さいたま市の自営業野尻真智子さん(58)は「2人ママ」の家族だ。パートナーの女性(44)と暮らし、7歳の息子を育てている。「どこにでもいる3人家族で、淡々と生活している。ただ、法律で結婚が認められていないのは大きな壁。こういう家族の形もあると制度上も認める社会になってほしい」と願う。(出田阿生)
◆「不安でいっぱいだったけど」
「不安でいっぱいだったけど、やってみたらすごく楽しかったの!」。新生児に3時間おきにミルクをあげるのも「楽しくて楽しくて、幸せホルモンがわいてきた」と目を細める。
保育園の送迎では、野尻さんは自分のことを「親戚」と説明していた。小学校進学にあたり「ちゃんと話そう」と決意。教頭や校長に伝えると「私たちも今は教育されていますから」と理解を得られた。学校側は「言わないだけで、これまでもそういう方はいたかもしれないですね」とも。
◆法律上、パートナーと息子はひとり親家庭
野尻さんとパートナーは、両方とも「親」として学校の面談や行事に赴く。最近では、ママ友にも「うちはパートナーが女性なんだ」と明かしている。「夫よりもいいな、とうらやましがられたりする」と笑う。
だが法律上、パートナーと息子はひとり親家庭で、野尻さんは「赤の他人」。社会人として働き、納税していても、法律婚による法的保証を一切受けられない。パートナーに万が一のことがあった場合、親として育児を続けるためには、後見人となる公正証書を作成するしかない。遺産相続も同じで、そのたびに司法書士に払う費用がかさむ。
息子には「ママの卵があって、ドナちゃん(ドナー)から種をもらって生まれたんだよ」と説明している。パートナーは「ママ」で、野尻さんは「まーちゃん」と呼ばれている。「ほしいのは同情ではなく法律。息子の将来のためにも、安心して暮らせる社会にしてほしいです」
◆家族の多様なあり方考える 映画上映やトーク催し 埼玉大で11月4日
アジアで初めて同性婚が法制化された台湾のドキュメンタリー映画を上映し、家族の多様なあり方について考えるイベントが11月4日、埼玉大(さいたま市桜区)で開かれる。同性婚の法制化を目指して活動する人たちが企画し、県内に住む同性カップルの当事者が現状や課題を語り合う。
上映作品は「愛で家族に~同性婚への道のり」。台湾では2019年5月、同性婚が法制化された。登場するのは娘を育てる女性カップル、30年以上共に暮らす男性カップル、国際結婚の男性カップル…。3組のこれまでの歩みと、現在も残る課題を考える。