【懲りない兵庫県知事】官僚や職員を“抵抗勢力”と位置づけ、正義の味方を演じた小泉・橋下流改革の「大きな誤算」(2024年9月27日『JBpress』)

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兵庫県庁で記者会見する斎藤元彦知事。失職を選び、出直し選挙に出馬すると表明した(2024年9月26日、写真:共同通信社
 (太田 肇:同志社大学政策学部教授)
■ 動揺すら見せず「出直し選出馬」を決めた斎藤知事の本音
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動揺した様子も見せず、出直し選出馬を表明した斎藤元彦兵庫県知事
 県幹部が告発したパワハラ等の疑惑に端を発した兵庫県の斎藤元彦知事を巡る騒動は、議会の全会一致による不信任を受け、知事が失職して再選挙に臨むという新たな展開を迎えた。
 問題をここまでこじれさせた根本原因とは何か?  突き詰めると、それは組織を取り巻く時代の潮流を知事が読み誤ったところにあるのではないか。
 「県民の皆さんにしっかり届くような政策を、改革を進めながらやっていきたいという強い思いでやってきました」
 知事の不信任案が可決された翌々日、民放のテレビ番組に生出演した斎藤知事はこう語った。さらに複数の番組をハシゴしながら、県立大学の授業料無償化や県財政の黒字化など在任3年間の実績を懸命にアピールした。
 県議会の全会一致で不信任を突きつけられたにもかかわらず動揺を見せない表情からは、県民のための改革を進めてきたという強い自負がうかがえた。
 背後にちらつくのは、小泉純一郎元首相の郵政解散や、橋下徹大阪府知事の府政改革を想起させる「改革手法の影」である。
 既得権にしがみつく官僚や職員を「抵抗勢力」と見なし、自らを改革の旗手と位置づけて国民、住民の支持を得ようとする手法は一定の成功を収め、地方分権改革で「ミニ大統領」と化した首長が全国各地に次々と誕生した。
 斎藤知事の場合も、部下(県民局長)による内部告発を「うそ八百」と切り捨て、早々に厳しい処分を下したのは、やはり県民の負託を受けた身であるというプライドや、自分に逆らう者は悪という感覚からきているのだろう。
 だが、その結果、職員組合から辞職要求を出され、職員アンケートであれほど多数の批判的な声が寄せられたことを見ると、知事と職員との間に大きな溝が存在していたことがうかがえる。
 官僚や職員を抵抗勢力、自らを国民・住民の側に立つ「正義の味方」と位置づける政治手法は分かりやすく、悪代官を成敗する「水戸黄門」が人気を博したように日本人の心情に響くものがある。
 しかし、今回の斎藤知事の場合、そこに誤算があったのではないか。
■ トップダウンだけでは継続的に成果を上げ続けられない
 小泉氏にしても橋下氏にしても、強烈な個性とある種のカリスマ性があり、国民・住民から大きな期待を集めていた。だからこそ、たとえ内部に多数の敵を抱えていても改革に一定の成果を上げることができたのだ。
 当然ながら、それは並のリーダーにできる芸当ではない。いくら官僚として優秀な人材でも、トップに立って一人で改革を成し遂げ、政策を推進することはできない。強引に改革を進めようとすると必ず壁にぶつかるし、逆境に陥ったときは四面楚歌になる。
 実際、今回も斎藤知事が議会やマスコミから厳しく追及されたとき、県組織の内部から知事を擁護する声はほとんど聞こえてこなかった。
 知事は県民のほうだけ見て仕事をしていたらよいとか、実績を上げているので評価すべきだという見方があるかもしれない。しかし、そこには重大な問題が隠れている。
 たとえ3年間で実績を残していたとしても、職員の気持ちが離れたままで引き続き実績を上げ続けられるか分からない。
 企業でも役所でも改革派のリーダーがトップダウンで大ナタを振るい、とりあえず既得権を排除したり、利益を上げたりすることは比較的たやすい。しかし継続的に成果を上げ続けるには、組織のメンバーによるボトムアップ型の体制が必要になる。
 実際、職員と対決姿勢を取り、当初は住民の支持を追い風に改革を進めた各地自治体の首長も、昨今は小さからぬ逆風にさらされ改革が頓挫する例が目立つ。斎藤知事の場合も、仮に出直し選挙で当選して新たに4年の任期が与えられたとしても、職員との溝が埋まらないまま成果を上げ続けられるとは思えない。
 百歩譲って、仮に県民のための政治が評価され、成果を上げ続けられたとしても、それをもって職員軽視が許される時代ではないことを知っておくべきだろう。
■ もはや従業員を犠牲にした利益追求は許されない時代に
 民間企業ではかつて、「お客様は神様」と持ち上げる一方、社員に土下座させたり暴言を浴びせたり、過剰なノルマを課したりするところが少なくなかった。
 ところが近年は人権意識の高まりとともに「ブラック企業」が批判にさらされ、2020年にいわゆる「パワハラ防止法」が施行されるなど、従業員を犠牲にした利益追求はもはや許されなくなった。
 また以前なら理不尽な扱いに耐え忍んでいた従業員も、最近は転職の道を選んだり、SNSを通して声を上げたりするケースが増えてきた。
 さらにデジタル化やソフト化によって、以前とは仕事内容が変化したという事情もある。単純作業や定型的業務が減少し、個人の創造性や感性、判断力などが求められるようになった結果、強制や命令、上意下達式のマネジメントでは仕事の成果が上がらなくなったのだ。
 いかに従業員の自発的なモチベーションと仕事への関与を引き出すかがマネジメントにおける最大のテーマになっている。
 こうした世の中の変化とともに、わが国でも近年はES(Employee Satisfaction)、すなわち従業員満足の重視を唱える企業が増えてきた。CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)を高めるためには、顧客に製品やサービスを提供する従業員自身の満足度を高めることが不可欠だという認識が浸透してきたのである。
 それは行政の世界も同じだ。とりわけ地方自治体の場合、かつては国からの機関委任事務をはじめ、ある意味で国の下請け的な業務が相当な割合を占めていたが、地方分権改革によって国と地方が対等な関係になり、自治体独自の業務が中心になってきた。
 そこでは現場の職員を含め、実際に行政に携わるそれぞれの職員がアイデアを出し合い、多岐にわたる業務を遂行していかなければ県政は発展しないし、多様な住民のニーズにきめ細かく対応することもできない。要するに組織が一体となって仕事に当たらないと住民の期待に応えることはできないのだ。
 歴代の名首長は、住民、職員、関係者それぞれのベクトル合わせに手腕を発揮し、長期的に実績を上げてきた。いくら選挙で選ばれた知事でも、選んだ選挙民のほうだけを向いていては職員の意欲と能力を十分に活用できず、結果的に選挙民の利益にも反することになりかねない。
太田 肇

泉房穂氏 3年前に斎藤知事を推薦した維新の対応に苦言「逆風はこれからも続くように思う」(2024年9月27日『東スポWEB』)
 
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 前明石市長で弁護士の泉房穂氏(60)が26日夜、「X」(旧ツイッター)を更新し、県議会を解散せずに失職し、出直し知事選に出馬することを表明した斎藤元彦兵庫県知事について言及した。
 泉氏は「斎藤知事も反省もなく、責任を取ることもなく、開き直りを続けているが、維新も同様に反省もなく、責任を取ることもなく、開き直りを続けている」と、辞職しないで失職を選んだ斎藤知事を批判するとともに、2021年の知事選で自民党とともに斎藤知事を推薦した日本維新の会の姿勢にも苦言を呈した。
 泉氏は続けて「兵庫県政の混乱の原因の一端は、維新にもあるのに、あまりに自覚がなさすぎる。維新への逆風はこれからも続くように思う」と、対応が後手後手に回っていると指摘される維新は、今後も苦戦が続くと予想した。
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