東京電力福島第1原発事故で根底から損なわれた原発への信頼を再構築するには、施設の安全性だけでなく、事故時の避難態勢を含めた総合的な施策が必要だ。
事業者や地元自治体だけでなく、国・県のいっそうの関与が求められる。
東北電力はきょう、女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機を再稼働する。東日本大震災の被災地に立地する原発として初めてで、東電福島第1原発と同型の沸騰水型軽水炉(BWR)としても初の再稼働となる。
東北電は慎重の上にも慎重を期し、安全第一の運転に努めてほしい。
2011年の東日本大震災で、女川原発は最大約13メートルの津波に襲われた。2号機建設の際に想定した9・1メートルを大きく上回った。
原発敷地は当時、海抜14・8メートル。地震により約1メートル沈下したが、わずかの差で津波にのまれることはなかった。
安全対策は最大23・1メートルの津波を想定し、国内最大級の防潮堤を整備したのに加え、2号機原子炉建屋の耐震性を強化。事故時に格納容器の圧力を下げるフィルター付きベントなども設けた。
20年には原子力規制委員会の審査に合格し、原発自体の安全対策は国のお墨付きを得たと言える。
しかし、施設の安全性以上に地元が不安視しているのは地震や水害などに伴って原発事故が発生する複合災害での住民避難だ。
避難指示が出れば、避難者の車で道路が渋滞し、被ばくリスクが高まる。土砂崩れや家屋の倒壊で避難道路がふさがれ、移動自体が難しくなる恐れもある。どれも容易に想像がつく事態だ。
現に1月の能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の事故時の避難道路が寸断され、避難計画の実効性が議論になっている。
石巻市の住民が避難計画に不備があるとして、女川原発の再稼働差し止めを求めた訴訟は来月、仙台高裁で控訴審判決が言い渡される。判決の内容いかんにかかわらず、改めて住民避難の在り方が問われるのは間違いない。
現行制度では避難計画の作成主体は自治体で、政府による原子力安全規制の適用外。国・県は自治体を支援する立場にとどまり、計画の実効性確保に直接、責任を負う形にはなっていない。
広域的なインフラ整備も関わるだけに、国・県の積極的な関与は本来、欠かせないはずだ。地元の理解を得て原発を最大限活用すると言うのなら、避難計画の実効性確保にも国が責任を負う体制に改めるべきだろう。