使用済みとおぼしき注射器が至るところに、針がむき出しのまま落ちていた。歩道には残飯や酒瓶、たばこの吸い殻も散乱していた。そのそばを何組もの親子が通り過ぎていく。見上げた空は快晴だったが、目の前の世界は陰りを帯びていた。
そのうちの一人、ライアンさん(39)はフェルトペンのキャップほどの小さな容器を持っていた。少量ずつ入っているのは、麻薬性鎮痛剤「オピオイド」の一種でケシを原料とする「ヘロイン」と、覚醒剤「メタンフェタミン」の粉末だ。
「ヘロインだけでは眠気に襲われるから、目を覚ますためメタンフェタミンを混ぜている」
列車が通るたびに、「ゴー」という騒音が耳をつんざく。周囲を乗用車やバスが行き交う中、彼らは昼間から堂々と薬物を摂取していた。
米疾病対策センター(CDC)によると、薬物の過剰摂取による死者は3年連続で10万人を超えた。1日に約300人が死亡していることになる。