(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)
第50回衆院選は自民、公明両党が過半数(233議席)を割り込むという劇的な結果となった。与党・自公の過半数割れは2012年の政権復帰後初めてで、政権維持には一部野党の協力が必要となるため、連立枠組みの拡大も含め、与野党の駆け引きが激化している。
与党過半数割れによる政局混乱を招いたのは、巨額裏金事件による「政治と金」問題に対する有権者の自民不信が最大の原因だ。なかでも、同事件に絡んで非公認となった前議員の所属支部への「2000万円支給」が、選挙戦中盤で発覚したことが、「自民への決定的なダメージ」(選挙アナリスト)となったことは間違いない。
ただ、自民党内には「本来ならバレるはずのない支部への資金支出が、よりによって共産党機関紙・赤旗にすっぱ抜かれたのは、内部密告しか考えられない」(自民幹部)との疑心暗鬼も広がる。このため、水面下では党内の旧安倍派を中心とする反石破グループに対する“犯人捜し”もひそかに行われるなど、自民内での暗闘による分断の動きも拡大しつつある。
そもそも選挙戦の「推移」を検証すると、赤旗が「2000万円」問題を報じた直後から、それまで前回比大幅減だった期日前投票が激増し、「各メディアの出口調査結果などで、その大多数が無党派層だったことが、自民惨敗につながった」(選挙アナリスト)との指摘が少なくない。
それだけに、「裏金事件とその対応を巡る自民内の暗闘が、与党にとっての最悪の事態につながったことは否定できない」(自民長老)との見方が広がる。
今回衆院選で、自民は公示前の247議席から191議席と56議席の大幅減、公明も同32議席から24議席と8議席減と両党で64議席を失い、与党過半数割れとなった。派閥の裏金問題に関与して非公認になるなどした与党系無所属の当選は6人で、全員を追加公認しても自公で過半数には12議席届かないことになる。
これに対し野党側は、立憲民主党が公示前から50議席増の148議席を獲得。国民民主党は4倍増の28議席、れいわ新選組も3倍増の9議席とそれぞれ大躍進した。その一方で、日本維新の会は6議席減の38議席、共産党も2議席減の8議席と不振が目立った。さらに、参政党が2増の3議席、初挑戦の日本保守党が3議席を獲得、どちらも比例票が2%を超え、政党要件を満たした。社民党は前回同様の1議席だったが、比例得票数から政党要件の維持は困難視されている。
この選挙結果を受け、自民ツートップの石破総裁(首相)と森山裕幹事長は、「国民の審判をしっかり受け止める」としたうえで引責辞任を否定し、「政権維持による政局混乱回避」に強い意欲を表明した。ただ、小泉進次郎選挙対策委員長は「責任を負うべきは選対委員長である私だ」として石破、森山両氏の慰留を振り切る形で辞任した。
これに対し、党内からは「辞めるべき人物は石破、森山両氏、それでなければケジメがつかない」(旧安倍派幹部)との声が出るなど、当面政権が維持できても、石破首相の求心力低下は避けられそうもない。
特に注目されたのは、選挙戦各段階での投票率予測の変化だ。最終的な投票率は53.85%で前回衆院選より約2.1ポイント下がり、戦後3番目の低水準に。その一方で、当初出足が鈍かった期日前投票は終盤になって急増し、総務省の資料では、総数が全国で2095万5435人と前回の2021年衆院選より1.83%増加。過去最多だった2017年衆院選の2137万9977人を約40万人下回るだけの、過去2番目の高水準となった。
こうした経過や結果を踏まえると、「全国的規模での期日前投票急増と、赤旗による『2000万円支給』の特ダネをメディアが一斉に後追いしたことが、タイミング的に一致しているのは確か」(選挙アナリスト)とみる向きが多く、「結果的に、自民の対応への不信や批判が有権者を突き動かし、期日前投票に向かわせた」(同)との見方が広がる。
■“自公自滅”で立憲は得票横ばいなのに「大躍進」
その一方で、最終的な各党の比例代表の得票数を前回衆院選と比較してみると、こちらも興味深い結果となった。総務省は29日に衆院選比例代表の党派別得票数などをまとめて公表したが、自民は前回2021年から533万票(26.8%)減の1458万票に、公明も114万票(16.2%)減の596万票とそれぞれ大きく落ち込み、両党とも1996年の比例代表導入以降で衆院選としては過去最少の得票数にとどまった。
自民の比例代表得票率26.7%は旧民主党へ政権交代した2009年衆院選と同水準の低さで、全国11ブロックのうち9ブロックで最多得票だったものの、北海道ブロックでは立憲民主に第1党を奪われた。また、「比例800万票」を目標にしてきた公明も、今回は比例代表導入以降で初めて600万票を割り込む結果となった。
これに対し、立憲は全体の議席数では躍進したが、比例代表は1156万票で前回からほぼ横ばい。対照的に国民民主は前回の259万票から617万票へ約2.4倍と想定を超える大躍進となり、北関東、東海ブロックの計3議席は名簿登載者が足りずに自民など他党に議席を譲るという異例の事態となった。
その一方で維新は近畿ブロックでは自民を上回り「比例第1党」を堅持したものの、全体では前回から294万票(36.6%)減の510万票と振るわず、比例票では国民民主に「野党第2党」の地位を奪われた。また、れいわは前回比71.7%増の380万票となり、共産党を上回った。
その共産は今回、小選挙区の候補者を増やして比例票の掘り起こしを図ったにもかかわらず、19.3%減の336万票にとどまるなど明暗が際立った。さらに、衆院選初挑戦の参政党は187万票、日本保守党は114万票で、いずれも複数の議席を獲得し、日本保守党は得票率が2.1%となり、政党要件を満たした。
こうした結果をみると、今回衆院選では自民と公明の得票減少分を、国民民主とれいわ、さらに新参入の参政、保守両党が奪い、立憲民主の得票はほとんど横ばいだったことは明らか。大躍進した立憲だが、自公両党の得票減で相対的に議席が急増したのが実態といえる。
■「国民をなめたような自民の態度」が惨敗の要因
多くの選挙アナリストは「立憲大躍進の最大の要因は、『2000万円』問題発覚による自民票の急減で、それさえなければ、与党過半数割れはあり得なかった」と分析している。だからこそ、自民党内からも「誰が密告したかという問題だけでなく、『非公認候補は使えない資金だ』などと反論した石破首相や森山幹事長の居丈高な対応が、事態をさらに悪化させた」(自民長老)との声が広がるのだ。
もちろん、今回の「2000万円」支給問題は、公職選挙法などで義務付けられている政治資金収支報告でいずれ明らかになることは間違いない。ただ、「それは来年の次期参院選以降の話」(自民事務局)とされるだけに、自民党内から「『2000万円』さえなければ、与党過半数割れなどなかったのに」(閣僚経験者)との“嘆き節”も漏れてくる。しかし、「そういう国民をなめたような態度が、今回の惨敗の最大の要因」(政治ジャーナリスト)としか言えそうもないのが今回衆院選の実態だ。