逮捕のリスクを顧みず「警察」さえも詐欺に利用…「総額6億5000万円」を騙し取った「地面師」たちに不動産業界震撼(2024年10月28日『現代ビジネス』)

キャプチャ
Photo by gettyimages
Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。
そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。
同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。
キャプチャ
『地面師』連載第39回

 

 

印鑑証明の偽造が発覚
キャプチャ2
Photo by gettyimages
地道は土地代金の決済取引日に指定された2015年9月10日、諸永総合法律事務所事務員の吉永に指示されるがまま、手数料込みの土地購入代金6億5000万円を銀行口座に振り込んだ。口座の名義は諸永総合法律事務所だ。だが、いざ法務局に所有権移転の登記申請をすると、受け付けてくれない。そこで初めて、印鑑証明の偽造が発覚したのである。
法務局からとって返した地道は、むろん取引窓口である諸永総合法律事務所の吉永を、どうなっているのかと問い詰めた。が、一向に要領を得ない。吉永らの口を借りれば、すべては山口をはじめとする取引当事者たちからの指示であり、弁護士事務所は単なる窓口に過ぎない、という。それが、彼らの言い分である。
もとよりそれもあり得ない。が、ともあれ地道たちは山口や呉を探した。すると、呉になりすました老人は言うまでもなく、呉の運転手兼代理人と称していた山口とも連絡が取れなくなる。こう怒りを隠さない。
「その時点でも、諸永事務所の吉永は『印鑑登録が変更されている可能性がある』なんて言い訳をしていたけど、信用できない。吉永は『呉さんは築地の聖路加(病院の)レジデンスにいる。あそこは入居するのに何億円も保証金が必要だから、本人に間違いない』と言い張っていました。しかし病院に問い合わせてみると、案の定。呉なんて人間は入居していませんでした」
 
ここまで来ると時間稼ぎと見るほかない。言い訳をしているあいだになりすましのニセ老人さえいなくなれば、あとは自分たちも騙されたと言って逃げ切れる。そのための取り繕いではないだろうか。地道はそう考え直して彼らに突っ込んだ。
意外な場所で捕まった山口
キャプチャ3
Photo by gettyimages
「だから吉永には、すぐに呉さんに連絡を取るよう強硬に迫りました。『諸永事務所は呉さんの代理人なのに、なぜ連絡一つ取れないのか』と詰め寄ると、彼は『いつも山口を通じて連絡しているからつながらない』なんて調子なのです」
それが15年秋から冬にかけてのことだ。地道たちは必死だ。山口の消息を意外なところでつかんだ。折しも山口が暴行事件で築地警察署に逮捕されていたのである。だが、そこでも地道は地団太を踏まされた。
「警察署なら逃げられない、と築地署に面会に行きました。しかし、当人が会わないと拒否する。それで会えずじまいでした。そのあと、山口はいつのまにか釈放されていた。以来、山口とは今も連絡が取れていないのです」
当然のごとく地道たちは、別の警察署に駆け込んだ。最初は本物の呉の住所のあった吉祥寺を管轄する武蔵野警察署に相談したが、あまり捜査に乗り気でないと感じ、伝手をたどって12月に入り、神田の万世橋警察署に被害を届け出た。そうして山口やニセの呉、さらに諸永事務所の吉永らに対し、刑事告訴に踏み切ったのである。
 
森 功(ジャーナリスト)
 
【関連記事】