【有本香の以読制毒】
東京のメディアが「自民党総裁選」をめぐる報道一色となるなか、関西政界で「事件」が起きた。
25日投開票の大阪府箕面市長選で、地域政党・大阪維新の会の推す現職が〝無所属〟新人に敗れたのである。
大阪府内の約半数の自治体で首長を占める維新の現職が敗れるのは初めて。盤石の基盤とされてきた本拠地・大阪での維新の敗退は、国政政党「日本維新の会」にも影響を及ぼす可能性大だ。
ただし、当選した原田亮氏を〝無所属〟と書いたのには理由がある。原田氏は昨年4月の大阪府議選には自民党から出馬し落選している。つまり「元自民」だ。
箕面市長選に出馬するにあたって自民党を離党して出馬したものの、選挙戦では「裏で自民・公明が相当動いた。隠れ自民だ」の声も聞かれた。
今回の選挙以前にも、大阪での「維新王国」の異変はすでに顕れていた。
今年4月、日本維新の会の藤田文武幹事長のお膝元、大東市で行われた市長選では、新人同士の戦いで、維新の公認候補が無所属候補に敗れている。
一連の背景には、次期衆院選に向けた自民・公明の巻き返しがあるとされるが、やはり長きにわたる「維新天下」への反発と失望の高まりは否めない。
「身を切る改革」を掲げてコストカットを断行し、「改革の騎手」として喝采を浴びてきた維新だが、近年、特に医療などに関して、その負の側面への批判が聞かれることも増えた。
さらに開催が来年に迫った2025年大阪・関西万博への期待外れ感が大きい。参加辞退国が増えたり、建設の遅れが言われたりしたことで、「万博アカンのか」との世論が広がるなか、新たな懸念材料も浮上している。
万博開催期間中に隣接地で、IR(統合型リゾート)の建設工事が行われる問題である。博覧会国際事務局(BIE)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長が「万博の安定的な運営への深刻な問題」と、産経新聞の書面インタビューで懸念を示す事態にまでいたっている。
IRにも問題は多い。たとえば、建設予定地の人工島・夢洲(ゆめしま)の土壌対策費として「大阪市の800億円負担」が後出しされた件では、市民の間から「裏切りだ」との声も聞かれた。
加えて、維新が大阪与党となって長いためか、在阪メディアが維新への忖度(そんたく)報道に終止しているとの不満、不審も高まってきている。
こうした要因が複合的に作用した結果が、大阪市内では初の「維新現職首長敗北」である。
「改革」「刷新」という言葉の欺瞞(ぎまん)や、「選挙の顔」という浅薄な発想を嫌う有権者は確実に増えている。これは大阪に限らない。永田町の自民党総裁選とて同じこと。「選挙の顔」選びという愚挙が、国民に通用しなくなる日が必ず訪れる。
■「地殻変動」全国へ
ちなみに、筆者は現在、「日本保守党1周年キャラバン」として、全国での遊説活動を行っているが、大阪で起きつつある地殻変動は全国で起き得ると実感している。
今の腐敗した政治にうんざりという国民は増えている。生活の苦しさが増すなかで、政治の変化を熱望する声も多い。そのことに最も疎いのが当の政治家ではないかとさえ思う。
爽やかそうな「選挙の顔」や、きれい事の公約に有権者はしばしば騙されるが、一方で、正気を取り戻すときが必ず来る。来る総選挙では、国民の正気回復の度合いが計られることだろう。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。