子ども連れの人や妊娠中の女性が公共施設などで長時間並ばなくても入場できるようにする「こどもファスト・トラック」の取り組みが岡山県内で広がり始めた。社会全体で子育てを応援する機運をつくる一歩にしたい。
公共施設や商業施設、イベントなどで子連れの人らが優先的に入場したり、手続きを進めたりできる優遇措置は海外では導入例がある。政府が「異次元の少子化対策」の一環として打ち出し、昨年春から国立の公園や博物館などで実施が始まった。自治体や民間企業にも導入を呼びかけており、優遇する子どもの対象年齢などは各施設の運用に委ねられている。
岡山県は先月から県ホームページで実施施設の紹介を始めている。県関連の施設では後楽園(岡山市)で第3日曜日の「家庭の日」に、県発行の「ももっこカード」を提示すれば優先的に入園できるようにした。県立美術館(同)でも12月から優先案内を始める予定だ。さらに県内共通で使える案内表示もつくって県ホームページからダウンロードできるようにし、民間にも活用を呼びかけている。
こどもファスト・トラックが導入された背景には、日本の子育て世帯が感じている息苦しさがある。
内閣府が2020年度に日本を含む4カ国の20~49歳の男女に「自国は子どもを産み育てやすい国だと思うか」と尋ねたところ、スウェーデン、フランス、ドイツではいずれも約8割以上が「そう思う」と回答したのに対し、日本は約4割にとどまった。10年前の調査では約5割だったのがさらに低下しており、深刻に受け止めねばなるまい。
こうした日本の状況について、政府が昨年末に策定した「こども未来戦略」では、子育て中の人から「電車内にベビーカーを持ち込むと迷惑そうにされるなど、社会全体が子育て世帯に冷たい印象」「子連れだと混雑しているところで肩身が狭い」などの声が上がっていることや、公園で遊ぶ子どもの声に苦情が寄せられる事例があることを紹介。「社会全体の意識・雰囲気がこどもを産み、育てることをためらわせる状況にある」と指摘している。