「ぐんまちゃん家」銀座撤収巡る週刊誌記事が思わぬ余波 山本一太知事「極めて不愉快」(2024年9月5日『産経新聞』)

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週刊誌報道に触れつつカスハラ防止条例の早期制定を訴える群馬県山本一太知事=8月22日、県庁(風間正人撮影)
昨年4月に東京・銀座から撤退した群馬県のアンテナショップ「ぐんまちゃん家(ち)」をめぐり、委託運営していた業者と県との契約打ち切り協議を再録した週刊誌の記事が思わぬハレーションを招いている。山本一太知事は8月22日の定例会見で取材を受けたことを認め、「事実関係はおおむね間違っていない」としたが、記事に描かれた交渉の詳細を改めて調べたところ、度を越した相手方の激高ぶりを確認し、「職員へのカスタマーハラスメントにあたるのでは」と防止条例制定を急ぐ考えを表明、大沢正明前知事への反発も露にした。
道の駅川場の社長と交渉
記事は週刊現代8月24・31日合併号のノンフィクション作家、森功氏による「山本一太群馬県知事が群馬のドンと大バトル」。業務委託したのは同県川場村の「田園プラザ川場」。交渉相手は道の駅川場を日本一に押し上げた社長の永井彰一氏だった。
開業から10年の平成30年、銀座歌舞伎座前の一等地から奥まった銀座7丁目に移転したのを機に契約を結んだが、来店者は落ち込み山本知事就任後、審議の末、撤収方針が固まった。
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平成30年6月、銀座7丁目に移転した「ぐんまちゃん家」新店舗。大勢のファンが駆け付けたが、客足は遠のき閉店した
記事は、その後の県側と永井氏との交渉が中心。県側は契約期間5年を終えた満期での解消としているのに対し、永井氏は前知事との間で「少なくとも10年は営業すると思っていた」。県側は撤退での原状回復費5000万円を提示し、永井氏は保証金1億3000万円を要求。無理なら移転後、施設2階に開業した日本料理店を県が事業委託するよう求めた。
県によると、双方の言い分はその通りだが、原状回復は結局、県自らが行って5000万円を支払い契約は終了した。その後、2階の料理店は今も田園プラザ側が営業を続け、双方の話し合いもないという。
実は、この料理店が自民党の重鎮たちが通う社交場となっていて、記事では県政界も含めた波乱の震源地のように扱われ、6月に起きた副知事の再任問題の遠因として描かれている。
「極めて不愉快」3回も
記事について山本知事は「ぐんまちゃん家についてというので取材に応じた」が、「こういう記事になると思っていなかった。驚いた」。事実関係では一点、末尾に知事の言葉で「群馬県には利権構造が残っていて、長老県議たちと結びついている」と報じているが、「そんなことは言っていない。訂正を求めた」。
さらに音声記録に基づいた交渉の記述が「激高して机をたたくとか、怒鳴るとか非常に生々しい」ので、当時の担当者に聞いたところ、「ものすごく驚いて、恐怖を感じた」と答えた。
「県職員も完璧じゃないが今回は知事の方針を受けた交渉。そこで怒鳴られ、机をたたかれ、恐怖を感じた。あってはならないことで極めて不愉快だ」。よほど腹に据えかねたのか会見中、山本知事は「極めて不愉快」を3回繰り返した。
そして「これこそ、カスタマーハラスメントでしょう」。顧客や取引先の脅迫・暴言・不当な要求などの迷惑行為を防止する条例を求める要請書が5月、県に出されたが、「これを機に条例化を本気で考えたい。県議会にもお伝えして、加速させたい」と語った。
前知事は「永井氏にすまない」
また「少なくとも10年」「できれば長く続けてほしいと(県側に)言われた」という永井氏側の主張には「そんな文章は一切残っていないし、当時の担当者も聞いていない」。
記事では「もう少しやり方があったんじゃないか、と(永井氏に)すまない思いはしてます」という大沢前知事の言葉が掲載されているが、山本知事は「大沢さんに恨みはないが、そこまで言うなら、聞きたい。あなたは10年やってもいいと口約束したのですか 末永くやってほしいと言ったんですか、と」。「人間の言葉は重いから、そこは、はっきりさせてほしい」
いくつかハレーションを招いた週刊誌記事に県の担当者は「裁判も話し合いもない今、なぜ、こんな記事が出るのか」といぶかしがる。記事では、交渉を担当した宇留賀敬一副知事が敵視された挙げ句、巡り巡って自民党ベテラン県議らの反発につながり、再任問題を招いたとの見立てを示している。ただ、この問題も決着しており、山本知事は記事の中でも、会見でも、踏み込んで語ることはなかった。(風間正人)