結局のところ最初から最後まで自民党の自滅だったようだ。
今週のマル激は計量政治学が専門で毎回幅広い有権者の投票行動調査を独自に行っている小林良彰氏と、選挙後の恒例となった投票行動分析を行うとともに、自民党の大敗と立憲民主党と国民民主党、そしてれいわ新選組の躍進が目立った先の総選挙は、国民が何を評価し何に怒った結果だったのかを読み解いた。
10月27日に行われた衆院選では、自民党は改選前議席を56減らす大敗に終わった。同じく公明党も8議席減らしたため、連立与党は過半数を大きく割り込むことになった。2009年に自民党が181議席を減らして政権を失ったとき以来の、文字通りの歴史的大敗だった。
本来であれば与党が衆院で過半数を割れば政権交代が実現するはずだが、野党陣営も1993年の細川連立政権をまとめ上げた小沢一郎氏のように、野党勢力を1つに束ねることができる実力者が不在のため、現時点では11月11日に予定される首班指名に向けて、与野党双方で熾烈な多数派工作が行われている。今のところ4倍増の28議席を獲得した国民民主党が与党に協力することで、かろうじて石破政権を存続させる方向で当面の政局は収束しそうだが、首班指名まではまだ時間があるため、状況は予断を許さない。また、仮に辛うじて首班指名を乗り切っても、石破政権はその後に待ち受ける補正予算の審議や来年度の本予算審議では、野党の一部を取り込まなければ法案の1つも通らない状況にある。政局は当分の間、不安定な状態が続くことが必至だ。
それにしても選挙にだけは強かったはずの自民党は、なぜここまで大負けしてしまったのか。
小林氏が主宰する投票行動研究会が選挙の直前に全国3,315人に行った調査からは、これが自民党の自滅選挙だったことがはっきりと浮き彫りになっている。結論としては、前回までの選挙で自民党に入れてきた自民支持層の多くが投票を棄権したために自民党の得票自体が大幅に減ったほか、過去に自民党に投票してきた無党派層もその大半が国民民主党とれいわ新選組などに流れた結果、自民党は比例票で前回の選挙の27%にあたる533万票も票を減らしている。
その一方で、今回新たに50議席を獲得して躍進が目立った立憲民主党の方も、必ずしも得票を伸ばしていなかった。立憲民主党の今回の比例区での得票を前回2021年の衆院選と比べると、わずか7万票しか増えていない。一方、大きく支持を広げたのが、若者向けの分かりやすいアピールと経済政策に重点を置いて選挙に臨んだ国民民主党とれいわ新選組だった。国民民主は358万票、れいわも159万票をいずれも比例区で増やしている。必ずしも得票を増やしていないにもかかわらず獲得議席で立民の躍進が目立ったのは、全国の選挙区にくまなく候補者を擁立できているのが自民、立民、共産しかいないためだ。自民党が落ちれば自動的に立民が上がる構造になっていた。
小林氏の研究会の調査では、そうした投票行動の背景に自民党支持層を含む大半の有権者が、統一教会問題や裏金問題で明らかになった自民党の腐敗体質が、石破政権になった後もほとんど変わっていないと感じていたことがわかっている。
調査で自民党が「かなり変わった」、「ある程度変わった」と答えた人は全体の11%に過ぎず、「あまり変わっていない」、「ほとんど変わっていない」と答えた人は67%にのぼっている。しかも、この調査は非公認候補の支部に2,000万円の政党助成金が振り込まれていたことが明らかになる前に行われたものだったため、その後2,000万円問題が明らかになったことで、実際の投票日までの間に腐敗体質を改められない自民党に対する嫌悪感がさらに強まったことは間違いないだろう。
今まで自民党の党内野党の立場から、政権中枢をずけずけと容赦なく批判してきた石破氏であれば、自民党を変えてくれるかもしれないとの淡い期待が高かったが、首相就任後の石破氏の行動や言動からは、その期待が見事に裏切られたと感じている人が多く出ていることを、小林氏の調査は明らかにしている。
また、小林氏の調査では、今回、自民党支持者の投票率は67%、公明党支持者の投票率も74%にとどまった。これは53.85%だった全体の投票率は上回るが、両党の支持層の投票率が過去の選挙では8割前後を誇っていたことを考えると、大幅な減少だ。一向に腐敗体質を変えられない自民党に業を煮やした自民支持層や公明支持層の多くが、今回は棄権に回ったことが見て取れる。
国民民主党の得票が伸びた理由について小林氏は、他の野党が政治とカネの問題を前面に打ち出したのに対し、この党は若い人の「手取りを増やす」など、とりわけ若い世代の不満や不安に訴える具体的な提案が好感視された結果だったという。年齢別の投票行動を見ると、特に国民民主党は10~30代では自民党に次ぐ高い支持が集まっている。逆にかつて30~40代から強い支持を得ていた維新の後退が今回は顕著だった。
実際、将来の生活不安を抱える人の割合は、3年前の選挙時よりも確実に増えている。小林氏は物価が上がる中で、国民の生活不安は限界まで上がってきているのではないかと言う。政治不信と踏み込んだ政治改革・党改革ができないことに加え、国民、とりわけ若い世代の経済不安、生活不安に対して有効な対策を打ち出せていないことが、今回の自民党の主要な敗因だったとみていいだろう。
なぜ自民党は大敗したのか、国民民主やれいわが支持を伸ばしたのはなぜか、日本の国民はこの選挙で何を選択したのかなどを、小林良彰氏が代表を務める投票行動研究会の大規模調査を基に、小林氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
また、番組の冒頭では、全体として不信任率が高かった今回の最高裁国民審査の結果を振り返った。
【プロフィール】
小林 良彰 (こばやし よしあき)
慶應義塾大学名誉教授
1954年東京都生まれ。77年慶應義塾大学法学部卒業。82年同大学院法学研究科博士課程単位取得退学。法学博士。専門は政治学、政治過程論。ミシガン大学政治学部客員助教授、プリンストン大学国際問題研究所客員研究員などを経て91年慶應義塾大学法学部教授。2020年定年退職し名誉教授。著書に『政権交代 民主党政権とは何であったのか』、『選挙・投票行動』など。
宮台 真司 (みやだい しんじ)
社会学者
1959年宮城県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授、東京都立大学教授を経て2024年退官。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『正義から享楽へ-映画は近代の幻を暴く-』、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』、共著に『民主主義が一度もなかった国・日本』など。
神保 哲生 (じんぼう てつお)
ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表 ・編集主幹
1961年東京都生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)