長崎知事の疑惑 不明瞭な資金の詳細語れ(2024年9月1日『西日本新聞』-「社説」)

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 長崎県の大石賢吾知事の政治資金を巡り、迂回(うかい)献金とみられる脱法的な資金の移動が判明した。支援した県議が関与している。
 これまでの大石氏の説明では足りない。県議と共に、疑惑の経緯や責任の所在を明らかにすべきだ。
 資金の移動は2022年1月から、知事選があった2月にかけて行われた。
 まず医療法人など9団体が長崎市自民党支部に286万円を寄付した。支部長を務める県議の後援会を経由し、大石氏の後援会が借入金の名目でこの286万円を受け取っている。
 医療法人などは、大石氏を応援するための寄付だと証言した。政治資金規正法は企業や団体が政治家に資金を直接提供することを禁じている。政党支部は認められているので、あえて迂回させたと見るのが自然だろう。
 医療法人に寄付を呼びかけた長崎県医師連盟によると、大石氏の後援会に寄付を申し出たところ、自民党支部の口座を案内されたという。
 判明後、大石氏は県議側に返金し、政治資金収支報告書に記載した286万円を寄付に訂正すると説明した。
 大石氏は記者会見や県議会で問われるたび、資金の移動は把握しておらず、迂回献金の認識はないと述べている。資金管理はスタッフに任せていたと釈明した。
 「知らなかった」では済まない。脱法行為が疑われている以上、県民に対して資金移動のいきさつをつまびらかにする政治責任がある。
 もう一人、説明責任を果たさなくてはならない人物がいる。一時的に寄付を受け入れた自民党支部支部長だった江(ごう)真奈美県議だ。知事選では大石氏陣営の選対本部長を務めている。
 江氏は「県民に疑念を抱かせた」という理由で、県議会の議会運営委員長を辞任すると表明した。資金移動を指示したのは、大石氏の陣営にいた選挙コンサルタントだったと明かしている。
 県議会の役職を辞めたところで何の解決にもならない。より詳しい説明を求める。
 大石氏の政治資金に関して別の問題もある。自身で用意した2千万円が選挙運動費用と後援会の収支報告に二重計上されていた。公選法違反容疑などで刑事告発を受けており、資金管理がずさんだ。
 今月は定例県議会が開かれる。県議は知事選で大石氏を支援したかどうかにかかわらず、疑惑を徹底して追及すべきだ。及び腰になるようでは県民の信用を失う。そう自覚してもらいたい。
 2年前の知事選で、大石氏は4期目を目指した現職をわずかの差で破った。県民は県政刷新を期待したはずだ。
 任期半ばで政治資金を巡る疑惑の渦中にあることは、大石氏も不本意ではないか。信頼を取り戻すには、まだ不明瞭な点について正面から答えるほかない。