敬老の日に関する社説・コラム(2024年9月16日)

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(2024年9月16日『東奥日報』-「天地人」)
 
 敬老の日」のルーツが、80年近く前に現在の兵庫県多可町で行われた敬老会にあると、先日のNHKチコちゃんに叱られる!」に教わった。
 1947年9月15日、当時の野間谷村が、長く社会に貢献したお年寄りに敬意を表し、知識や人生経験を伝授してもらおうと、55歳以上の人を招き初の敬老会を開いた。翌年にはその日を村独自の祝日「としよりの日」に定めた。この動きが県や国へと広がり、きょうの祝日につながっている。
 55歳以上というのは子どもを戦地に送った世代だった。敬老会には、精神的に疲れていた親たちを励ます思いも込められた。村は「お年寄りが大切にされれば、若い世代が未来に希望を持てる」と考えたという。
 伝授するような知識も人生経験も乏しいまま平和な社会に生き、当時なら敬老会に招かれた側の年齢になった。平均寿命は女性87歳、男性81歳と世界でトップクラス。人生100年時代とも言われる。
 65歳以上と定義されることの多い高齢者年齢を引き上げ、人口減少による人手不足の解消や社会保障の担い手確保につなげようという議論もある。元気で意欲のある人が働きやすい環境づくりに異論はないが、一生の時間をどう使うかは人それぞれ。健康面に不安のある人などが置き去りにされない仕組みも必要だ。どうなれば若い世代が希望を持てるか、考える「敬老の日」に。

敬老の日/高齢者の活力生かす社会に(2024年9月16日『福島民友新聞』-「社説」)
 
 県に住む人の3人に1人は65歳以上だ。高齢者がそれぞれ持っている力を発揮しながら、生き生きと暮らせる環境を整え、本県全体の活力向上につなげていくことが不可欠だ。
 高齢者に最も期待したいのは、これまで培ってきた知識や技術を今後も社会のために生かしてもらうことだ。
 これまでの65歳までの定年延長や継続雇用制度の導入などに加えて、2021年の法改正により、現在は70歳までの希望者全員を対象とした継続雇用などが努力義務となっている。全国で深刻な労働力不足に陥っていることもあり、高齢者の就業率は年々伸びており、65~69歳で5割、70~74歳でも3割を超えている。
 高齢者雇用の割合は、大企業よりも人手の足りていない中小企業の方が高い。ただ、待遇は定年前よりも低くなるのが一般的だ。継続雇用などの高齢者が業務に精通し、必要な知識や技術を持つ人材であることを考えれば、望ましい状況ではあるまい。
 少子化により今後も労働力人口とされる15~64歳の減少が続く以上、働くことを希望する高齢者の待遇改善は避けて通れない課題だ。継続雇用となった人の報酬や長く続いてきた60歳定年制の見直しなどを含め、高齢者の労働環境の再構築を進める必要がある。
 仕事の第一線から退いた高齢者の活力を維持してもらうことも、重要な課題だ。健康上の問題で日常生活が制限されない「健康寿命」を伸ばす取り組みの充実、強化が大切となる。
 行政などに特に力を入れてもらいたいのは、要介護の前段階に当たるフレイルの予防に役立つ習慣の普及だ。フレイルは加齢とともに心身の機能や社会とのつながりが弱くなっている状態を指し、何も対策をとらないと介護が必要となる恐れが高まるとされている。
 規則正しく3食を取ることや、生活のなかにウオーキング、ストレッチ運動を取り入れることの重要性を知ってもらうための取り組みを強化してほしい。
 高齢者が同世代や若い世代と交流できる機会を増やすなど、社会とのつながりを保つことへの支援も求められる。
 高齢者の生活を潤いあるものとすることは、社会全体を明るくする。高齢者を取り巻く課題を解決していくことは、後に続く世代の暮らしやすい、快適な老後にもつながるだろう。あすは敬老の日だ。高齢者と自身の老後をより良くするための方策について考えるきっかけとしたい。

三つのショク(2024年9月16日『福島民友新聞』-「編集日記」)
 
 マージャンの牌はさまざまな絵柄や数字があり、複雑だ。初心者に教えるときは大抵こんな感じになりがち。「一二三」など三つ続く数字、あるいは同じ絵柄を三つそろえれば何とかなるー。うまくいくと「三色同順」などの役ができる
▼92歳の評論家、樋口恵子さんは、高齢期を豊かに自分らしく過ごすためには「三つのショク」が大切と説く。一つ目は「食」。10年ほど前に精神的に落ち込んだとき、食生活がおろそかになって栄養失調で入院、「食べることは生きること」を痛感した
▼二つ目は「職」。仕事をして収入を得るだけではなく、ボランティアや地域の活動でもいい。微力でも誰かの役に立ちたいという志で、自分自身も楽しみながら社会とつながり続けることを勧める
▼三つ目の「触」は人との触れ合いや人間関係を指す。職場の仲間は退職すれば疎遠になり、子どもは独立すれば家から巣立つ。居場所となるコミュニティーが地域にあれば孤立を防げる
▼きょうは敬老の日。健康長寿への関心の高まりとともに、世の中にあふれかえる情報で疲れていないだろうか。そのときは分かりやすく、食・職・触の3ショクで決まり。これを心がければ、きっと日々が充実する。

あんこ地蔵様(2024年9月16日『福島民報』-「あぶくま抄」)
 
 「小川のあんこ地蔵様」の言い伝えが新地町にある。江戸時代の元禄期、全国行脚を重ねた家山という和尚が、山と海の幸に恵まれた心地良さにほれ込み、居を構えたとされる
▼子ども好きで親しまれた。死期を悟ると、命亡き後も村人を救いたいと地蔵尊の建立を願った。完成を見届けて永眠し、地蔵に姿を変えた。住民の敬慕の念は一層深まり、いつしか「子どもの湿疹を治す地蔵様」とあがめられた。遺徳は今も地域に受け継がれる。月遅れの命日に当たる毎年8月、和尚の好物だったあんこを地蔵の口元に塗って供養する
地蔵尊がある二羽渡神社の近くに、その男性は住んでいる。3年前、自宅敷地にあった旧母屋を民話語りの活動拠点に改築した。「先人の教訓が込められた古里の昔話を次世代へつなぐ場所にしたい」。町内外で活動する語り部たちが月1回ほど集い、話術を磨き合う
▼100歳の小野トメヨさんも話者の一人。先月の賀寿贈呈式で「あんこ地蔵様」の民話を披露した。震災の津波で自宅を流された経験も伝え始めた。地域の安寧を願う姿は時を超え、和尚と重なって見える。きょう16日は敬老の日。紀寿の語り部の瞳に、気高い命の輝きが宿る。

敬老の日 世代超えた交流の場を持とう(2024年9月16日『読売新聞』-「社説」)
 
 何歳になっても、人と人とのつながりを大事にしながら、生き生きと暮らすことができる。世界屈指の長寿国として、そんな社会でありたい。
 きょう16日は、敬老の日だ。総務省によると、65歳以上の高齢者は過去最多の3625万人となった。総人口に占める割合は約3割で、これは世界200か国・地域の中で最も高い割合となる。
 高齢化は、医療や年金といった社会保障費の増大と併せて、負の側面として論じられがちだ。しかし、今の高齢者は、元気で意欲が高い人が多い。そうした人たちが長く活躍できれば、社会に活力をもたらすはずだ。
 そのためには、平均寿命だけでなく、「健康寿命」を延ばすことも重要になる。平均寿命に含まれる寝たきりや介護が必要な期間を短くして、健康に過ごせる時間をできるだけ長くしたい。
 山形市は2019年から、高齢者らのスマートフォンに毎日の歩数を記録できるアプリを入れてもらい、要介護の状態や生活習慣病に陥らないようにしている。
 歩数のほか、登山道に設置したQRコードを読み込んだり、体操教室などに参加したりすると、ポイントがたまり、抽選で特産品や商品券がもらえる仕組みだ。
 スマホが苦手な人には専用の歩数計を配り、その記録に応じてポイントを付与しているという。働き盛り世代の参加も多く、楽しみながら外出や運動、世代間の交流ができると評判になっている。
 「貢献寿命」という考え方も注目されている。高齢になっても社会とかかわり、世の中に貢献する期間を延ばそうと、東京大の秋山弘子名誉教授が提唱した。
 定年退職後も、仕事を持つ、ボランティア活動に参加する、人生経験を若い人たちに伝える、といった社会貢献を続けることで、人から必要とされ、感謝される。そうしたやりがいや充実感が、心身の健康にもつながるという。
 日本では、定年や子育ての後の生き方は、本人任せという側面が強い。自治体の高齢者施策も、就労や生涯学習、ボランティアなどの分野によって、担当する部局が異なるケースが目立つ。
 そのため、どのような人が求められ、地域にどういった活動があるのか、情報を一元的に得ることが難しくなっている。
 高齢者が様々な世代と一緒に交流できる場を広げたい。各自治体は、一人ひとりが意欲的に活動できるよう、相談窓口や仲介事業などの支援策を強化してほしい。

敬老の日 災害に強い「長寿大国」へ(2024年9月16日『産経新聞』-「主張」)
 
 今年は年初から災害時の高齢者対策の難しさを痛感した。
 ひとたび災害が起きれば弱い立場に置かれるのが高齢者だ。日本は災害の多い国だからこそ、お年寄りを災害弱者にしない社会をめざしたい。「災害に強い長寿大国」は実現できる目標である。
 総務省によると、総人口が減少する一方で、9月15日現在の65歳以上の人口推計は3625万人と過去最多を更新した。総人口に占める割合も29・3%と過去最高である。
 世界的にみてもその割合は抜きんでている。人口10万人以上の200の国・地域の中で1位だ。先進7カ国(G7)ではイタリアが4位で24・6%、ドイツが9位で23・2%だった。われわれは世界トップの超高齢社会に生きている。
 その現実と課題を直視させられたのが、元日に起きた能登半島地震だった。高齢化が進む過疎地域を直撃したのである。被害が大きかった石川県珠洲市では、65歳以上の高齢化率が5割を超えている。輪島市でも約49%(令和5年)と、いずれも全国平均を大きく上回る。
 その中で浮き彫りになったのが、高齢化社会における災害対策の難しさだ。人も住まいも、そして地域社会自体の「高齢化」という問題である。
 まず高齢になるほど住居の変化、つまり耐震化や住み替えに消極的な傾向がある。被災後に県が用意した2次避難先が遠い場合、長年親しんだコミュニティーと離れることを高齢者が躊躇(ちゅうちょ)する例も少なくなかった。
 「地域で長く大切にされてきた生活者の暮らしを無視した『べき論』では地域防災は前に進まない」というのは三菱総合研究所の古市佐絵子氏だ。「能登半島地震から『超高齢社会』防災を考える」と題した提言で「生活環境を極力変えない防災」という視点を提示する。
 令和6年版高齢社会白書でも、65歳以上の人に聞いたところ、1人暮らしの人はそれ以外と比べ、備えが遅れる傾向にあった。家具の転倒防止対策のサポートや災害時の避難支援など「1人暮らしの高齢者に配慮した対策の推進が重要」と指摘する。もちろん、高齢者自身の意識改革を促す方策も求められるだろう。
防災にゴールはない。めざすのは長寿防災大国である。

敬老の日に考える 次の場所へ行く幸せ(2024年9月16日『東京新聞』-「社説」)
 
 愛知県大府市内のデイサービス施設。お待ちかね、アトラクションの電子紙芝居が始まりました。
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 1話目は“怪談”。大府市歴史民俗資料館職員のあいばまさやすさん(71)=写真(上)=が、絵と文を手掛けて演じる創作です。
 <まだ夜も明けきらぬ台所。包丁をジャリジャリと研ぐ老婆(ろうば)。何かを切り刻む音に、じいさまはふと目を覚ます。障子に映ったその影は恐ろしく、この世のものとは思えないほどだった>
 <すると老婆は『見たな~、見たな~。もう少し寝ていてほしかったんじゃが、見られてしまったのなら仕方ないわい』。その時、じいさまが台所で目にした物とはなんと~。恐怖の味噌汁(みそしる)~>
 ここでスクリーンに映し出される湯気の立つ大きなお椀(わん)。声色をがらりと変えて「きょう、麩(ふ)のみそ汁。あしたは大根にする?」とオチを付けると、会場は大爆笑。演者には至福の瞬間です。
 あいばさんは、幼いころから絵を描くのが好きでした。
 大府市の中学を卒業後、東京へ出て、漫画家になりたいと思ったものの、親の猛反対にあい、地元の大手自動車部品メーカーに就職。主に新規開発事業部門の営業マンとして60歳の定年まで勤め上げました。会社から延長の勧めもあったのですが、新しい環境を求めて資料館の欠員募集に応募。この選択が転機になりました。
 来館者に喜んでもらおうと、絵心を生かして始めた紙芝居。子どもたちや高齢者の反応がうれしく、面白く、月に1作のペースで新作を発表するようになりました。
 ストックが50本ほどになったとき、サラリーマン時代の先輩の勧めもあって、パソコンに取り込みデジタル化。週2日勤務の館内披露だけではもったいないと、仲間を集め、9年前に「一座」を結成。60代前半から80代までの男女9人で、福祉施設や小学校の放課後クラブ、イベント会場などをボランティアで回っています。
 電子紙芝居を中心に、ハーモニカ演奏やマジック、似顔絵描きなど、それぞれの「一芸」を生かした1時間のコース。近隣の市町からもお呼びがかかり、年間約150公演をこなしているそうです。
◆まず一歩前へ出てみれば
 「今が一番幸せです」とあいばさん。「『不満』とか『不安』とか『不』のつくものがひとつもないような気がしています。観客の笑いが吹き飛ばしてくれるんでしょう。セカンドステージを楽しむこつですか? まず一歩前へ出る。はじめの一歩を踏み出すと、二歩、三歩と行っちゃうんだよね。そのたびに新しい風景が見えてくるはず。そのためにも健康でいないとね」と。
 ♪あー南風よゆっくりと吹き抜けておくれ/僕を背中から押し出しておくれ/行くあてないけど腰を上げよう/次の場所へ行く幸せ…。
 あいばさんの紙芝居を見ながら、頭をよぎったメロディーです。
 タイトルは「次の場所へ行く幸せ」。長野県安曇野市在住の元高校教師、「がばちょ山岸」こと山岸豊さん(67)=同(下)=が2年前、完全退職の記念に作ったCDアルバムのタイトル曲。退職後は「年金ミュージシャン」を名乗り、中学の時に始めたギターを携えて全国のフォーク酒場や音楽イベント会場などを愛車で巡り、自作の歌を歌っています。今年は8月末までに81回、ステージに立ちました。
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 助手席にはいつも妻の裕子さん(66)。もっとも現地では、それぞれ「自由行動」になるそうですが。
◆ゆとりの時間を楽しんで
 「年金でほそぼそと暮らしているというイメージは全くありません。与えられた人生をどうコーディネートしていくかを考えながら、ゆとりある時間を楽しんでいます」と、山岸さんは話します。
 「老い」という言葉にとらわれ過ぎず、一歩前へ踏み出せば、いくつになっても「次の場所」へ行けるはず。新しい風景を見ることができるはず。お二人の生き方がそんな「希望」を示しているように思えます。

高齢者の社会参加 地域の持続可能性に直結(2024年9月16日『福井新聞』-「論説」)
 
 人口が約57万3千人に減り、65歳以上の高齢者が4割を占める。国立社会保障・人口問題研究所が推計した2050年の福井県の姿だ。県内の高齢化率は23年10月1日時点で既に31・6%に達している。高齢者の割合がこれまで以上に大きくなることを前提に、個々のニーズや状況に応じて多様な社会参加の仕組みを実現できるかが、地域の持続可能性に直結する。
 政府の有識者会議は今年8月、中長期的な高齢化対策の指針「高齢社会対策大綱」の改定に向けた報告書をまとめた。高齢化対策を単に高齢者を支えるだけでなく、全ての世代にとって持続可能な社会を築くための取り組みと位置付けた。
 65歳以上を一律に捉えることは現実的ではなく、年齢で「支える側」と「支えられる側」に分けることは実態に合わないと指摘。個々の状況に応じて、「支える側」にも「支えられる側」にもなる社会を目指すことが必要だと強調した。
 県内で要介護1以上の認定を受けていない高齢者の割合を示す県の独自指標「元気生活率」は、22年9月時点で65~74歳97・5%、75~79歳93・2%で、ともに全国上位。高齢者は既に地域や経済活動で大きな役割を担っている。
 総務省の就業構造基本調査で、22年の県内高齢者の有業率は30・9%で全国1位。特に65~74歳は49・4%に上り、約半数が何らかの仕事に就いている形で、シルバー人材センターの入会率も高い。社会生活基本調査をみると、ボランティア活動に参加する割合は65~74歳30・7%。75歳以上15・6%。高齢者全体では23・4%と全国平均を上回っている。
 県内の高齢者人口は25年ごろにピークとなり、その後も団塊ジュニア世代が65歳を迎える40年ごろにかけて高止まりし、総人口に占める割合は拡大する。知識や経験を生かし活躍する機会を充実させることが不可欠になる。
 多様な働き方を認めるなど、より多くの人が社会に参加しやすい仕組みをつくることは高齢者だけでなく、女性や障害のある人らの力を引き出すことにもつながる。高齢者の交通事故の増加や運転免許返納の動きを考えれば、これまでのマイカー移動を前提としたまちの在り方にも少なからず影響する。1人暮らしや認知症の人の増加に対応し、地域のセーフティーネットを高める必要もある。
 16日は「敬老の日」。高齢者が住みやすい社会づくりは、他の世代にとっても暮らしやすい社会を実現することだと捉えたい。

敬老の日 元気な高齢者 社会に希望(2024年9月16日『山陽新聞』-「社説」)
 
 きょうは「敬老の日」。昨年の日本人の平均寿命は、厚生労働省の簡易生命表で女性が87・14歳、男性は81・09歳で、前年より女性が0・05歳、男性は0・04歳延びた。
 延びるのは3年ぶりで、新型コロナウイルス感染症による死亡数の減少などの影響とみられる。国別では女性が世界1位、男性は5位だった。改めて有数の長寿国だと感じる。人生経験豊かな高齢者を敬い、それぞれの生き方を尊重する社会とすることが求められよう。
 働く高齢者が増えていることにも目を向けたい。71歳で吉本興業の養成所に入り、77歳の今、舞台で活躍する女性タレント「おばあちゃん」が以前、本紙文化面で紹介されていた。
 東京の漫才劇場のメンバーで、2月の喜寿記念公演では病院通いをテーマに漫談を披露した。〈大丈夫 順調ですよ 老化です〉などの自作川柳を読み上げて、温かみのある笑いを広げたそうだ。
 取材に「年を取ってできなくなり恥ずかしいと思うことを笑いに変え開き直りたい」と答えた。若い人に対しても知らないことは素直に聞く。「考え方を変えていけば、人生すごく楽しい」という。
 こうした元気な姿は将来に希望を抱かせる。社会との接点を保つことは、心身の衰えを防ぐ上でも大切だろう。
 タレントとしての活躍は極めてユニークだが、岡山県内でもベテランの継続雇用に前向きな企業は増えている。背景には人手不足もあろう。
 岡山労働局がまとめた昨年の雇用状況では、高年齢者雇用安定法の努力義務に沿って、希望者に70歳までの就業機会を確保している企業の割合は31・8%だった。
 従業員21人以上の企業の報告を集計したもので、前年より0・4ポイント増え、全国平均を2・1ポイント上回った。国や自治体は活躍の事例を紹介し、さらに機会を広げてほしい。
 政府は先に決定した高齢化対策の中長期指針「高齢社会対策大綱」の改定で、70歳まで働くことができる企業の割合を2029年に40%へ高めることを目標に掲げた。
 とはいえ、高齢者の体力は人により大きく違う。気がかりなのは労働災害の多さだ。
 厚労省によると、雇用者全体のうち60歳以上の割合は昨年、18・7%だが、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める割合は29・3%に跳ね上がる。災害発生率は男性が30代の2倍、女性は4倍で、特に医療、介護施設での転倒による骨折などのリスクが高い。
 身体能力の低下が避けられない高齢者の実情を踏まえた安全管理の徹底が勤め先などに求められるのは言うまでもない。労働局なども指導を強めてもらいたい。
 併せて、働きたくても健康面から働けない人がいることを政府は忘れてはならない。単身の人の住まい確保などのサポート強化が必要だ。

敬老の日(2024年9月16日『山陽新聞』-「滴一滴」)
 
 かつてニュータウン、今は独居高齢者ばかりの古い団地で女性たちが井戸端会議をしている。いつも野良猫を世話していた男性住民が1週間近く姿を見せないらしい
は、自らも八十路(やそじ)手前の齋藤なずなさんがシニア世代の眼前にあるあれやこれやを描いた話題作だ。介護に終活、みとり。くだんの彼は自室で独り亡くなっていた
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▼登場人物の多くが、言葉は交わすが互いの過去まで知り尽くした仲ではない。「みんなただのジジババやってるけどサ…」と、お別れに訪れた一人が語る。「いろいろいろいろあったはずなんだよね」
▼さて、敬老の日である。終戦から3度目の秋に兵庫県多可町が「としよりの日」を設け、それが後に国民の祝日となったそうだ。わが子を戦地に送り、心底疲れ果てた親たちを少しでも慰めたくて交流会を始めたという
▼令和のお年寄りは当時招かれた人の子や孫の世代に当たろうか。高齢社会を生きる皆さんは、老いという現実の一番先頭を歩いている。デジタル機器に手間取ったり、人の名前を忘れたりするくらいで軽んじられるのは筋違いというもの
▼今年、65歳以上の高齢者は3625万人と最多を更新した。働くシニアも随分増えた。3625万通りの事情と、いろいろな思いを抱えながら切り開いた全ての「今日」をことほぎたい。

ご隠居さん(2024年9月16日『中国新聞』-「天風録」)
 
 熊さんや八つぁん、でっちに若旦那…。落語には頼りなさそうな人物が多く登場する。もちろん頼りがいのありそうな人も出てくる。人生経験が豊かなご隠居さんだ。物知りで長屋の知恵袋とでも言えようか
▲江戸時代、多くの人は50歳ごろに現役を退き、亡くなるまで10年くらいはのんびり暮らしていたらしい。ご隠居さんとして長屋の面々から一目置かれ、熊さんや八つぁんに何か質問されれば、真面目に答える。そんなふうに社会貢献も果たしていた
▲今の50、60歳代から見ると何ともうらやましい。人生100年時代の現在、よりシビアな社会貢献、つまりは働き続けることが求められている。実際、60歳代後半の半数以上が就業中。いつになれば、隠居できるのか
▲元気なうちは働き続けてほしい。そう考える政府だが、高齢化で増え続ける医療費がむしろ気にかかるようだ。年齢を重ねても稼ぎがあれば、それに応じて負担させたいのが本音だろう
▲落語のご隠居さんは時折、知ったかぶりをして、笑いを引き起こす。それも、その人の個性や能力に応じた一種の社会貢献なのか。きょうは敬老の日。身の回りにいるご隠居さんと、その待機組に目を向けたい。

「のんびりしよう」なんてダメ?(2024年9月16日『山陰中央新報』-「明窓」)
 
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映画で主演した草笛光子さんが表紙を飾った文庫本「増補版 九十歳。何がめでたい」
 スマホが行き渡ると、人間はみなバカになるわ。調べたり考えたり記憶したり、努力しなくてもすぐ答えが出てくるんだもの-。昨年11月に100歳を迎えた直木賞作家、佐藤愛子さんのエッセー『九十歳。何がめでたい』の一節。さもありなん。歯に衣(きぬ)着せぬ社会批評は辛辣(しんらつ)で痛快でもある
▼88歳で最後の長編小説『晩鐘』を書き上げた後、毎日何もせず、家で「のんびり」していると老人性うつ病のような状態に陥ったという。ところが、編集者の勧めで『九十歳…』の連載を始めたら脳細胞が動き始めた、というから不思議だ
▼エッセーでは自らの身体に起こる「故障」を嘆き、「文明の進歩」に怒り、悩める若い人たちを〓(口ヘンに七)りつつ温かく鼓舞する。共感し、勇気づけられた読者も多いだろう
▼エッセーは映画化され、今年6月から全国上映されている。老作家の日常をコミカルに演じたのは草笛光子さん。舞台に立ち続けるため70歳を過ぎてパーソナルトレーナーを付け、体を鍛えているという。自らも昨年90歳を迎え、「老いについて言いたいことは山ほどあるし、めでたかないんじゃないのかな。でも、お芝居をやれることはめでたい」
▼98歳で続編も執筆した佐藤さんは『九十歳…』の最後にこんな言葉を書き残している。人間は「のんびりしよう」なんて考えてはダメなことが、九十歳を過ぎてよくわかりました-。それが元気の秘訣(ひけつ)だろう。(健)

敬老の日】住み慣れた場で前向きに(2024年9月16日『高知新聞』-「社説」)
 
 年を重ねても楽しく豊かに過ごしたい。本紙の投稿欄には、老いを前向きに捉えた便りが届く。
 何かに挑戦しなければ衰えが進行する、とミニ菜園で野菜作りに奮闘する様子をつづったのは80代女性。娘から贈られた化粧品による肌の手入れを機に、若い感じになるよう髪をカットしてもらい、服も明るい色に変えた。そんな80代女性のエピソードも掲載された。
 自分らしい暮らしを続けるには、慣れ親しんだ場所で生活を続けられるかどうかが大きく影響する。2021年度の県民世論調査では、4割が「医療や介護が必要になっても自宅で生活したい」と希望する。高齢者が住み慣れた地域で暮らしながら医療や介護などのサービスを一体的に受けられる仕組みが求められる。
 厚生労働省は「地域包括ケアシステム」の推進を掲げる。しかし、介護分野の人手不足は深刻さを増しており、高齢化のピークとなる40年度には介護職員が60万人近く不足するとも見込まれる。
 中でも、通所介護と並ぶ在宅サービスの柱である訪問介護は崩壊の危機に直面している。
 訪問介護は、ホームヘルパー訪問介護員)が利用者の自宅で生活援助や身体介護を行う。高齢化に伴って最近は年間100万人を超す利用者があり、需要が高まっている。
 だが、相対的に賃金が低い上、訪問先では1人で判断し、対応しなければならないなど技能と経験が必要とされる。ハラスメントも少なくない。人材の確保が難しく、離職者も相次ぐ。就業者の約4人に1人は65歳以上で、高齢のヘルパーが現場を支える実態がある。
 そこへ追い打ちをかけるのが介護報酬改定だ。24年度は訪問介護の基本報酬が引き下げられた。厚労省はその理由として、訪問介護分野全体では利益率が高いことを挙げている。
 一方、訪問介護事業所の約4割は赤字経営との集計結果もある。民間調査では、23年の訪問介護事業者の倒産は過去最多だった。
 高知県内でも近年、郡部で事業所の閉鎖が相次ぐ。地方では訪問先への移動距離が長く、事業の効率化が難しい。ただでさえ経営基盤が弱い事業所にとって、基本報酬の減額は大きな打撃となっている。現場からは「国に見捨てられた」「田舎の訪問介護は限界に近い」との落胆や怒りの声が上がる。
 現状が続けば、必要なサービスを受けられない「介護難民」が増えかねない。ヘルパーの処遇改善が早急に求められる。地方の事業所の経営安定に向けた支援も要るのではないか。
 財源確保策を講じる必要もある。介護保険料の引き上げや税の利用といった負担の議論が避けられないだろう。介護保険制度の持続性を高めるよう、政府は粘り強く取り組まなければならない。
 きょうは「敬老の日」。超高齢社会を迎えた今、誰もが安心して暮らせる社会の実現が急がれる。

波平さん54歳(2024年9月16日『高知新聞』-「小社会」)
 
 漫画「サザエさん」一家のお父さん、磯野波平さんは54歳の設定だそうだ。あの風貌、振る舞い。もっと老人かと思っていた。いまのスター、歌手の福山雅治さんより年下だから驚く。
 連載初期の昭和20年代、企業は55歳定年制が主流だった。日本人男性の平均寿命もようやく60歳を超える時代。波平さんの描かれ方はなるほど、そうなるか。「今は年齢は7掛けだよ」。そんな先輩の言葉から、現代なら「波平の実年齢は77歳」と推計した本もある(近藤昇著「もし波平が77歳だったら?」)。
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 きょうは敬老の日。「ハルメク 生きかた上手研究所」の調べでは、初めてこの日を祝われたのは平均63・1歳。イメージする対象年齢は73・7歳で3年前よりも2、3歳上がったとか。これも昔と比べ高齢層が若々しい証左だろう。
 政府が、75歳以上で医療費窓口負担が3割となる人の対象を広げる方針を示した。「老後2千万円」だと騒がれたのは5年前。いまとこれからの高齢者の将来不安は増えていく。
 政府は同時に70歳まで働ける企業の割合を高めるという。若々しく、生きがいを求める人にはいい。ただ、高齢になると健康面や仕事への意欲は個人差が大きくなる。本人が柔軟に選択できる社会になっているのかどうか。
 福山さんと同世代の筆者も、いつの間にか波平さんの年齢を追い抜いた。よく老後を想像する。心身の若さはどちらに近いだろうと考えながら。

高齢者とスマホ 豊かな暮らしへの一助に(2024年9月16日『西日本新聞』-「社説」)
 
 年齢を重ねると最新機器が使えなかったり、慣れるのに時間がかかったりしがちだ。
 最近、無人レジを置くスーパーが増えた。タッチパネルを難なく使いこなす人もいれば、操作方法が分からずに困っている人も見かける。
 暮らしの中に急速に浸透しているデジタル化にも同じことが言える。利便性をもたらす半面、取り残されている高齢者が少なくない。
 象徴的なのはスマートフォンの普及だ。2021年の政府の世論調査で世代間の違いがくっきりと表れている。
 10代(18歳以上)から50代までは「ほとんど利用していない」「利用していない」の合計が10%に満たないのに、60代は25・7%、70代以上は57・8%に上る。
 指1本でさまざまな情報を入手し、ネット限定の割引商品やサービスを購入できる人とできない人の格差は、高齢者の中でも生じている。
 こうした格差を放っておくことはできない。今や公共サービスの分野にもデジタル技術が広がっているからだ。
 スマホは行政手続きや予防接種などに活用され、災害時に緊急情報を受け取る重要な機器になっている。QRコードから詳細な情報を読み取る場面も増えた。
 もちろん、スマホを使いたくない高齢者もいる。そうした人たちにも行政や防災の情報が届く仕組みをつくることを忘れてはならない。
 政府は民間企業などと連携し、21年度からスマホの使い方講習会を全国で開催している。5年間で受講者1千万人の目標を掲げたのに対し、昨年度までの3年間で約160万人にとどまる。
 使いたいのに使いこなせない高齢者への支援は継続すべきだ。民間の研究所は、習得の鍵は「繰り返しの実践」と指摘する。
 相談相手で最も頼りになるのは、子どもや孫といった家族だろう。ただ65歳以上は1人暮らしの割合が増え、2割を超えている。家族以外の助けも必要だ。
 地域コミュニティーの出番である。町内会やサークル、福祉事業所の人たちも、スマホで困っている高齢者がいたら声をかけてほしい。隣近所の高齢者同士で教え合うのもいい。
 そこから新たな結びつきができれば、孤立を防ぎ、いざというときの安心をもたらす効果も生まれるだろう。
 同じ趣味の人と情報交換したり、遠方に住む孫やひ孫と画面越しに会話をしたり、スマホで暮らしを豊かにする高齢者はますます増える。
 注意が必要なのは、実在する企業や行政機関、家族をかたり、スマホ接触してくる詐欺だ。高齢者が高額の被害に遭う事件が絶えない。家庭や講習会で、何度でも警戒を呼びかけてもらいたい。
 きょうは「敬老の日」。敬老会の会場で、あるいは家族や近所の人たちとスマホを話題にしてみませんか。