児童虐待が減る兆しが見えない。周囲の大人が危機感を高め、子どもを守る必要がある。
児相や市町村などが虐待を把握したにもかかわらず、最悪の事態に陥ることは避けなければならない。ただ全国で起きた虐待死では、公的機関の対応の不備が深刻化を招いた事例が少なくない。
こども家庭庁の専門委員会の検証によると、過去の似たケースで問題がなかったため今回も大丈夫と判断したり、親子関係以外の加害者の存在を見過ごしたりした結果、子どもを守れなかった。
加害者の状態や家庭の状況によって虐待のリスクは変わる。児相などは変化を的確に捉え、リスクを取り除くことが重要だ。
22年度に把握された心中を除く全国の虐待死56人のうち、0歳児は4割超に上った。経済的困窮や病気などの問題を抱える中で妊娠し、適切な行政支援を受けられず孤立するなどして、虐待に至ったとみられる。問題の背景の一つとして、望まない妊娠が多いことも看過できない。
虐待防止へ出産前からの支援の充実が求められる中、本年度から「こども家庭センター」の設置が市町村の努力義務となった。従来の母子保健と児童福祉の両部門を一体的に運用し、子育て期まで切れ目なく支援する組織だ。
県内の設置状況は5月時点で29市町村にとどまる。未設置の市町村には、母子保健と児童福祉を統括する人材の確保など、一朝一夕の対応が難しい課題がある。
センターの設置は急務だが、既存の体制でも支援を充実できる部分はあるはずだ。未設置の市町村には、センターの準備と並行し、妊産婦らの孤立を防ぐ取り組みを強化することが求められる。
専門委員会の検証によると、死亡事例の中で虐待の通報がなかったケースは6割に上った。虐待の多くは、外部の目が届きにくい家庭内で行われている。
虐待が疑われるサインは、子どもが体格や季節に合わない服を着ている、表情が硬いなどさまざまだ。住民らは、地域の子どもに不自然な点があれば迷わず、児相の相談ダイヤル「189」や市町村、警察などに連絡してほしい。
過去の事例から導き出された検証結果を有効に活用し、子どもの命を確実に守りたい。
2022年度の死亡事例は、心中による虐待死を含めて72人。直近の10年ほどは70人前後とほぼ横ばいで、命を落とす子どもは減っていない。
心中以外の虐待死56人のうち、ゼロ歳児が25人と4割を超える。死因となった虐待の類型では、ネグレクト(育児放棄)が24人(42・9%)と最も多く、身体的虐待の17人(30・4%)が続く。
予期せぬ妊娠をして、出産後も家族や地域から孤立して追い詰められ、養育を放棄する例が少なくないようだ。親子の異変に気づき孤立化を防ぐ地域づくりが依然、課題と言える。
例えば、転居を繰り返す世帯の場合、転居元と転居先の関係機関で情報共有していたか否かが分岐点と指摘する。共有が不十分だと転居先の関係機関による対応が遅れる可能性があるためだ。
親子以外の大人が加害者になる場合には、その大人も含めた家族状況を把握できるかどうかが分岐点だとしている。
家族の事情は外からは見えにくく、異変に敏感に気付くには地域のつながりを強めることが欠かせない。関係機関は報告書の指摘を受け止め、子どもの命を守るために確実に生かすべきだ。不足する人員確保を含めて支援体制の強化を後押しすることが、政府の役割であることは言うまでもない。