兵庫県議会の百条委員会は5日、斎藤元彦知事に関する内部告発への県の対応を検証するため、公益通報に詳しい奥山俊宏・上智大教授に参考人として見解を聞いた。奥山教授は、県が告発を公益通報として扱わずに告発者を懲戒処分としたことは、公益通報者保護法に違反するとの見方を示した。一方、斎藤知事はこの日も「対応は問題なかった」と述べた。
「文書の送付を理由とした圧迫的な聴取、解職、懲戒処分……。全て、保護法に違反する」。奥山教授はこの日午前の百条委で、県の対応の違法性を説明した。
前県西播磨県民局長の男性職員(7月に死亡)は3月中旬、一部の報道機関などに、斎藤知事に関する7項目の疑惑を指摘した告発文書を送付した。
奥山教授が指摘する一つ目のポイントは、斎藤知事が文書の内容を把握した直後に告発者捜しを指示したことだ。3月25日には、当時副知事だった片山安孝氏が男性職員を聴取。男性職員の公用パソコンから告発文書のデータが見つかったことなどから、県は同27日に男性職員を県民局長から解任した。
公益通報者保護法では「事実と信じるに足りる相当の理由」などがある場合、報道機関などへの「外部通報」も保護の対象となる。同法の指針では、県に告発者捜しの防止などの体制整備が義務づけられており、奥山教授は「知事が先頭に立って義務に違反する行動をとった」と批判した。
斎藤知事が3月27日の記者会見で「業務時間中に『うそ八百』を含め、文書を作って流す行為は公務員として失格」と述べたことについては、「権力者が部下の一個人に、公開ハラスメントに及ぶのは許されない」と指摘した。
二つ目のポイントは、男性職員が4月4日に県の公益通報制度を利用して同じ内容を通報したにもかかわらず、県は制度に基づく調査結果を待たず、5月7日に「(文書は)核心的な部分が事実ではない」とし、男性職員を停職3か月の懲戒処分としたことだ。
奥山教授は「5月の段階で公益通報に当たらないと判断したのは拙速に過ぎた」と説明。疑惑を指摘された知事や県幹部が主導して内部調査を行い、処分したことについて、「まるで独裁者が反対者を粛清するかのような構図だ」と語った。
知事「県の対応は問題なかったと思っている」
一方、この日午後に行われた百条委の証人尋問では、懲戒処分について人事当局に助言した藤原正広弁護士が出頭し、処分は問題ないとの見解を示した。
これまでの証人尋問では、人事当局が「懲戒処分は公益通報に基づく調査結果を待たなければならない」との見解を示したにもかかわらず、斎藤知事が4月中旬に早期の処分を検討するよう指示したことが判明。この際、藤原氏が処分について「法的には可能」との見解を示した。告発文書については、県への弁護士意見の中で「居酒屋などで聞いた単なるうわさ話を信じて作成した」としていた。
この日の証人尋問では、「お酒を飲みながら、ということになれば、そこに真実性が担保されているか、疑問を抱かざるを得ない」と発言。「文書の内容だけを見れば、真実相当性は否定されると判断している。(告発者への)不利益な扱いは禁止されず、処分は可能」と述べた。
この日夕に証人尋問に出頭する予定だった井ノ本知明・前総務部長は、体調不良などを理由に欠席。井ノ本氏は、県の告発文書の内部調査の責任者だった。
百条委は6日、公益通報への対応などについて、斎藤知事と片山氏への証人尋問を公開で行う。斎藤知事は5日午後、神戸市内で記者団に「私なりの考えをしっかりと伝えていきたい。県の対応は問題なかったと思っている」と述べた。
斎藤知事がパワハラなどの疑惑を内部告発された問題を巡り、兵庫県の公益通報への対応などについての証人尋問が行われた5日の県議会百条委員会後、報道陣の取材に応じた奥谷謙一委員長は「県は告発者を守る手続きをしっかり取るべきだった」と述べた。
この日の百条委では、公益通報制度に詳しい上智大の奥山俊宏教授が参考人として出席し、告発文書を作成した前県西播磨県民局長の男性職員(7月に死亡)に対する県の対応は不適切だったと指摘。一方、県の内部調査に助言した藤原正広弁護士は「問題はなかった」との見解を示した。
奥谷委員長は「証人尋問で出た事実を踏まえて我々としての見解をしっかりと出したいと思う」と語った上で、藤原弁護士の見解について、「個人的な見解を言えば、前県民局長に直接話を聞いたり、詳細に問題の事情を調べたりしたことを踏まえたものだとは思えなかった」と話した。
県の内部調査の客観性に関し、藤原弁護士は「裁判所に是認されるかどうかという観点で客観性はあり、調査に問題はない」と証言。奥谷委員長は内部調査は人事課によって行われており、「弁護士と我々が思っている客観性は違う。我々が求めているのは、知事や副知事、幹部の疑惑が書かれている中で、部下が調査するのはできないでしょうということ」との認識を示した。
百条委終了後、報道陣の取材に応じた奥谷委員長(県庁で)
一方、企業からコーヒーメーカーを受け取った原田剛治・産業労働部長が経緯などを証言し、改めて知事の関与を否定。奥谷委員長は「説明には不自然なところもあり、部長の証言の評価は差し控えたいと考えている」と話すにとどめた。
また、井ノ本知明・前総務部長が体調不良などを理由に百条委を欠席したことについて、「いろいろ事情があると思うのでしかたがない。早く良くなって出てきてほしい」と話した。
6日は、斎藤知事と片山安孝前副知事への証人尋問が予定されている。奥谷委員長は「文書の存在を把握してから、男性を懲戒処分するに至るまでの事実関係を、時間が許す限り確認したい」と力を込めた。
片山安孝・前副知事
県が作成した聴取記録によると、聴取は3月25日に約45分間、実施された。片山氏は、男性職員のパソコンに告発文と一致する文書が見つかったとして、作成に協力した職員の名前を明かすよう求めた。男性職員が作成を否定すると、「ほんまに作った覚えはないと言い張るんか」などと詰問。
1年分のメールの送受信記録を調べたことを伝え、「メールの中で名前(が)出てきた者は、在職しとるいうことだけ忘れんとってくれよな」「皆、嫌疑をかけてやる」と述べた。男性職員の懲戒処分に向け、3月末の退職を取り消す方針も伝えた。男性職員はその後、人事当局に告発文書の作成を認めた。