「海水が家に入らない日はないのに…」台風10号接近に不安 地盤沈下した能登、カニやフナムシがうろうろ(2024年8月30日『東京新聞』)

 
 能登半島地震で石川県能登、穴水両町を中心とした沿岸部で地盤が沈下し、複数の民家や道路に海水が流れ込む被害が続いている。台風10号が近づき、住民らは高波や高潮への不安を募らせる。(奥川瑞己)

◆満潮が近づくと逆流した海水が噴き出す

 「助けてください」
 27日早朝、能登町の宇出津(うしつ)港近くの女性宅。満潮が近づくと、道路脇の側溝から逆流した海水が噴き出し、住宅は海水に囲まれた。1階の車庫はすぐに水浸しに。女性によると、地震前よりも敷地が約30~40センチ沈下して、海水面より低くなったという。
海水が流れ込んだ女性宅の車庫。もう車は置いていないという=27日、石川県能登町の宇出津港近くで

海水が流れ込んだ女性宅の車庫。もう車は置いていないという=27日、石川県能登町の宇出津港近くで

 元日の地震では約50センチの津波が入り、車庫内の車も洗濯機も冷蔵庫も壊れた。泥を除去し、以前の日常を取り戻しつつあった。
 しかし、5月ごろから潮位が上がり始め、ほぼ毎日、海水が流入するようになった。水が引くたびに塩分を洗い流していたが、もうあきらめた。カニフナムシがうろうろするようになった。湿気もひどい。「せめて長靴なしで生活したい」と、はしごと板でやや高い通路を作った。
 石川県奥能登土木総合事務所によると、能登町の宇出津港や小木港穴水町の穴水港など半島の東側は沈下傾向にあるという。「夏場に潮位が上がる中で被害が分かってきた」と説明する。特に被害の大きい宇出津港では、臨港道路約80メートルの区間で約25センチのかさ上げをし、排水ポンプを設置した。

◆「護岸や道路が50センチぐらい下がった」

 県の応急処置で「家に海水が入らなくなった」と安堵(あんど)する住民がいる一方、今も複数の住民が被害を訴えている。女性は「台風で波が上がってきたら、どうしよう。高齢者もいて連れて逃げられない。うちにはいられない」とこぼす。最近は天気予報を頻繁に確認し、事前避難も考えている。
 「(地震後に)護岸や道路が50センチくらい下がった」と話すのは、小木港臨港道路沿いで酒販店を営む小木区長の石岡安雄さん(71)。満潮時には店の前の護岸に海水があふれるといい「毎年台風でこの道路は冠水するが、これだけ地盤が下がっとったら建物まで波が来るかもしれない」と心配した。
 金沢大の楳田(うめだ)真也教授(海岸工学)は、地盤沈下した港周辺は「地盤が脆弱(ぜいじゃく)で液状化しやすいため、地震動で変形したと考えられる」と指摘。「日本海の潮位は長期的な上昇傾向が観測されていて、その影響もあり得る」と推測した。