公明党本部
総選挙で公明党は惨敗。議席を公示前の32から24に大幅に減らした。小選挙区では常勝と言われた大阪で4戦全敗。比例区では前回より100万票以上も減らした。その3日前、彼らは訴訟でも敗北していた。熊野正士参議院議員(当時)が起こした「セクハラ事件」と、それにまつわる山口那津男代表(当時)の「口封じ」疑惑。それを報じた「週刊新潮」に、熊野氏と公明党が名誉毀損として訴えてきた裁判の判決が下されたのだ。
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10月24日、東京地裁第724法廷でその判決は下された。原告は熊野正士・前参院議員(59)と、公明党。被告は新潮社と記事掲載当時の「週刊新潮」編集長だ。冒頭で述べたように、原告の請求は棄却された。
翌日、各紙はこの裁判について報じた。読売の見出しは「週刊誌記事訴訟 公明側請求棄却」、朝日は「公明党などの賠償請求を棄却」。しかし、いわゆるベタ記事で、これだけではどのような裁判で、何が真実と認定されたのかわかりづらい。
改めて当時の「週刊新潮」報道を振り返ってみよう。
痴漢ですよ
事件が起きたのは、2021年から2022年にかけてであった。
セクハラの被害者を仮に太田恵子さんとする。太田さんは50代女性で、関西地方の社会福祉法人の幹部として働く独身女性である。自身は会員ではないが、創価学会二世でもある。
“加害者”は公明党の熊野正士・前参議院議員。兵庫県出身、愛媛大学医学部卒業。学生の頃からの創価学会員で、医師として大学病院に勤務した後、2016年、公明党から比例区で出馬し、初当選。農水政務官も務め、2022年の参院選で2回目の当選を果たした。
2人が出会ったのは熊野氏が議員になった後だ。公明党関係者の紹介で知り合い、LINEや電話で連絡を取るようになった。そんな中、2021年の10月に最初の事件が起きた。
「本を貸してほしい」――熊野氏の要求で、2人は受け渡しのために庭園で落ち合った。受け渡しを終えて別れようとした時、熊野氏が太田さんのお尻を握ってきたという。「何をしているんですか! 痴漢ですよ」。そう怒った太田さん。逃げ去るように立ち去った熊野氏は後に「心からお詫びします」と謝罪のLINEを送ってきたという。
おぞましいLINE
謝りはしたものの、それがきっかけになってしまったのか、その後、熊野氏の行動はエスカレート。太田さんのもとへ頻繁にLINEが来るようになり、その中には、“行為”を妄想したものまで送られてくるようになった。
そして、決定的な事件が訪れたのは、2022年4月。夜中の23時過ぎに太田さんの携帯に熊野から電話が来る。泥酔していたと思われる熊野氏は卑猥な言葉を連発した。
そのLINEや電話のおぞましい内容は、文末の関連記事「公明党・熊野正士議員の性加害が発覚 被害女性が明かす、身の毛もよだつ「セクハラLINE」の内容とは」に詳細が記されている。
口止めをされた
激怒した太田さんは前述の公明党関係者に相談し、公明党の北側一雄・副代表(当時)まで話が伝わった。熊野氏は3カ月後の7月に参院選を控える身だった。北側氏から太田さんに電話があり、「申し訳ありません」と謝罪を受けた。太田さんはそこでセクハラ電話の件も伝え、「熊野氏に議員を辞めて欲しい」「山口那津男代表(当時)とも話をしたい」と要望。すると、5月、再び北側氏から電話があり、隣にいた山口氏とも話すことが出来たという。謝罪を受けたものの、その場でも再び議員を辞めるよう要求した太田さん。
当時の記事によれば、両者のやり取りは以下だ。
山口:大変ご迷惑をおかけしました。重々注意して、こういうことがないようにします。
太田:議員を続けてはいけない人です。
山口:もうすぐ選挙なので…。それが表に出ると議席が…。
太田:それはそちらの都合ですよね? 私は被害者なんです。
山口:それはそうなんですが、とにかく議席を。今回の選挙で通れば、あと6年は行ける。
口止めをされた。太田さんはそう感じた。しかし、熊野氏自身も「タイミングを見て辞めます」と言うので、選挙が終わるまでは胸に納めておくことにしたという。
しかし、2回目の当選を果たした後も熊野氏からはアクションがない。そこで、警察や弁護士に相談すると共に、メディアへの告発を決意した。これが当時の「週刊新潮」記事の大要である。
法廷に立った被害女性
週刊新潮ではこの事案について、2022年9月15日号で報じた。すると、熊野議員は同月に議員辞職した。そして公明党、ついで熊野前議員が名誉毀損で損害賠償請求訴訟を提起し、両訴訟は併合された。請求額はそれぞれ3300万円、1100万円である。
法廷で原告側は「セクハラ」を否定し、LINEのメッセージなどは「親密な関係にあった両者が楽しみながら交わしたもの」と主張。山口代表の「口止め」についても、熊野氏が酔っぱらい電話をかけたことについては謝罪したものの、セクハラのことは聞いていなかった。したがって口止めすることもありえないと主張した。
一方、被告の「週刊新潮」側は、太田さんと熊野議員のLINEのやり取りなど、記事の内容を証明する証拠を提出。4月には被害者女性も法廷に証人として立ち、被害の詳細を訴えた。
対する熊野前議員は尋問の要求に応じず、公明党側も証人を立てなかった。
セクハラを認定
こうした経緯を経て10月に下された判決では、両者の言い分をどう評価したのか。
まず「セクハラ」については、熊野前議員が太田さんのお尻を触ったり、性的な内容のLINEを送ったりしたことや、わいせつな内容の電話をしたことは事実と認定。上記の原告側の反論については、提出されたLINEなどの証拠から、女性が事案直後から被害を訴えていることに着目。「原告熊野の言動は許容される限度を超え、女性の意に反するものであった」と認定した。セクハラの真実性、つまり、セクハラがあったと認めたわけである。
続いて、女性が電話の後、熊野前議員や関係者と交わしたLINEなどの証拠から、「セクハラ被害」について北側副代表(当時)に伝えていたことは真実だと認定。その上で、上記の証拠などから見て、山口代表(当時)にも「熊野議員のセクハラ」が伝わり、代表が選挙への影響を考えて太田さんに「公表されれば議席に影響する」などとの懸念を述べたことは、真実と判断するに足る、十分な根拠があると認定したのである。
よって原告の請求は棄却、すなわち、熊野氏および公明党の敗訴となった。
太田さんは言う。
「勇気を振り絞って声をあげ、証言台でもつらい記憶と向き合いながら真摯に被害の詳細をお話ししました。その主張が認められてホッとしています。同じような被害を受けて悩んでいる方の背中を押すことができていたら、嬉しく思います」
「法廷に提出された証拠の分析を十分に行うことなく、安易に週刊新潮サイドの言い分を認めたものであり、著しく不当なものであるため、速やかに控訴する予定である」
関連記事「公明党・熊野正士議員の性加害が発覚 被害女性が明かす、身の毛もよだつ「セクハラLINE」の内容とは」では、熊野前議員によるおぞましいLINEや電話の内容について詳報している。
デイリー新潮編集部