兵庫県の斎藤元彦知事
「おねだり」や「パワハラ」など、兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑についての内部告発は、ほぼ事実だったと言えるのではないか。兵庫県議会が設置した「文書問題特別委員会」(百条委員会)は、8月23日に県職員全員を対象にしたアンケート調査の「中間報告」を公表した。職員たちから一気に噴き出てきた斎藤知事の疑惑を裏付ける証言を詳細にお届けする。
百条委は兵庫県の全職員を対象に「兵庫県職員アンケート調査」を実施し、元県民局長(7月7日に死亡)が内部告発した「おねだり」や「パワハラ」などの疑惑について、「実際に知っている」「知っている人から聞いた」などの証言を集めた。8月5日までに届いたのは4568件にものぼった。
百条委のメンバーである県議の一人はそう感想を漏らした。
■「ネクタイを試着してそのまま帰った」
斎藤知事の「おねだり」については、多種多様な回答があった。知事がいくら否定しても、「決定打」となる内容も多かった。
〈カキ加工所で贈答品を公用車に積み込むのを目撃した〉
〈皮革製品の生産現場を視察した際、40万円相当の革ジャンを試着して「これはいい。もらえないか」と知事がおねだり。しかし、あまりにも高額な品のため、無償提供はできないと結論づけられたと聞いた〉
〈北播磨の日本酒のイベントに来た時は、最初不機嫌だったが、出展者などから日本酒を10本以上もらいご機嫌で帰って行ったとのこと〉
■「カニ目当てに、もう来ないでほしい」
〈知事が何回も来て、その都度、カニなどを持って帰ってもらっているが、それを目当てに来るので、もう来ないでほしいと言ってるとのこと〉
という証言もあった。
この「くれくれ攻勢」について、兵庫県北部の漁業関係者がこう話す。
「最初はせっかく来ていただいたからと思っていたが、カニなど高級品がほしくて来るという魂胆がわかってきた。知事に安もんのカニは渡せない、当然、こちらの負担になる。そのうち知事から『先日のカニはとてもおいしかった』『また食べたい』と『くれくれ』が始まる。もう、うんざりだ」
視察ではお土産がないと知事が不機嫌になるという回答や、そのため同行者らがポケットマネーでお土産を買い求めていたという回答も複数あった。
〈視察時にお土産がもらえると、知事の機嫌がよくなるので、視察の担当者が、視察先にお土産を渡してくれるよう事前に依頼したり、自腹で会計しておいて、知事にはお土産という体を取っていると複数人から聞いた〉
〈職員が「これを無料でいただけないか」と言わなければならないのがつらいと聞いた。また、訪問先で贈答品を用意してもらわなければ機嫌が悪くなるので、事前に訪問先にお願いしなければならないとも〉
知事与党、自民党のB県議がうなだれる。
「カニ、カキに40万円の革ジャンまでくれくれって人が、県政を前に進めると居座る。なんで斎藤知事を推したのかと恥ずかしい」
■「会議室の温度が低いと怒り、反省文を出させた」
パワハラを訴える回答は膨大で、124ページの中間報告のうち70ページ以上に及んだ。
〈視察した際、知事がエレベーターに乗ろうとすると目の前でエレベーターの扉が閉まり、乗り損ねたことに激怒して、エレベーター前にいた県職員に、施設の職員も見ている前で「お前はエレベーターのボタンも押せないのか」と大声で怒鳴りつけた〉
〈新産業課がドローンの協議に入った際、知事が「ドローンといえば、神戸のポートアイランドで実証実験した際、なんか嬉しそうにTVにしゃべっていた●●(職員名)がいたな」との発言があった。当該●●は、ドローンやスタートアップの件で知事に意見したため、知事から知事室に出禁にされたとの噂があり、実際に一年で異動となっている〉
〈知事が出席するイベントで記者がいないと激しく怒るため、職員が記者のサクラをすることもあると聞いた〉
〈姿見や木製ハンガー、着替える個室(鍵つき必須)がないと激怒することが知られている。イベント時には事前に秘書課が全て用意できているかチェックしている〉
〈会議室の温度が低いと怒り、担当課に反省文を提出させた〉
回答を見ていると、県職員が気の毒になってくる。
■「機嫌が悪いとタブレットを投げる」
アンケートには、もはやパワハラを通り越して、暴行といえそうな回答も並ぶ。
〈怒るとバンバン机を叩きだす〉
〈機嫌が悪いと、タブレットや資料等を投げる〉
〈公用車内で知事が激怒し、前方座席を蹴った〉
斎藤知事の行為は一歩間違えば、県職員らがケガをする可能性がある。ついでにいえば、投げつけるタブレットも、蹴りをいれる公用車も、税金で購入されたものだろう。
「俺が来ているんだ。知事だ、知事なんだぞ」
と怒鳴り散らしたという証言についても報じたが、アンケートでも、同様の回答が複数あった。
〈知事レクで、俺は知事だぞ、知事指示だと言って、職員の意見も聞かなかった〉
〈「(俺は)知事やぞ」と言って怒っていたということを、実際にその場にいた人から聞いた〉
斎藤知事は、知事ならば何をしても許されると思っているのだろうか。
次回知事選に向けた投票依頼をしているという疑惑については、
〈知事が但馬地区の商工会を訪れた際、施策協力と合わせ、選挙協力依頼をしていたと人づてに聞きました〉
などの回答があった。
知事の政治資金集めのパーティー券を県内の商工会議所などに大量購入させているという疑惑については、
〈補助金を受けている企業に半強制的に購入させている〉
〈「企業に依頼するのはまずいのではないか」と問いただしたところ、「片山(副知事)さんの指示でやってるだけやから、大丈夫」と取り合ってもらえませんでした〉
などの回答があった。アンケートには知事の側近で、7月末で辞職した片山安孝副知事(当時)の名前もよく登場している。
■「かなりやばいことをしていると聞いた」
〈担当課の職員から、パレードのお金に関して、かなりやばいことをしている、こんなことやってられない、という話を聞いた〉
もはや、まともな県政が行われていたとは思えなくなってくる。
■県市長会が異例の要望書
だが、これを受けた斎藤知事は、
「百条委員会で事実関係を明らかにしていきたい」
などと語るばかりで“居座り”が続きそうな様子だ。
23日の百条委員会に証人として出席した証人の中には
「斎藤知事の記者会見は腹立たしい」
と怒りを露にする県職員もいたという。
「斎藤知事への県民不信は最高潮で、県政は停滞するばかり。百条委員会も、もっとペースをあげて早くやれないのだろうか。斎藤知事の発言からも辞めるつもりはないでしょう。それなら、県議会がまとまって不信任を突き付け、斎藤知事を辞めさせるしかないと思う」
8月30日の百条委員会では、斎藤知事自身が証人として出席する予定だ。百条委員会での証言拒否や虚偽の陳述があれば罰則が科せられることになる。
(AERA dot.編集部・今西憲之)
維新・馬場代表、百条委の証言を踏まえて党の対応検討…兵庫知事疑惑で(2024年8月27日『読売新聞』)
日本維新の会の馬場伸幸代表は26日、兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラなどの疑惑を内部告発された問題について、県議会の百条委員会で30日に行われる斎藤知事の証人尋問の結果を踏まえ、党としての対応を検討する考えを示した。
この日の常任役員会後、記者団に「国民が聞き、なるほどと思える中身なのか。我々も見たうえで、早急に対応を決めたい」と述べた。
維新は2021年の県知事選で斎藤知事を推薦。ともに推薦した自民党は問題発覚後の7月に事実上辞職を促したが、維新は真相解明が重要との立場をとっている。馬場代表は7月28日、記者団に「まずは事実関係をつまびらかにすることが必要。(疑惑が)事実と判明すれば、しかるべき判断をするよう知事と話をする」と語っていた。