衆院選きょう投開票に関する社説・コラム(2024年10月27日)


きょう投開票 主権者の意思示す時だ(2024年10月27日『北海道新聞』-「社説」)
 
 衆院選はきょうが投票日だ。
 3年ぶりの政権選択である。岸田文雄前政権への評価と、発足間もない石破茂政権の信任の是非を判断する機会でもある。
 議会制民主主義の根幹を成すのが選挙だ。結果によって国政の方向性が決まり、国民一人一人の暮らしを左右する。
 自民党の派閥裏金事件を巡る「政治とカネ」の問題が大きな争点となった。世論調査では、重視する政策のトップは「景気・雇用・物価対策」だった。
 12日間の選挙戦を通じ、各党の理念や政策の違いが一定程度浮き彫りになってきた。
 何に重点を置いて投票するか、個々の判断に委ねられる。主権者は国民である。主体的に責任ある1票を投じたい。
 投票に行かない人の中には「1票では何も変わらない」との諦めに似た思いもあろう。
 だが過去の衆院選を振り返れば、千票差以内で当落が決まった選挙区が全国で毎回のように出ている。50票差の事例もあった。小選挙区で落選しても、惜敗率によっては重複立候補した比例代表で復活が可能だ。小さなポイント差が明暗を分ける。
 1票は重い。その積み重ねの先にしか政治は成り立たない。
 権力監視は投票から始まる。棄権は多数派への白紙委任と見なされても仕方ない。間違った方向に進み、暴走した時には遅い。投票する人が多ければ多いほど、政治家は有権者の目を意識する。1票は決して無駄にならないことを確認したい。
 2021年の前回衆院選の道内投票率は58.79%と、17年の前々回に回復した60%台を再び割り込んだ。特に若者の投票率は低い。政治が身近に感じられないのかもしれない。
 考えてみたい。進学や就職、結婚など、個人的な悩みであっても社会の制度に起因する場合も少なくない。制度を変えるには政治を動かすしかない。思い描く社会像を基準に政党・候補者を選べばいいのではないか。
 能登の被災地では投票所が集約された。投開票作業は大変な労苦であろう。道内でも投票所を減らしたり、投票時間を繰り上げる自治体もあるが、投票の機会は最大限保障したい。
 投票を機に思いを致したいことがある。18歳以上の国民誰にも与えられる選挙権が、日本で暮らす外国籍の人には認められていない。納税義務を果たしていてもそうだ。外国人に地方参政権を付与する議論は国会でたなざらしとなっている。
 投票したくてもできない人が多くいる。選挙権を行使できる権利と責任をかみしめたい。

(2024年10月27日『東奥日報』-「天地人」)
 
 高校サッカー監督からJ2プロクラブ監督へと前例ない転身をやってのけ、就任1年で見事頂点に導く。現在もJ1初昇格ながら優勝争いを演じるFC町田ゼルビアの黒田剛監督。今や押しも押されもしない名将の一人だ。
 近著「勝つ、ではなく、負けない。」(幻冬舎)で結果を出すリーダー論を説く。ベースはサッカー不毛の地だった本県にありながら青森山田を名門に育て上げた経験である。30年の教員生活に基づき「言語化」の重要性を強調する点が興味深い。
キャプチャ
 相手に伝わらない声かけは単なる自己満足-と断じ、相手が「欲するタイミング」で「聞きたい言葉をかける」のがポイントとする。「コミュニケーションの主人公は常に聞き手」だとも。チームや選手のパフォーマンスを左右する言葉の力。重みを知る指揮官の見識は説得力に富む。
 「言葉が命」といわれるのは政治家もしかり。衆院選の選挙運動期間中、候補者や弁士の言葉は有権者の心にどれほど響いただろう。毎度のことながら「改革」「刷新」「成長」といった聞き心地のいい単語が乱発されたと感じる。
 もちろん演説は自分の意見・主張を述べるもの。しかし、聞く側の腹に落ちるかどうかは別だ。主権者たる聞き手の疑問や不安が解消されるように説明は尽くされたか。きょうは投開票日。その結果に表れる、発した言葉の影響は決して少なくない。

’24衆院選 きょう投票 期待も不信も1票に託そう(2024年10月27日『河北新報』-「社説」)
 
 自民党による政治資金制度改革を是とするか。政権交代を促し、立憲民主党などの野党に政治改革を託すか。
 第50回衆院選はきょう、投開票日を迎えた。1日に就任した石破茂首相(自民党総裁)が、国民の信任を仰ぐ。
 選挙戦では、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治改革の在り方が最大の争点となった。野党各党は、事件の真相解明や改正政治資金規正法の不備などを挙げ、批判を繰り返した。
 石破首相は、裏金に関係した前議員らを非公認や比例重複立候補なしとして厳しい姿勢を強調した。だが終盤になり、自民が非公認候補を代表とする党支部に対し、政党交付金から活動費2000万円を支給したことが判明した。
 法的に問題はなく、自民側は「候補者に支給したものではない」と強調するが、政党支部は政治資金管理団体とともに政治家の「財布」とされる。自民が抱える「政治とカネ」の問題の根深さがあらためて浮き彫りになった。
 野党が一斉に反発し、さらに批判を強めたのは当然だろう。ただし、有権者が必要とするのは批判合戦ではなく、投票の判断材料だ。政治資金の透明性を確保し、政治改革を進めるための具体策は示せただろうか。
 少子高齢化で、将来不安が膨らむ中での政権選択選挙だ。共同通信の直近のトレンド調査で、有権者が最も重視する公約は「景気・雇用・物価高対策」だった。賃金はやや上向いたものの、各党が訴える経済活性化策は急速な人口減に耐えうるのか。経済対策には一定の財政出動が求められる。財政健全化との両立についても問うべきだ。
 公示4日前には、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞に決まり、平和国家としての立ち位置が関心を集めた。核兵器廃絶に向けた道筋をどう描くか。争点としては埋没した感があるが、各党の主張を吟味する必要がある。
 今回の衆院選は「1票の格差」是正を目的に、小選挙区定数「10増10減」などに伴う区割りが初めて適用された。
 共同通信の試算では14日現在、全289選挙区の格差は最大2・06倍。2020年国勢調査に基づく改定とはいえ、司法が「違憲状態」とする2倍を超えた。選挙制度について、抜本改革の必要性を再認識する機会となったのではないか。
 懸念されるのは投票率の低迷だ。前回衆院選小選挙区投票率は全国55・93%と戦後3番目に低かった。年代別では20代が36・50%で最も低く、4回連続で30%台だった。
 政治への期待にしろ不信にしろ、民意を国政に反映させるには有権者一人一人が投票行動を取ることが欠かせない。政治に緊張感を持たせるためにも、各党や候補者の政策を比較し、貴重な1票を投じたい。

[2024衆院選]きょう審判 思い込め1票投じたい(2024年10月27日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 第50回衆院選の投開票日を迎えた。自民・公明政権が過半数を維持するのか。立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主など野党が勢力を拡大できるのか。県内3小選挙区をはじめ、全国的にも各地で接戦が伝えられる。近年の国政選挙にはなかったほど1票が重い意味を持つ選挙といえそうだ。
 「日本創生」石破茂首相(自民党総裁)。
 「古い政治を打ち破れ!!」馬場伸幸代表(日本維新の会)。
 「徹底した政治改革」石井啓一代表(公明党)。
 「変える。」田村智子委員長(共産党)。
 「若者をつぶすな」玉木雄一郎代表(国民民主党)。
 「失われた30年を取り戻す」山本太郎代表(れいわ新選組)。
 衆院選公示前の12日、日本記者クラブ主催の討論会に参加した与野党7党首がボードに書いた言葉だ。短い一言一言にそれぞれの決意が端的に表されている(福島瑞穂社民党党首、神谷宗幣参政党代表は収録動画参加)。
 7党首のうち、自民、公明、立憲民主、共産の4党首は就任して初の大型国政選挙となる。注目されるのは野田氏の掲げた「政権交代」。衆院選は常に政権選択選挙であるが、前回や前々回は与党が大勝した。しかし、今回は与党が過半数を取れるかどうかが微妙な情勢とみられている。
 維新の「打ち破れ」、共産の「変える」は自民党の派閥裏金事件を踏まえた一言だろう。与党の公明も「政治改革」を掲げた。事件が発覚してから初の全国的な国政選挙でもある。
 「政治とカネ」の問題がくすぶり続ける限り、国民の政治不信は収まらない。改革に後ろ向きな政権トップが熱弁を振るっても、その言葉は説得力を持ち得ず、国政の停滞を招く恐れすらある。もし徹底した改革を求めるなら、その思いを込めた1票を投じることもできよう。
 もちろん、選挙の争点は政治改革だけではない。人口減少や高齢化などで疲弊が深刻な地方を元気づける政策をどう構築するか、長引く物価高に苦しむ家計をいかにして守るかなど、秋田に暮らすわれわれにとっても身近で切実な課題がある。
 賃上げの促進、少子化対策社会保障なども関心が高い。安全保障、憲法などは国の針路を左右する重要テーマだ。
 候補者、政党の全ての主張を比較するのは簡単なことではない。自分が関心のある政策を選んで見比べてみるのも一つだ。
 選挙戦の終盤になって、与野党3党首が本県入りして応援演説した。計11人が立候補した県内3小選挙区が大接戦であるゆえだろう。政権交代が叫ばれる激戦の衆院選に投票する機会はめったにない。ぜひとも投票所に足を運び、思いを込めた1票を投じてもらいたい。

(2024年10月27日『秋田魁新報』-「北斗星」)
 
 自動車の普及で死亡事故が増え「交通戦争」という言葉が使われていた1970年のことだ。交通遺児の文集を読んで経済的に苦しんでいることを知った秋田大学の学生6人が街頭募金を企画した。他大学にも呼びかけて全国一斉で実施し、集めた分を奨学金とした。「あしなが学生募金」の始まりである
▼本県で産声を上げた活動は半世紀が過ぎた今も、毎年春と秋に全国で続けられている。昨日、JR秋田駅ぽぽろーどで学生らが募金箱を手に熱心に呼びかけ、道行く人が続々と寄付していた
▼物価高で家計が厳しくなる中、本年度の高校奨学金の申請者は最多となり、募金の重要性が増しているそうだ。経済的な理由で就学を諦めずに済む社会であってほしい―。活動する側と寄付する側の願いの積み重ねが、誰かの助けになっている
▼子どもたちの未来を思って寄付する市民の姿に選挙の投票が重なって見えた。今日は衆院選の投開票日。自民党派閥裏金事件を巡る対応が最大の争点だろう。ただ問われるのはそればかりではない
▼日々の暮らしは大変。将来の不安も切実だ。多様性の尊重を求める声が高まり、安全保障環境は厳しさを増している。政治に関心がないという人でも、未来の社会はこうあってほしいとする願いは何かしらあるのではないか
▼投票はそうした一人一人の意思表示であり、その積み重ねが政治を動かす。棄権したり白票にしたりすることなく、それぞれの視点で投票先を選んでほしい。

衆院選・きょう投票/自分の意思を1票に託そう(2024年10月27日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 衆院選は投票日を迎えた。3年ぶりに国のかじ取り役を選ぶとともに、進むべき道を提案する重要な機会となる。有権者一人一人の考えを1票で示してほしい。
 石破新政権の信を問う選挙は、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革が最大の争点となっている。「政治とカネ」の問題に最終盤まで注目が集まり、経済財政や社会保障、子育て、エネルギーなどの課題を巡る各党の公約が有権者に浸透したとは言い難い。
 本県をはじめとする地方は人口減少に歯止めがかからない。物価高の傾向は変わらず、家計の負担は増している。育児休暇を取る男性は増えているものの、今も多くの女性が働きながら家事や育児を一手に担っている。
 暮らしを見つめれば、変えたいと思う現状があるはずだ。それに対し、各党、候補者はどんな政策を訴えているだろう。有権者は、実行性を裏付ける財源を含め、公約を見極めることが重要だ。
 県内有権者を対象にした福島民友新聞社などの世論調査では、投票に「必ず行く」と答えたのは7割超で、「なるべく行く」と合わせて9割を超えた。前回も事前調査は同水準だったが、実際に投票した人は6割にとどかなかった。
 棄権はどんな政策が実行されようとも、異議を申し立てる権利を放棄しているのと同じだ。世界には選挙が行われない非民主主義国などがあるが、そうした体制への批判も説得力を持たない。
 国会議員らとの関わりが薄い有権者にとって、選挙は自らの意見を政治に伝える数少ない機会だ。棄権せず投票所に足を運ぼう。
 投票率の向上が喫緊の課題である若者は、少子高齢化で保険料や税の負担が増す一方、サービス低下で割に合わない思いをする恐れのある世代ということを知ってほしい。負担を一方的に押しつけられぬよう、もっと若者の声を政治に反映させる必要がある。
 本県は東日本大震災東京電力福島第1原発事故からの復興の途上だ。事故から13年以上が過ぎても帰還困難区域がある。中間貯蔵施設にある除染土の県外搬出などの難題が山積しているにもかかわらず、復興に対する国の姿勢の後退が指摘されている。
 まず県民を代表する国会議員の資質を高めていく必要がある。投票率を上げ、本県の国政への関心の高さを示すことが大切だ。
 国のかじ取り役は時に、力任せに物事を決めたり、道を誤ったりする。有権者は選挙で軌道修正を図りながら、自分や福島、日本の将来をより良くしていこう。

衆院選2024 きょう投票 まず、あなたから審判を(2024年10月27日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
有権者の審判の行方は。期日前投票で投じられた1票=長崎市で2024年10月22日午後3時6分、樋口岳大撮影
 政権を選択する衆院選は投票日を迎えた。自民党の派閥裏金など「政治とカネ」の問題や、発足間もない石破茂内閣の評価などが問われる。大きな岐路である。
 何ともあわただしい選挙戦だった。新内閣が発足してから、まだ1カ月もたっていない。
 国会の予算委員会での論戦も経ず、石破首相は衆院を解散した。政権の顔を替えることによる刷新効果を狙った日程だった。政治資金問題や内外の課題に関して、与野党から有権者に十分な判断材料が示され、議論を尽くす時間が確保されたとはいいがたい。
 そもそも衆院選は公示からの選挙運動期間が12日間しかない。公職選挙法制定時は衆参両院議員選挙とも30日間だったが、選挙費用がかかるなどとして短縮された。政権選択の選挙にもかかわらず、衆院選は選挙区が狭いという理由から参院選の17日間よりも短い。
 衆院選投票率は2012年に6割を切って以降、低迷している。前回21年は約56%だった。回復基調に反転できるかも、審判の行方とともに注目される。
 投票率はつまるところ、有権者一人ひとりが投じた票の集計だ。まずは、あなたが審判することが大切である。
 とりわけ若い世代の投票率が低いのは「自分が1票を投じても政治は変わらない」というあきらめに似た感情からかもしれない。
 だが棄権は、政治家によって、白紙委任を受けたかのように扱われる恐れがある。有権者が政治に影響を及ぼすことができる最大の手段は投票である。
 衆院選郵政民営化が争点となり自民党が圧勝した05年の投票率は約68%、旧民主党政権交代を実現した09年は約69%だった。有権者の強い関心がうねりや変化を生んだケースといえよう。
 選挙の焦点は「政治とカネ」を巡る問題だ。自民党が本当に公約通りの「ルールを守る」政党に変わったかどうかが問われている。
 物価高対策や少子高齢化・人口減少に伴う社会保障制度改革、安全保障環境の変化への対応など各党のビジョンが試される。
 課題は多く、1票の重さは増す。社会の将来は、今の政治によって方向づけられる。国民の権利を忘れずに行使する日としたい。

きょう投票 政権の枠組み左右する選択だ(2024年10月27日『読売新聞』-「社説」)
 
 多くの小選挙区が、まれに見る与野党の接戦となっている。有権者の選択が政権の枠組みを左右する、かつてない重い1票となる。
 第50回衆院選は、きょう投票日を迎えた。3年ぶりとなる政権選択の選挙は、自民、公明の与党を信任するのか、それとも、立憲民主党など野党に政局の主導権を委ねるのかが焦点だ。
 自民党は2012年の衆院選以降、国政選挙で8連勝し、「1強」の地位を保ってきた。だが、今回は政治とカネの問題などで逆風を受け、苦戦を強いられた。
 一方、野党は多くの選挙区で競合したが、立民や国民民主党議席を上積みするとみられている。与野党が伯仲する可能性がある。
 石破首相は、内閣の発足から8日後に衆院を解散し、26日後を投開票日と決めた。いずれも現行憲法下では最短の日程だ。
 このため自治体の準備が間に合わず、「入場券」の発送が遅れるケースが相次いだ。その結果、総務省によると、20日までの期日前投票の利用者数は467万人で、前回衆院選の同時期に比べて2割程度減少した。
 選挙を急いだことが、投票に悪影響を与えたとしたら問題だ。
 衆院選投票率はかつて70%前後あったが、12年以降は4回連続で50%台に低迷している。有権者の半数近くが棄権しては、民主主義の根幹が揺らぎかねない。
 特に20代、30代の若い世代の投票率の低さは深刻だ。前回衆院選では20代が36・5%、30代が47・13%にとどまった。
 少子化対策を含む社会保障政策や税制を政治がどう改めるかで、若い世代の暮らしや将来の負担は大きく変わるはずだ。選挙での意思表示を軽視してはならない。
 今回の選挙戦では、政治とカネの問題が大きな争点となった。
 自民党は公示の前、公認候補が代表を務める党支部に対し、税金が原資の政党交付金から500万円の「公認料」と、1500万円の「活動費」を支給した。
 ただその後、政治資金問題を理由に非公認とした候補者の支部にも「党勢拡大のための活動費」として2000万円を出したため、野党は「非公認というけじめは見かけ倒しだ」と批判を強めた。
 自民は、非公認候補が資金を選挙に使うことはない、と反論したが、選挙中に公認と同額を支給していては、有権者の理解を得るのは容易ではなかろう。

国民審査で司法に意思示そう(2024年10月27日『日本経済新聞』-「社説」)
 
 最高裁裁判官に対する国民審査が27日、衆院選投開票に併せて実施される。
 主権者として司法に対する意思を示す大切な機会だ。「憲法の番人」の職責を任せるのにふさわしい人物か否か。衆院選同様、じっくりと考えて投票したい。
 国民審査は憲法に定められた日本独特の制度だ。ふさわしくないと考える人に「×」をつけ、「×」が有効投票の過半数になると罷免される。「○」「△」などを記入すると無効になる。
 裁判官15人のうち、今回は就任後初めて衆院選を迎えた6人が対象となる。1949年に初めて行われて以降、罷免された例はない。だからといって制度そのものに意味がないと考えるのは誤りだ。
 最高裁の判断は人々の暮らしや権利、企業活動などに重大な影響を及ぼすことが少なくない。国民が直接意思を示すことで、裁判官は民意を意識する。国民が司法に関心を持つきっかけにもなる。
 海外に住む日本人が国民審査に投票できないのは憲法違反だとした大法廷判決(2022年)は、主権者である国民の権利であり「選挙権と同様の性質がある」と断じた。その結果、今回から在外邦人が投票できるようになった。
 前回は裁判官ごとに不信任の割合に差が生じた。夫婦別姓や「1票の格差」をめぐる決定や判決で裁判官の意見が割れたことが、投票に反映されたとみられる。
 6人の経歴やかかわった裁判、心構えなどは、審査公報や最高裁のホームページで知ることができる。新聞各紙もアンケートへの回答を掲載している。価値観や人柄を知る手掛かりになるだろう。
 とはいえ、判断材料が乏しいことは否定できない。形骸化が指摘される原因にもなっている。
 インターネットで動画や肉声を公開するといった提案もある。イメージだけで投票するのは望ましくないが、より多くの情報を提供することは制度の活性化につながり、より身近な司法への一歩になるはずだ。

手元の「ボート」行使を、きょう投開票(2024年10月27日『産経新聞』-「産経抄」)
 
スマホをかざしながら衆院選の街頭演説を聞く有権者ら=26日午後、東京都千代田区(岩崎叶汰撮影)
 外国語の発音を日本語で表すのは難しい。評論家の呉智英さんがそう嘆いていた。波乗りは「サーフボート」か「サーフボード」か。ボート(小舟)でもボード(板)でも通じるだけに「始末が悪い」と(『言葉につける薬』)。
▼波乗りに使うのはボードだが、その濁点に苦い思い出があると、呉さんは打ち明けている。賛否同数のときに決着をつける一票、「キャスチングボート」である。議員が木札を投票箱に入れる、結果を黒板に書き出す…。その印象が強く、「―ボード」と思い込んでいたという。
▼素直に白状すると、同じく〝ボード派〟の当方は呉さんの打ち明け話にほっとした。この場合の「ボート」は「vote(票)」である。英語の発音を意識するなら「キャスティング・ヴォート」と書くべきかもしれない。確かに、扱いが難しい。
▼激しかった論戦が終わり、衆院選は投開票を迎えた。序盤から中盤、そして終盤にかけて、情勢が揺れ動いた小選挙区は少なくなかった。新たな区割りで行われた地域も多い。「ボート」の投じ先を巡って、有権者を大いに悩ませた総選挙である。
▼政治不信にどう片を付けるか。経済をさらなる成長へとどう導くか。不穏な国際情勢に立ち向かう安全保障のあり方を、どう打ち出すか。内外の課題が山と積まれた中、わが国のあすをどの候補者や党に託すかが問われる選挙だ。手元の一票を通して、政治に物申すときだろう。
▼濁点のある、なし。阿刀田高著『ことば遊びの楽しみ』から、投票所で思い出したい一首を引く。<世の中は澄むと濁るのちがいにて/ためになる人だめになる人>。一人一人がキャスチングボートを握るつもりで、世の中の「ためになる人」に票を投じたい。

衆院選の日に考える 前略(ぜんりゃく) 小さい人たちへ(2024年10月27日『東京新聞』-「社説」)
 
 以前(いぜん)、NHK教育(きょういく)テレビで放送(ほうそう)されていた番組(ばんぐみ)『できるかな』の「ノッポさん」を知(し)っていますか? 演(えん)じていたのは作家(さっか)、音楽家(おんがくか)でもあった故高見(こたかみ)のっぽさん。彼(かれ)は、子(こ)どもだって「人(ひと)」なのだから、敬意(けいい)をもって接(せっ)するべきだという考(かんが)えから、子どもでなく「小(ちい)さい人」と呼(よ)びました。この記事(きじ)も、それにならうことにします。
 さて、小さい人たち、きょうは何(なん)の日(ひ)でしょうか?
 そう、例(たと)えば、「世界新記録(せかいしんきろく)の日」らしいですよ。1931年(ねん)のこの日、日本人(にほんじん)2人が陸上競技(りくじょうきょうぎ)で初(はじ)めて世界新記録を作(つく)ったんですって。また、今(いま)、この文章(ぶんしょう)を読(よ)んでくれているなら、それ自体(じたい)、記念日(きねんび)らしい行動(こうどう)だともいえます。なぜって、きょうは「文字(もじ)・活字文化(かつじぶんか)の日」でもありますから。
◆借金、食料…未来へツケ
 でも、やっぱり一番忘(いちばんわす)れてはならないのは、衆院選(しゅういんせん)の投票日(とうひょうび)ですよね。きょう選(えら)ばれる議員(ぎいん)らの投票を基(もと)に政府(せいふ)のトップ、総理大臣(そうりだいじん)(首相(しゅしょう))が決(き)まるので、国民(こくみん)が当面(とうめん)の国(くに)の運営(うんえい)を任(まか)せる「政権(せいけん)」を選ぶ日ともいえます。ただ、投票できるのは、18歳以上(さいいじょう)の「大(おお)きい人」たちだけ。とはいえ、小さい人たち、「だったら、関係(かんけい)ない」なんて思(おも)わないでください。
 ある米国(べいこく)の劇作家(げきさっか)は作品中(さくひんちゅう)の人物(じんぶつ)にこう言(い)わせていますよ。「過去(かこ)は、現在(げんざい)ではありませんか。未来(みらい)でもあるのです」。そう、未来とは過去や現在の続(つづ)き。つまり、きょう、どんな人たちが議員に選ばれるかで国民の未来も変(か)わる。そして、大人(おとな)よりずっと長(なが)い未来を生(い)きるのはあなた方(がた)です。
 それに、実(じつ)は、この国には小さい人たちにツケが回(まわ)りそうな問題(もんだい)が山積(やまづ)みなんです。まずは借金(しゃっきん)。これまでの政権はずっと借金頼(だの)みで国民から集(あつ)める税金(ぜいきん)など収入(しゅうにゅう)に見合(みあ)わぬ支出(ししゅつ)を続けてきたので、膨(ふく)らみに膨らんだ借金額(がく)は1千兆円(せんちょうえん)を軽(かる)く超(こ)えています。
 「日本は経済大国(けいざいたいこく)」だと聞(き)いたことがありませんか。いかにも、その国の経済規模(きぼ)を示(しめ)す国内総生産(こくないそうせいさん)(GDP)では、確(たし)かにまだ世界(せかい)4位(い)。でもね、GDPの2・5倍(ばい)という借金の比率(ひりつ)は世界中(せかいじゅう)の国で最悪(さいあく)レベルなのです。
 先々(さきざき)には食(しょく)の不安(ふあん)も。食料自給率(しょくりょうじきゅうりつ)とは、日本人が摂取(せっしゅ)している食料の、どれぐらいが国産(こくさん)かを示す数字(すうじ)ですが、実はたった38%。6割以上(わりいじょう)を輸入(ゆにゅう)に頼(たよ)っているので、もし戦争(せんそう)やら災害(さいがい)やらで輸入がとだえたら悲惨(ひさん)です。主食(しゅしょく)の代表格(だいひょうかく)のコメも、過去の政権がどんどん田(た)んぼを減(へ)らしてきたので、万(まん)が一(いち)の時(とき)でも十分(じゅうぶん)といえる生産量(せいさんりょう)はないし、おまけに農家(のうか)は年々(ねんねん)、高齢化(こうれいか)、その数(かず)も減っています。
◆次の世代考える政治家を
 食料だけでなく、とにかく多(おお)くを輸入に頼っている国なので、日本の通貨(つうか)「円」の価値(かち)が下(さ)がり、米ドルなど他国(たこく)通貨に対(たい)して安(やす)くなっているのも問題です。大人たちが「また物価(ぶっか)が上(あ)がった」と嘆(なげ)くのを耳(みみ)にすると思いますが、円安も、その大きな要因(よういん)です。そして、物価が上がるほどには給料(きゅうりょう)が上がらないのがまた大問題です。
 あなた方も、この国の土台(どだい)となるルールが「日本国憲法(けんぽう)」で、不戦(ふせん)こそが一番大事(だいじ)な誓(ちか)いだということはご存(ぞん)じでしょう。その憲法に従(したが)い、国を守(まも)る備(そな)えはしても外国(がいこく)を攻撃(こうげき)するような準備(じゅんび)はしないというのが、ずっと日本が守ってきた姿勢(しせい)でしたが、この「専守防衛(せんしゅぼうえい)」の原則(げんそく)を、近年(きんねん)の政権は壊(こわ)しかけています。じりじりと戦争に近(ちか)づいている感(かん)じが否(いな)めません。
 さらに…いや、きりがないのでこの辺(へん)にとどめますが、とにかく小さい人たちの未来にかかわる問題だらけなのです。もっとも、極端(きょくたん)に悲観(ひかん)する必要(ひつよう)はありません。こうした難問(なんもん)に解決策(かいけつさく)を見出(みいだ)し、誤(あやま)った方向性(ほうこうせい)を正(ただ)すことはまだ可能(かのう)ですから。ただし、それは、大きい人たちが、例えば今回(こんかい)の衆院選で、ちゃんとそれができる人や政党(せいとう)を選んでくれるなら、です。
 <政治屋(せいじや)は次(つぎ)の選挙を、政治家(せいじか)は次の世代(せだい)のことを考える>と言った人がありますが、次、その次の世代であるあなた方のため、大人にはしっかり「政治屋」と「政治家」を見分(みわ)け、責任(せきにん)ある選択(せんたく)をしてもらわなければなりません。
◆投票行かぬ「大きい人」
 ところがね、小さい人たち。驚(おどろ)かないでほしいのですが、ここ4回の衆院選投票率(りつ)は連続(れんぞく)60%未満(みまん)なんです。つまり大きい人たちの10人中(ちゅう)4人以上が、この重要(じゅうよう)な機会(きかい)をふいにしている。だから、お父(とう)さん、お母(かあ)さんから、近所(きんじょ)のおじさん、おばさんまで含(ふく)め、もし、投票に行(い)かなそうな「大きい人」が周(まわ)りにいたら、はっきり言っちゃってください。「私(わたし)たちの未来がかかってるんだから投票に行って」と。もし「子どもが生意気(なまいき)に」などと怒(おこ)る人がいたらこう言い返(かえ)すのはどうですか。
 「あーあ、小さい人だなぁ」

きょう投票 国の将来私たちが決める(2024年10月27日『新潟日報』-「社説」)
 
 きょうは衆院選の投票日だ。私たちの国のかじ取り役をどの政党、候補に託すか。その選択結果が国の将来や一人一人の暮らしのありようを決める。
 しっかり考え、棄権することなく1票を投じたい。
 1日に発足した石破茂政権の信が問われる選挙だ。自民党公明党の連立与党が定数465議席過半数を獲得できるかどうかを巡り、各地で激戦が展開された。
 政治への信頼が揺らぐ中で行われた選挙だった。
 派閥裏金事件で失墜した信頼の回復や政治改革の実行を与党が訴え、立憲民主党日本維新の会共産党、国民民主党などの野党が与党を批判する構図で争われた。
 自民が裏金事件で非公認とした候補者が代表を務める党支部に活動費2千万円を支給したことが選挙戦終盤に明らかになり、野党は批判を強めた。
 信頼がなければ政権運営はままならない。「政治とカネ」の問題をどう捉えるか。有権者の判断が問われるのが、きょうだ。
 2021年10月の前回衆院選から3年で世の中は変わった。新型コロナウイルス禍が落ち着くとともに物価が上昇した。東京一極集中の流れが復活して本県など地方の人口減少が進んだ。
 首相就任から26日後の投開票という戦後最短の日程だったため十分とはいえないが、こうした問題の処方箋について与野党の違いも一定程度は見えてきた。
 選挙目当てのばらまきでないか、財源はあるのかといった点も踏まえ、各公約を見定めたい。
 政策の大きな方針転換が相次いだ3年でもあった。岸田文雄前政権は防衛政策について、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費の大幅増を決めた。
 原発に関しては、依存度を低減させる方針から最大限活用する方針に転じた。それに沿う形で東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に同意するよう、県と柏崎市刈羽村に要請した。
 安全保障環境が厳しいとして防衛力強化を進めるかどうか、原発に依存する社会に回帰するかどうか。行方は私たちの選択次第だ。
 本県では今回、選挙区割りの見直しが行われ、これまでの6小選挙区が5小選挙区になった。戸惑う県民もいるかもしれないが、確認を十分にしてもらいたい。
 気になるのは、最近の若年層の投票率の低さだ。
 前回の全体の投票率は全国の55・93%に対し、激戦だった本県は63・16%と全国2番目に高かった。ただ年代別で見ると、10代49・78%、20代38・13%、30代52・45%と若い層の低さが目立った。
 自分たちの意見を政治に反映させるため若い世代にも、きょうは投票に行ってほしい。

(2024年10月27日『新潟日報』-「日報抄」) 
 
 人生は選択の連続であるという。進学や就職など、節目で迫られる重い選択もあれば、きょうの昼ごはんのメニューに悩まされることもある。さて、きょうは全国の有権者が一斉に選択をする日だ
衆院選小選挙区比例代表で、それぞれ候補者と政党を一つだけ選ぶ。意中の投票先があれば話は早いが、迷う人もいるだろう。投票したい先が見つからないという方もいるかもしれない
▼そんな時、よく勧められるのが「少しでもマシだと思った方へ」という考え方だ。少々短絡的で乱暴かもしれない。とはいえ、それもいいのではないか。投票は私たちの大切な権利である。むざむざ無駄にすることは避けたい
▼「自分の一票では何も変わらない」。そんな声もある。でも、今回はなかなか興味深いよと耳打ちしたい。報道各社の世論調査では、与野党過半数を巡り激しい攻防を繰り広げているという。一人一人の選択が政治の行方を大きく左右するかもしれない
▼現政権の安定した政治か。与野党伯仲の緊張状態か。政権交代が望ましいのか。政権の様相が変われば、取り組む政策も優先順位も変わる。気になる政策1点に絞り、自分と考えの近い候補者や政党に投票する手もある
▼米国では大統領選が11月5日に迫る。事前の情勢調査では大接戦と伝えられる。こちらも有権者一人一人の選択が国の明日を、さらには世界の明日を決めることになる。選挙は民主主義を象徴する仕組みだ。その主役はまぎれもなく私たち有権者である。

衆院選きょう投票 今と未来を白紙委任せず(2024年10月27日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 衆院選の投開票日を迎えた。
 自民、公明両党が政権を維持できるのか。野党が自公過半数割れに追い込み、政権の枠組みが変わるのか。
 選挙戦は与野党が伯仲する展開となった。一人一人の投票が政治の行方を大きく動かす。
 候補者や政党の主張を吟味し、政権選択の重みを増した一票を大切に行使したい。
 石破茂首相の就任から8日後の解散、26日後の投開票となった。ともに戦後最短の日程だ。十分な判断材料が得られず、投票先を迷っている有権者も多いだろう。
 自民党の派閥裏金事件を受けた「政治とカネ」が最大の争点となった。政治に対する不信が募るあまり、論戦に距離を置いてきた有権者もいるかもしれない。
 それでも投票所に背を向けていいはずがない。
 衆院選投票率は低迷が続く。1996年に現在の小選挙区比例代表並立制が導入されて以降の最高は、民主党政権が誕生した2009年の69・28%。その後4回は50%台が続いた。半数に近い有権者が棄権したことになる。
 この間、裏金事件をはじめ政治不信を招く事態が相次いだ。説明責任を果たさず、熟議を尽くさぬ国会運営が常態化した。政治は緊張感を欠いている。
 この状況を変えられるかは、有権者の投票行動にかかっている。一票一票を積み上げ、議員には背負った重みを自覚してもらわなければならない。
 物価高対策や社会保障、エネルギー政策など、暮らしに身近な課題と政治は直結している。大きく構えず、関心を持つテーマを自分の争点に据えて判断してもいい。どの候補者や政党が、より説得力のある主張か見定めたい。
 とりわけ若い世代が関心を向けてほしい。前回選の10~30代の投票率は30~40%台。全体の55・93%を大きく下回った。
 人口減や少子高齢化が進む社会をこれから担い、当選した議員が決める政策の影響をより長く受ける世代だ。一人一人の人生の色彩に影響する。
 近年の国政選挙では政治家が暴力の標的となる事件が続く。今回も自民党本部と首相官邸を襲撃した男が逮捕された。暴力で民主主義を揺るがせてはならない。
 政治を動かせるのは民意だ。今と未来への責任を忘れ、白紙委任してはならない。

きょう投票 目を凝らして未来を選ぼう(2024年10月27日『京都新聞』-「社説」)
 
 渦巻く政治不信の根を絶ち、暮らしと将来の不安を拭うかじ取りを、与野党いずれに託すか-。
 衆院選はきょう、審判の日を迎えた。
 石破茂首相就任から8日後の解散、26日後の投開票は戦後最も短い。自民党裏金事件の広がりと前政権の甘い対応への逆風の中、発足直後の「刷新感」に頼る狙いは明らかだった。
 しかし、全国各地で与野党接戦の様相となっており、今回の選択の難しさを映していよう。
 有権者に審判材料を示す-としていた石破氏だが、「政治改革を断行」とする抽象論が目立った。野党も改革策や減税案などを詰め切れず、かみ合って論点が深まったとは言い難い。
 そんな短期間でも浮かび上がった「手がかり」はある。
 焦点の政治とカネ問題への姿勢が挙げられる。自民は裏金議員の一部を公認せず、非公開の政策活動費を使わない「厳格対応」に転じて見せていたが、非公認候補の党支部にも公認候補と同額の2千万円を支給していたことが分かった。
 石破氏は「党勢拡大費だ」とするが、公費による政党交付金で実質的に支援する「裏公認」だと野党は批判を強めた。追加公認への含み発言と併せ、金権政治の反省と再発防止への本気度が問われていよう。
 野党も議席増の先に、どう政治改革の道筋を開くのかはみえなかった。
 暮らしを巡っては解散前日、2年超ぶりに6、7月に物価上昇を超えた実質賃金が減少に逆戻りした統計が公表された。
 与野党とも高い賃上げによる好循環を掲げるが、食品など値上げが続いて家計の圧迫が止まらない。困窮世帯支援や燃油費補助の存廃、税負担軽減などの経済対策は、効果と財政的裏付けを見極める必要があろう。
 解散後、核の危機に警鐘を鳴らす日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞決定、日本の夫婦同姓制度を問題視する国連の委員会審査もあった。
 せかされた選択でも、国内外の課題と将来への責任にしっかり目を凝らしたい。
 衆院選では政権交代に至った2009年の約7割から投票率は低下し、14年の53%は戦後最低。過去2回も5割台に低迷し、京都、滋賀も同傾向である。2人に1人が背を向けては政治家は民意を軽んじ、託された職責の重さに鈍感になりがちだ。
 特に若者は、18歳選挙権の導入から5回の国政選挙で60代の投票率60~70%台に対し、10~20代は30~40%台にとどまる。
 政権の信任か交代か。大きな分岐点にある今回はとりわけ、その1票が政治の方向性を左右し、自分たちの現在と未来を変えることを体感しうる好機といえよう。

きょう投票/主権者の意思示すときだ(2024年10月27日『神戸新聞』-「社説」)
 
 衆院選は、きょう投開票日を迎えた。自民党派閥裏金事件に象徴される「政治とカネ」の問題や物価高対策などへの有権者の関心は高く、一票の行使が今後の国政に大きな影響を及ぼす選挙となりそうだ。
 今月発足した石破茂内閣の信任を問うだけでなく、自民が2012年に政権復帰して以降、与党の圧倒的多数を背景に強引な政権運営が目立つ「1強政治」に審判を下す場となる。
 共同通信などの世論調査では裏金事件を受けた自民、公明両党の苦戦が伝えられるが、どの候補、政党に日本の将来を託すのか、まだ悩んでいる有権者は多いのではないか。
 3年ぶりの政権選択選挙で争点は多岐にわたるが、唐突な解散、短期決戦で各党の公約や候補者の訴えを十分に吟味できなかった人もいるだろう。
 審判の行方とともに、有権者の「選挙離れ」に歯止めをかけられるかどうかが気になる。
 衆院選投票率は09年、69%に上った。旧民主党による政権交代が実現した選挙だ。しかし自民が政権に返り咲いた12年以降、21年まで4回の選挙はいずれも50%台で、戦後のワースト1位から4位を占めている。
 とりわけ憂慮すべきなのが、若い世代の投票率の低さだ。
 今回の衆院選は16年に「18歳選挙権」が導入されて以降、6度目の国政選挙となる。政府は啓発や主権者教育に力を入れてきたが、効果は十分ではない。総務省によると、過去5回の国政選挙で60代の投票率が60~70%台だったのに対し、10~20代は30~40%台にとどまる。
 主権者教育に詳しい龍谷大の川中大輔准教授は「授業で地域社会への関心は促しても、政治への働きかけは今なお敬遠されがちだ」と指摘する。投票は大事だと教えながら、踏み込んだ議論を避けて通る。これでは関心は高まりようがない。
 若者だけの問題ではない。主権者としての大人の振る舞いを見直す機会にしたい。無関心は国民不在の政治を許す温床となる。現政権を信任するにせよ、政権交代を望むにせよ、熟考して責任ある行動を取ることだ。
 白紙委任はしない。迷い、悩んで投じる1票の積み重ねが、政治を変える一歩となる。

衆院、知事選投票日 「1票の重み」自覚しよう(2024年10月27日『山陽新聞』-「社説」)
 
 衆院選岡山県知事選が投票日を迎えた。
 衆院選では、自民、公明両党による連立政権が継続されるのか、立憲民主党をはじめとする野党が与党を過半数割れに追い込み、政権交代につながるのかが大きな焦点だ。有権者一人一人の投票行動が、日本の針路を左右する重要な意義を持つことを改めて認識したい。
 自民の派閥裏金事件で表面化した「政治とカネ」問題は国民に深刻な政治不信を招いている。政治資金の透明化だけでなく、政治改革や政治のあり方そのものにも課題を突きつけていると言えよう。
 選挙戦では、政治不信を払拭するための確かな道筋を示すことが求められた。各党や候補者は信頼回復への取り組みを掲げて訴えを強めた。それぞれの訴えの本気度と覚悟が問われている。
 政治に求められているのは、政治改革だけにとどまらない。人口減少や少子高齢化に東京一極集中の加速も相まって疲弊が進む地方の再生は最優先すべき課題だ。
 長引く物価高は国民の暮らしを圧迫している。賃上げが、消費拡大やさらなる経済成長につながる好循環はいまだ実現していない。中国が海洋進出を強めるなど日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。こうした重要課題に政治がどう対応していくのか。有権者はしっかりと見極める必要がある。
 任期満了に伴う知事選では、現職と新人が舌戦を繰り広げた。地域の将来に大きく関わる人口流出対策をはじめ産業振興、子育てや教育、防災対策など県政が取り組むべき課題は数多い。よりよい地域づくりに向け、実効性ある施策が求められている。
 気がかりなのは、投票率である。衆院選政権交代につながった2009年に69・28%だったが、その後は低下し、14年には戦後最低の52・66%を記録した。17年、前回の21年とわずかに上向いたものの、21年は55・93%で戦後3番目に低い水準だった。
 知事選の投票率も注目される。4年前の前回は33・68%と過去最低だった。今回は県政史上初の衆院選とのダブル選となったことから、衆院選並みに上がるとの見方が強い一方、衆院選が超短期の選挙日程となった影響などで、見通せないとの指摘もある。
 有権者の中には、政治への関心が低く「投票してもしなくても政治は変わらない」と諦めている人がいるかもしれない。だが選挙を通じて政治をチェックするという有権者の役割と責任は重い。投票の棄権は、現状を容認し白紙委任したと解釈されることにもなりかねない。棄権が多ければ政治の質は高まらない。
 自分が投票した政治家や政党が選挙後、どう振る舞うかに関心を持ち、次の選挙で再び評価を下す。その積み重ねこそが民主主義を鍛え、強くする。「1票の重み」を有権者それぞれが自覚したい。

衆院・知事同日選(2024年10月27日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 「歴史は繰り返さないが韻を踏む」。本紙の連載企画「14歳の君へ」で歴史家の磯田道史さん(岡山市出身)が指摘していた。年表の上では、いくらかの違いを含みながら似た出来事が繰り返し現れる、と
▼もともとは米国の作家マーク・トウェインが唱えたといわれる。過去を学び、もたらされた結果を検証すれば、やがて訪れる類似事例に役立てられるというのが、本意である
▼いま、この言葉とともに1996年の秋を思い出している。9月27日、当時の橋本龍太郎首相は衆院解散に踏み切った。投票日は、すでに決まっていた岡山県知事選の1週間前。県民にとっては異例の同時進行選挙となった
▼しかも衆院選では初めて小選挙区比例代表並立制が適用された。有権者が制度変更に戸惑いながらの選択を迫られたことも、「10増10減」の選挙区再編で県内の構図が大きく変わった今回と似通う
▼それから数えて10回目の衆院選、8回目の知事選がきょう投票を迎えた。今度はぴたり重なった同日選である。有権者がこれまでの国政、県政をどう見ているか。その評価が新たな歴史として刻まれる
▼人口減少、地方創生、防災・減災など、国と県が共有すべき課題は山積している。同日選は双方に意思表示できる好機と捉え、投票所に足を運びたい。低投票率が韻を踏むことはないように。

衆院選きょう投票 評価と期待、1票で示そう(2024年10月27日『中国新聞』-「社説」)
 
 第50回衆院選はきょう、投開票日を迎えた。自民、公明両党による石破茂政権を支持するのか、あるいは政権交代を求めるのか。主権者である私たちが意思を示す大切な節目である。自分たちの未来を、この国の将来を、託すにふさわしい党や候補者を選び、1票を投じたい。
 今回の衆院選は、前回の総選挙からほぼ3年間ずっと政権を担った岸田文雄前首相が退陣し、代わりに登場した石破首相が就任わずか8日後に衆院を解散したことに伴う。解散は取り沙汰されていたとはいえ、短兵急に示された石破政権の方針や各党の公約を精査する時間は少なかった。
 それでも中国新聞などの報道機関は、各党の政策の違いや候補者の訴えを詳細に伝えてきた。過去の紙面もめくり、自らの意思を示すために役立ててもらいたい。
 今回の投票の判断材料は、大まかに言えば2点が挙げられようか。一つが安倍晋三政権から続く自公政権の評価、もう一つが未来に向けて示された政策である。
 裏金議員に象徴される「政治とカネ」や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)などの問題に対する与党の対応を是とするのか。信頼される政治を取り戻せるか、まず冷静に判断しなくてはならない。
 次に、石破政権が前政権から引き継ぎ、取り組む政策の是非である。アベノミクスの副作用がもたらした歴史的円安、物価高が圧迫する国民生活への支援策を見極めたい。
 日本が直面する深刻な少子高齢化は今後も続く。将来の労働人口不足を食い止めるために、政府は子ども・子育て支援に年5兆円を超す予算を編成した。政策の方向性は妥当としても、財源を石破政権はどこに求めるのか。与党が押し切った、5年で43兆円という防衛費大幅増に疑念を感じる人も多いはずだ。
 将来へ備える政策を吟味することが欠かせない。租税と社会保険料が合わせて所得の5割に迫る、これ以上の負担増に私たちは簡単には応じられない。政策実現のためには予算の無駄を排し、膨らむ財政支出を見直すことが不可欠だろう。
 野党は景気回復のために軒並み減税を打ち出したが、一方で財政状況の悪化は避けられまい。どの党や候補の訴えに説得力があるか、私たちは耳を凝らさねばならない。
 気がかりは、重大な選択肢が示されている選挙にもかかわらず、期日前投票が前回選を下回る地域が多いことだ。前回選はコロナ禍での感染予防のために、35%近い有権者期日前投票で対応した。そんな特殊事情があったとはいえ、投票率が上向くかどうかが見通せないのは心配だ。
 とりわけ低投票率が懸念される若者に、投票を呼びかけたい。税や社会保険料が重荷で結婚や出産・育児さえままならない現状は、投票しなければ変わらないからだ。
 それぞれの1票には大きな力を実感できないかもしれない。しかし、その積み重ねが政治を動かし、世の中を変える。投票こそが「雨垂れ石をうがつ」力になると信じたい。

有権者とお金(2024年10月27日『中国新聞』-「天風録」)
 
 民選の議会をつくるように求めて板垣退助らが150年前、民撰(みんせん)議院設立建白書を出した。初の衆議院選挙が行われたのは16年後の1890年。民が選ぶといいながら、有権者は15円以上納税した25歳以上の男子のみ。国民の1・1%ほど
▲10円、3円と額は下がっても有権者は限られたまま。つまり財産がないと選挙に参加できなかった。今の完全な普通選挙は戦後にやっと実現。長い年月と闘いの末、当たり前の権利を得るのはどの国も同じではないか
▲そんな権利を売り買いするとは。旧ソ連モルドバで大規模な買収があった。欧州連合EU)への加盟を問う国民投票など。加盟を阻止したいロシア側から総額59億円が送金され、有権者の「票が買われた」。それでも結果は加盟反対よりも賛成が多かった
▲米国の富豪イーロン・マスク氏の「推し活」にも驚く。トランプ前大統領を支持する文書に署名した有権者の中から毎日1人に100万ドルを配る。受け取った人は大喜び。だが法に触れる恐れありと司法省が警告した
▲1票の価値を軽く考える人もいるようだ。それでもお金のあるなしにかかわらず自分の思いを政治にぶつけられる機会。かみしめて選挙へ。

【2024衆院選きょう投票】意思示す貴重な機会だ(2024年10月27日『高知新聞』-「社説」)
 
 衆院選の投票日を迎えた。
 自民・公明両党が旧民主党から政権を取り戻したのは2012年。両党は10年以上にわたって連立政権を維持してきたが、「自民1強」の構図が続いたがゆえの「おごり」「緩み」と言われても仕方がない派閥裏金事件が昨年、表面化した。
 政治不信がかつてなく高まる中、首相は岸田文雄氏から石破茂氏に交代した。政治改革を最大の焦点に突入した衆院選は、石破首相率いる自公政権に引き続きかじ取りを託すのか、あるいは、政権の枠組みに変化を求めるのか。国民が意思を示す貴重な機会になる。
 防衛力の抜本強化、原発の最大限活用など重要な決定を行ってきた岸田政権の3年間、さらにそれ以前の安倍、菅両政権時代も含めた自民党政治の歩みも、重要な判断材料だ。有権者は各党・各候補の実績や訴えなどを吟味し、主権者としての責任を果たしたい。
 裏金事件を巡って自民は、関係議員の一部を非公認とし、公約で「国民目線の改革」を掲げて選挙に臨む。一方、裏金づくりの実態解明は不十分で再調査にも消極的だ。
 「党内野党」になることもいとわない発言で支持されてきた石破氏だが、首相就任後は党内事情を優先した言動が目に付く。政治改革の意欲を言葉通り捉えてもよいのか。
 これに対して野党側は、自民の対応の甘さなどを指摘。最大野党の立憲民主党は「政権交代こそ、最大の政治改革」と訴える。「政治とカネ」の問題では野党が攻勢を強めていると言ってよい。
 ただ与党を過半数割れに追い込んだとしても、野党側が示している政権構想は曖昧で、選挙戦でほとんど候補者調整をできていない現実は、受け皿づくりの難しさや混乱も想像させる。与党側はこうした面を指摘し、有権者に判断を迫っている。
 もちろん、重要テーマは「政治改革」「政治とカネ」だけではない。
 安全保障については、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、防衛力の抜本強化を進める自民に対し、立民は防衛増税の見送りを訴えるなどトーンの違いがある。経済政策では、多くの党が物価高対策を念頭に賃上げ、成長戦略を重視するが、給付金や補助金によるのか、減税によるのかなど手法は異なる。
 ほかに、原発の在り方を含めたエネルギー政策、地方活性化の手法、社会保障の給付と負担の在り方、憲法改正など各党のスタンスはそれぞれで、政権の枠組み次第で方向が異なってくる。いずれも個々の生活に関わってくる課題であり、無関心でいるべきではない。
 ただ、近年の国政選挙は投票率が伸び悩む。衆院選も直近4回はいずれも60%を下回り、前回は55・93%で、若い世代ほど低かった。低投票率は政権の政策の求心力にも響く。それは有権者にとっても不幸なことであり、重要な1票をしっかりと行使したい。

投票所と幸田文(2024年10月27日『高知新聞』-「小社会」)
 
 作家の幸田文は一度、選挙の投票所で立会人を務めている。政治には「無色透明であり、近所づきあいにも義理にからむところを持たず、そのせいか」招かれた、と書いている。
 昭和も高度成長期あたりの話だろうと推察するが、投票に訪れた人をじっくり観察している。例えば、心がまっすぐに決まって揺るぎない人、一応は決めてきたが人に誘われたら崩れそうな人、入れ知恵されてふらふらと連れてこられたらしい人…。
 自分の考えがなく、他人に入れ知恵された人は足取りに迷いがあるらしい。逆によく相談してきたなと思える夫婦は、上半身を見なくても「ためらいやむだな足をしない」(随筆「投票所で」)。
 衆院選はきょう、投票日を迎えた。心配なのはやはり近年、国政選挙でも5割前後と低い県内の投票率だろうか。40・75%まで落ちた昨秋の参院補選。本紙連載「だから投票しなかった」を読み返すと、「自分の1票がなくても決まるだろう」「(投票しても世の中は)変わらんから。無駄」。
 ただ今回の衆院選は、与党が過半数を維持できるかの攻防とされる。国も古里も疲弊が進む中で、どういう政治を選ぶのか。小選挙区だけでなく比例代表の1票も意味は重そうだ。もっとも、選挙が生活に直結するのは今回だけではないが。
 まだ迷うという人は、投票所で熟考してもいいのでは。幸田文のように足取りを見つめる人がいても、気にせずに。

借金頼みの財政 次代への影響にも関心を(2024年10月27日『西日本新聞』-「社説」)
 
 石破茂首相が国民に審判を問う衆院選はきょう、投開票日を迎えた。
 自民、公明両党の連立政権に引き続き国のかじ取りを任せるのか否か、判断は主権者である国民に委ねられた。有権者一人一人が熟慮して1票を投じたい。
 首相は「国民に十分な判断材料を提供する」と言っていたが、この「口約」は守られなかった。所信表明演説と各党代表質問への答弁、党首討論を終えると、政権発足からわずか8日後に衆院を解散した。戦後最短である。
 日本記者クラブなどが主催する党首討論会は時間が限られ、自民の派閥裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係について突っ込んだやりとりはなかった。
 石破政権の実績評価は困難だ。前回の衆院選から3年続いた岸田文雄前政権の施政にも評価の目を向けたい。
 選挙公約も投票の判断材料になる。どの政党も政治改革や経済政策、社会保障、外交・安全保障、教育などを網羅的に並べ、選挙戦で訴えた。
 その中からほぼ抜け落ちていたのが財政健全化だ。
 金融緩和と機動的な財政出動を進めた第2次安倍晋三政権以降、普通国債残高は増え続け、2024年度末は1105兆円に達する見込みだ。この間には新型コロナウイルス禍の緊急対策もあり、増加額は約400兆円に上る。
 財政健全化の指標である債務残高の対国内総生産GDP)比は250%を超えた。世界の主要国で最悪の現実を直視する必要がある。
 日銀は金融政策の正常化に踏み出し、金利の上昇が見込まれる。借金頼みの財政運営を続ければ、利払い費が膨らみ、予算編成に支障が出る恐れもある。財政の持続性が揺らぐ事態は当然避けなければならない。
 こうした変化が生じてもなお、各党の政策は財政を度外視したままだ。
 自民は公約に「経済あっての財政」と記した。前政権までの路線を踏襲する首相は、経済対策として前年を上回る規模の補正予算を編成する意向を示す。
 規模ありきだ。この結果、基礎的財政収支プライマリーバランス)を25年度に黒字化する政府目標の達成は不可能な見通しとなる。
 公約は与野党を問わず大盤振る舞いだ。家計支援のための消費税の減税や廃止、最低賃金の大幅引き上げ、児童手当の拡充、教育無償化など国民受けする政策が並んだ。
 多額の財源が要るのに、具体的に触れた公約がほとんどないのは無責任である。実現可能性は低いと見透かされて当然だ。
 与野党がばらまきを競うのは、有権者が軽く見られているからではないか。投票所では、目先の経済対策だけでなく、将来世代に残す膨大な借金にも思いを寄せたい。

鉛筆を握って(2024年10月27日『佐賀新聞』-「有明抄」)
 
 名脚本家としても知られた映画監督、新藤兼人さんの原稿はすべて鉛筆書きだった。年を取ってからではワープロを習う時間が惜しい。最初は鋭くとがった芯が、だんだんちびて字が変化していくのも面白い、と
◆愛用の濃い2Bは妻の女優、乙羽信子さんがいつも買いそろえた。仕事を終えて新藤さんがベッドに入ると、乙羽さんが鉛筆を削ってくれる音が聞こえてきた。そんな妻が早くに逝った後、残されたのは使い切れないほどの鉛筆だった
◆100歳で亡くなる最晩年まで、創作の意欲を支えたのは鉛筆だったのかもしれない。字を「書く」より、パソコンやスマホで「打つ」暮らしになじんだ身には、いくらか後ろめたい気もする。〈鉛筆は投票のときしか使わないなどと選挙のたびに思えり〉足立尚彦
◆投票所で候補者や政党名とにらめっこしながら、あれこれ思い悩む。この一票が社会を変える実感を持てたらいいのに、と。ある作家が〈「少しでも嫌じゃない方」に鼻をつまんで入れる〉と語っている新聞記事を読んだ。そうでもしなければ、政治はますます国民から遠ざかる
◆新藤さんが鉛筆を手放さなかったのは〈自分の字は自分が書かないと気がすまない〉からでもあった。この国の未来も、自らの手で描きたい。鉛筆のいいところは、失敗してもまたすぐ書き直せることだから。(桑)

衆院選きょう投開票 県民の意思一票に託そう(2024年10月27日『琉球新報』-「社説」)
 
 第50回衆院選はきょう投開票される。岐路に立つ日本、沖縄の進路を決める重要な一日となる。一人一人の投票行動が政治に緊張感をもたらし、社会を動かす力になることを改めて確認したい。
 支持率低迷にあえぐ岸田文雄前首相の退陣表明により、自民党は“選挙の顔”の新総裁に知名度の高い石破茂氏を選出。石破氏は首相就任からわずか8日で衆院を解散し、総選挙に打って出た。連立を組む自民、公明の政権与党が、引き続き衆院定数の半数以上を確保する支持を得られるか、国民の審判が下る。
 最大の争点は、自公政権で政治改革が進められるのかどうかだ。
 自民党派閥の裏金事件、政治家と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の根深い関係など、長期政権による緩みやおごりとしか言えない問題が噴出し、政治不信を招いてきた。公示後には、裏金事件で非公認とした候補が代表を務める政党支部に、自民党本部が2千万円の活動費を支給していたことが判明した。
 政権与党として「政治とカネ」「政治と宗教」に切り込む手だてを十分に講じ、国民の納得する説明を尽くしてきたか。政治の信頼回復に向けた姿勢が問われている。2012年以降、安倍晋三政権、菅義偉政権、岸田政権と続いた自民党政治の総括として有権者の判断が示される。
 国民生活を支える経済対策も重要だ。安倍政権の「アベノミクス」で戦後最長の景気拡大をもたらしたと言われたが、物価高が家計を圧迫する生活実感と大きくかけ離れている。国内総生産GDP)で日本はドイツに抜かれて世界4位になるなど国際競争力は低下し、物価を押し上げる歴史的な円安が続く。
 閉塞(へいそく)感を打破する成長戦略を実行することが求められており、国民が共感する政策を各党が競うことは政治の信頼を取り戻す一助にもなる。
 沖縄の4選挙区には計16人が立候補した。自公対オール沖縄という対決構図に、維新、れいわ、参政の候補者が加わる変化が生じている。
 自民とオール沖縄勢力との対立軸となる辺野古基地問題は、国が沖縄県に代わって設計変更を承認して大浦湾側の工事を始め、最高裁が県の敗訴を確定させる動きがあった。政府から「対話」を拒まれる玉城デニー県政の次の対応にも、衆院選の結果が影響を与えてくるだろう。
 世界情勢が不安定化する一方、南西諸島では日米の軍備強化が進められている。国の安全保障政策は県民の負担や安全に直接結び付く。沖縄の声を国政に届けるにはどの候補、党がふさわしいのかを、しっかり見極めたい。
 選挙は、主権者の意思を政治に反映させる民主主義の根幹をなす機能だ。6月の県議選の投票率は45.26%と過去最低を更新した。身近な人にも投票を呼び掛け、投票率の低下を食い止めたい。

大切な一票を投じよう(2024年10月27日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 きょうは衆院選の投開票日。選挙期間中、若者の選挙への関心を高めようという取り組みが県外で行われていた。茨城県笠間市期日前投票の立ち会い人に高校生らを起用した
▼1日限定の期日前投票所を高校に設置する自治体もあった。生徒にとっても、学びが社会につながっていると実感できる機会になっただろう
▼2016年に18歳選挙権が始まり、6回目の国政選挙。前回22年の参院選の県内投票率(抽出調査)は10代が37.13%。20代の34.88%に次いで低い。選挙権を行使することは、自らの一票によって未来を築くこと。権利を放棄せず、投票所に足を運んでほしい
▼わが家でも県外で暮らす19歳の娘が初めて投票する。「何も分からない」と困惑しているようだ。「公約を見比べて、思う存分悩んで」と、何度も投票してきた先輩として助言した。そして選挙後は、投票した政治家の為政をしっかりチェックしてほしい
▼解散からわずか18日後の投票日。候補者の声がどれほど有権者に浸透しているか。物価高や自衛隊強化、世界情勢の緊迫化など課題は山ほどある。先輩も新人も同じ一票。しっかり投じよう。

[2024 衆院選]きょう投開票 未来選ぶ1票投じよう(2024年10月27日『沖縄タイムス』-「社説」
 
 衆院選はきょう投開票される。
 政権選択の機会だ。一人一人がどのような1票を投じたかによって政治の方向性が決まる。選択の重みをかみしめ投票してほしい。
 約3年の岸田文雄政権から石破茂新政権の信任を問う時でもある。
 自民の派閥裏金問題を巡っては、国民の政治不信が高まっている。石破首相は関わった候補者10人を非公認にし、34人の比例重複を認めなかった。
 さらに、公示後には非公認候補が代表を務める党支部に、公認候補と同額の活動費を支給していたことが明らかになった。
 今回の衆院選は「政治とカネ」問題が最大の争点だった。
 野党は「政権交代こそ最大の政治改革」と訴える。
 失った信頼をどう取り戻すのか。与野党ともに政治改革の実行力が問われよう。
 国内では実質賃金が目減りする中、物価高対策は待ったなしだ。人口減少と少子高齢化は加速し、持続可能な社会保障制度も構築していかなければならない。
 多様性尊重の流れで選択的夫婦別姓同性婚導入の是非も焦点だ。
 岸田政権下では、防衛力強化に伴い防衛費が大幅に増加されてきた。防衛増税も予定されている。
 この路線を継続するのか否か。選択する機会でもある。
■    ■
 県内4選挙区には計16人が立候補している。
 小選挙区の候補者数は2012年に次ぐ多さで、14年以降続いた「オール沖縄」対自公勢力の構図には変化が生じている。
 沖縄振興や米軍基地・日米地位協定の問題など、県内には復帰後50年以上が経過しても変わらぬ課題がいくつもある。
 辺野古新基地建設では「代執行」後初の選挙だ。国政の場に沖縄の声を届け、これらの課題をどう解決に導いていくのか。各候補者の訴えをしっかりと見極めたい。
 自衛隊の「南西シフト」も鮮明になっている。日米の軍事訓練も大規模化の一途をたどっており「新たな基地負担」の懸念も出ている。
 来夏の参院選や、再来年には知事選も控えている。衆院選の結果は今後の県内政局に大きく影響する点にも注目したい。
■    ■
 新政権の発足から26日後の投開票は戦後最短だ。
 自治体の準備が間に合わず、公示日から1週間たっても入場券が届かない世帯もあった。投票率への影響が心配される。
 県内の前回21年衆院選投票率は54・90%だった。14年から50%台で推移しているが、特に10~30代の低迷が際立つ。若者世代の政治離れが深刻だ。
 しかし、諦めを理由に棄権すれば、現状維持を肯定することになる。自らの声を政治に反映させ、より良い社会をつくるため投票してほしい。

白票でなく自分の物差しで(2024年10月27日『沖縄タイムス』-「大弦小弦」)
 
 8月の今帰仁村議補選は無効票がかなり多かった。投票総数の5%、同時に行われた村長選の3倍以上だ
▼何も記入しない白票のほか有名人の名前が書かれたものもあったとか。村選管の担当者は、村長選の関心が高かった一方で「補選もあると知らず投票所で慌てた有権者が多かったようだ」と両選挙の違いを指摘していた
▼国政選挙のたびに「政治への不満を白票で表そう」といった声が聞こえる。今回の衆院選でも交流サイト(SNS)などで拡散されているようだ。当局が認めた人しか立候補できない香港では白票での投票を呼びかけることは禁止されている。そうした環境での白票運動が政治に一定の影響を与えるからだろう
▼ただ自由に立候補ができる日本では、政治的不満と関心の低さは区別が難しい。結果にも影響を及ぼさない。県外のある選挙で白票や「×」などと書かれた票が3割を超えたことがあるが、選挙自体は有効に成立した。多少白票が多くても気にする政治家を見たこともない
▼きょう27日は衆院選の投開票日。最長で今後4年間のこの国の政治方針を決める日だ
▼棄権するくらいなら白票をとの思いは分からなくもない。だがせっかく投票所に足を運ぶなら、仮に100%でなくとも自分なりの物差しで候補や政党を選びたい。(前田高敬)