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国立大学の学費値上げが注目されている。東大は9月、来年度の入学者から授業料を約11万円引き上げると発表した。同様の動きは他の国立大にも広がりつつある。値上げの先に、いったい何が起きるのか。AERA 2024年10月14日号より。
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例えば、22年度の受託研究費などの外部資金の規模は、大学の性質によって大きく異なる。東大など大規模大は合計5129億円で、次いで医学部のある総合大学で計1535億円、旧東工大など理工系大は計499億円だが、文系の大学は厳しい。東京外国語大など文系大学は計64億円で、教育大に至っては計45億円。大学の数は違うが単純計算で、教育大と大規模大とでは、外部資金の規模は100倍以上も違う。
国立大学の財政に関する実証研究を行ってきた東北大学の島一則教授はこう指摘する。
「文系より理工系や医学系の方が、外部資金等も大きくなります。どの国立大も運営費交付金削減が課されましたが、稼ぐ力に大学による違いがあるのです」
これと並行して「地域中核・特色ある研究大学」に1件あたり5年間で最大55億円を支援する事業もあるが、採択される大学数には限りがあり、金額の規模も違う。
■地方国立大の地盤沈下
「稼ぐ力」の違いは、大学間の格差をさらに拡大する。深刻なのは、地方国立大の地盤沈下だ。10年版世界大学ランキングで、国内トップは24位の東大だが、島教授によると、トップ500の国別大学数では日本は4位。トップ500に金沢大や岐阜大といった地方国立大が入っていたが、22年版ではこうした地方国立大は圏外となり、国別順位は8位まで低下した。島教授は危機感を持つ。
「日本の大学の強みは頂点の高さではなく層の厚さだと思っています。各大学の運営費交付金を削減して、一部の大学に資金を集中することは全体として効率的なのでしょうか。研究者にとって、基盤的環境が広く充実・安定しなければ、日本の研究は先細りします」
日本全体の研究力を上げていくには、大学全体の底上げが必要というわけだ。けれど、簡単に授業料値上げに踏み切れない事情を抱える大学もある。大学会計に詳しい専修大学の小藤康夫名誉教授は言う。
「値上げの検討を報じられていない地方国立大や文系単科大はなかなか値上げできないのではないでしょうか。資金が少なく苦労していても、授業料を上げて地方から若者を流出させるわけにもいきません」
東大などトップ大は、授業料を値上げしても受験生からの人気は衰えないだろう。また、私立大と比べて安い授業料ゆえ、少々の値上げは仕方ないとする意見もあるかもしれない。けれど、『「大学改革」という病』などの著作がある徳島大学の山口裕之教授は「いま反対の世論が盛り上がらなければ、来年度以降、多くの国立大学が授業料を値上げしていくと思います」と指摘。多くの国立大学が値上げした後を、こう予測する。
■学費無償化に逆行
いま、全国の公立の小中学校は授業料がかからない。高校でも学費無償化の流れが広がっている。そんな中での、国立大の授業料値上げに山口教授は言う。
「教育無償化の流れに逆行しています。高等教育の受益者は学生本人だけでなく社会全体だという発想が大きく欠落しています。大学で教育を受けるという基本的人権を蔑ろにしていないでしょうか」
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2024年10月14日号より抜粋