「初陣」を飾れなかった共産党・田村智子委員長
共産党、大敗──。第50回衆議院選挙は10月27日に投開票され、共産党が獲得した議席は8議席にとどまった。あれだけ自民党に逆風が吹いていても、公示前の10議席から2議席を減らしてしまったのだ。おまけに比例代表の得票数も減少している。
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国民民主党とれいわ新選組も同じように比較してみると、まず国民は約259万票が約617万票に伸び、約358万票の増加。れいわ新選組も約221万票が約380万票となり、約159万票を増やした。共産党の退潮は鮮明だと言わざるを得ない。
だが2017年の第48回衆院選では9議席を失って12議席に減少。比例も約440万票に落ちこんだ。さらに21年の第49回衆院選では2議席を失って10議席に。ただし比例は約416万票と、これは前回の水準を維持した。そして、今回の選挙で議席は2ケタを割ることとなった。担当記者が言う。
「共産党の退潮を考える際、どう考えても不思議なのは、自民党の裏金事件で重要なスクープを連発したのが、共産党の機関紙『しんぶん赤旗』だったということです。赤旗の日曜版は2022年11月6日、『パー券収入 脱法的隠ぺい2500万円分 不記載 岸田派など主要5派閥』との記事を掲載しました。この記事でコメントを求められた神戸学院大学の上脇博之教授が独自調査を行い、派閥のパーティー収入の一部が裏金化しているのではないかと検察に刑事告発を行いました。まさに裏金事件は赤旗のスクープで幕を開けたのです」
れいわに負けた共産党
「自民党の候補者は衆院選後、メディアの取材に対し、『赤旗の2000万円報道で、一気に有権者が離反した』と口を揃えました。自民党が単独過半数割れに追い込まれたのは、赤旗が入念な調査報道を行ったからと言っても過言ではありません。にもかかわらず、総選挙で共産党に票は集まりませんでした。自民党に吹き荒れた強烈な逆風を、どうして共産党は順風に変えられなかったのか、多くの関係者が首を傾げています」(同・記者)
「実は立憲民主党も、反自民党票の受け皿として完璧に機能したわけではありません。確かに小選挙区制では公示前の98議席が148議席と50議席も増えました。ところが比例を見ると、前回の約1149万票に対して今回は約1156万票と微増にとどまったのです。これに共産党が比例で80万票を減らし、れいわが比例で159万票を上積みしたことを考えると、裏金事件に憤り、『自民党には投票しない』と決めた左寄りの有権者は小選挙区なら立民、比例はれいわに票を投じた可能性が出てきます。つまり、共産党は無視されたというわけです」(同・記者)
前回は「非現実的な訴え」
元参議院議員で共産党の政策委員長を務め、2005年に離党した筆坂秀世氏は「衆院選は前回も今回も志位和夫さんが指揮を取りました。そして2回とも共産党は衆議院議員の数を減らしたことになります」と指摘する。
ここで志位氏について触れておこう。志位氏は2000年11月に共産党委員長に就任。今年1月に静岡県熱海市で開かれた党大会で委員長を退任した。後任は今回の選挙で参院から衆院に鞍替えした田村智子氏で、志位氏は党議長に就任した。また志位氏も今回の選挙では比例南関東ブロックで当選している。
「まず前回の衆院選から見てみましょう。この時、野党5党は大半の小選挙区で候補者の一本化を行いました。その際、志位さんが訴えるよう指示したのは『政権交代』でした。自民・公明両党を下野させるため共産党に票を入れてほしいと呼びかけたわけです。しかし、これが非現実的な訴えだったのは言うまでもありません。首相が菅義偉さんから岸田文雄さんに変わって衆院選となり、自民党に逆風は吹いていませんでした。実際、自民党は絶対安定多数と呼ばれる261議席を単独で確保するのです」(同・筆坂氏)
今回は社会・共産主義の解説
「ところが志位さんは今回の衆院選で、『本当の社会主義、共産主義』についての解説を強く打ち出しました。私は街頭演説も見ましたし、ビラも持っています。演説では社会主義や共産主義によって『資本主義を乗り越える』と搾取がなくなり、私たちは『自由な時間を充分に手に入れることができる』と力説していました。社会・共産主義社会が実現すれば、1日4時間や5時間の労働で充分だというのです。自民党にお灸を据えようと考えている有権者が聞きたいのは、こんな演説ではないでしょう。自民党に対する痛烈な批判、裏金報道の成果を求めていたはずです。志位さんは前回に引き続き、今回でも選挙の争点、有権者へ訴えるポイントを間違えてしまい、歴史的大敗の原因を作ってしまったことになります」(同・筆坂氏)
筆坂氏によると、この奇妙な「社会・共産主義論」への傾倒は、今年の1月ごろから次第に明らかになってきたという。例えば赤旗の電子版は1月16日、委員長だった志位氏が第29回党大会で行った「あいさつ」を配信している。
選挙戦術の誤算
《労働時間の抜本的短縮によって、すべての人間に十分な自由時間――「真の自由の国」が保障され、その時間を存分につかって自分自身の力を自由に発展させることのできる社会》
にあると強調。要するに社会・共産主義社会が実現すれば、われわれ労働者の余暇が増えるということらしい。
「この選挙戦術は二重の意味で間違っています。第1点は先に触れましたが、そんな解説を求めている有権者は基本的にいなかったということです。衆院選で訴えるべきポイントを間違えてしまった。第2点はマルクス主義の学術的な視点から見ても、誤っている可能性があるということです。マルクスの『ドイツ・イデオロギー』を読んでも、『共産主義革命を実現した後に来る社会のイメージ』は曖昧な説明に終始しています。と言うより、記述そのものが少ないのです。マルクスは共産主義革命が実現すれば素晴らしい社会が到来するとは考えていましたが、志位さんの言うような『労働時間が短くなる』といった具体的なことまで思い描いていたわけではないのです」(同・筆坂氏)
4億2900万円の負担
共産党公認で小選挙区に立候補した213人のうち、143人は供託金没収の対象となることが産経の調査で明らかになったという。その総額は見出しにある通り4億2900万円。今の共産党にとっては相当の負担になることは言うまでもない。
「今、共産党の地方議員が次々に離党し、無所属の議員になっています。実は赤旗の配達や集金、新規読者の勧誘を一手に引き受けていたのは地方議員なのです。政治家と二足のわらじですから激務で、特に集金は留守の家も多く、何度訪れても会えないということは珍しくありません。未払い分が溜まると新聞を止める必要があるのですが、少なからぬ議員が部数減少を嫌がって自腹を切って補填します。これが家計を圧迫する議員も多く、私も何度も相談を受けました。こうして身を粉にして党を下から支えていた人々が高齢化や離党などの原因で、どんどん姿を消しています。10年後、20年後に共産党が消滅することはないと思いますが、党勢は相当に低迷しているのは間違いないでしょう」(同・筆坂氏)
デイリー新潮編集部