デブリ取り出し 廃炉まで難作業を前進させよ(2024年8月23日『読売新聞』-「社説」)

 福島第一原子力発電所廃炉を実現することは世界に例のない難作業である。長い道のりとなるが、作業を着実に進め、何としても成功させなければならない。
 東京電力福島第一原発2号機で、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し作業を始める。2051年に廃炉を完了するうえで最難関の工程のスタートだ。
 11年3月の東日本大震災に伴う事故で、福島第一原発1~3号機の核燃料が溶融し、炉内の構造物と混ざってデブリとなった。計880トンあると推計される。
 計画では、まず2号機で3グラム程度を試験的に採取する。わずかな量でも、試料の組成や構造を分析することで、今後の本格的なデブリ取り出し方法を検討するのに欠かせない第一歩となる。
 しかし、初日は、取り出しに着手する前の準備段階で、ミスが発覚して中断した。伸縮する釣りざおのような装置を原子炉横の穴から差し込む手はずだったが、この装置を押し込むのに使うパイプの接続に誤りがあったという。
 大事に至らなかったのは幸いだったとはいえ、このような単純なミスを防げないようでは、計画の履行はおぼつかない。現場の体制を点検し直し、気を引き締めて作業を再開してもらいたい。
 デブリの取り出し作業は既に3年近く遅れている。現場は放射線量が高い上に、作業スペースも限られ、新しい機械を遠隔操作で正確に動かすことは容易でない。
 原子炉横の穴が 堆積たいせき 物で塞がっていることが判明し、除去するのにも時間がかかった。また、試料の採取には当初、より大型のロボットアームを使う予定だったが、開発が思うように進まず、今回の釣りざお型装置に変更した。
 今後も想定外のトラブルに直面することは避けられないだろう。未知の領域に踏み込んでいる以上、まずは安全を最優先し、慎重に作業を進めてもらいたい。状況の変化に応じて計画を見直すこともためらうべきではない。
 デブリが残っている限り、デブリに接した地下水が汚染水として発生し続ける。1年前から処理水の放出が始まったが、なお多くのタンクが敷地を占拠している。
 このままでは、デブリの保管施設などの建設もままならない。処理水の放出を進めて空いたタンクを解体し、廃炉作業の進展に備えることが必要だ。
 日本は技術力を結集し、世界に衝撃を与えた原発事故の後処理を完遂することが求められる。