◆「与党に入れるか、入れないか」が選挙
―まず、与党はなぜ惨敗したのでしょう。
選挙は「これをやる」という夢を公約にして戦うものですが、解散を早めたことで全党的な議論ができず、語れる夢がこれといってない状況に。それに伴って、裏金事件が衆院選の争点になってしまいました。岸田政権のとき、裏金事件をきちっと処理しなかったせいでもあります。
自民党にはすごい逆風が吹いたけど、主要野党に追い風が吹いたわけではありません。選挙は「与党に入れるか、入れないか」なんです。参政党や日本保守党が複数議席を得たのも、既成政党に対する不満が続いているのだと思います。
◆落選した人たちの亡霊が永田町にうずまいている
―首相指名選挙を行う特別国会が11月11日に召集される方向です。それまでに首相は自民党内の不満を抑えられるでしょうか。
石破首相の責任を問う声が出ています。「与党で過半数」という自分で掲げた勝敗ラインを割ったのですから当然でしょう。落選した人たちの亡霊が永田町にうずまいています。首相は何よりも早く、まず両院議員総会を開くなりして、選挙結果について党内にきちっと説明しなければいけません。それをしないまま、石破政権が続くことを前提に野党を引き込むような話をするのは、手順としておかしい。
◆野党も大人の対応をすればいいが…
政策協議をするにも、お互い衆院選で公約したことがあり、簡単に妥協できません。特に「政治とカネ」は非常に難しいでしょう。自民党にとっては、企業・団体献金や政策活動費は死活問題で、政権維持のためだからといって簡単に譲れません。
― 個別政策ごとに、方向性の一致する野党と連携する「部分連合」はうまくいくのでしょうか。
「政治とカネ」のような基本的な問題を脇に置いてだと、なかなか難しいのではないでしょうか。ただ、困窮者向け支援のような重要な課題が進まなくなると大変です。そこは野党も大人の対応をすればいいですが、国民が「それなら仕方ない」と思える理屈がないといけません。
―石破政権が「少数与党政権」として続く場合、最近では1994年の羽田政権が思い浮かびます。
法案を通すにも野党のハードルを越えざるを得ず、スピード感がかなり鈍る可能性があります。そのことへの国民の不満は、やはり野党より与党の方により強く出ると思います。
◆立民中心の政権ができる可能性は?
選挙で負けたら元も子もないわけですから、「石破首相では戦えない」という声が出てくる可能性はあると思います。
―首相指名選挙の結果、立民中心の政権ができる可能性は。
衆院選で「比較第1党」の議席を得た自民党中心の政権が続くのが軸だと思います。今回、国民も野党政権を望んでいたようには見えません。野党側は統一首相候補も示さず、政権をとるという気概が感じられませんでした。今回は自民党におきゅうを据える選挙であって、政権選択選挙ではなかった。そこは野党の責任です。
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<久米晃が解く 政界の実相>
選挙・政治アドバイザーの久米晃さんに、時々刻々の政治の動きを解説してもらいます。久米さんは約40年にわたって自民党職員を務め、バッジをつけた国会議員とは違う立場から、政治の動きを見続けてきました。特に選挙の実務経験が豊富で、政界の裏も表も知り尽くした人です。豊富な知識や経験を基に、今の政治のあり方に警鐘を鳴らしてもらいます。