「与党過半数割れ」でハッキリと見えた!日本の政治家の「政策論」が深まらない理由…日本政治に巣食う「忖度」と「不勉強」のヤバすぎる病魔の正体(2024年11月3日『現代ビジネス』)

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政治家の政策が深まらない…Photo/gettyimages
歴史的大敗を喫した自民党石破茂総裁だが、その理由は総裁選から一貫して綿密な政策が示されなかったからだろう。
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石破自民の惨敗を予言していた「まさかの写真」
前編『自民惨敗は当たり前だった!「政治とカネ」も生煮え、持論の「日米地位協定見直し」も封印で選挙突入…結局「石破解散」とは何だったのか?』で見てきたように、石破首相は総裁選から主張してきた「日米地位協定の見直し」や「東アジア版NATO」の持論は、首相に就任すると早々にひっこめてしまった。
しかも、今回の総選挙が自民党の裏金問題の大逆風を受けることは最初から分かっていたはずなのに、国民には弥縫策しか提示しなかった。あげくに裏金非公認議員にまで選挙期間中に2000万円を配ったことを赤旗にスクープされ、とどめを刺された。
いったい、数か月を要した総裁選から総選挙までの政策議論とはなんだったのか。情けないことに、この国では政策議論というものが深まらないのだ。
前編につづき、それはなぜなのかを考えていこう。
政治家に「準備ができない」本当の理由
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なぜ、政策議論は深まらないのか…Photo/gettyimages
なぜ政治家は選挙の前に、事前に提案する政策について準備をしておかないのだろうか。その理由として、わたしは次の5つがあげられると思う。
第1に、準備の時間がない
第2は、森羅万象について用意しておくことはできない
第3は、問題を指摘しても総裁を目指す議員が考えてくれない
第4は、専門家や役人が本当のことを言わない
第5は、尖った提案が十分に議論されない
まず、第1の「時間がない」や第2の「森羅万象について回答を用意することはできない」というのは、あまり深刻に考えなくても、「常識」さえあればクリアできる。
議員は選挙対策や調整に忙殺されて、政策立案にかける時間が少ないという問題は確かにあるだろう。ただし、派閥の議員は毎週昼飯を食っている。それ以外にも、仲間になってくれる議員とはしょっちゅう会っている。本来、議員は常識に関する知性は高い人たちである。常識で反論が思いつくようなことは、仲間の飲み会でも議論できるだろう。そこで決着できないことについて、専門家を呼んだ勉強会をすれば良い。
そもそも「森羅万象」について考えずとも、首相候補が答えなければならない国の政策は20に満たないのではないか。
憲法改正、日米同盟、対中関係、ウクライナ情勢、中東情勢、経済政策(金融緩和をどうするか、財政規律をどれだけ重視するか、現在では円安にどう対応するか。物価高対策をどうするか)、社会保障改革、少子・子育て政策、所得再分配政策(金融所得課税もここに入る)、都市と地方の格差(地方創生)、規制改革、夫婦別姓女系天皇北朝鮮拉致問題ぐらいだろう(これで17ある)。
石破首相は、よく、「議論しなければならない」という。たしかに、すべての問題について明確な答えをもっている必要はない。夫婦別姓女系天皇は「国民の意見も様々であることから議論しなければならない」ですむ。社会保障も、利害関係が複雑で難しすぎるから、「議論しなければならない」ということで良いだろう。もちろん、明確な信念があるなら、それを答えれば良い。また、詳細な議論でなく、一般論ですむ話題も多い。
であるから自分は「これをやりたい」という政策くらいは、しっかりと詰めておいてほしいものだ。
首相に透ける「権威主義
第3に、「問題を指摘しても議員が何も考えてくれない」という問題だが、これは実際にあるようだ。石破氏のかつての派閥、水月会(すいげつかい、2021年12月に議員グループに改組)は、人材の宝庫と言われ、一本釣りで大臣を務めた議員も多い。
これらの人々は、石破氏が持論としていてすぐひっこめてしまった政策の問題点を指摘していなかったのだろうか。指摘されていたとしたら、石破氏はなんと答えていたのだろうか。
石破派の若手議員から、「石破氏は、(現在の金融政策は異常で)金融緩和は出口に行かなければならないと言っているが、それでは石破自民党総裁が実現すると株が下がる。出口については、言わないようにとお願いしている。」と聞いたことがある。つまり、石破氏は、株が下がるような発言を多々してきて、総裁選でもそれを続けていた。ところが、総裁になると実際に下がったので、ほかの有力議員の進言もあって、急に取りやめたのだろう。
石破グループの若手議員が親分に進言しても聞いてくれなかったのに、有力者に同じことを言われたら、すぐ言うことを聞いたという訳だ。私が若手議員ならかなりがっかりする。
石破氏は、仲間の議員の発言をあまり聞かないと言われているが、有力議員や有力官庁やマスコミの言うことは聞くのかもしれない。
石破氏は、リベラルと言われる。リベラルには寛大という意味もあるが、知においては寛大ではなく有力議員や有力省庁の知を重視する権威主義があるのかもしれない。
日本型政治の「忖度」という歪み
第4の「専門家や役人が本当のことを言わない」とは、有力議員を不愉快にしたくないということだ。
石破氏は、地方創生が成長の起爆剤になり、地方創生の主力は農業や観光業だと述べた。しかし、日本のGDPに占める農業の比率は1%でしかない。これが倍に増えてもGDPは1%しか増えない。もちろん、日本の実質GDPは毎年1%しか成長していないのだから、これも大事な政策だが、起爆剤とは大げさだろう。
私は、石破氏を不愉快にしてもかまわないが、そうではない人は多いのだろう。本当のことを聞くためには、人間関係のない人からも意見を聞くことが必要だ。
第5の、「尖った意見が十分に議論されない」とは、まさに石破首相の持論の東アジア版のNATOとか日米地位協定の見直しのことである。あるいは、雇用流動化など国民を二分する政策が十分に議論されていないということだ。
これを売り込む学者や評論家としては、政治家が賛同してくれれば嬉しいだろう。当然、良いことばかりを話すのだから、仲間の議員や役人が歯止めにならないといけない。
しかし、ここから専門家の意見を十分にグループで政策に落とし込まなければならないはずだが、そこに親分を不快にはしたくないという忖度が働くのであれば、目も当てられない。実現の見込みのない政策を親分が提唱して攻撃されて、すぐに意見を変えたらみっともない。親分にとって、考えることを促してくれる部下や仲間は貴重なはずだが、それが機能しているようには見えないのは問題だ。
それを親分が貴重と思わないのは、政治家が攻撃されることに慣れていないからかもしれない。
「人間関係の煮詰まった集団」の欠陥
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日本では自由闊達な議論ができていないのではないか…Photo/gettyimages
まとめてみると、国会議員のような人間関係が煮詰まった集団では、上への忖度が絡みあって自由闊達な議論をすることが難しいのではないか。
それは、日本企業でも同じである。しかし、企業ではグローバル競争の下で自分の弱みを冷静に認識することが求められ、そうでなければ業績にすぐに跳ね返ってくる。競争企業に弱みを突かれる前に、自分で弱みを認識しなければ、競争に勝ち残ってはいけない。
ところが、政治家の政策論議が深まらないのは、人間関係が煮詰まっていることに加えて、競争圧力が弱いことによるのだろう。10年以上も安定多数を維持してきた与党のゆるみとも言えなくもない。
今回の選挙では国民のはげしい怒りが与党を過半数割れに追い込んだから、これを機に「政策議論」が進化を遂げることを期待したい。
最後に、石破首相の発言録の批判のようになってしまったことをお許しいただきたい。そうなってしまったのは、首相の発言だからたくさんの材料があるので書きやすかったからにすぎない。賢明な読者の方々には、石破首相だけがそうだという話しではないことを、十分におわかりいただけるだろう。
さらに連載記事『サンデーモーニング「関口宏の発言」にうんざり…佐々木麟太郎の「米名門大学進学」を批判する「昭和の空気」が、日本のスポーツをダメにした!』では、政治だけでない日本のおかしな「空気」について考えているので、ぜひこちらも参考にしてほしい。