証拠捏造に踏み込むか 袴田巌さん再審きょう判決 無罪の公算大(2024年9月26日『毎日新聞』)

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ドライブで立ち寄った浜松市内の寺院・龍秀院でお参りをする袴田巌さん=浜松市中央区で8月23日、荒木涼子撮影
 1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われ死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、静岡地裁(国井恒志裁判長)が26日、判決を言い渡す。検察側は死刑を求刑したが、死刑囚に対する過去の再審公判4件はいずれも無罪判決が出ており、袴田さんも無罪とされる公算が大きい。地裁が再び捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)に言及するかにも注目が集まる。
 袴田さんは事件の約2カ月後に逮捕された。それから約1年後、血痕の付いた「5点の衣類」が、袴田さんが勤務していたみそ工場のみそタンク内から発見された。確定判決は、袴田さんが事件前によく似た服を着ていたことを挙げて5点の衣類が犯行着衣だとし、袴田さんが逮捕される前にタンク内に隠したと認定して有罪とした。
 再審請求審で東京高裁は、袴田さんが逮捕前に5点の衣類を隠したとすれば1年以上みそ漬けされていたことになるのに、血痕の赤みが消えていなかったとされることに着目。弁護側の再現実験によれば、酸素に触れて赤みが消失するとして2023年3月、再審開始決定を出した。
 赤みが残っていた理由については、事件から時間がたってから、捜査機関が5点の衣類をタンクに入れた可能性に言及した。
袴田巌さん再審公判の争点
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 23年10月に始まった再審公判でも、5点の衣類が袴田さんのものと言えるかが最大の争点となった。長期間みそ漬けされた血痕に赤みが残るかを巡り、弁護側、検察側のそれぞれが証人を申請した。
 弁護側の証人3人は、微量の酸素でも血痕は黒く変色すると指摘。5点の衣類は発見当時、麻袋に入れられていたことから、袋内に酸素が一定程度あったと考えられるとし、「血痕は黒く変色する」と断言した。
 一方、検察側の証人2人は、みそタンクのような酸素濃度が低い環境だと、血痕の赤みが失われて黒く変色していく速度は遅いと説明。長期間みそ漬けされたとしても、血痕に赤みが残ることは「あり得る」とした。検察側は論告で、証拠捏造について「非現実的で実行不可能な空論だ」と述べた。
 再審公判は24年5月の結審まで計15回開かれた。袴田さんは心神喪失の状態にあるとして出廷を免除されており、公判には一度も出廷しなかった。【巽賢司】

「再審法をいい方向へ」 札幌でシンポジウム、袴田さんの姉登壇(2024年9月25日『毎日新聞』)
 
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登壇してメッセージを述べる袴田秀子さん=札幌市北区の札幌エルプラザで2024年9月11日、安味伸一撮影
 北海道弁護士会連合会は、再審法改正に関する映画上映とシンポジウムを札幌市で開き、約200人が参加した。1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、再審公判中の袴田巌さん(88)の姉、秀子さん(91)が登壇。「(袴田さんは)証拠が出てきてから再審開始になった。巌が47年7カ月冤罪(えんざい)で入っていたことを利用して、再審法を何とかいい方向にしていただきたい」と訴えた。
 同事件で静岡地裁は2014年、最有力証拠とされるみそ漬けの「5点の衣類」を「捏造(ねつぞう)された疑い」と指摘し再審開始を決定。袴田さんを釈放した。再審は今年5月に結審し、9月26日に判決が言い渡される。
 袴田さんと暮らす秀子さんは「皆さんの熱いご支援のおかげで巌を助けていただいた」と感謝の言葉を述べつつ、他の冤罪事件の被害者たちに言及。「苦しんでいる方々の再審開始を押しまくって頑張っていきたい」と力強く語った。
 弁護団の笹森学弁護士は「証拠捏造が決定的な問題点。証拠開示されたものが無罪を導く」と解説した。日弁連は再審の手続き、証拠開示などの法制化を国に求めている。【安味伸一】