ブラインドサッカー アイマスクをした全盲の4人のフィールドプレーヤーと、健常者や弱視者が務めるGKの計5人で対戦。フットサルと同じ広さのコートを使い、ボールを取りにいく時には「ボイ」(スペイン語で「行く」の意味)と声を出すルールがある。前半、後半各15分。
国際親善試合で攻め上がるブラインドサッカー日本代表の川村©︎JBFA/Haruo.Wanibe
◆声と音が生命線
「ゴールまで残り10メートル、角度は45度」。試合中は監督や敵陣ゴール裏に立つガイドと呼ばれる指示役の声が飛び交い、内部に金属プレートが取り付けられたボールが「シャカシャカ」と鳴って転がる。声と音が選手の生命線だ。
そのため観客に「お静かに」と書かれた案内板などで呼びかける。そうした独特のマナーはかえって騒音を引き起こす要因にもなった。中川英治監督は人さし指を口元にあてるしぐさをして「何人もが『シーッ』とやると波及して、相当の音量になる」と指摘する。ひそひそと会話する人も少なからずいて、観客が多い大会で静寂をつくりだすことは難しい。
◆騒音テストを兼ねた国際親善試合
パラ初出場となった2021年東京大会は新型コロナウイルス禍で無観客。日本にとって有観客のパラはパリが初めてだ。日本ブラインドサッカー協会によると、エッフェル塔のふもとの会場には、16年リオデジャネイロ大会の倍以上の1万3000席が並ぶ。大観衆の中での試合経験が乏しい日本は、騒がしくなる事態も想定して警戒を強めた。
そこで7月初旬、一日に15万人が行き交うとされる大阪・梅田の駅前広場で騒音テストを兼ねた国際親善試合に臨んだ。この場所での開催は競技普及を目的にあらかじめ決まっていたが、騒音対策を練る中川監督には渡りに船だった。「どれだけ適応できるか良いシミュレーションになる。うるさくなるのは大歓迎」
あえて会場近くの噴水を止めない。カフェのBGMも流したままに。主催した日本協会はチームの希望通り、通常の試合とは真逆のざわつく空間をつくりだした。主将の川村怜(りょう=パペレシアル品川)は「プレーに集中すれば、騒がしさは気にならなかった」と手応えを口にした。
◆世界のライバルも騒がしさに順応?
騒音対策をするのは日本だけではない。元サッカー男子日本代表で日本障がい者サッカー連盟会長の北沢豪(つよし)さんは「日本が初戦で当たるコロンビア代表は、国道に挟まれた場所で合宿をしていた」と明かす。世界のライバルも騒がしさに順応しているかもしれない。
ブラインドサッカーは、会場ごとに異なる音の反響具合もプレーを左右する。川村は慣れない体育館での試合後に「声が遠く聞こえて距離感がつかみづらかった」と戸惑いを見せたことがあった。パリの屋外会場はピッチを囲むように観客席がせり上がる。「どんな響き方をするのか公式練習で確かめたい」と川村。戦いは本番前から始まっている。感覚を研ぎ澄ませて「パリの音」をものにできるかもメダル獲得の鍵になる。
ブラインドサッカー男子は8カ国が2組に分かれて予選リーグを戦う。世界ランク3位の日本は1位アルゼンチン、8位モロッコ、12位コロンビアと同組。グループ2位以上で準決勝に進む。パラリンピックの正式競技となった2004年アテネ大会以来、5連覇中の同2位ブラジルとは準決勝以降で対戦する可能性がある。
日本は21年東京大会に開催国枠で初出場して5位。自力で出場するのは今大会が初。
◆日本の予選リーグ 試合日程
※時間は日本時間。丸数字は世界ランキング