9月12日に告示日が迫る自民党総裁選には、「ポスト岸田」を狙う候補者たちが続々と名乗りを上げ始めた。これまでに10人超が出馬への意欲を示すという異例の展開となっているが、前回(2021年)の総裁選で岸田文雄首相との「決選投票」まで駒を進めた河野太郎デジタル相(61)も出馬表明した。かつては「自民党の異端児」と呼ばれた河野氏だが、最近では、旧態依然とした自民党体制に“迎合”する姿勢も目立つ。3年前とは取り巻く環境も大きく変わった河野氏に勝機はあるのか。河野氏の地元・神奈川県平塚市で支援者や側近たちを取材した。
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河野氏が自民党総裁選に出馬するのは、今回が3回目となる。09年、21年にも挑戦し、いずれも敗北を喫した。前回の総裁選当時は、報道各社の世論調査でも「次の首相にふさわしい人」で1位を獲得するほど支持されていた河野氏だったが、今回、その期待は下降気味だ。
日本テレビが党員、党友を対象に独自に行った電話調査(9月5日公表)によれば、1位(支持率28%)が石破茂元防衛相、2位(同18%)が小泉進次郎元環境相、3位(同17%)が高市早苗経済安全保障相となっており、河野氏は大きく水を開けられ、青山繁晴参院議員と並ぶ7位(同3%)だった。
最近では、持ち前の“突破力”も影を潜めつつある河野氏。持論だった脱原発は封印し、自民党の裏金問題への対応には甘さもみられる。後ろ盾となる麻生太郎副総裁への“迎合”とも取れる姿勢も目につくこともあり、かつての勢いは感じられない。
こうした現状を地元の支援者はどう見ているのか。平塚商工会議所の常盤卓嗣会頭はこう話す。
「世論調査の結果ばかりが全てだとは思いません。河野さんからは2~3日前に電話をいただき、『総裁選に立候補しますので、よろしくお願いします』と言われました。私は自民党員ですから総裁選にも投票できます。私からは『とにかく頑張ってやってください。応援しますから、できることがあったら言ってください』と伝えました」
■首相になっても「ブロックする」と宣言
今回の総裁選は10人超が出馬に意欲を示しており、これまでの自民党総裁選史上最多の候補者数となるのは確実な乱戦模様だ。河野陣営の関係者はこう話す。
「仮に10人が出馬したとすると、それぞれ20人の推薦人が必要なので、それだけで自民党国会議員367人のうち200人分の票が割れることになる。全国の党員・党友の票は国会議員と同数の367票ですので、まずは党員・党友票を確実に取ることがカギになってきます」
自民党には党員が全国に100万人超いる。河野陣営は、前回の総裁選では手分けして、全国の党員・党友に電話作戦を実行した。
「前回は名簿をもとに、1人で500件くらい電話をかけました。他の支援者にもお願いしてかけています。ただ、とにかく労力がかかるし、到底間に合わないので、途中からは自動音声をやりだしたんです。電話を入れさせていただいた時の評価は高かったので、それが党員、党友の票につながったのではないか。同時に、政策をまとめた文書も郵送しました」(同)
ただ、自民党の総裁選挙管理委員会(逢沢一郎委員長)は「お金のかからない選挙」にするために、今回の総裁選は「自動音声」での電話作戦や政策パンフレットなどの文書郵送も認めない方針を3日に発表した。これについて、河野陣営関係者は「まだ細かな取り決めは下りてきていないので何とも言えませんが……もちろん、方針にのっとっていきたいと思います」と頭を悩ませている。
河野氏と言えば、SNSでの発信力を自負する反面、特定の人からのアクセスを制限する「ブロック機能」を多用することでも知られる。これには、国民の意見を広く聞くべき立場にある政治家が、反対意見を表明した人を「ブロック」するのはおかしいのでは、とたびたび批判されてきた。だが、河野氏は出馬表明後の報道番組で「何らかの誹謗(ひぼう)中傷を止めないといけない。1つは法的な手段に訴えること。もう1つ簡単にできるのはブロックすること」「SNS上で誹謗中傷されたらブロックすることをお勧めしたい。ブロックしたことを『何だ』といって批判をするのはおかしいと声を大にして申し上げたい」と改めて主張した。
■側近が語る「負けず嫌い」な性格
「河野さんはよくエゴサーチをするんだよね。私は河野さんのXの投稿にいつも『いいね』しか押さないから、河野さんから『たまにはリポスト(拡散)してよ』と言われます。常にiPhoneで投稿を見ていて、私のもチェックしているんですよ(笑)。そういうなかで、ほっとけばいいと思うんだけど、自分が批判されたり、誹謗中傷されたりしているコメントも真面目に読んじゃう。反対意見だけじゃなくて、誹謗中傷もたくさん来るみたいなんですよ。それにいちいち訴訟なんて起こしていられないから、カッとなって熱量を使うよりも、見たくないものはブロックするということなんだろうと思います。私はその気持ちはわかりますね」
河野氏の“排他的”な態度は、18年の外務大臣時代にも物議をかもした。会見で記者から出た質問にひと言も答えず、「次の質問どうぞ」を連発。記者から「なんで『次の質問どうぞ』と言うのですか?」という質問をされても、河野氏は「次の質問どうぞ」と返し、一度も質問に答えなかった。片倉氏はその時の対応についてこう振り返る。
「あの時は日露の平和条約交渉の大事な局面で、オープンにはできない交渉ごとだったので何も話せなかったようです。河野さんは負けず嫌いなところがあって、それが記者とのやりとりでも出てしまったんじゃないかと思います」
負けず嫌いなところは、地元でも垣間見られるという。
「今年の夏、河野さんは毎週、土日は地元に帰ってきました。盆踊り、夏祭りを1日10カ所くらい、一緒に車で回りましたよ。お祭りでは射的もやったんですが、河野さんは勝つとうれしそうでね(笑)。かき氷も食べて楽しそうにしていました」(片倉氏)
■小泉進次郎氏とは「引き分け」
その2人は7月28日、平塚名産の「弦斎カレーパン」を販売する高久製パンの創業100周年記念イベントで顔を合わせていた。
「ゲストに小泉さんと河野さんが来て、『よこすか海軍カレーパン』と『弦斎カレーパン』の食べ較べをしました。結果は“両者引き分け”でした。河野さんと小泉さんは仲がいいようで、このイベントの前、河野さんが小泉さんに電話をかけて本当に来場するのか確認したと聞きました」
パンの食べ比べでは“引き分け”で終わったが、総裁選では確実に決着がつく。
河野氏は公約として掲げた「年末調整の廃止」も批判が強い。逆風を跳ねのける“突破力”を再び発揮できるか。選挙期間中に行われる「討論会」で真価が問われそうだ。
(AERA dot.編集部・上田耕司)