「愛子天皇」を実現するのは石破氏か、河野氏か、進次郎氏か…置き去りにされた「自民党総裁選」の重要な争点(2024年9月3日『プレジデントオンライン』)

自民党福島県連との政治刷新車座対話であいさつする岸田文雄首相(中央)=2024年8月24日午後、同県いわき市 - 写真=時事通信フォト
■「次期総裁にふさわしい」1位は石破氏と進次郎氏だが…
 “戦国”“群雄割拠”総裁選などという見方もあるようだが、実態はビジョンも魅力もない者同士の“ドングリの背比べ”総裁選である。
 顔触れは、小林鷹之氏(49)、石破茂氏(67)、高市早苗氏(63)、小泉進次郎氏(43)、齋藤健氏(65)、上川陽子氏(71)、林芳正氏(63)、加藤勝信氏(68)、河野太郎氏(61)、茂木敏充氏(68)の10人。
 野田聖子氏も出馬を模索しているようだが、推薦人20人の確保が難しいのではないか。
朝日新聞デジタル(8月26日)が「次期自民総裁にふさわしいのは誰か」という世論調査をやっている。
 「石破茂元幹事長と小泉進次郎環境相が21%で並び、トップだった。石破、小泉両氏に続いたのは、高市早苗経済安全保障相8%、上川陽子外相6%、河野太郎デジタル相6%、小林鷹之前経済安保相5%だった。茂木敏充幹事長は2%、加藤勝信官房長官野田聖子総務相林芳正官房長官は各1%、斎藤健経済産業相0%。『この中にはいない』が22%を占めた。
 自民支持層でみると、トップは小泉氏28%で、石破氏23%、高市氏12%、河野氏8%、上川氏7%、小林氏5%などと続いた」
 他紙もおおむね同じような結果である。
■“キングメーカー”麻生氏はどう動くのか
 要職を歴任したという意味では外務大臣文部科学大臣防衛大臣を歴任し、現在は官房長官林芳正氏がナンバー1であろうか。
 内閣官房長官、沖縄基地負担軽減担当大臣、拉致問題担当大臣厚生労働大臣を歴任してきた加藤勝信氏、経済産業大臣外務大臣、経済再生担当大臣を歴任し、現在自民党幹事長の要職にある茂木敏充氏も引けを取らないと思うのだが、なぜかこの人たちに対する有権者たちの認知度も期待値も低いようだ。
 『週刊新潮』(8月29日号)は茂木氏についてこう書いている。
 8月14日、茂木氏は麻生太郎副総裁と食事をして、総裁選での支持を求めたのに対し、「ウチの派閥には河野がいるから難しい」と断られたというのだ。その後、旧自派閥から加藤氏が総裁選に出ることがわかり、「四面楚歌の状態に陥っている」(新潮)というのである。
 だが、その後、麻生氏は自派の河野氏を支持するが、派閥内の議員が他候補の支援をすることは容認するといっている。これは、最後まで総裁選の行方を見ながら、勝てそうな候補に乗って、自分の権勢を保持したいという思惑からであろう。政界を長年生き抜いてきた“狸ジジイ”は、実にしたたかである。
■決選投票になれば進次郎氏が圧勝する?
 石破氏も防衛大臣、農水大臣、自民党幹事長を歴任してきたから、経歴は申し分ない。それに、過去に安倍晋三氏、菅義偉氏、岸田文雄氏と総裁選を戦った“実績”と、3政権とは距離をおき、時には辛口の批判を口にしてきたことが、「これまでと違う人」を求めている有権者たちに支持されているのであろう。
 小泉氏は環境大臣しか経験していない。だが、有権者の中には彼の若さと弁舌の爽やかさに期待する声が多いようである。
 総裁選後の10月にもあるといわれる解散・総選挙の“顔”として、自民党内からも期待する声は少なくないようだ。
 9月27日に行われる総裁選は、1回目は議員票(367票)と党員票(同)で行われ、過半数をとる候補者がいなかった場合は、1位と2位の候補への議員票と都道府県連票(47票)で決まる。
 もし、小泉氏が2位までに入れば、決選投票では議員票の多くが彼に流れ、圧勝まであるのではないかと、私は思っている。
 この稿では、有権者の期待値の高い上位6人について、週刊誌を含めた雑誌報道をもとに“素顔”を点検してみたい。
■リベラル弁護士の妻をもつ保守派の小林氏
 まず、“コバホーク”こと小林鷹之氏。東大卒で財務省入省。186cmの長身でイケメン。元東大ボート部主将で、経済安保や宇宙政策の第一人者だという。
 かっこよさでは進次郎氏にも引けを取らない。彼のライバルになると見られているようだ。
 『週刊文春』(8月29日号)によれば、小林氏はリベラル派かと思ったが、「骨太の保守政治家に憧れがあるようで、地元の会合では、『教育勅語は今の日本には必要だ』とも発言しています」(地元関係者)
 そんな“保守”の夫を支えるのが、妻の秋津氏だが、彼女は東大法学部で小林と同級生で、12年ほど交際して2006年に結婚したという。
 絵にかいたエリート夫妻のようだが、彼女は弁護士で、しかも、「弁護士の中でも、かなりリベラルなのです。東大では、電通過労死事件などを担当した人権派弁護士の川人博氏のゼミに所属。本人は子どもの権利擁護が専門で、二三年五月には立憲民主党の法務部会で講師を務めていた。
 所属先は、小林元治日弁連元会長の事務所。日弁連会長と言えば、宇都宮健児氏を筆頭に共産党との距離の近さが指摘される人物が多く担ってきました」(法曹関係者)
 資金面は潤沢で、約2億円の収入があるというのだが、映画『ブラックホーク・ダウン』のように「コバホーク・ダウン」があるとすれば、リベラル妻ということになるのかもしれない。
 進次郎氏同様、大臣経験も経済安全保障相だけというのでは、10年早いといわざるを得ないようだ。
河野氏は突破力だけはトップクラスだが…
 上川陽子氏は現職の外務大臣。だが、文春も新潮も彼女のことは無視している。
 麻生氏が上川氏の容姿について「おばさん」「そんな美しい方とは言わない」と暴言を吐いたことで、一躍名前を知られたが、法相や外相として顕著な実績があるわけではない。「初の女性総理」を目指すだけでは、出馬したとしても“壁の花”でしかないというのであろう。
 永田町の“変人”と称される河野氏はどうだろう。
 祖父は“元祖豪腕”といわれた河野一郎氏。父は河野洋平自民党総裁。ともに総理になってもよかったが、一郎氏は副総理、洋平氏は総裁にはなったが、総理にはなれなかった。総裁で総理になれなかった政治家は他には谷垣禎一氏だけである。
 河野家にとって総理を出すことが悲願であるはずだ。河野太郎氏はそれを叶えられるのだろうか。
 政治家としての力量や突破力は党内でも1、2を争う。だが、マイナカードの拙速な普及に見られるように、独断専行型で、しばしば彼の発言が物議を巻き起こす。群れを成すことが嫌いな一匹狼で、彼の所属している派閥でさえ、河野支持でまとまらないように、父親の洋平氏とは違って“人望”に欠けるところが大いにある。
 さらに、「河野さんは党内では異色の“脱原発派”でしたが、7月31日には茨城・東海村原発施設を視察し、『電力需要の急増に対応するため、原発の再稼働を含めて技術を活用する必要がある』などと発言しました」(全国紙デスク=新潮)
■ダークホースは「初の女性総理」候補
 総裁になるためには持論を曲げてもというのでは、河野太郎氏の存在理由がなくなるのではないか。
 立候補表明後に、派閥の裏金事件について、「(政治資金収支報告書への)不記載金額の返還で、けじめとして前へ進みたい」と語ったという。その意気やよしだが、どこの誰にどういう形で返金するのかについても具体的に話さないのでは、党内から不満が噴き出すのも無理はない。
 河野家の悲願は、二度あることは三度ある、風前の灯火と見た。
 高市早苗氏を私は、ひょっとするとひょっとするのではないかと見ている。なぜなら、彼女は安倍晋三氏の“理念”を引き継いでいる、由緒正しいウルトラ保守だからだ。しかも弁舌巧みで、ユーモアもあり、人をひき付ける魅力もある。
 前回の総裁選に初出馬して、安倍氏の後ろ盾があったにしても、見事、議員票では河野氏を抜いて2位になっている。
 もし今回、第1回投票で石破氏1位、高市氏が2位になれば、決選投票では、保守派の議員票が彼女に集まり、初の女性総理誕生となる可能性は、かなりあると思っているのだが。
■進次郎氏のアキレス腱は「女性問題」
 では、国民的人気が高い小泉進次郎氏は、総理の器に相応しい人物なのだろうか。
 父親の純一郎元総理は規制緩和して非正規社員を激増させるなど、評価は散々だが、ワンフレーズポリティクスといって威勢のいいキャッチーなひと言を巧みに使って大衆人気はあった。
 しかし、その息子で、何の実績もないが若いというだけで、彼が総理に相応しいと、どうしていえるのだろうか。
 菅義偉元総理が後ろ盾というのも強みだと思われているようだが、菅氏はボロボロになってたった一期で総理の座を降ろされたことを忘れてはいけない。
 文春は、進次郎氏の最大のアキレス腱は「女性問題」だと突っ込む。
 「小誌はこれまで進次郎氏の様々な問題を報じてきたが、その最たるものが女性問題だ。元復興庁職員とのホテル密会や女子アナとの二股疑惑など、華麗なる女性遍歴から、“永田町のドン・ファン”とも称されるが、なかでも問題視されているのが人妻実業家A子さんとの不倫関係である」
■ホテル代を政治資金から支出したという疑惑
 「若手起業家の会合で知り合った進次郎氏とA子さんは、二〇一五年頃から交際関係が始まった。(中略)
 小誌は出張先で落ち合う二人の赤裸々なメールのやりとり等を入手し、その関係を詳報した(二〇年一月二・九日号など)」(文春)
 この問題はこれだけでは終わらなかったようだ。
 A子さんの夫は早い段階で妻の浮気を周囲に相談していた。進次郎にのめり込んだA子さんは夫に離婚を切り出し、子どもを連れて出て行って、その後離婚したというのだ。
 さらに文春は、A子さんとの逢瀬で利用した軽井沢プリンスホテルの宿泊代金約10万円を、政治資金から支出していたことも掴んでいたのだ。
 さらに妻・滝川クリステルさんと進次郎氏との共通の友人は、不気味なことを話している。
 「これまで数々の浮名を流してきた進次郎さんですが、まだ表沙汰になっていない女性問題があると根強く囁かれている。それをどこかのメディアに報じられて姐さん女房のクリステルさんに露見することを何よりも恐れているのです」
 最初の就任会見で、女性問題について釈明する史上初の総裁になるのか? 見ものではあるが。
■「総理に一番近い」石破氏は安倍氏以上に過激
 最後に、今回の総裁選で、「総裁・総理に一番近い」といわれている石破茂氏はどうだろう。
 石破氏の弱点は人望がないこと、それに尽きる。新潮は、7月1日に赤坂のホテルで行われた、菅氏と武田良太総務相との会食を例に出す。
 石破氏が総裁選に出るので頭を下げに来たと思ったら、石破氏は昔話を語るだけで、下戸の菅氏はただ聞いているだけだったという。
 その会は石破側から持ちかけたのにもかかわらず、店選びから支払いまで菅氏がしたそうだ。これでは人脈などできるはずはない。
 党員票はそこそこ入るだろうが、決選投票では議員票が入らないという可能性大である。
 石破氏はかなり過激な改憲派である。九条2項を削除しろというのだから、安倍氏よりも過激である。
 石破氏は雑誌『月刊日本』9月号で持論をこう述べている。
 「現行憲法自衛隊についてきちんと規定できていないのは、自衛隊警察予備隊から始まったことが関係していると思います。(中略)警察予備隊はその名の通り警察の予備であり、警察力の強化版でした。その後、警察予備隊は保安隊になり、自衛隊になったわけですが、その法的な本質は変わっていません。
 国家行政組織法上、警察権は行政権とぴったり重なるので、統制の必要はありません。実際、警察に対して文民統制という言葉は使いません。他方、軍隊は自衛権を体現しており、国内法執行組織である行政からはみ出す部分があります。だからこそ、国民主権に依拠した司法・立法・行政による厳格な統制に服さなければならないのです」
■「女性天皇」の議論をぜひやってほしい
 「しかし、日本の自衛隊はどれほど軍隊に見えたといっても、その法的本質は警察権です。だから、文民統制という概念が入り込む余地がないのです。こうした状況を解消するためにも、9条を改正しなければなりません」
 石破氏が総理に就任すれば、すぐ手を付けるのは憲法改正なのではないか。
 同じ雑誌に齋藤健氏がインタビューに答えている。彼は書店が好きで、2017年に有志らと「全国の書店経営者を支える議員連盟」をつくり幹事長に就任している。
 齋藤氏は電子書籍で本は読まないという。また、歴史に興味があり、『転落の歴史に何を見るか 奉天会戦からノモンハン事件へ』(ちくま新書)を上梓している。元出版社にいた人間としては、こういう人がリーダーになってほしいと思うのだが。
 有権者が次の総理に期待するのは「経済問題」が多いが、私にはぜひ総裁選で議論してほしいテーマがある。それは「女性天皇」についてである。
 岸田総理は昨年2月、唐突に、「安定的な皇位継承を確保する方策への先送りは許されない」と述べ、額賀福志郎衆院議長は「早く結論を得たい」と前向きのように見せたが、結局また先送りされてしまった。
■次の総理によっては「愛子天皇」が実現する?
 有識者会議の報告書は、森暢平成城大教授が『サンデー毎日』(9月1日号)で書いているように、「問題を『皇位継承者』の確保から『皇族数の確保』へとすり替えたうえ、女性には、皇位継承権を持つ男性の活動を補佐する役割しか与えない」というものではある。
 だが、秋篠宮さまが“辞退”する意向を表明し、秋篠宮さまの長男の悠仁さまはまだ17歳。天皇の長女・愛子さま天皇にするのかどうかは喫緊の課題であり、総裁選でも避けて通れない重要なテーマであるはずだ。
 また、今回総裁選に立候補している中に、「女性天皇」を認めてもいいという候補者が複数いるので、その人物が総裁、総理になれば、「愛子天皇」が実現するのではないかと、『女性セブン』(9月5日号)が報じている。
 その一人は石破氏で、8月4日のインターネット番組でも、「女系天皇は選択肢から外すべきではない」と踏み込んだ発言をしていたという。
 河野氏も過去に、「女系天皇も検討するべき」と語っていた。小泉氏は表立って発言はしていないが、父親の純一郎氏は総理時代の2005年11月、私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が出した女性・女系天皇を容認する報告書を公表している。この時は、秋篠宮紀子さまに男の子(悠仁さま)が生まれ立ち消えになってしまったが、息子が父親の思いを実現するという可能性はあるかもしれない。
■「選挙に勝てる総裁選」では国民をバカにしている
 どちらにしても、メディアはこの重要課題についてどう考えているのか、各候補に突っ込んだ質問をするべきであろう。
 最後に、岸田政権を支え最重要人物だった森山裕自民党総務会長が『サンデー毎日』(9月1日号)で、総裁選について語っている言葉を紹介してこの稿をしめたい。
 「自民党には重要閣僚や党三役を務めてから総裁選に挑むべきだという歴史的教えがあり、そこは大事にした方がいい。もう一つ気付くべきは、総裁選を賑やかしくやって、衆院選につなげる、という発想があるが、これは主権者を馬鹿にした話だ。やはり、この人は総理総裁に相応しいという人を立てないとダメだ。そういう政党としての落ち着きが、これからの自民党としては大事だと思う」
 まさに今回の総裁選はメディアが挙(こぞ)って取り上げ、お祭り騒ぎである。これで派閥の裏金問題も旧統一教会問題も防衛費のGDP比2%問題も、すべて禊(みそぎ)が済んだとしたいのだろうが、森山氏のいうように、これほど国民をバカにした話はない。
 有権者は、少しでもこの国をよくすることができる人物が総裁に選ばれるよう、冷静な目で“監視”することを怠ってはいけない。
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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。