10年以上も「異次元緩和」が続いた金融政策を正常に戻すのは難作業だ。日銀は市場の混乱を招かないよう適切な情報発信に努める必要がある。
7月末の利上げ決定とその後の相場の乱高下を巡り、衆参両院が8月下旬、日銀の植田和男総裁を招いて閉会中審査を開いた。
植田氏が金融政策決定会合後の記者会見で追加利上げに前のめりな姿勢を示したことや、米景気後退への懸念が市場を動揺させた。8月5日の日経平均株価は史上最大の下げ幅となり、円相場も一時、1ドル=141円台に急騰した。
その後、内田真一副総裁が講演で「市場が不安定な状況で利上げすることはない」と語ったことで、相場は落ち着いた。株価暴落に慌てて火消しに走った格好だ。
植田氏は国会で「政策への考えを丁寧かつ、わかりやすく説明することは極めて重要だ」と繰り返した。だが、3月のマイナス金利政策解除後、市場との対話は円滑だったとは言いがたい。
今春以降、円安が景気に悪影響を及ぼすとの懸念が強まった。だが、植田氏は「賃上げの広がりを確認したい」として利上げに慎重な考えを強調していた。にもかかわらず、6月下旬に一時、1ドル=160円台を付け、政府・与党内で対応を求める声が広がると、一転して利上げに踏み切った。
円安による輸入品の高騰が物価上昇圧力を高め、個人消費を落ち込ませるリスクを重視したという。だが、事前の情報発信が不十分だったため、利上げ路線に急旋回したと受け取られた。内田氏の火消し発言もあり、日銀が市場や政治に振り回された印象を与え、中央銀行としての信認も傷ついた。
ただ、利下げに動く米欧と対照的に、日本が利上げを重ねていけば、投資マネーの流れは大きく変わり、円高・株安を再燃させる恐れもある。日銀は経済・物価情勢を的確に分析した上で、金融正常化の道筋をわかりやすく説明していかなければならない。