朝ドラといえば昭和以前の時代を生き、戦争が描かれるのが定番のイメージだが、平成以降を舞台にしたオリジナル人物の作品も意外に多い。しかし、主な視聴者である昭和世代にはあまり刺さらないことが多いような……。2000年以降に放送された作品で、つまらなかったと思うワースト7は?
9月30日にスタートしたNHKの朝ドラ『おむすび』。ヒロインの橋本環奈が、平成元年生まれのギャルを演じるとあって放送前から大きな話題に。しかし、平成のギャル文化がテーマでは、朝ドラの主たる視聴者層である60代以上には刺さらないのでは……と不安視する声も多い。
「そもそも平成は、朝ドラの舞台としては、物足りなくなりがち」と言うのは、漫画家でドラマウォッチャーのカトリーヌあやこさん。
「明治・大正・昭和は、戦争や高度経済成長など、歴史的なターニングポイントがいくつもある激動の時代。そのため中高年が好む朝ドラが生まれやすいんです。それに対して平成は時代としても短く、つい最近ということもあり、名作が生まれにくい設定であると思います」
そこで、平成が舞台の朝ドラで、面白くなかった作品をランキング。40代~60代の男女500人へのアンケートの結果、つまらないと評価された朝ドラはどの作品? なお、同数4位が3作品と混戦状態だったため、今回は、ワースト7を発表する。
「集中して見ていないと置いていかれる」
ところが肝心のストーリーについては、「どんな話か思い出しにくい」(千葉県・45歳・男性)、「静かで地味な印象しか残っていない」(栃木県・50歳・女性)など、イマイチな評価。カトリーヌさんも、「朝ドラというより、映画のようでした」と振り返る。
「清原さんが表情で訴えかけるシーンが多いので、集中して見ていないと置いていかれてしまうんです。ちょっと目を離したすきにストーリーが追えなくなって、モヤモヤしたという人は多かったかもしれません」(カトリーヌさん)
「てっきりヒロインがパイロットを目指す話だと思っていたら、いつの間にかネジ工場の話になっていました。オープニング映像では紙飛行機が印象的に使われ、さらに第1話の冒頭ではヒロインが飛行機を操縦していたので、アレ?という気持ちに」(カトリーヌさん、以下同)
「印象がほとんどない」
同数4位の2つ目は、土屋太鳳主演の『まれ』(2015年)。
「ヒロインの行動が行き当たりばったりで、ついていけなかった」(千葉県・56歳・女性)、「あれこれ手を出すヒロイン。何がしたいのかわからなかった」(北海道・51歳・女性)、「都合の良いストーリー展開」(東京都・54歳・男性)と、シビアな意見が多かった。
「物語全体を通して『夢を持つことは素晴らしい』をテーマにしているはずが、肝心のヒロインの夢がブレブレ。パティシエを目指しているかと思ったら、漆器屋の女将になって、でもやっぱりケーキ屋がやりたい……と、よくわからない展開が続きました。そんな状態なのに、ヒロインは何をやってもうまくいくので、そのあたりも視聴者が冷めてしまう原因だったと思います」
3つ目の同数4位は、『ちりとてちん』(2007年)。
貫地谷しほり演じるヒロインが、落語家を目指す様子を喜劇仕立てに描いた物語だが、「落語に興味がなかったのでハマらなかった」(東京都・60歳・女性)と、そもそものテーマである落語に引っかかる人が多数。また、「話が破綻していた」(宮城県・55歳・女性)、「ストーリーについていけなかった」(東京都・61歳・男性)という意見も多かった。
「『ちりとてちん』は群像劇なので、脇役にもスポットが当たる構成になっています。そのため物語があっちこっちに飛ぶんです。落語が苦手で、そのうえキャラにもハマらなかった人には、ハズレの作品だったと思います」
第3位は、『ウェルかめ』(2009年)。
ヒロインの倉科カナが「世界につながる」雑誌編集者を目指すストーリー。「ところどころギャグのような演出があるが、どれも寒くて、しらけてしまった」(埼玉県・52歳・男性)と、内容に触れる声はまだいいほうで、「何の話か思い出せない」(茨城県・55歳・女性)、「印象がほとんどない」(神奈川県・48歳・女性)など、地味なイメージを持つ人が多かった。
「このドラマは、最初から最後まで大した事件が起きないんですよね。ヒロインが葛藤しないので、続きがまったく気にならない。虚無な朝ドラでした。『ウェルかめ』の次に放送されたのが、社会現象を巻き起こした『ゲゲゲの女房』。直後に大ヒット作が来てしまったので、余計に影の薄い作品になってしまったのかもしれません」
「支離滅裂な内容で見ていて腹が立った」
2位は『半分、青い。』(2018年)。片耳失聴のハンディキャップがあるヒロインを永野芽郁が演じた。「ヒロインが漫画家を目指すまではすごく面白かった」とカトリーヌさん。しかし、漫画家の夢に挫折した後から雲行きが怪しくなる。ヒロインが突然、五平餅屋に転身したかと思うと、今度は扇風機の開発を始めるという謎の展開に。
アンケートでも「ヒロインの夢がコロコロ変わる」(大阪府・59歳・女性)、「だんだんつまらなくなっていった気がします」(佐賀県・42歳・男性)など、物語の方向転換に戸惑ったという声が多かった。SNSでは迷走する物語を揶揄して、『半分白目』という、不名誉なハッシュタグが作られるまでに。
「SNSは、視聴者たちの物語に対するツッコミで盛り上がっていました。見方を変えれば、それだけ注目度の高い作品だったといえるかもしれませんね」
そして第1位は、圧倒的票数を獲得した『純と愛』(2012年)。朝ドラ史上屈指の問題作としても有名な本作。
アンケートでは「支離滅裂な内容で、見ていて腹が立った」(千葉県・50歳・男性)、「超常現象でも起きているかのような理解に苦しむ演出、ストーリーだった」(宮城県・60歳・男性)、「最終回まで、主人公が不幸で終わるという斬新かつ残念な作品」(大阪府・54歳・男性)など、ネガティブな意見が多かった。カトリーヌさんもこの結果には「やっぱり、という感じです」と納得。
「ハッピーエンドで終わる従来の朝ドラに対し、脚本の遊川和彦さんが『すべてが不幸になったらどうなるだろう』という社会実験として生まれたのが、『純と愛』では? ヒロインがとことん不幸になるので、見ているほうも朝からしんどい気持ちになりました」
「朝ドラはストーリーがパターン化しているといわれがちです。しかし『純と愛』を経たことで、パターン化してもいいから、幸せな朝ドラが見たいのだと気づかされました」
『おむすび』はまだ始まったばかり。平成のギャルは、朝ドラの歴史にどんな爪痕を残すのだろうか?
取材・文/中村未来