運転士から「草むしりやトイレ掃除」の部署に配転… 「国鉄民営化」に苦しんだ元組合員がいま伝えたいこと(2024年8月30日『東京新聞』)

 
 1987年の国鉄分割民営化に翻弄(ほんろう)された労働組合員を題材にした「JR冥界ドキュメント」が刊行された。電車運転士を長く務めた一方、民営化前後に組合活動に深く携わった村山良三さん(85)=東京都=が実体験をまとめた。苦い記憶を今に伝える意味とは。(榊原崇仁)

◆同じ職場の者同士、疑心暗鬼に

 山形県出身の村山さんは高卒後の64年に国鉄に入り、まもなく国鉄労組の組合員に。東海道線などの電車運転士を長く務めた。「上下関係がない職場。居心地がよかった」と語り「組合は堅苦しい印象があって、熱心なタイプではなかった」と振り返る。
国鉄民営化に翻弄された当時を振り返る村山良三さん=東京都内で

国鉄民営化に翻弄された当時を振り返る村山良三さん=東京都内で

 危機感を募らせたのが国鉄民営化。トップダウンでがらりと職場が変わり、現場の声が顧みられなくなる危惧を強め、労組に深く携わるようになった。そのころの実体験を162ページにまとめたのが本作だ。
 民営化の方針を巡り、複数あった国鉄の労組は賛否が割れた。「それぞれの組合員が同じ職場にいて疑心暗鬼になった」。職場の外でも監視の目を感じたという。「行った店をチェックされていたと思う」

◆「国労のバッジを外せ」圧力

 作中では、若手リーダー格の仲間が「人材活用センター」へ送られ、上半身裸になって廃材を切る肉体労働を強いられたとつづる。「収容所」「見せしめ」。村山さんはそう形容する。
 民営化を控え、村山さんは運転士を外れた。配転先は「要員機動センター」。草むしりやトイレ掃除、改札業務などを担う部署と聞かされた。朝礼のたびに「国労のバッジを外せ」の叱責(しっせき)。組合脱退の圧に苦悩する様子も作中で描かれた。

◆苦い経験「繰り返してほしくない」

 中曽根政権が旗を振った国鉄民営化。ルポライター鎌田慧さんは巻末で「国有財産を民間資本に横流しする『クーデター』」だったと指弾し、抵抗した労組に「国策集団虐待」がなされたと断じた。
 苦い記憶として残る上からの圧や職場の分断。57歳でJRを退職した村山さんは2017年に講演を頼まれて以降、自らの経験を伝えたい思いを強めた。「繰り返してほしくない」と語る村山さんは「今後起こすべき行動を考える端緒になれば」と訴える。1980円。問い合わせは梨の木舎=03(6256)9517。
 

JR冥界ドキュメント 国鉄解体の現場・田町電車区運転士の一日 単行本 – 2024/7/25


 国鉄の分割・民営化は、中曽根康弘元首相による戦後民主主義に対するクーデターだった。
憲法を破壊し、その後の「失われた30年」を呼び込んだ。
中曽根による「国家的不当労働行為」は、150余人の労働者の命を奪った。
現場にいた国鉄元運転士(国労組合員)による渾身のドキュメントである。

目次
1章 招福神像の立つ駅で
出勤二日目の朝/員数外社員/出勤初日/点呼/「は、ず、さ、な、い、よ」/踏み絵/再び二日目の朝/カールビンソン/歩きだした「遺失物」のコート/JR冥界⁈

2章 三六〇円で来た男
「交番へ行こう」/男の背後にあるもの/処分/組合間の確執/さらなる確執/「入浴事件」の顛末/嫌がらせ/自殺者/人活センター/魂のこと

<寄稿:本書刊行に寄せて> 民主主義を破壊した中曽根改革/鎌田慧あとがき/関連略年表

今の社会は抜け殻にならないと生きていけないのか。
見えてきたのは労働者同士仲間意識の崩壊だった。
失われた30年は社会の活力と経済成長を奪い、民主主義を「盆栽民主主義」に変容させた。
―― 国鉄元運転士による執念のドキュメント
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「1987年の国鉄分割・民営化は、国有財産を民間に横流しするクーデターであり、「中曽根革」の悪業だった!」 鎌田慧(本書刊行に寄せて)