石破首相会見 「反省」とは言葉だけか(2024年10月29日『北海道新聞』-「社説」)
しかし、焦点となっている裏金事件の実態解明には言及すらせず、大敗の責任をどのように取るかも明確にしなかった。
さらに「現下の厳しい課題に取り組み、国民生活や日本を守ることで、職責を果たしていく」と述べ、今後の政策テーマを語り続けた。
国民が厳しい審判を下したのは、自民党の裏金問題に対する自浄能力のなさに怒り、失望したからだ。それを真摯に受け止めるなら、踏み込んだ対処や改革を表明するのが当然だろう。
言葉ばかりが踊るが、反省がまるで感じられない。首相は歴史的惨敗を喫した選挙結果の重みを理解しなければならない。
会見で首相は「身内の論理、党内の理屈を今後一切排除し、抜本的改革を行う」と述べた。
その上で政策活動費の廃止、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開、政治資金を監視する第三者機関の設置を進めると訴えた。
ただ、こうした改革の方向性は、すでに選挙前から与野党が大筋で一致していたものだ。
問題は裏金がなぜ作られ、何に使ったのかの真相がいまだに判然としていないことにある。改革の本丸と言われてきた企業・団体献金の廃止にも早急に踏み出さなければならない。
与党が過半数を確保していない以上、現状のままでは、予算案や法案の成立の見通しが立ちにくい。
首相は連立の枠組み拡大について「今時点で想定していない」と述べた上で、議席を伸ばした党の主張を「取り入れる」として政策ごとに野党の協力を得る部分連合に期待を示した。
国民に分かりにくい密室での数合わせが横行するようでは、政治不信を強めるだけだ。政策協議をするなら、公開の場で堂々と進めなければならない。
一夜明けて(2024年10月29日『北海道新聞』-「卓上四季」)
ぱらぱら降り出したかと思うと急にやむ。鉛色の雲の向こうに青空が見える。時雨だろうか。湿り気を帯びた枯れ葉が冷たい風に飛ばされていた
▼落ち葉が吹き寄せられた道端に笑顔の花が咲いている。衆院選の候補者ポスター掲示板。投開票から一夜明けてもそのままだ。現実の世界では既に当落が確定している。本当に笑うことができるのは当選者だけだろう。多くの敗者の悔し涙を想像すると、すこし複雑な気分になる
▼勝敗の要因は何か。最も深く理解できるのは候補者本人に違いない。地域を丹念に回って政策を訴えて、有権者とつぶさに対話を重ねたのだから
▼吹いていたのは順風か逆風か。人々は何に期待や願いを込め、批判や怒りをどこに向けているのか。開票が進んで運命が決まった瞬間から、それぞれの自己対話が始まろう
▼得票数が多いか少ないかにかかわらず、どの1票も有権者の願いの反映である。政治とカネ、物価高、社会保障、教育、外交、環境…。多様な声を受け止めるべきだ。たとえ棄権者のものであろうと。それが選挙に臨んだ人間の務めだろう
▼ともあれ国会に赴く者の責任は重い。<政治とは情熱と判断力の二つを駆使しながら、堅い板に力をこめてじわっじわっと穴をくり貫(ぬ)いていく作業である>。マックス・ウェーバーの言葉を胸に刻んでほしい。
反省の色が見られない、政治とカネの問題に対する怒りの表明であることは間違いない。同時に安倍政権以来続いた、少数意見に耳を貸さない1強政治への疑念が背景にあることを与野党双方は忘れてはならない。既成政党への不満もくすぶる。民意に従い、政治の在り方を根本から変える機会が訪れたと言えよう。
両党は選挙戦で自公政権を厳しく批判してきた経緯もあり、現状は連立政権入りに否定的な態度を崩していない。他方、政策ごとの部分の可能性に含みを残す。国民に説明できないような行動は厳に慎んでほしい。
国会は今後、自民裏金に端を発した政治改革にまず取り組むべきである。加えて物価高や社会保障、安全保障分野の課題が山積している。
与野党は政策本位で透明性の高い議論を経て、次の政権枠組みを探り、自民1強体制が軽んじた合意形成の伝統を復活させてほしい。民意が与野党伯仲の政治状況を求めたとすれば、それにふさわしい緊張感のある立法府を実現することが、国民の負託に応える各党の責務であろう。
政権運営の枠組みづくりと並行して、自民党内の動きから目が離せない。自民は公示前の256議席から60以上議席を減らし、勝敗ラインであった与党過半数を割り込んだ。求心力を失った首相の責任を問う声が収まらない。
開票翌日に小泉進次郎選対委員長が自民敗北の責任を取って辞任した。旧安倍派を中心とする非主流派は「石破降ろし」をうかがう。首相が「党内融和より国民理解」の方針を貫けるか注目だ。
立民は野党第1党としての重責を再認識してほしい。久しぶりに政権交代のチャンスと浮かれているだけでは短命に終わった旧民主党政権の二の舞いになる。党内結束を図り、野党連携の具体像を示した上で、新たな政治状況に見合う役割を果たしてほしい。
今回の特徴に、れいわ新選組や参政党、日本保守党など新興勢力の伸長が目立ったことも挙げられる。自公が大敗したのに加え、維新や共産党が議席を減らし社民党は1議席にとどまった。既成政党への不信感が底流にあると肝に銘じるべきだ。
(2024年10月29日『』-「天地人」)
十和田市現代美術館の常設展示「水の記憶」は、注目の美術家塩田千春さんの空間芸術。展示室の天井や壁から伸びて編まれた無数の赤い糸が1艘(そう)の小舟につながる。
舟は未知の場所への導きを示す。糸は生命であり、人と人の縁をつなぐ象徴という。「糸が時々絡まったり、切れたり、張り詰めたり、緩んだりというのが、人間関係にも置き換えられます」と塩田さんは現美のインタビューに答えている。人々の縁や思いを紡いだ糸がつながる船はどこへ行くのか。
石破茂首相誕生から衆院選まで瞬く間だった。自民はご祝儀相場を当て込んだが与党は大敗、議席は過半数を割った。本県3小選挙区も自民独占の一角を立民が崩した。政治とカネの闇に国民がノーを突きつけた結果だが、伸長した野党も政権構想を示せていない。政局は迷走の兆候。
今衆院選の投票率は全国、本県とも50%台にとどまり、約半数が棄権した。投票は有権者が意思を示す権利であり、棄権は白紙委任ととられかねない。「どうでもいい」と無関心でいる間に国の行く末が定まってしまう。
塩田さんはインタビューで、無数の糸の一本一本が目で捉えられないほどになれば、糸の向こうの世界が初めて見えてくるとした。絡んでも、緩んでも、多くの糸が秘める多様な思いが舟の進路を決め、新たな世界にこぎ出す力となる。そんな解釈で塩田作品を思い返す。
第50回衆院選の本県3小選挙区は、自民党の後退と野党の躍進が顕著になった。自民は1区で辛うじて議席を守ったものの、2区は立憲民主党、3区は国民民主党が議席を獲得した。非自民が本県小選挙区で複数の議席を得たのは2009年以来15年ぶりだ。
自民派閥の裏金事件を巡る「政治とカネ」の問題が、本県でも自民への強烈な逆風となったことは間違いないだろう。有権者の間で自民への不信感が増幅し、野党候補がその批判票の受け皿となった格好だ。
過去何度も政治とカネの問題が表面化してきたことを踏まえ、依然自浄作用を持たない政治に対する不信と落胆が如実に示された選挙ではなかったか。自民は結果を重く受け止めるべきだ。二度と同じことを起こさないよう、抜本的な政治改革に臨む政治家一人一人の覚悟が問われている。
選挙戦で自民候補は裏金問題を繰り返しおわびするなど防戦を強いられた。一方で「政治への信頼を取り戻す」「自民党を中から変える」などと党再生に臨む姿勢もアピールした。
当選した以上、自ら語ったことは確実に実行してもらいたい。もはや国民の感覚から乖離(かいり)した政治は受け入れられない。当選後の行動を有権者が厳しく見ていることを忘れてはならない。
野党候補はそれぞれ裏金問題などで政権批判を強めた。結果的に支持を集めたのは、いわば自民による「敵失」の側面もあることは否めない。それでも、期待を込めた一票を投じた有権者の負託に応える必要がある。
政治とカネの問題ばかりではなく、他のさまざまな政策に関心を寄せた人もいただろう。物価高騰に苦しむ企業や生活者への支援策、人口減少や東京一極集中、農家の担い手不足への対策などだ。
疲弊する地方は数々の切実な問題を抱えている。選挙戦では十分論戦が深まらなかった面があるが、当選した6人の公約を見れば地方の再生を目指す方向性は一致しているように思える。一つ一つの課題に真摯(しんし)に向き合い、秋田の活性化に力を尽くしてもらいたい。
投票率の低下傾向が続く中、自治体は高齢者らを自宅と期日前投票所の間で送迎したり、トラックによる移動期日前投票所を運用したりするなど、工夫を凝らしている。投票は民主主義を支える大切な国民の権利である。投票率のアップに向け、今後も自治体には不断の努力を求めたい。
▼両党が国政選挙で同じ略称を使うのは、2021年の衆院選、22年の参院選に続いて3度目だ。公職選挙法では、複数の政党が同一の略称を使うことを禁じておらず、両党は今回も「民主党」で届け出た。共に旧民主党の流れをくむ政党である。略称については「有権者の混乱を招く」との認識で一致しているものの、どちらも「本家」を自負していて譲らない
▼だが、案分によって票が割り振られることを知らずに略称を書いた有権者は、実は1票が目減りしているということをどう思うだろう。政党にとっても不本意な話ではないか。どうにかしてすっきりさせてほしい略称「民主党」問題である。
(2024年10月29日『山形新聞』-「談話室」)
▼▽「もっと強く願っていいのだ/わたしたちは明石の鯛(たい)がたべたいと」。茨木のり子さんの詩「もっと強く」はこう始まる。続けて「わたしたちは幾種類ものジャムが/いつも食卓にあるように」願っていいのだ、とも。
▼▽発表されたのは1955(昭和30)年。終戦から10年を経た時期である。戦中や戦後しばらく国民が強いられた窮乏生活も一段落し、余裕が出てきたのだろう。「欲求を素直に解き放とう」と高らかに詩人は宣言する。それから70年、今は物価高騰が暮らしを直撃している。
▼▽そんな世の中で昨年来、耳目を集めてきたのが派閥裏金事件だった。衆院選の終盤には、非公認とした候補側に自民党が活動費2千万円を支給するという新たな問題も発覚した。私たちが大変な時に、政治は何をやっているのか。今回の選挙結果の背景にある国民の思いだ。
▼▽茨木さんの詩はこうも詠(うた)う。「すりきれた靴はあっさりとすて/キュッと鳴る新しい靴の感触を」。突き付けられた民意に、政治はこの先きちんと向き合わなければならない。首相指名や多数派工作の駆け引きにうつつを抜かすようなら次こそ、あっさり捨てられてしまう。
国の行く末を決める選挙に、半数近い有権者が背を向けた。各政党、候補者、選管などは現実を重く受け止めなければならない。
一方、有権者が重視した争点は政治改革だけでなく、物価高や年金、子育てなど幅広かった。有権者にしてみれば、いつまでも「政治とカネ」問題を解決できない与野党の駆け引きに付き合わされた感があるのは否めない。結果として投票率は高まらなかった。
政治離れに歯止めをかけることが急務だ。各党や候補者は、生活に直結する課題を解決し、政治への信頼を取り戻す必要がある。
国政に関心があることを投票で示さなければ、議員の緊張感は失われる。棄権した有権者にはもっと政治への危機感を持ち、1票を投じてほしかった。
裏金事件の根底には、「1強他弱」による自民のおごりがある。国会を軽視し、不祥事への批判にも意に介さぬような振る舞いで、自浄作用が働かない自民の体質的な問題が放置されてきた。
今回は野党が自民への批判票の受け皿となり、与野党の勢力が伯仲する状況が生まれた。国会では厳しい政治改革の議論が展開されるはずだ。1票を積み重ねることで現状が変えられることを、有権者は改めて銘記してほしい。
期日前投票所は約200カ所が開設された。このうち田村市の船引高生徒会館、三春町の田村高には1日ずつ投票所が設置された。18歳になった生徒らの政治への関心を高めるのが目的だ。ただ高校での設置は2校にとどまった。
若者にとって候補者の政見、公約の違いなどは分かりにくい面があるだろうが、経験を積むことによって自分なりの判断基準が備わる。投票を通じて民主主義の大切さを実感することが、次の選挙での行動につながる。
今回の衆院選で、本県関係の衆院議員は自民党2人、立憲民主党5人の計7人となった。区割りの見直しで定数が5から4に1減されたとはいえ、改選前の9人から2人減った結果は、議員一人一人の責任の重さが増したことを意味する。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興、歯止めのかからない人口減少など、本県が抱える課題には党派を超えて解決に取り組むよう求めたい。
復興政策を巡っては、自民党の復興加速化本部が予算確保や制度見直しを政府に働きかけ、施策などの実現に大きな役割を果たしてきた。ただ、党が議席数を大幅に減らし、与野党の力関係が変化する中で、今後も従来通りの影響力を保てるのか懸念もある。自民党の2人はともに新人としての若さと行動力を前面に打ち出し、実績を積み上げてほしい。改選によって退いた閣僚経験者2人の穴をいかに埋めていくのかも課題で、参院議員との連携も不可欠と言える。
勢力を拡大した立憲民主党の復興対策本部は、政府に対する発言力が強くなるとの見方がある。本部長を務めるベテラン議員をはじめ、本県から5人が議席を得たのは何よりも心強い。自民党とは緊張感を持ちつつ、政策を磨き合い、施策内容をより充実させることで復興を加速させるよう期待したい。
現在の第2期復興・創生期間は2025(令和7)年度で終了するが、その後の展望は描かれていない。原発の廃炉作業、帰還困難区域の避難指示解除、除染で出た土壌の県外最終処分、福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)の整備などは長期的な視点に立った支援が求められる。復興に対する議員の思いは与野党を問わず同じならば、復興の行方を左右する重要な課題にこそ、超党派で力を発揮すべきだ。
県内小選挙区の投票率は53・93%で、前回の58・01%を4・08ポイント下回り、過去2番目に低かった。区割りの見直しが、候補者と有権者の距離を遠ざける一因になっていないか検証する必要がある。短期決戦となった選挙戦で、候補者の訴えが県民にどれだけ響いたかは疑問も残る。当選者は日頃の活動を通して、県民の期待と信頼を得る努力も欠かせない。(角田守良)
行き先は(2024年10月29日『福島民報』-「あぶくま抄」)
▼気は早いが、今年の十大ニュースは「株」がキーワードになりそうだ。1月に始まった新NISAが起爆剤となり、有価証券を持つ人の割合は初めて2割を上回ったとされる。水を差すように、東京市場で8月、株価が記録的な乱高下を見せた。「預貯金にもっと金利が付くなら、浮き沈みのある金融商品に手は出さぬのだが」との嘆きも聞こえた
▼「選挙は買い」の格言が崩れた。前回まで17回の衆院選期間中、株価は毎回上昇した。今回は一転。自民党の苦戦が伝わり、政局の行方が見通せないためとされた。巻き返しは起きず、与党は過半数割れに。年末にかけてひと波乱が市場にも、とは想像したくはないが
▼メトロ株の出だしと異なり、新生「石破号」は始発駅を出て、すぐつまずいた。復活「野田号」が他党に共闘の路線を延ばせるかは不透明。永田町の動揺は兜町へ即時に伝わる。どうか安定した国会運営を。「貯蓄から投資」の発車合図に誘導された国民が、行き先を見失っては困る。
野党の伸長 政策実現で責務を果たせ(2024年10月29日『信濃毎日新聞』-「社説」)
ただし、野党間の政策的な隔たりは大きく、自公に代わる政権の枠組みは見えない。
主導権争いに終始していては有権者の負託に応えられない。一致点を見いだし、実現できる部分から連携を模索すべきだ。
自民の裏金事件で政治不信が極まり、有権者は与党と対抗する勢力に野党を押し上げた。掲げた政策を形にしなければ、政治への信頼回復は果たせない。野党も重い責務を負ったと言える。
巨大与党に数の力で押し切られてきた野党は、訴えた政策の実現を目指せる議席を託された。
仮に与党が少数で政権を維持するのなら、野党との協議が欠かせない。これまで以上に多様な民意をくみ取って合意形成することが必要になる。
例えば争点の一つとなった選択的夫婦別姓は、野党の多くが導入を主張し、期間中の共同通信社の世論調査では7割近くが賛成した。与党も公明が導入を公約し、後ろ向きな姿勢を取ってきた自民党内でも賛成する議員はいる。
与野党伯仲となった結果、社会の閉塞(へいそく)感に風穴をあける政策が実現すれば、政治への期待をつなぎ留めることもできる。
立民は「政治とカネ」に争点を絞る戦略で躍進したが、自民の「敵失」に助けられた面は大きい。野田代表は「本気で政権を取る」と言いながら、政権構想や連立の枠組みは明確ではない。野党間の選挙協力も限定的だった。
他の野党も財源を含めて実現性が曖昧な公約が目立った。政権批判の受け皿ではなく、政権交代の選択肢としてどこまで積極的に支持されていたかは疑問だ。来夏の参院選も見据えれば、自民に代わる存在として政権担当力を磨く努力が欠かせない。
まずは政権交代の意義を説得力を持って示すために、野党は今回訴えた政策を一つ一つ実現しなければならない。
野党の伸長 政策実現で責務を果たせ(2024年10月29日『新潟日報』-「社説」)
ただし、野党間の政策的な隔たりは大きく、自公に代わる政権の枠組みは見えない。
主導権争いに終始していては有権者の負託に応えられない。一致点を見いだし、実現できる部分から連携を模索すべきだ。
自民の裏金事件で政治不信が極まり、有権者は与党と対抗する勢力に野党を押し上げた。掲げた政策を形にしなければ、政治への信頼回復は果たせない。野党も重い責務を負ったと言える。
巨大与党に数の力で押し切られてきた野党は、訴えた政策の実現を目指せる議席を託された。
仮に与党が少数で政権を維持するのなら、野党との協議が欠かせない。これまで以上に多様な民意をくみ取って合意形成することが必要になる。
例えば争点の一つとなった選択的夫婦別姓は、野党の多くが導入を主張し、期間中の共同通信社の世論調査では7割近くが賛成した。与党も公明が導入を公約し、後ろ向きな姿勢を取ってきた自民党内でも賛成する議員はいる。
与野党伯仲となった結果、社会の閉塞(へいそく)感に風穴をあける政策が実現すれば、政治への期待をつなぎ留めることもできる。
立民は「政治とカネ」に争点を絞る戦略で躍進したが、自民の「敵失」に助けられた面は大きい。野田代表は「本気で政権を取る」と言いながら、政権構想や連立の枠組みは明確ではない。野党間の選挙協力も限定的だった。
他の野党も財源を含めて実現性が曖昧な公約が目立った。政権批判の受け皿ではなく、政権交代の選択肢としてどこまで積極的に支持されていたかは疑問だ。来夏の参院選も見据えれば、自民に代わる存在として政権担当力を磨く努力が欠かせない。
まずは政権交代の意義を説得力を持って示すために、野党は今回訴えた政策を一つ一つ実現しなければならない。
(2024年10月29日『新潟日報』-「日報抄」)
物事に取り組む際は、ほどよく緊張した方がうまくいくという。過度に緊張すると身体が硬くなったり、冷静な判断ができなくなったりする。しかし適度な緊張は集中力を研ぎ澄まし、効率や成果を高めるそうだ
▼思えば、ここしばらくの政界は緊張感が足りていなかった。巨大与党は「1強」状態の下、さしたる議論もないまま重要方針を決めたり、スキャンダルが浮上しても強引に幕引きを図ったりした。野党からも、政権を奪取するという気概や覚悟が見えないままではなかったか
▼与党の「緩み」や「たるみ」を象徴したのが、自民党の派閥裏金事件をはじめとする「政治とカネ」の問題だった。国民の怒りの大きさを見誤り、非公認候補の支部への2千万円支給も駄目押しとなって、今回の衆院選は過半数割れという手痛い結果を招いた
▼有権者の審判により、政界の緊張感はにわかに高まった。今後の政権の姿は見通せない。自公が政権を維持しようとすれば一部野党の協力を得ねばならない。政権交代の可能性もあるとはいえ、これも複数の野党がまとまる必要がある
▼多くの選択肢があるが、どれも相当の困難を伴うのだろう。特別国会での首相指名に向け、陰に陽に激しい多数派工作が繰り広げられるはずだ。第1党である自民にしても、内部抗争の火種を抱える
▼いまの政界を包むのは、良い緊張感か、悪い緊張感か。頭も心も固まって、的確な判断ができなかったり、身動きできなくなったりする事態は目にしたくない。
自民「1強」終止符 熟議を通して政治を進めよ(2024年10月29日『京都新聞』-「社説」)
総裁選で自民の正常化を訴えた石破茂首相も、就任後は党にからめ捕られるように持論を変節させ、裏金議員への甘い対処が目立った。責任は免れない。
ただの数合わせに終始するなら、国民はそっぽを向き続けよう。石破氏は、自ら批判していた「安倍政治」を転換し、岸田文雄前首相が安倍派に配慮して形だけにとどめた政治改革を、本気でやり遂げねばならない。
自民裏金議員の大半を推薦し、支持者からも疑問が聞かれた。国民の理解を得ぬまま、連立で進めた防衛費「倍増」なども含め「クリーンな政治」「平和の党」といった結党精神に立ち戻る反省が求められよう。
政治改革でのぶれや大阪・関西万博の費用膨張などで、批判を浴びた維新は大阪以外で縮小した。共産党は小選挙区で213人を擁立しながら後退し、3倍増のれいわ新選組を下回った。有権者の厳しい目線を直視し、修正できるかが問われる。
今選挙で裏金議員46人のうち28人が敗退。反社会的な活動が問題視されていた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)から選挙支援を受けた自民議員も複数落選した。いずれの問題も実態は未解明で、新たな疑惑も浮上している。石破氏は第三者による再調査をはじめ、自民のうみを出し切る必要がある。
選挙結果について、首相は「改革に謙虚に向き合え、反省が足りないと、国民から叱責(しっせき)を受けた」と述べた。そして「原点に返り、政治とカネの抜本的な改革を行う」と強調した。与野党の勢力は拮抗(きっこう)し、政権の枠組みもすぐには見通せない。言葉通りの謙虚な姿勢で臨むしかない。
自民が単独過半数を割り込み、2012年の政権復帰以降続いてきた「1強多弱」に終止符が打たれた。原因は「政治とカネ」の問題を軽視し、国民の批判を正面から受け止めようとしなかったことにある。
今回、自民は一定の議席減少は織り込んでいた。しかし閣僚や非公認で立候補した旧安倍派幹部ら有力者が次々と落選した。不人気の岸田文雄前首相から石破氏へと「選挙の顔」を代え早期解散を仕掛けたが、小手先の対応だけでは失われた政治への信頼が取り戻せないことを重く受け止めるべきだ。
政治改革とともに、物価高対策や、緊迫度を増す国際情勢に対応する外交・安全保障など政策課題は山積している。
首相は「国政は停滞が許されない」と退陣を否定した。政権を維持できたとしても運営が困難さを増すのは必至で、野党の協力が欠かせない。求められるのは、多くの意見に耳を傾け、熟議を重ねて合意を形成する努力だ。首相は今回議席を伸ばした各党の主張を「取り入れるべきは取り入れたい」と述べた。
ならば今こそ首相は裏金事件の実態解明に本気で取り組み、国民が納得できる政治改革の実現に向けて、野党と早急に具体策の協議を始める必要がある。
各党には政策の違いがあり、衆院選の協力も限定的だった。数合わせの連立に走れば、民意は離れていく。来夏には参院選が控える。野党が一致できる政策で政府、与党に対案を示し、議論を通じて多様な民意を政治に反映させることで国民の期待に応えねばならない。
発足したばかりの石破茂政権が国民に信任を問うた第50回衆院選は、与党の自民党と公明党が議席を大幅に減らし、定数の過半数を割り込んだ。自民の派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」問題が大きく響き、国民の政治不信の根深さが改めて浮き彫りになった格好だ。
自公は激戦区で軒並み敗れるなどし、議席数が公示前より73減の計215となった。一方、立憲民主党は50増の148議席としたが、過半数には至っていない。単独で政権を担える政党が存在せず、政権の枠組みをどう構築するかが当面の焦点となる。
石破首相はきのう、自民総裁として記者会見し、公明以外の党とも連立を組む可能性について「今時点で想定しているわけではない」としたが、議席を伸ばした政党の主張を「取り入れるべきは取り入れる」とした。国民民主党などと政策や法案ごとに連携する「部分連合」が念頭にあるのだろうか。
首相は「国民生活や日本を守ることで職責を果たす」と政権継続に意欲を示す。だが、党内からは「自公で過半数」の目標を達成できなかった責任を問う声も出ている。引き続き政権を担うには、政権の安定運営に向けた明確なビジョンの提示が欠かせない。
衆院選で自民は公示直前、裏金事件に関係した前議員らを非公認や比例代表への重複立候補禁止とし、厳格対応をアピールした。だが、非公認とした候補が代表を務める党支部に活動費を支給していたことが選挙戦終盤に発覚し、逆風が一気に強まった。
形だけの非公認だったのかと疑念を抱かれても仕方あるまい。自民は法律的、倫理的に後ろ指をさされるものではないとするが「李下(りか)に冠を正さず」の意識が欠けていたのは明らかだ。
これまで党内で不遇をかこっても正論を貫いてきた石破氏には、裏金事件に毅然(きぜん)と対応し、政治不信を払拭する役割が期待されたが、腰砕けになった印象だ。政策面でも総裁選で金融所得課税など増税の余地に言及していたが、就任後は発言を控えるなど、後退と受け取られる場面が目立った。国民人気を集めた「石破氏らしさ」が失われた感は否めない。
自民批判の受け皿となった立民は、野田佳彦代表が演説などで徹底的に裏金問題を取り上げ「政権交代こそが最大の政治改革」と強調した。戦略が功を奏し、自公を過半数割れに追い込んだ。ただ、選挙戦では批判ばかりで、しっかりとした政権像や、財源の裏付けがある政策を示したとは言い難い。
石破政権が目玉政策として掲げた地方創生も議論の深まりを欠いた。東京一極集中と、それに伴う地方からの人口流出が急速に進んでいる。政権の行方にかかわらず与野党による対策の議論が急がれる。地方創生の灯を消してはならない。
民意をかみしめて(2024年10月29日『山陽新聞』-「滴一滴」)
▼眉を寄せた険しい表情だ。歯をかみしめる様子から「歯〓(〓は口ヘンに歯の旧字体)(しかみ)」という字が当てられる、と説明があった。これが本当の「しかめっ面」かと納得した
▼衆院選では、与党に厳しい審判が下った。自民党が大幅に議席を減らし、公明党を合わせても過半数を割り込んだ。自民党本部に設けられた開票センターのボードには、当選確実を表すバラが少なく、幹部のしかめっ面ばかりが目立った
▼最大の敗因は「政治とカネ」の問題だ。自民党は派閥裏金事件を巡って関係した議員の公認、非公認で判断が揺れ、批判を浴びた
▼選挙戦終盤には、非公認候補が代表を務める党支部に、公認候補と同額の2千万円を配っていたことが報じられた。「選挙ではなく党勢拡大のための活動費」と弁明したが、国民の理解を得るのは難しかった。不信や怒りを増幅させ、傷を深めた感がある
▼当面の物価高対策や能登半島地震からの復興をはじめ、地方創生、少子化問題など政治が取り組むべき課題は多い。今後の政権の枠組みがどうなろうとも、国民の信頼を損ねたままでは、政治は前に進まないだろう。選挙で示された民意をしっかりとかみしめてもらいたい。
石破氏の会見 政策本位で野党と協調を(2024年10月29日『中国新聞』-「社説」)
まさか、自公政権が国民の信任を得たと思い違いをしているわけではなかろう。
自民党総裁の石破茂首相がきのう、衆院選での与党の過半数割れを受けて記者会見した。敗因となった「政治とカネ」問題への対策強化を口にする一方、「国政の停滞は許されない」と政権維持を前提にした発言を繰り返した。
自公で計70議席以上を失う大敗を喫し、有権者に「ノー」を突き付けられた直後である。にもかかわらず所信表明演説と同様にやりたい政策を並べ、憲法改正への意欲も強調した。少数与党で政権を運営していくのなら、謙虚さや柔軟性は欠かせまい。
首相は政治改革に関し、政策活動費の廃止▽調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開や残金返納▽政治資金をチェックする第三者機関の設置―について速やかに実現を図る考えを示した。
「政治とカネについて国民の皆さまの疑念、不信、怒りが払拭されていない」との首相の認識はその通りだろう。派閥裏金事件への党の対応の甘さを認め、「私自身も原点に返り、厳しい党内改革を進める」とした宣言も国民が石破氏に望んでいたものだ。
しかし、額面通りには受け取り難い。首相就任後に何度も前言や持論を翻してきたからだ。しかも、野党が求める企業・団体からの献金禁止には一切触れていない。この期に及んでも踏み切れないようでは、有権者の心は離れるばかりだろう。
今後の国会運営にもハードルが立ちはだかる。自公で過半数に届かない以上、予算案や法案を通すには野党の協力が不可欠となる。12年も続いてきた「自民1強」時代の強引な進め方では、立ちゆかないのは明らかである。
仮に内閣不信任決議案が可決されれば、再度の解散か総辞職を迫られる。それほど不安定な立場に置かれていることをもっと自覚すべきだ。
とはいえ物価高や能登半島の復興など喫緊の課題は山積する。政治を空転させるわけにはいかない、との思いが首相にはあるのだろう。経済対策や2024年度の補正予算案について「党派を超えて優れた方策を取り入れ、実施していく」と力を込めた。
政策を擦り合わせる相手として、衆院選で躍進した立憲民主党や国民民主党などが念頭にあるとみられる。「それぞれの党の主張に寄せられた国民のご理解、共感を謙虚に受け止め、取り入れるべきは取り入れる」。自公でくみ取れなかった多様な民意を反映できるなら、それに越したことはあるまい。
本来は政権の枠組みにかかわらず、大切にしたい姿勢である。「聞く力」を掲げた前政権では国会審議を軽んじ、閣議決定で決めた重要政策もあった。党利党略を超えて手を携え、国民のための政策を練り上げてもらいたい。
党内融和よりも国民の理解を優先する―との決意を首相は示した。有言実行できるかかどうかが、自民党と政治への信頼を取り戻すための試金石となる。
「1強多弱」の幕切れ(2024年10月29日『中国新聞』-「天風録」)
この時季の雨は、しとしと降る。ひとしきり降ったかと思えば、やみ、晩秋を染め上げていく。物静かで澄んだ水面(みなも)に立つ「秋波(しゅうは)」は転じて、女性の涼しげな目元の例えになってきた
▲ただ、慣用句の「秋波を送る」は生ぐさい。手元の辞書には「下心をもって誘いかける」との語釈が見える。総選挙から一夜明け、躍進した国民民主党に水面下で秋波が送られているという。議席が過半数を割った与党に加え、勢い込む野党からも
▲自民党は比較第1党の座こそ辛うじて守ったものの、慣れない少数与党の切り盛りに追われるかもしれない。とはいえ、ものは考えようだ。多様な民意をくみ取り、政策本位で合意を図っていく。民主主義の王道に与野党が立ち返る転機になり得る
▲「1強多弱」の政治がやっと終わった。「政治とカネ」や旧統一教会問題の温床でもあった。波乱含みの政局の向こうに、果たして春は待っているのだろうか。祈りの方が深くなる秋の暮れである。
与党惨敗の最大の原因は、自民の派閥裏金事件やそれへの甘い対応である。「政治とカネ」の問題にけじめをつけられない体質が改めて浮き彫りになった。国民の間に強い失望や憤りが広がった。
党執行部は、候補者ではなく、党勢拡大のための党支部への支給だと釈明した。だがタイミングといい、金額といい、「裏公認」との批判が出たのは無理もない。
今回の選挙はそんな自民に結果的に追随してきた公明にも厳しい評価が下された。自公が信頼を取り戻すには意識や体質を改善し、再出発するぐらいの覚悟が要る。
自公の過半数割れにより今後、政局が大きく動く可能性がある。
いま国政は物価高騰や少子高齢化の対策、安全保障、防災など懸案が多い。多様な意見がある中、数の力で政策を強引に推し進めるのではなく、「言論の府」である国会で深い議論を交わし、民意をより反映する転機にしなければならない。
それが政治不信の払拭や政治離れの回避にもつながるはずだ。
総選挙終え(2024年10月29日『高知新聞』-「小社会」)
松下幸之助、田中角栄、野村克也さんらそうそうたる人の座右の書に「菜根譚(さいこんたん)」がある。儒教、仏教、道教を融合させた中国明代の随筆集で、生きるよりどころや欲得との向き合い方などを説いた処世訓の傑作とされる。
そこまで入れ込んだのはやはり永田町で心の平静を保つのが難しかったからか。自他共に認める野心家。しかし不遇の期間もあった。その中、名著から「出世競争を当然視していた自分」とは違う自分の存在を教わったとする。
人間そう簡単に割り切れるものではないとしても支えになったのだろう。逆に脂っ気が薄れた時、入閣が転がり込んできた。
初当選から11期34年。山あり谷ありを歩んできた山本さんが先の改選で静かに野に下った。かつて立ち回りで批判されたこともあった。それでも県内の基盤整備を進めた。評価は人それぞれだろうが、山本有二という人物と「有二節」を通して県民が国政を見てきたのは事実。県政史の一ページがめくられた感がある。
当面の焦点は新たな政権の枠組みに移る。
どのような政権の枠組みになっても、与野党が一致して取り組むべきことははっきりしている。「政治とカネ」の問題に決着をつけることだ。
自民は派閥裏金事件を重く受け止めようとせず、調査や再発防止策を小手先で済ませた。その姿勢に国民の怒りが高まり、衆院選で厳しい審判を受けた。この問題に再度向き合うのは当然である。
首相はきのうの記者会見で、政党が議員に支給し、使途公開義務のない政策活動費を廃止する方針を明言した。選挙公約では「将来的な廃止も念頭」と曖昧だったが、他の政党と足並みがそろう。
国会議員に月額100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開、未使用額の国庫返納にも踏み切る。
発言した通り、与野党協議で速やかな実行を求める。
首相は記者会見で「心底から反省し、生まれ変わる」と述べた。後がない覚悟で臨んでもらいたい。
物価高対策や能登半島の被災地復興などは遅滞なく進める必要がある。政権の枠組みを巡る混乱で、政治空白を長引かせてはならない。
与野党伯仲を国会改革の好機としたい。与党は野党との合意形成に努め、強引な国会運営をなくす。野党も審議拒否に象徴される古びた日程闘争から脱却する。
国民の目に国会が変わったと映らないようでは、国政選挙で2人に1人しか投票しない傾向は変わらない。
「昏」の政治(2024年10月29日『長崎新聞』-「水や空」)
薄暗い夕暮れ時を「黄昏(たそがれ)」というように「昏」という字には、暗くて見えない、という意味がある。結婚の「婚」にもその字が含まれている
▲石破茂首相は“少数与党”のトップとして、政策ごとに野党と手を取り合って政権を維持する考えらしいが、立憲民主の野田佳彦代表はほかの野党と対話を重ね、政権交代を模索していく。鍵を握るのはどうやら、28議席を得た国民民主とみられる
▲自民党とも立憲民主とも「全面協力」はせず、是々非々で臨むというのが国民民主の立場だが、時と場合によって離合集散を繰り返して、視界は開けるのかどうか。差し当たり、薄暗い「昏」の政治が続く
▲県内からは自民2人、国民1人、立民1人の議員が、揺れる衆院に身を置く。目がかすんでちらつくのを「昏花(こんか)」というらしいが、昏の字に惑わされず、先を見る眼力が早々に試されるだろう。(徹)
第50回衆院選の沖縄の4選挙区では今回も、自民・公明と辺野古新基地反対を一致点とする「オール沖縄」の対決を軸に戦われた。前回3年前と同様に1、2区をオール沖縄が、3、4区を自民が制し、同じ顔ぶれの当選者となった。1、2区はそれぞれ共産党と社民党の全国唯一の小選挙区議席で、牙城を守った。退潮が続いたオール沖縄勢力が互角に踏みとどまり、辺野古新基地反対の民意の底堅さを示した。
辺野古新基地は現在進行中であり、問題だらけだ。米軍基地問題に加え南西諸島の軍事化が進められ、安全保障を巡る問題が沖縄を直撃している。沖縄から4人が比例九州ブロックで復活当選した。比例単独も含め、衆議院議員は計9人になる。党派を超えて、沖縄の民意に従って日米両政府に対峙(たいじ)してもらいたい。
今回、投票率が前回より約5ポイント下がり衆院選として過去最低の49.96%だった。有権者の半数が選挙権を行使しないという深刻な事態だ。自民党の裏金問題など「政治とカネ」を巡る政治不信のほか、石破茂首相が与党に有利になるよう早期解散に踏み切ったため、投票所入場券の発送の遅れなどが影響した可能性がある。
候補者が乱立したため、政策の違いが分かりにくかったという点もあるかもしれない。首相が予算委員会での論戦をせずに解散したことで、政策論争が不十分なまま短期決戦にしたことが、政策の違いが浸透しなかった原因の一つだ。
ただ、投票率の低下は今回に限らない。6月の県議選も45.26%と過去最低だった。政治家、政党だけでなく、選挙管理委員会をはじめとする行政、学校など教育関係、メディアなどあらゆる関係者が、投票率を上げるよう工夫し、努力する必要がある。
沖縄が全国より投票率が低いのは、争点の辺野古新基地問題で示した民意が政府や司法に顧みられないため、県民に「諦め感」があるからだという指摘もある。経済振興や地方自治の在り方にも関わる新基地問題を県民は諦めるわけにはいかない。政治家、各陣営は、避けたり逃げたりせずに、違いを説明し伝えることが求められる。
オール沖縄陣営は、辺野古新基地反対、オスプレイ配備反対を一致点としてきたが、自衛隊増強問題や那覇軍港の浦添移設問題への姿勢が弱い、あいまいだと指摘されてきた。これらの問題も合わせて結集軸とするよう検討すべき時ではないか。
自公の過半数割れを受けて、政権の枠組みを巡り混乱が続くのは必至だ。「政治とカネ」の問題も根本的な解決が求められる。物価対策など経済政策も待ったなしだ。それらに加えて、沖縄には特に経済振興と基地・安全保障という国政課題がある。沖縄関係の衆議院議員としてしっかりと責任を果たしてほしい。
当初ハードルは高くないとみられていたものの、公示後、裏金事件で非公認となった候補の党支部に2千万円の活動費が支出されていたことが判明。決定的な逆風となった。
裏金議員を非公認とすることなどで国民の理解を得ようとした石破氏だったが、結局は何も変わっていないと見透かされた形だ。
与党惨敗は石破新政権への失望の表れである。
同時に、その前3年間の岸田文雄政権に対する厳しい審判だ。
選挙結果は、長年の自公連立政権という枠組みへの異議申し立てと受け止めるべきだ。
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しかし、党利党略の数合わせに終始するようなことがあってはならない。
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まずは政治の信頼回復を急いでほしい。国会は自民裏金に端を発した政治改革に取り組むべきである。
そのためにも与野党は政策本位で透明性の高い議論を経て、次の政権枠組みを探ってもらいたい。12年に自民が政権を奪還して以降続く「1強」体制で軽んじられてきた合意形成こそ重視すべきである。
1強体制の下では基地負担の軽減を求め、辺野古新基地建設に反対する沖縄の声もないがしろにされてきた。国政に多様な意見を反映する枠組みが必要だ。
石破茂首相は、国民の間に渦巻く怒りの強さを見誤ったと言わざるを得ない。
今回は、第2次安倍晋三政権以降の12年間にわたる自民1強体制を問う選挙でもあった。
裏金問題をはじめとする不透明で強権的な政治は、そのおごりから生まれたと言っていい。
自公両党はこのまま政権を維持できたとしても、その運営が不安定となるのは確実だ。だが課題が山積する日本の政治は停滞が許される状況ではない。
裏金問題の真相究明と抜本的な政治改革に今度こそ取り組まねばならない。国民の信頼を土台にした民主政治本来の姿を、早急に立て直すべきだ。
■民意に背向けた首相
首相は1強体制の中で、道理や公正、誠実さなどを主張して党内野党的な存在感を示してきた政治家だった。ところが今回の選挙ではそうした「石破カラー」がほとんど見えなかった。
まず首相就任後に、十分な国会論戦が必要との持論を翻し、戦後最短となる異例の早期衆院解散に打って出た。
さらに裏金議員の一部を党の非公認とする決定を下したものの、当選すれば追加公認する可能性を早々に表明していた。
選挙戦終盤には、非公認候補が代表を務める支部に党本部から2千万円が支給されていたことが発覚した。
政党支部は事実上、候補の活動と一体化しており、その資金は自由に使える「財布」とも言われる。これでは表向き非公認としながら、裏では実質的な公認料を渡していたに等しい。茶番と言わざるを得ない。
こうした民意よりも党内事情を優先するような判断は、筋を通すことを重視した首相が最も嫌う対応ではなかったか。
自民党は野党各党が迫った裏金事件の実態解明について、最後まで応じようとしなかった。
そうした対応にノーを突きつけた今回の選挙結果は、裏金問題の究明が待ったなしの政治課題であることを明確にした。これ以上の逃げは許されない。
党による再調査はもちろん、裏金議員の政治倫理審査会への出席や証人喚問の受諾などを早急に判断しなければならない。
政治改革への対応も同様である。目標時期をあいまいにしている政策活動費の廃止や、30年来の積み残し課題となっている企業・団体献金の禁止は、退路を断って実現すべきだ。
政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与する―。政治資金規正法本来の目的に立ち返った改革が求められる。
不透明な問題は政治とカネにとどまらない。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と党の関係もいまだに不明な点が多い。
1強体制の政治は、集団的自衛権の行使容認や防衛力の大幅増強などの大きな転換政策も、国会軽視で進めるやりたい放題の側面があった。
■野党の構想問われる
だが、基本方針や政策を巡って野党がバラバラな状況は変わっていない。
立憲民主党は今後改めて各党に連携を呼び掛ける見通しだ。民意の新たな受け皿を形づくることができるかが問われる。
陣笠の効用(2024年10月28日『北海道新聞』-「卓上四季」)
永田町で陣笠(じんがさ)議員といえば、要職に就いていない中堅・若手を指す。足軽や雑兵が戦場でかぶとではなく笠をかぶったことに由来するという。単なる採決要員とのさげすみが込められている
▼議会制民主主義の本家英国では陣笠も活発に議論を交わし、政策決定に影響力を持つ。国民の代表たる議員の地位はみな平等。陣笠が「役職の壁を破り、建設的紛争を、固定した秩序のなかに巻き起こす契機となる」ことで議会も政党も真の機能を発揮すると説いた
▼自民党で陣笠が元気だったのは三十数年前。リクルート事件などの金権腐敗に危機感を強め、首相や執行部を突き上げて政治改革を迫る。急先鋒(せんぽう)の一人が石破茂氏だった。年を重ねても陣笠の青くささを漂わせていたのが国民の人気を得た理由だろう
▼政治とカネの旧弊を一掃せよと主権者が鉄ついを下した。今こそ陣笠の出番だ。とりわけ永田町の色に染まっていない新人議員に期待したい。いざ出陣、本当の戦いはこれからです。
<食わずには生きてゆけない。/メシを/野菜を/肉を/空気を/光を/水を>。詩人石垣りんの「くらし」は、人間の業の深さに迫る構えの大きな詩だが、冒頭のたたみかけるような詩句は、今の暮らしのありようを想起させる。
新米が出回れば下がると言われていたコメの価格は、今なお5キロで3千円超と高止まりしたままだ。生産コストの上昇分を価格に上乗せする動きが広がったためだが、主食の割高感はいつまで続くのか。
コロナ禍を経て景気は回復基調にあるとされ、企業の賃上げ努力も見られる。だが、それ以上に多くの国民が長引く物価高に苦しんでいる。
メシに野菜、肉が必要なのはもちろん、近ごろの空気は地球温暖化による極端な温度変化で夏場に酷暑をもたらし命をも脅かす。光をエネルギーとすれば、円安や不安定な国際情勢による資源高を背景にした電気代、燃料代の高止まりが家計を圧迫する。能登半島地震のような大災害がひとたび起きれば水にも不自由する。
石破茂首相と自公連立政権への審判が下った。与党は大幅に議席を減らし、自民の派閥裏金事件に端を発した政治不信の根深さが浮き彫りになった。開票結果から浮かぶのは、変化や危機に翻弄(ほんろう)されつつ懸命に暮らす国民感覚とのずれではないか。新たな選良は、今度こそ国民の暮らしに真摯(しんし)に向き合ってほしい。
政治に信頼を取り戻すと言いながら、「政治とカネ」の問題に後ろ向きな姿勢に対する国民の厳しい審判が下ったと言えよう。
だが、事件を巡って政治資金収支報告書に不記載があった議員は衆参合わせて85人に上る。責任を取って自ら辞職した議員もいない。
石破茂総裁(首相)は選挙戦で、非公認でも当選すれば追加公認する意向を示した。そればかりか非公認とした候補者が代表を務める党支部に、党本部が政党交付金から2000万円ずつを支給していたことも明らかになった。
裏金事件への「深い反省」(石破総裁)を表明しつつ、選挙で幕引きを図ろうという思惑を見透かした国民が、厳しい審判を下す結果につながったと言えよう。
連立与党の公明党にとっても厳しい結果となった。「自民のブレーキ役」としての機能が発揮できていたか検証し直す必要があろう。
今回の衆院選は立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主、れいわ新選組、社民の主要6野党の候補者もしくは野党系無所属の候補者が1人だったのは、46選挙区にとどまった。結果、全国289小選挙区の8割を超える243選挙区で候補が競合した。
1人の候補者だけを選ぶ小選挙区で、1強に対抗するためには野党が束にならなければ勝算が乏しくなることは、自明の理である。
自民党にとっては厳しい結果とはいえ、「敵失」に助けられた側面があるとも言えるのではないか。
どのような枠組みが生じるかまだ不明ではあるが、不安定で緊迫化した政治状況が生まれることが避けられそうにない。いずれにせよ、重い野党の存在は政治に緊張感をもたらすだろう。
内政、外交ともに課題が山積している。「国民的利益の統合」が代議制の理念であることを、国民から議席を託されたすべての政党、一人一人の議員が、肝に銘じて行動しなくてはならない。
自民の派閥裏金事件を巡る「政治とカネ」問題が影響したことは明らかだ。逆風の中、石破茂首相(自民総裁)は反省の言葉を繰り返して再生を誓うことで、どうにかして信任を得たい考えだっただろう。だが、国民の怒りは大きかった。自民はこの結果を真摯(しんし)に受け止め、信頼回復に全力を挙げなければならない。
自民は裏金事件に関係し今回立候補した前議員ら46人のうち、旧安倍派幹部ら12人を非公認とし、けじめをつける姿勢を強調。公約にも「ルールを徹底して守る政党に生まれ変わる」などと明記し、改革をアピールした。
だが非公認の候補が代表を務める政党支部に自民が活動費2千万円を支給したことが選挙戦の終盤に発覚した。公認候補の政党支部に支給した分と同額で、「事実上公認したのと同じ」と野党から批判を浴びることになった。
非公認候補側への活動費支給が国民の目にどう映るか考えなかったのだろうか。自民の裏金事件への姿勢が根本から疑われると指摘せざるを得ない。
岸田政権下で6月に成立した改正政治資金規正法は、抜け道だらけだった。自民提出の法案に衆院で賛成した日本維新の会が参院では反対に回り、参院での賛成は自民のほかには公明のみだった。全ての議員の政治活動に関わることなのに、野党との十分な協議がないまま数の力で押し切って成立させたことは禍根を残した。さっそく仕切り直しが必要だろう。
石破首相は刷新を期待されて新首相に選ばれたものの、変節ぶりが目立った。衆院を解散する場合は野党と十分論戦を交わしてから行うとの考えを示していたにもかかわらず、結局は予算委員会を開かないまま性急な解散に打って出た。導入に前向きだった選択的夫婦別姓制度についても慎重論に転じるなど、石破カラーは色あせた。
立民は改選前議席を大幅に上回った。野田佳彦新代表の下、政治とカネを最大の争点に掲げて政権交代を訴えるなど、対決姿勢を強く打ち出してきた結果だ。他の野党との候補者調整は進まず、与野党一騎打ちの選挙区は限定的だった。今回の選挙結果を受け、野党各党が今後どう動くかが注目される。
人口減少や少子高齢化が進む中、財政のかじ取りはますます厳しさを増す。国会では将来を見据えた責任ある議論を展開してもらいたい。
衆院選の12日間の運動期間中、各党首が支持を呼びかけるため駆け回った総距離は地球2周分―。昨日付本紙にこんな記事が載っていた。移動距離が最も長かったのは、本県を含む23都道府県を回った石破茂首相の約1万4千キロ。航空会社の秋田―羽田間の距離で換算すると、16往復したことになる
▼連日の移動で体への負担は小さくないだろう。さらに遊説先では選挙区それぞれの情勢を踏まえた演説内容なども求められる。もちろん大変なのは、選挙区をくまなく回って支持を訴える候補者やスタッフも同じだ
▼今回の衆院選は、自民と公明の連立与党と、立憲民主をはじめとする野党の間で、過半数の議席確保を巡る激しい攻防となり、自民は改選前から大きく議席を減らした。最大の争点とされた派閥裏金事件の影響が大きかったと言えよう
▼衆院選では地方の再生も争点の一つだった。人口減少の影響でコミュニティーの維持が困難になったり、農業などの担い手が不足したり、衰退が著しい地域もある。新たな顔触れを加えた国会で、地方を巡る議論がこれまで以上に活発になることを期待したい。
(2024年10月28日『山形新聞』-「談話室」)
▼▽戦国時代、摂津国(現在の大阪府北中部など)に、茨木二介という鍼師(はりし)がいた。彼が1568年に著した「針聞書(はりききがき)」は、病の症状別に鍼や灸(きゅう)を施す場所などが記され、現存する最古の鍼灸流儀書と位置付けられている。
▼▽この書の特徴は、63匹もの奇妙な姿をした虫が描かれている点である。蛇のような形だったり、顔が牛や狼(おおかみ)に似ていたり。当時、病気は身中の虫が引き起こすと考えられていた。感情の起伏も同様で、殊に、怒りを腹の虫の居所に重ねる言い回しは現在に引き継がれている。
▼▽第50回衆院選は自民、公明両党の与党が大きく議席を減らし、過半数を確保できなかった。県内では3選挙区とも自民前職が再選を果たしたが、全国では自民への逆風が強烈。派閥裏金事件で生じた有権者の不信感は、選挙戦を通じて落ち着くどころか拡大した感があった。
▼▽大苦戦は、国民の怒りが反映されたと言えるだろう。出口調査などの結果を見ると、自民支持層にも一定の離反者がいたようだ。民意に沿わぬ党内論理を戒める意図か。ただ、当の自民が、今回は皆の虫の居所が悪かったと済ませるならば「石に灸」。凋落(ちょうらく)が進みかねない。
新政権発足から26日後の投開票となった第50回衆院選は、与党の自民、公明両党が議席を大幅に減らし、過半数割れとなった。「国民の信任を得て、政権の掲げる政策の後押しをお願いしたい」としていた石破茂首相に対し、有権者は厳しい審判を下した。
与党の敗因は自民党派閥の裏金事件に端を発した「政治とカネ」の問題であることは明白だ。公示直前まで揺れた公認問題、非公認候補が代表を務める党支部に2千万円の活動費を支給していたことも自らを追い込む形になった。
長く続いた「1強他弱」の構造は崩れ、石破首相の責任論が強まるのは必至の情勢だ。公明党に加え、一部の野党などを取り込む形で連立政権の枠組みを拡大する動きが想定される。まずは選挙結果を真摯(しんし)に受け止め、権力闘争や党利党略に走ることなく、国民の信託に応えるべきだ。逆風下で当選した議員らの真価が問われる。
野党第1党の立憲民主党は議席を大きく伸ばした。公示前の3倍以上の議席を得た国民民主党も存在感が増すだろう。ただ政権交代を訴えてきた各野党は、与党批判を前面にする戦略を徹底しただけに、具体的な政策や政権担当能力を有権者に示し、支持を得られたとは言い難い。
物価高に苦しむ国民生活、不安定な国際情勢などを見れば、政治が機能不全に陥る状況は許されない。政治改革も与野党の垣根を越え、すぐに断行しなければならない。野党も責任政党として責務を果たしてもらいたい。
県内は定数が1減となり、区割り変更後初めての選挙だったが、四つの小選挙区のうち1、2、3区で立憲民主の前職が勝利し、4区は自民新人が初当選した。
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から13年半が経過し、今回の選挙では本県の復興について激しい論戦が交わされることはなかった。しかし今も2万人以上が避難を余儀なくされ、原発の廃炉は難航している。解決しなければならない課題は山積する。各議員は県民の思いを国政に届け、復興を着実に前に進めてほしい。
第50回衆院選は自民党と公明党の政権与党が過半数割れした。自民の裏金問題に対する不信は日増しに高まった感がある。自民は大幅に議席を減らし、立憲民主、国民民主などの野党が躍進した。政権運営は不透明な状況となったが、民意は緊張感のある国政を求めたと言える。
格差是正のための小選挙区定数「10増10減」の影響を受け、県内小選挙区は5から新たな区割りの4となった。1、2、3区は立憲民主党の前職が勝利し、4区は自民党の新人が議席を得た。比例を含めた本県議員は立憲民主が現状の4人以上を確定させた。自民は5人から2人に減った。県内でも与党に厳しい審判が下された。
自民党は12年前の第46回衆院選で圧勝し、政権を奪還して以来、連続して安定した支持を得てきた。経済政策や新型コロナウイルス対策で批判の強かった3年前の前回も、数の力で国会を運営できる絶対安定多数に達した。
こうした流れに水を差したのが、今回の大きな争点の一つとなった自民党の裏金問題だった。石破茂首相が選択した早期解散も党利のみを考慮した強引な政治手法との印象を残し、超短期決戦の選挙戦へと突入してしまった。
共同通信社が選挙戦中盤に実施した第2回衆院トレンド調査では、望ましい選挙結果として「与党と野党の勢力が伯仲する」との回答が49・7%に上った。圧倒的多数を占めた自民党による政権は、年を重ねるごとに「数による横暴」と映る場面が増えたと国民が捉えたのだろう。一方で、野党に政権交代の可能性を与えた。有権者が投票によって示す民意とは、実にうまくできている。絶妙なバランス感覚が議席に反映された。
選挙戦は、裏金を巡る「政治とカネ」一色となり、他の政策論争はかすんでしまった。多くの国民、県民は景気や雇用、物価高に対する早急な対策を求め、年金や社会保障、子育てや少子化といった将来世代にどう責任を持つのか、各党の主張をもっと聞きたかったはずだ。
政治への信頼を回復するには、こうした課題に誠実に向き合うしかない。特別国会、来年度の予算を議論する通常国会に臨む当選者には、生活者の目線に立った政治の実現を望みたい。(安斎康史)
霧ふかし(2024年10月28日『福島民報』-「あぶくま抄」)
▼病にふけっていたというから、架空の風景かもしれない。哀愁を帯びた波止場。一瞬の灯りが、閉じた孤独を浮かび上がらせる。突然、思考が飛ぶ。「祖国はありや」とは誰の恨み節だろうか。終戦から10年がたった頃に作られた。大戦で散った世代への挽歌とも読める
▼首相就任から投票まで26日。戦後最短の日程となった衆院選の審判が下った。マッチ擦る間とは言わぬまでも、わずかな秋の日に浮かび上がったのは、霧深い社会の有りさまだった。暮らしを苦しめる物価高、深刻化する少子化、緊張の解けない国際情勢―。マイク越しの懸命な訴えを耳にするたび、足元の不確かさに胸騒ぎを覚えた。豊かな未来はありや
▼寺山は失望も詠んだ。〈地下室の樽に煙草をこすり消し祖国の歌も信じがたかり〉。厳しい戦いを勝ち抜いた当選者は重い責務を背負う。ぜひとも粉骨砕身、難問の数々に決着をつけていただきたい。霧が晴れ、あらゆる世代が心を通わせ過ごせる日々が叶[かな]うよう。
衆院選は、石破茂首相率いる自民党に厳しい審判が下った。単独過半数に届かなかった上、公明党と合わせた与党は、自民派閥裏金事件の非公認前職を除く公認での過半数割れが確実となった。「政治とカネ」に対する有権者の怒りにのみこまれた結果だ。
石破氏はこの結果を謙虚に受け止めるべきだ。政権を担う資格はあるのか、問い直す必要があるのではないか。
小選挙区と比例代表の計465議席を争った衆院選の最大の焦点は、自公で過半数の233以上の議席を獲得し、政権継続を確実にできるかどうかだった。公示前は自民256、公明32で計288議席を占めていたが、相次ぐ不祥事で相当数の議席減が見込まれていたからだ。
石破自民の裏金事件との向き合い方は有権者から見れば理解し難い話ばかりだった。政策活動費を選挙に使うと発言し、1日で真逆に撤回した。非公認の前職が当選すれば追加公認する「事後公認」もあり得るとした。選挙終盤には非公認の候補が代表を務める党支部に政党交付金から2千万円を支給していたことまで明らかになった。
肝心の政策についても、「予算委で何をやる内閣か示す」との自らの発言を翻して国会を閉じたため発信の機会が限られた。党内への配慮か、持論の政策を引っ込める場面も目立った。
だが自公が獲得した議席数を踏まえると、有権者が石破氏の主張を受け入れておらず、政権継続に疑問を投げかけたと判断すべきだろう。石破氏が自公で政権を握り続けたいのであれば、政治不信の起点となった裏金事件の再調査は避けられないだろう。
一方、野党第1党の立憲民主党は、公示前の98議席から議席を伸ばした。「政権交代こそが最大の政治改革」という野田佳彦代表の訴えが有権者から一定の評価を受けたと言える。ただ公約で掲げた政策の財源などの曖昧さを解消する必要があるだろう。自民を軸としない政権の在り方はまだ見えていない。各党首の決断と指導力が問われる。
政局は当面、混乱を極めるだろうが、有権者が望むのは安全で安定した暮らしだ。経済政策をはじめ、生活に寄り添う政治の実現のために、懸命に汗をかいてもらいたい。
野党は立憲民主党が躍進したほか、国民民主党などが議席を伸ばして、与野党が拮抗(きっこう)する。自民が政権に復帰した2012年末の第2次安倍晋三政権の誕生から続いてきた「1強多弱」に終止符が打たれたことになる。
原因は明確だ。「政治とカネ」の問題を軽視し、国民の厳しい批判に向き合わなかったことだ。巨大与党の議席数におごって少数意見に耳を貸さず、議論をおろそかにする強引な手法を繰り広げてきた自民党政治の帰結である。
首相就任から8日で総選挙に打って出た石破茂首相だけでなく、岸田文雄前首相、菅義偉元首相、麻生太郎元首相ら党幹部、重鎮らの責任は極めて重い。有権者の批判を真正面から受け止め、解党的な出直しをするべきだ。
■裏金問題の矮小化
自民党の傲慢(ごうまん)さは裏金事件の対応で明らかだ。
裏金は長期間続いてきた疑いが濃厚で、還流を受けた議員らの使途も不明確のままである。
不透明なカネが不透明なルートで政治家に入り、使途も不明なら、政治のかじ取りがカネに左右されかねない。民主主義の基盤を揺るがしかねない深刻な問題だ。
それなのに、事件を受けて成立した改定政治資金規正法は抜け道だらけだ。政党から党幹部らに支給され、使途が不明で批判が大きい政策活動費も温存された。
石破茂首相らは公示前後から「問題は不記載であり『裏金』ではない」と強調し、事件を矮小(わいしょう)化した。選挙戦終盤には、非公認とした候補が代表を務める党支部に党が活動費として2千万円を支給していたことも判明し、「形だけの非公認」と批判を浴びた。
その結果、裏金事件に関係して今回出馬した46人の多くが厳しい戦いを強いられ、非公認で無所属出馬となった下村博文氏や高木毅氏ら有力者が相次いで落選している。自民党は裏金事件に対する国民の批判の大きさを理解していなかった。
■「表紙」だけでは
5回目の挑戦で党総裁に選出された石破首相は長年にわたって「党内野党」的な立場で、主流派に批判的だった。事件に関係した議員の公認問題などでも厳しい姿勢を示していた。
自民党は裏金事件の批判をかわすため、「選挙の顔」として石破氏を総裁に選んだ思惑もあったのだろう。ただし、就任後の石破氏は総裁選で言及していた政策の多くに言及しなくなった。
裏金対応だけでなく、株式売却益など金融所得への課税強化、選択的夫婦別姓の導入、マイナ保険証の一本化に伴う保険証の廃止期限の見直しなどである。
党内基盤が弱い石破氏は、旧来の路線継続を求める党内圧力にさらされている。問われるのは自助努力で改革できない体質だ。「表紙」を変えても中身が変わらなければ国民の信頼は得られない。
■民主主義の原点を
今後、自公が安定的に国会を運営するため、野党の取り込みを図る可能性がある。野党が有権者の意思に反する行動を取れば、政治に対する信頼がさらに失われることを忘れてはならない。
総括するべき自民党の政策は数多い。「政治とカネ」の問題だけでなく、アベノミクスの負の側面が顕在化している経済対策や、物価上昇に伴う生活苦の解消が早急な課題だ。少子高齢化対策など社会保障、地方分権、男女格差の解消なども従来の政策を検証し、刷新する必要がある。
「政治とカネ」の問題では、根源的な解決にどう取り組むのか問われる。企業・団体献金はリクルート事件などを受けた1994年の規正法改定の際に5年後の廃止が掲げられたのに、結果的に温存された経緯がある。カネがかかる政治の在り方から改めるかどうか選挙後も国民は凝視している。
◆与党のおごりに鉄槌
自民党派閥の裏金事件をはじめとする「政治とカネ」の問題と石破政権に、国民が突きつけた厳格な審判である。首相をはじめとする自民と、連立を組む公明は、結果を謙虚に受け止め、出直さねばならない。
全国で裏金事件に関与し、立候補した前議員46人のうち、落選したのは公認、非公認を合わせて半数以上に上った。
党勢拡大のためのもので選挙活動には使わないと説明されたが、厳密な線引きは難しく、国民の不信を増幅させた。
政治とカネの問題は、政治資金の透明化だけでなく、多額の資金をかける政治の在り方も問われている。そうしたことへの認識が自民には欠けていたと言わざるを得ない。
石破首相の姿勢にも問題があった。政治の信頼回復が問われた総裁選で首相が勝利を収めた背景には「選挙の顔」としての期待感があっただろう。
党内にあって臆さず政権批判を展開し、主張を貫いていた姿勢はあっという間に変節した。これでは、岸田文雄前首相からの「表紙替え」に過ぎない。失望を招いた首相の責任は重い。
党内融和や「永田町の論理」で動く自民党政治を優先していては、政治への信頼回復は困難だと首相は認識すべきだ。
石破政権が発足して1カ月に満たないことを考慮すれば、岸田政権の3年間を含む巨大与党への審判とも言えよう。
◆野党の責任は大きい
野党は大きく伸長し、立民や国民民主党が著しく躍進した。
選挙戦の論戦は「政治とカネ」一色だった。そうした中で議席を伸ばした野党には、与党を巻き込み、実効性のある政治改革を確実に進める責務がある。
それには、野党が国会でしっかりと連携し、協働していくことが不可欠だ。
原発政策など野党間で主張が異なる政策もある中で、足並みをそろえていけるか試される。
与党勢力が弱まったことで今後、政権の枠組みが流動化し、野党からの連立政権入りといった政局の動きも予想される。
野党には政権に対するチェック機能を発揮し、有権者の負託に応える責任があることを忘れないでもらいたい。
深刻な人口減少を食い止めるための政策の実現にも知恵を絞り、汗をかいてほしい。
私たち有権者は次の選挙を見据えて、仕事ぶりに不足はないかをしっかりと見定めたい。民主主義を守るために、政治に関心を持ち続けることが大事だ。
(2024年10月28日『新潟日報』-「日報抄」)
▼「政治は最高の道徳である」。政界にはこんな言葉が伝わる。政治は世の人々の利害を調整する行為なのだから、最高の道徳と呼べるぐらいの姿勢で取り組まねばならない-。おおよそ、こんな意味のようだ。道に反するような行いをしてはならぬという戒めでもあったのではないか
▼かつて清廉な政治を標ぼうした福田赳夫元首相は、この言葉を好んで使ったという。福田元首相が創設した派閥の系譜を受け継いだのが旧安倍派である。その旧安倍派が震源地となって裏金事件が広がったのは皮肉と言うほかない
▼政治不信とは、道徳や理念をなくした政治に対する、有権者の憤りだろう。何かにつけて党利党略を優先したり、小手先で批判をかわそうとしたり、選挙の時ばかり耳に心地よい言葉を並べたり。有権者はそんな姿に眉をひそめている
▼国民の暮らしは厳しくなる一方だ。多くの課題に取り組むためにも、政治改革を進めなければ。党派を問わず、道徳の裏打ちがない言動は有権者に見透かされることは間違いない。
衆院選は27日投開票され、自民、公明両党の与党が過半数を割ることが確実となった。自民派閥裏金事件による政治不信が政権を直撃し、「政権交代こそ最大の政治改革」と訴えた立憲民主党と国民民主党が大きく議席を伸ばした。
自民が比較第1党に踏みとどまり、公明に野党の一部を加えて連立政権を維持したとしても、石破茂首相の求心力低下は避けられない。一方、立民を中心とする非自民連立政権の樹立は、不調に終わった選挙協力以上に難航が予想される。自民が政権復帰した2012年衆院選から長く続いた「1強多弱」の構図は様変わりし、政治の不安定さはいや応なく増す。
それでも有権者は、政治の現状に「ノー」を突きつけ、出直しを迫った。示された民意を直視し、信頼をどう取り戻すかは政治に課せられた最大の責務である。国民の審判を力に、政治を根本的にリセットしなければならない。
◇
石破首相の就任から26日後の投開票という戦後最短の日程で実施された衆院選は、「政治とカネ」一色となった。
首相は、自民党総裁として裏金事件に関係した議員らを非公認とするなど「厳しい対応」をアピールしたが、党内基盤の弱さもあって実態解明には後ろ向きだ。有権者に考える時間を与えないまま選挙戦に突入したことで、政権への不信感は一層高まった。
与党から石破首相の責任を問う声が上がるのは当然だろう。だが、抜本的な政治改革に取り組まないまま退陣した岸田文雄前首相、そして派閥ぐるみの裏金づくりの横行を許した旧安倍派幹部たちの責任はさらに大きい。
数とカネの力で強権的な政権運営を重ね、政治腐敗を招いた自民1強のおごりを厳しく戒める選挙結果と受け止めるべきだ。
選挙中のアンケートなどで政治資金規正法の再改正が必要と答えた候補者は自民を含めて多数を占めた。使途公開の義務がない政策活動費の廃止や企業・団体献金の見直しなど、公明や野党各党が一致する点は多い。選挙後の国会で裏金事件の真相解明と再発防止策に本気で取り組むことが信頼回復の第一歩となる。
■有権者の熱量低く
守勢に回った与党は、立民の前身である民主党政権を「悪夢」とやり玉に挙げ、立民と非難の応酬を繰り広げた。ただでさえ短い選挙期間で、憲法問題、外交と安全保障、エネルギー政策といった国のかたちを問う論戦や、経済や社会保障、教育など身近な政策論争は深まりようがなかった。社会の分断や法制度の機能不全を放置する政治と、有権者の距離は広がるばかりではないか。
教員不足などによる学校の余裕のなさは子どもたちの心身に影を落とし、いじめや自殺は増えている。奨学金の返済が長く若者にのしかかり、未婚化や少子化の一因ともなっている。女性や高齢者をはじめ非正規雇用に就く層は正規雇用との格差から抜け出せず、物価高騰の影響をもろに受ける。
各党はこぞって教育への公的投資拡大、賃上げ、少子化対策や社会保障の拡充を掲げた。これを選挙向けのアピールに終わらせてはならない。国民負担の在り方を含めて財源確保策を議論し、セーフティーネットの強化を急ぐ必要がある。地震と豪雨災害に見舞われた能登半島の被災者支援は最優先だ。選挙後の国会はまずそこに目を向けてほしい。
■多様な政策可能に
「1強」はもう存在しない。政党同士が譲り合わなければ動かない政治状況は、熟議を通じて新たな政策実現が可能な環境とも言える。長く棚上げされてきた選択的夫婦別姓制度の導入や、核兵器禁止条約への参加など、多くの政党が公約した政策の前進につなげるべきだ。若い世代の関心が高い地球温暖化対策や、政治分野のジェンダー平等にも党派を超えて踏み込んだ対応が求められる。
多様な価値観を持つ人々の合意を形成し、その命と尊厳を守るために政治はある。国民の負託を受けた一人一人が「信頼される政治」の再生に取り組むときである。
◆1強政治への審判
旧安倍派の前職が多く関与した裏金事件は、安倍長期政権のおごりが生んだ腐敗といえよう。
その意味で、今回の選挙には安倍政権からの12年間、もっといえば「自民1強」政治への審判という意味もあったのではないか。
石破氏は首相に就任した途端、持論を封印し、旧態依然とした自民党の雰囲気をまとうようになった。国会で十分議論して衆院選を―との総裁選での発言をほごにして解散に踏み切った。断行する、とした政治改革は具体策が曖昧なままだ。「党の顔」が変わっても中身は変わっていないと、有権者に見抜かれたのではないか。
◆非公認対応があだ
その確たる裏付けとなったのは、裏金事件で非公認となった前職が代表を務める政党支部への活動費2千万円支給である。選挙戦終盤に明らかになった。「候補ではなく、政党支部に出した」といくら説明したところで、「非公認はけじめになっていない」と受け止められても仕方あるまい。
安倍政権以降、世論を二分するような政策で国会審議を軽んじ、「数の力」で押し切る政権運営が続いた。加えて、森友学園問題や加計学園問題、虚偽答弁で謝罪に追い込まれた「桜を見る会」問題で、安倍晋三元首相は説明責任を果たそうとしなかった。裏金事件の対応にも通じる部分である。
強権的な政治の修正を期待された岸田文雄前首相だったが、国会でろくに審議しないまま安全保障関連3文書の改定を閣議決定。一方で防衛費増税を打ち出しながら開始時期を決められないなど場当たり的な対応も目に付いた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点を巡る問題でも後手に回った。こうした政権運営の拙さが、政治不信を加速させたのは間違いない。
◆政治改革速やかに
選挙戦で裏金事件に焦点が当たった結果、物価高や年金、子育てといった有権者の関心が高いテーマを巡る議論が最後まで深まらなかったのは残念と言うほかない。
立憲民主党の野田佳彦代表は「政権交代こそ最大の政治改革」と繰り返した。ただし政権担当能力を示すなら、公約に並べた政策を財源の裏付けと併せて語るべきではなかったか。民主党政権の失敗を乗り越える第一歩だったはずである。
石破首相は引き続き政権を担う意欲を示している。ならば民意に沿って、まずは裏金事件の再調査による真相解明に取り組み、有権者の納得を得られる政治改革の実現に向けて野党と速やかに協議を始める必要がある。
衆院選の投票所となった広島の自宅近くの幼稚園の光景は心なしかいつもと違って見えた。高齢者の多い地区なのに子ども連れの若い世代が目立つ。ひょっとしたらと予感はしていたが、次々と伝わる衝撃の結果に驚いた
▲今なら実力者の現金ばらまきは大問題だが、気配りの達人とされた角さんらしい。令和の自民の体たらくをどう見ていよう。「裏金」で非公認の候補が代表の支部にも事の重みを考えず2千万円を渡し、逆風を強めた
▲角栄ファンは野党側にもいる。生前の言葉を集めた本も売れる。指南の一つが「政治にはオール・オア・ナッシングはない」。最善、次善、三善の策まで考えておけ―。その教えを首相は生かすのか。それを国民がどう見るか。
”票寄せパンダ”の評価は?(2024年10月28日『山陰中央新報』-「明窓」)
パンダのように人気があり、高い集客効果を持つ人や物を表す「人寄せパンダ」「客寄せパンダ」という言葉は当時生まれたものだと思っていたが、実際はその9年後だったそうだ
広めたのが田中角栄元首相。1981年7月の東京都議選。候補の応援演説に立つと、こうダミ声を張り上げた。「私は人寄せパンダ。さらし物になっていても、頼まれればどこにでも行く」。ロッキード事件の被告でありながら応援に飛び回り、ユーモアに毒を交えた“角栄節”で聴衆の心をつかんだ。思えば、国交正常化を実現させたのがご当人。何とも的を射たネーミングだ
その成り立ちからすれば「人寄せパンダ」は選挙用語なのかもしれない。今回の衆院選で自民党の「人寄せ」ならぬ“票寄せパンダ”役を務めたのが石破茂首相。「党内野党」と揶揄(やゆ)されながら、国民人気の高さから党総裁に選出された。角栄氏を「政治の師」と仰ぐのも因縁めいている。ただ党派閥裏金事件の逆風の中、師匠のように有権者の心をつかむのは難しかっただろう
「政治とカネ」への対応が最大の争点となった衆院選が終わった。“票寄せパンダ”の働きぶりはどう評価されるのか。(健)
党派閥の裏金事件を受けて、全国的には自民への逆風が吹き荒れた選挙になった。衆院解散前に本紙などが行った県民電話調査でも自民の対応に「納得できない」と答えた人は76・2%に上っていた。
しかし、県内では自民の2氏が終始、優位が揺るがない情勢で推移した。県関係で裏金議員はいなかったとはいえ、野党勢は政権批判票を受け止める選択肢を県民に提供できているか、総括が求められる。
確かに自民2氏は強固な基盤を築いている。中谷氏は防衛相の公務や東京での応援演説で帰高せず、本人不在の戦いになった。だが11期34年で培った支持基盤があり、野党に対し「余裕」があった戦いといえる。
尾﨑氏も、3期12年にわたり県知事を務めた知名度と人脈、分厚い布陣を生かした。
野党勢は中央レベルでは共闘が成立せず、候補者が乱立した。その中で高知1、2区の県内野党勢は結果的に一本化された。
2区で自民の牙城を崩した2017年衆院選など築いてきた共闘関係があるとはいえ、裏を返せば、これも最大野党の立民が今回は2区の候補者を立てる地力がなかったという見方もできる。
党本部の課題でもあるが、立民は選挙前だけではなく目指す社会像、経済対策や外交・安全保障といった政策を浸透させ、国民の信頼を醸成する必要があるだろう。
全国的な躍進も踏まえて基盤の構築や人材の発掘を探り、県内でも政権批判の「受け皿」を示せるかがあらためて問われる。
県民電話調査では、物価高を反映してここ3年の暮らしぶりが「悪くなった」と答えた人が57・4%に上っている。政治や政治家への不満、失望の原因は裏金事件だけにとどまるまい。
議席を守った中谷、尾﨑両氏はそれぞれ閣僚、前知事としての実績や発言力が期待されてもいるだろう。県民の政治不信への向き合い方とともに、地方再生への重責を果たす姿勢も求めておきたい。
拭けない国(2024年10月28日『高知新聞』-「小社会」)
その矢沢さんがソロデビューする前、政界に「栄ちゃんと呼ばれたい」と発言した人がいた。佐藤栄作元首相。長く政権の座にあったが支持率が上がらず、国会答弁によると、「大衆性を持ちたい」という一心からだったらしい。
気持ちは分かる。ただ政治家の愛称や異名は人柄や政治姿勢、実績で自然と生まれるもの。思い違いが痛々しい。結局、最後まで「栄ちゃん」と呼ばれることはなかった。
ところで、「永ちゃん」こと矢沢さんの方は政治的な発言や行動をしない人として知られる。それが10年余り前、音楽雑誌のインタビューで政府や大企業の関係者らを強烈に皮肉ったことがある。「自分のケツ、拭けてるか?」
中小企業の苦境や原発事故などに胸を痛め、権力者の無責任ぶりに堪えかねたようだ。しかし、政界には響かなかった。「政治とカネ」の問題は繰り返され、責任の取り方も不十分。思い違い土壌も変わっていないのか、首相交代で許されると考えた節がある。
自民は派閥の裏金事件に象徴される政治資金問題を解決しようとせず、政治不信を増幅させた。国民の憤怒が選挙を大きく揺るがしたと言えよう。
どのような政権になっても、運営が困難さを増すのは必至だ。
■言葉に行動が伴わず
最大の争点は、やはり政治資金問題である。派閥の裏金が発覚してから1年近く、自民は真相を究明する調査を怠った。
政治資金収支報告書に記載せずに、裏金を公表しなかった議員が「不正使用はない」と説明しても国民が納得するはずはない。
再発防止策も政治資金規正法の小幅な改正に終わった。事件を起こした当事者であるのに、資金の透明化を拒む。国民の目にはごまかしと映ったに違いない。
こうした党の体質を変える期待を背に、石破茂氏は新しい党総裁と首相に選ばれたはずだ。
しかし、首相はぶれた。
政党が議員に支給する政策活動費について、衆院選で「使う」と言った後、批判が上がると「使わない」と修正した。
収支報告書に不記載があった裏金議員を非公認としながらも、当選すれば追加公認する考えを選挙前から示した。
一連の対応を振り返ると、首相は裏金事件を甘く見ていたのではないか。それは自民幹部の発言からも伝わってくる。
折しも国民は物価高に苦しんでいる。世論に誠実に向き合えば、政治家との金銭感覚の差を肌で感じられ、もっと違った対応ができたはずである。
首相が「もう一度政治への信頼を取り戻す」と力説しても、言葉と行動が一致していないことを国民は看破した。
■野党にも変化求める
国会審議を抜きにした重要政策の決定、財源を後回しにして防衛費増額に走る財政運営などから見えたのは、数の力を過信した政権の緩みだ。何より、裏金の対応は岸田前政権の失態である。
同じ与党の公明も「同じ穴のむじな」との批判を甘んじて受け止めるべきだ。裏金事件で自民が非公認とした候補を推薦したのは、政治倫理よりも自らの集票を優先したからにほかならない。
ただし「政権の選択肢」と位置付けるにはまだ物足りない。政権を取るためには、より優れた政策と実行力が必要だろう。
立民や他の野党が国民の期待値をさらに高めるのに何が必要か。鍵を握るのは国会対応だ。
各党は政策の違いがあり、衆院選の協力も限られた。一つの固まりになるのは容易でないものの、協力して与党に対案を提起する機会を増やすことは可能だ。その礎なしに政権構想は描けまい。
国会が言論の府にふさわしい機能を発揮するため、野党も抵抗一辺倒から脱却すべきだ。
国民は政局で混乱する国会を望んでいない。政策課題、政治改革ともに与野党で熟議を重ね、国民の信頼を得なくてはならない。
初めて衆院選の取材に携わった1993年は中選挙区だった。「新党ブーム」で細川連立政権が誕生し、「55年体制」が崩れた選挙である。この時の争点は選挙制度と政治改革。翌年、公職選挙法が改正され、96年の衆院選から「小選挙区比例代表並立制」が導入された
◆振り返ると慌ただしい1カ月だった。9月末に石破茂氏が自民党の新総裁に選ばれた。総理大臣に就くと就任8日で衆院を解散。そのスピードは自民党派閥の裏金事件をなかったことにするかのようにも映り、自民・公明の与党はまさかの過半数割れに追い込まれた。政治改革が争点となった93年の衆院選を再現したかのようである
◆ところで、96年の「創作四字熟語」を振り返ると、「所詮(しょせん)虚句」が優秀作品の一つだった。選挙制度が変わって30年たった今も政治家の言葉は虚言なのだろうか。新選良の公約に偽りはないか、有権者側のチェックもきょうから始まる。(義)
「じゃない方」(2024年10月28日『長崎新聞』-「水や空」)
お約束の決めゼリフを放ってドーンと笑いを起こすのはいつも相方、2人で一つのコンビなのに、知名度には拭いようのない格差…。お笑いコンビや漫才師の“目立たない方”を指していう「じゃない方芸人」という言葉がある
▲もっとも、笑いの世界では、派手にふざける相方を巧みにハンドリングする「じゃない方」の役割も重要だし、そもそもこうした呼称が存在すること自体「じゃない方」の存在感の何よりの証しでもある
▲裏金事件と「政治とカネ」を巡る批判。自己都合最優先と評するほかない性急な解散・総選挙と石破茂首相のさまざまな変節。選挙戦のさなかに表面化した裏金前職への疑似公認。有権者の選択を「自民じゃない方」に傾かせた最大の要因は何だったか
▲投開票から一夜。与党の当選者には逆風下を勝ち抜いた重みをかみ締めてもらわねばならない。野党側も躍進を手放しで喜んでいる時間はないだろう。与野党伯仲の緊張感が久々に国会に戻ってくる。(智)
「政治とカネ」の問題を根本から断ち切る覚悟を国民に示すことができず、政治不信を増幅させたのである。公示後には、裏金事件で非公認とした候補が代表を務める政党支部に、自民党本部が2千万円の活動費を支給していたことが判明し、さらに国民の怒りを買った。
国民の人気が高かった石破茂首相だったが、内閣支持率の浮揚には至らなかった。総裁選での論戦では地位協定改定の公約などで存在感を示したが、首相就任以降トーンダウンした。党内の力学にあらがえず姿勢を後退させた石破首相に国民は指導力の欠如を見たのではないか。
物価高に苦しむ国民の目線にあった施策展開に乏しかった。コロナウイルス禍や能登半島地震、能登豪雨への対処も国民は疑問を抱いてきた。自民議員を中心とした政治家と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の根深い関係も浮き彫りとなった。この「政治と宗教」の問題も未解決だ。長期政権の中で生じた緩みを目の当たりにした国民は自公に見切りを付けた。
今後、政権の枠組みを巡って、さまざまな動きが出てこよう。自公は野党の一部を加えた新たな政権の枠組みを模索する可能性がある。一方、与党を過半数割れに追い込んだ野党は新たな政権構想を国民に提示する必要があろう。どちらにしても国民の納得と理解が得られる枠組みでなければならない。
米軍普天間飛行場返還に伴う辺野古新基地建設の是非などを争点とした沖縄選挙区は1区、2区で建設に反対する「オール沖縄」、4区で建設容認の自民が議席を確保した。3区は28日午前0時現在、開票作業が続いている。
県が求める協議を経ないまま大浦湾側の工事に着手するなど、新基地建設を進める政府の姿勢は一層強硬になった。しかし、新基地ノーの民意は依然として根強さを維持している。
新基地建設計画は完成時期のめどが立たないまま事業費は膨張を続けるなど、計画の実現性や合理性の欠如が指摘されてきた。仮に新基地が完成したとしても、米軍が引き続き普天間飛行場を使用し続ける可能性がある。
目の覚めるような政治を(2024年10月28日『琉球新報』-「金口木舌」)
シンガー・ソングライター斉藤和義さんのアルバム収録曲「僕は眠い」は、政治家への皮肉を歌詞に込める。選挙で笑顔を見せる候補者の姿を描きながらも、本当は裏の顔があるのだと見透かす
▼候補者が有権者に訴える公約については「きれい事」だと突き放す。そして「地位と名誉と金が欲しいと、ハッキリ言えよ」と歌っている。国民と向き合わずに私腹を肥やす権力者への不信感は根強いようだ
▼衆院選は投開票を終え、国民が選んだ議員が新たなスタートを切る。選挙期間中は街頭演説やイベント会場などで候補者の姿を見かけ、公約を耳にした。国民の暮らしを良くするために施策を進めると感じさせてくれた
▼私たちが1票を託した議員は、本当に公約を実現してくれるのかと不安も残る。「地位と名誉と金」のために「きれい事」だけ並べていなかったか。政治不信をぬぐい去る活動に期待したい
2009年の政権交代の再来を思わせるような、巨大なうねりが起きた。
自民派閥の裏金事件で高まった不満や不信が爆発。有権者は政権へ明確にノーを突き付けた。
今回の選挙で基地と経済が変わらぬ二大争点であることも明らかになった。
波に乗る自公が、その勢いで1区を制するのか、それとも全国で唯一、共産党候補が死守する「平和の1議席」を守り抜くことができるのか。その動向が注目されていた1区は赤嶺氏が自民の国場幸之助氏を振り切り選挙区で4連勝を果たした。
■ ■
四つある選挙区のうち二つを共産、社民が制したことは、戦後から今に至る沖縄の苦難の歴史を抜きにしては考えられない。若い層にどのような言葉を届けていくかが、両党の大きな課題である。
オール沖縄は辺野古を抱える3区で連続して敗れており退潮傾向に歯止めがかかったとまではいえない。 流れはどこにあるのか。党派別の得票率の推移や特に無党派層がどのように動いたかを詳しく分析する必要がある。
■ ■
今選挙は解散から投開票までわずか18日間という超短期決戦だった。物価高に対応する現金給付策や減税などさまざまな政策が飛び交ったが、財源を含めた政策論争は深まらなかった。
選挙期間中、自民党の候補者が公然と石破氏を批判するという異様な光景もみられた。選挙後の党内融和は容易ではない。