安倍元首相が「悪夢」と嘆いた政局へ突入…石破自民「来年夏の参院選」大敗は必然、その時何が起こるのか(2024年10月30日『現代ビジネス』)

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10月27日に行われた衆院選は、与党の自民党公明党過半数に達しないという衝撃的な結果に終わった。野党の立憲民主党や国民民主党は大幅に議席を伸ばした。この変化の原因は何なのか。また、今後の日本の政治はどのように展開するのか
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石破自民の惨敗を予言していた「一枚の写真」
予想以上の自民党大敗

獲得議席数は、自民党が191(-58)、公明党が24(-8)で、合計215(-66)、立憲民主党が148(+50)、日本維新の会が38(-6)、共産党が8(-2)、国民民主党が28(+21)、れいわ新選組が9(+6)、社民党が1(±0)、参政党が3(+2)、保守党が3、無所属他が12(-10)である。

投票率は53.85%と低かった。その原因の一つとして、自民党支持者で棄権する者が多かったことが考えられる。
自民党が苦戦した最大の理由は、派閥の裏金問題である。岸田政権の失敗は、この問題に対して、一気に、そして大胆に改革を断行するのではなく、小出しに解決案を少しずつ示すという「戦力の逐次的動員」を行ったことである。ある改革を提案し、それに批判が強まると、また少し上乗せした案を示すという繰り返しで、かえって国民の反感を買ってしまった。
しかも、非公認候補にも、自民党本部から、公認候補と同額の2千万円の活動費が支給されたことが選挙期間中に明らかになったことが、火に油を注ぐことになってしまった。
自民党では、「裏金議員」と批判された46人の議員のうち、28人が議席を失った。下村博文武田良太、高木毅といった大物議員が落選し、丸川珠代衛藤征士郎鈴木淳司らも議席を失った。一方、萩生田光一西村康稔松野博一世耕弘成平沢勝栄は当選した。
現職閣僚も牧原秀樹法相と小里泰弘農林水産相が当選できなかった。
また、公明党は11選挙区で4勝しかできず、代表の石井啓一代表も落選した。とくに牙城であった大阪の4選挙区で全敗した。自民党と連立を組んでいることに加えて、裏金問題で自民党から非公認とされた候補を推薦したことが、大きなイメージダウンとなったようだ。
一方、立憲民主党は50議席も増やしたし、国民民主党議席を4倍に増やしている。自民党批判票の受け皿となった形である。特に、立民よりも保守的な国民民主党は、今回は自民党への投票を止めた自民党支持者の票を獲得したようである。
メディアの出口調査を見ると、無党派層の比例選への投票先は、自民党よりも立憲民主党のほうが多い。維新は、大阪では全勝したものの、全国レベルへの政党へと躍進することはできなかった。
れいわ新選組は、議席を3倍伸ばしたが、若者へのアピールが功を奏したようである。
連立政権か、部分連合か…
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11月7日に招集される特別国会で首班指名が行われるが、自公だけでは過半数議席を持たないので、何が起こるかわからない。自民党の石破と立憲民主党の野田の決選投票となる可能性がある。そのときは、政党間の合従連衡で、結果がどうなるかは分からない。
特別国会は、総選挙の日から30日以内に召集されることになっている。これから水面下の交渉が行われるであろうが、それで一定の妥協が成立するまでは、特別国会は開かれないであろう。
首相指名で石破が首相になっても、さらに、その後は、国会で法案が成立しないという難題を抱えることになる。
2007年夏の参議院選自民党は惨敗した。その直後に安倍政権の厚労大臣となったが、衆議院自民党公明党参議院民主党過半数を制する「ねじれ国会」となってしまった。したがって、衆議院で法案が通っても、参議院では拒否されるという事態になった。閣僚として大変苦労したが、今回も石破政権は同じような苦境に立たされることになる。
まさに悪夢の再現であるが、そのような事態を避けるためには、まずは、自民党非公認で当選した議員や無党派議員を自民党に入党させることによって、自民党議席数を増やす方法がある。
しかし、それでも、自公で過半数を制するには18議席必要で、それだけの数には到達しないであろう。
そこで、国民民主党や維新などを連立政権に取り込むという手がある。しかし、そのためには政策の一致が必要であり、今の段階では容易ではないだろう。もし、それができれば、安定した連立政権となる。
もう一つは政策ごとに、賛成する党派を取り込む「部分連合」という方法もある。これは、連立政権ほどの安定性はないが、少数与党という事態を乗り切るには、この方法しかない。
選挙に勝つためなら何でもする
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今回の選挙結果を受けて、小泉進次郎選対委員長が辞任した。森山裕幹事長や石破総裁の責任が問われるのは当然である。とくに、苦杯をなめた旧安倍派では、岸田、石破政権に対する怨念がある。
石破のライバルである高市早苗は、多くの同志を失い、数の上では勢いを殺がれたが、反石破感情を抱く議員たちの期待を集めることになる。
全ては、石破首相のこれからの政治運営によるが、国会がデッドロックに乗り上げるようなことになれば、退陣論が噴出するのは必然である。とくに、来年度予算案を成立させるだけの多数派の形成に失敗すれば、もう救いようがない。
来年夏には参議院選挙がある。私の脳裏をかすめるのは、2007年の参議院選挙、そして2009年の総選挙での政権交代である。
来年の参院選で大敗し、参議院まで与党が多数派を維持できなくなると、もはや国会は機能しなくなる。先述したように、その「ねじれ国会」を乗り切るのは容易ではなかった。
2025年の参議院選の次の総選挙では、政権交代になるという可能性が現実味を帯びてくる。したがって、何としても、自民党は来年の参議院選挙で負けるわけにはいかないのである。
トップが石破なら、選挙は勝てないということになれば、石破は退陣せざるをえないであろう。選挙に勝つためなら何でもするのが自民党である。
重複立候補の問題点
今回の衆院選では、「裏金議員」は重複立候補が党本部から認められず、早々と落選が決まった。小選挙区制では、これが正常なはずである。有権者が落としたはずの議員がゾンビのように当選するのは異常だということを再認識させられた人が多いのではないか。
今の小選挙区比例代表並立制は、1996年の総選挙から実施されたが、小選挙区と比例の重複が認められる。比例当選の優先順位は、小選挙区での落選者の惜敗率による。
残念ながら、「小選挙区で負けても比例で復活すれば良い」という風潮が広まってしまった。それはおかしいというのを、今回の裏金議員の処遇で明らかになった。
これを機会に、単純な小選挙区制にするなどの抜本的改革を断行すべきである。小党が乱立するのも比例制の欠陥である。単純小選挙区制ならば、野党も一本化せざるをえないであろう。2009年の政権交代時には、民主党が一つの大きな塊になっていた。民主党は、「反自民、非共産」を旗印に、「政権交代」という4文字のスローガンで歴史的大勝をした。
そのことを想起すれば、野党が大同団結すべきなのだが、それは、今の状況では容易ではない。選挙制度の改革によって、そのきっかけをつくるのも一つのアイデアである。
舛添 要一(国際政治学者)