人口減少と高齢化が加速し、社会保障の持続可能性に大きな揺らぎが生じている。
団塊ジュニア世代が65歳を超える2040年には高齢化率が35%となる見通しで、年金や医療・介護の費用増大は必至である。逆に現役世代は減り続け、負担は重くなる一方だ。
必要な医療・介護を誰もが受けられ、安心して暮らせる仕組みをどう構築すべきか、幅広い観点からの議論が必要だ。
自民、公明両党は公約で健康づくりや重症化予防を推進し、高齢者が働きやすい仕組みや環境を整えると主張する。
働く高齢者は確かに増えた。だがいずれ病気や要介護となる恐れはある。就労促進や健康増進を殊更強調し支援を求めづらい風潮を招いてはなるまい。
医療・介護の現場ではすでに担い手不足が深刻だ。
政府は本年度の介護報酬改定で処遇改善に重点を置き、全体でプラス改定となった。ただ他産業との賃金差は残る。
通所介護事業所なども人手不足による閉鎖が相次ぐ。介護の質を維持し、経営も成り立たせるための議論が求められる。
社会保障を維持するため、財源問題は避けて通れない。
政府は対策として今月、中小企業で働く短時間労働者の厚生年金への加入要件を一部緩和した。企業規模の要件の撤廃も視野に入れている。
加入者の増加は財政にも好影響を与えよう。保険料は労使折半で事業所負担も増す。各党は支援策を立案し、課題の克服に力を尽くしてもらいたい。
原則1割となっている高齢者の医療費の窓口負担については、維新が原則3割に、国民が原則2割に引き上げるとした。共産は一律1割に戻すという。
負担を巡り世代間対立をあおるのではなく、支え合う仕組みを作るのが政治の役割だ。税投入の是非も含め、各党は考え方を示し判断を仰ぐ必要がある。
衆院選の期日前投票を済ませた。小選挙区で1票。比例代表で1票。最高裁裁判官の「国民審査」もある。投票先は自分なりに事前に吟味した。票を投じるその一瞬は「しっかり頼みますよ」という投票先への願いと「権利を行使している」という緊張感が交じり背筋が伸びる。
もっとも衆院選の投票率は近年50%台まで低下。前回2021年は全国が55.93%、本県が52.93%と、半分近くが投票に行っていない。10代、20代はさらに落ち込む傾向がうかがえる。「自分の1票で世の中が変わるとは思えない」「投票先を決めるのが難しい」。本紙連載「衆院選・わがまち投票率」ではそんな声も聞こえる。
「選挙とは、端的にいえば『ひいきのチーム』や『ひいきの候補者』に一票を投じる行為です」。文芸評論家の斎藤美奈子さんが、著書「学校が教えないほんとうの政治の話」で「ひいき」という自分に近い政治的立ち位置を見つけるポイントを解説している。
なるほど今風に言えば「推し」を見つけるようなつもりで、候補者や政党を取り巻く情報と向き合うことで、政治との距離が縮まるのかもしれない。
テレビやラジオ、ネット、選挙公報、もちろん新聞も活用して。きょうまでの新聞週間の標語には「流されない 私は読んで 考える」とある。それはよりよい社会をつくるため。投開票日まであと6日。
大規模地震の発生リスクは今も高く、近年は気候変動で風水害も激甚化している。石破首相の危機意識は当然だが、重要なのは具体的道筋をどう描くか。目玉政策に掲げる「防災庁(省)」創設にしても、その全体像と役割を明確にする必要がある。
内閣府の防災担当部局には約150人の職員が在籍するが、出向者が多く2~3年程度で異動するため、ノウハウの蓄積が不十分だとの指摘がある。このため平時の備えから災害時の司令塔機能までを一元的に担う組織を作り、必要な予算を重点配分しながら専門職を育てたいという意図は理解できる。
一方で、異論もある。災害対応を集中すると言っても警察や消防、国土交通省などとの連携は欠かせない。非常時の初動や役割分担はスムーズに運ぶのか。こども家庭庁やデジタル庁など省庁の肥大化が懸念される中、「屋上屋」になる恐れはないのか。
同様の議論は過去にも俎上(そじょう)に載った。設置期限が2020年度末までだった復興庁の後継組織を巡り、全国知事会が「防災省」新設を唱え、与党内には「復興・防災庁」創設案が浮上。ただ慎重論も根強く、復興庁の存続決定で立ち消えになった経緯がある。
ここに来て具現化するならば、さまざまな論点を整理し、納得できる説明を行う必要がある。権限や予算を集中させるには関係省庁の反発も予想され、「看板倒れ」にならないよう調整する政治の腕力も問われるだろう。
組織改編は目的ではなく、手段に過ぎない。一人でも多くの人命と暮らしを守るという本質的な目標を達成するために優先すべきは何か、さらに議論を深めてほしい。
石破首相は所信表明演説で、避難所の国際指標である「スフィア基準」にも触れた。能登半島では少なからぬ住宅で断水が続いており、仮設住宅が豪雨で浸水するなど「二重被災」の苦悩も広がっている。トイレや食事、衛生面など、生活環境の悪化による災害関連死がゼロとなる体制を構築してもらいたい。
政府は能登の復旧予算に予備費を充てているが、本来補正予算を組むのが筋だろう。仮に政治日程を優先したのなら被災者軽視のそしりを免れない。野党も政権の責任を追及するだけでなく、政治が率先して果たすべき役割を考え、建設的主張を行うべきだ。
27日投開票の衆院選で、18歳の新有権者は国政選挙で初めて一票を投じる。今の日本は少子高齢化や地方の人口流出が加速し、社会設計の再検討を迫られている。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興は道半ばだ。選挙は郷土の課題を認識し、自らの進路を考える契機となる。政党と候補者の政見、公約にしっかりと耳を傾け、投票先を決めてほしい。
今回の18歳の新有権者は2005(平成17)、2006両年生まれが該当する。小学校低学年の頃から、震災と原発事故の地域への影響と課題を学びながら育ったはずだ。避難生活を経験した世代でもあり、社会問題に対して強い関心を抱いていると察する。国政に自らの意思や考えを示す貴重な機会が巡ってきた。
人口減少は深刻だ。本県をはじめ11県のマイナス幅は、2050年までに30%を超えるとの推計が発表されている。県内33市町村を含む全国744市町村は、将来的に「消滅の可能性がある」との試算もある。多くの新有権者の古里も入っていよう。出生率を引き上げ、Uターンや移住を呼び込む対策の強化は待ったなしの状況にある。
2024(令和6)年度末の普通国債の残高は1105兆円に上ると見込まれている。国内総生産(GDP)の2倍を超える規模で、主要先進国で最も高い水準にある。国の財政状況に海外から疑問符が付けば、円の価値が下がって過度なインフレが起き、国民生活が混乱する懸念もある。こうした「不都合な真実」を各党、各候補者はどう捉え、どのような施策を講じて解決を目指すのか。
18歳の衆院選県内投票率は2017年が49・97%で全世代平均を6・72ポイント、2021年が50・98%で7・03ポイントそれぞれ下回っている。同世代の意見をより一層、国政に反映させるには、投票所に足を運ぶ行動が何より大切になる。交流サイト(SNS)を含め、飛び交うさまざまな情報の真偽を見抜き、自らの考えを確立する力も養う機会となるよう願う。(菅野龍太)
しかも、山積する国民の疑問に全く答えていない。
青森県に建設中の再処理工場はトラブル続きで、当初予定から四半世紀以上たった今も稼働できていない。再処理後に残る「高レベル放射性廃棄物(核のごみ)」の最終処分先の見通しも立たないままだ。問題を先送りしては、国民の不信が募る一方だ。
原発の建て替え・新増設も現実味を欠く。安全対策費の膨張で建設費は1基当たり1兆円規模に上る。電力業界は電気代に転嫁できる仕組みを求めるが、家庭や企業の理解が得られるだろうか。
立憲民主党は党綱領で「原発ゼロ社会」を掲げながら、再稼働を容認する。野田佳彦代表の現実路線の反映だ。当面は石炭火力発電の廃止など脱化石燃料を優先しつつ、再生可能エネルギー導入を急ぐ。2050年までに全ての電力を再生エネで賄うことを目指す。
ただ、天候に発電量が左右される再生エネ一辺倒では電力不足に陥る懸念がある。実現に向けて公的資金50兆円を投入するというが、具体的な財源は示していない。
脱炭素と安定供給の両立競うエネ政策を(2024年10月21日『日本経済新聞』-「社説」)
エネルギーは暮らしや経済活動を支える血液だ。衆院選では深刻さを増す気候変動問題に対応しながら、安定供給を確保するエネルギー政策を競ってほしい。
ただ石破茂首相(自民党総裁)は日本経済新聞のインタビューで「結果として原発のウエートが下がっていくことが期待される」と語った。立憲民主党は原発の新増設を認めない。2050年の再生可能エネルギー100%を目指し脱原発や脱化石燃料を訴える。
データセンターや半導体工場の新設により、電力需要が大幅に増える可能性がある。再生エネの導入最大化が不可欠だが、コストや安定供給を損なわずにどこまで増やしていけるのかを冷静に見極める必要がある。
脱炭素に向けたエネルギー転換は気候変動対策だけではなく、国家秩序やビジネスの構造を変える機会になり得る。
自民は脱炭素を成長分野と位置付け、官民で総額150兆円の投資を呼び込むグリーントランスフォーメーション(GX)の加速を訴える。立民も省エネルギーや再生エネに30年までに公的資金を含め200兆円を投じ、年間250万人の雇用を創出するとしている。選挙戦をイノベーション促進策を訴える場としてほしい。
残念なのは自民や公明党など多くの党が物価高対策の名目で、電気・ガスやガソリン代などへの補助の継続を主張していることだ。
吉祥寺サンロード商店街を歩く人ら=東京都武蔵野市(松井英幸撮影)
日本の少子化は年々深刻さを増している。さらに高齢化で死亡者数は増加傾向にある。人口減少は歯止めがかからない状況だ。
令和5年の出生数は過去最少の72万7288人だった。6年は70万人を割る可能性がある。5年の合計特殊出生率は1・20と過去最低を更新した。
にもかかわらず、衆院選では各党から危機感が伝わってこない。しかも訴えは給付の拡充策が中心で、財源確保の議論が足りない。財源の裏付けがなければ実効性は確保されまい。
自民党は公約に政府の「こども未来戦略」を踏まえ、児童手当拡充や高等教育無償化、住宅支援強化などを盛り込んだ。
だが、高齢化で需要が高まる医療・介護サービスを低下させずに、歳出削減を十分に行うことができるのか疑問は残ったままだ。石破茂首相は岸田前政権の少子化対策を継承する姿勢を示している。負担についても、きちんと論じるべきだ。
立憲民主党は公立小中学校の給食費無償化、高校や国公立大の授業料無償化を掲げている。子供・子育て予算として「対GDP(国内総生産)比3%台」を達成するとも主張しているが、安定財源はどうするつもりなのか。不明確では政権担当能力を疑わざるを得ない。
教育費による家計の圧迫が少子化要因になっているとの問題意識は多くの党で共有されている。日本維新の会は教育の全課程の無償化、公明党は国公私立を問わず高校の実質無償化と2030年代の大学の無償化、国民民主党は高校までの授業料完全無償化を訴えている。各党は丁寧に説明する必要がある。
訴えるべきはほかにもある。人口減に対応した地域の在り方についてだ。日本の総人口は約1億2500万人だが、50年後は3割減ると推計されている。人手不足に拍車がかかり、地方の過疎化も進む。人口減でも繁栄できる国家像を提示することも重要である。
候補者と握手する有権者(岩崎叶汰撮影)
我田引水だが新聞を開くのが楽しみだ。ほっとする話題、結果を知っていてもその裏側を知ることがある。
▼週末19日には箱根駅伝の予選会が行われ、立教大がトップ通過で出場権を得た。失礼ながら意外な好成績だ。翌20日付の本紙スポーツ面では「タフ」さを重視した新監督の改革が背景にあったことが明かされていた。
▼立大は昨年予選会直前に当時の監督が不祥事で解任された。新監督に就いたのは強豪、駒沢大のコーチだった高林祐介さん(37)だ。熱血監督として知られた大八木弘明さんの薫陶を受けた。高林監督は坂道の走り込みなど「タフなコンディションでも走れる土台作り」をした。
▼強豪校の練習を身をもって知る指導は選手らの意識改革にもつながった。季節外れの暑さの中、過酷な予選会で「タフ」さを証明し、高林監督は「ようやくスタートラインに立てた」と箱根路へ静かな闘志を語った。
▼さてこちらも各地で激戦が繰り広げられている衆院選は投票日まで1週間を切ったが、タフな環境で国益を守れる政治リーダーを選べるだろうか。同僚の近著『政治家は悪人くらいでちょうどいい!』(乾正人著、ワニブックス)は「善人に政治家は務まらない」と歯に衣(きぬ)着せず、いま求められている政治家像を語っていて興味深い。
▼「悪人」と言っては中高生ら良い子には誤解があろうが、専制国家に毅然(きぜん)と対峙(たいじ)できる胆力ある政治家はいるか。先日の本紙「正論」で同志社大の村田晃嗣教授は、日本の政治家は国内権力闘争に敏感でも国際政治ではものを言えず「突然ナイーブ」になると手厳しい。防衛費増に反対し「外交力」でと声高に語っても、専制国家との協調ばかり口にするのが外交では、頼りにならない。
ノーベル平和賞が日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に授与されることが決まり、衆院選では各政党・候補が核兵器にどう向き合うかが問われる。被爆者の訴えが外交・安全保障政策に反映されるよう活発な論戦を期待する。
核禁条約の採択を後押しした被爆者の声に、真剣に耳を傾けるべきである。
石破茂総裁(首相)は就任前、米シンクタンクへの寄稿で、持論のアジア版北大西洋条約機構(NATO)で核抑止力を確保するため、日米の核兵器共有、日本国内への持ち込みを「具体的に検討せねばならない」と主張した。
これらの構想はまず自民党内で議論するというが、憲法や非核三原則、原子力基本法、NPTに反するのは明らか。現在の国際情勢では非現実的だ。被爆の実相と核廃絶を訴えてきた被爆者への敬意も欠く。撤回を重ねて求める。
石破氏は核禁条約会議へのオブザーバー参加については「真剣に検討する」と述べた。自民党以外の与野党が参加に賛同し、日本同様、米国に核抑止力を頼るドイツやノルウェーも参加している。政府は来年3月の第3回締約国会議への参加を決断すべきだ。
超核大国・米国との安保条約体制下で、核兵器廃絶に向けた道筋をどう描くのか。私たちは各政党・候補者の訴えに耳を傾け、核兵器を少しでも減らし、いずれ核廃絶を実現できる創造的な外交を展開する政権を選びたい。
防災体制の充実 縦割り排する議論が要る(2024年10月21日『信濃毎日新聞』-「社説」)
では、どこをどう充実させる必要があるのか。各党は具体策を示してほしい。
石破茂首相はかねて、災害対策を一貫して担う「防災省」の創設を提唱してきた。まず内閣府の防災担当を人員と予算の両面で強化し、外局として「防災庁」をつくる方針を示している。自民党は公約に防災庁設置の準備を進めると明記。公明党も公約に含めた。
災害対応の主役である自治体の意見は重い。連携強化だけで十分に対応していけるかどうか。掘り下げた議論が求められる。
地域それぞれに対応ノウハウの習得や物資の備蓄を充実させることに無理があるとなれば、国レベルの対応が必要となろう。
現在、内閣府の防災担当には約150人の職員が在籍。他省庁などからの出向者で構成し、数年で異動する。生え抜きの職員が育たないため、経験の蓄積が十分でないと指摘されている。
自治体の対応をしっかり支えられる災害の専門家集団が必要だとの主張は、うなずける。
ただ、実際に省庁を組織改編して防災庁を創設するとなると、多くの課題が横たわる。
防災省へ格上げとなった時、権限が必要以上に膨らんでいく可能性も否定できない。緊急事態を名目に人権を制限する方向に働くことのないよう、丁寧な制度設計が大前提となる。
東京一極集中に歯止めがかからない。人口を吸い上げられる地方の疲弊は加速度を増しており、対策は待ったなしの状況だ。
政府は2014年から、人口減少克服と東京一極集中是正を目的にした政策「地方創生」に取り組んでいる。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、産業振興や地方への移住促進などに努めてきた。自治体には地方版の総合戦略を作るよう要請し、戦略に沿った施策を交付金で支援している。
だが、成果は芳しくない。政府は今年6月、地方創生10年間を検証した報告書で「人口減少や東京圏への一極集中の大きな流れを変えるに至らなかった」と総括した。特に、進学や就職をきっかけにした10代後半や20代の若者の東京転入が続いており、その傾向は男性よりも女性において顕著だと指摘している。
交付金は例年、当初予算で1千億円を計上し、年度途中に600億~900億円の補正予算を組んでいる。衆院選公示を前に日本記者クラブが開いた党首討論会では、国民民主党の玉木雄一郎代表が、ほとんど使われず翌年度に繰り越されるケースもあるとして「本当に効果があるのか。倍増しても意味がない」と追及する場面があった。首相は、成果が出なかった事業も過去にあると認めた上で「事業がなぜまちを良くするのか、もっと徹底的に精査する」と述べた。
実効性を上げるため、使い道を厳しくチェックすることは大切だ。だが、審査を通過するため、自治体が国の顔色をうかがい、東京目線の施策を申請するようなことがあってはならない。国からの押し付けではなく、地方の自主性を引き出す視点こそが求められる。
地方創生に関し、共同通信社が今夏に実施した自治体アンケートでは、自治体のノウハウ不足から、戦略策定や地方創生を冠した事業に東京などのコンサルタント会社が入り込み「自治体の財源を搾取する構図がある」との声もあった。お金の使い道を変え、地域内での経済循環を生み出すことが欠かせない。
各党は地方活性化のためのさまざまな施策を打ち出している。だが、これまでも唱えられてきた施策が目立ち、実現性や実効性が見えにくい面は否めない。地方の未来を描き、説得力のある論戦を交わしてもらいたい。
少子高齢化に伴い、社会保障負担率は1990年度の10・6%から24年度には18・4%に増えた。税を含めた国民負担率は50%近い。「江戸時代の年貢と変わらない」という国民のため息に、政治は真剣に向き合うべきだ。
負担増は今後、ますます迫られる。国民の審判を受ける選挙で詳しく触れるのは得策でない―。各党がそう考えているとすれば不誠実過ぎる。
各党が高齢者の負担増に触れたことは理解はできる。ただ「タブー視」されてきた高齢者負担に踏み込んだというより、そこからも徴収しなくては制度がもはや維持できないということではないか。
24年度の社会保障給付費は約137兆円。内訳は年金に約61兆円、医療に約42兆円、介護に約13兆円、子ども・子育てに約10兆円である。国の負担は約37兆円で、税収の半分以上が費やされる計算だ。
今でも政府も国民も負担は限界に近いだろう。加えて40年度には人口の約35%が高齢者になる。さらなる保険料上昇を抑えるために給付内容にめりはりをつけ、思い切った削減も視野に入れるべきだ。
社会保障制度をいかに立て直していくか。各党は、より具体的な方策を議論してもらいたい。医療だけでなく、年金や介護、子育てなども状況は同じである。
その前提として、国民の権利と義務を明確にすることが欠かせない。日本の社会保障制度は租税制度と複雑に絡み合って、ほとんどの国民が理解困難なものになっている。
政府は、40年以上も保険料財源の拠出を通じた安易な財源調整を続けてきた。健康保険組合は、自分たちの給付に充てられるはずの保険料を他の制度の拠出金として吸い上げられている。そのために財政が悪化し、解散にまで追い込まれる健保が相次いでいる現状は見過ごせない。
社会保障制度は、被保険者である国民の納得と信頼がなくては立ちゆかない。そのためには税制と複雑に絡み合った制度を簡素化し、負担と給付の関係を透明化することが必要だ。衆院選でその議論を尽くしてもらいたい。
複雑化する国際社会との向き合い方が問われている。自由で開かれた国際秩序の維持を重視する外交姿勢の下、現政権は基軸とする日米同盟の強化と有志国との連携を模索する。衆院選では日本の立ち位置を探る丁寧な議論が必要だ。
来月に行われる米大統領選の動向を世界が注視している。民主党候補のハリス副大統領はバイデン米大統領の国際協調路線を継承する姿勢で、一方の共和党候補トランプ前大統領は「米国第一主義」を掲げる。結果次第で日米関係への影響度合いが違ってきそうだ。
もっとも、米国の力は相対的に弱まっていると指摘され、いずれにしても日本との関係に一定の変化や新たな要請は避けられないとする見方が出ている。日本が主体的に考え、主張する必要性が高まる。日米同盟を深化させるには欠かせない取り組みと言える。
米国が唯一の競争相手と位置付ける中国との関係安定化は重要な論点だ。東アジアの安全保障環境は厳しくなってきた。中国は台湾海峡などで挑発的な軍事行動を重ね、日本の主権侵害にも踏み込んでいる。一方的な現状変更は認められない。覇権主義的な行動に懸念が強まる。
一方で日本の重要な貿易相手国という側面もある。このため対中関係を巡っては、中国の強硬姿勢を非難する姿勢とともに、建設的な関係を構築するという両面で臨むことが不可欠とされる。対話の重みが増していることは間違いない。
石破茂首相は、法の支配の重要性を前面に掲げた岸田文雄前首相の路線を継承する姿勢を見せる。東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に参加した首相は中国の李強首相との会談で、「戦略的互恵関係」の推進を確認した。
だが、広東省深圳で起きた邦人児童刺殺事件は解明が見通せない。スパイ容疑での邦人拘束など解決すべき課題は多い。中国政府の対外強硬路線が国内に与える影響を指摘する見方もある。安全確保策の強化は互恵関係の推進に不可欠だ。
韓国とは来年、国交正常化60周年を迎える。冷え込んだ両国関係は岸田前政権と尹錫悦(ユンソンニョル)政権下で修復が進んだ。北朝鮮による核・ロケット開発や、ロシアとの軍事協力は深刻な懸念材料だ。日韓の連携強化は安保面でも必要性が高まっている。
元徴用工訴訟問題など火種は残っている。シャトル外交を継続して、意思疎通を緊密にする意義は大きい。懸案の解決に努め、関係の発展を図ることが重要だ。
関係国と対話を重ねて具体的な協力を前進させることが地域の安定と繁栄につながる。その構想や役割を論じることが求められる。
「過去最多」であっても、もろ手を挙げて喜べる数字ではない。全ての政党にもう一段の努力を求める。
それでもまだ4人に1人に満たない。投開票を経ても、国会の風景は大きく変わらないだろう。
候補者数が最も多い自民は過去最多となる55人の女性を擁立した。全体の数を押し上げたことは評価できる。
ブロック別の比例名簿順位を見ると、重複立候補者より下位に女性が目立つ。
国会議員の構成は社会の縮図でありたい。中高年男性が多数を占める現状よりも、性別、年齢、経歴に偏りがない方が多様な民意を国会に反映しやすい。
政治分野における男女共同参画推進法は男女の候補者均等に向け、政党に人材育成などの努力を求めている。
女性議員を育てるために政党が企画する政治塾、セミナーは増えている。地方議員や地域の有為な人材が立候補しやすい環境づくりに、もっと力を入れてほしい。
政治活動と家庭生活の両立や性的嫌がらせの悩みは、男性よりも女性に多い。立候補を志す女性の障害を取り除く社会機運も高めたい。
総務省が公表した人口推計によると、2024年9月時点の65歳以上の高齢者は前年比2万人増の3625万人と過去最多を更新した。総人口に占める割合も29.3%と過去最高となった。一方、人口動態統計によると23年の出生数は過去最少の72万7277人、合計特殊出生率も1.20と過去最低を更新した。
岸田文雄政権は、9月に閣議決定した「高齢社会対策大綱」改定で、75歳以上(後期高齢者)で医療費窓口負担が3割となる人の対象を拡大するよう検討を加速させるとした。年齢を問わず支払い能力に応じ支え合う「全世代型社会保障」の構築を図るという。しかし高齢者数がほぼピークとなる40年に向け、医療費が伸び続けることは避けられない。
また、岸田政権は児童手当拡充を柱とする少子化対策関連法を成立させ、財源捻出のため公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」を創設する。社会保障の歳出削減の範囲内で制度を構築するとし「実質的な負担を生じさせない」と説明している。ただ与野党から「分かりにくい」との指摘もあった。
立民は保険料の上限を見直し、富裕層に応分の負担を求める方針を明記した。維新は75歳以上の窓口負担を3割にし、現役世代の保険料軽減を進めると強調。共産は70歳以上の医療費窓口負担を一律1割にすると訴える。国民民主は支払い能力に応じた医療費窓口負担とし、後期高齢者は原則2割とする。
少子高齢化社会の到来は以前から指摘されていたが、社会保障費の在り方を巡る議論は、これまでの国政選挙では低調だったと言えよう。与党の自民・公明は高齢者の負担増に触れていないが、国民に負担増を求めるならば、各党は、その意義をより明確にして国民の信を問うべきだろう。また、世代間の対立を生み出すことがないよう、税金の使途や分配についてもさらに議論を深めるべきだ。
衆院選最大の争点は、何といっても「政治とカネ」の問題だ。
裏金事件をきっかけとして、議員の金の集め方や不透明な使途に国民の不信が高まっている。
問われるのは改革の実行力だ。
自民は総裁直属の「政治改革本部」を中心に不断の改革を進めることを公約に掲げた。
立憲民主、日本維新の会、共産などの野党各党に加え、公明も廃止を訴える。
これに対し、自民は「将来的な廃止も念頭」に透明性を確保するとの主張で煮え切らない。
「抜け道」を残しておきたいという気持ちの表れではないのか。自民は政治改革への覚悟を示すべきだ。
■ ■
企業・団体献金の扱いを巡っても意見は分かれる。
野党の多くが廃止とした。一方、自民は公約で触れていない。
「政治とカネ」の問題はこれまでも繰り返されてきた。大規模な贈収賄に発展したリクルート事件以降にも政治改革が声高に叫ばれた。1994年に政治資金規正法が改正され、政治家個人への企業・団体献金が禁止に。その代わりに政党交付金が導入された経緯がある。
94年の法改正では付則で企業・団体献金を「5年後に禁止」と記したがほごにされた。30年前積み残した課題に取り組む時だ。
■ ■
政治の信頼を回復するには、きっかけとなった裏金事件の総括も必要だ。
石破首相は今回、関係した前議員12人を非公認とし、34人は比例代表への重複立候補を認めなかった。
それで十分な反省を示したと言えるのか。候補者の中には裏金事件を政治資金収支報告書への「不記載」問題と矮(わい)小(しょう)化する動きもある。そうした認識のままでは、選挙が終われば元のもくあみだ。
今度こそ金権体質と決別する仕組みをつくれるか。有権者の判断も問われている。
誰がいつ始め、何に使ったのか、実態がなお判然としない裏金事件の究明が最優先課題である。
同時に今度こそ腐敗根絶の対策を徹底しなければならない。
政党から議員個人に渡され、使途の公開義務がない政策活動費は事実上、裏金的な運用になっていると批判されてきた。
特定業界との癒着を生み、政策形成をゆがめかねない企業・団体献金は、政治とカネの根本課題と言える。
いずれもこれ以上の先送りは許されない。廃止や禁止に向け決着を付けるのが筋である。
各党は政治の信頼回復を掲げるのなら、あらゆる不透明な資金を一掃しなければならない。
だが公式の帳簿に記載せず、自由に使えるよう不正に蓄えた金のことを裏金というのだ。今回の事件は裏金以外の何ものでもあるまい。本質をねじ曲げるような主張はすべきではない。
政策活動費の扱いについて、自民党は公約で「将来的な廃止も念頭」と表現した。ただ実現目標は極めてあいまいで、中途半端と言わざるを得ない。
首相は政策活動費の衆院選での活用についても「使うことはある」と述べた後に「使わない」と語るなど一貫していない。実際何にどう使ったのか確認しようがないのが今の仕組みだ。原資は国民の税金である。不明朗な扱いは認められない。
政治資金の監査を担う第三者機関の設置も、棚上げされたままだ。実効性ある権限をいかに持たせるか、各党はしっかり議論しなければならない。
衆院選では各党が、電力の安定供給と脱炭素の両立に向けて現実を直視し、明確な道筋を示してほしい。
原発に依存する「負の側面」も忘れてはならない。
原発の経済的な優位性は揺らぎつつある。新増設には膨大なコストがかかり、新たな国民負担となる。
仮に再処理工場が稼働したとしても、再処理の過程で出る高レベル放射性廃棄物の最終処分は未解決のままだ。
山積する課題をどう解決するのか、各党はきちんと向き合うべきではないか。
衆院選ではエネルギー政策に関し、それぞれ姿勢は異なる。
各党は多様な声を反映させ、原子力・エネルギー政策の議論を深めるべきだ。
日本周辺で近隣国の軍事活動が活発化している。中国は沖縄県・尖閣諸島周辺の領海への侵入を繰り返しており、8月には中国軍機が日本の領空を侵犯したことが初めて確認された。先月はロシア軍機も日本の領空を侵犯した。
日本の安全保障環境が厳しさを増しているのは確かだろう。東アジアの緊張をどう緩和していくかが問われる。
石破茂首相は、岸田前政権の方針を踏襲し、防衛力の抜本強化を進める考えを示している。岸田前政権は2022年に外交・安保政策の指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し、日本の安保政策を大きく転換させた。他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有し、防衛費を大幅に増やす内容だ。
戦後日本が堅持してきた「専守防衛」が揺らぎかねない転換だったが、国会での十分な議論を抜きに決められた。決定過程の是非も問われよう。
立憲民主党は日米同盟を自民同様に基軸と位置付け「防衛予算を精査し、防衛増税は行わない」とする立場。日本維新の会は「防衛費は国民の負担増に頼らず国内総生産比2%まで増やす」、共産党は「日米同盟強化に反対」、国民民主党は「日米同盟を堅持、強化しつつ米国に過度に依存している防衛体制を見直す」と公約に記す。
防衛力強化の一辺倒では、軍拡競争を招くことにつながりかねない。日本周辺で他国の軍事活動がさらに活発化すれば、偶発的衝突が起きるリスクも高まる。
緊張緩和を図る上で、国同士の継続的な対話による信頼関係の構築は欠かせない。各党はもっと東アジアの安定に向けた外交の具体策を競わせてほしい。
日米地位協定の見直しについては複数の野党が主張し、自民も「あるべき姿を目指す」とする。在日米軍が絡む事件や事故が後を絶たず、米軍関係者の法的特権が捜査の支障になっている。選挙戦を通じ、見直しの機運が高まることが期待される。
先日、日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞が決まった。核の脅威が増す中での意義深い決定だ。
米国の核抑止に依存する日本は、唯一の戦争被爆国ながら核兵器禁止条約を批准していない。公明や野党からは、オブザーバー参加や条約批准を求める声が上がる。核廃絶に向け、日本がどう役割を果たしていくかについても各党が主張を戦わせることが求められる。
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興は、本県や浜通りの地方問題ではない。各党は、現在も続く被害の多くが国策であった原子力政策の安全面の不十分さに起因していることを踏まえ、国が解決すべき課題であると改めて肝に銘じる必要がある。
津波などの複合災害の被害を受けた地区では、公共施設の再整備や企業誘致などが行われてきた。大規模な事業がほぼ終了した地区がある一方、原発事故で避難が長く続いた大熊町や双葉町などの本格的な環境整備はこれからだ。近年は地区の再生の進度を問わず、地元事業者や進出企業での人手不足が顕在化している。
各党は、公約で中長期的な支援や福島国際研究教育機構(エフレイ)と連動した産業再生などを掲げるが、人口回復への道筋は見えない。住居の確保や広域交通の充実など市町村単独の努力では難しい分野もある。各党は、復興事業の成果を帰還者や移住者の増加につなげる具体策を訴えてほしい。
原発事故の被災地のうち、浪江や富岡などの7市町村には、今も立ち入りができない帰還困難区域が残されている。帰還する意向のある人の住宅やその周辺を「特定帰還居住区域」とし、除染を経て避難指示解除を目指す取り組みが始まったが、帰還が実現するのは早くても数年後となっている。
震災から13年半が過ぎ、避難先で帰還を待つ人の高齢化が進む。各党の公約では、帰還困難区域の避難指示解除について「全力で」「丁寧に」の文言が並ぶのみだ。公約が精神論にとどまる背景に「書いておけば良い」という対応の風化はないか。各党の幹部や候補者は遊説で、早期の解除をどのように実現するか示すべきだ。
除染で出た土壌などを中間貯蔵施設で保管する期間は2045年までとなっている。県外処分には処分地をはじめとした理解の醸成が欠かせないが、除去土壌の再生利用の県外実証事業ですら住民の反対で進んでいない現状がある。
県外処分にどう取り組むのか。日本維新の会が搬出完了の目標時期を見直す必要性を指摘しているが、他党は具体的な打開策を示していない。第1原発の廃炉の最難関とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは、先行きが読めない状況が続く。技術開発やデブリの保管先の確保など、完遂には困難な課題が山積している。
県外処分と廃炉は国と県民との約束であり、政権が代わっても責務は継続する。各党は、官僚や東電に任せきりにせず、議論を深める契機としなければならない。
経済対策 新たな成長の展望がほしい(2024年10月20日『読売新聞』-「社説」)
日本経済は、長期の停滞から脱却して、新たな成長に向かう大事な局面にある。各党は、予算のバラマキを競うのではなく、成長力を高める具体策を論じ合ってもらいたい。
経済対策の焦点は、物価高への対応とともに、高い賃上げをどのように定着させていくかだ。
各党は、当面の物価高対を公約の柱に据えている。
自民党は、低所得世帯への給付金の支給を掲げた。コメの価格上昇などに苦しむ家計を支援するために、対策を講じる必要があると考えたのだろう。
先進国で最悪の水準にある財政状況の中で、代替財源を十分に示さずに減税ばかりアピールするのは責任ある姿勢ではない。財政悪化に伴う将来不安が増幅し、消費の抑制を招きかねないだろう。
日本経済はデフレから完全脱却できるかどうか正念場にある。
物価高を上回る賃上げを定着させるには、賃上げと投資がともに増える「成長型経済」へと移行することが不可欠だ。企業の生産性を向上させる成長戦略を練っていかなければならない。
だが、各党の経済対策は、いずれもスローガンを並べるだけで、どう実現していくのか、具体策に乏しく、説得力を欠いている。
自民は、職務内容によって処遇を決める「ジョブ型」雇用の推進などを掲げ、立民は、「徹底した人への投資」を訴えている。しかし、日本経済を本格的に復活させる方策としては物足りない。
日本の名目国内総生産(GDP)は昨年、ドイツに抜かれて世界4位に転落した。国際的な存在感を高めるには、脱炭素やデジタル化といった競争が激しい分野で、打ち勝つ戦略こそが問われよう。
だが、雇用の7割を占める中小企業は賃上げの余力に乏しく、実現は容易ではない。中小企業への有効な支援策も示してほしい。
各党は超高齢社会を支える社会保障制度のあり方をもっと語るべきだ
衆院選に臨む各党が語るべきはこうした人口動態の推移に正面から向き合う国家戦略のはずだ。
若い世代が減る日本は、増え続ける高齢者をどう支えればよいのか。年金、医療、介護は持続できるのか。確かなのは、高齢者を一律に弱者と位置づけるのをやめ、能力がある人には支える側に回ってもらわないと、この難局は乗り切れないということだ。
自公政権が推進してきた「全世代型社会保障」にはこうした考え方があるはずだが、両党の公約に能力のある高齢者に負担を求める具体案は入っていない。高齢者の医療費負担を原則3割にするとした日本維新の会と対照的だ。
現役世代の保険料負担を抑えるには医療や介護を効率的に提供する改革も不可欠で、デジタル化は有力な手段のはずだ。日本共産党やれいわ新選組はマイナンバーカードと健康保険証の統合に反対するが、それならデジタル化を進める別の道筋を示してほしい。
年金に関する主張からも各党の熱量が伝わらない。維新は世代間扶養から積み立て方式への移行、立憲民主党は専業主婦らが入る第3号被保険者制度の見直しを掲げた。だが制度の根幹を変える改革にもかかわらず、具体性はない。
立民と国民民主、維新は減税と給付金を組み合わせる給付付き税額控除の導入を主張するが、財源案をしっかり示すべきだろう。
安全保障政策 緊張解きほぐす外交を(2024年10月20日『信濃毎日新聞』-「社説」)
これに対し、石破首相は「核のない世界を究極的にはつくっていきたい」と述べている。
その上で、ウクライナがかつて、米英ロ3カ国による安全保障の約束「ブダペスト覚書」と引き換えに核を放棄し、約30年後にロシアに侵攻されたことに言及。「抑止力だけに頼るつもりはないが、現実として抑止力が機能している」と反論した。
■核抑止への信奉
米国の核を他国で運用する「核共有」。石破首相は、米保守系シンクタンクのホームページに9月27日付で掲載された寄稿で、中国や北朝鮮、ロシアに対する抑止力を確保するため、アジア版のNATO(北大西洋条約機構)を創設し「核の共有や持ち込みを具体的に検討するべきだ」と主張。総裁選でも同様に述べていた。
ただ、首相就任後には言及せず、自民党も公約に記載していない。「安保3文書に基づき防衛力を抜本的に強化する」にとどめ、「日米同盟の抑止力、対処力の強化」や「2国間・多国間の防衛協力・交流の推進」などを挙げる。
石破政権の安保政策は、第2次安倍晋三内閣以降の継承だ。
■進む日米一体化
歴代内閣は憲法9条の許す範囲を超えるとして、行使は認めないと解釈してきた。安倍内閣は、密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存在が脅かされるなどの「武力行使3要件」を満たせば、必要最小限度の実力行使は認められると変更。法的に可能にした安保関連法も15年に成立させた。
岸田文雄内閣はさらに敵基地攻撃能力の保有や、防衛予算の大幅増を明記した安保関連3文書の改定を22年12月に閣議決定。今年4月の日米首脳会談では、自衛隊と在日米軍の指揮・統制の枠組みも見直すことで合意した。
有事の際に自衛隊が米軍の指揮・統制下に組み込まれかねない懸念が指摘されている。
共産党以外の主要野党は公約で日米同盟を基軸にすることで一致している。
その上で立民は「安保法制の違憲部分を廃止し、専守防衛に基づく平和的かつ現実的な外交・安保策を築く」と説明。日本維新の会は原子力潜水艦の共有など同盟の深化を強調。国民民主は抑止力の強化と反撃力の保持を明記する。
■石破構想の悪影響
肝心なのは、各国との緊張を緩和する外交だ。
紛争が起きても激化させず、対話で解決できる関係を各国とどう構築していくのか。その方策を優先して論議するべきなのに、衆院選で埋没していないか。石破首相のアジア版NATO構想や核共有などの構想が、今後の外交にマイナスになる懸念も拭えない。
見過ごしてはならないのは、被団協の平和賞受賞決定で、唯一の被爆国として日本の核廃絶に向けた取り組みが改めて問われることだ。ロシアのプーチン大統領や、イスラエルの閣僚が核兵器使用に言及するなど、核が使われる脅威は高まっている。日本の役割は小さくない。
日本は核兵器禁止条約を署名・批准せず、締約国会議へのオブザーバー参加もしていない。石破首相は党首討論で「核抑止力から目を背けず、同時に核のない世の中をつくることを両立させる」と述べている。一体どのようにするのか。米追従のみの外交姿勢では今後も展望を描けない。
一方、原発で過酷事故が起きれば、住民や地域に計り知れない影響を及ぼす。
東電柏崎刈羽原発が立地する本県には重要な課題の一つだ。各党の主張を比較し、1票を投じる際の参考にしたい。
脱炭素対策を巡っては、多くの党の公約は再生可能エネルギーの導入を進める点で一致する。
立憲民主党は、新増設や実効性のある避難計画と地元合意がない再稼働は認めないとしている。
いずれも方針を語るだけでなく、実現へのプロセスや将来的な原発の位置付けを明確にしてもらいたい。現実的な議論がなくては政策の是非を判断できない。
福島事故後に導入された「原則40年、最長60年」とする運転期間のルールは見直され、岸田政権で60年を超える運転を可能にする法改正に踏み込んだ。
再稼働や運転の長期化が進む半面、1月の能登半島地震で露呈した複合災害時の屋内退避など、避難の議論には課題が残る。立地県として気がかりだ。
しかし、最長50年の貯蔵終了後の搬出先となる再処理工場は未完成で、再処理の過程で出る「核のごみ」の最終処分場は、候補地も決まっていない。
多々ある課題を踏まえ、本年度中に改定するエネルギー基本計画に、原発政策をどう位置付けるか。各党には地域の疑問に答える論戦を求めたい。
女性議員/発掘し育てるシステムを(2024年10月20日『神戸新聞』-「社説」)
政治分野の女性参画の遅れが指摘される中、今回の衆院選は立候補者1344人のうち女性が314人と過去最多になった。前回の186人から大幅に増え、全候補者に占める割合も前回を5・7ポイント上回る23・4%となった。兵庫県内12選挙区の女性候補も13人と現行の選挙制度になって最も多く、比率も23・2%と最も高かった。
それでも女性は全体の4分の1に満たない。多様性を重視した政策立案を可能にするため、各党は女性議員の増加に真剣に取り組まねばならない。
主な政党別では共産党の88人が最多で、候補者の女性比率は37・3%だった。自民党は342人中55人で16・1%、公明党は50人中8人で16・0%だった。立憲民主党は237人中53人で22・4%、日本維新の会は164人中29人で17・7%。
女性候補者数が増えた一因は、自民と立民が擁立に積極的だったためだ。ただ自民は裏金事件を受け、政治資金収支報告書に不記載があった議員に比例との重複立候補を認めなかったため、比例単独候補に女性や若者を充てた背景がある。
2018年に成立した「政治分野の男女共同参画推進法」は、候補者をできる限り男女同数にするよう努力義務を課す。だが特に与党は目標にほど遠く、本気度が疑われる。各党は候補者の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」導入も検討するべきだ。
「政治は男の領域」という無意識の偏見や「前職に男性が多く、すぐに女性を増やせない」といった現状追認の考え方は根強い。永田町の論理が染みついたベテラン議員や世襲の候補者が多数を占める状況を変えなければ、政治の刷新は期待できないだろう。
むろん、女性議員は一朝一夕には増えない。地方議会も含めて、人材を発掘し当選させる持続的な育成システムが求められる。
衆院選でエネルギー政策は重要なテーマだ。国民の暮らしや経済活動の要であるとともに、異常気象を引き起こす気候変動と密接に関わる。各党は、安定供給と脱炭素の両立に向けた道筋を示すことが求められる。
政府は現在、エネルギー政策の中長期的な方向性を示す「エネルギー基本計画」の改定作業を進めている。太陽光、風力、水力、バイオマスなど脱炭素の鍵を握る再生可能エネルギーや、原子力、火力といった発電方式に2040年度の時点でどの程度頼るかの目標を24年度中に示す。
現行計画は30年度の電源構成目標について、火力41%、再エネ36~38%、原発20~22%と設定している。だが22年度の再エネの割合は22%にとどまった。
自民党は「再エネを最大限導入し、主力電源化する」と公約に明記。公明党も「最大限の導入拡大に取り組む」とした。野党は、立憲民主党が「再エネによる発電割合を30年に50%、50年に100%を目指す」としたのをはじめ共産党、国民民主党、れいわ新選組が将来的に比率を高めていく方針を掲げた。
問題は手法である。各党は、多様な場所に設置できるペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力発電といった次世代型の普及に取り組む姿勢を示す。だが量産技術の確立や送電網の増強、再エネを無駄にしないための蓄電池の導入拡大など課題が多い。従来型の太陽光発電の適地も少なくなっている。そこを含めて語らなければ、説得力に欠けると言わざるを得ない。
ただ、原発への国民の不信は根強い。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分先は決まらず、福島第1原発の廃炉作業は難航している。事故が起きた時に住民の安全を守る避難計画の実効性を上げることも含め、課題への対応を明らかにすべきだ。1月に起きた能登半島地震では、避難計画の不備が浮き彫りになった。
ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー安全保障の重要性は一段と高まっている。先進主要国の中でもエネルギー自給率が低い日本はどう対処するのか。選挙戦の大きな争点にはなっていないとはいえ、議論を重ねることが望まれる。
個人の価値観や生き方が多様になる中、現実と法制度の間にズレが生じているケースがある。
女性の社会進出を背景に、法制審議会が民法を改正して選択的夫婦別姓制度の導入を答申したのは28年前のことだ。しかし、「家族の一体感が失われる」と主張する自民党保守派の反対で、法案提出すら実現しなかった経緯がある。
最高裁は2015年と21年に現行制度を合憲と決定した。一方で「国会で議論、判断されるべきだ」とも指摘したが、議論は進まなかった。
動きが鈍い政治に対して声を上げたのは経済界だった。経団連は今年6月、制度の早期導入を求める提言を発表した。
ビジネスの現場では旧姓の通称使用が定着してきた。だが、経団連が女性役員を対象に行った調査では、旧姓を名乗れても不便、不都合が生じるとの回答が約9割に上った。契約の際や海外渡航時にトラブルになることがあるとされる。
問題は仕事面に限らない。結婚後に改姓するのは9割以上が妻だ。氏名は人格の一部で、慣れ親しんだ姓を変え喪失感を抱く人は多い。姓の変更が女性に偏ることは、男女平等や個人の尊厳に関わる問題と言える。国連女性差別撤廃委員会からは民法の見直しをたびたび勧告され、現在も改めて審査が行われている。女性が置かれている立場の厳しさに政治は真摯(しんし)に向き合う必要がある。
制度導入に前向きな姿勢の政党は多い。立憲民主をはじめとする主要野党は実現を掲げる。与党側も公明党は推進を訴える。
一方、自民党には慎重な意見がある。石破茂首相は総裁選では制度導入に意欲を示していた。しかし、首相就任後は党内の異論に配慮してか言及を避け、先日の参院代表質問では「国民各層の意見や国会における議論の動向を踏まえ、必要な検討を行いたい」との説明にとどめた。
この問題を巡っても自民の消極姿勢が目立つ。立憲民主など多くの野党は同性婚の法制化に前向きだが、石破首相は就任前の発言からトーンダウンし、実現を急がない意向も示唆している。
誰もが尊重される社会を実現するのは政治の責任だ。政治家の人権意識が問われている。
わだつみ75年(2024年10月20日『高知新聞』-「小社会」)
戦没学生の遺稿集として読み継がれる「きけ わだつみのこえ」は1949(昭和24)年のきょう20日に刊行された。本編の最後に置かれたのは木村久夫の遺書。旧制高知高校出身で、本紙にも取り上げた記事は多い。
京都帝大に入学した後、召集されて戦地へ。上官が起こした住民虐殺事件に関わったとされ戦犯に問われる。終戦の翌年、シンガポールの刑務所で無実を訴えながら刑死した。享年28。遺書は愛読書の余白に書き込まれた。
文庫版で24ページにわたる知的な文章は、短い人生の思い出、感謝、無念が入り交じる。筆が鋭くなるのは、戦争に至る道への批判だ。〈我(われ)に都合の悪(あ)しきもの、意に添わぬものは凡(すべ)て悪なりとして、ただ武力をもって排斥せんとした態度の行き着くべき結果は明白になった〉
国民の戦争責任に触れたことでも知られる。〈万事に我が他より勝(すぐ)れたりと考えさせた我々の指導者、ただそれらの指導者の存在を許して来た日本国民の頭脳に責任があった〉
現代にも通じる警告のように映る。ウクライナで中東で、武力をもって相手を排斥せんとする指導者による戦争が長引く。不穏な世界に日本政府は防衛費を大幅に増やし、核の傘への依存を強める。しかし、武力とは別の道、緊張を緩和する対話や協調の道を探る努力も十分にされているのかどうか。
「きけ―」の刊行から75年。国民が指導者たちを吟味すべき衆院選は続く。
今回の衆院選は外交・安全保障のあり方が大きな焦点となっている。世界的に国家間の分断・対立が深まる中で、戦争の惨禍を避けるために日本はどのような対応や役割を果たすべきなのか、各党の外交ビジョンが問われる。
石破茂首相が提唱した「アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想」や日米地位協定の改定が重要な論点に浮上しているほか、中国との向き合い方や防衛増税、核兵器禁止条約への参加の是非などが政党間の争点となる。
特に南西諸島は基地増強や軍事演習の激化など直接的な負担が増している。過重な基地負担の軽減に逆行しているばかりでなく、紛争に巻き込まれるリスクの高まりなど外交・安保政策次第で県民生活に深刻な影響が及ぶ。
各党は沖縄への影響や負担をどう考えているのかを明確に語らなければならない。
日米両政府は中国の軍拡や海洋進出に対抗するため、米軍と自衛隊の一体化を進め、南西諸島へのミサイル配備など抑止力・対処力向上を図ってきた。岸田文雄前首相は5年間で計約43兆円を投じて防衛力を抜本的に強化する方針を決めた。
石破首相が党総裁選で公約としたアジア版NATO構想は、衆院選の政権公約に記載はない。首相が持論を後退させたとすれば、政策の実現能力などに疑問符が付く。一方で、石破氏がアジア版NATOを提唱する狙いなど国民への説明も不十分だ。
石破首相はアジア版NATOを創設した上で、「核の共有や持ち込み」について具体的に検討すべきだとの主張を米国の保守系シンクタンクに寄稿していた。非核三原則に抵触するほか、NATOのような全面的な集団的自衛権行使は憲法違反となる。
東南アジア諸国連合(ASEAN)には中国を刺激する恐れがあるなど慎重論が強く、外交上の懸案になりかねない。石破首相は公約に盛り込まなかったことが「変節」でないというのであれば、何を企図しているのか選挙で国民に説明すべきだ。
安保3文書は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を認めるなど日本の安保政策を大転換するものだったが、国会審議を経ることはなかった。
平和と安全をどの候補者に託すか、政策を見極めたい。
米軍統治下の沖縄で、戦後最初の国政参加選挙が行われたのは1970年11月、主席公選(知事に当たる行政主席を選ぶ選挙)が実現したのは68年11月のことである。
沖縄に集中する米軍基地は、そのような植民地的状況の下で形成されたものである。
施政権が返還されてから今年で52年になるというのに、国土面積の0・6%しかない沖縄県に今なお、米軍専用施設の約7割が集中する。
基地・安保政策は復帰以来、国政選挙や県知事選の最も重要な争点であり続けてきた。
生活への影響が深刻で、事件・事故によってしばしば人権が脅かされてきたからだ。
だが、ここに来て政府の基地・安保政策に、これまでにない大きな変化が見られるようになった。
日米の軍事一体化、県内離島のミサイル基地化、日米共同訓練の活発化、弾薬庫の共同使用、新基地建設のための代執行による大浦湾埋め立てなど社会の軍事化が急速に進んでいる。
米軍統治下の冷戦時代と異なるのは、沖縄の戦場化が想定され、住民や観光客の離島からの避難計画まで作られていることだ。
■ ■
この変化をどう見るか。どうすれば戦争を防ぎ、負担軽減を実現することができるのか。それが基地・安保政策の争点である。
例えば辺野古の新基地建設問題。認めるか認めないかの違いだけでなく、候補者は南部激戦地の土砂使用を認めるかどうかも、選挙戦で明らかにすべきである。
大浦湾の軟弱地盤の埋め立てには途方もない時間と経費がかかる。それをどう判断するか。
新基地が完成するまでの十数年間、米軍普天間飛行場の危険性除去をどのように実現するのか。
■ ■
岡本喜八監督の映画「激動の昭和史 沖縄決戦」に、第9師団の沖縄からの転出を巡って、作戦部長の宮崎周一中将が発した印象的な言葉がある。
「沖縄は本土のためにある。それを忘れるな」
どのような声を「沖縄の声」として国政に届けるべきか。それを判断するのは有権者である。
自民党は岸田前政権の路線を踏襲し、日米同盟を基軸とする防衛力の抜本的強化を推進する。他方、石破茂首相は持論のアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想や日米地位協定の見直しに関する発言が揺れ続け、棚上げするのか実現を目指すのか不透明になった。有権者を戸惑わせる変節は慎むべきだ。政治不信を助長しかねない。
他の加盟国が攻撃を受けた際に自衛隊が支援すれば集団的自衛権の全面行使につながり、憲法改正も必要となる。中国は構想を批判し、インドは否定的。頼みの米国はウクライナや中東対応で手いっぱいだ。中長期の目標ならばともかく、高まる緊張への処方箋として優先度は高くない。
米軍関係者の法的特権を認めた日米地位協定の見直しは直ちに取り組むべき課題だ。沖縄などで米軍が絡む事件や事故が起きるたびに捜査の支障となってきている。基地を抱える自治体の不満は根強い。立憲民主、共産、国民民主各党も見直しを訴える。
今年のノーベル平和賞が日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に決定し、争点に急浮上したのが核軍縮だ。2021年に発効した核兵器禁止条約を唯一の被爆国日本は批准していない。同条約の締約国会議に米国の核の傘に頼るドイツなどはオブザーバー参加した。
公明や立民、国民各党は日本のオブザーバー参加を促し、共産党は条約そのものの批准を求めている。これに対し石破首相は「等閑視するつもりはない。真剣に考える」と述べるにとどめた。
米側への根回しは必須だが、11月の米大統領選で次の指導者が選ばれる格好の機会である。トップ会談で提起する意義はあるのではないか。首相の決断に期待したい。
立民は防衛増税の見送りを主張。日本維新の会は増税に頼らず国内総生産(GDP)比2%の防衛予算を達成するとしている。財源を固めずに防衛予算を拡張するのは無責任のそしりを免れない。選挙戦で防衛増税の方向性を論じ国民の審判を仰ぐのが筋だ。
教育の無償化や現金給付の拡大…。子育て世帯に対する支援では与野党が競い合うようにさまざまな対策を公約として打ち出している。
出生数は2022年に80万人を割り込み、23年に72万人台と過去最少を更新。23年の合計特殊出生率は過去最低の1・20で「底割れ」したともいわれた。
岸田文雄前首相が唱えた「次元の異なる少子化対策」の「こども未来戦略」に基づいた関連法が今年6月に成立した。対策の柱は児童手当拡充、育児休業給付の拡大、親の就労に関係なく預けられる「こども誰でも通園制度」など。児童手当拡充は今月分から適用され、12月に初支給となる。
政府の少子化対策の財源だけで、最大3兆6千億円が必要とされる。社会保障費の歳出削減、既存の予算活用、26年度創設の「子ども・子育て支援金」によって捻出するという。支援金は公的医療保険料に上乗せして徴収される。不足分は「特例公債」で賄う。
自公両党の公約はこうした負担増に触れないままだ。選挙で信を問うというなら、岸田前首相が繰り返した「実質的な負担を生じさせない」の根拠を示す必要がある。政権与党としての姿勢が問われるところだ。
既に子どもがいる家庭に対する経済支援という色合いが強い。政府の対策では「まだまだ支援が足りない」という各党の主張だろう。
財源については一部の野党が公約で「教育国債の発行」「法人税制の改革や大企業の内部留保への課税」を示した。このほか、社会保障費の高齢者負担増に踏み込み、子どもの医療費無償化を求める主張もある。負担に耐えられる十分な収入がある高齢者に限定する配慮が必要なことは言うまでもない。
人口が減り、地域産業の衰退で働く場が失われる結果、若者が大都市部に流出する悪循環に歯止めがかからない。各党、候補者は地方の危機を直視し、将来への活路を示すことが重要だ。
石破茂首相は地方を「成長の主役」に位置付け、政府の地域活性化政策「地方創生」を強化するとしている。自民党は地域活性化に向け、自治体への交付金の倍増を目指すと公約に掲げた。公明党も地方創生推進の立場だ。
東京圏の転入超過数は地方創生が本格化した2014年よりも23年の方が多い。政府自体が「東京圏への一極集中の大きな流れを変えるに至らず、地方が厳しい状況にある」と地方創生を総括している。成果があったと自己評価したものは移住者増加など限定的だ。
立憲民主、国民民主の両党は旧民主党政権下で創設した、地方の裁量で使える一括交付金の復活を打ち出した。ただ地域活性化の具体的な取り組みは、デジタル技術の活用や観光振興など与党と似通った政策の羅列にとどまる。
自治体だけでなく、民間を巻き込んで活力を生み出すことが重要だ。地域の自主性や独自性を引き出す各党の戦略が問われる。
県の昨年の調査では、県内出身の大卒者らの多くが「福島に志望する企業がない」ために、県外に就職したことが分かった。働きたいと思える企業が地方にあれば若者の流出を防げる可能性がある。
地域の中小企業育成と併せて必要なのは、東京などに集中する本社機能の地方移転の促進だ。自民は移転に関する政策を推進するとし、国民は人口密度に応じた法人事業税の減免制度創設などで促進を図るとの公約を掲げている。
魅力ある企業をどう地方に導き、雇用の場を創出するか。各党は知恵を絞り論じてほしい。
国の研究機関の推計では、50年に県内14町村の人口が半減する。将来、行政機能や電気、ガス、水道などをどう維持していくかは今考えなければならない課題だ。
一般ドライバーが客を運ぶ「ライドシェア」の拡大による地域交通の維持、郵政事業が地域を支えるネットワークづくりなど、各党の公約には人口減少対策が盛り込まれている。ただ対症療法的な面があるのは否めない。
人口が大幅に減った地域で暮らし続けるためには、社会の仕組みから変えなければならない。各党は根本的な対策を語るべきだ。
東アジアの安全保障環境が厳しさを増している。そうした中、日本がどのような外交・安保戦略を描くべきかが問われる選挙だ。
長らくアジアの安定を支えてきた米国の関わり方も変容しつつある。地域諸国に対して負担や役割の拡大を求める姿勢が目立っており、日本もその例外ではない。
抑止だけでなく対話も
岸田文雄前首相は中国の脅威を念頭に「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と訴え、防衛力の強化を進めてきた。関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%まで倍増させる計画だ。石破茂首相も岸田外交を踏襲する構えだ。
ただ、抑止力一辺倒では、相手国の疑心暗鬼を招き、かえって緊張を高める恐れがある。
対話を通じて信頼を醸成し、関係安定化への糸口を探ることが不可欠だ。しかし、各党の選挙公約からは、どのような対中戦略を組み立てようとしているのかが読み取れない。
両国にとって良好な経済関係の維持は死活的に重要だ。だが、米中対立下、経済安全保障を重視する流れが強まっている。行き過ぎれば日中双方の国益を損なう。
中国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟を希望している。交渉をてこにして、国際ルールを順守するよう促すことも一案だ。
米国の内向き化が顕著となる中で、日米同盟の強靱(きょうじん)性が試されている。
自民の公約には盛り込まれなかったが、首相は党総裁選でアジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設を提唱した。米側は「非現実的だ」と冷ややかにみており、今後の議論次第では、日米間のあつれきになりかねない。
問われる日本の主体性
だが、特権を認められてきた米側との交渉は難航が予想される。与野党は協定見直しの道筋を明確に示すべきだ。
唯一の戦争被爆国として、核廃絶に向けて各国に粘り強く働きかけなければならない。その第一歩となるのが、核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加である。しかし、米国の核の傘を含めた抑止力を重視する自民は後ろ向きだ。再考を求める。
ウクライナ危機などで国際秩序が大きく揺らぐ中、法の支配を掲げる日本が果たすべき役割は何か。各党は選挙戦を通じて提示する責務がある。
対立する米中両国がアジアを舞台に衝突するような事態は何としても避けなければならない。地域の安定を取り戻すため、主体的でしたたかな戦略の構築に向けて議論を深める時だ。
多様性の尊重 人権守る社会への選択(2024年10月19日『東京新聞』-「社説」)
衆院選では女性差別をなくすジェンダー平等や性的少数者(LGBTQ)らの人権尊重も問われている。代表的な争点は選択的夫婦別姓と同性婚導入の是非。多様性を尊重する時代の流れを踏まえ、各党・候補の公約を吟味したい。
まずは、石破茂自民党政権における男女比を見てみる。閣僚19人中、女性は2人だけ。自民党は衆院選候補者の女性割合も1割台で最低レベルだ。日本はジェンダーギャップ指数で146カ国中118位と厳しい評価を受けており、政権自体が男性優位社会を象徴すると言わざるを得ない。
根強い男女格差は女性に家事・育児を強いた家父長制の名残であり、結婚時の改姓も女性差別としてとらえることができる。
現行法では結婚時に男女どちらが改姓してもいいが、約95%は妻側の改姓で、名義変更など改姓に伴う負担が女性側が一方的に強いられているのが現実だからだ。
自民党は選択的夫婦別姓に消極的で、立憲民主、公明、共産、国民民主の野党各党は推進の立場。日本維新の会は旧姓使用に法的効力を与える制度を掲げるなど、選択的夫婦別姓の是非は、与野党の違いが鮮明な争点でもある。
同性婚の導入へ向けた議論も、LGBTQの人権を守る上で避けて通れない。現行制度では同性カップルは結婚できず、夫婦に認められる社会保障や税、相続などの権利がないからだ。LGBTQ当事者が国を訴えた訴訟では、地裁や高裁で「違憲」「違憲状態」の判断が相次いでいる。
同性婚についても自民は後ろ向きなのに対し、立民、共産、維新は推進派。公明、国民も導入に向けて検討を進めるとしている。
障害者や外国人らも含め、社会的弱者や少数派の人権をも守られる社会をつくることが、どんな条件の下に生まれても安心して暮らせることにつながるだろう。
健康保険証の廃止 医療受ける権利の視点で(2024年10月19日『信濃毎日新聞』-「社説」)
健康保険証の新規発行を停止する期限が12月2日に迫っている。政府はマイナンバーカードに保険証機能を持たせたマイナ保険証に一本化する方針だ。
健康保険証は一人一人が必要な医療にアクセスするための“通行証”だ。それを廃止して、本来任意取得であるマイナカードへと一本化するのは、国民の医療を受ける権利を損なう恐れがある。掘り下げた論戦を望む。
石破茂首相は言葉の重みが問われる。自民党総裁選では「納得しない人がいっぱいいれば、併用も選択肢として当然だ」と発言した。しかし石破内閣の発足後、平将明デジタル相は早々に一本化を「堅持する」方針を示した。
廃止に「納得しない人がいっぱいいる」ことは、各種調査から明らかだ。医療従事者も、医療を受ける側も反対の声を上げている。
全国保険医団体連合会が8~9月に実施した調査では、回答した1万2735医療機関の88%が、健康保険証の存続を求めた。
マイナ保険証を巡っては昨年、個人情報の誤登録や医療機関での読み取り機の不具合が問題となり政府は対策の徹底を約束した。
保団連の調査では今年5月以降も、7割の医療機関でトラブルが起きている。他人の情報がひも付けられていた事例もあった。
トラブルを経験した医療機関の約8割が、今の保険証で資格を確認し、「無保険扱い」を回避した。ここに医療現場が廃止に反対する切実な理由がある。
マイナカードの保有者は、8月末時点で人口の75%。マイナ保険証の登録者は、その8割にとどまる。利用率は低迷が続き、8月は12%余だった。
障害者や高齢者の中にはマイナカードを作るのが難しい人もいる。社会的弱者に丁寧に目配りし国民皆保険を名実共に守るのか、それとも廃止を強行するのか。政治のあり方が問われている。
人口減に歯止めがかからず、本県など多くの地方が苦しんでいる。どう地方を守り、再生するのか。対策に関する論議に本腰を入れてもらいたい。
衆院選では人口減対策、地方活性化が焦点の一つになっている。
本県の人口はピークの1997年に249万人を超えていたが、近年は毎年約2万5千人の減少が続き、今月中に戦後初めて210万人を割り込むとみられる。
一方、東京圏は「転入超過」が進み、一極集中は加速している。
対策として2014年に政府は「地方創生」を打ち出し、地方移住の促進などに取り組んだ。
政府は10年間の成果などを検証した結果、「人口減や一極集中の大きな流れを変えるには至っていない」と総括した。
初代地方創生相を務めた石破茂首相は「もう一度原点に返る」と述べ、新しい地方経済・生活環境創生本部を創設した。今後の基本構想を策定するとしている。自治体への地方創生関連の交付金を当初予算ベースで倍増するという。
人口減対策は一朝一夕で解決できる課題ではない。額の倍増ありきで終わらぬよう腰を据えた多角的な取り組みが必要だろう。
日本維新の会は「地方の自立を実現する統治機構改革」を掲げ、分権型社会への転換を目指す。共産党は「地域経済の再生」を訴え、国民民主党は「新しい地方分権」を挙げる。他の野党も地域に目を向けた公約を並べている。
与野党ともに、抽象的な掛け声にとどめず、より具体的に地方の将来像を語ってほしい。
人口減は地方の暮らしに深刻な影響を与えている。
本県では二大医療ネットワークの県立病院とJA県厚生連病院が経営危機に陥っている。県厚生連と県厚生連病院の立地自治体が県に財政支援を求めているが、県も財政難で厳しい状況にある。
特にへき地の医療は構造的に不採算となりがちで、自助努力にも限界がある。
地方の人口減は国力の低下につながる。国として地方の生活基盤をどう支え、農林水産業や中小企業など地域経済の核をどう再生するか。議論の深化を期待したい。
(2024年10月19日『新潟日報』-「日報抄」)
米国アリゾナ州にノガレスという町がある。背の高いフェンスに面しており、向こう側はメキシコ・ソノラ州のノガレスだ。世帯収入は米国側の3分の1で、道路はひどく荒れている。10代の子の多くは学校に通っていない
▼国家間の格差はなぜ生じるのか。背景には政治や経済といった社会制度の違いがある。ことしのノーベル経済学賞はこうした仕組みを解明した、米国の大学教授3氏に決まった
▼このうち2氏の共著「国家はなぜ衰退するのか」は、冒頭でノガレスの実情を描く。気候などの地理的条件や文化的な共通点があっても、社会制度の違いにより繁栄の度合いは変わってくるという
▼3氏の研究は、法の支配が乏しく政治が腐敗したり、国民を搾取するような制度があったりする社会の成長は長続きしないと裏付けた。繁栄には民主主義的な制度が重要という。市民に政治参加の機会があれば、経済発展の果実が広く行き渡る制度の導入につながるからのようだ
▼同教授は「私たちの研究は民主主義を支持している」とも述べた。どんな社会制度をつくるか。民主主義の国では選挙の結果が反映される。わが国は今、衆院選の真っ最中だ。投票が私たちの暮らしを左右するのだから、しっかり向き合わなければ。
別姓と外国人共生 日本の多様性広げる議論を(2024年10月19日『京都新聞』-「社説」)
現実の暮らしと制度の間に生じた溝が大きくなり続けている。それを修正するのが政治の役割だが、不作為が続いている。最たるものが、夫婦が希望すれば結婚前の名字を名乗ることを選べる「選択的夫婦別姓制度」を巡る議論ではないか。
「家族の一体性を損なう」などと反対する自民内の一部保守派に配慮したのは明らかだ。
自民以外の大半の党は導入に賛成している。自民は旧姓の通称使用の拡大で対処できると訴えるが、それが疑わしいことが明らかになっている。
パスポートへの旧姓掲載など、旧姓の通称使用の機会は増えたが、税や社会保障、不動産登記など、戸籍名が求められる局面は数多い。
選択的夫婦別姓は同姓を希望する人に強制するわけではない。旧姓の通称使用が増える中、家族の一体性が同姓のみで保たれるという声は説得力を欠く。
LGBTなど性的少数者への理解増進法に基づく基本計画づくりも政府は着手していない。 いずれも多様な価値観を尊重する社会を築けるかどうかの問題だ。各党は議論を深めてもらいたい。
同様に、社会の多様性に関わるが、主要政党の言及が乏しい課題が外国人との共生だ。
人権侵害と批判された技能実習制度に代わり「育成就労制度」が2027年から導入される。税金や社会保障費を滞納した場合に永住許可が取り消される規定が、自民党の提言を受けて盛り込まれたが、法の下の平等の観点などから異論は根強い。
京滋で10万人を超える外国人が暮らすなど、日本はすでに移民社会になっている。この現実から目を背けず、外国人に長く活躍してもらうために必要な施策を議論する必要がある。
各党は信頼回復へ向けた取り組みを公約に掲げている。重要なのは、それらが実効性を持ち、透明性の高い政治が実現できるかどうかだ。有権者に十分な判断材料となるよう、各候補者は説得力ある道筋を示してもらいたい。
裏金事件を受け、先の通常国会では、パーティー券購入者名の公開基準を引き下げることなどを盛り込んだ改正政治資金規正法が成立した。政党から党幹部ら議員個人に配られ、使途公開の義務がない「政策活動費」については、監査する第三者機関の設置を改正規正法に明記したが、どんな権限を与えるかなどの制度設計は先送りされている。
政策活動費や政治資金をチェックする第三者機関の設置は、自民をはじめ多くの党が公約で掲げている。独立性をどう担保するのかや、設置時期などを具体的に示すことが重要だ。
公約で、自民と他党で違いが際立っているのが、政策活動費の扱いである。立憲民主党、日本維新の会、公明党、国民民主党、れいわ新選組が「廃止」や「禁止」を明記しているのに対し、自民は「将来的な廃止も念頭に透明性の確保に取り組む」との記述にとどまった。自民の及び腰な姿勢は否めない。
当初、石破茂首相は今回衆院選で政策活動費を抑制的に使うとしていたが、野党の批判を受け「政策の周知や組織強化には使うが、選挙には使わない」と表現を修正した。とはいえ、使途公開が不要な以上、何に使われたのかを検証することはできない。
裏金事件を巡っては、共産党が「自民は裏金問題の真相を一切明らかにせず、再調査をしようとしない」と公約に記すなど野党が自民を批判している。これに対し自民は、ルールを徹底して守る姿勢を打ち出し「(新設した総裁直属の)政治改革本部を中心に政治や党の改革に取り組む」としている。改革の実効性を高めるには、裏金づくりがなぜ始まり、何に使われたのかを明らかにすることが欠かせない。真相解明への姿勢が問われている。
不透明さが問題視されながら、問題解消の先送りが続いているのが、給与とは別に月額100万円支給され、使途の報告義務がない「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)を巡る議論だ。
公約では、自民や公明をはじめ立民、国民など野党も使途公開や残金の国庫返納を掲げ、方向性は同じだ。維新は使途公開などに加え、領収書の添付も打ち出している。
ただ、それらを実現する時期については明示していない政党もある。政治資金の透明性向上のため、選挙結果にかかわらず速やかに法整備に取り組むべきである。
選択的夫婦別姓制度を導入するか否かは、衆院選で自民党と野党の対立軸の一つだ。現行の同姓制度の下、女性に偏って姓を変えさせる現状は男女格差(ジェンダーギャップ)の象徴といえる。とりわけ政治と経済の分野で後れを取る中、変える意思があるのか、見極める材料でもある。
野党の大半は実現に前向きだ。立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党は公約に制度導入を盛り込んだ。日本維新の会は、旧姓の使用に法的効力を持たせる形での別姓制度の導入を主張する。参政党は反対だ。
一方、自民党は従来通り慎重な姿勢だ。公約は旧姓を使う人の不便の解消を掲げた上で、「制度の在り方については、どのような形がふさわしいかを含め合意形成に努める」とした。不便を強いられる女性たちが長年求めてきた別姓制度について、答えを示していない。連立を組む公明党は「導入を推進する」と明記しており、温度差がある。
制度については、28年も前に法制審議会が導入を答申した。司法では2015年、21年に最高裁大法廷が現行の同姓制度を「合憲」と判断しつつ、重ねて国会の議論を促した。ともに裁判官の一定数が違憲との意見を示した。既に国会で法案を審議すべき段階だと、自覚せねばならない。
衆院選公示前に実施した共同通信社の世論調査で、導入に賛成が67%と反対を大きく上回った。30代以下の若年層だと、さらに10ポイントほど高い。現行制度によって生きづらさを感じ、結婚をためらう人も少なくなく、看過できない。
家族の在り方、生き方を自ら選択できる社会を望む人は確実に増えた。だからこそ衆院選の争点とすべきだ。なぜ賛成で、なぜ反対なのか、深掘りする論戦を求める。
法案が国会に提出されないのは、自民党の保守系議員らが反対してきたからだ。先の総裁選でも、候補者の賛否は割れた。石破茂氏は前向きだったが、首相に就任して後退した。従来の政府見解に沿って「さらなる検討を要する」と述べるにとどまった。
ならば衆院選では、候補者の賛否をチェックしたい。自民党内でも大きな違いがある。男女格差の解消を進める意識があるのか、現行のままで構わないと考えるのかの試金石だ。本紙でも小選挙区の候補者に問い、一覧で掲載するなどして伝えている。
別姓制度に反対の国会議員は主な理由に「家族の一体感を損なう」を挙げてきた。伝統的な家族観に基づき、性別による役割分担意識にとらわれた考え方があるのは否めない。加えて、与野党とも議員の大半は中高年の男性が占めている。男女格差の解消が、なかなか政治課題に据えられない現実がある。このままでいいわけがない。
格差意識を取り除かなければ、解決できない難題は山積みだ。少子化や賃上げ、パート女性らの働く意欲をそぐ「年収の壁」の解消などであり、国力や経済に直結する主要な政策そのものだ。別姓制度の導入を第一歩とし、格差をなくす政治を求めたい。
責任と覚悟(2024年10月20日『山陰中央新報』-「明窓」)
島根県政界にとって4月の衆院島根1区補選は衝撃だった。1996年の小選挙区制度導入以降、初めて自民党が負けた。全国3補選のうち唯一の与野党一騎打ちとなり、自民、立憲民主党とも大物議員が続々来県。最大の争点は、自民派閥の裏金事件を受けた対応だった
「島根から政治を変える」と叫ぶ立民に対し、自民は謝罪した上で改革を誓った。人口減少で疲弊が進む地方に政治は向き合い、役割を果たしてきたのか。有権者の疑念といら立ちも加わり、矛先は長年政権の座にいた自民に向かった
補選後の政治の行方を見守ったが、変わったとは思えない。改革を誓ったはずの自民から政治改革に対する本気度は伝わらない。野党も批判を続ける一方、政治資金を管理、監督する第三者機関の設置は多くの党が時期を明示していないなど改革の実効性に疑問が残る
政治不信が続く中、衆院選が始まった。自民は窮地に置かれる中で登板した石破茂首相が衆院解散時期などを巡って「変節」を繰り返した。立民も野田佳彦代表の下で「政権交代は最大の政治改革だ」と訴えるが、心に響かない
補選から半年。再び「政治とカネ」問題が大きな争点になっている。何かを変えるのは難しい。ただ、政治は国民の命、生活を守る責任を負っている。地方再生の処方箋を含めて約束したことが守れなければ嘘(うそ)になる。責任と覚悟。有権者は見ている。(添)
地方対策の看板政策として、安倍政権が2014年に「地方創生」を打ち出し10年たったが、東京一極集中の流れは変わらない。取り組みの検証と、それを踏まえた新しいアプローチを急ぐ必要がある。
地方創生で国は、自治体が作った人口減少対策の戦略を交付金で支援したほか、省庁や企業の地方移転などを掲げた。21年に発足した岸田政権は、情報技術で格差を埋める「デジタル田園都市国家構想」を地方対策の処方箋とした。
政策効果が限定的だったのは明らかだ。10年を振り返った政府の報告書は、地方への移住者増加など一定の成果を挙げつつも「厳しい状況」と総括。共同通信が今夏行った自治体アンケートでも、約7割が「成果は不十分」とした。
効果が限られた原因の一つには、自治体の戦略がノウハウや予算の不足で不発に終わったことが挙がる。戦略策定時、それぞれが現状を見つめ直し、知恵を絞ったことには確かに意義があった。しかし結果的に、移住促進策に偏り、人口と交付金の奪い合いの様相を呈した末、かえって疲弊したとも指摘される。
国が施策の方向性を決めて交付金事業を選ぶ形は中央集権的でもあり、地方の自主性がどこまで反映されたか疑問も残る。成果が一部にとどまった省庁移転などの取り組みからは、国の本気度も問われた。デジタル構想に至っては単なる看板のすげ替えと言われても仕方ない。これらを振り返った上で地方の人口減少対策を講じる必要がある。
いくつかある課題のうち、重要なのはやはり若者、特に女性が働きやすく、活躍できる環境を整えることだろう。男女の賃金格差や性別による固定的な役割分担意識が女性が地方を離れる原因の一つとされる。
一方、人口構造的には劇的な人口回復を見込むのが難しい現実もある。求められるのは、人口減少ペースを鈍化させつつ地域の持続可能性を高めていく発想だ。
初代の地方創生担当相でもあった石破茂首相は、地方創生の再起動と予算拡充を訴える。地方重視の姿勢は歓迎するが、手法や発想が10年前と同じなら期待感もしぼむ。何を教訓にどう変えるか、具体的に示すことが求められる。
分権社会の中で自治体が率先して取り組むのが理想的だろう。ただ、マンパワーが限られて国への依存度を高めなければいけない自治体が増えているのも現実だ。地方の主体性と国の支援策がかみ合う形を再構築していく必要がある。
改革?改正?(2024年10月19日『高知新聞』-「小社会」)
この4文字がまたぞろ、街頭からテレビから響いている。「政治改革」。今回は最大の争点といわれるが、振り返ってみれば幾度となく選挙で連呼されてきたフレーズになる。
1990年代は、リクルート事件をきっかけに掛け声が大きくなった。自民党は政治改革大綱で「派閥解消の決意」をうたいながら、実行されなかった。そのうちに焦点は選挙制度の変更へ。複雑になった制度で何度か選挙をやるうちに、派閥は力を取り戻していた。
言うまでもなく、国民の多くは派閥の裏金づくりに怒りを向けている。抜け道の多さから「ザル」と評された規正法にさえ引っかかった。ザルの目を細かくするのは立法機関の務め。襟を正すことを改革とは言わない。
もう一つ。近年の政策の大転換はどう表現するのだろう。集団的自衛権の行使容認、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有。憲法との整合がまともに問われる論点を、解釈の変更や数の力で押し切った。これを改正だ、ましてや改革だと言わないのは、多少の気後れもあるのかもしれない。
どこか勇ましげな用語が飛び交う選挙が続く。90年代、その裏で骨抜きにされる改革論議にこんな声も上がっていた。「必要なのは、政治改革ではない。政治家改革だ」
「静かな有事」といわれる少子化の要因の一つに婚姻率低下がある。
50歳まで結婚したことがない人の割合は1990年の男性5・6%、女性4・3%から年々上昇し、2020年は男性28・3%、女性17・8%まで高くなった。
結婚は個人の自由だ。ただし、経済的理由で諦める人がいる現状は見過ごせない。
国立社会保障・人口問題研究所の21年の調査で「いずれ結婚する」と回答した未婚者に、その障害を尋ねると「結婚資金」が男女とも最も多く4割を超えた。
未婚男性の場合、1年以内に結婚する意思は正規職員が61・9%だったのに対し、所得が比較的低いパート・アルバイトは37・6%で大きな開きがあった。
こうした調査からも、結婚の減少に経済事情が影響していることは明らかだ。
子どもを産み、育てたいカップルを後押しする施策として、いずれも重要だ。子育て世帯にはもっと手厚い支援があっていい。
内閣府は22年の日本経済リポートで「所得500万円未満の世帯は子どもを持つという選択が難しくなっている」と指摘した。
世帯主が29歳以下の1世帯当たりの平均所得は、500万円より100万円以上少ない。平均的な所得のある家庭でも、子どもを持つ余裕がない状況だ。
若年層を中心に据えた政策は物足りない。窮状にもっと目を向けるべきだ。
奨学金の返済が重い負担になり、月々の家計にゆとりがない若者もたくさんいる。
決して自己責任ではない。個人の努力だけでは対処できない社会課題であり、解決するのは政治の役割だ。
若者が明るい将来展望を描ける社会をつくることこそ、少子化対策の根幹である。
特に深刻な政治不信を招いた自民党の責任は重大である。しかし、掲げた公約を見る限り、政治改革を断行する決意は伝わってこない。
長年、政権を担ってきた自民党が裏金事件について国民に謝罪し、「ルールを守る」ことを公約に掲げること自体、国民の政治不信の表れと言わざるを得ない。しかし、その自覚と反省はあるのか。
今衆院選に関する報道各社の世論調査を見ても、「政治とカネ」の問題に関して、国民は自民党に厳しい目を向けていることがうかがえる。その理由は(1)裏金問題の究明と責任追及が不十分(2)改正政治資金規正法には抜け道がある(3)政策活動費が温存された―などに集約されよう。
今回の衆院選に際して自民党は12人を非公認とし、34人の比例代表への重複立候補を認めなかった。政権公約では党総裁直属の「政治改革本部」設置や、将来的な廃止も念頭に政策活動費の透明性を確保すると記した。しかし、これでは国民は納得しない。何よりも必要なのは裏金問題の真相究明、政治家の不正を防ぐ政治資金規正法の抜本改正だ。政策活動費の即時廃止も視野に入れる必要がある。
立憲民主党をはじめ野党各党の政権公約は企業・団体献金の禁止、政策活動費の廃止、政治資金規正法の再改正などを掲げている。自民と連立を組む公明党も政策活動費の廃止を打ち出している。いずれも「政治とカネ」に関する国民の厳しい認識を踏まえたものであろう。
自民党が掲げる政治改革の公約が国民の要求に応えるものなのかが問われている。石破首相は9月の総裁選などで「国民に判断材料を示す」と述べてきたが、現在の公約は判断材料となり得ていないと感じる国民もいるはずだ。投開票日までの論戦で、国民の選択基準にかなう方針と覚悟を提示すべきだ。
1970年代の田中角栄元首相の金脈問題、80年代のリクルート事件に代表されるような「政治とカネ」の問題は幾度も繰り返され、政治資金規正法が改正されてきた。それでも問題は後を絶たず、いたちごっこが続いてきた。「政治改革」は中途半端で抜け道が用意されていたのだ。
物価高騰に悩み、暮らしに追われる国民は選挙で「政治改革」を問うことに怒りを覚えていよう。選挙戦を戦う各党はそのことを肝に銘じ、「政治とカネ」問題を根絶す