児童虐待に関する社説・コラム(2024年10月11・30日)

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児童虐待/サインに気付き深刻化防げ(2024年11月30日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 児童虐待が減る兆しが見えない。周囲の大人が危機感を高め、子どもを守る必要がある。
 県内の児童相談所が2023年度に児童虐待の相談を受けて対応した件数は1908件で、過去4番目に多かった。前年度から348件減少したものの、ここ数年は高止まりの状態にある。
 子どもの前で配偶者らに暴力を振るう心理的虐待が対応件数の7割を占める。身体的虐待や性的虐待育児放棄もなくならない。
 児相や市町村などが虐待を把握したにもかかわらず、最悪の事態に陥ることは避けなければならない。ただ全国で起きた虐待死では、公的機関の対応の不備が深刻化を招いた事例が少なくない。
 こども家庭庁の専門委員会の検証によると、過去の似たケースで問題がなかったため今回も大丈夫と判断したり、親子関係以外の加害者の存在を見過ごしたりした結果、子どもを守れなかった。
 加害者の状態や家庭の状況によって虐待のリスクは変わる。児相などは変化を的確に捉え、リスクを取り除くことが重要だ。
 22年度に把握された心中を除く全国の虐待死56人のうち、0歳児は4割超に上った。経済的困窮や病気などの問題を抱える中で妊娠し、適切な行政支援を受けられず孤立するなどして、虐待に至ったとみられる。問題の背景の一つとして、望まない妊娠が多いことも看過できない。
 虐待防止へ出産前からの支援の充実が求められる中、本年度から「こども家庭センター」の設置が市町村の努力義務となった。従来の母子保健と児童福祉の両部門を一体的に運用し、子育て期まで切れ目なく支援する組織だ。
 県内の設置状況は5月時点で29市町村にとどまる。未設置の市町村には、母子保健と児童福祉を統括する人材の確保など、一朝一夕の対応が難しい課題がある。
 センターの設置は急務だが、既存の体制でも支援を充実できる部分はあるはずだ。未設置の市町村には、センターの準備と並行し、妊産婦らの孤立を防ぐ取り組みを強化することが求められる。
 専門委員会の検証によると、死亡事例の中で虐待の通報がなかったケースは6割に上った。虐待の多くは、外部の目が届きにくい家庭内で行われている。
 虐待が疑われるサインは、子どもが体格や季節に合わない服を着ている、表情が硬いなどさまざまだ。住民らは、地域の子どもに不自然な点があれば迷わず、児相の相談ダイヤル「189」や市町村、警察などに連絡してほしい。

児童虐待対策 情報共有し連携強めて(2024年10月11日『東京新聞』-「社説」)
 
 死亡など児童虐待の重大事例を検証する報告書をこども家庭庁の有識者会議がまとめた。虐待の恐れがある対象世帯に関する情報の把握と共有、対応するための役割分担の明確化を求めている。
 過去の事例から導き出された検証結果を有効に活用し、子どもの命を確実に守りたい。
 2022年度の死亡事例は、心中による虐待死を含めて72人。直近の10年ほどは70人前後とほぼ横ばいで、命を落とす子どもは減っていない。
 心中以外の虐待死56人のうち、ゼロ歳児が25人と4割を超える。死因となった虐待の類型では、ネグレクト(育児放棄)が24人(42・9%)と最も多く、身体的虐待の17人(30・4%)が続く。
 予期せぬ妊娠をして、出産後も家族や地域から孤立して追い詰められ、養育を放棄する例が少なくないようだ。親子の異変に気づき孤立化を防ぐ地域づくりが依然、課題と言える。
 報告書は、児童相談所自治体などの関係機関が、虐待事例に対応する過程で、子どもの命が守られない状況に至る対応の分岐点がどこにあったのかを6類型に分け検証している。
 例えば、転居を繰り返す世帯の場合、転居元と転居先の関係機関で情報共有していたか否かが分岐点と指摘する。共有が不十分だと転居先の関係機関による対応が遅れる可能性があるためだ。
 親子以外の大人が加害者になる場合には、その大人も含めた家族状況を把握できるかどうかが分岐点だとしている。
 虐待死の56人中、児童相談所自治体などの関係機関が関与した事例は7割超の41人に上る。公的機関が関与しながら命を守れなかった事実は重い。
 報告書では妊娠期から出産、子育て期まで「切れ目のない支援」の必要性を強調。妊産婦、子育て家庭、子どもに対する継続した相談支援体制づくりや、保育所や学校、自治体などとの連携を強化するよう求めている。
 家族の事情は外からは見えにくく、異変に敏感に気付くには地域のつながりを強めることが欠かせない。関係機関は報告書の指摘を受け止め、子どもの命を守るために確実に生かすべきだ。不足する人員確保を含めて支援体制の強化を後押しすることが、政府の役割であることは言うまでもない。