知事選の出陣式で支持を訴える斎藤元彦氏(2021年7月1日)
パワハラや「おねだり」など数々の疑惑が指摘されている兵庫県の斎藤元彦知事。斎藤氏が初当選した3年前の知事選では、維新とともに自民党も斎藤氏を推薦し、自民党の国会議員らが熱心に応援に駆け付けた。だが今や、応援した議員、とくに総裁選に立候補する人たちにとっては、斎藤知事を応援したことは消したい過去になっている。
■斎藤知事と高市氏が並ぶ動画
「記者会見で突っ込まれそうで嫌だな」
こう苦々しげに話すのは、自民党の総裁選で高市早苗経済安保相の支援を予定しているA議員。手にするスマートフォンの画面には、知事選候補だった斎藤氏と高市氏が並ぶ動画が映し出されていた。斎藤氏を応援する「さいとう元彦サポーターチーム」が、知事選があった2021年7月に投稿したものだ。
動画では、高市氏が、
「斎藤、頑張れ! 勝つぞ!」
とこぶしを上げて応援。
〈さいとう事務所スタッフです。選挙戦10日目、7/10のダイジェストです。西村康稔大臣・高市早苗前総務大臣が応援に駆け付けてくれました。「さいとう頑張れ!」「期日前で投票してきた!」という応援の声をたくさん頂きました〉
という文章が添えられている。
A議員は、このことが総裁選に影響しないかと懸念する。
「箕面市長選のこともある。嫌な感じがする」
■維新の市長選惨敗は「斎藤知事の影響」
「市民から『維新を応援しているんだけど、斎藤さん、おかしいんじゃないか』と言われました」
と、維新が疑惑の斎藤知事を推薦し、県議会でも知事与党として擁護にまわっていることが選挙へ影響があったとの見解を示した。
■河野氏も斎藤氏応援でガッツポーズ
動画では河野氏が、
「斎藤元彦候補、頑張ってください」
とガッツポーズをする姿が映し出される。
「なんとか、斎藤知事の応援動画、消せないもんでしょうかね。マイナスにしかなりませんよね。総裁選では全国遊説があります。兵庫県やお隣、大阪あたりで遊説があると、『斎藤知事はどないなってるねん』と厳しく突っ込まれそうだ。党員票に影響する。斎藤知事は本当に困ったもんだ」
先のA議員は総裁選だけでなく、新しい総裁が決まった後の解散総選挙も懸念する。
「斎藤知事の悪名は、全国区になっている。総裁選やその後の総選挙を前に、斎藤知事の疑惑に決着をつけてほしい。要は早く辞職してほしい」
■自民党の大臣経験者が次々応援
維新にとって斎藤氏は大阪府以外で初めて推薦して当選させた知事だ。選挙中は吉村知事が何度も応援に入り、当選後は大阪・関西万博の目玉である「空飛ぶクルマ」を推進するなど、斎藤氏は「維新の知事」のイメージが強い。
だが、「さいとう元彦サポーターチーム」のSNSを見ると、多数の自民党国会議員が斎藤氏を応援していたことがわかる。兵庫県が地盤の渡海紀三朗政調会長や盛山正仁文科相、末松信介元文科相、西村康稔元経産相。地元以外なら、丸川珠代元五輪相、下村博文元文科相らの姿がある。西村氏、下村氏、末松氏、丸川氏と、「裏金」問題で党から処分された安倍派議員が多いのは偶然か。
■斎藤知事の選挙資金は自民が丸抱え
また、応援に入っただけでなく、斎藤氏の政治団体「さいとう元彦後援会」の21年の政治資金収支報告書を見ると、自民党が丸抱えで知事選を支援したことがよくわかる。寄付者にはずらりと自民党の国会議員が名を連ねているのだ。
渡海氏は政党支部から100万円、松本剛明総務相は政党支部と個人で130万円、山口壮元環境相は100万円など、兵庫県連の2000万円や県議、市議などをあわせると、自民党関連で4040万円もの巨額の寄附が確認できる。
ちなみに、維新側からの寄附は約302万円と自民党の10分の1にも満たなかった。
■1200円でポスター張りした文科大臣
上脇博之神戸学院大学教授は、斎藤知事の選挙運動について、2022年9月に刑事告発をしている。斎藤知事が14人の選挙運動員に対し、「労務者報酬」名目で報酬として合計10万2000円の金銭を供与したことが、公職選挙法の買収罪にあたるという内容だった。金銭を受け取った14人の中には、兵庫1区選出の盛山文科相の名前もある。
斎藤氏の選挙運動費用収支報告書を見ると、上脇教授が指摘する支出が確認でき、盛山氏は1200円を受領していると報告書に記載がある。
斎藤氏の選挙中、盛山氏は自身のブログに、
〈さいとう元彦候補のポスター貼りを頑張っています〉
と投稿している。
地元の盛山氏の後援会幹部に聞くと、
「ポスター貼って1200円もらっているのか。大臣ともあろうものがセコすぎる」
と呆れた表情だった。
上脇教授はこう話す。
「刑事告発は残念ながら不起訴となりました。労務者報酬の労務とは、選挙のポスター貼りだと思われます。支出を受けた者の中には、盛山氏はじめ県議や市議がポスター貼りでカネをもらっていることは、選挙運動無報酬の原則から逸脱した支出。一連の告発文書の問題も報道で知っていますが、斎藤知事が法を無視した選挙戦を展開していたと感じます」
■「自民党の言うことばかり聞けない」
21年の兵庫知事選では、井戸敏三前知事が退任を表明し、県議会の自民党会派は当時の副知事への立候補要請を決めた。ところが一部の県議が会派を離脱して、維新が推す斎藤氏の支援を決める。当時の菅義偉首相が維新と関係が深かったこともあり、自民党は元副知事から乗り換えて斎藤氏を推薦。だが、一部の自民県議は元副知事を支援し続け、自民分裂の選挙となった。
「斎藤知事は自民党から何か指摘や指示があるたびに『維新の推薦も受けているので自民党の言うことばかりは聞けない』と反論することがあった。渡海氏や山口氏は分裂選挙という危機感もあって、『斎藤、何を言うてんや。どれだけ選挙にカネがかかっているのかわかっているのか』と斎藤知事を怒鳴りつけ、周囲が凍り付いたこともある。2人は大臣経験者で地元ではお偉い大先生です。それでも斎藤知事は自説を曲げずに険悪になっていた」
そして、C県議はこう続ける。
「本来、カネを出して当選させた自民党が強硬に斎藤知事に言えば辞職させられるはず。だが、言ったところで斎藤知事が『維新の推薦』を持ち出し、粘るのは目に見えている。辞任を迫ったはいいが斎藤知事に突っぱねられたら格好悪いでしょう。だから、動けない」
(AERA dot.編集部・今西憲之)