衆院選2024に関する社説・コラム(2024年10月24・25日)

2024衆院選 教育政策の課題 無償化だけでは解決せぬ(2024年10月25日『北海道新聞』-「社説」)
 
 各政党が相次ぎ教育無償化を掲げている。子育て支援策として重視しているようだ。
 近年の物価高騰で教育費も上昇し家計を圧迫している。教育を受ける権利を保障するためにも公的な支援は不可欠だ。
 ただ、各党とも財源の説明が足りず実現性は乏しい。
 気になるのは各党が負担軽減を盛んにアピールする半面、教育のあるべき姿や必要な施策に関する議論が低調なことだ。
 教員の労働環境が悪化し教育の質の低下が懸念されている。子どもの成長につながる学びをどう実現するのか、各党はもっと明確なビジョンが必要だ。
 文部科学省の2021年度の調査によると、高校までにかかる学習費総額は全て公立で574万円、全て私立なら1838万円でともに過去最高だった。
 東大は先月、授業料の値上げを決めた。教育費の上昇は学校や学年を問わず広がる。光熱費などの高騰に加え、教育への公的支出が他の主要国と比べ少ないことも大きな要因だ。子どもの学習が経済事情に左右される教育格差は拡大しかねない。
 各党が掲げる無償化の公約は大学や高校の授業料のほか、公立小中学校の給食費など多岐にわたる。方向性としてはうなずけるが、支援の具体策や予算規模は判然としない。
 財源の問題は岸田文雄前首相が進めた「異次元の少子化対策」でも問われた。
 予算規模は3兆6千億円で、医療保険料の上乗せ徴収や社会保障の歳出改革などから充てるとした。歳出改革が実現すれば医療介護費の自己負担増にも直結するが、岸田氏は「実質的負担は生じない」と繰り返した。
 こうした詭弁(きべん)は許されない。各党とも無償化と言うのなら、安定財源をどう確保するのか納得のいく説明が欠かせない。
 教育の問題は無論、無償化だけでは解決しない。いじめや不登校は増え、対策が急務だ。デジタル教材の活用が迫られるなど他にも課題は山積する。
 政府は公立校教員の処遇改善で残業代の代わりに支給する教職調整額の引き上げを決めた。ただ教育の質を確保するには教員定数やスクールカウンセラーをはじめとする支援スタッフの増員と業務量の削減が必要だ。
 現行の学習指導要領に基づき、授業時間が減らぬまま小学校の英語拡充などが進められた。教育課程が過密化し、現場の負担は増したと指摘される。
 次期指導要領の改定に向けた作業が近く始まる見通しだ。教育の将来像について、国会での建設的な議論を求めたい。

ルールを守る?(2024年10月25日『北海道新聞』-「卓上四季」)
 
 東ニ特売ノ生鮮食品ガアレバ/行ッテ急イデ買イ求メ/西ニ安売リノ燃料店ガアルト聞ケバ/行ッテ値段ヲ確カメ/財布ノ中身ヲ気ニシナガラ/冬ガ近ヅク街ヲオロオロアルキ…
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を拝借して気がひけるのだが、こんなフレーズが頭に浮かんで仕方ない。身の回りの品やサービスの値段が上がり続ける。けれども日々の稼ぎはちっとも増えていかない。いろんな工夫を重ねて1円でも10円でも節約に努め、つつましく日々を送る。これが大方の人のくらしぶりではないか
▼それも限界がある。衆院選で最重視する政策は何か。先日の本紙の全道調査で最も多かったのは「雇用・物価高対策を含む経済政策」。生活実感の反映だろう
▼庶民の感覚なら腰が抜けそうだ。2千万円。自民党衆院選候補が代表を務める党支部に党本部から支給された活動費だ。「党勢拡大」のためと説明している
▼原資は政党交付金、つまり国民の税金が出どころ。どの党でも選挙に一定のお金がかかることはのみ込める。それでも理解できない点が残る。派閥裏金問題で非公認となった候補の支部も同額を得た。けじめとしての非公認ではなかったか
▼「ルールを守る自民党を確立する」。そう高らかに宣言したのは、どこのどなたでしたっけ? 党を率いる石破茂首相に問いかけたい。

(2024年10月25日『東奥日報』-「天地人」)
 
 「住めば都」とはよく言ったもので、地方にいても生活上の不便をさほど感じない。都会にいれば選択肢は多いが体は一つしかないのだから、地方にいても同じ。むしろ、豊かな自然やそこに暮らす人との関係性に癒やされることが多い。とはいえ、我慢ならない格差も存在する。
 「なぜ地方女子は東大を目指さないのか」(江森百花、川崎莉音著、光文社新書)は「自分が女」で「生まれ育った場所が地方」であっただけで将来の選択肢が狭められるならば、あまりにももったいないとし、これを「構造的差別」と説明する。もちろん、最難関大学への進学ばかりが最良ではない-との前提の話だが。
 構造的差別は性別、居住地域、社会的・経済的地位などによって生まれる不利な状況。男女問わず、地方に生まれ育ったことで首都圏の同世代と比べ、手本の「ロールモデル」が周りに少なく、情報量も劣る。
 ネット社会の進展で、情報格差は縮小しつつあるが、首都圏で開催されるセミナーに参加するには数万円の交通費がかかるなど、学ぶ機会が狭められるのも、定義に照らせば構造的差別だろう。医療の偏在も同様。住む地域によって命が救われる可能性に差があるとすれば大問題だ。
 衆院選最終盤、立候補者の主張に触れるにつれ「もしやこれも構造的差別か」と考え込んでしまうことも。そこに気付く候補を選びたい。

’24衆院選 三陸の魚種変化 水産業の再生へ光を当てよ(2024年10月25日『河北新報』-「社説」)
 
 浜の嘆きと危機感は、政治に届いていないようだ。
 今シーズンもサンマの魚群は北海道東沖の公海にとどまり、秋が深まっても三陸の近海を南下しなかった。魚体は総じて小ぶりで脂の乗りも良いとは言えない。今年も不漁基調は変わらず、漁期が終盤を迎えている。
 海水温の上昇に伴うサンマやスルメイカ、サケなどの不振は、もはや一過性の事象でなく、産業の土台を揺るがす問題になっている。漁場の変化に合わせた産業構造の再構築が欠かせず、食料安全保障の観点からも国政の重要課題に位置付けるべきだ。
 1997年にサンマの水揚げ量約4万4000トン、金額約40億円で日本一だった宮城県気仙沼市魚市場は昨年、10分の1以下の約4000トン、4割弱の約14億5000万円にまで落ち込んだ。今シーズンも21日現在、入港は14隻のみで、前年同期の6割台となる935トンにとどまる。
 生鮮出荷に加え、缶詰やつくだ煮などの加工業者は今年も原料魚の確保に苦しむ。魚市場は28年連続日本一が確実なカツオの豊漁に支えられてはいるが、足元は不安定な状況にあると言えるだろう。
 国内の漁業生産量のピークは40年前の約1280万トンで、2023年は3分の1以下の約370万トンに落ち込んだ。三陸地域の水産業にとっては漁獲規模の減少以上に、沿岸を回遊する魚種の変化が大きな打撃となっている。
 宮城県内で水揚げされた魚の用途に関し、北海道東北地域経済総合研究所(ほくとう総研、東京)が今年まとめた調査リポートでは「取れる魚」と「食べる魚」のギャップが、産地で急速に拡大している現状が明らかになった。
 県内主要4漁港(気仙沼石巻、塩釜、女川)のデータを基に水揚げされた魚の用途に関する推移を見ると、東日本大震災前は飼料と魚油・飼肥料向けを合わせた非食品系の割合が約12%だったが、22年には約57%に急伸。約10年で生鮮向けや食品加工品向けなどの食品系を逆転した。
 マイワシやサバ類の大幅な増加に加え、タチウオやガザミ類、チダイ・キダイなど西日本沿岸に生息する魚も取れるようになった海況変化に、沿岸の水産加工業が対応できていない実態が背景にある。
 おなじみの魚が食卓から遠のき、海水温の上昇でホヤなどの養殖業も影響を受けている。幅広い魚種への加工技術を整備して有効活用を図らなければ、将来的に都市部の消費地を含む食料確保に大きな影響を及ぼしかねない。
 漁業振興は発生から13年半が経過した東日本大震災からの復興に直結する。持続可能性が危うくなれば、被災地の未来そのものに影を落とす。
 衆院選では与野党とも、水産不況の深刻さを十分に受け止めているとは言い難い。速効性ある対策を漁業従事者と有権者に示すよう求めたい。

[2024衆院選]選択的夫婦別姓 議論停滞もう許されぬ(2024年10月25日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 自分の姓に愛着を持っていたり、仕事への影響を懸念したりして、結婚しても姓を変えずにいたいと望む人は少なくない。日本は、夫婦が希望すればどちらも結婚前の姓のままでいられる「選択的夫婦別姓制度」がない、世界でもまれな国だ。その導入の是非が衆院選の争点の一つになっている。
 石破茂首相は導入について、自民党総裁選前の時点では「実現は早いに越したことはない」と意欲を示していた。だが首相就任後は「国民の間にさまざまな意見がある。さらなる検討が必要」と慎重姿勢に後退した。
 さまざまな意見があることを踏まえた上での導入への意欲ではなかったのか。法制化に期待した人たちの失望は大きかっただろう。首相はなぜ発言を後退させたのか説明すべきだ。
 「家族の一体感を損なう」などとして自民内には保守系議員を中心に根強い導入反対論がある。法相の諮問機関・法制審議会は1996年に導入を含む民法改正を答申したが、与党内の反対で実現していない。議論は約30年間たなざらしだ。停滞はもう許されない。
 導入を求める世論は近年高まっている。夫婦同姓を定めた現行法について最高裁が2015年と21年に「合憲」と判断しつつ、国会で判断すべきだと議論を促した影響は大きかっただろう。経団連も今年、仕事上で旧姓を名乗る通称使用では不都合が生じることがあるとして、早期実現を提言した。
 自民は公約で賛否を明示していないが、与党の公明党は導入の推進を掲げる。野党では立憲民主党共産党、国民民主党、れいわ新選組社民党が導入賛成。参政党は反対。日本維新の会は同一戸籍・同一氏の原則を維持し、旧姓使用に法的効力を与える制度の創設を訴える。
 日本では夫婦の9割が夫の姓を選んでいる。この現状を国連の女性差別撤廃委員会の委員が今月、「社会的な圧力によるもの」と述べた。日本の男女格差に対する指摘として重く受け止めねばなるまい。
 男女平等の度合いの国際順位で、日本は極めて低位にある。女性衆院議員の割合が約10%など、女性議員の少なさがその要因の一つとなっている。
 今回の衆院選に立候補した1344人のうち女性は314人。過去最多とはいえ23%にとどまる。できる限り候補者数を男女均等とすることを目指す法律が18年にできたが、歩みは鈍い。日本は企業役員や管理職の女性比率も低く、男女の賃金格差も顕著。政府が掲げる「女性活躍」の実現には程遠い。
 性別による役割分担意識、長時間労働をはじめとした働き方など、課題は多岐にわたる。夫婦の姓の在り方もその一つだ。
 衆院選で各党は、男女格差を解消する実効性ある施策を打ち出せているだろうか。政治の責任は重い。これまで以上に力を注ぐことが求められる。

衆院選・政治改革/不正根絶の本気度問われる(2024年10月25日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 自民党の派閥裏金事件を受け、政治改革が最大の争点になっている。各党、各候補者は不正を根絶する仕組み構築への本気度が問われていることを認識すべきだ。
 6月の通常国会で成立した改正政治資金規正法はパーティー券購入者の公開基準額を5万円超に引き下げ、関係政治団体の収支報告書のオンライン提出の義務化などを規定した。しかし「抜け穴だらけ」との批判は根強い。
 今回、与野党間の論戦の中心となっているのは、使途公開が不要の政策活動費の扱いだ。野党各党が廃止を訴えるなか、自民は「将来的な廃止を念頭に透明性を確保する」との言及にとどめている。
 連立政権を組む公明党も廃止を掲げている。自民は政治資金を監査する第三者機関の設置を公約に盛り込んでいるが、「政治とカネ」の問題の根絶のための取り組みとしては踏み込み不足の印象が拭えない。政権与党として廃止に向けた具体的な道筋を示し、有権者に説明してほしい。
 多くの野党が企業・団体献金の禁止、政治資金パーティーの禁止や規制強化を訴えている。税金を原資にした年間300億円超の政党交付金を受け取っている以上、政策決定への影響が指摘される企業・団体献金やパーティー開催は見直しが避けられない状況だ。
 30年前の政治改革で創設された政党交付金制度は、企業・団体献金の禁止を前提としたものだったことを踏まえ、各党は議論を深める必要がある。
 国会議員に月額100万円支給されている「調査研究広報滞在費」(旧文通費)の改革も待ったなしだ。先の通常国会では、自民と日本維新の会との間で、使途公開と未使用分の国庫返納を義務付ける法改正に合意していたが、自民が国会日程などを理由に見送った。
 今回の選挙公約には自民も使途公開や未使用分の国庫返納を盛り込んでおり、与野党の方向性はほぼ一致している。与野党ともに公約をほごにしてはならない。
 「政治とカネ」のほかにも、女性や若者の政治参画の遅れ、世襲議員の増加など課題は多い。自民や公明は党の国会議員の女性割合30%を目指すことを唱え、共産党や、国民民主党は一定割合の女性候補の擁立を義務付けるクオータ制の導入を目指すとしている。立憲民主党は国会議員の政治資金の世襲制限、維新は一院制も視野に議員定数の大幅削減を打ち出す。
 いずれも議論に十分値するものだ。各党は覚悟を持って改革を前に進め、国会の活性化、議員の資質向上につなげる責務がある。

地方創生 交付金だけでは効果が乏しい(2024年10月25日『読売新聞』-「社説」)
 
 国が地方創生を重点政策に掲げて10年が経過したが、東京圏への人口の一極集中も、地方の過疎化も歯止めがかからない状態が続く。
 自治体の取り組みを政府が交付金で後押しする従来の手法では、限界が見えている。大きな視点に立った総合的な対策を打ち出さなければならない。
 石破首相は衆院選の地方遊説で、地方創生の交付金を来年度から倍増する考えを強調している。政府は今年度予算で1000億円を計上している。
 地方創生は、2014年に安倍内閣が掲げた。自治体の少子化対策や、地方への移住者を増やすための施策を国が交付金で支援するもので、10年間の交付金の総額は1兆7000億円に上る。
 この地方創生交付金を有効に活用した自治体もある。
 岡山県奈義町子育て支援施設の整備に交付金を充て、子育て相談や子どもの一時預かりを充実させた。母親が育児に追われて孤立しないよう、短時間の仕事を紹介する事業も行った結果、町の出生率は2・95まで回復した。
 このほか、交付金で空き店舗や空き家をリフォームし、安価に貸し出すことで都市部からの移住者を増やした自治体もある。
 ただ、こうした市町村は限られており、全体としてみれば地方の過疎化は一段と深刻化している。交付金事業が十分な成果をあげたとは言い難い。
 石破首相は初代の地方創生相を務めたため、思い入れが強いようだが、現在の仕組みのまま交付金を倍増させるだけでは不十分だ。人口減少が続く中、「少ないパイ」を市町村で奪い合うかのような施策も、意義が乏しい。
 地方の活性化と少子化対策はセットで進めるべきだ。若い人が働く場となる企業の誘致や、豊かな自然を生かした産業の創出などを強化していくことも大切だ。過疎化に悩む市町村の意見も踏まえた対策を検討したい。
 政府は今月、新たな地方創生のための本部を創設した。今後10年間で集中的に取り組む施策をまとめる方針だという。
 この本部は、岸田前内閣が内閣官房に設置した「デジタル田園都市国家構想」の事務局を衣替えしたものだ。自治体のデジタル化を加速し、行政サービスを効率化させようという構想は、前内閣の退陣で中途半端に終わった。
 内閣が代わる度に新たなスローガンだけが打ち出され、政策が伴わないようでは困る。

時代に即した憲法の姿めぐる議論加速を(2024年10月25日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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選挙困難時の国会機能維持などをめぐり自由討議が行われた衆院憲法審査会(6月13日)
 
 危機下での政府や国会の役割をどう考えるべきか。衆参両院の憲法審査会で論議が続くが、いまだに結論は出ない。与野党衆院選で時代に即した憲法への考え方を明示し、議論の加速につなげてもらいたい。
 改憲への各党の立場は二分されている。自民党は公約で「憲法改正原案の国会提案・発議を行い、国民投票を実施し、『日本国憲法』の改正を早期に実現する」と踏み込んだ。優先テーマとして①自衛隊の明記②緊急事態対応③合区解消・地方公共団体④教育充実――の4項目をあげる。
 日本維新の会は教育無償化や自衛隊明記、緊急事態条項の創設など具体的な改正条文案を示し、期限を区切って国民投票を目指す。国民民主党は緊急時の行政府の権限統制や立法府の機能維持といった課題の改正に積極姿勢を示す。
 公明党戦後民主主義の基盤を築いた基本理念を堅持し、新たな課題が生じれば必要な規定を付け加える「加憲」を主張する。
 一方、立憲民主党は「論憲を進める」と訴えつつ、緊急事態条項の盛り込みに慎重姿勢を示す。現行の9条を残したうえで自衛隊を明記する自民党案についても「フルスペックの集団的自衛権まで行使可能となりかねない。平和主義を空文化させる」と反対する。
 共産党やれいわ新選組社民党などは、9条見直しや緊急事態条項を含む改憲に反対の立場だ。
 憲法論議保革対立の象徴で、自衛隊の位置づけを含む議論はタブー視された。憲法審査会での検討が本格化したのはここ数年だ。
 自民、維新、国民民主などは、大規模災害などで選挙が困難な場合の国会議員の任期延長を優先課題としている。危機時の超法規的な措置を防ぐためにも、政府や国会の権限と機能維持の手段を明確に定めておくのが望ましい。
 日本周辺の安全保障環境は厳しさを増す。政府が進める防衛力の抜本的強化と、9条2項の「戦力不保持」との整合性をどうとるかは国家的な課題で、もはや憲法論議から逃げるべきではない。
 野党が訴える「衆院解散権の制約」「臨時国会の召集期限」「国政調査権や情報公開の強化」も検討すべき重要なテーマといえる。各党は党派対立を乗り越え、新たな時代にふさわしい憲法の姿を積極的に語ってほしい。

高等教育無償化 進学希望かなえるため(2024年10月25日『東京新聞』-「社説」)
 
 衆院選では各政党が高等教育の無償化をそろって公約に掲げている。家庭の経済力にかかわらず、将来を担う若者に教育機会を保障することは重要であり、無償化の裏付けとなる財源確保や実現に向けた決意こそが問われている。
 自民党は大学や高専、専門学校など高等教育の無償化を公約に掲げ、公明党は2030年代の大学無償化を目指して、授業料減免や給付型奨学金の拡充を訴える。
 一方、立憲民主党は国公立大の授業料無償化と、私大と専門学校は同額程度の負担軽減。奨学金制度も貸与型の返済額を所得控除対象とすることを主張する。
 日本維新の会は、大学、大学院改革と合わせて教育の全課程での無償化を目指すとし、共産党はすべての大学、短大、専門学校授業料の半額と入学金廃止を訴える。れいわ新選組は高校卒業まで3万円給付と大学院までの無償化、社民党は高等教育までの教育費無償化を掲げている。
 私立大は授業料が高く、国公立大でも財政難を理由に授業料の値上げが相次ぐ。奨学金が貸与型の場合には卒業後も返済が続き、若者の暮らしを圧迫している。若者の進学希望をかなえ、卒業後も安心して暮らしてもらうには、高等教育無償化が喫緊の課題だ。
 大学院までの無償化には5兆円の財源が必要とされるが、日本はこれまで教育への公費支出を惜しんできた経緯がある。
 経済協力開発機構OECD)報告書によると、日本の公費に占める教育費の割合は8%で加盟36カ国中、下から3番目。高等教育の公費割合は37%と、加盟国平均の68%を大きく下回る。日本政府は高等教育の無償化をうたう国際人権規約を批准しながら履行してこなかったのが実情だ。
 国立大の授業料値上げの引き金になった財政難も、04年の独立行政法人化後、国が運営費交付金を減らしたことが原因となった。
 非正規雇用増加で世帯年収が低迷し、経済格差や貧困の広がりで大学進学を諦めたり奨学金返済に苦しむ若者が増えている。重くのしかかる教育費の負担は少子化に拍車をかける要因でもある。
 衆院選後は各党が協力し、高等教育の無償化を早急に実現すべきだ。もはや一刻の余裕もない。

外交・安保 平和と安全どう守るのか(2024年10月25日『新潟日報』-「社説」)
 
 中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、台湾有事への懸念が強まっている。朝鮮半島では韓国と北朝鮮の緊張が高まっている。
 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す状況下で、平和と安全をどう守っていくのか。そのかじ取りが問われる衆院選だ。
 石破茂首相は自民党総裁選中、米国の核を日本で運用する「核共有」やアジア版NATO北大西洋条約機構)構想を提唱していた。しかし、首相就任後は発言を控え、自民党公約にも盛り込まなかった。分かりにくい対応だ。
 岸田文雄前政権は2022年に国家安全保障戦略など安保関連3文書を策定し、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費の大幅増を決めた。
 自民公約はそれを継承し「安保3文書に基づく防衛力の抜本的強化」を掲げる。そのための防衛増税も、この選挙戦の争点だ。
 野党の立憲民主党は「防衛予算を精査し、防衛増税は行わない」とする。社民党は防衛力増強に反対の立場を鮮明にし、れいわ新選組は5年間で43兆円の「軍事費倍増計画」の中止をうたう。
 日本維新の会は「防衛費は国民の負担増に頼らず、国内総生産(GDP)比2%まで増額」を主張する。参政党は増税ではなく投資国債で賄うとする。
 ロシアと事実上の軍事同盟を結んだ北朝鮮は、ロシアの支援で核・ミサイル開発を進めている。中国も核弾頭保有数を急速に増やすなど核の脅威は高まっている。
 一方で、「核なき世界」を希求する潮流もあり、核廃絶を訴える日本原水爆被害者団体協議会ノーベル平和賞に決まった。
 米国の「核の傘」による抑止力を強化するのか、それとも核兵器禁止条約に参加し、核廃絶を目指すのかも注目される論点だ。
 自民は「核拡散防止条約(NPT)体制の維持強化など現実的かつ実践的な取り組みを進める」としている。公明党は核禁条約批准への環境整備を掲げ、与党内でも違いが生じている。
 立民は核禁条約へのオブザーバー参加、共産党は核禁条約への参加を主張する。
 維新は核共有を含む拡大抑止に関する議論を開始するとし、国民民主党は拡大抑止の実効性確保へ議論の必要性を訴える。
 ロシアのウクライナ侵攻や、パレスチナ自治区ガザでの戦闘は長引き、犠牲者は増えるばかりだ。
 国連は二つの戦闘を止めることができず、機能不全に陥っている。国際秩序が揺らぐ中、平和主義に基づく日本の外交力をどう発揮していくのか。
 北朝鮮による拉致被害者の全員救出は喫緊の課題だ。各党は具体的な手法を示してもらいたい。

財政再建 将来世代への責任果たせ(2024年10月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 衆院選では与野党ともに、必要な財源を曖昧にしたまま、歳出拡大や減税といった目先の大盤振る舞いを競い合っている。
 借金頼みの財政運営に対する危機感は伝わってこない。中長期的な財政健全化の道筋を語ることこそが、政治の責務であるはずだ。
 物価高対策として、自民、公明両党は、低所得世帯向けの給付金を公約に掲げている。日本維新の会共産党、国民民主党など野党各党は消費税の減税や廃止を訴える。立憲民主党は中低所得者に一部消費税を還付する制度の導入を主張している。
 ほかにも小中学校の給食費や高等教育の無償化をはじめ、恒久的に巨費を要する政策が並ぶ。
 国の借金である長期債務残高は1千兆円を超え、国内総生産(GDP)の2倍に膨らんだ。先進国で最悪の水準だ。日銀は金融政策を利上げに転換し、金利が上昇すれば国債の利払い費がかさむ。財政運営は一層難しくなる。
 それなのに各党の公約は財源が不明確で、財政再建への言及も乏しい。自公は「経済成長と財政健全化の両立」、立民は「歳出・歳入両面の改革を行い、中長期的に財政の健全化を目指す」などと掲げるが、総じて具体性を欠く。
 政府は国と地方の基礎的財政収支プライマリーバランス)を2025年度に黒字化する目標を維持する。政策経費を借金に頼らず税収などで賄えている状態だ。
 石破茂首相は公示日、選挙後に編成する24年度補正予算は昨年を上回る規模にすると表明した。歳出規模が膨らんで執行が25年度にずれ込み、黒字化は困難との見方が出ている。財政規律を棚上げし、規模ありきで予算を編成するようでは健全化は程遠い。
 岸田前政権は防衛力強化の財源として法人、たばこ、所得3税の増税を決めたが、負担増への反発を避けて先送りしてきた。
 先の自民党総裁選では複数の候補が増税に異論を唱えた。23年度予算の防衛費に巨額の使い残しも判明した。防衛費をGDP比2%に増額する規模ありきの方針から問い直す必要があるのに、踏み込んだ論戦は聞こえない。
 財政再建には歳出削減や負担増といった耳の痛い議論を避けて通れない。歳出拡大策を並べるだけでは、借金のつけを負う将来世代に無責任だ。各党には正面から財政再建に向き合うことを求める。

少子化と地方/社会の意識変える覚悟で(2024年10月25日『神戸新聞』-「社説」)
 
 少子化が加速している。地域社会の活力を可能な限り維持するには、家族を持ちたい人への支援はもちろん、人口の急減を防ぐ手だてが求められる。移住者の「奪い合い」では解決しない。政治は構造的な課題に向き合うべきだ。
 各党は、子どもや若者向けの政策を競うように公約に掲げている。子育て世帯への現金給付の拡充をはじめ、教育無償化、奨学金の返済支援などである。教育費の負担の重さは少子化の要因と指摘される。子どもの学ぶ機会を保障する観点からも、教育費の負担軽減は不可欠だ。
 しかし、肝心の財源に関する説明は不十分と言わざるを得ない。具体的な財源確保策が示されているか、有権者はしっかり吟味したい。
 「若者、女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散型社会をつくっていかねばならない」。石破茂首相は所信表明演説でこう述べた。自民党は公約に地方創生の交付金倍増を盛り込んだ。立憲民主党は「地方回帰を加速させる」と訴える。与野党ともにデジタル技術を活用し、地方での仕事をつくるとしている。
 石破氏は2014年、初代の地方創生担当相に就任し、総合戦略の策定を主導した。10年が経過した今年、政府は「人口減少や東京一極集中の流れを変えられず、厳しい状況」との報告書をまとめた。ただ、要因の分析には踏み込んでいない。
 共同通信の全国首長アンケートでは、地方創生について「移住推進に偏り、自治体間の競争で疲弊した」「人口減対策が地方任せになった」との批判が寄せられた。若者が魅力を感じる仕事の創出に悩む自治体は多い。産業育成や起業支援といった国の政策が問われる。学び直しができる環境整備も重要だろう。
 衆院選ではほとんど触れられていないが、男女格差の解消は少子化対策や地方創生の鍵といえる。
 丹波市の広瀬自治会(33戸、約110人)は、中高年男性が中心の役員選挙を、今年から18歳以上の全員が参加できるようにした。地域課題についてアンケートをしたところ、女性全員が夏祭りの廃止か縮小を望み、酒宴として楽しみにしていた男性たちが驚いたのがきっかけだ。
 「女性の思いに全く気づいていなかった。いろんな意見が尊重される自治会にしないと、地域は細ってしまうと危機感を持った」。2年かけて役員選挙を改革した前自治会長の荒木孝典さん(69)は振り返る。
 少子化や地方の衰退は、女性や若者が夢や希望を持てる社会になっているか、という切実な問いかけでもある。政治は、社会全体の意識を変える覚悟を持って抜本的な対策に取り組まねばならない。

同日選の投票率は(2024年10月25日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 岡山県知事選は、選挙で選ぶ公選制になった1947年から2020年まで20回行われた。本紙電子版の「プレイバック知事選」に当時の紙面がある
▼7人が争った1947年の投票率は71%強。「棄権率は二割八分三厘」の見出しが立つほど、投票しなかった割合も話題だった。三木行治氏が初当選した51年は知事選史上最高の88・42%。直近3度が毎回30%台の現代から見ると、驚きの高さだ▼知事選と同じあさってが投票日の衆院選の県内投票率は近年、50%台で推移する。こちらも高いとは言えない
▼改めて見たいネット動画がある。俳優の菅田将暉さん、橋本環奈さんや映画監督ら有志が制作。「政府の放送ではない。僕たちの意思でつくった」と始まり、1票の重みを訴える。3年前の前回衆院選時につくられ、話題を呼んだ
▼今回、続編が公開された。「いろんな問題に関心を持つきっかけは、結婚で名字を変えたくないと思ったこと」「社会人1年目。意思表明できる大人になりたい」。立場の異なる一人一人が自らの言葉で語る姿には好感が持てる
▼続編では「今の政治が良いか悪いか。それだけでも感じるはず」と、政治参加は決して難しいものではないと語る女性も。自分の1票では何も変わらない、とあきらめがちな人に対する出演者たちのメッセージを無駄にしたくない。
2024衆院選少子化対策 希望ある社会を描けるか(2024年10月25日『中国新聞』-「社説」)
 
 女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は、直近の2023年統計で1・20と過去最低を更新した。低下は8年連続で、少子化が国の大きな問題であることは論をまたない。衆院選の争点となるべきだが、あまり議論が広がらず残念だ。
 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、望む子どもの数は減る傾向にあるが、将来結婚したい人は男女とも1・8人前後。結婚後の女性は2・25人に上る。望み通りに安心して産み育てられる社会にしていくことが重要だ。これまでできなかったのは、政治の責任と言わざるを得ない。
 結婚や出産に踏み切れない理由は、経済的な不安が大きい。自民党公明党が政権を担ったこの12年間は新自由主義的な経済政策が推し進められ、収入の格差が広がった。就職氷河期に社会へ出た人の中には、心ならずも非正規の働き方が続き、家庭や子どもを持つことを諦めた人も多いだろう。
 岸田政権は昨年4月、こども家庭庁を創設。30年までを「少子化を反転させるラストチャンス」と位置付け、年3兆6千億円を投じる「異次元の少子化対策」を打ち出した。その中心は児童手当の拡充だ。支給対象を高校生年代まで延ばし所得制限を撤廃。第3子以降は月3万円に倍増する。今月から実施される。
 ただ財源には問題が残る。1兆円は公的医療保険の保険料に上乗せする形で徴収するが、医療費を支え合う仕組みを少子化対策に転用するのは筋違いと言われても仕方ないだろう。
 衆院選の野党の公約も、立憲民主党が公立小中学校の給食費の無償化、日本維新の会が義務教育や幼児教育の完全無償化を掲げるなど、子育てに伴う出費を抑える政策が目立つ。だが総じて新味に乏しく、財源もはっきりしない。
 子どもが健やかに育つ環境をつくるのも政治の役割である。不登校の小中学生は増え続けている。居場所や学習の機会を提供しなければならない。家族の世話に追われるヤングケアラーの存在も明らかになっている。孤立しないよう、支える仕組みを整えることが、子育ての安心につながるはずだ。
 少子化を食い止める手段は子どもに直接関わる施策にとどまらない。むしろ、望めば結婚ができ、子どもを安心して出産し育てられる経済基盤と社会のサポートが欠かせない。雇用と収入の安定に加え、長時間労働の是正や、男性は仕事、女性は家事・育児といった固定的な性別役割分担を改めるなど、意識改革に取り組む必要がある。
 少子化は多くの先進国に共通する課題だ。充実した家族手当などの政策を総動員して出生率の低下に歯止めをかけたフランスなどの例はある。
 要は若い世代が生きる楽しさや暮らしやすさを実感し、将来にわくわくできるかどうかではないか。政治にはその環境づくりが求められる。今回の選挙戦も、将来のビジョンを示す好機と捉えて政策を訴えてほしい。

エネルギー政策 原発の将来 国民で論議を(2024年10月25日『西日本新聞』-「社説」)
 
 電力を安定供給しつつ、政府目標の「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」をどう実現するか。
 国民の暮らしや企業活動に密接に関わるだけに、エネルギー政策は衆院選で議論を深めるべきテーマだ。
 政府は次期エネルギー基本計画を24年度中に策定するため、経済産業省の審議会で検討を進めている。
 焦点は原発の扱いである。11年の東京電力福島第1原発事故を教訓に、政府は原発依存度を低減する方針を掲げていた。岸田文雄前政権は百八十度転換し、原発の積極活用にかじを切ったが、原発の再稼働は進まず、新増設の動きは止まっている。
 複合災害時に原発周辺の住民が安全に避難することへの不安が能登半島地震で高まったことや、再生可能エネルギーの普及で原発が競争力を失ったことが背景にある。
 原発は安い電力を安定して供給できる、というのは虚構だ。国際エネルギー機関によると、太陽光や陸上風力などの方が発電コストは安い。原発のような大規模集中型電源は運転停止時の影響が大きいリスクもある。
 核燃料サイクル政策は行き詰まり、原発がもたらす核のごみの最終処分場は決まらないままだ。
 再生可能エネの大量導入が世界の潮流である。原発依存をいつまで続けるのか。各党の考えは大きく分かれる。
 自民党は「徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用など脱炭素効果の高い電源を最大限活用する」と公約した。
 党総裁選で「原発ゼロに近づける努力を最大限する。太陽光や風力、小水力、地熱発電の可能性を引き出す」と発言していた石破茂首相は「安全を大前提に原発を利活用する」に主張を変えた。
 連立与党の公明党は「将来的に原発に依存しない社会を目指す」としており、自民との姿勢の違いは明らかだ。
 党の綱領に「原発ゼロ社会を一日も早く実現する」と書く立憲民主党は、50年の再生可能エネ100%を目指し、「できる限り早い時期に化石燃料にも原発にも依存しない温室効果ガス排出実質ゼロの達成を目指す」と訴える。
 共産党、れいわ新選組社民党は、より早期の脱原発を目指す。
 一方、日本維新の会、国民民主党原発を積極活用し、次世代原子炉開発も進める方針だ。参政党は行き過ぎた再エネ推進の見直しを掲げる。
 原発政策は国民的議論が欠かせない。なのに旧民主党政権下の討論型世論調査で「原発ゼロ」が最大の支持を集めたのを最後に、政府は幅広い議論をしてこなかった。岸田政権の方針転換も十分な議論がないまま決定された。
 地震大国で火山活動が活発なこの国で原発と共存できるのか。慎重な検討が必要だ。

2024衆院選 北方領土問題 関心高める論戦足りぬ(2024年10月24日『北海道新聞』-「社説」)
 
 ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、北方領土交渉は暗礁に乗り上げたままだ。
 日本の経済制裁に反発し、ロシアは日本を「非友好国」に指定した。
 国際法に違反し、武力で他国を侵したロシアに対して、欧米と足並みをそろえて制裁を科すのは当然だ。日ロ関係を戦後最悪と言われるに至らしめた責任はロシア側にある。
 四島の現状は、ロシアが併合の既成事実化を図るウクライナ東部にも重なる。北方領土交渉再開の展望は見えないが、国民が関心を失えば、実現はますます厳しくなる。ロシアの狙いもそこにあると言える。
 返還運動は今が正念場だ。力強く継続せねばならない。世論を喚起するため、各党は領土問題の論戦を活発化すべきだ。
 衆院解散に先立つ代表質問で、立憲民主党野田佳彦代表は安倍晋三元首相がロシアとの経済協力を進め、四島返還から事実上の2島返還路線に転換したことについて「石ころ一つ返ってこなかった」と批判した。
 石破茂首相は安倍氏の対ロ外交を肯定的に評価した。しかし以前は「四島返還は決して譲るべきだとは思っていない」などと、異を唱えていたはずだ。
 四島は一度も外国の領土になったことがない日本固有の領土だ。四島返還は戦後未解決の問題の一つである。政府は毅然(きぜん)として要求し続けねばならない。
 各党の公約は「粘り強く交渉を続ける」「返還実現に力を尽くす」など具体性に乏しく、訴えは低調と言わざるを得ない。
 昨年10月の内閣府世論調査では、領土問題を「知らない」との回答が35.6%と、10年前の同様の調査から倍増した。
 著しい関心低下は政治にも責任がある。現状を打開し、国民の理解を進めるためにも、国は返還運動を継承する若い世代の育成も後押しせねばならない。
 ロシアは四島交流事業(ビザなし渡航)を中止した。唯一、墓参の枠組みが残るが、コロナ禍の中断もあり5年間渡航できていない。元島民の平均年齢は89歳となった。生きているうちにもう一度、古里で墓参を果たしたいと切望している。
 事は人道の問題である。四島への日本の法的立場を損ねずに早急に実現できるよう、党派を超えて議論すべきだ。
 ビザなし渡航で日本人とロシア人が往来する拠点だった根室市をはじめ、北方領土隣接地域1市4町の疲弊は進む。日ロ関係悪化が地域に及ぼした影響を軽減するのも政治の務めだ。

’24衆院選 子ども・子育て 権利保障の視点が不可欠だ(2024年10月24日『河北新報』-「社説」)

 全ての子どもが家庭環境に左右されることなく健やかに育ち、存分に学べる社会をつくる。小さな差異はあっても、与野党が目指す方向は同じだろう。衆院選では、各党が子ども関連施策の充実を公約に掲げ、子育て世帯の経済的な負担軽減を訴える。
 子育て支援の充実は喫緊の課題である少子化対策とも結び付き、有権者の共感を得やすい。主な公約として、育児休業給付や児童手当の拡充、高校や大学の授業料、学校給食の無償化などが並び、対立軸は見えにくい。
 注目したいのは財源の裏付けだ。票目当ての「ばらまき」ではなく、実効性を伴う施策なのか。安定的な財源の捻出について具体的に示すことが求められる。
 自民党は、岸田文雄前首相がまとめた「次元の異なる少子化対策」に基づく施策を公約の柱に据えた。3年間で年最大3兆6000億円規模の予算を投じる。
 財源は、社会保障の歳出削減や2026年度に創設する「子ども・子育て支援金」で賄う方針。支援金は公的医療保険料に上乗せする形で、国民から広く徴収する。
 少子化は政府の想定を上回るペースで進む。今年1~6月の出生数(速報値)は過去最少の約35万人。通年の出生数が初めて70万人を割る可能性がある。
 社会全体で次世代育成を支える必要性があるとはいえ、子どもがいない世帯は全世帯の8割以上を占め、高齢化で介護や医療の需要も増す。社会保障費の削減といった「痛み」を伴う改革に国民の理解は欠かせず、与野党で積極的に論戦を交わすべきだろう。
 子どもを取り巻く環境にも目を向けたい。
 不登校の小中学生数は22年度に約30万人に上り、10年連続で過去最多を更新した。社会の変容に教育制度が対応しきれず、小学生の約59人に1人、中学生の約17人に1人が学校に通えない状況を招いたのではないか。
 中間的な所得の半分に満たない世帯で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は21年時点で11・5%。ひとり親世帯では44・5%に跳ね上がる。子育て関連の無償化が進むとしても、生活保護などの社会福祉制度が適切に機能しなければ、進学などの将来の選択肢は狭まるだろう。
 日本は国連の子どもの権利条約を1994年に批准したが、具体的な取り組みは遅れた。条約の理念を盛り込んだ「こども基本法」は昨年施行されたものの、子どもの権利を擁護する第三者機関は設置されていない。公約には立憲民主、公明、共産、社民各党が創設や検討を盛り込んだ。
 衆院選では給付や教育無償化などの経済的な支援に光が当たるが、子ども関連施策を考える上で、権利保障の視点は不可欠だ。学校教育の在り方も含め、踏み込んだ議論を期待したい。

[2024衆院選]「防災庁」構想 看板先行、問われる中身(2024年10月24日『秋田魁新報』-「社説」)
 
 石川県能登半島地震と豪雨、本県・山形県の記録的大雨、そして宮崎県沖・日向灘での地震とこれに伴う初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」発表―。列島各地で今年、大きな災害が相次ぐ中で、防災や復興の対策拡充が急務であることは論をまたない。
 石破茂首相は「防災庁設置」を自民党公約に掲げた。ただ政治とカネ問題や物価高対策などに比べ、争点としての注目度はいまひとつ。看板は高く掲げられているが、問われるべき肝心の中身が明らかにされていないのも理由の一つではないか。
 防災庁設置は石破氏が自民党総裁選でも力強く訴えた持論。首相就任後、視察に訪れた能登半島の被災地で設置準備を進める考えを強調し、災害対応重視の姿勢をアピールした。
 庁より格上の「防災省」設置を公約に掲げるなど、賛成する一部野党もある。立憲民主党野田佳彦代表は「既存の枠組みでできないのかどうか。よく検討すべきだ」と指摘し、まずは補正予算による復旧・復興を優先すべきという姿勢だ。
 石破氏は所信表明演説内閣府防災担当の予算や人員の抜本的強化、防災庁設置準備を明らかにしている。さらに「災害関連死ゼロ」実現のための避難所見直し、トイレやキッチンカー、ベッド、風呂を配備できる官民連携体制を整えるとした。
 災害備品の拡充などは防災庁設置と関係なく今すぐできる。実行に移してもらいたい。
 設置準備に先だって現状の災害対策に足りない点を検証し、その反省に立った上での防災庁を巡る議論が必要だ。肝心な議論を欠いていては選挙の争点になり得ない。
 災害対策では国土強靱化(きょうじんか)や防災設備・備品に目が向きがち。一方で避難路の確保などの対策も重要になる。
 能登半島地震では半島部と県庁所在地方面を結ぶ主要道が寸断した。半島の根元に当たる地域には稼働していなかったものの北陸電力志賀原発がある。地震では原発事故時に使う避難路の大半が寸断しており、避難計画の実効性が疑われる。
 2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故を忘れてはならない。原発は処理水の海洋放出が続き、廃炉に向けた溶融核燃料(デブリ)の試験的取り出しはトラブルのために中断したままだ。
 石破氏は脱炭素化を進めつつエネルギー自給率向上のため、安全を大前提として原発を利活用する考え。首都直下地震が起きても東京周辺に原発はない。しかし南海トラフ地震が起きれば、多くの原発と立地地域が危険にさらされる恐れがある。
 高齢化が進む過疎地などでは、弱者の避難支援や避難所運営、道路の復旧などを担う若い人材が足りない。防災庁設置の有無にかかわらず、議論を急ぐべき防災上の重要な課題がまだまだたくさんある。

衆院選・投票の機会/具体的に日時決めて行動を(2024年10月24日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 より多くの民意を国政に反映させるため、期日前投票不在者投票などを活用することが大切だ。
 県選管によると、衆院選の投票日の7日前となる20日現在、県内で期日前投票を行った有権者数は10万6243人だった。2021年の前回の同時期に比べ1393人増えた。不在者投票の用紙は8678枚交付された。
 区割りの改定で本県は4小選挙区となった。候補者の政見や人柄が分からないという有権者もおり、関心の低下が懸念されている。さらに裏金事件などによって政治不信は深刻さを増している。
 政治離れに拍車をかけかねない材料がある中で、期日前投票者数が前回より増えた。棄権せず権利を行使した10万人超の有権者に、投票の重要性を訴える選挙関係者は頭の下がる思いだろう。
 全国の有権者を対象にした明るい選挙推進協会明推協)の調査で、前回棄権した理由は「仕事」が約20%に上った。仕事以外の「重要な用事」は約10%だった。
 1票を投じる意思がありながら、忙しくて行けなかったということは避けたい。27日に投票する予定の有権者は、当日の行動をよく考える必要がある。
 無理をしないと投票できなさそうな場合は、期日前投票をしてほしい。予定の実行性を高めるために「何日の何時に、どこから投票所に行く」と、事前に具体的な計画を決めることがお勧めだ。
 投票する日の行動を確認してもらうなど前述の提案は、より良い選択を自発的に促す行動科学「ナッジ」を参考にしたものだ。大阪大の佐々木周作特任准教授によると、米国の研究では、有権者に謝意を伝えたり、当日の行動を具体的に尋ねたりすることで投票率が上がることが確認されている。
 特に課題となっている若者の投票率の向上について、佐々木氏は「投票未経験の人らにとって有益な情報を届けることが大切ではないか」と指摘する。
 例えば普段買い物をしない人には、卵1パック300円が安いか高いかよく分からない。売り場での他の人の行動が、卵を買うかどうかの判断材料の一つとなる。
 選挙も周囲の行動に影響されるという。ただ買い物と違い、他の人が投票に行ったかどうかは分かりにくい。政治に詳しくなく不安という若者の場合、同世代の投票に関する情報が安心して投票所に足を運ぶ判断材料になり得る。
 どう有権者の行動を後押しし、投票につなげるか。各選管や明推協などには、呼びかけ方などに工夫を凝らすことが求められる。

衆院選2024 社会保障の将来像 支え合う仕組みの議論を(2024年10月24日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
特別養護老人ホームで入所者に話しかける介護職員。介護現場の人手不足は深刻な状況だ=東京都目黒区で2023年11月、寺町六花撮影
 少子高齢化が進む中、社会保障制度の持続性を高める取り組みが急務となっている。にもかかわらず、衆院選での論戦は低調だ。
 高齢化に伴い、年金や医療などに掛かる費用は今後、さらなる増加が見込まれる。財源となる税や保険料など負担のあり方を議論しなければならない。
 今から手を打つべきなのは、65歳以上の人口がピークを迎える2040年代への備えである。総人口に占める割合は現在の29%から35%超に達する。
 就職氷河期を経験した団塊ジュニア世代が高齢期に入る。不安定な就労を余儀なくされ、低年金となる人が少なくない。
 政府は公的年金制度の見直しを進めており、給付水準の底上げが論点の一つだ。自民、公明両党は、基礎年金の拡充を公約に盛り込む。しかし、数兆円規模とみられる財源の確保策は示していない。
 医療を巡っては、負担のあり方が焦点だ。高齢者医療には現役世代の保険料が充てられているため、現行制度のままでは今後、働き手の負担が過大になりかねない。
 高齢者の自己負担の割合を年齢ではなく、支払い能力に応じて決めるべきだとの考え方がある。だが、負担の線引きなどについては慎重な議論が求められる。
 介護分野での喫緊の課題は、担い手をいかに確保するかだ。
 厚生労働省の推計によると、40年度には272万人の介護職員が必要になる。今でも人手不足が深刻だが、60万人近くも増やさなければならない。そのためには賃金や就労環境の改善が欠かせない。
 立憲民主党は、医療や介護に携わる人材の待遇改善を進めるとしたが、財源には触れていない。
 山積する問題にどう向き合うのか、将来像を描くのは政治の役割である。
 旧民主党政権下の12年に与野党が合意した「税と社会保障の一体改革」は財源の問題に切り込み、消費税の増税を決めた。一部を少子化対策に回し、現役世代にもメリットのある「全世代型社会保障」を打ち出した。
 しかし、政治はそれ以降、負担の議論に蓋(ふた)をしてきた。無責任というほかはない。一体改革の原点に立ち戻り、党利党略にとらわれない骨太の議論を展開すべきだ。

防災・復興支援 新組織の合理性 議論を(2024年10月24日『東京新聞』-「社説」)
 
 自民、立憲民主両党の新党首がそろって就任後初の視察先に選んだのは石川県・能登半島だった。元日の地震に続き、9月には豪雨に襲われた被災地の支援を重視する姿勢を示したかったのだろう。「選挙目当て」との冷ややかな声もあるが、頻発・激甚化する災害対策や復興への支援が喫緊の課題であることは間違いない。
 自民、公明両党は石破茂首相が持論とする防災庁(省)の創設を衆院選公約に掲げた。現状は防災担当相のもと、内閣府が災害時の各省庁や地方との調整役を担っているが、新たに「庁」を創設、いずれは省へと格上げし、人も予算もいっそう強化する構想だ。
 災害時の危機管理体制はこれまでも議論されてきた。例えば、警察庁防衛省国土交通省など防災関係部局による副大臣会合は2015年、検討の末、組織肥大化により迅速性や的確性が損なわれる可能性などを挙げ「現在の仕組みには合理性があり(新たな組織などの)積極的な必要性は見いだしがたい」と結論づけている。
 「縦割り行政」の弊害解消を狙って省庁を再編してきた経緯との整合性という問題もある。仮に防災庁をつくるにしても、新たな組織が機能するまでには、既存省庁との役割分担や地方との連携の調整などに相当の時間を要することも考慮すべきだろう。当然、その間にも災害は待ったなしだ。
 野党側も、れいわ新選組社民党が「防災省」創設を公約に盛り込んでいるが、新組織が「屋上屋を架す」ことにならないか、本当に今、優先して取り組むべき対応なのか、十分な議論が必要だ。
 一方、制度充実に重点を置いた主張もある。立民や国民民主党は被災者の税負担を減免する「災害損失控除」制度の創設を、共産党は被災者を対象とした生活再建支援金の引き上げを訴えている。
 南海トラフや首都直下地震への警戒だけでなく、昨今は集中豪雨や土砂災害などによる被害も相次ぐ。この災害大国で防災力強化が重要な論点であり続けるのは当然だが、あらゆる議論は、今、まさに苦境にある被災地の現実を原点とすべきだろう。能登地方では投票所や立会人、担当職員の確保に難航するなど、「選挙どころではない」のが実情である。

社会保障政策/信頼できる将来像を示せ(2024年10月24日『神戸新聞』-「社説」
 
 人口減少と高齢化が加速し、2043年には高齢者の数がピークを迎えるとされる。社会保障制度の再構築は喫緊の課題だが、衆院選での論戦は低調と言わざるを得ない。
 社会保障の担い手と受け手のバランスが崩れ、現役世代の負担は増す一方だ。世代間の公平を図りながら安心をどう確保するか。高齢者であっても応分の負担を求める「痛み」の議論が避けては通れない。
 一方でセーフティーネットの必要性は増している。高齢者の多くは公的年金に頼るが、基礎年金のみの人は40年間納めても受給は月約6万8千円にとどまる。離婚などで単身の人が増える中、物価高も相まって切迫度は高まっている。
 自民党公明党は基礎年金の受給額底上げを訴え、立憲民主党低所得者への一定額上乗せ、共産党も物価高対応の引き上げを示す。だが、いずれも財源は明確ではない。
 勤め人が加入する厚生年金の対象拡大も欠かせない。受給者の不安を除きつつ、幅広い観点からの議論が必要だ。日本維新の会は保険料の積み立て式導入などを提唱するが、実現可能なのか疑問が拭えない。
 自民と公明は高齢者が働く意欲を失わないよう、一定の賃金を得る人の厚生年金が減額される制度の見直しを主張する。希望する人が働き続けられる社会は望ましいが、年金財源への影響の見極めが不可欠だ。
 膨らみ続ける医療費の負担の在り方も再考が求められている。
 75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度は、自己負担を除く財源の4割を現役世代の保険料からの「支援金」で賄っている。世代間の不公平の緩和も焦点となる。
 国は22年、一定の収入がある高齢者の窓口負担割合を従来の原則1割から2割に引き上げた。しかし現役世代の軽減幅は700円程度で、余裕のある高齢者にさらなる負担を求める議論も避けられない。
 維新は高齢者の医療費窓口負担を原則3割に引き上げるとするが、困窮者対策が課題だ。共産は1割に戻すとし、国民民主党は公費投入による現役世代の負担減を訴えるが、どちらも財源は示していない。世代間対立を生まない制度設計が要る。
 介護の現場では担い手不足が深刻だ。他産業に比べて低賃金とされる産業構造をどう変え、人材を確保するか。保険料が上がり続ける中、現役世代の負担を抑えつつ制度を充実させる構想力が問われる。
 与野党は12年に「社会保障と税の一体改革」に合意し、消費税増税分を財源に充てると決めた。持続可能な制度にするために、各党は給付と負担を巡る説得力のある設計図を有権者に示す責任がある。

2024衆院選・防災対策 生煮えの議論、物足りない(2024年10月24日『中国新聞』-「社説」)
 
 豪雨や地震などが頻発する日本で防災の取り組みをどう強化するか。今回の衆院選の重要な争点の一つだろう。
 能登半島は元日に大地震に襲われ、その後に豪雨被害にも見舞われた。南海トラフ地震や首都直下地震など巨大災害への不安も高まっている。
 国や自治体に対応力の向上を求める声は強い。各党は具体的な防災対策を示し、論戦を尽くしてもらいたい。
 衆院選の公約として自民、公明両党は石破茂首相肝いりの「防災庁」設置の準備を掲げている。内閣府防災担当の体制や機能を強化し、とかく評判が悪い避難所の環境改善などもうたう。野党の立憲民主党も「危機管理・防災局」を、れいわ新選組も「防災省」設置を訴えている。
 一方、日本維新の会共産党、国民民主党などは防災庁設置には触れず、組織よりもむしろ国と自治体の連携強化を優先する。ただ、防災庁設置の是非はあるものの、初動対応の強化や避難所の環境改善などが必要との認識自体に大きな違いは感じられない。
 防災行政は現在、内閣官房とともに内閣府が各官庁間の調整役を担う。要員は150人前後で他省庁からの出向者も多く、専門職が育ちにくい悩みがあるという。
 過去の災害では、縦割り行政の弊害で現場は混乱した。全国知事会関西広域連合が防災組織一元化や機能強化を求めてきたのはそのためだ。ただ、独自色をアピールしにくいのか、各党が防災対策の具体的な道筋を深掘りする流れにはなっていない。
 防災庁一つとっても議論が生煮えなのは物足りない。石破首相は米国の連邦緊急事態管理局(FEMA)のような組織を想定しているとみられる。だが、日本で主に自衛隊が担う、災害時の実動部隊は米国では軍ではなく、パートタイムの州兵が担う。
 常設する防災庁の実務部隊に自衛隊を充てれば、本来業務である国防に支障が出るだろう。逆に新たな人員で実務部隊を確保しようとすれば、大幅な予算増が避けられない。組織の強化は不可欠としても、こうした議論もそこそこに、国民に新たな負担増を求めることにはならないのだろうか。
 災害対応は、平時の啓発活動から災害発生時の避難、救急・救援活動、復旧、復興と多岐にわたる。上下水道の復旧は国土交通省などが、田畑の復旧は農林水産省が担う方がやはり円滑に進むのではないか。コントロールタワーは必要だが、民間を含めた役割分担に目詰まりを起こさない運用こそが欠かせない。
 過去を振り返れば、既に機能の維持が難しい集落に多額の予算が投入された例もあるという。自治体の復興計画がコンサルタント会社任せで似たようなものばかりという指摘も目立つ。被災地の部品工場一つが停止しただけでサプライチェーン(供給網)全体が止まったケースもあった。
 公約をただ並べるだけでなく、過去の失敗を今後の防災対策につなげる具体的な道筋が必要だ。それを各党が示す論戦にすべきだろう。

小社会 あなたに1票(2024年10月24日『高知新聞』-「小社会」)
 
 10年前の師走。第2次安倍政権の2年間を問う衆院選は自民、公明両党が3分の2を上回る議席を獲得した。その一方で投票率は戦後最低の52%台に沈み、「政治も有権者も両方が敗者」とさえ言われた。
 こうした結末に、ある新聞記者はコラムで「選挙とは、政治とは何だろう」とつぶやき、近所の雑貨屋で見かけた張り紙の言葉を添えた。「お買い物とは、どんな社会に一票を投じるかということ」
 当時、朝日新聞社編集委員だった稲垣えみ子さん。買い物は欲を満たす行為と考えていたが、そのメッセージにはっとし、あらためて気づく。買い物は「お金という対価を通じて、それを売る人、作る人を支持し、応援する行為でもある」と。
 選挙も大事だが、日々何を買い、どう暮らすのかはもっと大事。以来、「お金=投票券」というつもりでお金を使っている―。そんな言葉に触れて、小欄も買い物を通した人への応援を意識するようになった。
 ちょっと敷居の高い「寄付」といった行為ではなく、対等な関係での日々の買い物。こうした「投票行動」を繰り返しながら、お互いの生活を豊かに成り立たせていく。行きつけの酒場に通うのも同じような感覚だろうか。
 選挙戦も最終盤。本県選挙区の立候補者数は全国最少となったが、私たちの古里には、地元の人たちが丹精込めて作ったいいモノ、いい店がたくさんある。そんな人たちにも日々、一票を。

沖縄の基地負担 地位協定見直しに道筋を(2024年10月24日『西日本新聞』-「社説」)
 
 米軍基地が集中する沖縄の負担をいかにして減らすか。衆院選での論戦は低調だが、安全保障政策を考える上で避けて通れない課題だ。
 過重負担の要因の一つに日米地位協定がある。米兵の刑事司法手続きや軍用機の運用などについて、米軍に特権を与えるものだ。日本政府はこれまで米国に改定を求めたことがない。
 2004年、沖縄国際大に米軍ヘリが墜落した事故では米軍が地位協定を盾に現場への立ち入りを拒み、警察は十分な捜査ができなかった。
 米軍関係者が公務外に刑事事件を起こした疑いがあり、身柄が米側にある場合は、身柄の引き渡しは起訴後が原則となっている。
 米軍機の夜間訓練などがもたらす騒音にも住民は悩まされている。地位協定により、日本側が飛行を制限できないからだ。
 米軍基地内で環境汚染の疑いがあっても、速やかに立ち入り調査をすることはできない。米軍が用地を返還する際は原状回復の義務はない。不平等性は明らかだ。
 石破茂首相は04年のヘリ墜落事故の時に防衛庁長官だったこともあり、地位協定改定に意欲を示していた。ただし自衛隊の米国駐留による日米同盟強化が主眼のようで、特権が温存される改定では意味がない。
 今年は女性に対する米兵の性的暴行事件が次々と明るみに出た。沖縄で米兵が関係する事件や事故が多いのは、米軍基地が極端に集中し、県民の暮らしと隣り合わせであるからにほかならない。
 沖縄の人々が党派を超えて米軍基地の整理・縮小を訴えても、用地の返還は遅々として進まない。
 日米両政府は13年に米軍施設・区域約1048ヘクタールの返還・統合計画を公表した。10年余りで返還されたのは73・1ヘクタールで、計画全体のわずか7%程度にとどまる。
 返還計画の象徴が宜野湾市の市街地にある普天間飛行場だ。1995年の米兵による女児暴行事件をきっかけに沖縄が強く求めている。
 日米両政府は名護市辺野古へ移設することに合意したため、またも県内に基地が固定化される。日本政府は普天間飛行場の危険性を取り除く名目を前面に出し、新基地の建設工事を進める。
 辺野古海域の埋め立ては難工事だ。費用は膨らむばかりで完成時期も見通せない。危険の除去が目的なら、日本政府は普天間飛行場の早期運用停止への理解を米側に求めるのが筋ではないか。
 沖縄の過重負担の軽減は、国民全体で考えるべきテーマである。米軍の自衛隊基地使用や共同訓練の拡大で、九州も密接に関係している。
 与野党ともに地位協定の改定、沖縄の基地の整理・縮小を現実に進める議論を深めてもらいたい。

これで伝統的家族制度か(2024年10月24日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 「苗字帯刀」は江戸時代の武士ら一部の特権で、平民は名字はあっても公に名乗れなかった。許されたのは明治時代の1870年。「平民苗字許可令」が出てからだ。それが一転して75年に「平民苗字必称義務令」が公布され義務となる
▼わずか5年で義務へと転じたのは71年の戸籍法制定のため。平たく言えば姓があったり、なかったりでは個別把握が煩わしい。徴兵事務に支障も出たための方針転換だった
▼戸籍の作成過程で浮上したのが夫婦の名字の問題。「結婚した女性の名字はどうするか」。明治期の政府中枢機関である太政官は76年の指令で「婚前の氏」とした。当初は夫婦別姓だったのだ。同姓となったのは98年の旧民法制定以降だ
▼苗字とは家の名だ。つまり家父長制の家制度で戸籍の戸主を決め、家単位で国民を管理したい国の思惑があったそう。作家藤井青銅さんの著書「『日本の伝統』の正体」にある
衆院選でも選択的夫婦別姓は争点の一つ。家制度は廃止されたが夫婦同姓は残った。これも国の都合なのか。旧民法制定から数えて126年。名字を巡る伝統と国の意思について考えている。

[2024 衆院選]沖縄振興 「所得格差」なぜ縮まぬ(2024年10月24日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 「いまだ全国最下位の1人当たり県民所得などの課題が存在する。沖縄振興の経済効果は十分に域内に波及しているのだろうか」
 石破茂首相は今月4日、就任後初の所信表明演説で、沖縄経済についてこう語った。
 首相の自問自答のような言葉は、これまでの政策を反省しているように聞こえた。
 ではどのように経済効果を波及させるのか。沖縄振興を巡っては半世紀以上続く制度の在り方を含め、議論すべき課題は多い。
 2021年度の1人当たり県民所得は225万8千円。全国最下位である。
 復帰の際、沖縄振興開発特別措置法に基づき策定された沖縄振興開発計画の最大の目標は「本土との格差是正」だった。
 現在は6次振計に当たる「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」の3年目。しかし格差の代名詞とされる1人当たり県民所得はいまだに全国の7割水準にとどまっている。
 米軍統治下で製造業が育たなかったことや島しょ経済の不利性を抱えていること、第3次産業に偏る産業構造や労働生産性の低さ、中小零細企業や非正規雇用の多さなどが要因に挙げられる。人口に占める年少者割合の高さも影響しているとされる。
 過去の振計のどこに問題があり、なぜ所得格差が縮まらなかったのか。きちんとした検証が必要だ。
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 沖縄振興は本来なら、格差是正の処方箋であるべきだ。ところが今、状況は別の方向に動いている。
 政府は今年4月、那覇空港と石垣港を「特定利用空港・港湾」に指定した。防衛力強化の一環として有事の際に自衛隊などの使用を想定し整備するものだ。
 日米地位協定により米軍の利用も可能となるその整備費は、内閣府の沖縄関係予算に組み込まれるという。
 空港・港湾の軍民両用化と沖縄振興の目的は相いれない。沖縄関係予算の減額が続く一方で「予算の軍事化」が進むことにもなる。県民が求める基地の負担軽減にも逆行する。
 沖縄選挙区に立候補した16人には、沖縄振興の趣旨に本当に反しないのか、その点についても考えを示してもらいたい。
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 基地受け入れの見返りとして振興策が前面にせり出すようになったのは、普天間問題が浮上してからだ。
 新基地建設反対を掲げ政府と対峙(たいじ)した翁長雄志知事、玉城デニー知事の下で予算は目に見えて減ってきた。
 基地と振興のリンク論はこれまでも幾度となく繰り返されている。沖縄振興予算が「基地維持装置」となっているとの懸念に対し、責任を持って答えるべきだ。
 予算の一括計上方式、高率補助制度という特有の枠組みについても、例外とすることなく議論を交わさなければならない。