国会運営(自・国政策協議)に関する社説・コラム(2024年11月1・2・3・4・6・8・9日)

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会談に臨む自民党の森山幹事長(中央右)と国民民主党の榛葉幹事長(同左)ら=10月31日、国会
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自民、公明両党と国民民主党は政策協議を進める(国民民主党の玉木代表)

小手先の議論に流れるな/自公国の政策協議(2024年11月10日『山陰中央新報』-「論説」)/(2024年11月9日『東奥日報』-「時論」/『山形新聞』ー「社説」/茨城新聞』-「論説)」
 
 自民、公明の与党は国民民主党と政策協議を始めた。国民の要求する所得税「103万円の壁」の引き上げと、「トリガー条項」の凍結解除を含む価格引き下げのためのガソリン減税が焦点だ。
 しかしいずれも内容次第では大幅に税収が減ったり、不公平感を広げたりする恐れがある。一面的な小手先の議論に流れることなく、税制や社会保障制度を広く視野に入れた丁寧な議論をすべきだ。
 衆院選過半数を割った自公政権は、今後の国会運営に当たり野党の協力が不可欠。政策協議には「対決より解決」を唱え、理念の近い国民を引き寄せる狙いがある。
 選挙で「手取りを増やす」と訴え躍進した国民の最優先テーマが、年収が超えると所得税の発生する「103万円の壁」問題だ。パートやアルバイトの「働き控え」を招いているとされ、同党は非課税枠を178万円へ上げるよう求めている。
 現在の103万円は1995年から変わっておらず、働き方の変化や近年の物価動向を考慮した見直しは納得できる。だが主に想定される専業主婦パートの場合、本質的な「壁」は税ではなく、社会保険料負担などの発生する年収である点を見過ごしてはならない。
 要件の当てはまる人が「106万円」や「130万円」に達すると厚生年金などの保険料負担が発生し、手取りが原則減ってしまうからだ。
 その場合、会社員の夫に扶養されていれば自ら保険料を払わずとも基礎年金を受け取れる「第3号」から外れるため、この点を嫌って就業調整をする主婦パートは多い。これらの課題を避けた協議は妥当と言えまい。
 公平性の観点では、課税最低限を単純に上げると年収の多い人の減税額が大きくなる問題を指摘しておきたい。
 ガソリン価格の引き下げで国民は、現在凍結中の「トリガー条項」を解除して一時的にガソリン減税を実施するようかねて主張。自公と一昨年来協議してきたが与党は受け入れず、燃油補助金による価格抑制策を現在続けている。
 目を向けたいのは政策手法にかかわらず大きな副作用を伴う点である。巨額の財政負担をはじめ、ガソリン消費をかえって促し脱炭素に逆行する点や、恩恵がマイカー利用者に偏る点などだ。
 急騰した原油価格はウクライナ戦争前の水準に戻っている。それでもガソリンが高いのは過度の円安が主因だ。その是正には、日銀による政策正常化を後押しするなど別の対応が求められよう。
 言うまでもなく政策を見直す場合は財源とセットで考えねばならない。
 試算では、国民の求める水準へ所得税の非課税枠を広げると国・地方で計8兆円近い税収が失われる。一方で、トリガー条項が発動されると国・地方で1兆5千億円の税収減になる。燃油補助金ではこれまでに7兆円余りの予算が講じられた。国民が選挙で多くの有権者に支持されたとしても、無責任なばらまきにお墨付きを得たわけではないと自覚すべきだ。
 与党は協議内容を近くまとめる経済対策に反映させる方針だ。インフレが収まらず低所得世帯などへの手だては必要だが、協議は時間をかけて検討すべきテーマを多く含んでいる。拙速に結論を得るならば、党利党略を優先した協議と見なさざるを得まい。

「年収の壁」見直し 国会論議で多角的検証を(2024年11月10日『琉球新報』-「社説」)
 
 政府の経済対策を巡る自民、公明の連立与党と国民主主の政策協議が始まった。年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の見直しが焦点となる。
 国民民主の看板政策である「年収の壁」の見直しは、若年世代の収入増を実現するだけでなく、社会保険制度や働き方の選択にも関連し、幅広い分野にまたがる検討が求められる。与党は国民民主に限らず野党の意見を広く聞き、開かれた国会の場で多角的に論議を深める必要がある。
 「年収の壁」の見直しが持ち上がるのは、長年にわたって賃金が伸び悩む半面、税金や社会保険料の負担は増していることがある。税引き後に自由に使える可処分所得、いわゆる「手取り」が減り、物価の高騰で生活のやりくりはさらに苦しくなる。
 年収103万円という所得税を課税するボーダーラインを引き上げれば、短時間労働者を対象とした減税政策となり、手取りが増える。
 最低賃金の引き上げに伴い、これまでと同じ労働時間でも年収がボーダーラインを超えてしまい、税や保険料の負担が生じて手取りが減る状況もある。負担が生じない収入に抑えるため、アルバイトやパートの時間を減らさざるを得ない「働き控え」を解消するため、最低賃金の上昇に合わせた非課税枠の引き上げが主張の柱となる。
 国民民主の玉木雄一郎代表が衆院選で「手取りを増やす」と訴えて躍進した政策だけに、無視できない。
 一方で、国民民主が掲げる現行の103万円から178万円へと所得税の非課税枠を引き上げた場合、国と地方の税収が1年間で計7兆6千億円減ると政府は試算する。減税による景気浮揚の効果が国と地方の減収以上に見込めるのか、178万円で線引きする根拠は何かなど、政策の効果を突き詰める必要がある。
 「年収の壁」が生じるのは所得税の103万円だけではない。一定条件で社会保険の加入が必要になる「106万円の壁」、配偶者の社会保険の扶養から外れる「130万円の壁」などが存在する。このうち、厚生労働省は厚生年金に加入する年収要件(106万円以上)の撤廃を検討している。老後の給付を手厚くする狙いだが、年収を問わず保険料負担が生じるため、年収106万円以下の人には手取りの減少になる。
 「年収の壁」は税だけでなく、配偶者控除を含めた家計全体の収入や、将来の生活を保障する社会保険制度の議論が不可分である。各党がさまざまな観点を持ち寄り、メリット、デメリットを論じて政策を練り上げる必要がある。
 少数与党となった自民が多数派工作に走るあまり、政策面で国民民主の要求を丸のみするならば、国民の生活向上とは無縁の野合となりかねない。国民のための徹底した与野党論議こそ政策本位の国会へ向けた試金石となる。

少数与党下の国会 新たな「合意の政治」を(2024年11月10日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 自民、公明の連立与党が大敗を喫した衆院選から2週間。「自民一強時代」の政治手法とは異なる新たな政策決定方式が形を現しつつある。
 自民、国民民主両党は8日、政府の経済対策を巡る政策協議をスタートさせた。
 国民は衆院選で、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の金額引き上げを公約に掲げ、議席を大幅に増やした。
 「年収の壁」「ガソリン減税」「災害対策」などを重要項目と位置付け、自公との政策協議を通して実現を目指す考えだ。
 自民としては、11日に召集される特別国会で石破茂首相の続投を確実にするためにも、また、与党少数下の国会で予算案や法案を成立させるためにも、新たなパートナーが必要だった。
 自民、公明、国民の3党は今後、3党連立ではなく、政策ごとに連携する「部分連合」を形成する構え。
 衆院の17ある常任委員長ポストの配分も決まった。 衆院選前は与党が15ポストを占めていた。与党の過半数割れを反映して自民が譲歩し、与党10、野党7の配分に。
 立憲民主党は、予算案などを審議する予算委員長のほか、政治改革特別委員長や憲法審査会長などの重要ポストも手に入れた。
 少数与党の時代は、土台がぐらぐらして不安定な時代でもあるが、そのような状況の中から、新しい政治が生まれるのだと信じたい。
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 2012年から続いた「自民一強政治」の下で、行政府の権限が肥大化し、国会は、政府提出の法案や政策の追認機関になってしまった。
 国会のチェック機能を強化し、活発な議論を通して与野党が合意形成を図っていく。そのような民意に根差した政治文化が根付くことを期待したい。
 例えば、中途半端な内容で幕引きが図られた政治改革問題。立民、国民、日本維新の会、共産などの野党は、抜本的な政治改革の実現を主張している。
 石破首相も選挙後、記者会見で、政策活動費廃止や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開、政治資金を監査する第三者機関の設置について速やかに実現すると強調した。
 与野党が調整し、早急に成案をまとめ、関係法の改正に取り組んでもらいたい。
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 石破政権は「与党で過半数」という勝敗ラインを掲げ、衆院選に臨んだ。
 目標が達成できず大敗したことから自民党の中には、選挙から2週間たった今も、辞任論がくすぶっている。
 米国では、来年1月にトランプ政権が誕生する。バイデン政権の外交政策が覆され、自国第一主義の外交が打ち出される可能性が高い。
 石破首相は、内憂外患をどのようにして切り抜けるのか。対応を誤り支持率が降下すると、来年の参院選前に交代論が浮上するかもしれない。

「103万円の壁」自公国協議 効果と財源の見極め必要(2024年11月9日『毎日新聞』-「社説」)
 
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会談に臨む自民党森山裕幹事長(右)と国民民主党榛葉賀津也幹事長=国会内で2024年10月31日、平田明浩撮影
 物価高に苦しむ人の暮らしを支えるのは政治の役割だが、無責任なばらまきに陥ってはならない。
 自民、公明、国民民主の3党による政策協議が本格化している。焦点は、所得税がかかり始める「年収103万円の壁」の扱いだ。
 パート労働者が税負担を避けようと、働く時間を抑えるケースが目立つ。中小企業や飲食店などが人手不足を解消するネックにもなっている。
 国民民主は非課税枠を178万円に引き上げることを求めている。「103万円となった1995年よりも最低賃金が70%超上がった」と説明し、「減税で手取り収入が増える」と訴えている。
 非課税枠は、必要最低限の生活費を保障するために設けられた。デフレなどを理由に長く据え置かれてきたが、物価高に対応するため、一定の引き上げは必要だ。
 とはいえ、国民民主の主張は問題が多い。
 まず上げ幅が過大だ。生活費を補う目的なら物価上昇率に見合った水準にするのが合理的だ。国際的にも一般的な手法である。その場合、上げ幅は10%程度となる。
 所得が高い人ほど減税の恩恵が大きくなることも無視できない。年収200万円の人は8万円余りだが、年収1000万円なら22万円を超す。物価高で最も打撃を受けるのは低所得者であるにもかかわらず、高所得者が有利になる仕組みだ。
 財政を大幅に悪化させる恐れもある。税収減は年7兆~8兆円に上ると政府は試算している。国民民主は「消費が活性化し、税収も増える」と主張するが、楽観的過ぎる。国債で穴埋めし、借金財政が一段と深刻化すれば、将来世代に回るツケはさらに膨らむ。
 仮に178万円まで引き上げても、「壁」の問題は解決しない。
 パートの年収が一定額以上になると、年金などの保険料支払いが生じる「106万円の壁」や「130万円の壁」の方が手取りが減り、影響が大きい。制度全体の見直しが欠かせない。
 衆院過半数を割った与党には、国民民主を取り込みたいとの思惑がある。だが、政権維持のための取引材料にすれば、政策をゆがめてしまう。効果と財源を慎重に見極めるべきだ。

少数与党の政権】政治改革速やかに着手を(2024年11月8日『高知新聞聞』-「社説」)
 
 国会運営や政策決定過程がこれまでと大きく変わる。緊張感のある政治と透明性のある議論を通じ、国民の信頼を取り戻す必要がある。
 自民、公明両党の与党が過半数割れした衆院選の結果を受けた政権運営の在り方が固まってきた。
 11日に召集される特別国会の首相指名選挙では、石破茂首相が選出される見通し。少数与党では法案や予算案を通すことができないため、自公は、国民民主党と政策ごとに連携する「部分連合」を目指して政策協議を行う。
 一方、議席を伸ばした立憲民主党は、将来的な政権交代を念頭に他の野党との協力体制を探り、このうち国民民主とは政治改革の実現や国会対応で連携する。原発など隔たりがある基本政策でも協議していく。
 存在感が一気に高まったのが、衆院選で勢力が7議席から28議席に躍進した国民民主になる。キャスチングボートを握った。
 少数与党が連携勢力を確保しようとするのは自然な流れだろう。2022年度当初予算などに賛成した経緯がある国民民主は自公側には抵抗感が少なく、国民民主にとっても自党の掲げる政策実現へ与党に協力するのは一つの選択肢に違いない。
 一方で、国民民主は立憲民主と源流は同じで、衆院選でも与党の過半数割れを訴えていた。躍進したとはいえ勢力としては小政党の域を出ず、影響力の誇示が行き過ぎれば反発を招く恐れがある。
 玉木雄一郎代表は「政策本位」「対決より解決」を掲げ、各党との等距離を強調する。求心力を保ち続けるにはバランスが重要になる。
 「自公国」の政策協議でまず焦点になるのは、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」の引き上げと、ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除だ。いずれも国民民主が求め、与党への協力の条件としている。
 ただ、国民民主の主張通りに実現した場合、多額の税収減が見込まれ、さまざまな弊害も指摘される。国民の幅広い理解があればよいが、それがないまま与党の多数派工作の一環で進められるのは乱暴だ。十分な議論が前提になる。
 忘れてはいけないのは、衆院選の与党敗北は、自民派閥裏金事件など「政治とカネ」問題に対して世論が厳しい評価を下した結果だということだ。抜本的な政治改革に速やかに着手するのが民意と言える。
 立憲民主と国民民主は、先の政治資金規正法改正で積み残した政策活動費の廃止などを念頭に、年内に法の再改正を求める方針で合意した。国民民主は政策協議の中で与党に迫ることもできるだろう。与党側も国民民主にとどまらず野党側と真摯(しんし)に向き合うべきだ。
 衆院の委員長ポストも野党に手厚く配分された。政策決定で与野党の調整が必要になる場面が増えるのは必至だ。「決められない政治」への懸念も出るが、そもそも、政策ごとにしっかり議論して合意形成を図ることを軽視するべきではない。

自民と国民民主 数合わせなら本末転倒だ(2024年11月8日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 自民党と国民民主党がきょう、政策協議に入る。自民、公明の連立与党の衆院議席過半数に満たないのだから、政策を実現するために野党と話し合うのは当然のことだ。ただ、それが政権の維持を目的とする「数合わせ」ならば本末転倒と言わざるを得ない。
 「自公国」3党は月内にまとめる経済対策や2024年度補正予算案、25年度予算編成、税制改正について協議する。自民は国民民主と個別の政策や法案で一致点を見いだし、多数を形成する「部分連合」を念頭に置いている。
 国民民主は衆院選の公約で「手取りを増やす」と訴え、議席を4倍に増やした。その実現を重視するのは理解できるが、「政治とカネ」の問題は置き去りのままでいいのか。公約でも自民派閥の裏金問題を取り上げ、「政治への信頼をなくし、政策を前に進めることができなくなっている」と断じたはずだ。抜け穴を残した改正政治資金規正法の再改正といった「政治改革の断行」の合意がないままの協議入りは、優先順位が違うと言われても仕方あるまい。
 特別国会の首相指名選挙で自民の石破茂総裁と立憲民主党野田佳彦代表の決選投票となった場合、国民民主は玉木雄一郎代表の名を書くという。選挙で「信」を得られなかった石破氏の延命に事実上、手を貸すことになる。国民民主を支持した有権者の思いと、かけ離れてはいないか。
 3党協議で国民民主は、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」を178万円に引き上げるよう求める。103万円となった1995年と比べ、最低賃金が7割上がったことを根拠とするが、引き上げ幅の妥当性については吟味が必要だ。
 国民民主の案ならば、国と地方の税収が7兆円から8兆円減ると試算されている。減収分を国債発行で賄えば、将来世代にツケを回す。高所得者ほど減税の恩恵が大きいという不公平感も論点だ。
 国民民主が掲げるガソリン税の「トリガー条項」発動も課題が多い。1リットル約54円のガソリン税のうち、約25円分の課税を一時的に止める措置だが、税収減は1・5兆円に及び、脱炭素にも逆行する。エネルギーの高騰対策は困窮する層や公共輸送などに的を絞った方がいい、との意見は根強い。
 財源に背を向けて大盤振る舞いに走るのならば、責任に欠ける。1976年結成の新自由クラブなど、与党なのか野党なのか、どっちつかずの「ゆ党」の立場を取った政党が大きな政党に集約された過去も忘れてはならない。自民の補完勢力に終わらないという強い覚悟を求めたい。
 自民も政権維持のためだけに安易な譲歩を重ねてはなるまい。衆院選で191議席を得た第1党が28議席の第4党に振り回されるのは、選挙での民意を正確に反映しているとは言えない。
 経済対策や税制は国民生活に直結する。自公国だけで結論を急がず、他党とも腰を据えて協議する「熟議の国会」を目指すべきだ。

経済対策 予算のバラマキに陥らないか(2024年11月6日『読売新聞』-「社説」)
 
 自民、公明の与党と国民民主党の政策協議は、予算のバラマキに陥ることはないのか。国民民主は、財源対策にも責任を持つ覚悟はあるのか。
 与党と国民民主は、新たな経済対策と税制改正などについて協議を始めることで合意した。最大の焦点が、年収が103万円を超えると所得税が課される「103万円の壁」の解消だ。
 パートやアルバイトなどが働く時間を抑える要因である「年収の壁」の一つとされている。
 国民民主は衆院選で、働く人の「手取りを増やす」ことを公約に掲げ、「178万円」に引き上げるべきだと主張している。
 103万円となった1995年と比べ、最低賃金が1・73倍に伸びたことを根拠に挙げている。
 物価が上昇しているのに、約30年前と課税最低限が同額では弊害が大きい。人手不足の現状では引き上げ自体は検討に値しよう。
 ただし、具体的な引き上げ幅については考慮すべき点が多い。
 国と地方の税収は7兆~8兆円程度減るとされる。その減収分を国債発行で賄えば、将来世代にツケを回す結果になる。
 年収が多いほど減税額が大きくなることを懸念する声もある。減税額は年収200万円だと8・6万円だが、800万円ならば22・8万円と試算されるためだ。
 国民民主は財源について、減税によって消費意欲が高まり、税収も増えると主張するが、楽観的過ぎる。増収分があれば、他に振り向けるべき分野は多い。財政健全化も、その一つである。
 また、年収の壁は、「103万円」だけではない。企業規模などに応じて社会保険料がかかる「106万円」や「130万円」の方が手取り額に大きく影響する。制度全体を見渡して、時間をかけて議論を進めることが大切だ。
 約54円のガソリン税のうち、約25円分の課税を止め、価格を抑制するトリガー条項の発動の是非も論点だ。国と地方で計1・5兆円の減収となるほか、ガソリン消費が増え、脱炭素化に逆行する。
 経済対策や税制は本来、財源対策を含め、政策全体のバランスを考慮して進めるべきものだ。
 国民民主が、単に少数与党の弱点を利用して、自党の要求の実現だけを図ろうというのならば、無責任というほかない。
 また、石破首相が「部分連合」と称する枠組みで自らの延命のために譲歩を重ねれば、第1党が第4党に振り回される結果となり、政局を不安定にするだけだ。

与党と国民民主 数合わせより政策論議を(2024年11月6日『西日本新聞』-「社説」)
 
 政権を運営するための与野党協議が、国会対策の数合わせになってはならない。目的は国民本位の政策遂行であるべきだ。
 衆院選で与党が過半数割れしたことを受け、自民党と国民民主党の幹事長が会談し、公明党を含めた3党で政策協議を始めることで合意した。国民民主は個別の政策案件ごとに応じる構えだ。
 与党は衆院で、野党の協力がなくては法案や予算案を通すことができない。国民民主の要求をのむことと引き換えに、2024年度の補正予算案、25年度の当初予算案や税制改正に賛成してもらおうというわけだ。
 国民民主が与党に突きつけているのは、年収が103万円を超えると所得税がかかる「年収の壁」を178万円に引き上げることや、ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除だ。いずれも衆院選の主要公約だった。
 国民民主は結党以来「対決より解決」を主張し、22年度当初予算や23年度補正予算に賛成した経緯がある。議席数は野党第3党ながら、与党から見れば最もくみしやすいのだろう。
 少数与党が野党に協力を求めるのは当然のことだ。重要なのは、政策協議が国民の理解を得られるかどうかだ。
 国民民主が訴える「年収の壁」の引き上げは、確かに衆院選有権者の支持を得た。若い世代を含め、恩恵を受ける対象者は多い。
 一方、実現すれば国と地方を合わせて年7兆6千億円の税収減が見込まれる。小さな額ではない。高額所得者ほど減税の恩恵が大きくなることもあり、財政全体のバランスを考慮する必要がある。
 トリガー条項の凍結解除はガソリンが安くなる半面、ガソリン使用量が増え、脱炭素や地球温暖化対策に逆行すると根強い批判がある。
 多様な捉え方がある以上、3党の協議は慎重に進めるべきだろう。与党には謙虚な姿勢を求めたい。多数派工作が露骨になるようでは内閣支持率の回復は見込めまい。
 国民民主は衆院選で、与党の過半数割れを目標にしていたことを忘れてはならない。与党への接近は「自公政権の延命に協力するのか」という批判がつきまとう。是々非々を貫けるかどうか、有権者は注視している。
 本来なら衆院選後に、与野党が真っ先に取り組むべきは政治改革であるはずだ。
 衆院選で自民、公明両党が大敗を喫したのは、裏金事件や政治資金問題の甘い対応に対し、有権者が「ノー」を突きつけたからである。
 与党は直近の民意を尊重して、立憲民主党をはじめ多くの野党と協力しながら、早急に実現の筋道をつけてもらいたい。
 「抜け穴」が残ったままの政治資金規正法の再改正、政策活動費の廃止、企業・団体献金の廃止など協議するテーマはそろっている。

自公国の政策協議は小手先に流れるな(2024年11月4日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 目先の国会対策や党利党略のために、税制など重要政策の修正を軽々しく決めるべきではない。自民、公明両党と国民民主党が2025年度予算編成などに向けて始める政策協議のことである。
 国民民主は衆院選で「手取りを増やす」と訴え、公示前の4倍の28議席に躍進した。所得税の控除額を103万円から178万円に増額する減税を主張。ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除も掲げた。
 自民は政府が11月の策定を目指す総合経済対策などに一部を反映させ、24年度補正予算案や25年度予算案への協力を得たい考えだ。
 国民民主は物価高によって所得の伸びを上回るペースで税負担が増していると問題視している。累進課税の区分が名目額で固定されているので、所得が上がると増税効果が生じる現象が原因だ。
 こうした増税効果が生じているのは事実だろう。実際、高度成長期には物価上昇を加味して所得税の控除額を引き上げるインフレ調整を実施してきた。この措置は1995年を最後に行われていない。物価の動きを分析し、必要性を点検すべき状況なのは確かだ。
 ただし、75万円という上げ幅はインフレ調整の域を超える。国民民主は最低賃金が95年から2024年に1.73倍になったことを根拠にしているが、約7.6兆円もの税収減になるので慎重な議論が要る。高所得者ほど減税の効果が大きくなる点も論点だろう。
 就労を促すために非課税対象者を広げる考え方も賛同できない。「103万円の壁」という表現は社会保険料の納付開始で手取りが減る130万円や106万円の壁を想起させるが、所得税では本人の手取りが急減する崖はない。
 ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」にも問題がある。自公が継続を掲げるエネルギー補助金は市場をゆがめるものだが、トリガー条項も税財政で価格を抑える点で変わりはない。エネルギーの高騰対策は低所得者や公共輸送など狙いを絞って行うべきだ。
 税制に必要なのは社会の変化や課題を見据えた抜本的な改革だ。所得税は働く主婦らを優遇する配偶者特別控除の見直しこそ進めるべきだ。脱炭素を促すには、何段階にもわたる石油への複雑な課税体系を見直すことが必要だ。
 自公国は政策を取引材料にするような小手先の協議ではなく、骨太の政策論議を行うべきだ。

衆院伯仲の国会へ 選挙制度、権能強化の改革を(2024年11月4日『京都新聞』-「社説」)
 
 衆院選を受け、国会で与野党が伯仲する。10余年に及んだ「自民党1強」で、機能不全が目立つ「国権の最高機関」を立て直す機会にすべきだ。
 民意を映しにくい衆院選の比例重複、国会の召集要求のたなざらし、国際的にも高い被選挙権年齢、デジタル時代とずれた公選法といった国会と選挙の仕組みについて、党利党略を離れて議論してほしい。
 選挙公約で与野党とも見直し言及した議員の「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費、毎月100万円)は、透明化に踏み切らねばならない。
 2012年の政権交代以降、第2次安倍晋三政権は衆院の抜き打ち解散などで国政選の勝利を重ねた。自民の1強化とともに国会軽視が顕著になった。
 安倍氏の親族や友人が関わった森友学園加計学園問題の審議に向け、野党が求めた臨時国会召集の要求を3カ月余り無視したのは典型だろう。
 こうした横暴を防ぐため、立憲民主党日本維新の会など野党5党は2年前、憲法53条に基づく臨時国会の召集要求に対し、内閣に20日以内の召集義務を課す国会法改正を提出した。
 自民党が12年にまとめた憲法改正草案で「要求日から20日以内に召集」としたことも踏まえている。1強時代ははねつけられた法案も、合意できる下地があるはずだ。
 立民は昨年、首相の解散権を制限する法案要綱もまとめている。党首討論の拡大なども含め、立法府の権能を高める観点で幅広く検討してもらいたい。
 平成の政治改革から30年。二大政党制を目指すとして「小選挙区比例代表並立制」が導入されたが、問題点の指摘は多い。
 特に比例との重複立候補を認める点は、民意をゆがめる側面が大きい。自民党は今回、裏金議員の比例重複を認めなかったが、有権者の選挙区審判を重くみる対応ともいえよう。見直し議論の契機にしてはどうか。
 今回は滋賀などで選挙区を「10増10減」したが、少子高齢化の中、人口に基づく議席配分には限界がある。衆参の役割分担と選挙区制度を一体で協議し、多様な民意をくんでほしい。
 福島原発の事故を受け、国会が設置した第三者委員会は独立性と調査権限を持ち、再発防止策の提言などの役割を果たした。新型コロナウイルス対応でも野党は同様の機関を設ける法案を共同提出したが、実現していない。選挙制度や財政など大きな国政課題で有効だろう。
 立候補できる年齢は衆院議員と地方議員が25歳以上、参院議員は30歳以上。世界では投票権に合わせ、18歳以上の国が最多という。若者の政治参加へ扉を開く与野党の決断が要る。
 有権者を遠ざけるほど選挙を細かく規制する公選法は、デジタル技術を踏まえた抜本改正が求められよう。

自民の多数派工作 裏金みそぎは済んでない(2024年11月3日『琉球新報』-「社説」)
 
 自民党派閥裏金事件に関与して離党、衆院選に無所属で出馬し当選した世耕弘成氏ら計6人が、衆院会派「自民党無所属の会」に入会した。衆院選で政権与党が過半数割れし、特別国会の首相指名選挙に向けた多数派工作の一環として自民党が会派入りを打診したという。
 石破茂首相は「厳しい姿勢で臨み、ルールを守る自民党を確立する」と表明し、裏金に関わった議員の一部を衆院選で非公認にする措置をとったのではなかったか。選挙が終わった途端に無所属の裏金議員を呼び戻すのでは、有権者を欺くためのポーズだったと非難されても仕方がない。
 無所属で立候補した議員が当選したことで裏金問題の「みそぎ」が済んだとするならば都合のよすぎる解釈だ。衆院選有権者が示した「政治とカネ」の問題を厳しく批判する民意を、政治が無視するようなものだ。
 裏金問題の究明と責任追及は不十分で、抜け道が多い政治資金規正法の再改正が衆院選の争点として持ち上がった。非公認候補が代表を務める自民党支部に党本部から2千万円の活動費を支給した問題についても、石破首相は正面から答えていない。
 派閥裏金事件をはじめとした逆風で過半数割れに追い込まれた自民党が反省を示さず、このまま数合わせの政局にひた走ることを国民の多くは認めないだろう。有権者の政治不信は、民主主義の土台を揺るがしかねないほどに増幅していることを石破首相は心すべきだ。
 自民の多数派形成に向けた動きでは、無所属議員の取り込みに加え、国民民主と政策協議の開始に合意するなど、「部分連合」の形で一部の野党を引き込もうという綱引きが活発化している。
 政党間の活発な議論の下で、国民のためになる政策を練り上げていくことは議会政治の本来あるべき姿だ。
 安倍晋三政権以降、憲法に抵触する集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定で行うなど、政権与党の安定多数に物を言わせ、国会手続きを軽視するような政治が続いた。少数与党となった政権党が法案を通すため野党と真摯(しんし)に向き合い、政策ごとに協議を進める姿勢を示すこと自体は歓迎していい。
 しかし、選挙後早々に裏金議員を会派入りさせる無節操な多数派工作を見る限り、本当に熟議の国会に向かうか疑念を持たざるを得ない。
 キャスチングボートを握る国民民主は、年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の上限引き上げを実現することを重視し、与党との協議に積極的に応じる姿勢を見せている。一方で野党の中には国民が与党側に軸足を置くことで、自公政権の延命にくみすることになると警戒する見方もある。
 国政の主導権争いや政策協議の行方を有権者もしっかりと監視していく必要がある。

自民・国民協議 政治とカネを忘れるな(2024年11月2日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院選の与党過半数割れを受け、自民党が国民民主党と政策協議を始める方針で一致した。
 与党の政策に国民民主党の主張を盛り込み、代わりに補正予算案などの採決に賛成してもらおうとの狙いだ。部分連合の枠組みを模索した動きと言える。
 過半数を確保していない与党が野党に協議を持ちかけること自体は不自然なことではない。
 しかし、なぜその相手が野党第3党の国民民主党だけなのか。最大野党である立憲民主党など各党と公平に話し合わなければ都合のいい「数合わせ」とみられても仕方あるまい。
 協議は経済政策が中心と言うが「民意の反映」をうたうなら衆院選の最大争点である裏金事件を受けた政治とカネの問題を最優先で考えるのが筋だ。
 選挙結果が促す国会の姿は自民1強政治を改め、与野党伯仲の国会でオープンな熟議を進めることである。石破茂首相は真摯(しんし)に受け止めねばならない。
 与党は今後国民民主党と、本年度補正予算案や来年度予算案、税制改正などについて幹部間で協議するという。
 国民民主党を政権側に取り込み、野党の分断を図るとともに将来の連立入りに向けた道筋を探りたい思惑もあるのだろう。
 首相は議席を伸ばした党の主張を取り入れると言うが、最も支持を得た野党は立憲民主だ。
 大敗した自民党が反省の意志を示すのであれば、まず裏金の実態解明や企業・団体献金の廃止こそ取り組まねばならない。公明党を含め自民党以外は大半の党が賛成する選択的夫婦別姓の導入も早急に議論すべきだ。
 国民民主党は「年収の壁」となる所得税の非課税枠の引き上げや、ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除を訴える。ただ総額で10兆円近い税収減の課題のほか効果自体を疑問視する声もある。
 拙速な議論で政府がなりふり構わず丸のみに走るのは許されない。まずは課題をどう乗り越えるのか説明する責任がある。
 玉木雄一郎代表は「全くやらないなら予算案も法案も通らない」と強気にけん制する。だが衆院で28議席の小政党がキャスチングボートを握った立場を使って独自政策を押し通すのは、国会全体を俯瞰(ふかん)したバランスの良い合意形成とは言えまい。
 そもそも国民民主党自民党政権運営を批判し、与党過半数割れを訴えていた。結果的に自民党の補完勢力となれば有権者の理解は得られないだろう。
 国会の最大テーマは信頼回復である。政治不信を強めかねない不透明な議論は慎むべきだ。

自公・国民協議 政治改革議論忘れるな(2024年11月2日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 自民、公明の連立与党と国民民主党が、与野党の枠を超えて政策協議を開始することで合意した。衆院選過半数割れに追い込まれた自公だけでは今後、予算案や法案を通すことができない。そのため自民が、11月中に取りまとめる経済対策や、その裏付けとなる2024年度補正予算案などへの協力を国民に呼びかけた形だ。
 
 自民は経済対策に国民の主張を反映させ、政策ごとに連携する「部分連合」の実現を目指すとしている。だが政治改革をどう進めるのか。衆院選で自民派閥裏金事件を巡る「政治とカネ」の問題に厳しい民意が示されたことを忘れてはならない。
 政治への信頼が大きく揺らいでおり、その回復が喫緊の課題である。与野党は政治改革の議論をなおざりにはできない。
 衆院選で自公の議席は215となり、公示前から73減らした。自民では非公認や無所属の当選者6人が会派に入会したが、それでも過半数233に届かない。一方、国民は議席を4倍の28に伸ばした。自公に国民が加わると過半数を超える。
 自民と国民は政策的に近い部分もあるとされる。自民が連携を働きかけた。
 11日には首相指名の特別国会が召集される見込み。石破茂首相と野党第1党である立憲民主党野田佳彦代表による決選投票になる可能性が高い中、国民や日本維新の会は野田氏に投票しない意向で、石破首相が再び選出される公算が大きい。そうなれば政府、自民は14日に経済対策を閣議決定し、年内に補正予算を成立させたい考えだ。
 石破首相は衆院選大敗判明後の記者会見で「自民党は心底から反省し、生まれ変わらなければならない」と述べ、政策活動費の廃止や政治資金を監査する第三者機関の設置などを実現するとした。言葉通り、速やかに実行するべきだ。
 国民は衆院選の公約として、所得税が発生する「年収の壁」の103万円から178万円への引き上げ、ガソリン税一部軽減などを掲げ、手取りを増やす政策を訴えた。玉木雄一郎代表は「欲しいのはポストではなく、選挙で約束した経済政策の実現だ。連立を組むことはない」と政策実現に意欲を示す。
 しかし実現した場合、多額の税収減が見込まれる。自公と国民にとどまらず、国会での幅広い議論が欠かせないテーマだ。
 経済対策の議論が先行する一方で、肝心な政治改革がうやむやになるようなことがあってはならない。衆院選の民意が置き去りになってしまう。
 政治改革を巡っては、躍進した立民などが掲げた企業・団体献金の禁止も議論する必要がある。1日には公明と国民の両幹事長が政策協議で政治改革を議題にすると申し合わせた。立民と国民の幹事長会談では改革進展への協力を確認した。こうした議論を活発化させ、改革を前に進めることが求められる。

自・国の政策協議 石破執行部に資格あるか(2024年11月2日『産経新聞』-「主張」)
 
 自民党と国民民主党が政策協議に入ることで合意した。
 衆院選に大敗した石破茂首相(自民総裁)と森山裕幹事長が何の責任も取らずに協議を進めるのは、異様な光景というほかない。
 石破首相と森山氏は辞任し、自民は新執行部のもとで他党と協議に臨むのが筋だと改めて指摘したい。
 石破首相は居座り、国民民主との「部分連合」の形成を図るつもりなのだろう。
 森山氏と国民民主の榛葉賀津也幹事長は10月31日、会談した。森山氏は経済対策や令和6年度補正予算案、7年度予算案の編成、税制改正での協力を呼び掛けた。「部分連合」の構築に向け、両党の政調会長による常設の会議体設置も求めた。
 これに対し、榛葉氏は会議体設置を拒み、案件ごとに対応する意向を示した。森山氏は受け入れた。
 国民民主は年収が103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の金額を178万円に引き上げることを最優先事項に掲げている。林芳正官房長官が7兆~8兆円程度の減収が見込まれるとの試算を示すと、国民民主の玉木雄一郎代表は「全くやらないなら協力できない。その時は予算も法律も通らない」と牽制(けんせい)した。
 ガソリン税を一部軽減する「トリガー条項」の凍結解除も看板政策の一つだ。
 国民民主は衆院選で「手取りを増やす」ことを訴えて支持を得たため、その実現に注力するのは分かる。
 ただ、両党の協議を巡り懸念はある。個別政策を切り離して交渉した場合、他の政策とバランスが取れなくなる恐れがあることだ。
 厳しい安全保障環境を踏まえれば、防衛力の抜本的強化を滞らせてはならない。
 政府は令和9年度までの5年間で防衛費総額を約43兆円と定めているが、増税時期は決まっていない。防衛増税は10年度以降の防衛費をきちんと確保することもにらんだ措置である。税制改正を行う場合は、税制全体との整合性を図ることも求められる。
 国民民主は自党の政策実現だけを目指すのではなく、日本の平和と繁栄のための国家戦略をより明確に描き、日本を守り抜く政策でも責任ある姿勢を示す必要がある。

自公国の協議 政治改革が優先のはずだ(2024年11月2日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 優先順位を取り違えていないか。
 自民党と国民民主党の政策協議である。公明党とともに少数与党となった衆院選の結果を踏まえ、自民が経済対策や補正予算案などへの協力を国民民主に呼びかけた。
 公明も交えて協議を始めることで合意している。自民は政策ごとに連携する「部分連合」を目指して政権の安定を図る。国民民主は衆院選で公示前の4倍の28議席に伸ばした。与党が国民民主と部分連合に合意すれば過半数となり、法案が通りやすくなるためだ。
 これに対し、国民民主の玉木雄一郎代表は「手取り収入を増やす政策が実現しなければ政権に協力しない」と表明し、党の主張の受け入れを自公に迫っている。
 国民民主は衆院選で、所得税の負担が生じる「103万円の壁」を見直し、178万円に引き上げることなどを主張していた。玉木氏は「全くやらなければ予算案も法律案も通らない」と述べた。
 国民民主が掲げる政策の実現を図るのは理解できる。ただし、衆院選で与党が過半数を確保できなかった要因は、裏金事件に関係した「政治とカネ」問題で不信を招いたことである。国民民主も公約で裏金問題を取り上げ「政治への信頼をなくし、政策を前に進めることができなくなっている」と主張していた。
 公明と国民民主はきのうの幹事長会談で、裏金事件を受けた政治改革や国会改革も議題にすると申し合わせてはいるものの、協議の中心は経済対策が中心だ。
 政策協議をするのなら、「政治とカネ」問題の清算と再発防止策の徹底を自民に求め、「政治への信頼」回復を図る道筋をつけることが前提のはずだ。それなしで「政策を前に進める」のは、国民民主の公約に合致しているのか。
 石破茂首相は衆院選後の会見で使途が不明な政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開などに取り組むと述べてはいる。ただし、具体策はこれからで、実現できるのか不透明だ。国民民主が公約に掲げた政治資金規正法の再改正には言及もしていない。「政治とカネ」問題を放置することは看過できない。
 国民民主はきのう、立憲民主党とも幹事長会談を行い、政治改革の進展に向けて協力する方針で一致し、週明けにも党首会談も開催する方向だ。ただし、国民民主の軸足が自公との協議にあるのは明白だ。衆院選有権者が示した意思を改めて認識し、政治改革を実現するべきである。

自民と国民民主の協議 政治改革置き去り許されぬ(2024年11月2日『中国新聞』-「社説」)
 
 衆院選で示された民意は、「政治とカネ」の問題に向き合わない自公政権への不信任であり、求めたのはまっとうな政治改革だ。置き去りにするなら許されない。
 
 自民党と国民民主党は、公明党を含めた3党で政策協議を始めると合意した。今月中にまとめる物価高での経済対策や2024年度補正予算案、25年度予算案の編成や税制改正を念頭に置く。連立ではなく、政策ごとに連携する「部分連合」を探る。
 自民党の狙いは言うまでもなく政権維持にある。過半数を割り込んだ少数与党では、予算案や法案の成立もままならない。まずは11日に召集見込みの特別国会での首相指名選挙で、石破茂首相の続投を決めたい考えだ。政策が比較的近い国民民主党を取り込むことで、立憲民主党の目指す野党連携にくさびを打ち、多数派を維持する道を描く。
 なりふり構わぬ数合わせに陥ってはいないか。政権維持を望むなら、最優先で取り組むべきは政治改革のはずだ。派閥裏金事件があっても、抜け穴を残した政治資金規正法の改正にとどまっている。野党第1党の立憲民主党を含めた与野党協議を速やかに進めるべきだろう。「手取りを増やす」とした経済対策を衆院選公約の旗印に掲げた国民民主党に対し、先行して声をかけた手法に思惑が透ける。
 政治改革について、石破首相は政策活動費の廃止や、政治資金を監査する第三者機関の設置、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開を速やかに実現したいと述べてはいる。だが、議席を大幅に伸ばした立憲民主党などが訴えた企業・団体献金の禁止は、取り上げる様子が見えない。国民民主党自民党の考え方に近い。両党の協議で抜本的な政治改革を示せるか、疑問だ。
 しかも、自民党は派閥裏金事件に関わった非公認や無所属の当選組を含む6人に、衆院の自民会派に入るよう要請した。衆院選をみそぎに使ったわけで、改革の本気度が疑われる。
 そうした自公政権を補完する役割を、国民民主党が担うことにならないか。党を支持した有権者の多くが、政治改革をしないままで自公政権の維持を望んだとは思えない。
 国民民主党が公約で示した政策の実現を目指すのは理解できる。しかし、国民からの信頼という土台を築き直すのが先だ。「信なくば立たず」なのは岸田文雄前首相の退陣で思い知ったばかりだろう。「信」のない政権に協力したところで、求めた政策を実行できるだろうか。
 玉木雄一郎代表が自民党に真っ先に求めた政策は、長年の政治課題である「年収の壁」対策だ。減税として、年収が103万円を超えると所得税が発生する壁を178万円に引き上げるべきだと訴える。主張通りなら7兆~8兆円程度の減収が見込まれ、国民生活も左右する。3党だけで結論を出す議題ではない。
 自民、国民民主の両党とも民意より党利を優先するようでは、国民からさらなる政治不信を招くと自覚すべきだ。

政治にこそ当てはまる(2024年11月2日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 米大リーグでワールドシリーズを制覇したドジャース大谷翔平とベッツ、フリーマンの「MVPトリオ」はスーパースターながら「利他的」「無私無欲」でチームのために献身的にプレーしていると同僚から高く評価されている
▼こちらの評価は難しい。衆院選過半数割れした自公は連立政権継続のため、野党の声を聞き入れようとしている。国家というチームを導くための選択ならば歓迎だが、どうだろう
▼与党が連携を模索する国民民主党は選挙公約で、辺野古新基地や日米地位協定の見直しに言及した。ところが連立政権入りがささやかれ始めた選挙期間中、新基地は「日米間で十分に協議」とトーンダウン。期待はしぼんだ
▼自民は早くも馬脚を現す。「裏金議員」として非公認だった世耕弘成萩生田光一西村康稔平沢勝栄の4氏らに同党の衆院会派入りを要請。開いた口がふさがらない
▼派閥の裏金事件に端を発した「政治とカネ」などが争点となった衆院選。問題は忘れ去られ、私利私欲にまみれた数合わせが横行していないか。全国民のために、政治にこそ「利他的」「無私無欲」を追求してほしい。

まず政治改革で合意せよ/自民・国民協議(2024年11月1日『東奥日報』-「時論」/『山陰中央新報¥-「論説」)
 
 自民党と国民民主党は幹事長会談で、与野党の枠を超えて政策協議を開始することで一致した。両党は、公明党を交えて経済対策など政策ごとに連携する「部分連合」を模索していくことになる。
 
 先の衆院選では、自民派閥の裏金事件に対する有権者の反発が収まらず、自民、公明の与党が過半数割れに追い込まれた。
 首相指名のための特別国会が11月11日に召集される見込みだ。自民にとって国民との政策協議は、石破茂首相(自民総裁)の続投を確実にする多数派工作の一環であることは間違いない。同時並行して、自民が非公認や無所属の当選組6人に衆院の自民会派入りを打診したことからも、その意図は明らかだ。
 一方、国民の玉木雄一郎代表には、自公が少数与党に陥ったが故に、経済対策を中心にした衆院選公約の実現を迫ることができるとの判断があろう。有権者の支持で議席の4倍増を果たしており、公約に対する重い責任を負っているのは確かだ。
 しかし、いかなる政策であっても、政治への信頼なくして推進はおぼつかない。時には首相退陣につながることは、岸田文雄前首相のケースが示している。
 両党はまずもって抜本的な政治改革の断行で合意した上で、政策協議に入るべきではないか。「部分連合」といっても、このままでは民意を置き去りにしていると受け止められても仕方あるまい。
 石破首相は衆院選大敗が判明した後の記者会見で「自民党は心底から反省し、生まれ変わらなければならない」と表明。政策活動費の廃止や調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途公開、政治資金を監査する第三者機関の設置について速やかに実現すると強調した。
 掲載順位は最後方になるが、国民の公約にも列記されている。ほかの野党の主張とも大きな隔たりはなく、関係法の改正はすぐにでもできるはずだ。その際には、野党第1党として躍進した立憲民主党などが訴えていた企業・団体献金の禁止も取り上げてしかるべきだ。
 自公国3党の協議では、所得税が発生する「年収の壁」の引き上げやガソリン税の一部軽減という国民が最重視する政策の当否が焦点になる。
 これらの政策は減税効果が大きい半面、税収減を補う手だてが欠かせない。財政や生活全般にかかわる問題であり、3党で結論を出していいテーマではない。
 首相はまた会見で「身内の論理、党内の理屈のように思われていることを今後一切排除する」と明言した。裏金事件で離党した無所属の世耕弘成氏や非公認の萩生田光一氏らを当選したからといって自民会派に戻すのは、首相の発言と整合性が取れるのか。
 衆院選をみそぎに使っただけでなく、首相指名選挙に向けた「数合わせ」を急いだとみられて当然だ。首相や自民の反省の本気度が疑われるし、それに目をつぶるような国民の姿勢に厳しい視線を注ぐ有権者もいよう。
 立民の野田佳彦代表も首相指名選挙で野田氏に投票するよう各野党に要請している。だが国民が応じないため、首相に選出される可能性はほぼない。立民が今すべきは、有権者から広く支持が得られるよう政策と地力を磨くとともに、野党の結集軸を構築していくことだ。

あずさ2号(2024年11月1日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 恋の未練が静かに胸を打つ。1977(昭和52)年に大ヒットした「あずさ2号」は、ともに過ごした男性への別れの告白だ。新人の兄弟デュオ「狩人」が切々と女心を歌い上げた
▼8時ちょうど発の中央線特急で、別な恋人と信濃路をたどるという。行く先々で昔を思い出すが、その寂しさが自分を変えてくれると言い聞かせる。翌年には山口百恵さんの代表曲「いい日旅立ち」がリリースされた。高度経済成長が終わりを告げた頃。やすらぎを求め始めた人の心を旅情が満たした
▼カラオケの十八番[おはこ]は「あずさ2号」という。衆院選で大幅に議席を伸ばした国民民主党玉木雄一郎代表。与野党双方から秋波を送られ、今や時の人の感もある。立憲民主党との会談を拒否したと伝わった。政治活動の根っこは一緒。解散直前、内閣不信任決議案をともに提出した。♪私は 私は あなたから旅立ちます―。かの名曲の歌詞が心をよぎる
▼政策ごとに相手との距離を測る各党首間のラブコールに、永田町は何かとかまびすしい。新たなデュオはたまた、トリオやカルテットまで結成されれば混迷はさらに深まる。漂流の先に、国民を癒やす豊かな旅情は生まれるか。

自民が国民民主と協議 政治改革より数合わせか(2024年11月1日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
国民民主党榛葉賀津也幹事長、古川元久国対委員長との会談を終え、記者の質問に答える自民党森山裕幹事長(左)。
右は坂本哲志国対委員長=国会内で2024年10月31日午前10時20分、平田明浩撮影
 衆院選で示されたのは、抜本的な政治改革を求める有権者の声である。政権維持を優先して、その民意をないがしろにすることがあってはならない。
 自民党石破茂政権の継続に向け、国民民主党と幹事長・国対委員長会談を行った。公明党を含む3党で政策協議を始めることで一致した。
 連立与党の自公は衆院選過半数を割り込み、野党が多数派を占める「宙づり国会」の状況が生まれた。法案などを可決するには野党の一部を取り込む必要があり、政策の近い国民民主との協議に乗り出した。
 少数与党が政策実現のために多数派を形成する必要性は否定しない。だが、これまでの自民の対応には疑問がある。
 首相は「議席を伸ばした党」の政策を取り入れると述べている。そうであるなら、政権の枠組みについて、躍進した野党第1党の立憲民主党をはじめ各党と対話を進めるのが筋だ。
 次期政権が最優先で取り組まなければならないのは、「政治とカネ」を巡る抜本改革である。自民は派閥裏金問題で小手先の対応に終始し、衆院選有権者からノーを突きつけられた。
 約30年前の政治改革では、税金を原資とする政党交付金制度を導入する代わりに、企業・団体献金を見直すとした。にもかかわらず現在も温存されたままで、改正政治資金規正法も多くの抜け道を残している。
 本来、こうした課題を解決することが先決だ。だが首相は、使途公開の義務がなかった政策活動費の廃止などを強調するにとどまる。国民民主の公約もほぼ同じで、抜本改革には程遠い。
 自民は、裏金問題に関与して非公認とした無所属議員らを衆院会派に加える方針も示している。反省の色がうかがえない。
 国民民主は、手取りを増やすための所得税減税などを主張する。政権に協力する条件として、今後の政策協議で持ち出すとみられている。バラマキの側面が強く、政府は7兆~8兆円の税収減につながると試算している。
 なりふり構わず政権維持の数合わせに走るようでは、自民への根深い不信は払拭(ふっしょく)できない。

自・国政策協議 政権維持の数合わせか(2024年11月1日『東京新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
 自民、国民民主両党の幹事長らが会談し、政策協議を開始することで一致した=写真。自民、公明両党が衆院で半数に満たない少数与党である以上、政策実現のために野党と話し合うのは当然だが、政権維持目的の「数合わせ」なら与野党伯仲を望む民意に反する。
 自民側は、月内にまとめる総合経済対策と2024年度補正予算案、25年度予算編成と税制改正への協力を要請。国民側は「案件ごとに対応する」と応じた。
 自民が野党第3党の国民側と最初に接触したのは、自公国の議席を足せば衆院過半数になり、政策実現に全力を挙げるという主張が野党の中で最も取り込みやすいとの計算もあるに違いない。
 国民民主には岸田文雄政権当時の22年度予算に賛成した経緯もある。自民が国民側の提案を受け入れ、ガソリン税を一時的に減税するトリガー条項発動の検討を表明したためだ。自公は今回も、同党の主張に耳を傾ける姿勢を示し、予算案や法案への賛成を促す。
 ただ国民民主が最重視する「年収の壁」を103万円から178万円に引き上げることは大規模減税となる。政府の試算では、国と地方合わせて年間約7兆6千億円の税収減となり、高所得者ほど減税の恩恵が大きいという不公平感も指摘される。同党が主張する消費税5%への時限減税も年約10兆円の財源が必要だ。
 自民党は政権維持のためにどこまで主張を受け入れるのか。国民側の要求を拒むなら当初予算や関連法案はどうやって成立させるのか。国民側もわずかな見返りで妥協し、予算や法案に丸ごと賛成すれば「補完勢力」との非難を免れない。そもそもトリガー条項発動の約束もほごにされている。
 少数与党政権運営には、幅広い党派の意見、とりわけ野党第1党の主張を取り入れることが不可欠だ。自民党が野党第3党にまっ先に触手を伸ばしたのは、議会制民主主義の王道とは言い難い。
 自公は、立憲民主党日本維新の会を含めて幅広く野党と協議する「熟議の国会」に立ち戻るべきだ。さもなければ少数与党の国会・政権運営は困難を極める。

モテ期の玉木氏(2024年11月1日『中国新聞』-「天風録」)
 
 1人を巡って2人が争う「三角関係」は恋愛では珍しくない。今、政界で双方から思いを寄せられているのは国民民主党玉木雄一郎代表。先日の衆院選で公示前の4倍となる28議席を得た。一躍、キャスチングボートを握る党へと浮上した
過半数割れした自民、公明の与党と、片や野党第1党の立憲民主党からラブコールを送られる。少数政党で存在感を示せずにきただけに、注目を浴びて悪い気はするまい。だがテレビ番組での発言が波紋を広げている
▲司会者が「モテ期ですね」と持ち上げ、示したイラスト。玉木氏の腕を、自民と立民の党首が左右から引っ張り合っている。今の政治状況を分かりやすく表現した絵なのだが、玉木氏は苦笑い。「男同士が引っ張っている絵は気持ち悪い」と言った
▲ネット上に「同性愛者に対する差別だ」などと批判が上がる。人の尊厳や多様性は大事と分かっているはず。気が緩んだか。同性婚を認めぬ民法などの規定を巡る訴訟でも東京高裁が「違憲」の判断を示したところだ
▲自公の方へ思いは傾いているのか。立民党首との会談は条件次第のようだ。しかし心ない言葉を口にしていては、政党も国民も離れていくだろう。