映画
ふんわりと穏やかな空気をまといながら、精緻な演技で観客を魅了する俳優・黒木華。現在放映中のNHK大河ドラマ「光る君へ」、2023年公開の映画『せかいのおきく』といった時代物から、ドラマ「凪のお暇」などの現代物までをこなす実力もすでに周知のとおり。11月1日公開の主演映画『アイミタガイ』では、絆や思いやりが優しく交わる物語の主人公を好演。「演じていて前向きになれた」という本作への思いと、デビューから15年を目前にした「今」を語る。
映画の原作は、2013年に刊行された中條てい作の同名小説。ゆるやかに交わる連作の短編をひとつに紡いだ本作では、黒木華は物語の軸となる女性・梓を鮮やかに演じ上げている。
「お話をいただいた際にまず印象的だったのは『アイミタガイ』というタイトルの持つ響きでした。耳慣れない言葉でしたし、カタカナということもあって、どういう意味で、どのような物語になるのかなと。その後、脚本を読んで初めて言葉の意味合いを知り、幸せな巡り合わせを表現した美しい言葉が存在していたことに大いに魅せられました」と黒木は語る。
「アイミタガイ=相身互い」という言葉は、古典好きや世代によっては「忠臣蔵」の中で赤穂浪士が討ち入り前に言い放つ「武士は相身互い」という名台詞を思い起こすだろう。同じ境遇にある人々が助け合い、支え合うことの重要性を意味するが、本作ではカタカナ表現にすることで現代的な解釈をプラス。誰かを想ってしたことが巡り巡って見知らぬ誰かを救い、やがて自分の元へ返ってくるというニュアンスを持つ言葉として、個々のエピソードをつなぐキーワードとなり、物語の終盤に向かって鮮やかに浮かび上がってくる。
「原作の中條先生も『よくひとつの物語にまとまったね』とおっしゃってくださったぐらいです。私が演じた主人公の梓から親友への届かない想いがいつしか彼女の両親につながり、そこからさらに知らない誰かに想いが巡っていく。優しさの連鎖がすごく素敵で、私も演じていながらだんだんと前向きになれるような感覚がありました。加えて本作では、素晴らしい共演者の方々とご一緒できたのも嬉しいことでした。祖母役の風吹ジュンさんはよく共演させていただいていたこともあり、血縁関係を自然に表現できた手応えがありました。草笛光子さんは、そこにいてくださるだけで絵になる方で、アイデアの提案を積極的になさる姿も真摯でチャーミング。草笛さんがピアノを弾くシーンは個人的にすごく好きでした」
一期一会の連鎖が大きな輪となって巡っていく群像劇には、中村蒼、田口トモロヲ、西田尚美といった実力派も多数出演。ハートウォーミングな物語に、豊かな奥行きと厚みを添えている。さらに嬉しいサプライズとなるのは、エンドロールとともに流れる主題歌「夜明けのマイウェイ」だ。1979~80年の名作ドラマ「ちょっとマイウェイ」の主題歌としてヒットした名曲を、主演俳優である黒木華が語りかけるように歌い上げる様は出色だ。
「歌うことに関しては、別の方にお願いしたほうがいいのではと最後まで渋りました(笑)。かなり迷いましたけれど、歌唱指導の方もついてくださり、最終的になんとか形にしていただいて。でも実際に歌ってみると、歌詞が主人公の気持ちとリンクしていて、この楽曲が選ばれた理由がしみじみとわかりました」
自身が主演映画の主題歌を歌うことこそ初挑戦となったが、来年2025年は俳優デビューから丸15年という節目を迎える。本作の他にも出演作が控え、魅力的な役柄のオファーも次々と舞い込む。俳優・黒木華は、どういった心持ちで日々の生業と向き合っているのだろうか。
「仕事に関しては常に“楽しむ”ということをテーマにしていて、それはデビュー当時から変わりません。34歳の今はそれに加えて、ほんの少しだけですが余裕が持てるようになってきたかなと思います。海外作品や、今までやったことのない役にもトライしてみたいですし、ご一緒したことのない監督の作品にも挑戦したいです」と意欲を示す。アクションも!? との問いにも「ぜひやってみたいです、うふふふ」と、持ち味の笑い声が返ってきた。その活躍に、今後も大いに期待したい。
『アイミタガイ』
11月1日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄/松本利夫(EXILE)、升毅/西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン/草笛光子
原作:中條てい「アイミタガイ」(幻冬舎文庫)
監督:草野翔吾
脚本:市井昌秀、佐々部清、草野翔吾
音楽:富貴晴美
https://aimitagai.jp
© 2024「アイミタガイ」製作委員会