小泉進次郎氏が打ち出した解雇規制緩和 「怖すぎる」SNS不安の声(2024年9月16日『毎日新聞』)

キャプチャ
自民党総裁選に立候補することを表明し、記者の質問に答える小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2024年9月6日午後0時5分、平田明浩撮影
 自民党総裁選で小泉進次郎環境相が打ち出した解雇規制の見直しを巡り、SNS(ネット交流サービス)で「解雇されやすくなるのでは」と不安がる投稿が相次いでいる。小泉氏は発言を軌道修正しつつあるが、波紋は収まる気配を見せていない。
 小泉氏は6日の出馬記者会見で「日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働市場改革の本丸である解雇規制の見直しに挑みたい」と表明。企業が整理解雇を実施するのに必要な4要件(解雇努力の回避など)の見直しに言及した。
 すると、X(ツイッター)やメタ社が運営するスレッズは、失業を案ずる声であふれた。
 「解雇規制緩和、怖すぎる。育児、介護、病気などの事情を抱えた社員は真っ先に解雇され、会社にとって都合良い人間が残り、昭和の長時間労働社会に逆戻りしそう」
 「この年で次の仕事探すのキツいな……。馬鹿みたいに高い税金払い続けて、いつ解雇されるか怯(おび)えながら過ごさなあかん」
 Xでは一時、「解雇自由化」という言葉がトレンド入り。「いつ首切られるかも分からない不安の中で仕事させたもんなら、絶対うつ病患者とか自殺者とか激増するだろ……」と社会への悪影響を懸念する声もあった。
 反対に「規制を緩和しないと、働かない人を解雇できない」と、企業の人員整理が進むことを期待し、小泉氏を擁護する意見もみられた。
 その後、小泉氏はテレビ番組などで見直し案について問われ、「(解雇規制の)緩和でも自由化でもない」とトーンダウン。大企業に限ってリスキリング(学び直し)や再就職支援の強化など行うもので、解雇をしやすくするものではないと、釈明に追われた。
 だが、こうした主張について「何を言っているか分からない」と冷ややかにみる投稿もあった。
 また、小泉氏が曽祖父から4代続く世襲議員であることから、「普通の家庭に育っていたら、履歴書100枚書いても就職が決まらない友達とか、ブラック企業で壊れた友達とかいて、氷河期世代のつらさが一番分かる年齢なのに」「世襲議員は辞職させないと納得できない」と辛辣(しんらつ)な意見もあった。【高橋由衣】

「労働時間規制の緩和撤回を」市民団体 総裁選で小泉進次郎氏主張(2024年9月15日『毎日新聞』)
 
キャプチャ
自民党総裁選の立候補者討論会で主張を述べる小泉進次郎環境相=東京都千代田区の日本記者クラブで2024年9月14日午後1時9分、手塚耕一郎撮影
 自民党総裁選(27日投開票)で「労働時間規制の緩和」が争点の一つに浮上していることについて、子育て当事者による市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」(天野妙代表)が、緩和主張の撤回を求める緊急声明を発表した。声明文は13日付で、「働く子育て世代の声に耳を傾け、現実に即した討論を」と求めている。
 自民党総裁選では、小泉進次郎環境相が「労働者の働き過ぎを防ぎ、健康を守るのは当然だが、現在の残業時間の規制は、原則として月45時間が上限。企業からも、働く人からも、もっと柔軟に働けるようにしてほしいという声がある」とし、現行の労働時間規制を見直す考えを打ち出した。
 声明では、長年にわたる日本の長時間労働について「過重労働により若い命が失われる悲劇的な事件が相次ぎ、少子化との関連も指摘されている」と指摘。2019年の働き方改革関連法の施行により改善しつつある中で労働時間規制が争点化していることに、「多くの子育て世代から、驚きと失望の反応が上がっている」と記した。
 規制緩和が進めば、「やりがいの搾取や、『自己研さん』という名の強制残業など、今もある問題がさらに悪化する強い懸念が拭えない」とし、まずは終業から始業までに一定の休息時間を確保する「インターバル規制」の義務化や、残業割増率を大幅に引き上げるなど、働き方改革を拡充する施策を導入するよう求めた。
 声明の賛同者として、「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長や白河桃子相模女子大大学院特任教授、末冨芳日本大教授らが名を連ねた。【黒田阿紗子】

 
 
20240913_miraco_Statement_1-1-1-1447x2048.jpg
 
【賛同者によるコメント】50音順
【高祖常子】
共働き家庭が大半で男女の格差が縮まらない現状で、「労働時間規制の緩和」は男性の帰宅時間を更に遅く
させ、家事・育児の負担が女性に重くのしかかることに繋がると考えます。残業割増率を見直して長時間労働
解消し、夫婦で共育てすることが可能な世の中にしてください。
【小室淑恵】
何人もの総裁選候補者が「もっと働きたい人がいるので労働時間の上限撤廃を」と同じ文章で言っているのは不
自然です。自分の頭で考えた政策ではなく、誰かに支持と引き換えに担がされたように見えます。その「誰か」は、
育児や介護や病気などと仕事を両立する、多くの国民側ではなく、「人手不足だからもっと長時間働ける人を確
保したい」側や、「家庭的責任は誰かに押しつけて24時間働ける稀有な人」ではないですか。一人一人は短時
間しか働けなくても勝てる方法がある。日本をその勝ち方で導ける候補者は誰なのか、見極めなくてはならないと
思います。
少子化対策として、出生率が回復した国はやっていて、日本がやっていないことがあります。それは労働時間の規
制です。長時間労働は人と人が出会う時間を奪い、夫婦の時間を奪い、子育ての時間を奪います。コロナ後は
「個人の生活を大切にしたい」と感じる人が増えました。これからは「可処分所得」と同じように「可処分時間」がイ
ンセンティブになる時代です。昭和の高度成長期とは違い、長い時間働くことが必ずしも生産性にはつながらない
ことは明らかです。昭和に逆行する政策は少子化にも生産性にもマイナスでしかありません。
【柴田悠】
残業割増率が低い現状のままで残業を規制緩和すると、「残業するだけで高く評価される」という「昭和モデルの
人事評価」に戻ってしまい、「『DX等による生産性向上』がなされづらい失われた30年」に戻ってしまうでしょう。
せめて残業割増率を「現状の25%」から「アメリカと同じ50%」へと引き上げることを是非ご検討ください。
※図1、2:長時間労働者の割合を「週の労働時間が49時間以上の就業者の割合(男女計)」として、JILPT「データブック国際
労働比較2024」をもとに京都大学教授柴田悠氏作成。
本リリースに関するお問い合わせ みらい子育て全国ネットワーク<hoikuenhairitai@gmail.com>
【末冨芳】
親の労働時間が長くなると子どもからケアを奪うことになります。だからこそ親が長時間労働をしなくてすむ労働時
間規制や、不安定就労から守る規制を重視する国が多いのです。年少扶養控除と手当を組み合わせ、子育て
家庭を経済的にも支えています。新しい自民党であれば、この改革の実現が可能だと信じています。
【髙崎順子】
労働時間の短縮による家庭と仕事の両立は、先進国では重要な社会課題です。先進国の中で高い出生率
維持しているフランスでは、週35 時間労働制で働く人の生活時間を確保しつつ、経済を回しています。2019
年からようやく日本でも始まった働き方改革、それにブレーキをかけるような「労働時間規制の緩和」の公約に目と
耳を疑いました。国全体では日本はまだ「働きすぎ」の社会です。その現状認識に基づいた議論をお願いします。
アラサーになり、仕事or「結婚₊こども」どちらをとるのか考えるようになり、子育てでキャリアが中断してしまうことに、
多くの女性が悩んできたことだと気づきました。それは、長時間労働が是とされてしまうからです。スウェーデンに行
き、平日夕方17時頃にたくさんのパパとママと子どもたちが公園で遊んでいる姿に驚きました。海外のように所定
時間を短くして、労働生産性を高めれば、子育ても仕事もどちらも諦めなくてできる。こういう社会を作りたいです。
労働時間の規制緩和は時代に逆行する考え方だと思います。
【山口一男】
日本の長期雇用者優先の雇用慣行のもとでは、企業の「働かせ方」が自分の選好と合わなくても、「退出オプショ
ン」がコスト高なため、 非自発的に残業をしている就業者が未だ非常に多い状況があります。その状況で「労働
時間規制」の緩和を行えば、非自発的残業が 一層増え、ワークライフバランスがとりにくく離職せざるを得ない有
能な女性も現在以上に増加し、日本の人材活用が長時間労働可能な男性に偏るという歪さを更に強化するこ
とになる懸念が大と思います。また恒常的長時間労働のもとでは、イノベイティブな仕事はできません。 労働時間
管理を就業者自身ができる雇用管理システムを日本企業が採用するように促していくことが重要と思います。
【山口慎太郎】
長時間労働規制緩和は、心身の健康を損ね、特に立場の弱い労働者に無理な長時間労働を強いる恐れが
あります。育児中の人々だけでなく、多くの人にとって働きやすい環境が失われ、さらに自己研鑽やリスキリングの機
会も減少し、長期的な経済成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
【山本勲】
希望者に長時間労働を認めると、部下や同僚にも拡がる「ピア効果」が生じてしまいます。人手不足の日本で求
められるのは、長時間労働への回帰ではなく、多様な人材が生産性とウェルビーイング(心身の健康と幸福)を
ともに高める新たな働き方です。そのためにも労働時間規制はグランドルールとして維持すべきです。