西村康稔元経産相が公明党集会で「心から心から感謝」 陣営が恐れるのは「あの人」の緊急参戦(2024年10月24日『AERA dot.』)

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公明党の集会で頭を下げる西村康稔氏(提供写真)
 舞台の上には「希望の未来は、実現できる。」と書かれた横断幕と赤と青ののぼりが立ち、演壇には公明党前代表の山口那津氏からバトンを受けた新代表の石井啓一氏のポスターが張られていた。衆院選中盤の10月19日、淡路島にある洲本市のホールで公明党の集会が開かれた。会場の500席は埋まり、急遽、椅子が追加されるほどの盛況ぶりだった。
 公明党兵庫県選出の高橋光男参院議員が比例区公明党への投票を呼び掛けた後、舞台に登場したのは兵庫9区(洲本市明石市など)に立候補している西村康稔経産相だった。
 西村氏は自民党の安倍派5人衆のひとりで、裏金問題で党員資格停止1年の処分を受けて、非公認、無所属での選挙戦を余儀なくされている。今回の衆院選公明党は、自民党が非公認とした前衆院議員のうち2人を推薦して支援したが、その一人が西村氏だ。
公明党さんがこんな私に、こんな傷だらけの私に、推薦を出していただいた。党本部中央から推薦をいただいた。こんなありがたいことはございません。心から心から感謝申し上げたいと思います。本当にありがとうございます」
 そう言って西村氏が深々と頭を下げると、大きな拍手が沸き上がった。
 この日の演説会に参加したのは、大半が公明党の支持母体である創価学会会員などの関係者。集会参加者に話を聞くと、
公明党の議員のためならまだしも、西村のためにわざわざホール借りて集会をうちがしてやったようなもの。安倍派5人衆とか言われている時は偉そうにしていたが、選挙になり推薦もらうとえらい態度が違うわ」
 と言う人もいた。
 西村氏はさらに、裏金事件について釈明をはじめた。
「今回の政治資金の問題では、皆様方にご心配をおかけし、また、政治不信につながるような事態になってしまったことを改めてお詫びを申し上げたい。きちんとやって、再出発したい」
「清和会(安倍派)のパーティーで、5年間で100万円の還付がございました。会計責任者は現金で受け取ったんですね。そのままポケットに入れて使ったりしていない。会計責任者は(裏金を)不記載にしたくない、そこで私が開く政治資金パーティーに入れた」
「(裏金を)どこに入れるのがいいか考えたときに、会計責任者は私自身の政治資金パーティーの収入に入れるのが一番適切、おかしくないだろうと記載をしておりました。したがって、言い訳がましく聞こえるんですけれども、不記載ではありません」
■上脇教授は西村氏の「言い訳」を否定
 本来、安倍派の政治資金パーティー券収入のキックバックを受けたのであれば、政治資金収支報告書にはそのように記載しなければならない。だが、西村氏は自身の政治資金パーティーの収入だと記載したので、「不記載」の裏金ではない、と主張している。だが、これは政治資金規正法からみれば、虚偽記載に該当しかねない。
 そもそも西村氏は安倍派の事務総長も務めており、安倍晋三元首相が派閥の会長に返り咲いたときにキックバックをやめるという指示を聞いている立場だ。安倍元首相の「指示」の時点で裏金が問題であることはわかっていたはずだが、政治資金収支報告書の訂正は、裏金事件が騒がれ始めてからである。
 神戸学院大学の上脇博之教授は、
「西村氏は、安倍派のパーティー券の販売収入の一部をキックバックされ寄付を受けていながら、その寄付を収支報告書に記載せず、自分のパーティー収入として誤魔化して虚偽記載していました。二重に悪質な政治資金規正法違反で、故意に行なわれた違法行為であることは明らかです」
 と西村氏の「言い訳」を一刀両断にする。
■「公明党には比例区でお返しする」
 西村氏の公明党への感謝の言葉は続いた。
「私の集会の中でも、比例区公明党もしっかりお願いしている。自民党の他の方もおり、(比例は自民に)プラスになってほしい気持ちもあります。しかし公明党さんにこれだけお世話になってるわけですから、その分はちゃんと比例区でお返しする」
 集会の最後は公明党の地元市議が、
「推薦した限りには絶対当選させる。また比例区公明党というお話も聞きました。全力で戦いましょう」
 と「比例は公明党」のお礼と言わんばかりに檄を飛ばし、
「エイエイオー」
 と会場全体で気勢をあげると、西村氏は感激した様子だった。
 だが、先の集会参加者はこう突き放す。
「西村は『言い訳がましいが』と何度も言っていた。本当やわ。なんで公明党自民党の裏金議員を応援しないとダメなんや。今日は仕方なく拍手しただけ。多くの参加者も同じ気持ちでしょう」
 裏金問題などを報じられた西村氏は、メディア不信を高めているのか、選挙戦の予定を一部しかメディアに公開していない。この公明党の集会参加も告知していなかった。
 記者は西村氏がJR大久保駅前で演説するという情報を入手して、直撃取材するため待ち構えたところ、他のメディアも居合わせた。有権者ににこやかに挨拶していた西村氏を取り囲んで、テレビ局がマイクを手に声をかけると、西村氏の表情は一変。
「今、選挙活動しているんや、わかるやろ」
 と怖そうな声で言い、インタビュー取材に応じなかった。
■「泉氏に今回ばかりはご遠慮願いたい」
 兵庫9区からは西村氏のほかに、いずれも新顔で維新の加古貴一郎氏、立憲民主党の橋本慧悟氏、共産党高田良信氏が立候補している。
 メディア各社の情勢調査では西村氏が優勢で、橋本氏が2番手、加古氏がその後を追う状況だ。
「西村氏の当選の可能性が高いという感じはある。そこで当選が決まった時のバンザイの撮影場所の打ち合わせをと事務所に依頼しても、拒絶されて困っている。過去の選挙では喜んで応じていたのですがね」(地元メディア関係者)
 西村氏という大物議員相手にジャイアントキリングを狙う橋本氏は、テレビに引っ張りだこの前明石市長、泉房穂氏の「弟子」という肩書が大きな売りだ。
 橋本氏に聞くと、
「訴えをしていく中で『うちは西村さんに入れるんや』とぴしゃりと言われることもあり、壁の分厚さを痛感する。厳しい戦いだが最後まであきらめません。泉さんの応援? 来てくれたら最高やけど……」
 と話した。
 西村氏の支援者は、こう話す。
「西村氏はリードしているが、裏金事件のこともあり、大量得票で圧勝するという状況ではない。西村氏が恐れているのは、泉氏が弟子のためにと応援に入ること。そうなれば形勢が逆転して橋本氏に無党派層や若者の票が流れるかもしれない。泉氏の選挙好きは知られてるところだが、今回ばかりはご遠慮願いたいと、テレビ出演中の泉氏を見るたびに手を合わせています」
AERA dot.編集部・今西憲之)