2024年10月27日に投開票日を迎えた衆議院議員総選挙は、政権与党の自由民主党と公明党が過半数を下回り、立憲民主党や国民民主党などの野党勢力が議席を大幅に増やしました。自公が過半数割れを起こすのは15年ぶりでしたが、与党も野党も単独で過半数を獲得することができず、2009年衆院選の時のような政権交代には至っていません。このコラムでは、政治不信が渦巻く中で行われた今回の衆院選でそれぞれの議席に寄せられた民意を読み解いてみます。
今回の自由民主党の「負け方」とは?
まず、今回の選挙での自民党の「負け方」を見ていきましょう。
今回の議席獲得数と前回(2021年衆院選)時の獲得議席数と比較すると、自民党は190議席(うち小選挙区132、比例代表58)で前回よりも57議席の大幅減となりました。対して、立憲民主党は148議席(うち小選挙区104、比例代表44)で前回から52議席の大幅増となりました。
自民の大幅減につながったのが、自民党派閥による政治資金パーティーの収入不記載問題を受けて、党からの離党勧告・非公認・比例重複を認めないといった処分です。下村博文氏(東京11区)や高木毅氏(福井2区)、武田良太氏(福岡11区)や丸川珠代氏(東京7区)など閣僚や党役職の経験者も含めて処分を受けた46人中28人が落選しました。
さらに追い打ちをかけたのが、都市部を中心とした小選挙区での競り負けです。例えば、愛知県での自民の小選挙区獲得議席数は前回が15選挙区中11選挙区だったのに比べて、今回は16選挙区中3選挙区にとどまりました。同県内では残る小選挙区を立憲民主党が8、国民民主党が4、日本保守党が1獲得しています。
また、野党が統一候補を立てずに「乱立」すれば与党の候補が有利とされてきた法則も崩れるケースが散見されました。2023年4月の補選で7人が立候補した千葉5区では、野党票が割れて自民党の英利アルフィヤ氏が勝利しました。今回も自民・立憲・共産・国民民主・維新・参政と6人が立候補しましたが、立憲の矢崎堅太郎氏が小選挙区で勝利し、英利氏と国民民主の岡野純子氏が比例当選となりました。
東京15区でも自民・立憲・共産・無所属2人の混戦となりましたが、立憲・酒井菜摘氏が次点の須藤元気氏(無所属)に1125票差で、3番手の自民の大空幸星氏に4020票差の僅差で勝利しました(大空氏は比例当選)。
一騎打ちでも厳しい結果が出ました。茨城7区では自民の永岡桂子氏と無所属新人の中村勇太氏の一騎打ちとなり、9963票差で中村氏が初当選(永岡氏は比例当選)。広島4区では、自民の寺田稔氏と維新の空本誠喜氏との一騎打ちで2054票差で、空本氏が小選挙区当選、寺田氏が比例区当選しました。
石破内閣発足からわずか8日後という戦後最短の選挙日程が組まれた背景には、内閣支持率が高いうちに、野党勢力がまとまらずに「一強多弱」の構図のまま選挙戦に突入することで選挙戦を優位に進めようとする思惑も見え隠れしていました。しかし、結果としては突然の処分に現場は混乱。野党の乱立が「反自民党の選択肢・受け皿」として機能した結果、自民党が目標としていた「自公過半数」を割り込み、連立与党を組む公明党も石井啓一代表が落選し、常勝・関西の一角を担う大阪の小選挙区を全て落とすという惨憺たる結果を招きました。
国民の最大の関心は「裏金」ではない。躍進した国民民主党がつかんでいたものとは?
投票マッチングの集計
対して、野党第一党の立憲民主党の「勝ち方」はどうだったのでしょうか。同党の戦略は「裏金追及の一点突破」で、先月代表に就任した野田佳彦代表は選挙期間中に不記載問題を起こした自民党議員の選挙区を精力的に回り、政権交代の必要性を訴えました。
一方で、躍進と言える結果を残したのが前回獲得議席の2倍以上に相当する28議席を獲得した国民民主党です。党の公式アカウントや代表の玉木雄一郎氏の個人アカウントから発信される動画が人気だったことに加えて、選挙ドットコムが選挙期間中に実施した、利用者と政党の政策の一致度を測定できる「投票マッチング」で最もマッチ率が高い政党でした。
投票マッチングでは利用者の約8割が支持政党がない「無党派層」で、関心の高い政策として挙がったのは「消費税減税」や「少子化対策への財源配分」「年収の壁撤廃」でした。今回の争点として「政治とカネ」ももちろん重要でしたが、生活に近い関心が高い政策へも道筋を示したことが支持拡大に広がったことが伺い知れます。
一つは、「政治とカネ問題に対する感覚のズレ」です。不記載問題は選挙前から「裏金問題」として追及され続けてきた問題でしたが、その追及が止まない内から公明党が処分を受けた一部の自民議員を推薦したり、自民党から非公認候補の支部への政策活動費を支給したりしたことで、当初は自公過半数も視野に入っていた情勢が悪化する事態となりました。
そしてもう1つは政権与党として「政治とカネ」以上の争点を提示できなかったことです。立憲民主党の一点突破作戦もあってか、裏金問題以外の政策論争は埋没した印象を受けます。後半、苦戦が報じられると自民党は野党勢力には政権を担う力がないと批判するようになりましたが、「自公なら大丈夫」だと思わせる判断材料が十分に提示しきれなかったことは痛手につながったのではないでしょうか。
そして、もう1つが投票層の変化です。選挙のプロや政治記者ですら「今回の選挙情勢の予測は難しかった」と口をそろえる。
今回の投票率は前回の55.93%を下回り、戦後最低水準と同程度になる見込みです。従来であれば、政党支持層は選挙に行き、無党派層は行かない、と言われてきましたが、今回の結果を見る限りでは、政党支持層(主に自民)が選挙に行かず、その代わりに無党派層が投票に行ったことで投票率を(低いながら)維持したという仮説が立てられます。選挙ドットコムが事前に行った選挙区別の情勢調査でも、苦戦している自民系候補は「自民支持層が固めきれていない」点が共通していました。「好き」の反対語は「嫌い」ではなく、「無関心」です。
今後の政局は混乱含み。健全な緊張関係になれるか
今回の改選を踏まえた首班指名は11月頭にも予定されており、与野党双方が次の政権構築に向けた多数派形成の在り方を模索する動きが水面下では始まっているとみられます。自公には厳しい審判が下っていますし、一方の立憲民主を始めとした野党勢力にも政権交代に向けた準備が十分に整っているとは言い難い状況です。
タイミングが早すぎる、準備ができていない、などと関係者からは悲鳴にも似た声が多かった今回の解散総選挙ですが、どのような選挙結果になろうとそこに現れた民意をくみ取り、ましな世の中にしていくのが政治の役割です。そして今回の結果を決めたのはあなたの投じた1票であり、あなたの投じなかった1票でもあります。これからの政治に健全な緊張感が取り戻されるのか否か、ぜひご自身の目で確かめていただきたいと思います。(選挙ドットコム編集部 伊藤由佳莉)