愛する相手との結婚が法的に認められず、尊厳を傷つけられている人たちがいる。差別的な扱いだと感じているカップルも多い。
住まいを借りる時、不動産業者に「部屋を貸さない大家もいるので友達同士のルームシェアということにしてほしい」と言われた。マンションを購入する際も、夫婦ではないため、借り入れに有利なペアローンを利用できなかった。
家族の理解を得るのに長い時間を要し、社会の偏見にも直面してきた。今後も多くの困難が待ち受けているのではないかと不安だ。
昔から同性カップルは存在していたにもかかわらず、社会で「いないもの」と見なされてきた。
「選択的夫婦別姓制度が実現したら、すぐに婚姻届を出す」と語る内山由香里さん(右)と小池幸夫さん=長野県内で2024年8月9日午後6時39分、北村和巳撮影
不利益受けるカップル
カップルの関係を自治体が証明するパートナーシップ制度は広がっているが、税や社会保障、親権、相続などの法的な手続きには効力がない。パートナーが病気になっても、入院手続きや手術の同意に関われないケースもある。
「制度が整っていないから、当事者たちが困っている」と、中谷さんは同性婚の実現を目指し、国を相手に提訴した。札幌高裁は今年3月、現行制度は「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項などに違反しているとの判決を出した。
長野県の高校教諭、内山由香里さん(56)は、慣れ親しんできた姓で生きるため、同僚だった小池幸夫さん(66)と事実婚の状態にある。夫と3人の子の親子関係を確定させる目的で、結婚と離婚を3回繰り返した。
法律上の結婚をしていた際、職場では通称として「内山」姓を使えたが、運転免許証などの公的な書類は「小池」姓に改めざるを得ない。自分の名前が削り取られるような喪失感を覚えた。
4年前、結婚した長女が泣きながら電話をかけてきた。姓を変える手続きが「名前の葬式を出しているみたい」と語った。娘の世代にも自分と同じような思いをさせていることに心苦しさを感じた。
夫婦の95%が夫の姓を選んでいる現状がある。改姓による不利益を女性ばかりが受けることは理不尽だと思う。
個人の尊厳を守る必要
性的指向は多様であり、自分の意思で変えられるものではない。氏名は個人が社会で識別されるためのもので、人格の象徴だ。
いずれもアイデンティティーに関わるが、現行制度は尊重する仕組みになっていない。人格が損なわれ、自身の存在を否定されたとの思いを抱く人がいる。人権上の問題であり、法的に保護されるべきだ。
にもかかわらず、政府や国会の動きは鈍い。
結婚とは、男女が生活共同体をつくり、子を産み育てることだと一般的に捉えられてきた。戦後に家制度は廃止されたものの、家族の呼称を統一する夫婦同姓制度は維持された。
結婚に関わる制度が改正されれば、当事者たちの希望はかなう。一方で、他の人々の権利を損なうものではない。誰もが個人として尊重され、大切な人と結婚できる社会を実現しなければならない。