結婚の自由と人権 多様な家族認める制度に(2024年9月2日『毎日新聞』-「社説」)

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同性婚の実現に向けて活動する中谷衣里さん。性的少数者の若者たちの相談にも応じている=札幌市で2024年8月8日午後3時51分、北村和巳撮影
 愛する相手との結婚が法的に認められず、尊厳を傷つけられている人たちがいる。差別的な扱いだと感じているカップルも多い。
 性的少数者を支援するNPO法人代表理事、中谷衣里(なかやえり)さん(32)は、30代の同性パートナーと札幌市で暮らす。交際を始めてから16年が経過した。
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同性婚訴訟で札幌高裁が違憲判決を出し、メッセージを掲げる原告団ら=札幌市で2024年3月14日午後3時35分、貝塚太一撮影
 住まいを借りる時、不動産業者に「部屋を貸さない大家もいるので友達同士のルームシェアということにしてほしい」と言われた。マンションを購入する際も、夫婦ではないため、借り入れに有利なペアローンを利用できなかった。
 家族の理解を得るのに長い時間を要し、社会の偏見にも直面してきた。今後も多くの困難が待ち受けているのではないかと不安だ。
 昔から同性カップルは存在していたにもかかわらず、社会で「いないもの」と見なされてきた。
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「選択的夫婦別姓制度が実現したら、すぐに婚姻届を出す」と語る内山由香里さん(右)と小池幸夫さん=長野県内で2024年8月9日午後6時39分、北村和巳撮影
 同性婚は、現在の民法や戸籍法で認められていない。婚姻届を出しても受理されない。
不利益受けるカップ
 カップルの関係を自治体が証明するパートナーシップ制度は広がっているが、税や社会保障、親権、相続などの法的な手続きには効力がない。パートナーが病気になっても、入院手続きや手術の同意に関われないケースもある。
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夫婦別姓も選べる社会へ!」と書いた幕を持ち、東京地裁に向かう選択的夫婦別姓訴訟の原告ら=東京都千代田区で2024年6月27日午後1時54分、菅野蘭撮影
 「制度が整っていないから、当事者たちが困っている」と、中谷さんは同性婚の実現を目指し、国を相手に提訴した。札幌高裁は今年3月、現行制度は「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項などに違反しているとの判決を出した。
 各地の同種訴訟でも「違憲」「違憲状態」とする地裁判決が相次いでいる。「司法の指摘を踏まえ、国は早急に動いてほしい」。中谷さんはそう願う。
 夫婦の姓に関する制度が、結婚の制約になっている人たちもいる。民法などで夫婦同姓が義務づけられており、カップルのどちらかが改姓しなければ、婚姻届が受理されないためだ。
 長野県の高校教諭、内山由香里さん(56)は、慣れ親しんできた姓で生きるため、同僚だった小池幸夫さん(66)と事実婚の状態にある。夫と3人の子の親子関係を確定させる目的で、結婚と離婚を3回繰り返した。
 法律上の結婚をしていた際、職場では通称として「内山」姓を使えたが、運転免許証などの公的な書類は「小池」姓に改めざるを得ない。自分の名前が削り取られるような喪失感を覚えた。
 4年前、結婚した長女が泣きながら電話をかけてきた。姓を変える手続きが「名前の葬式を出しているみたい」と語った。娘の世代にも自分と同じような思いをさせていることに心苦しさを感じた。
 夫婦の95%が夫の姓を選んでいる現状がある。改姓による不利益を女性ばかりが受けることは理不尽だと思う。
 老後が気になる年齢になった。事実婚では、夫婦としての権利が十分に保障されない可能性がある。同姓か別姓かを選べる選択的夫婦別姓制度の導入を求める集団訴訟に参加している。
個人の尊厳を守る必要
 性的指向は多様であり、自分の意思で変えられるものではない。氏名は個人が社会で識別されるためのもので、人格の象徴だ。
 いずれもアイデンティティーに関わるが、現行制度は尊重する仕組みになっていない。人格が損なわれ、自身の存在を否定されたとの思いを抱く人がいる。人権上の問題であり、法的に保護されるべきだ。
 にもかかわらず、政府や国会の動きは鈍い。
 結婚とは、男女が生活共同体をつくり、子を産み育てることだと一般的に捉えられてきた。戦後に家制度は廃止されたものの、家族の呼称を統一する夫婦同姓制度は維持された。
 だが、家族のかたちについて、人々の意識は変わってきている。各種世論調査では、同性婚や選択的夫婦別姓制度の実現に賛成する人が半数を超えている。
 憲法学者駒村圭吾・慶応大教授は「国民の意識から政治が乖離(かいり)している。当事者の立場で考え、抱えている不利益を受け止める感受性や想像力が、国会議員に求められている」と指摘する。
 結婚に関わる制度が改正されれば、当事者たちの希望はかなう。一方で、他の人々の権利を損なうものではない。誰もが個人として尊重され、大切な人と結婚できる社会を実現しなければならない。