公明代表交代に関する社説・コラム(2024年9月19日)

15年ぶり公明代表交代 存在感を取り戻せるのか(2024年9月19日『毎日新聞』-「社説」)
 
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公明党新代表への就任が固まり記者会見する石井啓一幹事長=国会内で9月18日、新宮巳美撮影
 国際情勢が厳しさを増す中、自民党との連立を維持しつつ、「平和の党」としての存在感を取り戻すことができるかが問われる。
 公明党の代表選が告示された。山口那津男代表は出馬せず、唯一立候補を届け出た石井啓一幹事長が事実上、新代表に決まった。
 28日の党大会で正式決定し、15年ぶりの交代となる。新代表の就任は、自民や立憲民主党の党首選と時期が重なる。
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公明党代表を退任することになり、岸田文雄首相との会談後、記者団の取材に応じる山口那津男代表=首相官邸で9月18日、新宮巳美撮影
 山口氏は野党時代の2009年に就任し、12年には自民との連立で政権復帰を果たした。支持母体である創価学会からの信頼も厚く、党内基盤を安定させて8期にわたる長期体制を築いた。
 一方、新代表となる石井氏にとっては、厳しい状況下での船出となる。
 所属議員は衆参で80人を超えたこともあったが、現在は59人で、国政選挙での比例票も減少傾向が続く。低迷する党勢の回復が課題となっている。中堅・若手の登用など党活性化に向けた手腕も試される。
 自公間では最近、政策協議や選挙協力で対立し、不協和音が生じることもあった。石井氏には連立を総括し、関係を再構築することが求められている。
 連立の維持が優先され、政策面で譲歩を強いられる場面が増えていた。安倍政権では集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法が制定され、岸田政権は反撃能力保有を含む安保3文書の改定を行った。公明はいずれも消極的な立場だったが、最終的に自民に押し切られたのが実態だ。
 国民の不安を払拭(ふっしょく)するために、政策の立案能力も高めなければならない。コロナ禍では10万円の一律給付を自民に実行させたが、金利のある世界が復活した今、財政出動一辺倒では通用しない。
 本来ならこうした課題を巡り、候補者が議論を戦わせるのが、代表選のあるべき姿だ。慣例とはいえ無投票となったのは残念だ。
 自民は派閥裏金事件で国民の信頼を失った。「政治とカネ」の問題に切り込み、不信の解消に全力を挙げるべきだ。
 公明は今年、結党60年を迎える。今こそ、平和を守り、大衆とともに歩むという立党の原点に立ち返る時だ。

公明党新代表 政治の安定へ役割を果たせ(2024年9月19日『読売新聞』-「社説」)
 
 15年間にわたって公明党代表を務めてきた山口那津男氏が退任し、後任に石井啓一幹事長が就任することが決まった。
 石井氏は、自民党と協力して連立政権を円滑に運営し、政治を安定させるという重い役割を果たさねばならない。
 山口氏は、2009年衆院選自公政権が下野した直後に代表に就いて以来、8期務めてきた。
 現在、自民党立憲民主党では党首選びが進んでいる。1月には共産党の委員長も交代した。山口氏としては今、体制を刷新しなければ党の存在が埋没しかねない、という危機感があったようだ。
 山口氏は長年、連立の安定に力を注いできた。
 平和の党を 標榜 ひょうぼう する公明党は、集団的自衛権の行使容認に消極的だったが、自民党との協議を経て、国の存立を脅かす事態などに限って行使を認めた。この見直しによって日米同盟は強化され、脅威に対する抑止力も向上した。
 消費税率を10%に引き上げる際には、食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率の導入を求め、慎重だった自民党を説得した。
 自民党と考えに隔たりがあっても、協議を重ねて一致点を見いだしてきたことは評価できる。
 公明党の代表は、首相に様々な政策や政権運営について直言し、軌道修正を図ることができる。石井氏もそうした役割を果たせるかどうかが問われることになる。
 党勢の立て直しも石井氏にとって重い課題だ。
 公明党の比例選の得票は、05年衆院選の898万票をピークとして減少傾向が続いている。党の支持団体である創価学会の会員の高齢化により、運動量が減っていることが原因とされる。
 これまでの国政選で日本維新の会は、公明党の現職がいる関西の小選挙区に候補者を擁立してこなかったが、次期衆院選では方針を転換し、対抗馬を立てる。比例選で当選を重ねてきた石井氏は、初めて小選挙区から出馬する。
 次期衆院選は党の消長を占う戦いとなりそうだ。
 1964年の結党以来、公明党の代表が複数の候補者で争われたことは一度もない。今回の代表選も、立候補したのは石井氏だけで、無投票での当選が決まった。
 創価学会との水面下の調整で物事が決まっているのだろうが、自民、立民両党が多数の候補者による党首選を展開する中、改めて公明党独特の体質を浮き彫りにしている。中道政党として、党の裾野をどう広げていくかも課題だ。

公明代表交代へ 石井氏はまず米国訪問を(2024年9月19日『産経新聞』-「主張」)
 
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記者会見を行う公明党石井啓一幹事長=13日、国会内
 公明党代表選が告示され、石井啓一幹事長の無投票当選が決まった。28日の党大会で新代表への就任が正式に決まる。
代表交代は15年ぶりで、8期務めた山口那津男代表は退任する。これまで代表選に複数の候補者が立候補したことはなく、今回も石井氏だけだった。
 公明は連立与党として、自民党とともに国の舵(かじ)取りを担っている。代表となる石井氏の責任は極めて重い。
石井氏と公明に最も求めたいのは、日本と国民を積極的に守る政党に進化することだ。公明は山口代表のもと、集団的自衛権の限定行使や、反撃能力を含む防衛力の抜本的強化などで政府の安全保障政策を容認してきた。これらは評価できる。
 ただし、現下の厳しい安保環境を踏まえ、一層の前進が必要だ。安保政策の調整で公明は常に「歯止め」の視点を強調してきた。だが、歯止めより国民を守る安保政策を積極的にリードすることが求められる時代になった。それこそが現代の「平和の党」のあるべき姿だろう。
石井氏に提案したい。
 最初の外遊先には米国を選んではどうか。同盟国米国や豪州などの同志国の政党や要人と関係を強化してほしい。公明は中国共産党政権と親密な関係を築いてきたが、同盟・同志国と安保情勢をめぐり意見を交わし、危機認識を共有すべきだ。
 国の根幹をなす憲法改正でも積極的な対応が求められる。
 自民は「第9条の2」を新設し自衛隊を書き込むことを目指しているが、公明は首相や内閣の職務を規定した第5章の第72条や73条への明記を想定している。日本の防衛意思を国内外に示すためには、第5章に盛り込むだけでは不十分だ。第9条または「第9条の2」にも書き込まねばならない。
 緊急事態条項の創設では、緊急政令や緊急財政処分の規定を設けることに慎重だ。しかし、大災害や有事の際、期限を区切って内閣に権限を集める仕組みがなければ国民を守れない。賛成に舵を切ってもらいたい。
 党勢は低迷している。比例代表の得票数は平成17年衆院選の898万票をピークに減少傾向にあり、令和4年参院選では618万票に減った。日本を守る姿勢を打ち出すことが党再生の鍵になるのではないか。

公明党のトップ交代 「平和の党」の原点忘れるな(2024年9月19日『中国新聞』-「社説」)
 
 きのう告示された公明党代表選で、石井啓一幹事長の無投票当選が決まった。2009年以来、党を率いていた山口那津男氏から15年ぶりに代表の座を引き継ぐ。
 山口氏はソフトな物腰で支持母体である創価学会の会員の人気も高く、竹入義勝氏に次ぐ長期間、トップを担ってきた。退任理由を「60代以下の世代で次の政治がつかさどられていくことは明白。バトンを譲るべきだと決断した」と述べた。他党が組織若返りに取り組む中、党としても刷新感を出したいのだろう。
 ただ、1964年の結党以来、代表選に複数が立ったことはなく、今回も立候補は石井氏1人だった。自民党の総裁選や立憲民主党の代表選で多くの立候補者が議論を戦わせているのに比べれば、候補者が内々で一本化される過程は盛り上がりも透明性も欠くのは否めない。
 石井氏は官僚出身の政策通で、堅実な手腕には定評がある。無投票当選が決まった後の記者会見では、自民党の派閥裏金問題を念頭に「政治への信頼を取り戻すことが必要だ。政治改革の先頭に立つ」と強調した。
 党が自民党と連立を組んで既に25年。「政治とカネ」の問題や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係などが噴出する連立相手に対し、しっかり「物申す」姿勢を示したことは評価できる。
 金看板である「平和の党」は色あせた感もある。この立て直しがとりわけ求められよう。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増など、自民党が強引に進めた安全保障政策の転換に対し、どれだけ歯止めになってきただろうか。殺傷武器の最たる存在である戦闘機の輸出を容認したことは、党の基本姿勢と大きく隔たっていると言わざるを得ない。
 山口氏は「日本は唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界をリードしなければならない」と述べてきた。核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を求め「それさえ拒否したままで、どうして核保有国と非保有国の橋渡しができるのか」と政府を批判したのはもっともだ。
 平和への取り組みは、現実離れした理想主義ではなく、地に足の着いたものと党は主張してきた。ならば石井氏はその具体的道筋を提示することで存在感を出すべきだ。
 長い与党暮らしで党所属議員の慢心も気になる。遠山清彦衆院議員は貸金業法違反罪で有罪判決を受けた。与党という権力が判断を誤らせたとすれば反省が必要だ。
 前回22年の参院選比例代表の得票は、非拘束名簿式の導入以降で最低の618万票に沈んだ。23年の統一地方選では過去最多となる12人もの公認候補が落選している。党勢の衰退は、党の運営と支援者の思いに、どこかずれが生じているからではないのか。
 石井氏は「公明らしさを一段と高めていきたい」と抱負も述べている。ならば、まず目指すべきは「平和の党」の原点に立ち返ることだろう。党の金看板を忘れては、党勢回復などおぼつかない。

公明新代表 歯止め役もっと発揮せよ(2024年9月19日『西日本新聞』-「社説」)
 
 連立政権で自民党に物申す姿勢を貫いているだろうか。代表交代をきっかけに自己検証すべきだ。
 8期15年にわたって公明党の代表を務めた山口那津男氏(72)が退任し、幹事長の石井啓一氏(66)が新代表に就くことが決まった。28日の党大会で承認され、新執行部がスタートする。
 山口氏が代表に就任したのは自民、公明が下野した2009年だった。在任期間は1998年の党再結成以降で最長となり、世代交代のタイミングを計っていた。
 石井氏は旧建設省出身で、党政調会長国土交通相を歴任し、山口氏の有力な後継者と目されてきた。
 支持母体の創価学会の高齢化により、最近の国政選挙では集票力に陰りが見える。党勢の立て直しが石井氏の課題となる。
 それ以上に重要なのは、連立政権で公明ならではの存在意義を発揮することだ。自民の行き過ぎにブレーキをかけるどころか、一緒にアクセルを踏むことが目立つ。
 集団的自衛権の行使を認める閣議決定憲法違反の指摘にもかかわらず、公明も同意した。その後の安全保障法制を巡る国会審議は自民と共に数の力で押し切った。
 専守防衛を逸脱する恐れのある反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も容認した。
 2012年に政権に復帰してからの公明は、防衛政策の大転換を進める中で「平和の党」の看板が揺らぐ場面があまりに多い。
 自民派閥の裏金事件でも同様だ。山口代表は「同じ穴のむじなと見られたくない」と自民を突き放す発言をしながらも、結局は不備の多い改正政治資金規正法の成立に手を貸した。「政治とカネ」に厳しいとは言えない。
 福祉を重視する政策は評価が分かれる。新型コロナウイルス禍では全国民への一律10万円給付を主導した。かつては経済対策として、商品券の配布や定額給付金を推進したこともある。
 いずれも経済効果が疑問視され、ばらまきと批判を浴びた。近年の自公政権の財政運営は大盤振る舞いが過ぎる。
 自民との連立政権発足から四半世紀になる。選挙協力はすっかり定着し、自民に追随する姿勢が「げたの雪」とやゆされるほどだ。
 公明は11月に結党60年を迎える。石井新代表は「大衆とともに」という立党精神を確かめる必要があるだろう。
 きのう告示された代表選は石井氏以外に立候補はなく、無投票に終わった。今回に限らず、代表候補は事前に調整するため選挙戦にならない。
 政党を率いるリーダーを決める選挙である。複数が立候補し、支持者や国民に向かって党の方向性や政策を提起し合うのが本来の姿だ。
 折しも自民、立憲民主両党の党首選が行われている。議論なき代表選では国民に党の活力は伝わらない。