アクロバットすぎる答弁に議会は騒然
数々の疑惑を受けても、あらゆる理屈を並べて切り抜けてきた兵庫県の斎藤元彦知事の前に暗雲が広がり始めた。9月6日、たかりやパワハラ、公金不正支出疑惑を調べる県議会調査委員会(百条委)で2度目の証人尋問に臨んだ斎藤知事は、神妙な表情で巧みに追及をかわした1週間前の第1回尋問と違い、常識はずれの高飛車な放言を連発。これで議会側の反感が沸騰し、9月19日から始まる議会での不信任案可決が一気に現実味を帯びてきた。
指摘通りすべての品が斎藤知事の手元か胃袋に…
百条委メンバーや傍聴者を怒らせたのは、タカリや贈答品の独り占めに関するアクロバティックな弁解だった。
百条委ではまず、約9700人の県の全職員をアンケートで挙げられた「知事がいただいていったモノ」に関し、本当にもらったのかどうか、品ごとに“罪状認否”が行われた。
ハンドメイドの椅子とサイドテーブル、姫路城のレゴブロック、スポーツシューズ、兵庫海苔、明石海苔、播州織りの浴衣、ジャケット、ネクタイ、スポーツウェア、バスケ・サッカー・ラグビー・バレーボールのユニフォーム、ロードバイク、ヘルメット、サングラス、サイクルウェア、牡蠣、ワイン、枝豆、カニ、日本酒、ネギ、タマネギ、バースデーケーキ、湯飲みセット、革ジャン……
やり取りはうんざりするほど長く続いたが、斎藤知事が「そんなものはもらっていない」と言ったものはない。
知事応接室に飾ってあるものや、今回の問題発覚後に相手方と「貸与契約書」を急ぎ作った上で返却したもの、返せと言われて応じたらしいものも含めると、これらすべての品が指摘通り斎藤知事の手元か胃袋に入っていたことを本人が確認した。
もらったものがどれだけあるのか、実はわかっていない。百条委の求めで秘書課が提出した贈答品リストには「137品」が記載されている。だがここには載っていない品も知事はゲットしている。
リストへの掲載基準を聞かれた知事は「物品性があるもので保存してるものは載ってるんだと思いますけど、例えば食べ物とか消費するもので、出先に行った時にもらって、それをいただいて家に直接持って帰ったりとかいうことは、生ものですから(載っていない)」というのだ。
県職員のアンケートでは「冬の但馬へ出張に行ったときカニをお土産に用意されたようだが、随行者が受け取りをお断りしたら、断った随行者の分も含めて、知事が独り占めして持って帰ったと聞いた」との回答があった。(♯12)
「知事に食べてほしいと持ってきていただいたもの」
知事は、先方が送ってくるものについても同じふるまいをしていたようだ。問題を受け人事課が行った調査に3人の秘書が答えた内容を、竹内英明県議が暴露した。
「3人はみな『(県庁に届く贈答品は)知事がすべて持ち帰る』と答えています。3人に直接、すべてですか?と確認すると『1回だけ、リンゴが分けられた』『ナッツ類など知事の口に合わないものだけは職員に配られる』という返事でした」(竹内県議)
これにムッとした斎藤知事が驚くような主張を始めた。
「事実ではないですね。私の口に合わない、合うとかではない。(知事)就任当初に、知事室に届けられるものがたくさんありました。これを(職員)みんなに配るってことが本当にいいのか。秘書課、特定の課の人だけが知事室に届いたものを食べるということが本当にいいのかどうか…」(斎藤知事)
「支離滅裂やん」という声が傍聴席から飛び、「それで自分だけ持って帰るんですか?」と竹内県議が突っ込むのにもひるまず、知事は言い切った。
「私がやっぱり持ち帰って食べさしていただくということがいいんじゃないかということでやらしていただいた」(斎藤知事)
要するに「事実ではない」と反論したのは、「自分の口に合わないものは持ち帰らない」というのではなく、「全部いただく」のがマイルールだと主張したわけだ。
県職員アンケートでは、井戸敏三・前知事はこうした県への贈り物を「みんなで食べや」と職員に分けていた、との指摘があった。県職員によると「県内の産品がどのような味なのか知っておかなければPRもできないではないか」との考えが井戸氏にはあったという。
こうした経緯を念頭に、全部独り占めするのは「(斎藤知事が掲げる)刷新どころか後退ではないのですか?」と庄本悦子議員も突っ込んだ。すると斎藤知事はこれにも次のようにすらすらと答え、傍聴席の怒りはさらに高まった。
「そこは逆に、私としてはルールというか、きちっと明確化したとうことです。毎回毎回届けられているものをなぜ秘書課の職員だけが食べれるんだという問題もあります。だから、基本的に知事に食べてほしいということで持ってきていただいたものを、私は、自分としていただくということを判断して(いただきました)」(斎藤知事)
あちこちの職場に順番に配れば問題にもならない話を、独り占めすることで解決したと言い立てる奇妙な主張に、庄本議員も「私は秘書課(に配れ)とは一言も言っていません」と怒りの表情を隠せない。
9月19日開会の県議会冒頭で不信任決議案…
だがこの日斎藤知事は、たかりとは比べ物にならない重い問題で一気に守勢に追い込まれ、口にした強弁が取り返しがつかないほど県議や世論の怒りを買うことになった。
今回の問題では、斎藤知事と側近らの不正疑惑を書いた告発文書をメディアや県警に送った元西播磨県民局長・Aさん(60)が、文書の作成・送付などを理由に懲戒処分を受けている。
斎藤知事の側近だった当時の片山安孝副知事(7月末に辞職)がAさんから取り上げたパソコンの中にあったプライベートなデータを、これも知事側近の井ノ本知明・総務部長(7月末から総務部付)が持ち歩いて県議に見せるなどしてAさんを追い込み、Aさんは7月に自死している。(♯7、♯14)
「Aさんは告発文書を郵送した時点から、公益通報者保護法によって保護されるべき存在でした。本人特定の調査や不利益を与えることをしてはならないのです。
しかし斎藤知事は、自身の疑惑が書かれた告発文書の内容を把握するやいなや激怒し、片山副知事らに発信者の特定を指示。県の公用メールの解析を端緒にAさんが発信人だと特定し、報復として懲戒処分にしました。Aさんの割り出しから処分まで、すべてが公益通報者保護法違反です」(フリーランス記者)
斎藤知事は「告発文書は証拠がないため真実相当性がなく、誹謗中傷性の高いものだ。このためAさんは公益通報者として保護される対象ではなく、調査や処分は適正だった」と主張してきた。
知事のたかりやパワハラ、公金不正支出疑惑など7項目の疑惑を書いたAさんの告発文書の中身は次々と事実だと判明しており、「真実相当性がない」との論理はほとんど崩れているが、それでも知事はこの主張を崩していない。
ところが百条委が9月6日、知事の尋問直前に参考人として招いた山口利昭弁護士が、知事が絶対に譲ろうとしないこの理屈を、完膚なきまでに叩き潰した。
山口弁護士によると、公益通報者保護法は2020年の改正で、告発内容に真実相当性があろうとなかろうと、告発者を保護する体制を事業者は整える義務を負うことになっている。兵庫県はこの義務を果たしておらず「違法状態」を続けていると指摘したのだ。
山口弁護士の解説を尋問で聞かされた斎藤知事はそれでも「法令上いろんな解釈があると思いますけど、われわれはあくまで、今回の外部通報は保護されるものではないと(考える)」と強弁。
松本裕一議員から「解釈ではない。県政トップとして道義的責任を感じないのか」と詰められると「道義的責任というものがどういうことかわからないので明確にコメントできません」と逆ギレし、背後の傍聴席から「部下を死なせといて」「人間じゃねえや」と罵声を浴びた。
「知事の2回目の尋問を見た県議会の空気は一気に硬化しました。議会の定数は86ですが、37議席の最大会派の自民党が知事に辞職要求をする方針を出し、第2会派で21議席の維新の会を除く全会派が同調する方向で9月7日までに協議を始めました。
最後まで知事を擁護した維新の態度は未定ですが、他の全会派と無所属の議員が辞職要求で足並みをそろえ、知事が応じなければ9月19日開会の県議会で10月3日に補正予算が通ればその日にも不信任決議案が可決される公算が高くなります。そうなれば知事は議会を解散するか失職するかのどちらかを選ばなければなりません」(地元記者)
次回の百条委開催予定は10月下旬で、議会が解散されれば百条委もいったんなくなり、次に構成される県議会で再び設置されるかは不透明だ。斎藤知事の将来と、実態解明の行方が、ともに不透明になった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班