校外学習は6月、区立第三寺島小の5年生が長野県内にバス2台で向かった。行きの昼ごろ、バスが中央自動車道の出口付近でガードレールに接触。バス会社は「けが人はなく、スケジュールに影響する」と、警察に通報せず、後日に物損事故として届け出た。
だが、校外学習後に学校が確認すると、児童2人が前の座席に膝をぶつけてあざができていたという。
◆事故は「小動物の飛び出し」が原因と説明、車両故障も
帰りには、事故を起こさなかったバスも故障して運転できなくなり、代替バスに乗り換えた。
バス会社は、保護者宛ての報告書で「事故は出てきた小動物が原因。警察に届け出てから運行再開すべきだった」と謝罪。本紙の取材には「報告書の通りです。何も答えることはありません」と話した。
このバス会社は、複数の乗客を死傷させる事故を起こし、累積違反点数が一定数以上の事業者として国土交通省関東運輸局が公表している1社だった。
◆「なぜ重大事故を起こした会社を使うのか」疑問の声
「なぜ重大事故を起こしたバス会社を使ったのか」。校外学習の1週間後、保護者説明会で複数の出席者が声を上げたという。
墨田区の担当者は「安全なのが当たり前と思い、これまでバス会社の行政処分の有無などを確認してこなかった」と説明。本紙に投稿した保護者は「バス会社は事故後の対応も不適切で、区は安心できるバス会社を使ってほしい」と訴える。
◇
◆バス確保は難航、事故が起きる背景に2024年問題
事故の背景には、ドライバーの残業規制で人手不足が懸念されている「2024年問題」があったとみられる。墨田区立第三寺島小の校外学習のバス確保は難航し、一度は区の入札が不成立となっていた。
今回のケースは、区がバスの手配会社と契約を結び、手配会社がバス会社を探して運行を委託する仕組みだった。バス確保が困難と予測した手配会社は、手配できないと入札を辞退したものの、区が要請して引き受けたという。
◆墨田区の要請を受けた手配会社は事故歴を把握していたが…
随意契約に応じた手配会社は、今回のバス会社が過去に起こした重大事故も把握していたが、初めて運行を委託した。
2024年問題 働き方改革関連法で2024年4月から、バスやトラック運転手の残業時間などの規制が強化された影響で、物流・運送業界でドライバー不足に拍車がかかるとされる。日本バス協会は23年に1万人不足していたバスの運転手は、30年に3万6000人になると試算。国交省は23年8月、ドライバーの待遇改善を目的に、貸し切りバスの基準単価を示す公示運賃額の上限を撤廃した。都内でもコミュニティーバスの廃止や減便が相次いでいる。
区によると、2024年度のバスの入札は24件中6件が不成立で、再入札や随意契約に切り替えるなどの対応を迫られた。1台当たりの単価は、7年前と比べて3割増の約38万円。来年度はさらなる値上げが確実という。
区の担当者は「保護者が不安にならないように、安心できる対策を検討していきたい」と話す。ただ、バス会社を絞ると、契約ができるかという不安も残る。
◆足立区「子どもの安全を最優先」にバス入札
東京23区内では足立区が、バス入札の仕様書に「過去3年以内に死者を生じるような重大事故を起こした事業者の車両は使わない」などの条件を記し、会社の評判など情報収集にも努める。この条件ならば、今回のバス会社は対象外だった。足立区の担当者は「子どもたちの安全が最優先」と強調し、バスが確保しづらい最近の状況に対しては「どれだけ早く準備できるかではないか」と話した。
「ニュースあなた発」は、読者の皆さんの投稿や情報提供をもとに、本紙記者が取材し、記事にする企画です。身の回りのモヤモヤや疑問から不正の告発まで、広く情報をお待ちしています。東京新聞ホームページの専用フォームや無料通信アプリLINE(ライン)から調査依頼を受け付けています。秘密は厳守します。詳しくはこちらから。