今回で4度目になる。
政府は足かけ20年以上、勧告を放置してきた。
内閣府は「旧姓の通称使用拡大に取り組んできた」とする。論点をすり替えている。姓の選択は、個人の
アイデンティティーと人権に関わる。すぐに
民法改正に取りかかるべきだ。
中絶に配偶者の同意を求める規定も、委員から「近代国家として非常に驚くべきことだ」との意見が出た。子どもを産む自由、
産まない自由を他者から強要されず女性が自ら決めることは、国際社会が認めてきた
基本的人権である。
このほか勧告は、
慰安婦問題を巡り被害者らの損害賠償などの権利を保障する努力を日本政府が続けるよう求めた。沖縄の米兵による女性への性暴力の問題も初めて明記された。
男女平等の保障の観点から、皇室のあり方にも言及している。
皇位継承を男系男子に限る
皇室典範の規定は、撤廃条約の理念と相いれないとして改正を勧告した。
勧告が多岐にわたるのは、それだけ
ジェンダー不平等が社会の隅々に深く根を張っている証左でもある。勧告を出発点に、性差別をなくす議論を深めたい。
女性差別撤廃委の勧告 政治の風景変える契機に(2024年11月5日『中国新聞』-「社説」)
先進国でありながら、
ジェンダー平等の国際基準に遠く及ばぬ実態を直視すべきだ。
国連の
女性差別撤廃委員会が日本政府の女性政策を8年ぶりに審査し、改善のための勧告をした。夫婦同姓を義務付ける
民法を改正しての選択的
夫婦別姓の導入や、人工妊娠中絶で配偶者の同意を求める規定の撤廃、男女の賃金格差データのさらなる開示など指摘は多岐にわたる。
どれも速やかな対策が必要で、とりわけ後れを取る政治分野への指摘を重く受け止めたい。女性の国会議員を増やすため、選挙に立候補する際の300万円の供託金を女性に対し一時的に減額する措置を求めた。
議席や候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」も要請した。
政府計画で数値目標を掲げるだけではもはや不十分で、障壁を取り除く具体的な政策を実行すべきだとの意味だろう。日本の現状を踏まえた指摘で、うなずける。
女性差別撤廃条約は「世界の女性の
憲法」といわれる。委員会は、締約国が趣旨に沿う法整備や政策を進めているかを監督する機関だ。日本は1985年に批准し、今回は6回目の勧告で、繰り返し求められてきた事項は多い。
憲法には条約の順守が明記されている。政府の履行状況をチェックする独立機関が国内にないのは問題だ。
勧告で改めて女性議員が少ない弊害に気付かされる。
折しも
衆院選で女性の当選者は73人と15・7%だった。3年前の前回選に比べ4・4ポイント増え、過去最多になった。「政治とカネ」の問題で与党の現職が落選し、野党の新人議員が当選しやすい状況を追い風に伸びた。しかし、この程度では、
世界経済フォーラムの「男女格差(
ジェンダー・ギャップ)報告」の政治分野で113位という低水準から脱出できそうにない。
与党・
自民党の
女性候補者は16・1%、当選者は9・9%にとどまった。2018年施行の政治分野における
男女共同参画推進法で、候補者数を「できる限り男女均等」にするよう政党に促しており、見過ごせない。努力義務ではなく、勧告通りに罰則で実効性を持たせなければ今後も遅々として進まないだろう。
男性が大半を占めたままだと、
ジェンダー分野の人権侵害を自分ごとと捉える政治、改善のために政策を転換させる動きは生まれにくい。夫婦同姓の義務付けは象徴的で、不利益を被る改姓は女性が95%を占め、その要因は性別役割分担の意識を土台にした社会的な圧力にある。選択的別姓の導入を求める勧告は、この21年間で4回に及ぶ。
委員会は審査の過程で、日本の非政府組織(
NGO)から実態を丁寧に聞き取った。本来なら、日本の国会議員が人権を侵害された当事者の声を聞く役割があるはずだ。女性が人口の半分を占める実社会と政治がずれる要因は、一つに国会議員の構成に偏りがあるのは否定できない。
勧告を契機に政治の風景を変えねばならない。そして、
ジェンダー不平等を改善する政策を実行すべきである。
女性差別撤廃委の勧告 選択的別姓、先送りは怠慢だ(2024年11月3日『河北新報』-「社説」)
男女平等をうたう条約を批准しながら、理念の具体化は「検討」を理由に先送りを重ねる。婚姻時に同姓を強制する現行法の見直しに消極的な姿勢が、批判を受けたのは当然だろう。政府は勧告を重く受け止め、早急に改善を図るべきだ。
同様の勧告は2003、09、16年に続き、4回目。日本政府の代表団はスイスで行われた対面審査で「旧姓の通称使用拡大に取り組んでいる」と説明したものの、抜本的な改革は手つかずだ。勧告は「何の行動も取らない」として政府の怠慢も指摘した。
婚姻により戸籍筆頭者の「氏」を名乗る現行制度は、明治
民法(1898年施行)下の家制度の影響を色濃く残す。選択的
夫婦別姓の導入を盛り込んだ法制審議会の答申は、
自民党保守派の強硬な反対で30年近くたな
ざらしにされている。政治が、いかに
ジェンダー平等を軽視してきたかの表れだ。
10月27日投開票の
衆院選では選択的
夫婦別姓の可否が争点の一つとなり、政党や政治家の姿勢が問われた。
経団連も通称使用の弊害を指摘し、選択的別姓の早期実現を求めた。政府や国会に対する社会の目は厳しさを増している。先送りは許されない。
委員会の最終見解は多岐にわたる。人工妊娠中絶については、配偶者の同意を原則必要とする
母体保護法の規定削除を勧告した。前身となる旧
優生保護法の規定を温存し、かねて女性の自己決定権の軽視だとして問題視されてきた。法改正が急がれる。
条約の実効性を高める選択議定書の批准も勧告された。人権侵害を受けた個人らが委員会に救済を申し立てる個人通報制度や調査制度が盛り込まれ、条約締約国189カ国中115カ国が批准する。
国内では地方議会で批准を求める意見書が相次いで出され、
福島県郡山市議会や岩手、宮城両県議会でも可決された。政府は慎重姿勢だが、先送りの理由は見当たらない。
勧告では、女性の政治参画や沖縄で相次ぐ米兵の性暴力事件への適切な対応も要請。男系男子に
皇位継承を限る
皇室典範の改正も勧告したが、政府が削除を申し入れており今後の対応が注目される。
法的拘束力はないが、勧告は国内法の見直しを後押ししてきた。これまでに、性犯罪の
非親告罪化や男女別だった婚姻可能年齢の統一、女性だけに課した再婚禁止期間の廃止などが実現した。
国際的な
ジェンダー平等の潮流は日本社会に根を張る性差別的な構造に目を向け、変化をもたらすきっかけとなる。政府は勧告を生かし、女性の人権保障と差別解消に取り組むべきだ。
皇位継承への干渉 政府は国連の暴挙許すな(2024年11月1日『産経新聞』-「主張」)
日本の女性政策に関する最終見解に盛り込んだ。この勧告に法的拘束力はない。
主権国家における君主の位の継承は国の基本に関わる。国外勢力が決して容喙(ようかい)してはならない事柄だ。「
女性差別」と関連付けた勧告は誤りと悪意に満ちた
内政干渉であるのに加え、日本国民が敬愛する
天皇への誤解や偏見を内外に広める暴挙で断じて容認できない。
林芳正官房長官は会見で「大変遺憾だ。委員会に強く抗議するとともに削除を申し入れた」と語った。林氏は、
皇位継承の資格は
基本的人権に含まれず、条約第1条の女子への差別に該当しないと政府が説明してきたにもかかわらず、委員会が勧告したことを明らかにした。
抗議と削除要請は当然だが、それだけでは不十分だ。削除に至らなければ、国連への資金拠出の停止・凍結に踏み切ってもらいたい。条約脱退も検討すべきである。
委員会は国連総会が採択した
女性差別撤廃条約により設けられ、弁護士や学者、女性団体代表ら23人の委員が締約国の女性政策への勧告を行っている。
ローマ教皇には男性が就くが、
バチカン市国は締約国でないため勧告対象から外れている。
委員会が日本の皇室を理解していないのは明らかだ。男系男子による継承は
皇位の正統性に直結している。この継承原則が非皇族による
皇位簒奪(さんだつ)を妨げてきた意義は大きい。また、一般男性は皇族になれないが、一般女性は婚姻により皇族になれる点からも、
女性差別との決めつけがいかに不当か分かるはずだ。歴史や伝統が異なる他国と比べるのも論外である。
委員会は2016年にも
皇室典範改正を最終見解に盛り込もうとしたが、日本政府の強い抗議で削除した。今回そうできなかった点を政府は猛省し、対策を講じてもらいたい。
最終見解では、夫婦同姓を定めた日本の
民法も「差別的な規定」とし、選択的
夫婦別姓の導入を勧告した。これも日本の文化や慣習に無理解かつ傲慢な
内政干渉というほかなく、
女性差別という誤った文脈で語られるのは許されざることだ。
女性差別撤廃委勧告 米兵性暴力の対策を急げ(2024年10月31日『琉球新報』-「社説」)
女性に対する性暴力は人権侵害であり差別である。米兵の性暴力によって女性の人権が侵され、差別され続けているのが沖縄の現状だ。
国連の
女性差別撤廃委員会は日本の女性政策に関する最終見解を公表した。米兵らによる女性への性暴力について「加害者を適切に処罰し、十分な補償を提供するための適切な措置を講じること」を日本政府に勧告した。
委員会が在沖米軍による性暴力に言及するのは初めてだ。日本政府は勧告を重く受け止め、米兵らの卑劣な行為から女性の人権を守る具体的な対策を早急に講じなければならない。
沖縄では昨年末以降、米兵らによる性暴力事件が相次いでいる。しかも、日米合同委員会で確認された事件の通報手順が履行されなかった。
日本の女性政策を対面審査する
女性差別撤廃委員会の8年ぶりの会合が今月、スイス・
ジュネーブで開かれ、県内の女性が沖縄の深刻な性被害の実情を訴えた。国連の場で米兵による性被害が議論された意義は極めて大きい。
日本政府はその意義をどれほど重く受け止めているだろうか。対面審査の会合で外務省の担当者は、米側が打ち出した行動規制の「リバ
ティー制度」見直しや、米軍や日本政府、県や地元との新たな協議枠組み「フォーラム」創設などを挙げ「米側に事件事故防止の徹底を求めていく」と説明している。
政府が挙げたこれらの措置がどれほどの効果を持つのか、県内では疑問の声が出ている。会合でも
バハマの委員が、日本の捜査・
司法権を著しく阻害する
日米地位協定に触れ「どうやって被害者を保護するつもりか」とただしている。米軍の性暴力を防ぎ、女性の尊厳を守るための
日米地位協定改正の必要性を指摘したと言えよう。
条約締約国による差別解消への取り組みを監視する
女性差別撤廃委員会が92年に採択した一般勧告は、
ジェンダーに基づく暴力は女性の能力を阻害する差別だとしている。その上で、暴力を防ぐ適切で効果的な措置をとり、被害者となった女性を保護し、尊厳を守る措置を取るよう締約国に求めている。
日本政府は
女性差別撤廃条約の締約国として、米兵による性暴力を防ぐ施策を講じる責務がある。
抜本策は
日米地位協定の改正である。それ以外にも米軍の綱紀粛正の徹底などさまざまな施策を展開する必要がある。日米両政府、沖縄をはじめ基地所在
都道府県の間で協議を始める必要がある。
女性差別撤廃委員会の勧告は選択的
夫婦別姓の導入、男系男子に
皇位継承を限る
皇室典範の改正について勧告し、水道水に含まれるPFAS(
有機フッ素化合物)の対策にも言及した。日本社会に残存する
女性差別、男女不平等の解消に向けた真摯な議論が待たれる。