旧優生保護法訴訟 原告・弁護団と国が和解の合意書に調印(2024年9月13日『NHKニュース』)

優生保護法のもとで不妊手術を強制されたとして全国各地で続いている裁判の原告やその弁護団が、国が示した原告1人あたり1500万円の慰謝料の支払いで和解することなどを盛り込んだ合意書に調印しました。
これで一連の裁判は、国が過去の政策の過ちを認める形ですべて終結することになります。

合意書 原告1人あたり1500万円の慰謝料支払いなど 

優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判は、ことし7月、最高裁判所憲法違反だったとして国に賠償を命じる判決を言い渡したことをきっかけに、政府は和解に向けた交渉を行ってきました。

現在、全国9つの地裁や高裁で19人の裁判が続いていて、13日、加藤こども政策担当大臣と原告や弁護団の代表が出席して、こども家庭庁で裁判の和解のための合意書に調印しました。

合意書では、国による謝罪のほか、原告が手術を受けた本人のみの場合は1500万円、夫婦で原告になっている場合は本人に1300万円、配偶者に200万円の慰謝料を支払うことなどが盛り込まれています。

一方、全面解決に向けて弁護団が求めている差別のない社会の実現に向けた恒久対策や、国と弁護団などとの定期的な協議の場の設置などについては、今後も交渉を続けるとしています。

加藤大臣「政府の責任は極めて重大 心から謝罪 」 

調印した加藤大臣は「多くの方々が心身に多大な苦痛を受けてこられたことに対し、政府の責任は極めて重大なものがあり、改めて真摯(しんし)に反省するとともに心から謝罪を申し上げます。合意書を踏まえ原告の方々と迅速に和解手続きを進め、全件を速やかに終局させるべく、最大限努力してまいります」と述べました。

今回の調印により、6年あまり続いてきた一連の裁判は、国が過去の政策の過ちを認め、すべて終結することになります。

一方、原告側によると、差別を恐れて裁判などを起こすことができない被害者も数多くいるとみられ、そうした人たちへの補償の議論が国会で続いています。

官房長官「迅速に和解手続きを進めていく」

官房長官は、閣議のあとの記者会見で「きょうの調印式のあと、合意書に基づきすべての訴訟を速やかに終局させるため、迅速に和解手続きを進めていく。訴訟を起こしていない人たちも含め、幅広い方々を対象にした新たな補償についても超党派議員連盟や関係省庁との調整を加速化し全力を尽くすよう岸田総理大臣が担当する加藤大臣に指示しており、可能な限り早急に結論が得られるよう調整を進めている」と述べました。

<原告の声>

宮城 飯塚淳子さん「27年間求め続けてきた やっと実現」 

原告団の共同代表で、宮城県に住む飯塚淳子さん(仮名)は「和解に向けた合意が成立し、私が27年間求め続けてきたことがやっと実現しました。しかし傷つけられた体と優生手術によって狂わされた人生は戻ってきません。声を上げられずにいる被害者がたくさんいます。被害者はみな高齢です。私たちが生きているうちに障害のある人も当たり前に生きられる社会になるようお願いします」と述べました。

東京 北三郎さん「まだつらい思いをしている人たちがいる」 

勝訴判決が確定した原告の1人で、東京に住む北三郎さん(仮名・81)は「全国の裁判を解決するためにようやく合意をした。岸田総理大臣が謝罪しても、60年以上の苦しみや悲しみが消えることはなかった。私たちのほかにまだつらい思いをしている人たちがいるので、法律を作って救ってほしい」と話していました。

静岡 武藤千重子さん「ひとつの区切りがついた」

静岡県に住む武藤千重子さん(75)は、13日、東京高等裁判所で和解が成立したということで「これまでつらいこともたくさんあったが、ひとつの区切りがついたと思っている。優生保護法のことを忘れるわけではないが、これからは楽しいことをしていきたいと思う」と話していました。

宮城 佐藤路子さん「喜ばしいが不本意な部分も」

宮城県に住む佐藤由美さん(仮名60代)の義理の姉、佐藤路子さん(仮名60代)は「裁判を始めて長い期間が経ち、きょう和解合意がされたことに喜ばしいと思うが、不本意な部分もある。国は、優生思想がない社会に取り組むと話していたが、障害者やその家族の人権を守ることを強く考えてほしい」と話していました。

愛知 尾上敬子さん「声を上げられない人 まだいる」

愛知県に住む尾上敬子さん(74)は、手話通訳を介して「亡くなった6人の原告にもきょうの状況を見てほしかったが、国が遅かった。早く解決してほしかった。声を上げられない人はまだいると思うので、これを機会に声を上げてほしいし、これからよりよい社会をつくってほしい」と話していました。

同じく原告の1人で、夫の尾上一孝さん(77)は、手話通訳を介して「私たちは高齢なので、一刻も早く補償法を作ってほしい。秋の国会で満場一致で法案が可決されることを願う」と話していました。

新里宏二弁護士「合意書踏まえ具体的な事件の和解進める」 

弁護団で共同代表を務める新里宏二弁護士は「法律ができてから76年、やっとここまで来たという思いだ。国が被害を放置したことに対して、言いようのない怒りを持っているし、国は自分の過ちを司法でしか正せないのかと思うとやりきれない思いもあるが、1つの区切りではある。合意書を踏まえ、各地で具体的な事件の和解を進めていきたい。声を上げられない被害者の被害回復を進めていきたい」と話していました。

優生保護法めぐる裁判 原告の高齢化が課題

優生保護法をめぐっては、全国でこれまで39人が12の地方裁判所支部に訴えを起こしました。

ことし7月に最高裁判所が国に賠償を命じたことをきっかけに和解などが進んでいますが、現在も19人の裁判が続いています。

また、これまでに原告6人が死亡していて高齢化が課題となっています。

国の5年前の推計では、旧優生保護法に基づく不妊手術を受けた人のうち1万2000人が存命だとされていて、被害者の中には差別をおそれて今も声を上げられない人も多くいるとみられています。

超党派議員連盟の作業チーム 新たな補償の内容を検討 

優生保護法をめぐる超党派議員連盟の作業チームの会合で、不妊手術を強制された被害者本人に1500万円を支給するなどとする補償の案が示され、各党で検討を進めることになりました。

優生保護法憲法違反だったとする最高裁判所の判決を受け、超党派議員連盟の作業チームは新たな補償の内容について検討を進めていて、13日の会合では座長を務める立憲民主党の西村代表代行が補償の案を提示しました。

補償の案は、作業チームが原告の弁護団から聴き取りをした際に求められた内容に沿って、不妊手術を強制された被害者本人に1500万円、配偶者に500万円を支給するとしています。

また、中絶手術を受けさせられた人には、「一時金」の形で200万円を支給するとしています。

そして、各党で検討を進め、来週18日に再び作業チームの会合などを開くことになりました。

作業チームは、次の臨時国会に必要な法案を提出し成立を目指すことにしています。

作業チームの座長である立憲民主党の西村氏は、記者団に対し「これまでの作業チームの議論や、弁護団とも改めて話をしたうえで、できる限り要望に添った内容を提案した。精力的に議論を行っていく」と述べました。