自民党総裁選の日程は9月12日告示、27日投開票となった
自民総裁選と外交・安保 地に足着いた議論足りぬ(2024年9月25日『毎日新聞』-「社説」)
隣国と安定的な関係を築くことは国益にかなうはずだが、目に付くのは強硬な姿勢ばかりだ。地に足の着いた議論が足りない。
自民党総裁選では、中国を念頭に安全保障を巡る議論が先鋭化している。石破茂元幹事長は、アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設に意欲を示す。高市早苗経済安全保障担当相は、非核三原則のうち核兵器を「持ち込ませず」の見直しが必要だと訴え、河野太郎デジタル相は原子力潜水艦の導入に言及した。
中国に批判的な党内保守派の支持を得ようと、現実味の乏しい過激な発言に走っているとすれば建設的とはいえない。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることは確かだ。中国は海洋進出を強め、東・南シナ海で威圧的な振る舞いを続けている。
米中対立が激化する中、中国をけん制しようと米国は、同盟国などと共に中国包囲網を形成する動きを進める。
日米同盟を基軸とする日本は、自衛隊の南西諸島への配備など防衛力を強化している。岸田文雄首相が最後の外国訪問として、米国で開かれた日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会議に出席し、海洋安全保障での協力を確認したのもその一環だ。
ただ、中国を刺激し、地域の不安定化を招くリスクもある。大統領選の結果次第では、米国の戦略が変わることも想定される。
問われるのは抑止と対話のバランスだ。
岸田首相は昨年11月、中国の習近平国家主席との会談で「戦略的互恵関係」の推進を再確認した。具体的な取り組みが求められる局面だが、自民党内では「親中派」と見なされることへの警戒感が強まっている。これでは良好な関係を構築できない。
官民さまざまなレベルで関係改善へ動くべきだ。対話による周辺国との協調を通じて、いかにインド太平洋地域の安定を確保するのか。その戦略を語らなければならない。
健康保険証の廃止 総裁選で見直しの議論を(2024年9月24日『信濃毎日新聞』-「社説」)
現行の健康保険証を当初の政府方針通りに廃止すべきか否か。
この問いは、各候補が国民の医療を受ける権利の保障をどこまで真剣に考えているかを見極める試金石である。自民党総裁選で掘り下げた論戦を求める。
マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせたマイナ保険証への一本化を巡り、複数の候補が12月2日に迫った健康保険証の新規発行停止期限の見直しや国民の不安の払拭に言及している。
口火を切ったのは林芳正官房長官だ。廃止期限を含めて「必要な見直しを行いたい」と明言。ただ、一本化を主導する河野太郎デジタル相からけん制され「不安の声があるのでしっかりと対応する必要がある」などと軌道修正した。
石破茂元幹事長も「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば、併用も選択肢として当然だ」と記者団に述べている。
それほどまでにマイナ保険証一本化への反発は強い。本紙を含む全国18地方紙が8月に行った合同アンケートでも回答者の8割以上が今の保険証の存続を求めた。
マイナ保険証を巡っては、個人情報の誤登録や医療機関での読み取り機の不具合が後を絶たない。
全国保険医団体連合会が5月以降のマイナ保険証トラブル調査の中間集計をまとめた。1万200余の医療機関の7割が不具合を経験。端末で読み取れなかったり、読み取った名前や住所が間違っていたりしたほか、他人のデータのひも付けも報告されている。
669の医療機関で、不具合のためいったん10割を請求した事例があった。実際に患者が受診を諦めたケースもある点が深刻だ。
8月のマイナ保険証の利用率は12%余。健康保険証の廃止後に発行済みの保険証が使えるのは、最長でも1年間だ。このままでは保険診療を受けられなくなる人が大量に出る恐れがある。立ち止まらなくてはいけない。
解雇規制見直し 働く人本位でなければ 2024党首選(2024年9月23日『北海道新聞』-「社説」)
小泉進次郎氏は規制改革の一環として、社員の学び直しや再就職支援を義務づければリストラなどの整理解雇ができるよう提唱した。法案提出も図る。
これには他の候補が反対や慎重姿勢で、本人もここにきてトーンを弱めている。整理解雇が規制緩和されれば成長分野に人材が流れるとの主張だが、どう結びつくのかは不透明だ。
整理解雇は法律に明確な規定はなく、判例を積み重ね規制要件をルール化した経緯がある。
働き方の規制を巡っては小泉氏以外の候補からも緩和を求める主張があるが、丁寧な検証なくしては議論は深まらない。
経営難などで整理解雇する際は「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「人選の合理性」「労使間協議」が考慮される。韓国のようにこの4要件を法制化した国もある。
小泉氏は「昭和モデル」と断じたが、批判を受け「解雇自由化ではない」と説明する。
4要件は昭和の遺物ではない。コロナ禍のタクシー運転手整理解雇では企業側に助成金活用など経営努力がないとして裁判所が無効とした例もある。
そもそも小泉氏の掲げる再就職支援は解雇前提であり回避努力とは逆だ。規制で「優秀な人材が成長分野に流れない」というが既に転職は日常的である。
電機や情報大手では対抗し、能力に応じて若手を厚遇する制度を導入した企業もある。
むしろ解雇対象となるのはデジタルに不慣れな中高年であろう。整理解雇が簡単になれば若手獲得の原資を確保できる。
約20年前に雇用規制を緩和したドイツは経済低迷を脱したが格差固定化への批判が強い。長期失業者への手当を昨年制度改変するなど修正も見られる。
一方で河野太郎氏は不当解雇に対する金銭補償ルール化を訴える。「不当解雇を防ぐ」目的というが、一方的な金銭解決が横行する恐れは否めない。
抑制的な防衛政策が大前提なのに次々と踏みにじっている。
中国の急速な軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発など、安全保障環境が厳しさを増していることを挙げる。しかし防衛力増強だけでは周辺国との緊張を高め軍拡競争は激化する一方だ。
厳しい安保環境だからこそ外交によって緊張を緩和し、信頼を醸成する必要がある。そのための議論こそが欠かせない。
憂慮されるのは核政策見直しを唱える主張が目立つことだ。
地域の安定をどう確保する か。米国追従以外の政策がほ とんど聞かれず物足りない。
石破氏だけが米軍の特権的 地位を認めた日米地位協定の 見直しに着手するとしている。
地位協定は沖縄で相次ぐ米軍兵士による女性への暴行事件などで、日本側の捜査を制約してきた。見直しは喫緊の課題だ。
立憲は4候補とも米国との対等な関係の構築を唱えつつ、日米同盟を基軸とする立場だ。
党首選の論点 物価高と経済政策 その場しのぎから脱却を(2024年9月23日毎日新聞『』-「社説」)
場当たり的な財政出動を繰り返しても、物価高に苦しむ国民の生活は立て直せない。
食品の値上げは続き、10月は約3000品目にも及ぶ見通しだ。物価上昇を差し引いた実質賃金は6月から2カ月連続で前年比プラスに浮上したが、ボーナスの増加という一時的な要因が大きい。
岸田文雄首相は、ガソリン代や電気・ガス料金の補助に総額10兆円超をつぎ込むなど、その場しのぎの対応に終始した。
にもかかわらず、自民党総裁選では、大盤振る舞いに前のめりな候補者が目立つ。
小林鷹之前経済安保相は「大胆な投資で地方の産業を活性化し、成長と賃上げを実現する」と訴える。これまでも多額の予算を投じてきたが、効果は限定的だ。
だが再就職の公的支援や失業時の生活を保障する体制を十分整備しないまま、解雇を容易にすれば、国民の不安を高める。
格差を是正する対策が求められる。株高の恩恵は富裕層ほど大きく、物価高の直撃を受けた低所得者には及ばない。
石破茂元幹事長は、株式の売却益など金融所得への課税強化を唱える。「投資に水を差す」と批判する候補者が多いが、中間層向けには非課税枠が設けられている。検討を進めるべきではないか。
総裁選で、きちんと検証することが欠かせない。それが、暮らしの底上げに向けた政策を論じる出発点となるはずだ。
自民党総裁選 経済成長を主導する構想示せ(2024年9月23日『読売新聞』-「社説」)
国際的な存在感を再び高めるため、日本経済をどうやって本格的な成長軌道に乗せるか。自民党総裁選の各候補は、大きな構想を示すべきだ。
長く停滞してきた日本経済は、賃金も投資も増える「成長型経済」へと転換すべき局面を迎えている。経済政策は重要な争点だ。
一方、石破茂元幹事長は、地方創生を「日本経済の起爆剤」と位置づけて、企業の地方進出などを後押しする考えだ。富裕層への優遇を改める必要があるとして、株式の売却益などにかかる金融所得課税の強化にも言及している。
税制の拡充や給付金の支給などで、賃金や所得を向上させる施策に重点を置く候補者も多い。
だが、いずれも従来の延長線上にある議論にとどまり、成長を加速させるには物足りない。
安倍元首相は、「アベノミクス」を推進し、長期にわたる景気回復や雇用増を実現したものの、成長戦略は力不足だった。
岸田首相は、格差是正と成長を両立させる「新しい資本主義」を提唱したが、具体策を欠いて、看板倒れに終わった。
今回の総裁選では、日本経済を次の段階へと導く大局的な経済構想が求められている。
財政の立て直しも課題だ。悪化した財政への将来不安が、国民の消費抑制につながり、経済成長を妨げていると指摘されている。
物価高にあえぐ低所得者への支援は必要だとしても、安易なバラマキは避けなければならない。
エネルギー政策も主要なテーマとなる。脱炭素を進める一方で、経済成長を続けるためには安価で安定した電源が不可欠だ。
だが、それで電力の安定供給が図れるのか。説得力のある将来の展望を提示してもらいたい。
夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗り続けられる。そんな選択的夫婦別姓制度を導入するかどうかが、自民党総裁選の大きな論点になっている。別姓を求める声がありながら長年、動きが停滞していた。今度こそ前に進めるべきだ。
改姓で仕事や日常生活に支障が生じるとの声は多い。旧姓を使える場面は広がったが、戸籍名が必要な手続きは多くあり、姓の使い分けは大きな負担だ。パスポートへの旧姓併記も「便宜的な措置」であり、ICチップには記録されないなど、限界がある。
国際的にみても、先進国で夫婦同姓を義務付けるのは日本だけとされる。同姓だった国も別姓を選べる法制化を進めており、日本の旧姓使用は理解されにくい。海外で働く人が増え、仕事上の支障が生じる要因にもなっている。
別姓はあくまで、希望者に新たな選択肢を示すものだ。希望しない人に強制するものではない。家族の一体感や子どもへの影響を懸念する声もあるが、家族の絆は同姓によってのみ維持されるものではないだろう。家族のあり方も幸せのかたちも、1つではない。
結婚で生まれ持った姓を失うことに、アイデンティティーの喪失感を抱く人もいる。困っている人がいるなら解決策を探る。多様な価値観を尊重する。成熟した社会では当たり前のことだ。時代の変化にどう対応するか。次の首相は国会での議論に道を開くべきだ。
沈黙していれば有権者が見過ごしてくれると考えているのか。
自民党は22年9月、教団側との関係について、党所属国会議員の自己申告に基づく点検結果を公表している。
所属する国会議員379人中、180人に教団側と何らかの接点が確認されたとしたものの、茂木敏充幹事長は「党と教団に組織的な関係はない」と繰り返した。22年7月に銃撃され死去した安倍氏は調査の対象外だった。
今回の写真は、4日後に参院選の公示を控えた13年6月30日に撮影されたとされる。この時期に党本部でトップ同士が面談すれば組織的な選挙支援がテーマだった可能性があり、「組織的な関係はない」という説明に疑念が生じる。
それなのに岸田文雄首相は、教団との関係は「これまで再三説明した通り」と述べただけだ。
党内では調査で教団との接点が判明しなかった後に、写真などで関係が明らかになる議員が相次いだ。安倍氏も教団友好団体にビデオメッセージを寄せていたのに加え、参院選でどの候補者に教団や関連団体の支援を割り振るかの判断に関わっていたと取り沙汰されていた。自民党の調査が不十分であることは明白だ。
看過できないのは、総裁選に立候補している9人も再調査に消極的になっていることだ。
9候補はTBSの番組で再調査をするか問われ、全員が慎重姿勢を示した。茂木幹事長は「(安倍氏が徳野氏と)会って何が起こったかは、今の時点では確定できない」と述べている。
教団との接点が判明している候補者も5氏いる。教団との関係は争点になっておらず、説明責任を十分に果たしていない。再調査にも消極的な姿勢に、教団との深い関係が改めて浮かぶ。
候補者は、党と教団の関係について徹底調査する方針を示さなければ、党の再生はかなわず、党への不信も解消されないと強く認識するべきである。
現行制度による不都合をどう解消していくのか。議論を加速させる機会としてもらいたい。
河野太郎デジタル相も、制度を「認めた方がいい」とする。
ただ、総裁選候補9人のうち、制度導入を明言したのは小泉氏と河野氏の2人にとどまる。
背景には、自民支持層で賛否が割れていることがあるだろう。
共同通信が9月に自民支持層を対象に行った電話調査では、制度の導入について反対が43・2%、賛成が41・4%とほぼ拮抗(きっこう)した。
党員・党友による地方票の獲得が大事な総裁選では、態度を曖昧にしている候補は多い。
茂木敏充幹事長は、世論の動向も踏まえるなどとして賛否を明らかにしていない。
別姓が家族の絆に与える影響などを懸念として挙げている。
別姓を選んだ夫婦の子どもが名乗る姓の問題などの論点があることは確かだ。
だが、懸念を強調するだけではなく、前向きに課題をクリアするための具体策を論じていく必要もあるはずだ。
夫婦同姓を義務付ける現行民法では、改姓するのはほとんどが妻で、容認と答えた首長は主に女性の不利益の解消を求めている。
住民に近い立場の首長の声をしっかりと受け止めるべきだろう。
きょう23日投開票の立憲民主党代表選では、4候補全員が早期導入を目指す考えを示している。
日本のかじ取り役を目指す両党首選の候補者には、党の支持層だけでなく幅広い声に耳を傾け、議論を進める姿勢が求められる。
不利益の解消を求める声のほか、改姓が結婚をためらう理由になっていると指摘する声もあった。一方で伝統の喪失や子どもへの影響を不安視する慎重派の意見もあった。
ただ、いずれの立場からも国が議論を進めるべきだとの意見が相次いでいる。国は懸念に対応しながら議論を急ぐ必要がある。
最高裁は2015年と21年に現行制度を合憲と決定したが、一方で「国会で議論、判断されるべきだ」とも指摘した。それでも国会での議論は進まず、30年近く棚上げされたままだ。
代案として政府や自民党が進めたのは旧姓の通称使用拡大だった。運転免許証やパスポートなど公的書類にも併記できるようになった。だが、海外渡航や銀行口座開設時の手続きなどで弊害が出やすい。夫婦同姓を義務付けている国は日本だけであるため、特に海外ビジネスの現場では理解されづらく支障が多いと指摘される。
今年6月には経団連が「改姓による負担が女性に偏っている」と早期実現を提言した。通称使用拡大で問題が解決しないことは明らかだ。
何より問題なのは、慣れ親しんだ姓を変更し、喪失感を抱える人が多いことだ。夫婦同姓を定める現行制度では、根強い慣習から結婚後に改姓するのは9割以上が妻である。個人を表し、人格の一部である姓の変更が女性に偏ることは、男女平等や個人の尊厳に関わる問題といえる。国連女性差別撤廃委員会からは繰り返し是正を勧告されている。
選択的夫婦別姓は同姓を希望する人の権利も保障する。導入へ議論を進めるのは政治の責務だ。社会の変化や個人の権利に背を向けるような対応は改めるべきである。
保守的な政策を重視する高市早苗経済安全保障担当相らは家族の絆に与える影響などを理由に慎重な立場を取る。石破茂元幹事長らは夫婦別姓自体には理解を示す一方、社会の分断を回避するため議論を尽くすべきだとする。
一方、立憲民主党代表選の4候補はいずれも早期導入を目指す考えを表明している。
夫婦別姓は、男女平等や多様性社会の実現には避けて通れない問題だ。踏み込んだ議論を期待したい。
歯止めがかからない少子化は、日本にとって最大の懸案だ。だが論戦は低調で、難題に向き合う覚悟が見えてこない。
国内の出生数の推移
ただ、財源確保に課題が残る。医療・介護・福祉分野の歳出削減で1・1兆円を捻出せねばならず、さらに国民から1人平均月約500円の「支援金」を集めることになっている。
その実行は次の首相に委ねられるが、自民党総裁選の候補者から言及はほとんどない。それどころか、茂木敏充幹事長は経済成長で税収を増やせば支援金の徴収は不要と主張し、加藤勝信元官房長官は現在の対策にはない「給食費、子ども医療費、出産費の負担ゼロ」の実現を掲げる。
昨年末にまとまった少子化対策の「加速化プラン」の主な内容
高齢化で膨らむ社会保障費を抑制するには、サービスの縮小や高齢者の負担増といった「痛み」の議論が避けられない。そこから目をそむけ、総選挙を意識したような人気取り策ばかりを並べるのは、無責任と言わざるを得ない。
子育て世帯への経済支援は重要だが、それだけでは不十分だ。子を持つかどうかは個人の選択で、少子化問題には複合的な対策が求められる。
正社員の長時間労働の是正や非正規社員との賃金格差縮小、女性への家事・育児負担の偏り解消などは、結婚や出産への障壁を減らすことにつながる。子育てをする人を孤立させず、社会全体で支えるという意識の醸成も不可欠だ。
国は1994年の「エンゼルプラン」策定を皮切りに、少子化対策を30年間実行してきた。それでも効果が出ていないのは、若い世代に寄り添い、不安に応える視点を欠いているからではないか。
2016年に初めて100万人を割った出生数は、今年70万人を下回る可能性がある。子どもを産む世代の人口は急減しており、傾向を反転させるのは難しい。
息の長い取り組みが必要だ。一人一人の生き方が尊重され、安心して子どもを産み育てられる。そうした社会の形を提示し、国民負担についても丁寧に説明するのが、政治の責務だ。
医療、介護、年金などの社会保障政策は国民の関心が高い。
政府は先に高齢社会対策大綱を6年ぶりに改定した。75歳以上の後期高齢者による医療費の窓口負担について、3割負担となる人の対象範囲の拡大を検討すると明記した。年齢にかかわらず所得に応じて負担を求めるのは妥当だ。その具体化を論じ合う絶好の機会である。
総裁選に立候補している加藤勝信元官房長官や河野太郎デジタル相は応能負担を進める考えを示し、小林鷹之前経済安全保障担当相は若年層の保険料軽減を訴えている。だが、いつまでに、どのように実行するのかについては踏み込んでいない。
医療や介護を巡っては、ほかにも林芳正官房長官が医療・介護のデジタル化(DX)推進を掲げ、石破茂元幹事長はDX化による「予防と自己管理を主眼とした医療制度」で医療費を適正化するとしている。DX化は必要であり、コスト節減効果もあろうが、安定的な財源確保策も語らなければ不十分だ。
年金制度改革では、小泉進次郎元環境相が厚生年金の適用拡大を訴えているほか、高市早苗経済安保担当相らは厚生年金を受給しながら働くと賃金に応じて年金額が減る「在職老齢年金」の見直しを掲げている。長く働くことを奨励しながら、働く人の年金を減らすのは理屈に合わない。働く意欲のある人が長く働ける社会にしたい。
政府は公的医療保険料に上乗せして徴収する支援金制度を創設する。岸田文雄首相は歳出改革などで「実質的な負担は生じない」と繰り返してきたが、詳細がよくわからない。候補者はこの問題でも、給付と負担のあるべき姿を示してほしい。
痛みと安心(2024年9月22日『高知新聞』-「小社会」)
血管に管を通して心臓にアプローチする―。今では広く普及した心臓カテーテルの技術は100年近く前、ドイツの25歳の研修医が自ら体を張って試みたとされる。後にノーベル生理学・医学賞を受賞するヴェルナー・フォルスマン。
彼は自分の腕に自らの手でカテーテルを入れ、それが心臓に達していることをエックス線で撮影、確認した。しかし当時、その実験は「危険で無価値と見なされて長年無視されていた」(坂井建雄著「医学全史」)という。それが今や多くの命を救う検査技術となっている。
その検査を何度か受けたことがある。局所麻酔をして手首付近からカテーテルを入れる。造影剤を注入すると体がカーッと熱くなるが、画像で冠動脈の状態は手に取るように分かる。
自分の体に何が起きているのか。それが分からないのは怖い。胸の痛みで言えば、血管が詰まりかかっているのか、一時的な痙攣(けいれん)か、それ以外か。検査結果を基に、医師から具体的な治療方針が示されればひと安心となる。
そんな人の体と同様、社会にも多くの病巣があり、さまざまな痛みが存在する。社会システムの劣化や制度の改悪で人の痛みが増すこともあろう。精密検査を要する病巣は年々増しているようにも思える。
(2024年9月21日『琉球新報』-「金口木舌」)
警察担当の記者をしていた頃、飲酒運転を疑似体験できるゴーグルをかけたことがある。目の前がゆがんで見え、平衡感覚がおかしくなった。だが、あくまで疑似体験。すぐに慣れた
▼基地問題などで激論が交わされるのかと思いきや、過去最多の9人が出馬したこともあって、演説会は1人10分間のスピーチのみ。基地や沖縄振興に関する政策も現政権を踏襲するようで、既視感が漂う
党と教団との関係は、さまざまな疑惑を残したまま、なお実態が解明されていない。
トップ同士が会っていたのが事実であれば「組織的な関与はない」と繰り返していた自民党の主張は根底から崩れる。
改めて徹底的な調査と経緯の検証が必要だ。
自民党総裁選の各候補者は、この問題から逃げずに正面から向き合わねばならない。
自民党への選挙支援を確認し、教団の歴史や活動の解説を受けたとの証言もあるという。
記者団の首相動静の取材に対し、同席者を公表しなかったとすれば、何らかのやましさを感じていたのではないのか。
同席したとされる萩生田氏や岸氏は、国会など公の場で事実関係を詳細に説明すべきだ。
岸田文雄首相は、この新しい疑惑を受けて記者団に「これまで国会答弁で再三説明した通りだ」と語った。
無責任にも程がある。自身も教団関係者と会った疑惑があったが「認識がない」と繰り返し、説明責任を果たそうとしてこなかった。
こうした態度を続けるようでは政治不信は到底拭えまい。
政権運営の公正性や公平性が揺らぎかねない。
自民党にとっては裏金事件に端を発した「政治とカネ」の対応と並ぶ根の深い課題である。
総裁選の候補者たちは、これを解決しなければ、国民の信頼回復は決して望めないことを自覚しなければならない。
幼い子がいる自民党総裁選候補が出馬表明で光る発言をした。「子どもたちの未来に責任を持つ政治家として今、政治を変えなければこの子たちの未来に間に合わない」。だが共感はすぐ幻滅に変わる。この候補は少子高齢化で揺らぐ社会保障の将来について何の抱負も語らなかったからだ。
人手が不足し、技術革新も進まず産業が競争力を失う。国内市場が縮んで製品は売れず、賃金も上がらず、経済成長率は長くゼロ近辺で停滞。原因を突き詰めるなら、世界でも突出する日本の少子高齢化・人口減少から全ては端を発している。
高齢化がほぼピークとなる2040年には20~64歳の人口が総人口の半分まで細り、働き手が高齢者をほぼ1対1で支える「肩車型社会」に近づく。彼らは日本の経済を回し、子育てをし、自分たちの老後に備え、親世代の医療、介護、年金も支える。過重な負担に耐えられるのか。
岸田文雄首相が言う「日本が直面する最大の危機」はこれを指す。持続可能な社会保障を将来に引き継ぐには改革が必要だ。その改革とは高齢化で膨らむ社会保障財政の健全化だ。それには給付抑制と負担増の議論から逃げることはできまい。
総裁候補たちは社会保障、少子化対策で何を語ったか。給付については「医療・介護のデジタル化で費用抑制」程度は言うが、あとは「給食費、こども医療費、出産費の負担をなくす」「教育無償化」など大盤振る舞いの提案ばかり目に付く。
負担面では、経済力がある高齢者は支え手に回ってもらって現役世代の負担を軽減する「応能負担強化」の意見は多い。だが原則1割である75歳以上の医療費窓口負担を3割とする対象の拡大など、政府が現に検討中の具体策には誰も触れない。
「防衛増税、子育て支援金負担それぞれ1兆円は停止」の公約も出た。税収増で今は国の財政に余力があり、今後も経済成長戦略で財源をまかなうとの主張だ。しかし少子化対策も防衛力強化もこの先ずっと続く課題だ。「財源は経済成長」は、安定財源とは対極の「出世払いで払う」に近い無責任な提案ではないか。結局、国債発行となれば子や孫にツケが回る。
立憲民主党の代表選候補らはどうか。「誰もが受けられる医療、介護などのベーシックサービス拡充」と給付増の提案は多い。一方、負担面は「金融所得課税、所得税、相続税、贈与税の累進性強化」と富裕層増税案はあるが、「時限的消費税率引き下げ」など負担減も目立つ。それで財政健全化が可能なのか。
12月2日で現行健康保険証を廃止し、マイナンバーカード保険証に一本化する政府方針については、自民総裁候補が「決めたスケジュールは守る」と「不安の声に応え見直す」に割れた。なぜ廃止強行が必要なのか。マイナ保険証利用率1割強の現状で、どうやって混乱なく移行できるのか。議論すべきは、そこだ。
冒頭の総裁候補は「改革プランは示した」として首相就任後すぐ衆院を解散し国民に信を問うと言う。だが解雇規制見直し、ライドシェア全面解禁などを1年以内に実現すると宣言しても、将来不安の解消を切に願う国民の声には応えていない。「信を問う」は、単なる人気投票では決してない。
解雇規制見直し 労働者の権利を守れるか(2024年9月19日『新潟日報』-「社説」)
労働者の権利が守られる見直しなのか。労使の根幹に関わる大きな課題である。多様な観点から議論を深めていかねばならない。
解雇規制の緩和は経済界の一部が求めており、労働市場の流動化により成長分野に人材を集め、国際競争力を高める狙いがある。
現在、経営悪化や事業縮小といった会社側の事情で労働者を解雇する場合は「解雇の必要性」「配置転換や希望退職の募集といった回避努力」「対象者選定の適正さ」「十分な説明」-の4要件を全て満たす必要がある。
小泉氏は4要件のうち回避努力の見直しを念頭に、リスキリング(学び直し)の提供や再就職支援を企業に義務付けることで、人材が移りやすくなるとする。
「非正規(労働者)の方が正規として雇用されやすい社会をつくっていきたい」と述べた。
労働者にどんなメリットがあるのかについて、小泉氏はもっと詳しく説明する必要がある。
ただ、この制度はこれまでも政府で検討されたが、導入のめどは立っていない。
現状でも好待遇が見込まれる成長分野であれば、おのずと人材は流れていくとの指摘がある。
労働者から「気に入らない社員を狙ったリストラに悪用されかねない」と危惧する声が出ているのも当然だろう。
労働団体の連合が支援する立民の代表選では、全4候補が解雇規制の緩和に反対している。
二つの党首選を通じ、各候補は働く人たちの現場の実態に目を向けた政策を練り、さらに活発な論戦を展開してもらいたい。
企業が従業員を解雇する場合の規制を見直すべきだという意見が、自民党総裁選の候補者から出ている。労働市場の流動化を加速するためだが、働く人たちの安心を損ないかねない政策でもある。ワンフレーズの説明にとどまらず、想定される運用や具体例を明示した議論を求めたい。
総裁選の記者会見や討論会で、小泉進次郎元環境相は、大企業に限って解雇規制の見直しを訴え、再就職のあっせんや従業員にリスキリング(学び直し)の支援を唱えた。河野太郎デジタル相も金銭支払いによる解雇の検討に意欲を示した。
解雇を巡るルールは判例の積み重ねで確立されてきた。(1)人員削減の必要があるか(2)解雇回避に努力を尽くしたか(3)解雇対象者の人選は合理的か(4)労働者と誠実に協議したか-という「整理解雇の4要件」すべてを満たさなければ解雇は認められない。
労働契約法16条も「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当だと認められなければ、解雇は無効だ」と規定している。
新卒で採用された社員が定年まで勤めるような「長期雇用」の慣行があり、従業員を安易に解雇できないルールが確立されている。だが最近はそれが日本企業の事業構造を硬直化させ、成長を阻むという負の側面が目立ってきた。
政府の規制改革会議や審議会などで繰り返し議論されてきた問題だ。経営側が解雇権を乱用する恐れもあり、労働側を中心に解雇規制の緩和に消極的な意見も強い。このため連合や野党の立憲民主党は反対している。
一方で、終身雇用と年功序列型の賃金が見直しを迫られているのも確かだ。転職をためらわない若者も増えている。少子高齢化に伴い、限られた労働力が成長産業に向かうように支援するのは当然だ。総裁選の候補者の多くは労働市場の流動化を支持する姿勢を示している。
だが解雇規制を経済的な利益だけで考えていいわけではない。安心して働ける環境を維持することは、社会を安定させる効果がある。解雇が横行し、思うように転職できない人が増えれば、労働者の不安は高まるだろう。
企業は事業を再構築する時、解雇を考えることがある。ただそれは撤退する部門の従業員を配置転換で吸収し、早期退職を促した上でのことだ。欧州の一部で導入されている「金銭解雇」も検討されたことがあるが、支払額の算定基準を決めるのが難しいとされる。
政府系の研究機関が、解雇無効などを求めて提訴した労働者の弁護士らに理由を聞いたところ、4割余りは「社会的名誉や自尊心を守りたかったから」と回答した。
たとえ大企業に限定するにせよ、成長戦略や労働市場の流動化だけでは語りきれない難しさをはらんでいる。住宅ローンのように長期雇用を前提にした仕組みも少なくない。そして実際には、これだけ厳しい規制があっても、不当な解雇が後を絶たないのが実態だろう。
学び直しや再就職支援だけなら、岸田政権の政策と変わらない。総裁選をきっかけに、解雇ルールを変更に導こうとするなら、もっと率直に構想を説明する必要がある。
働く人の安心と社会の安定を損なわない改革案を具体的に示さない限り、深度のある議論は始まらない。
数字が気になる(2024年9月18日『福島民報』-「あぶくま抄」)
「暑さ寒さも彼岸まで」。朝夕の風にやっと、秋を感じられる。季節の移ろいとともに、「数字」への関心が日ごと高まる。政治に、スポーツに
▼候補者9人の自民党総裁選。共同通信社が党支持層に電話調査したところ、上位3人の支持が27%、23%、19%で抜けていた。思惑が絡み、ゴールまで一転二転あるかどうか。海の向こうの形勢は63%対37%。米大統領選の候補者討論会は、思わぬ開きを生んだようだ。11月の投票に向け、差は広がるのか、反転するのか。命を狙ったとされる2度目の事件が影響するか否かも気になる
▼県議会からの支持・不支持は0―100の様相だ。兵庫県知事のパワハラや告発文書を巡る疑惑は収拾がつかず、19日に不信任決議案が提出される。可決され、選挙になれば費用は10億円を超すとの報道も。本県の被災地で復興業務に従事した元官僚だけに、どこかよそ事ではない
▼厳しい世論をよそに、知事は辞任を拒む。言い分はあろうが、混乱が続いては…。米大リーグでは、「50―50」の大記録達成が目前に迫る。フィフティフィフティには「折半」の意味も。どこかで自身に折り合いをつけ、県民のため塁を一つ進められないか。
法制審議会は28年前に導入を求める答申を出した。法務省で法案が準備されたにもかかわらず、国会での審議に至っていない。
家族の一体感が損なわれるとして保守派が強く反対し、自民党内の議論が進まないためだ。
確かに、社会生活で旧姓を通称として使える場面は増えた。運転免許証やパスポートなど公的書類にも併記できるようになった。
しかし、公的な手続きには戸籍上の姓が不可欠である。書類を書き換え、姓を使い分ける負担は重い。通称使用の拡大では、問題は解決しない。
特に海外ビジネスで支障が生じている。通称の使用はほとんど認められない。夫婦同姓を義務づけるのは日本だけとされ、外国では理解されない。
不利益を被っているのは主に女性だ。夫婦の95%が夫の姓を選ぶ現状がある。差別的な制度だとして、国連の機関から繰り返し、是正を勧告されている。
何より問題なのは、結婚によって改姓を余儀なくされ、自分が自分でなくなるとの喪失感を抱く人がいることだ。
氏名は、その人が社会で識別されるためのものであるとともに、人格の象徴だ。個人の尊厳に関わる問題である。
選択的夫婦別姓制度は、慣れ親しんだ姓で生きたい人の願いをかなえる一方、夫婦同姓を望む人たちの権利を損なうものではない。
誰もが個人として尊重される社会を実現しなければならない。党首選の論戦で問われているのは、政治家の人権意識だ。
足元の人手不足は人口減少で今後ますます深刻になる。克服するには、多くの働き手が成長分野へ移っていける社会を築かねばならない。日本全体の生産性を高め、持続的な賃上げを実現するためにも、柔軟な労働市場に変えることが急務である。
時代の変化に応じて雇用のルールを見直すのは重要だ。ただ解雇規制の見直しは大きな変更であり、丁寧な説明と議論が必要だ。
一方、河野太郎デジタル相が主張する不当な解雇に対する金銭解決制度は、9年前から議論されている。労働者の救済につながる仕組みとして制度化すべきだ。
スウェーデンは労使が協力して実用性の高い訓練メニューを作成し、企業は長期の実習を受け入れる。日本も政府主導で企業や労働組合を巻き込み、労働移動が進みやすい社会的な基盤を早くつくるべきだ。ハローワークの職業紹介の機能を民間に開放することも検討課題となる。
岸田文雄政権が積み残した課題についても議論を急ぐべきだ。同じ会社に長く勤めるほど退職金課税の控除額が大きくなる仕組みは、転職を妨げる要因になりかねない。パート従業員が社会保険料負担を避けるために働く時間を抑える「年収の壁」の問題も、抜本的な対策が欠かせない。
労働市場改革は長年の懸案であり、小手先の制度拡充では前へ進まない。次の首相は大胆な改革に踏み切るべきだ。
137兆8337億円。国民が2022年度に利用した年金や医療、介護、子育て支援などに充てられた社会保障給付費の総額だ。1人当たり約110万円。25年度予算概算要求の総額約118兆円を超える巨額の費用が、毎年必要になる計算だ。
その財源は社会保険料や税金。少子高齢化で制度を支える将来世代が減り、支えられる高齢者が増えている。安定財源を確保し、社会保障制度を将来にわたり維持するには、徹底した行政の無駄削減と、どの程度の負担を誰に求めるのか、議論を避けて通れない。
負担能力のある人に見合った負担を求める「応能負担」の考え方は重要だとしても、それだけで必要な財源は得られない。経済成長による税収増を充てるとしても、経済の先行きが不透明では必要額が確保できる確証はない。
安定した財源確保策とするには税と保険料の負担増に関する議論にも踏み込む必要がある。
泉健太代表と吉田晴美衆院議員は家計支援策として消費税率引き下げを訴えているが、消費税収は社会保障財源に充てられており、社会保障の水準維持を前提とした場合、消費税減税分は新たに財源を確保する必要がある。
政府による社会保障に関する意識調査では一定の負担増を「やむを得ない」と考える国民は6割を超える。負担増が妥当なら受け入れられることを示す数字だが、政権が行政や国会の無駄遣いを放置しては、負担増に対する国民の理解はとても得られない。
社会保障の将来像と負担のあり方についても、すべての税と保険料の使い方を見直す中で議論を深める。党首選はその好機である。
自民総裁選 沖縄演説会 負担軽減ほぼゼロ回答(2024年9月18日『沖縄タイムス』-「社説」)
自民党総裁選の地方演説会が那覇市でも開かれた。複数の候補者が県民所得の向上や子どもの貧困解消を訴えた一方、米兵による事件事故や米軍普天間飛行場の閉鎖・返還など基地問題解決に向けての具体策への言及はほとんどなかった。
総裁選は過去最多の9人が立候補。事実上、次期首相を決める選挙でもある。それにもかかわらず県内で開催された演説会で基地負担の軽減について語られなかったことは非常に残念だ。
演説会は各候補者が10分間、持論を述べる形式。沖縄担当相経験や現役の外相、基地負担軽減担当相を兼ねる官房長官など政権や党の要職が並ぶ中、多くが沖縄との関係の深さをアピールするのに時間を費やした。
茂木氏は首相になったら米大統領と会談し「返還期限を決める」と述べた。
上川陽子外相は唯一、米軍関係者による性犯罪に触れた。「二度と起こさせないとの厳しい姿勢で交渉に臨む」と強調した。
しかし外務省は、昨年12月に起きた少女の誘拐暴行事件を県に知らせず、その後も米兵による性犯罪は繰り返し発生した。事件事故防止を目的に創設する「フォーラム」もいまだに発足しておらず、言葉に内実が伴っているとは言い難い。
■ ■
米軍基地の集中は県経済を長年阻害し、県民生活に大きな影響を及ぼしてきたのである。
負担が軽減されなければどんな沖縄政策も上滑りすると知るべきだ。
■ ■
日本の安全保障は、本土の人たちが日米安保の負担を感じないで済むよう沖縄に基地を集中させることで成り立ってきた。
このまま日米の基地負担を沖縄に押し付けるようなやり方でいいのか。過重な負担を見て見ぬふりするような態度は許されない。
今回の総裁選は9人の立候補により、国会議員票の分散が予想される。より地方票が重みを増すだろう。誰が首相にふさわしいのか。問われるのは全国の党員・党友でもある。
2024党首選 経済対策・財政 成長重視だけで良いか(2024年9月17日『北海道新聞』-「社説」)
デフレからインフレへと急転換する今、物価高から暮らしを守りつつ、経済成長と財政健全化とのバランスをどう図るかは重要な政策課題だ。
ただし地道な分野への支援がおろそかにならぬか心配だ。農林水産業の苦境もデジタル化だけで上向くとは思われない。成長の果実を社会に分配する仕組みも示す必要がある。
だがライドシェアでも商機は都市部や観光地に偏り、過疎地の交通を担う仕組みにはない。地域格差を促す危うさがある。
税収増などで賄うというが、本来はその分を財政健全化に充てるのが筋だ。5年間43兆円という規模ありきの防衛予算の中身こそ再検証すべきだろう。
論戦が始まった自民党総裁選で、注目すべき大きなテーマに経済政策がある。
9人の候補者は「経済再生」「所得倍増」といった言葉を繰り返している。だが、これまでの政策の何を変え、今後どんな方向に進もうとしているのか、議論の大枠がいまひとつ見えてこない。
これは古いテーマではない。2013年からの大規模金融緩和策で本格化して以降、財政出動のあり方から成長戦略まで、影響はいまも続いているからだ。
だが結局、政策の方向性は曖昧なままに。物価高への対策では場当たり的に財政出動を重ねるばかりだった。長く続いた大規模緩和策は限界に達し、日銀は今年、利上げに踏み切っている。
転機を迎えたいま、総裁選を通じアベノミクスの功罪を整理しておくことが、今後の経済政策の土台として必要だ。
候補者の発言に、基本的な発想は見え隠れしている。
一方、河野太郎デジタル相は大きく膨らんだ国の借金と「向き合う必要がある」と訴え、財政規律を重視する考えを示す。
成長、分配、財政のあり方は社会の根幹である。もっと踏み込んだ議論を求める。
そもそも自民にとって改憲が、よりよい暮らしを実現する手段でなく目的となってはいないか。
自民は総裁選に先立ち、憲法9条に自衛隊を明記することなどを柱とした論点整理をまとめた。退陣表明した岸田文雄首相(党総裁)は「一気呵成(かせい)に議論を進めなければならない」と、新総裁に取り組みを引き継ぐよう求めた。
自民は結党70年の節目に当たる来年、党是としてきた改憲の国会発議、国民投票まで進めることを目指す。改憲に慎重な総裁候補はおらず、党の論点整理を尊重する姿勢を示している。支持基盤である保守層へのアピールを重視する意味もあるのだろう。
ただほかの候補者は同姓制度を維持した上で旧姓の通称使用拡大を提唱するなど別姓には慎重・反対の立場や、党内論議を見守る意向を示している。
1996年に法制審議会が制度の導入を答申してから30年近くがたつ。女性の社会進出が進み家族のあり方は多様化した。6月には経団連が働く女性の不利益を解消する観点から早期実現を求める提言書を公表した。
姓名は人格の根幹であり、結婚したからといって改姓を強いられるのは個人の尊厳を保障する憲法の精神にそぐわない。
経団連の調査では88%の女性役員が、旧姓の通称使用が可能な場合でも「何かしら不便さ・不都合、不利益が生じると思う」と回答している。
弊害の具体例として口座開設などの契約手続きのほか、海外のホテルを通称名で予約したため、チェックイン時にパスポートの姓名と異なるとして宿泊を断られたことなどを挙げた。
婚姻後の同姓を義務づけている国は日本だけとされる。別姓で「家族の絆や一体感が損なわれる」とする反対派の主張は、この点からして説得力を欠く。
選択的夫婦別姓は、別姓か同姓かを夫婦が選べる。別姓を強要する制度ではない。
一方で旧姓の通称使用は、戸籍上の姓と旧姓を使い分けるよう求めること自体が著しい不便や不利益の強要だろう。国際的に通用しにくい特異な考えであることを認識してもらいたい。
選挙のために一部の団体の主張に束縛され、社会全体の動向に目を向けていないとすれば、国民政党の看板が泣く。
子どもの姓をどうするかなどの論点は残っている。そうした課題を国会で解決し導入の環境を整えるためにも、与党第1党の議論の停滞は許されない。
党首選の論点 解雇規制の緩和 働き手の権利侵さないか(2024年9月16日『毎日新聞』-「社説」)
働き手の声に耳を傾けた上で打ち出した政策なのか。長く労使が対立してきた難題である。慎重に議論すべきだ。
自民党総裁選の論点に、企業が従業員を解雇する際の規制緩和が浮上した。小泉進次郎元環境相が出馬表明時に、従業員の学び直しや再就職支援などの措置を大企業に義務付けたうえで、解雇の要件を見直す案を提唱した。
経営不振を理由にした整理解雇を行う場合、配置転換など人員削減を回避するための対策を十分に講じるなど、四つの要件を満たす必要がある。判例で確立したルールだが、経済界が「厳し過ぎる」として緩和を求めていた。
解雇のハードルが下がれば、企業は事業の変化に応じて柔軟に従業員を入れ替えることができる。成長分野に人材が移り、産業の新陳代謝が進むという。
裁判や労働審判などの救済手段はある。しかし、一般の労働者はなかなか踏み切れない。利用は限られ、不当解雇が後を絶たない。
終身雇用や年功賃金を柱とする日本型雇用が変革を迫られているのは確かだ。若い世代では、転職でキャリアを積み上げる意識が高まっている。
ただ、労働規制の見直しには副作用もある。1990年代から働き方の多様化を掲げて緩和を続けた結果、非正規雇用が増えた。
小泉氏は、解雇要件をどう変えるのか明確に説明していない。企業による再就職支援が解雇の正当化に使われるリスクもある。経営側に有利な制度になれば、不利益を被るのは従業員だ。
最優先されるべきは、働き手の権利保護である。安易な見直しは将来に禍根を残す。
マンションにお住まいの方は先刻ご承知だろうが、管理組合の理事長や理事は、肩書こそ立派だが、誰もやりたがらない。週末の貴重な時間を潰して、何時間もマンションの懸案事項をああでもない、こうでもないと議論してなにがしかの結論を出さねばならないからだ。
▼特に駐車場などの設備が老朽化し、管理費を値上げせねばならない、といった住民に負担を求めるときは、「コスト削減できないか」「値上げ幅が大きすぎる」と、紛糾するのが常だ。しかも値上げ案を総会にかければ、必ず強い反対意見が出るばかりではなく、ときにはヤジも出る。
▼反対意見には「正論」が多く、ごもっともなのだが、ならばどうするか、という対案が野党同様、出ない。かつては、総会を円滑に進めるため「反対派」の頭目に飲ませ食わせした理事長もいたとかで、管理組合は小さな「永田町」なのだ。
▼ただ、ホンモノの永田町では、マンションの管理組合と違って、トップになりたいと、何人もが頼まれもしないのに手を挙げている。よほどの役得があるのではないか、というのは下種(げす)の勘繰りだが。
▼ただいま選挙戦真っ盛りの自民党総裁選には9人が、「我こそは党のリーダーにふさわしい」と名乗りを上げた。論戦も佳境に入ったが、ほとんどの候補は、「増税ゼロ」といった甘口のキャッチフレーズを口にしている。
▼未曽有の少子高齢化に直面しているこの国では、年金にしろ、子育て支援や防衛費にしろ、カネはいくらあっても足りない。葉っぱがお札に変わらない以上、どういう方法で国を富ますのか、具体策を聴かせてほしい。全国のマンション管理組合で繰り広げられているような真剣で現実的な経済論議を望みたい。
自民総裁選 沖縄演説会 平和創造の具体策語れ(2024年9月16日『沖縄タイムス』-「社説」)
公選法が適用されず、投票ができるのは議員や党員などごく限られた人だけ。いわば「内輪の選挙」であるが、事実上、次期総理を決める選挙でもある。
気になるのは、これまでの演説会でも討論会でも沖縄のことがほとんど取り上げられていないことだ。
演説会をあえて沖縄で開く以上、基地や経済を巡る次の疑問にも正面から答えてもらいたい。
(1)沖縄では戦後ずっと、米兵による性犯罪によって、女性の人権や尊厳が脅かされてきた。
1995年9月に起きた米兵による少女暴行事件から来年で30年になるが、米兵による性暴力事件は絶えない。
住民の安全をどのように確保するのか。その場しのぎの対策ではなく、具体的で実効性・永続性のある再発防止策を示してもらいたい。
(2)日本の安全保障は、本土の人たちが日米安保の負担を感じないで済むように、沖縄に基地を集中させることで成り立ってきた。
日米地位協定に基づく米軍の特権維持と、安保優先の構図は、実は今も基本的に変わっていない。
国土の0・6%に過ぎない狭あいな土地に、米軍専用施設の約7割が集中している現状はあまりにも異常である。
この状態を放置し続けることは許されない。差別的な安保政策はどのように改めるつもりか。
■ ■
(3)負担軽減の象徴と見なされてきた米軍普天間飛行場は96年4月、日米が「5~7年以内の返還」に合意した。
立ち止まって検証し見直す時期に来ているのに、なぜそれができないのか。
■ ■
岸田首相はこれまで、さまざまな場で繰り返し、過重な基地負担の軽減に取り組む考えを表明してきた。
だが岸田政権下で目に見えて進んだのは「南西シフト」による自衛隊強化である。
衆院は復帰50年に当たる2022年、本会議で「強い沖縄経済」と「平和創造の拠点としての沖縄」をつくる決議を採択した。
戦争への懸念が深まる中、沖縄は来年、沖縄戦80年の節目を迎える。イベントの寄せ集めではなく、「平和創造の拠点」にふさわしい施策を求めたい。
自民総裁選のハデなバトルで誰が生き残っても、この国では庶民が心穏やかに過ごすことは難しいのかも(2024年9月16日『サンケイスポーツ』-「甘口辛口」)
■9月16日 自民党総裁選の立候補者討論会を見ていて「何かに似ている」と思った。プロレスのバトルロイヤルだ。大勢のレスラーが入り乱れ生き残りをかける、見た目ハデな試合形式。周りはすべて敵で、まず誰を標的にして潰していくかの駆け引きが面白い。ちょっとでも油断すると思わぬ相手にフォールされてしまう。
討論会では候補者同士の質疑応答も行われ、世論調査で人気の小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長に質問が集中した。「両氏の支持をはがし差をうめる狙いが透ける」と党幹部。かと思えば総裁就任後の仲間作りを意識し同じ意見を持つ人を指名して〝秋波〟を送るなど、こちらも駆け引きはあからさまだ。
それはともかく、9人もいれば議論はかみ合わないままタイムアップは致し方ない。「アジア版NATO」や「選択制夫婦別姓」も大事な問題だが、なにか遠い外国のことのように聞こえる。深刻な物価高や、12月2日に迫ったマイナ保険証への強引な一本化など国民の関心事にはほとんど触れられない。
しかも、よくよく考えると「この人はいいこと言う。ぜひ総理に」とホレこんだところで、投票できるのは2年継続して年会費4000円を払っている党員(約109万人)だけ。いかにも民主的に見えても、一国民としてのアイデンティティーを発揮できないシステム。見た目はハデでもこれほど虚しいイベントもない。
お祭り騒ぎの陰では75歳以上の高齢者医療費が3割負担となる人の対象拡大や、マイナ保険証の悪評に懲りずマイナ免許証の来年3月運用開始がしれっと決まっている。バトルで誰が生き残っても、この国では庶民が心穏やかに過ごすことは難しいのかも…。(今村忠)
自民総裁選の討論会 刷新の具体像が見えない(2024年9月15日『毎日新聞』-「社説」)
自民党総裁選の立候補者討論会に臨む(左から)高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安全保障担当相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長=東京都千代田区の日本記者クラブで9月14日、手塚耕一郎撮影
これでは国民の政治不信も、暮らしへの不安も拭えない。
派閥裏金事件への対応で追い詰められた岸田文雄首相の後任を決める総裁選である。自民が「政治とカネ」の問題にどう向き合い、生まれ変わることができるのかが問われる。
自民党本部に掲げられた総裁選のポスターがデザインされた懸垂幕=同党本部で、平田明浩撮影
しかし、いずれの候補の主張も踏み込み不足だったと言わざるを得ない。
複数の候補が「新たな事実が出てきたら再調査する」と発言したが、ただちに実施しなければならない状況だ。
これまで使途の公開が義務付けられていなかった政策活動費を巡っては、多くの候補が公開時期の前倒しや廃止を主張した。
そもそも裏金事件で明るみに出たのは、不透明な政治資金の流れだ。カネのかからない政治をどう実現するかという本質的な問題に切り込む候補がいなかったのは、残念というほかない。
国民の不安を払拭(ふっしょく)するための政策提言も物足りない。少子高齢化や財政難などの現実を踏まえた経済政策の議論は低調だった。
外交・安全保障では、日米同盟が基軸であるとの立場は共通している。だが、中国との関係の将来像や、ウクライナ戦争などで揺らいだ国際秩序を立て直すために日本が果たすべき役割は明示されなかった。
27日の投開票まで、全国遊説などが予定されている。内憂外患が続く中、どのような国づくりを進めるのか。国民に向き合い、議論を深めるのが政権与党の責任だ。
総裁選討論会 気概だけで首相は務まらぬ(2024年9月15日『読売新聞』-「社説」)
内外の課題を克服しようという気概は感じられたが、総裁候補が唱えた主張は本当に実現可能なのか。疑問を感じるものも散見された。
他の同盟国に比べ、日本が米軍に提供している基地は広大で、駐留している兵力も最大だ。米国がアジアで利益を享受できているのは、日本の協力があるからだと丁寧に説明していく必要がある。
中国は巨額の支援で途上国から一定の信頼を得ている。ロシアと軍事協力を深めていることも軽視できない。そうした国際情勢や戦略を 緻密 ちみつ に分析することなく、トップ会談で何事も解決できると考えるのは、無理がある。
討論会では、解雇規制の見直しも論点となった。
小泉氏は、大企業が社員を整理解雇する際、学び直しや再就職支援を義務付ける案を唱えている。だが、この構想では働く人の意思に関わりなく解雇が可能になるため「簡単にクビにされるのでは」という不安の声が出ている。
構想は成長分野に人材を移動させる狙いがあるというが、成長分野とはどのような産業なのか。再就職支援といっても、働く人にも向き不向きがあるだろう。また、人材の流動化は既に転職が活発化するなど現実に進行している。
だが、その後も議論が続いているのは、家族のあり方を大きく変える可能性があり、社会を分断しかねないなど、簡単な問題ではないからだ。一刀両断で結論を出せば、禍根を残しかねない。
国家像と政策の論戦をさらに深めよ(2024年9月15日『日本経済新聞』-「社説」)
財政健全化へのスタンスは濃淡がある(14日、東京都千代田区)
自民党総裁選の立候補者による日本記者クラブ主催の討論会が14日に開かれた。9人の候補のスタンスが異なる重要課題が少なくなく、次期衆院選までにらんで国民に多様な選択肢を示したのは意義がある。骨太の政策論議をさらに深めてほしい。
まず問われるのは政治とカネの問題だ。各候補は、政党が議員に渡す政策活動費の廃止など政治資金の透明化を訴えた。石破茂元幹事長は派閥の裏金問題について「人々は全く納得していない」と述べ、総裁が先頭に立って実態解明を進めるべきだとした。
高市早苗経済安全保障相は日銀の利上げについて「はっきり言うと早い」と主張した。茂木敏充幹事長は岸田政権が決めた防衛増税と子育て支援金の追加負担は、経済成長による税収増や外為特会の活用などで賄えるとし「増税ゼロ」の公約を繰り返した。
これに対し、河野太郎デジタル相は「金利が上がっていくなかで政府債務の利払いが増えていく。財政はもう少しシビアにみていかなければいけない」と述べた。労働市場の流動化に向けた解雇規制の見直しや選択的夫婦別姓の導入でも意見が割れた。
経済成長を重視するのは当然である。一方で、国民の将来不安に正面から向き合い、財政の持続性を高めていくのも政治の責務だ。安定的な財源の確保策から逃げていては指導者としての力量を見透かされる。
中国や北朝鮮との向き合い方では、小泉進次郎元環境相が首脳会談による事態打開を提起したが、どの候補も具体的な道筋は示せていない。衆院選の時期に関しては小泉氏が早期の衆院解散を表明したのに対し、石破氏は予算委員会を開いて国民に判断材料を示す必要があるとした。
個別の政策分野では活発な議論が展開されたが、日本をどんな国にしたいのか、何が必要なのかといったビジョンがあまり聞かれなかったのは残念だ。
候補者は過去最多で、一人ひとりの発言時間には限りがある。今回は憲法改正に触れられず、突っ込んだ議論にもなりにくいのは否めない。それでも総裁選は実質的に首相を決める場であり、国家像や政策をぶつけ合う好機である。27日の投開票に向け、さらに活発な政策論議を期待したい。
テーマは政治とカネの問題や解雇規制、成長力の強化といった経済政策、原発を含むエネルギー政策など多岐にわたった。
総裁選告示後の論戦で大方の候補者は、防衛力の抜本的強化を始めた岸田文雄政権の安全保障政策を継承する考えを示している。今回の討論会では、それを掘り下げて論じることが期待されたが、そうはならなかったのは残念だった。
特に、覇権主義的な行動を改めない中国をどのように抑止していくのかを、候補者全員に語ってほしかった。
安保政策では、茂木敏充幹事長が、石破茂元幹事長が唱える「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」は現実的ではないと指摘した。石破氏は米国、オーストラリア、ニュージーランドを念頭に「環境が似た国同士から始めていくことは理論的に可能だ」と答えた。
だが、政府の憲法解釈は集団的自衛権の限定的な行使しか認めていない。NATOは集団的自衛権の全面的な行使を前提とする同盟だ。アジア版NATO創設には、日本の集団的自衛権の全面的な行使を認めることが必要で、憲法解釈の変更または憲法および関連法制の改正が前提となる。
いずれも時間を要する取り組みとなる。アジア版NATOは将来的な課題としてはあり得るかもしれないが、数年先の発生も懸念される台湾有事に備える政策とは言えない。石破氏は身近に迫る脅威から日本を守り抜く方策も語るべきである。
ベトナム戦争からの米軍の完全撤退を成し遂げたリチャード・ニクソン元米大統領は、著書『指導者とは』で、大胆にも指導者が周囲の「バカを許す」ことの意義について3点を挙げて説いている。日本だったら、他者を堂々とバカ呼ばわりするとは何事だと叱られそうである。
▼「第一、指導者は随(つ)いてくる者を必要とするが、そういう人々の中には指導者がバカとしか思えない考えを持つ人が大勢いる」。赤裸々な物言いだが、多くの支持者の中には愚かな考えや、思い込みにとらわれた人がいても仕方がないということか。
▼次の指摘も重要だろう。「第二、バカと思って追いやった人が、実はバカでも何でもない可能性がある」。風貌や話し方がさえなくても、実は能力が高い人も考えが深い人も珍しくない。そういう人を安易に遠ざけたら、指導者にとって損失となる。
▼指導者には、誰からでも学ぶ謙虚さも必要である。ニクソン氏はこう締めくくっている。「第三、たとえほんとうにバカであっても、指導者はその人から何かを学べるかもしれない」。身もふたもない言いようだが、「我(われ)以外皆(みな)我(わが)師(し)也(なり)」(作家の吉川英治さん)の精神だといえる。
▼実質的に日本の次期首相を選ぶ自民党総裁選の論戦が始まった。史上最多の9人が出馬した乱戦となったが、各候補の優先政策や物の見方、問題をどこまで深掘りして考えているかがうかがえて、目が離せない。あえて「バカ」とは言わないが、抄子のような凡愚の民の言葉も受け入れる包容力を持つのは誰か。
自民・立民W党首選 防衛予算倍増 規模ありき正してこそ(2024年9月14日『東京新聞』-「社説」)
岸田文雄政権は「防衛力の抜本的強化」を名目に、2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円とし、27年度にGDP比2%にまで増額させる方針を決定。防衛費は第2次安倍晋三政権前の12年度の約4兆7千億円から、25年度には概算要求で約8兆5千億円にまで膨らんだ。
財源の一部は、所得、法人、たばこ3税の増税で賄う方針だ。
両氏とも防衛費倍増自体に反対しているわけではない。政府・与党が22年12月に増税方針を打ち出す際、幹事長、閣僚としてなぜ同意したのか甚だ疑問だ。
他の候補は増税方針を変えないとしつつも、増税時期には言及していない。現状で増税は難しいと考えているなら、防衛費の適正規模も含めて議論し直すべきではないか。国政選挙後に増税時期を決定するのは国民に不誠実だ。
「集団的自衛権の行使」も違憲と明言するが、政権に就いた後、直ちに安保政策を転換すると言明する候補はなく、自民との違いは必ずしも鮮明でない。各候補は軍事偏重の自民党とは違う安保政策を競い合うべきでないか。
安倍政権以降の防衛強化は必ずしも抑止力の向上につながらず、周辺国との軍拡競争を加速させている。自衛隊員のなり手不足や不祥事も相次ぐ。防衛費を増やして最新の防衛装備を導入しても、人員不足では無駄遣いに終わる。
周辺情勢を緊張させず、国力にも見合った防衛力の水準はどの程度か。両党首選には規模ありきを正す建設的な議論を求めたい。
自民総裁選告示 1強のひずみ総括せよ(2024年9月13日『北海道新聞』-「社説」)
自民党総裁選が告示された。
裏金問題はなお真相がはっきりせず、再発防止策も中途半端だ。新総裁はその重い課題に真正面から取り組み、国民の信頼を回復できるかが問われる。
総裁選では1強政治を総括し、どう改めるべきかを議論しなければならない。
きのうの所見発表演説会で、各候補は「信頼回復に全力を挙げる」「党改革を断行する」などと訴えた。だが裏金の実態解明への言及は皆無だった。
今回は石破、小泉両氏以外、全員が岸田政権の閣僚や党幹部経験者だ。特に現職の候補は裏金問題に対処できず、政治不信を高めた当事者とも言える。
自らに重い責任があり、その反省なしには先に進めないことを肝に銘じなければならない。
これまでの議論では、岸田政権の重要政策を手のひら返しするような主張も目立つ。
異論があれば政権内でそれを反映させられる立場だったはずだ。なぜ方針転換したのか、これまでの主張と矛盾はないか明確に説明しなければならない。
安倍、菅、岸田の3政権に共通したのは強権的な手法だ。重要政策を独断で決める国会軽視や、意に沿わぬ者を排除する人事権の横行は目に余った。
権力の扱いは抑制的でなければならない。各候補はこうした問題に答えを出すべきだ。
新総裁は国会議員と党員・党友の投票によって27日の党大会で選出され、10月1日に召集見込みの臨時国会で首相に指名される。
総裁選に立候補したのは、高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長の9人。
立候補制になって以降では、2008年と12年の5人を上回る最多となった。裏金事件を受けて派閥の解消が相次いだことで、総裁選出馬や支援候補に対する過剰な縛りが解けたためだ。
派閥の力学が通用せず、多様な視点で議論できるようになった点は評価できる。だが上位2人の決選投票になれば、票を回して一方の勝利を確実にし、政権への影響力を残そうと派閥の枠組み復活を狙った言動が伝わる。
議員一人一人が自らの見識に基づいて投票してこそ、自民が誓った派閥との決別が証明できると心すべきだ。
自民は総裁選後、早期の衆院選を模索している。このため「党の顔」である総裁選びでは、人気の高低が基準になるとの見方が専らだ。
しかし、最も重きを置くべきは当然、候補が掲げる政策の当否である。
岸田政権以前から重要視されてきたテーマが並んだのは、これまでの政府、自民の取り組みに国民が不満を持っている証左と言える。
各候補には、これらの懸案の処方箋を具体的に示してもらいたい。出馬表明時や立候補届け出後の演説会でも言及はあったが、実現可能性に疑問符が付く主張もあった。
政策遂行に際し、さらなる国民負担が避けられないと考えるなら、率直に語るべきだろう。聞こえの良い訴えがかえって国民の疑念を招くのは、岸田首相の政権運営を見ても明らかだ。
外交・安全保障分野でも課題を抱えている。新たな大統領が選ばれる米国と地位協定問題などでどう向き合うのか、中国や北朝鮮との関係は改善できるのか。いわゆる敵基地攻撃能力の保有まで踏み込んだ防衛力強化策や財源は妥当なのか。
各国首脳と渡り合う首相の信念や手腕に左右される分野でもある。各候補には説得力ある論戦を求めたい。
ただ、政策を前に進めるには、裏金事件で増幅した政治不信を解消し、国民の理解と協力を得なくてはならない。
多様性を見せても総裁選は結局、裏金事件にふたをして自民内で権力をたらい回しする「疑似政権交代」に過ぎないのか。各候補が演説会などで強調した政治改革の決意に基づく方策と実行力が何より問われよう。
「選挙の顔」に適した候補者が国のかじ取り役にふさわしいとは限らない。国民の歓心を買う聞こえのよい訴えばかり並べる候補者は責任ある姿勢から程遠い。衆院早期解散を公言する声もあるが気が早過ぎよう。
根が深い「政治とカネ」問題、内外に山積するさまざまな課題…。その解決策を明確に訴え、真摯(しんし)に取り組む新しいリーダーを選ばなくてはならない。
立候補制が導入された1972年以降で、最多だった2008年と12年の5人を大きく上回った。裏金事件を受け解散方針を決める派閥が相次ぎ「派閥の締め付けが緩んだ」との見方もある。
女性候補は21年の前回選と同じ2人だった。年代別では40代の若手候補が2人。多様な顔触れがそろったといえよう。
退陣表明を受けて岸田政権の閣僚、党役員から5人が立候補している。岸田政権の支持率が低迷していることを意識してのことだろうか。そうした候補者から政策の見直し、修正を訴える声も出始めた。
驚いたのは、岸田政権を支える立場にあった候補者から防衛増税と子育て支援金の保険料追加負担を取りやめるとする発言があったことだ。これに対して同調する候補者がいた一方、「岸田政権の決定を踏襲したい」とする候補者が現れるなど、告示前から論戦が始まっていた。
派閥裏金事件を巡ってもさまざまな訴えがある。「政治資金収支報告書への不記載相当額を国庫返納」「政策活動費廃止」「公認を厳正に判断」などだ。ただ実施時期や具体的な方法などは示されておらず、どこまで本気で実現しようとしているのかは見えない。
候補者乱立により、1回目の投票でどの候補者も過半数を獲得できない可能性が高く、上位2人による決選投票にもつれ込むのは必至の情勢といわれる。そのため、決選投票での議員票獲得を意識して、以前の発言を軌道修正する候補者もいる。
1回目の投票では派閥の締め付けが緩やかでも、決選投票も同じとは限らないとの見方もある。そうした動きに対して国民の厳しい目が向けられていることを忘れてはならない。
投開票は27日。15日間の選挙期間は現行の総裁公選規程が設けられた1995年以降で最長。候補者9人の主張に耳を傾け、選択するにはある程度の期間が必要だ。国民本位で政権を担おうとするリーダーを見極めてもらいたい。
菅義偉前首相の退陣を受けた2021年の自民党総裁選で、岸田文雄首相が掲げたフレーズが「信なくば立たず」だった。人民の信頼なしに政治は成り立たないとの意味。孔子が弟子に語った政治の要諦として、よく知られている
▼自ら発した言葉に沿うように、派閥裏金事件で国民からの信頼を失った岸田氏は退陣に追い込まれた。裏金の実態解明にも、政治改革にも踏み込みが甘かった
▼総裁選が告示された。ここまでの経緯を踏まえると過去最多9人の候補にまず問われるべきは、信頼をいかに取り戻すかだ。不透明な政策活動費の廃止などに言及した候補もいる。法改正の審議で自民が後ろ向きだったのに、今になって言うかとの思いもあるが、議論が活発になること自体は結構だ
▼事実上、次の首相を決める選挙である。どんな論戦が繰り広げられ、誰をリーダーに選ぶのか。投票するのは党所属国会議員や党員らとはいえ、他の有権者にとっても自民が本気で生まれ変われるかは重要な点といえよう
▼国連で軍縮問題を担当し各国のリーダーを見てきた中満泉事務次長は、著書「未来をつくるあなたへ」でリーダーに求められる四つの資質を示している。歴史を理解し未来を考える、大転換を恐れない、多様な意見に耳を傾ける、常に誠実である―。中学生向けに書かれたものだ
▼告示後の演説会では、9人が政治改革や政策を熱っぽく語っていた。信頼に足るのか。選挙戦での討論などを通じて見極めたい。
国会議員、党員はその重責を自覚し、選挙の顔ではなく、この国のかじ取りを担うに最もふさわしい人物を選ぶ必要がある。
自民党総裁選が告示された。パーティー裏金事件を受けた派閥の解消の流れに伴い、現行制度となった1972年以降で最多の9人が立候補する異例の混戦だ。当選12回のベテランや40代の若手、女性など、幅広い選択肢が示された点は評価できる。一方、候補者が多いことで、政策を国民に丁寧に説明する機会や時間が十分確保できないのではとの懸念もある。
まずは「政治とカネ」を巡り失墜した政治への国民の信頼をどう取り戻すか、その道筋を具体的に示すことが重要だ。一部の候補者は、使途公開が不要の政策活動費の廃止などを打ち出している。しかし、野党が廃止を求める企業・団体献金については踏み込んだ発言はなく、裏金事件の実態解明にも消極的な姿勢が目立つ。
最近の国会は政治とカネを巡る問題に終始し、重要な課題と向き合う時間が失われている。政治の安定には、こうした現状を打開することが不可欠だ。各候補者は抜本的な改革案と、それを実行する決意と覚悟をみせてほしい。
景気や物価高、年金・医療、人口減少、防災など国民生活に直結する課題が主な争点となる。次の国政選挙を見据え、国民受けする政策を唱えるだけでなく、政権政党としてこれまでの取り組みを検証することが重要になる。
政策を展開する上で財源の問題や、今後の財政健全化の取り組みについても議論を深めるべきだ。
1回目の投票は国会議員票367票と地方票367票の合計で争われる。しかし今回は1回目で過半数を獲得する候補者が出ず、上位2人による決選投票になる公算が大きいとみられる。
決選投票は議員票の比率が高いため、政策論争から離れ、旧派閥単位の動きが復活するとの指摘もある。利権や人事が複雑に絡み、「数の力」による旧態依然の総裁選となれば、党勢は回復できないことを肝に銘じるべきだ。
これまでの各候補者の発言などを聞く限り、東日本大震災と原発事故からの復興について具体的な発言が影を潜めている。福島市で15日に候補者の演説会が開かれる。本県の現状や課題を的確に把握し、復興を加速させる具体的な施策を示すよう求めたい。
【自民総裁選告示】実行力見極めねば(2024年9月13日『福島民報』-「論説」)
自民党総裁選は、27日の投開票に向けた論戦が始まった。過去最多の候補者9人は政治改革、改憲、防衛、経済、雇用対策ほか幅広の独自策を競い、百家争鳴にぎやかだ。新総裁の選任、首相就任を経ての衆院解散・総選挙が取り沙汰されている。公約の実現性と実行力は果たしてあるのか。党員・党友や世論の歓心を買いたいがための政策はないか。各候補者の主張を見極めねばならないだろう。
焦点の政治改革を巡っては驚くばかりだ。使途公開義務のない政策活動費について、複数候補が廃止に言及している。先の通常国会で、野党の追及を一貫してかわし続けた姿は記憶に新しい。領収書の公開を10年後とする対応は実効性が疑われ、国民の批判を浴びながらも、政策活動費を温存させた経緯がある。
一転して廃止をうたうなら、派閥の裏金事件で政治不信が極まる渦中でなぜ、本気で実現へ動かなかったのか。経緯をぜひ聞きたい。
防衛力の抜本強化、異次元の少子化対策の財源確保で、増税中止に転じた候補者は党中枢に身を置く。「ちゃぶ台返しだ」との党内の反発にもさらされている。岩盤保守層の反対が根強いとされる選択的夫婦別姓は、容認論がにわかに目立ち始めた。
国会での熟議に欠ける現政権と党の増税方針、選択的夫婦別姓導入に消極的な姿勢に対し、各種世論調査は厳しい結果を示している。国の安全保障と国民の社会活動に関わる大きな問題だ。公約に据えたのならば、党内の異論を払拭する確約と道筋を明確にする必要がある。
臨時国会での首相就任後は内政だけでなく、ウクライナやパレスチナ問題などで分断された国際社会への対応を迫られる。総裁選は米国、中ロ、北朝鮮をはじめ、存在感を増す新興・途上国への外交力も踏まえた選択が求められる。
脱派閥を体現できるかどうかも問われている。候補者が林立し、党の既定路線を超える公約が相次ぐのは、派閥廃止で発言の自由度が増した結果でもある。舞台裏では、決選投票を見据えた旧派閥、党の重鎮らによる旧来型の主流派争いも語られている。新生自民党をつくる覚悟と胆力はあるのか。看板の掛け替えにとどまるのか。動向も注視していきたい。(五十嵐稔)
自民総裁選に9氏出馬 裏金から逃げない論戦を(2024年9月13日『毎日新聞』-「社説」)
過去最多の9氏が立候補を届け出たのは、麻生派を除く5派閥が解散を決め、締め付けが弱くなったためだ。27日の投開票まで、全国遊説や討論会が行われる。
自民党本部に掲げられた総裁選のポスターがデザインされた懸垂幕=同党本部で2024年9月2日午後1時18分、平田明浩撮影
まず「政治とカネ」の問題だ。
政治資金規正法が改正され、不透明だった政策活動費の使途は、10年後に公開されることになった。各候補は公開時期の前倒しや制度自体の廃止など改革姿勢をアピールする。一方、裏金問題の実態解明は置き去りのままだ。
注目すべきは、裏金作りに関わった衆参80人以上に上る議員の処遇である。4月の処分で、離党勧告や党員資格停止となったのは計5人にとどまり、額が500万円未満の議員は口頭注意で済まされた。けじめがついていない中、次期衆院選で公認するかどうかが問われる。
石破茂元幹事長は「徹底的に議論されるべきだ」、小泉進次郎元環境相は「厳正に判断する」などと言うだけで、具体的な対応は明言していない。高市早苗経済安全保障担当相ら5候補の推薦人には、裏金議員が名を連ねている。
政策論争では、岸田政権を支えてきた候補から、国民に不人気な政策について、これまでの方針を覆すような主張も目に付く。
なぜこれまで声を上げてこなかったのか。今になって方針転換するのは、国民受けを狙ったと見られても仕方あるまい。
選択的夫婦別姓制度の導入も論点となりそうだ。自民保守派には反対が根強いが、世論の支持が広がる中、国民の関心に応える論戦を展開してもらいたい。
政治に対する信頼なしに、政策の実行はおぼつかない。党を刷新するのであれば「政治とカネ」から逃げることがあってはならない。
自民総裁選告示 日本の針路を大局的に論じよ(2024年9月13日『読売新聞』-「社説」)
◆国難克服へ何を守り何を改める◆
日本が抱える様々な課題にどう対処していくのか。各候補は政治理念や国家観を明らかにし、経済財政運営や社会保障、外交・安全保障政策について、説得力のある主張を展開してもらいたい。
◆現行制度で最多の9人
9人が出馬するのは、推薦人が必要になった1972年以降で最多だ。その分、各候補が唱えている政策は多岐にわたっている。
その中には、思いつきのような構想が散見される。社会に重大な影響を及ぼす政策がいとも簡単に実現できるかのように語られているケースもある。
政権中枢で政策決定に関与したにもかかわらず、政策をひっくり返すような発言もあり、不安を覚えざるを得ない。
それが可能ならば、なぜ現政権で実行しないのか。仮に今後、経済が成長したとしても、その増収分は別の政策に必要なはずだ。
解雇規制の緩和は、経済界が長年、求めている労働市場改革だ。成長分野に人材を振り向ける狙いがあるとされるが、そうした制度を整えなくとも、若い世代は職場が変わることへの抵抗感が薄く、すでに転職は活発化している。
それとは別に、本人の意思にかかわらず、企業側の都合で働く人の生活の糧を奪うことを安易に認めれば、社会不安が高まりかねない。職業生活が不安定化し、結婚や出産をためらう人が増えて少子化が進むことにならないのか。
◆夫婦別姓は必要なのか
夫婦が結婚する際、同姓にするか別姓にするかを選べる「選択的夫婦別姓」の法制化も、論点の一つになっている。小泉氏が口火を切って導入を提唱した。
別姓制度は、女性が結婚を機に夫の姓に改めることで不都合が生じているとして、経済団体などが法整備を求めている。
ただ、夫婦が別姓を選んだ場合、子供は両親どちらかの姓となる。その場合は不都合はないのか。
親子の姓が分かれれば、家族の一体感が損なわれ、子供の成長過程に支障を来す恐れも否定できない。親の視点だけで判断していい問題なのだろうか。
小泉氏は、選択的夫婦別姓など様々な改革を「圧倒的なスピードで決着をつける」とし、1年で断行すると述べている。
だが、国民生活や社会に大きな影響を与える改革を時の勢いで推し進めるべきではない。改革の効果と弊害を慎重に検討し、幅広い合意を得ることが不可欠だ。
改革すべき問題と、守るべき価値をどう分けるか。冷静に議論し、誤りなき道を選びたい。
◆外交政策が問われる
そうした状況にもかかわらず、9人の候補が外交・安保政策のあり方について、十分に発信しているとは言えない。
将来にわたって日本の平和と安全を守り続けるには何が必要か。国際社会に安定を取り戻すために、どのような役割を果たすべきか。議論を深めねばならない。
経済の転換期に長期的な視点の論戦を(2024年9月13日『日本経済新聞』-「社説」)
日本経済は転換期にあり、金利のある世界や経済安全保障の時代にどのような経済運営や政策展開を考えていくのか。長期的な視点に立った骨太の論戦を期待したい。
立候補したのは届け出順に高市早苗、小林鷹之、林芳正、小泉進次郎、上川陽子、加藤勝信、河野太郎、石破茂、茂木敏充の各氏。派閥の縛りがなくなり、世代やジェンダーの観点から多様な候補者がそろったのは好ましい。
投票できるのは自民党の国会議員や党員・党友だが、その判断には世論が反映されよう。各候補は党内だけでなく、広く国民を向いた論戦を展開してほしい。
日本経済は30年続いたデフレを脱し、物価が安定的に上昇して金利のある環境に入りつつある。そこでまず求められるのは、物価上昇を上回る所得の向上を実現するための成長戦略である。
王道は規制改革を通じ、民間主導で生産性を高めることだ。一方で経済安保の下、各国で産業育成に政府が巨額の資金を出す競争も起きている。軸足の置き方は各候補で濃淡があり、成長の道筋をどう描くか、議論を深めて長期展望を示してほしい。
低金利下で緩んだ財政規律をどう取り戻すかも課題だ。岸田政権は防衛力強化や少子化対策で安定財源の確保を先送りした。各候補の言及も少なく、増税ゼロを掲げる候補までいるのは残念だ。社会保障財源の消費税も含め、負担増の議論を避けていては将来に責任を持つ指導者といえない。
国民の信頼は政策遂行の基礎である。自民党はそれを政治資金問題で失い、多くの国民にこれまでの対策では不十分だとみられている。新首相は程なく衆院解散・総選挙に踏み切る公算が大きいという。政治とカネの問題をないがしろにしているとみられれば、総裁選に勝っても衆院選でしっぺ返しを受けかねないだろう。
自民党総裁選が告示され、過去最多の9人が立候補した。
多くの派閥が解散を決め、名乗りを上げやすい環境になったことなどが背景にある。投開票は27日で、岸田文雄首相の後継選びだ。
転換期を担う自覚持て
ロシアが侵略するウクライナ、紛争の絶えない中東を除き日本は世界で最も厳しい安全保障環境にある。冷戦期の東西対立の最前線は欧州だったが、現代のそれは日本を含む北東アジアである。先進7カ国(G7)の一員である日本には、自国の防衛に加えて、地域と世界の平和と秩序を守る責務がある。
経済では、成長力強化が急務だ。「失われた30年」とされる長期停滞から真に脱却できるかが問われている。人口減少への対応や持続可能な社会保障制度の改革も待ったなしだ。
候補者は重大な転換期に政権を担う自覚を持ち、志と具体的な政策を語らねばならない。早期の衆院解散・総選挙が想定されるが、聞こえのよい政策を羅列するだけでは無責任の誹(そし)りを免れない。選挙後の政権運営の構想と実行力こそが重要だ。
今や、誰が首相になっても同じという時代ではない。
安倍晋三元首相は「自由で開かれたインド太平洋」構想を世界に提示し、限定的ながら集団的自衛権の行使容認を実現した。菅義偉前首相は米国とともに「台湾海峡の平和と安定の重要性」を打ち出した。岸田文雄首相は5年間の防衛費43兆円、反撃能力の保有を決め、防衛力の抜本的強化を開始した。
候補者は岸田氏が語った「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」という危機感を共有し、安倍氏以来の外交安保政策の確実な継承と発展を約束すべきである。高市早苗経済安全保障担当相が提案した内閣情報局、内閣情報会議創設は日本と国民の安全を高めるだろう。
台湾有事は令和9(2027)年までにあるかもしれないと懸念されている。抑止力と対処力向上へ残された時間は短く、理念的な法改正に走っている余裕はない。米国との同盟や有志国との協力を強めつつ、地に足の着いた防衛、国民保護策を推進すべきである。
一方で、千年、二千年の視野で日本を守るため、安定的な皇位の継承策を整えたい。岸田内閣は、男系男子による継承を堅持する内容の報告書を国会へ提示した。自民は報告書に賛同している。男系(父系)継承を一度の例外もなく貫いてきた皇統を守らねばならない。
男系継承の皇統を守れ
争点の一つに選択的夫婦別姓導入の是非がある。家族や社会のありように関わる問題だ。国民的合意を欠いたまま結論を急げば、社会に分断を招く。
選択的夫婦別姓が導入されれば、姓は砂粒のような個人の呼称へと変貌しかねない。世代を重ねていく家族の呼称としての姓でなければ、姓を名乗る必要があるのだろうか。
夫婦別姓は片方の親と子の別姓でもある。祖父母らも絡み、家族の歴史や絆が断ち切られ、戸籍制度も揺らぐ。「選択的」といっても個人の自由の問題ではない。小泉進次郎元環境相は1年以内に実現したいと語ったが、賛成できない。旧姓使用の充実で対応できる話だ。
「政治とカネ」を巡る問題は重要だ。信頼を回復しなければ自民は強い政策推進力を保てまい。再発防止や政治資金の透明性確保はもちろん、派閥解散に伴う党内統治の在り方も含め政治改革論議を深めてほしい。
国内外で政治家を狙うテロが相次いでいる。遊説警備に万全を尽くしてもらいたい。
交通安全の標語にもなりそうな五七五がある。「飛び出せば、スルメになって干されるぞ」
▼昭和57年秋の自民党総裁選を前に、田中角栄元首相が発した言葉だという。当時の鈴木善幸首相は求心力の低下に苦しみながらも、総裁選での再選が有力視されていた。そんな情勢をよそに、田中氏の目には政敵の福田赳夫元首相に返り咲きの野心ありと映った。「福田とは妥協しない。干してやる」
▼鈴木政権の閣僚だった中曽根康弘氏が、目の前で聞いた田中氏のつぶやきを自著に書き留めている(『自省録』)。先の五七五も、福田氏への当てこすりだったらしい。その後、鈴木首相の唐突な退陣表明により、総裁選は現職の首相が出馬を見送る事態となった。中曽根氏は田中派などの支援を得て制し、約5年に及ぶ長期政権の一歩を踏み出している。
▼今年の総裁選は、再選を諦めた岸田文雄首相の跡目争いという構図は同じでも、「飛び出すな」から「飛び出せ」へと潮目が変わったことに時代の流れを感じる。政治とカネの問題をしおに岸田氏が自ら派閥解散の流れを作り、史上最多となる9人の立候補を促した。人気投票でなく、政策や政治理念を競い合う中で、新しい党の姿を見せられるだろうか。
▼損なわれた政治の信頼を取り戻すのはむろん大事である。国際情勢が厳しさを増す中、世界で日本がどう先導的な役目を果たすのか、あるべき国家の姿についても語ってほしい。まど・みちおさんに『するめ』と題した詩がある。<とうとう/やじるしに なって/きいている/うみは/あちらですかと…>
▼負けて干されるのを怖がる候補者は一人もいまい。堂々と政見を戦わせ、日本の行くべき針路を矢印で示してもらおう。
報道各社の世論調査で、有力候補とされる小泉進次郎元環境相が「議論ではなく決着をつける時」「私が総理総裁になれば、選択的夫婦別姓を導入する法案を国会提出し、党議拘束をかけず、法案採決に挑む」と明言したからだ。
現行民法は夫婦に同姓を義務付けている。「夫または妻の氏を称する」と定めてはいるものの、夫婦の多くは女性が改姓しているのが実情だ。
夫婦が結婚後、同姓とするか別姓とするかを選べる選択的夫婦別姓制度は、法制審議会(法相の諮問機関)が1996年、導入を求める民法改正要綱を答申したが、伝統的家族観を重視する自民党内保守派議員の反対で長年、導入が見送られてきた経緯がある。
しかし、女性が結婚後も働くことが当たり前の時代になり、改姓に伴う負担やリスクが大きいとして、主に女性から選択的夫婦別姓を求める声が大きくなった。世論調査でも容認論が多数。経団連が今年6月、選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める提言を発表するなど経済界も積極的だ。
総裁選候補者のうち、小泉氏のほか石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相が選択的夫婦別姓制度の導入に前向きなのに対し、高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保担当相らは、通称使用の拡大で改姓の不都合はないとして慎重な立場をとっている。
立憲民主党代表選の4候補はそろって選択的夫婦別姓制度の導入を主張。代表選では争点化していないが、自民、立民両党の党首選が並行して行われることで、選択的夫婦別姓を党全体で推進する立民と、一部に根強い抵抗勢力がある自民との対比が際立っている。
選択的夫婦別姓制度を認めるか否かは、夫婦が結婚後、同姓とするか別姓とするか選べるということにとどまらず、これまで女性の活躍を阻んできた伝統的家族観を変え、女性への差別をなくし、女性の自分らしさを大切にする人権の問題にほかならない。
選択的夫婦別姓制度の早期導入を巡り、自民内で、そして自民、立民両党間で議論がさらに深まることを期待したい。
総裁選に立候補したのは高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長の9人。立候補制になって以降では2008年と12年の5人を上回る最多となった。これは裏金事件を受け派閥の解消が相次いだことで、総裁選出馬や支援候補に対する過剰な縛りが解けたためだ。
派閥の力学が通用せず、多様な視点で論戦できるようになった点は評価できよう。ただ、上位2人の決選投票の段階で、票を回して一方の勝利を確実にし、政権への影響力を残そうと派閥の枠組みの復活を狙った言動も伝わってくる。議員一人一人が自らの考え、見識に従って投票してこそ、自民が誓った派閥との決別が証明できると心すべきだ。
自民は総裁選後、早期の衆院解散を探っている。このため「党の顔」である総裁選びでは人気があるかないかが基準になるとの見方が専らだ。だが、最も重視すべきなのは当然、候補が掲げる政策の当否であることは論をまたない。
それにもまして重要なのは政策を前に進めるためにも、裏金事件で増幅した政治不信の解消だ。多様性をいかに見せても結局、裏金事件にふたをして自民内で権力をたらい回しする「疑似政権交代」に過ぎないのであれば、国民の理解と協力は得られない。各候補が演説会などで強調した政治改革の決意に基づく方策と実行力が何より問われる。
政策面でいえば、共同通信社の8月の世論調査で、総裁選で議論してほしい課題のトップは「景気・雇用・物価高対策」。次いで「年金・医療・介護」「子育て・少子化」の順だった。岸田政権以前から重要視されてきた課題であり、これまでの政府、自民の取り組みに国民が不満を持っていると捉えるべきだろう。各候補はこれらの懸案の処方箋を具体的に示す必要がある。出馬表明時や立候補届け出後の演説会でも触れていたが、実現可能性に疑問符が付く主張もあった。
政策遂行に際し、さらなる国民負担が避けられないと考えるなら、聞こえの良い訴えがかえって国民の疑念を招くのは、岸田首相の政権運営を見ても明らかだろう。次期衆院選に向け、日本のリーダーたる資格があるのか。投票権の有無にかかわらず、論戦を通じて見極める機会としなければならない。
総裁選の告示 自民政治の総括欠かせぬ(2024年9月13日『信濃毎日新聞』-「社説」)
過去を総括せずに未来を語っても、説得力が乏しい。
27日に投開票される自民党の総裁選が告示され、過去最多の9氏が立候補を届け出た。
候補者は官房長官や閣僚の現職や経験者、党幹事長の現職や経験者だ。年齢は43歳から71歳と幅広く、女性は2人いる。
岸田政権が成立させた改定政治資金規正法は抜け道だらけで、問題解決は程遠い。裏金の還流を受けた議員らの使途も不明確のままだ。誰がいつ始めたかも不明だ。
候補は全員法案に賛成している。裏金問題の対策も示しているものの、踏み込みは甘い。
政治資金収支報告書への不記載分の返納、政策活動費の廃止、関係した議員の選挙公認の厳正判断などが公約として並ぶ。ただし、徹底した再調査を掲げる候補は見当たらない。
違法な使途はなかったとした党の調査の不備は明らかだ。裏金が常態化した理由や、カネがかかる政治の実情を検証しなければ、うわべだけの対策になる。
岸田首相は前回総裁選で、金融所得課税強化などを掲げたのに、公約倒れに終わっている。今回の候補者はどこまで真摯(しんし)に取り組むのか。総裁選に用意した「形だけの公約」でないことを示すため、これまでの自身の活動と党の政策を顧みて、実現に向けた具体的な方針を説明してほしい。
派閥は麻生派を除き解散を表明した。派閥や旧派閥が議員の行動を統制するようでは解散は形だけになる。締め付けを排し自由な投票が実現できるかも注目される。
自民総裁選きょう告示 信頼回復の道筋示す論戦を(2024年9月12日『河北新報』-「社説」)
「政治とカネ」の問題で失われた国民の信頼をいかにして取り戻し、党の再生に取り組むのか。具体的な道筋を分かりやすく示す議論を展開してほしい。
小林鷹之前経済安全保障担当相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安全保障担当相、加藤勝信元官房長官、上川陽子外相の9氏が立候補を予定する。
27日の投開票までの間、過去最多の候補者による選挙戦が繰り広げられる。
国会議員票367票と、同数の全国の党員・党友票を合わせた計734票を争う。1回目の投票で過半数を獲得する候補がいなければ上位2人による決選投票が行われる。
今回の総裁選は、党派閥の裏金事件で国民の信任を失った現職総裁の岸田首相が、出馬断念に追い込まれた。経緯を考えるなら、まずもって問われるのは政治と党の改革への取り組みだろう。
政治資金を監査する第三者機関の新設が決まったが、制度設計の議論にさえ着手していないのが現状だ。
派閥解消が唱えられて初めての総裁選でもある。人事と資金集めを派閥領袖(りょうしゅう)らに頼ってきた党運営をどのように改めるのか。長年にわたって党内力学の根幹システムを担ってきた派閥に代わり、人材の育成と登用をどうするのか。各候補に明確なビジョンを提示してほしい。
単なる「自民党政局の表紙替え」にとどまるようであれば、党に対する国民の心は離れる一方だと覚悟すべきだ。
折しも、米大統領選が同時進行する。激動する国際情勢下で、日本を取り巻く安全保障環境もかつてないほど厳しい。人口減少はじめ内政課題も山積している。
候補者同士が互いの矛盾や疑問を指摘し合い、どの政策が最も信頼でき、国民に有益であるかを丁寧に説明できるような総裁選でなくてはならない。
国民の望む諸課題解決に向けて、その土台、前提となるのが政治への信頼であることを、各候補が肝に銘じて論戦を競ってほしい。
自民総裁選告示 具体的な政策示し論戦を(2024年9月13日『新潟日報』-「社説」)
次の首相を事実上、決める選挙だ。物価高や地方の疲弊、厳しさを増す安全保障環境、政治改革など課題は山積している。イメージづくりに偏るのではなく、地に足の着いた具体的な政策論争が展開される総裁選としてもらいたい。
これまで最多だった5人を大きく上回った。派閥裏金事件を受け、6派閥のうち麻生派を除く5派閥が解散を決め、派閥の締め付けが弱まったことが多くの出馬につながった。
9人のうち女性が2人だけというのは残念だが、43歳から71歳まで多様な顔触れとなったことは、派閥解消の効果と言ってよい。派閥が主導しない総裁選はどう展開するか。復活する場面はあるか。注目していきたい。
裏金事件で党の信頼は地に落ちている。9人に問われるのはまず「政治とカネ」の問題を払拭する実効性ある改革案を示すことだ。
12日の演説会では、一部の候補が政策活動費の廃止や政党交付金の使途見直しなどを訴えた。
カネの問題が解消されない限り信頼回復はできず、信頼がなければ政権は担えない。これを肝に銘じ、カネのかからない政治の実現に向けた論戦を交わしてほしい。
この国が抱える課題は多い。
とりわけ深刻なのは、人口減少が続く地方の現状だ。地方の活力低下は国力の低下につながる。
演説会でも多くの候補が地方活性化を訴えた。具体的にどう人口減に歯止めをかけ、どう活性化を図るのか。もっと具体策やアイデアを出し合ってもらいたい。
岸田内閣は、厳しい安全保障環境を理由に防衛力強化を進めた。原発を最大限活用するとの方針も打ち出した。こうした政策を継承するのかどうか。経済政策や労働政策、社会保障政策などについても議論を深めてほしい。
忘れてならないのは、北朝鮮による拉致問題への取り組みだ。新潟市で拉致された横田めぐみさんの母早紀江さんは総裁選告示前、「拉致のことを誰も言葉に出さない。絶望的な感じがする」と語った。各候補は胸に刻むべきだ。
早ければ10月に衆院解散・総選挙が行われる見通しだ。
各党員に限らず広く国民が二つの党首選に目を凝らし、国のあるべき姿や将来像を考えたい。
(2024年9月13日『新潟日報』-「日報抄」)
よどみなく自信たっぷりな口調だったり、整然と並んだ活字だったり。そういったものから得られる情報は確度が高いと信じがちだ。けれど、そんな情報の中にも誤りは混在する
▼各種情報の真偽を検証する「ファクトチェック」という用語が知られるようになって久しい。本紙に初めて登場したのは2016年9月。トランプ氏とクリントン氏が対峙(たいじ)した、米大統領選の討論会の記事だった。トランプ氏の言葉には事実関係の誤りが多く、クリントン氏にも不正確な発言があったと報じていた
▼8年の時が流れトランプ氏の相手がハリス氏に代わっても、そうした状況に大きな変化はなかったようだ。ただ今回は、司会を務めたキャスターが事実関係の誤りを度々指摘していた
▼「(不法移民が)犬や猫など住民のペットを食べている」とトランプ氏が述べた際は、司会者がすかさず「当局に確認したが、移民にペットが傷つけられたという信頼できる報告はない」と述べた。米メディアが日頃からファクトチェックに取り組んでいる姿をうかがわせた
▼米国の若者に影響力がある人気歌手テイラー・スウィフトさんは交流サイト(SNS)への投稿で今回の討論会に言及し、こう書き込んだ。「誤った情報に対抗する最も簡単な方法は真実にある」。そうであると信じたい。
自民党総裁選がきのう告示され、過去最多となる9人が立候補を届け出た。派閥の裏金事件への責任を取る形で岸田文雄首相は退陣を表明した。政治資金の透明化や派閥支配からの脱却などの党改革をどう進め、失った国民の信頼を取り戻せるかが最大の焦点となる。
加えて、物価高対策を含む経済政策、人口減少と地方活性化策など暮らしを守る具体策は待ったなしだ。早期の衆院解散が想定される中、国のかたちを示す外交・安全保障や原発・エネルギー、憲法改正への姿勢も明確にしなければならない。
派閥解消の流れを受け、まれに見る混戦が予想される。27日の投開票まで15日間という過去最長の選挙期間を生かし、各候補は政策論争に徹してほしい。
年代は40代から70代まで幅広く、初挑戦が6人を占める。女性は2021年前回選と同じ2人にとどまった。派閥との距離感や世代交代の訴えには温度差がある。選択的夫婦別姓制度を巡る見解も分かれている。自民が多様な価値観を認め合う政党へと変革できるかも、論戦から透けて見えるだろう。
先の国会で改正政治資金規正法が成立した。だが、使途公開が不要の政策活動費を温存するなど抜け道が残る。裏金事件では自ら決めたルールを守らない政治家と、身内に甘い党の姿勢が政治不信を高めたことを忘れてはならない。積み残した課題に本気で取り組むことが信頼回復の第一歩となる。
岸田首相は「新しい資本主義」を掲げたが、具体策は見えないままだった。経済政策の再構築が必要となる。社会保障費や防衛費の増大に伴う財源確保策や財政再建策をどう考えるか。国民負担の在り方も正面から語るべきだ。
自民党総裁選が告示され、過去最多の9人が立候補した。事実上、次の首相を決める選挙戦である。各候補には政権のビジョンと政策の具体性を明確に説明し、責任ある議論を深めてもらいたい。
立候補したのは、高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官(衆院岡山5区)、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長。派閥の締め付けが弱まり、各議員の自由度が高まったことから出馬が相次いだ。
選挙期間は、現行の総裁公選規程が設けられた1995年以降で最長の15日間となる。派閥裏金事件で失墜した党の信頼を取り戻すため、論戦の機会を増やす狙いだが、信頼回復を果たすには、国民が広く納得するような議論が求められる。
裏金事件を巡っては、関係議員の次期選挙における党公認の是非について、複数の候補が発言している。だが、真に必要なのは「政治とカネ」を巡る事件を二度と起こさせない仕組みづくりである。政策活動費の使途を監査する第三者機関の制度設計はいまだ煮詰まっていない。事件の核心も依然明らかになっていない。新総裁が引き続き取り組まなければならない課題であり、本気度が問われる。
東京一極集中の是正、地方の人口減少対策も避けては通れない課題だ。政府は2014年から地方創生の取り組みを本格化させたが、効果が上がったとは言い難い。今年6月にまとめた報告書では「人口減少や東京圏への一極集中の大きな流れを変えるに至らず、厳しい状況にある」と総括した。
総裁選の候補からはこれまでに「地方に大胆に投資し、東京一極集中是正につなげる」「地域を支える企業の成長力を強化する」「47都道府県どこに住んでいても必要な教育や福祉、医療を受けられる国にする」といった主張があった。だが、全般に具体性や実効性に乏しく、地方創生を巡る議論は低調と言わざるを得ない。
総裁選の投票の半数は、党員・党友による「地方票」である。地方の重みを忘れてはならない。
NHKの連続テレビ小説「虎に翼」も間もなく終わりかと思うと寂しい。日本初の女性弁護士で、裁判官も務めた主人公寅子(ともこ)の人生を通し、法律がいかに暮らしに直結しているかを教えられた
▼現代に通じる問題である。法律婚をする際に別姓か同姓かを選べる選択的夫婦別姓制度の導入を法制審議会が法相に答申したのは1996年。もう30年近くがたつ。今春の共同通信社の世論調査で制度に賛成する人は76%に上ったものの、国会での議論は進んでいない
▼これまで自民党は慎重派への配慮から議論が進んでこなかったが、党内にも多様な意見がある。総裁選を通して活発な議論を国民に見せてほしい
▼きのうの「虎に翼」では寅子の元上司が語る言葉が心に残った。「法律は人が幸せになるためにある」。最終回が放送される27日には自民の新総裁が決まる。現実の政治ドラマの展開はいかに。
複数の候補が、当選すれば早期の衆院解散・総選挙に打って出る構えを見せる。新総裁の主張が党の公約に反映される可能性は高い。投票権の有無にかかわらず、言葉だけの「刷新感」に惑わされぬよう、岸田政権を検証する観点から各候補の訴えや政策を見ていくことが必要だ。
退陣表明する最大の原因となったのは、派閥裏金事件とその対応の不十分さである。「政治とカネ」問題で国民の党への信頼は地に落ちた。党が変わるのかどうかを測るのが、政治改革の取り組みだ。信頼回復の処方箋を競う総裁選としなければなるまい。
裏金事件を受けて派閥の解消が相次いだ。過去最多の9人が立候補したのは、派閥の締め付けが弱まった効果と言える。閣僚と党幹部が5人もいるのも今回の特徴だろう。
1回目の投票でどの候補も過半数を獲得できず、上位2人の決選投票にもつれ込むのは必至の情勢だ。影響力の維持を狙って派閥の枠組みが復活しないか、懸念は残る。
岸田政権は裏金事件の全容解明を進めず「政治とカネ」問題のうみを出し切ることができなかった。政治資金を透明化する改革も中途半端だった。徹底的な総括が必要だ。
領収書要らずで「表の裏金」とされる政策活動費を巡っては、複数の候補が廃止や使途の公開に言及している。
廃止は結構なことだ。しかし、野党が要求しても一切応じず、先の通常国会でようやく決めた領収書の公開も「10年後」だった。この間、9人の中の1人でも、廃止や透明化を唱えていたのか。
いかに刷新を訴えたところで、実効性の担保や実現の期限を示さなければ、「口先だけだ」と国民に見透かされるだろう。裏金事件にふたをすれば、いずれ衆院選で厳しい審判を受けることになる。
物価高対策や外交・安全保障、選択的夫婦別姓などが論点に挙がる。気になるのは政策活動費と同様、岸田政権の政策を否定するような発言が政権中枢にいる候補から相次ぐことだ。防衛増税や子育て支援金の保険料追加負担を停止する「増税ゼロ」や健康保険証を12月に廃止する政府方針の見直しなどがそうだ。総選挙を意識して国民の声に沿ったつもりだろうが、朝令暮改の姿勢で見苦しい。
各候補の政策には物価高の不満を和らげるバラマキ色の強い給付措置も並ぶ。聞こえのいいことばかりで従来の政策との齟齬(そご)や財源の裏付けの曖昧さが目立つ。岸田政権の何を見直し、どこを引き継ぐのか。具体的に示さねばならない。さらなる国民負担が避けられないのであれば、それを含めて率直に語るべきだ。
各候補が掲げる政策も、政治への信頼を回復しなければ実現し得ない。政治生命を賭して政治改革に取り組む覚悟と実行力を、論戦を通じて見せてもらいたい。
政治とカネの白黒(2024年9月13日『山陰中央新報』-「明窓」)
▼一度は碁を捨て、ブラジルに移住。コーヒー農園を買うために蓄えた大金がだまし取られもして底を突き、2年で帰国した。お金で痛い目に遭い、多くを持つと碌(ろく)なことがないと悟ったのかもしれない。復帰した碁界で長らく活躍し、海外普及のため晩年は私財を投じて世界各所に囲碁センターを建設した人である
▼翻って「お金と権力は持てば持つほど欲しくなるもの。多いに越したことはない」とは政界のセンセイ方か。「お金はお金でも本当に欲しいのは使途を公開しなくていい裏金では」と疑いの目が向けられる中、次の首相選びとなる自民党総裁選がきのう告示された
▼中国古典の『孫子』は<将とは智・信・仁・勇・厳なり>とリーダーが持つべき五つの資質を説いている。物事の本質を見抜く智力、周りから信頼される力、仁愛や仁徳の心、困難に立ち向かう勇敢さ、そして威厳。約束やルールを守り、抜け道を作らせない厳格さとも言えよう
▼総裁選には最終的に9人が立候補し、過去最多の争いとなった。争点は他にもあれど、これまで幾度となく繰り返されてきた「政治とカネ」の問題に白黒つけてくれる候補者が誰かいないものだろうか。期待を持つ、少々。(史)
往年の人気歌番組「ザ・ベストテン」がスタートする際、司会の黒柳徹子さんはスタッフに告げた。「どんな若い歌手の方がいらしても、私は敬語を使おうと思います」。当時テレビ界でアイドルは「ちゃん」付けで呼ばれていた。しかし出演者はいくら若くてもプロである。分け隔てなく大人として丁寧に接すべきだ、と
◆政治のリーダーは「司会業」に似ている。批評家の東浩紀さんが雑誌「文藝春秋」最新号でそう語っている。どの世代の声にもしっかりと耳を傾け、上手にテーマを展開させていく。黒柳さんのように、相手を尊重する姿勢も大事な資質だろう
◆きのう自民党総裁選が告示された。名乗りを上げた9氏は、さしずめ低迷する視聴率のばん回を期す司会者候補。にぎやかな舌戦は結構なことだが、解散総選挙の思惑もちらつき、肝心の「政治とカネ」の問題をそっちのけでは困る
◆チャンネルをかえると、野党第一党も党首選びの真っ最中である。露骨な「裏番組つぶし」でお気の毒だが、まるで再放送のような顔ぶれ。これで視聴率が上がるか、ちょっと心配になる
顔と名前が一致しない人が実は2人いた。初代の鳩山一郎さんと2代目の石橋湛山さんだ。池田勇人さんは消去法で当たった。次の総裁が28代目になるのに「歴代の総裁」が26人しかいないのは、安倍晋三さんの再登板があるから
▲首相を務めていないのはこのうち2人だけ。そのまま戦後政治史の教材にできそうだ。今回の総裁選に際して自民党が作製したPRポスター。歴代の総裁の写真がにぎやかに配置され、中央に赤く「THE MATCH」の文字
▲「国民のニーズと政策をマッチさせるのは誰か」「日本の未来とマッチングする新しいリーダーは誰か」のメッセージが込められているそうだ。もちろん、マッチは「戦い・試合」でもある
▲目指す社会像から家族のありようまで、9人の主張には幅がある。それは、党内の多様性や党の包摂力の表れなのか、それとも、この政治集団が“正体不明”であることの証拠なのか。改めて考えると興味深い
自民党総裁選が告示された。事実上、次期首相を決める選挙となる。過去最多の9人が立候補した。
派閥裏金問題や旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との根深い関係によって自民党は深刻な政治不信を招いた。9氏は政治から離れた国民の心をどう引き戻すか、具体策を示しながら活発な政策論争を交わしてほしい。経済・財政問題、少子化・子育て対策、エネルギー政策などが国民の関心事であろう。
沖縄からも強い関心をもって総裁選の行方を見守らなければならない。9氏は17日、那覇市内で演説会を予定している。基地の重圧に苦しむ沖縄の実情にどう対処するか、明確なビジョンを求めたい。
しかし、大浦湾側に存在する軟弱地盤の改良などで総事業費は膨張し、完成時期すら定まっていない。仮に新基地が完成したとしても米軍が引き続き普天間飛行場を使用し続ける可能性があることを在沖米軍高官が示唆している。
米軍人による相次ぐ性暴力への対処も必要だ。事件だけでなく政府から県への通報態勢も問題となった。人権に関わる問題である。日米地位協定の改正を含め、それぞれの政策を示してほしい。
外交・安全保障に関する岸田政権の姿勢についても修正を求めたい。2022年末、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や、「台湾有事」を想定した「南西シフト」をうたった安全保障3文書の閣議決定によって日本の防衛政策が大転換した。これは日本を戦争準備へと導くものであり、その影響を最も受けるのが沖縄である。宮古、石垣、与那国で急激に自衛隊配備が進んだ。沖縄本島においても地対艦ミサイル部隊が配備された。自衛隊基地の重圧が新たに加わったのである。
自民党の麻生太郎副総裁は昨年8月の台湾での講演で「台湾有事」を念頭に「戦う覚悟」が求められていると述べた。9氏はこのような発言に同調してはならない。「中国の脅威」を前提とした防衛力増強ではなく、対話による緊張緩和を促す外交・防衛政策を追求すべきだ。
国民、県民は暮らしと平和を守る新たなリーダーを求めている。政策と共にその覚悟を総裁選で示してほしい。
自民総裁選告示 まず「裏金」を総括せよ(2024年9月13日『沖縄タイムス』-「社説」)
自民党総裁選が告示された。
先の国会で成立した改正政治資金規正法は「抜け穴だらけ」の不十分なものだった。ブラックボックスとして批判されてきた政策活動費は温存。領収書の公開は10年後とされ、政策決定への影響が指摘された企業・団体献金の禁止は盛り込まれなかった。
党本部の演説会で多くの候補が、裏金事件を念頭に信頼回復を訴えたが、具体策の言及は少なかった。
石破氏は、当初裏金に関与した議員について「公認するにふさわしいかどうか、徹底的に議論すべきだ」と指摘していた。党内で批判の声が上がると「新体制で決めることだ」と、トーンダウンした。
国民が最も聞きたいのは裏金事件の真相と反省だ。本気度を見透かされれば政治の信頼回復は望めない。
■ ■
演説会で防衛力強化を強調する候補者は多かったが、防衛力強化により負担が集中する沖縄の問題に触れた候補者はいなかった。
小泉氏は立候補の会見で、日米地位協定について問われ、両国の協議の枠組みがあるとし「一足飛びに改定は考えていない」と発言している。
県内で相次ぐ米兵による暴行事件についてどう考えているのか。岸田政権が決めた、いわゆる敵基地攻撃能力保有や防衛費の大幅増は妥当なのか。南西諸島の「ミサイル要塞(ようさい)化」、辺野古の新基地建設を巡る全国にも例がない「代執行」。
17日には那覇市内で演説会が開かれる。候補者は、県民が実感できる基地負担軽減策を語るべきだ。
■ ■
政策を前に進めるには、裏金事件で増幅した政治不信と向き合い、国民の理解と協力を得なければならない。
【自民総裁選告示】政治改革の道筋示せ(2024年9月12日『高知新聞』-「社説」)
自民党総裁選がきょう告示される。史上最多となる9人の出馬が見込まれるが、「政治とカネ」問題で自党が招いた政治不信を棚上げにしたままでは、どんな訴えも説得力を伴わない。政治改革への覚悟と決意を競う論戦を求めたい。
果たして総裁選は、派閥解消の流れも受けて、これまでに例を見ない数の人が出馬表明した。結果的に党所属議員の多様性を示し、混戦の中で勝敗への関心が高まりやすい構図にもなった。党支持率は回復傾向を示し、自民には思惑通りの展開をたどっているかもしれない。
だが裏金問題は、「自民1強」が続いたことによる「おごり」と「緩み」、国民感覚との決定的なずれを露呈した。「顔」が替わっただけで問題が不問になるわけではなく、信頼回復は容易ではない。党の体質面に切り込まなければ、総裁選で刷新感を演出できたとしても効果は一時的なものになるのではないか。
今回の総裁候補予定者も、生煮えに終わった党の裏金対応を了としてきた責任がある。改めて振り返り、今後の道筋を示す必要がある。
「おごり」「緩み」という点では、国会軽視や説明責任軽視の姿勢も挙がる。こうした傾向は安倍政権から強まり、岸田政権も、防衛力の抜本強化、最大限活用に転じた原発など重要政策で議論を省くケースが目立った。財政運営、物価高対応などでも場当たり的な対応が続いた。政策の妥当性はもちろん、政権運営の在り方を総括するべきだ。
安倍、菅政権では官邸の力が強く、党所属議員が自由に発言できない空気が強まり、忖度(そんたく)もはびこった。岸田政権では重要局面で官邸と党が意思疎通を欠き、たびたび首相が孤立。ガバナンス(統治)に疑問符が付いた。
近年、いびつさが否めなかった党運営だが、派閥解消の流れを受けて過渡期に差し掛かっているのは事実だろう。総裁選では、2回目の決選投票をにらんだ勢力の集散も取り沙汰される。「キングメーカー」「派閥のしがらみ」といった負のイメージから脱することができるのか試される。
政策面は、経済、安全保障、医療福祉など焦点が多岐にわたる中、各候補者肝いりの具体的な取り組みも浮上している。候補者が多数になったことで幅が広がっており、議論は活発に行われるべきだ。
本県など地方は人口減少に歯止めがかからない。自民が10年にわたって掲げてきた「地方創生」は限界感が漂う。次につながる有意義な論戦を求めたい。
自民総裁選告示 信頼回復へ誠実な議論を(2024年9月12日『西日本新聞』-「社説」)
政策を実行するには「政治とカネ」の問題で地に落ちた国民の信頼を回復しなくてはならない。党にとって正念場と心得てほしい。
これまでに過去最多の9人が立候補を表明しており、異例の総裁選となる。
それぞれが公約を発表する記者会見の中で、耳を疑うような発言があった。
茂木敏充幹事長は、政党が政治家個人に支給する政策活動費の廃止をアピールした。使途の公開義務がなく、茂木氏は2022年に党から約10億円を受け取っている。
本紙社説は政策活動費の廃止を主張し、性急な健康保険証の廃止とマイナ保険証への一本化に異議を唱えてきた。見直しは歓迎できる。
だが、閣僚や政権与党の一員としてこれらの政策を推し進めてきた議員たちが突然、正反対のことを言い出すのは理解できない。
単に世論受けを狙っているなら論外だ。国のかじ取り役としての資質以前に、政治家として不信感を持たれても仕方あるまい。自民党員だけでなく、国民の疑問に答える説明を求めたい。
忘れてはならないのは、岸田首相は裏金事件をきっかけに高まった政治不信によって退陣に追い込まれたことだ。自民は新総裁の下で、政治資金の問題をどのように仕切り直すかが問われている。避けて通れない論点である。
今回の総裁選はトップ交代で刷新感を演出し、衆院の解散・総選挙に弾みをつける思惑が露骨だ。つい最近の言動と整合性が取れない主張がまかり通るようでは、信頼回復が遠ざかるだけだ。
メディアも自省したい。さして取り上げる価値のない立候補予定者の動静報道が過剰ではないか。重要な選挙であるとはいえ、結果として、党利党略に加担することがあってはならない。
27日の投開票まで、立候補者の地方遊説が全国で予定されている。立憲民主党の代表選も同様だ。
政治とカネ 透明性を高める契機に(2024年9月11日『東京新聞』-「社説」)
自民党総裁選と立憲民主党代表選がほぼ同時並行で行われる。自民党派閥の裏金事件で国民の政治不信が極まる中での「ダブル党首選」。各候補が改革案を競い、政治資金の透明性を飛躍的に高める機会にしなければならない。
「政治とカネ」を巡る問題で特に注目したいのは政策活動費の存廃。政党から政治家個人に支出され、使途公開が不要で以前から不透明と指摘されてきた資金だ。
不透明な資金をこれ以上放置すれば、国民の支持を失いかねないとの判断だろう。立民など野党各党が使途公開や廃止を一致して求めた成果でもあり、廃止に向けて後戻りしないよう自民、立民ともに議論を深めてほしい。
各総裁候補は裏金事件の実態解明に向けた再調査にも消極的で、裏金を受け取っていた議員を国政選挙で非公認とするような厳しい姿勢を打ち出す候補もいない。
「裏金議員」とはいえ70人超いる現職議員の支持を失いたくないのだろうが、厳しい姿勢で臨まなければ、裏金も、受け取った議員の行為も認めることになる。
代表候補4氏は次期衆院選で裏金議員の小選挙区に野党として対立候補を擁立する考えを示した。党員以外の有権者は両党首選で投票できないが、論戦に耳を傾け、次の国政選挙では金権腐敗の根を断つための選択を示したい。
自民党総裁選 重要政策の論点も見えてきた(2024年9月7日『読売新聞』-「社説」)
政権与党で積み重ねてきた議論を、根底から覆すかのような主張は無責任ではないか。現状を顧みない改革案にも首をかしげたくなる。
次の自民党総裁として首相を担うつもりなら、世論におもねることなく、かつ、大局を見据えた政策を提示すべきだ。
総裁選には今週、林官房長官、茂木幹事長、小泉元環境相の3氏が出馬を表明した。これで候補は計6人となり、過去最多となるのは確実だ。週明けには高市経済安全保障相や加藤元官房長官らも立候補表明を予定している。
総裁選の候補からは、岸田内閣の政策を転換すべきだといった意見も出ている。
茂木氏は、年1%の経済成長が実現すれば、税収が1・4兆円増えるとして「防衛増税は不要だ」と述べた。政府・与党は防衛力強化のため、法人、所得、たばこの3税を増税し、年1兆円の財源を確保することを決めている。
小泉氏は、解雇規制を緩和する考えを示した。企業が不要な人員を整理しやすくし、従業員は転職しやすくする狙いがある。
欧米では、規制緩和による新自由主義的な政策が、格差の拡大につながったとの批判がある。こうした弊害が日本で生じないと考えるのか。その根拠は何か。経済社会に大きな変動を与えるテーマだけに、十分な議論が必要だ。
総裁選では多様な政策を論じることになる。候補者同士が矛盾や疑問を指摘し合い、どの候補の政策が信頼に値するか、国民が理解できるようにせねばならない。
各候補の政策がもたらす効果や影響を真剣に議論し、政策の対立軸を見極めるべきだ。そうした政策論争が、新政権の性格を決定付けることになるだろう。
河野デジタル相は、年末調整を廃止し、マイナンバーカードを活用して会社員なども確定申告を行うことを提案している。
河野氏は一昨年、紙の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を唐突に表明し、混乱を招いている。性急な改革に国民の理解は得られまい。
世は多様性の時代と言われる。「首相になったら選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出し、国民的議論を進める」。小泉進次郎元環境相は6日、自民党総裁選への出馬表明記者会見でこう述べ、「多様な人生」「多様な選択肢」の拡大を訴えた。
▼いつしか日本社会に、多様性を主張されると異議は唱えにくい「空気」が醸成されてしまった。国会質疑からテレビコマーシャルまで、多様性という言葉を聞かない日はない。とはいえ抄子は天邪鬼(あまのじゃく)なので、「猫もしゃくしも多様性を礼賛する社会のどこが多様なのか」と言いたくなる。
▼レオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐(ばんさん)」を揶揄(やゆ)した性的少数者の宴(うたげ)らしきものや、切り落とされた自らの生首を手に持つマリー・アントワネットが登場して物議を醸したパリ五輪開会式も、多様性を表現したものだった。評価は分かれようが、少なくとも抄子の目にはグロテスクに映った。
▼選択的夫婦別姓については、自民党総裁選への出馬を表明している者の中で小泉氏のほかに石破茂元幹事長や河野太郎デジタル相も前向きである。経団連も選択的夫婦別姓の早期実現を求め、まるでそれが時代の趨勢(すうせい)であるかのような提言も発表したが、本当にそうなのか。
▼NHK放送文化研究所が中高校生を対象に令和4年に実施した調査(1183人回答)では、結婚後に夫婦別姓を望む回答はわずか7・0%しかいない。調査自体が見当たらないので確たることは言えないが、子供たちが夫婦別姓に伴う「片親との別姓」や「兄弟別姓」を歓迎するだろうか。
▼世界の潮流に乗り遅れるとの意見も承知しているが、こう愚考している。日本は日本のやり方でいいと認めるのもまた多様性ではないかと。
裏金と自民総裁選 うみ出し切る覚悟見えぬ(2024年9月5日『毎日新聞』ー「社説』)
失われた国民の信頼を取り戻せるかどうかの正念場だ。にもかかわらず、「政治とカネ」の問題に本気で取り組む覚悟が伝わらない。
政治資金問題の抜本改革にどう取り組むのか。候補者には道筋を示すことが求められる。だが、実際は踏み込み不足が目立つ。
河野太郎デジタル相は議員から裏金を国庫に返納させることで、けじめをつける考えを示した。だが、返納で不正が帳消しになるわけではない。
見苦しいのは総裁選での争点化に対し、安倍派議員が「蒸し返すべきではない」と反発していることだ。反省の色が全く見えない。
裏金問題を巡っては、関与した議員の約半数の39人が処分され、政治資金規正法が改正された。だが、なぜ裏金が作られ、何に使われたのか、全体像は明らかになっていない。
改正規正法でも、政治資金パーティーや企業・団体献金は禁止されず、多くの「抜け道」が残された。茂木敏充幹事長は使途公開義務がない政策活動費の廃止を打ち出した。だが、政権中枢の当事者として速やかに実現に動くべきだった。
新たな事実も明らかになった。
これまで裏金作りを否定していた麻生派でも、疑惑が表面化した。党全体に不正がはびこっていた可能性がある。
総裁選では、政策論争だけでなく、裏金の徹底的な再調査や、抜け道をふさぐ規正法の強化策について、国民に見える形で競い合うべきだ。
肝心の「政治とカネ」を置き去りにするようでは、選挙目当てで「表紙」を変えただけだと、国民に見透かされる。うみを出し切ることができるかが問われている。
党首選で日本の針路を示し活発な論戦を(2024年8月31日『日本経済新聞』-「社説」)
自民党総裁選の立候補者は過去最多になりそうだ
自民党総裁選に多くの議員が名乗りをあげている。一国の指導者をめざす以上は、政策の旗を明確にして日本の針路を示す戦いにしてもらいたい。次の選挙に有利な顔選びの発想では既存政党への不信感はぬぐえない。それは立憲民主党の代表選にも当てはまる。
自民党総裁選は小林鷹之、石破茂、河野太郎の3氏が出馬を表明した。林芳正、茂木敏充、小泉進次郎、高市早苗の4氏も近く立候補を表明する見通しで、さらに複数の議員が意欲を示す。候補者は過去最多の5人を上回りそうだ。
裏金問題での強い逆風によって主要派閥が解散を決めた影響も大きい。岸田文雄総裁(首相)の不出馬表明で閣僚や党幹部の動きが活発化し、立候補のハードルが従来より下がった点は前向きに評価していいだろう。
総裁選は9月12日告示、27日投開票の日程で争われ、これから推薦人集めや重点政策の詰めが本格化する。候補予定者の発言を聞くと、重要課題について方針が定まっていない例も垣間見える。
次の総裁にとって党の信頼回復は、裏金問題の真相究明と再発防止策の徹底が第一歩となる。関係者の追加処分や選挙での公認の有無に関しては、立場を明確にして総裁選に臨んでほしい。
報道各社の世論調査では有権者の関心は、物価や賃金、子育て・教育、社会保障など暮らしに密接したテーマに集中している。成長戦略やエネルギー政策、財政運営など中長期の戦略も明示して活発な議論につなげてもらいたい。
2012年の衆院選で自民党が勝利して以来、旧民主党とその流れをくむ野党は国政選挙で8連敗を喫した。政府・与党に強い逆風が吹いても支持を取り戻せない原因を真剣に議論すべきだ。経済財政や外交・安全保障での建設的な提案を通じ、政権担当能力を証明するような戦いを期待したい。
(2024年8月31日『新潟日報』-「日報抄」)
自民党総裁選は空前の乱戦模様だ。本紙客員論説委員の後藤謙次さんのコラム「永田町天地人」が興味深い指摘をしていた。大本命がいない上に「候補者全員に有能な側近が見えないこと」も、この総裁選の隠れた一面という
▼政治家に限らず、優れたリーダーには敏腕の側近がいるものだろう。後藤さんが挙げたのは、田中角栄元首相のケースだ。田中内閣で官房長官を務めた二階堂進元副総裁らが脇を固め、田中派秘書軍団の行動力は群を抜いた
▼戦国時代史研究の第一人者で静岡大名誉教授の小和田哲男さんは、著書で側近や補佐役の大切さに触れている。戦国武将で名補佐役と言えば、現在の南魚沼市に生まれた直江兼続だ。兼続なしでは主家である上杉家は生き残れなかったかもしれない
▼天下人の豊臣秀吉を支えたのが弟の秀長だ。彼の生前、豊臣政権は順調に成長したが、世を去った途端に千利休切腹や朝鮮出兵、おいの秀次切腹など政権の屋台骨を揺るがす事態が相次ぎ、政権の終焉(しゅうえん)につながった(「名参謀 直江兼続」)
自民党総裁選の告示まで2週間を切った。これまで出馬の意向を示したのは10人以上に上り、乱戦模様を呈している。派閥のくびきが解かれ、誰であっても20人の推薦を集めれば立候補できるが、こうした状況を生まれ変わった党の姿とは呼べないはずだ。現職総裁の岸田文雄首相が派閥の裏金事件によって退陣表明に追い込まれただけに、なぜ首相が失敗したのか、何が欠けていたのか、候補者は3年間の政権運営を総括し反省と教訓を明確、具体的に語らなければならない。
まずもって問われるのは政治改革への姿勢だ。巨額の裏金事件の真相解明に取り組むのか、資金還流を受けながら国会の政治倫理審査会での弁明を拒む73人の議員にどう説明責任を果たさせるのか。抜け道を温存し、検討項目が並ぶ「弥縫(びほう)策」となった改正政治資金規正法への評価や抜本的な見直しが必要と考えているのか、答える必要がある。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題も関係を絶つと宣言したものの、党や各議員との関わりを深めていった経緯の検証が欠かせない。
「聞く力」を掲げ、安倍、菅両政権とは異なる「丁寧で寛容な政治」姿勢で臨むかに見えた岸田政治だった。だが、反撃能力(敵基地攻撃能力)保持など防衛力強化に伴う防衛費の大幅増額路線、さらには福島第1原発事故を忘れたかのような原発回帰など、実態は大きな政治転換にもかかわらず、国会の十分な審議を経ず、国民的議論を通じた幅広い合意形成を図る努力をしなかった。
防衛費増の財源として増税が決まっているものの、その詳細はいまだに固まっていない。異次元の少子化対策も実質的な負担増はないと繰り返すが、国民の多くは懐疑的な見方だ。キャッチフレーズ先行、負担先送りの姿勢が浮かぶ。一方で「増税メガネ」と揶揄(やゆ)されたのを懸念したのか、突如所得税などの減税を打ち出したほか、ガソリン代補助もやめられず、その場しのぎのばらまきに映った。総裁選の候補者にはこうした政策決定スタイルへの見解を求めたいし、真摯(しんし)な議論を復活させる言論の府の立て直しへの道筋も提示してもらいたい。
「核なき世界」を目指すとしたが、核保有国と非保有国の「橋渡し」は進まないままだ。アベノミクスに象徴される新自由主義的な経済政策から、分配を重視して格差是正を図る「新しい資本主義」を打ち出しながら、この看板もいつの間にか霧消した。同じ轍(てつ)を踏まないためにも、表紙を替える「疑似政権交代」で問われるのは、選挙目当ての刷新感ではなく、刷新を必ず実現するという強い意志と実行力だろう。
名乗りの地(2024年8月30日『中国新聞』-「天風録」)
名乗りを上げる日をいつにするか。自民、立憲民主の両党首選に挑む陣営にとって重要だろう。ところが、台風10号に振り回されて先送りが相次ぐ。そんな中、共に67歳の両党の重鎮が「最後の戦い」への覚悟を地元で示した
▲立憲民主党の野田佳彦元首相がきのう、代表選立候補を表明した。13年前に当時の民主党代表選を制した日に合わせて選んだ。同時に重視したのは場所。千葉県習志野市のJR津田沼駅前は今も朝につじ立ちし、ビラを配る政治活動の原点だという
▲世襲の多い「金魚」たちに立ち向かっていく「ドジョウ」でありたい―。野田氏はポスト岸田への対抗心を見せた。片や、自民党の石破茂元幹事長が24日、「原点に戻る」と総裁選への名乗りを上げたのは鳥取県八頭町の村の鎮守
▲与野党第1党の党首選は台風が列島を通過後に顔ぶれが出そろう。国民の信頼を取り戻すため「政治とカネ」とどう縁を切るか。望まれるのは、先送りなき改革のための論戦である。
自民党総裁選 内向きの議論いつまで続ける(2024年8月29日『読売新聞』-「社説」)
「裏金」作りをしていた議員を公認するかどうかなど、自民党はいつまで内向きの議論を続けるつもりなのか。
総裁選は事実上、首相を決める機会だ。一国の指導者を目指す以上、総裁候補となる議員は日本の針路を示し、具体的な政策を論じる必要がある。
争点となっているのが、派閥の政治資金規正法違反事件への対応だ。石破氏は、裏金を作っていた議員を公認するかどうか「徹底的に議論する」と述べている。河野氏は、裏金の返金を求める考えを示し、党内に波紋を広げた。
事件に対する厳しい世論を意識し、刷新感を出して党員の支持を集める狙いがあるのだろう。
だが、党執行部は4月、多額の裏金を作っていた議員を処分したはずだ。この話題を蒸し返すだけでは前進はしない。
総裁を目指す議員が政治とカネの問題にこだわるあまり、難局にある日本をどう導いていくのか、といった大局的な議論が不足しているのは嘆かわしい。
日本周辺の安全保障環境は極端に悪化している。中国軍機が初めて領空を侵犯し、中国が今後さらに日本への威嚇を強めてくる可能性がある。北朝鮮の核・ミサイルの脅威も軽視できない。
日本は防衛力を強化するとともに、日米同盟の抑止力を高めることが欠かせない。豪州などとの防衛協力を深めることも重要だ。
ロシアによるウクライナ侵略は収束の見通しが立たず、中東の情勢も不安定だ。
国際秩序を立て直すために日本は何をすべきか。総裁を目指す議員は、明確な外交戦略を示さなければならない。
内政も難題が山積している。人口が減少していく社会でも経済や財政、社会保障を維持し、好転させていく構想が問われている。
岸田内閣は内外の課題の克服を目指したが、道半ばだった。
こうした積み残しの課題についてもどう決着をつけるか、議論を深めてもらいたい。
ぶれない石破氏を見たい(2024年8月29日『山陰中央新報』-「明窓」)
▼石破氏の言葉は揺らいだ。18日までは地元・鳥取での表明に強い意欲を示していたものの、翌19日は「地元に最初に伝え、会見は東京でやる可能性はある」と修正。周囲によると、石破氏に東京で表明してほしいとの声も届いていたという
▼結果、石破氏本人がこだわり、鳥取県知事や自治相を務めた父・二朗氏の実家近くにある八頭町の和多理神社を選択。自身が小学生時代のにぎやかだった夏祭りのエピソードを披露し「もう一度、にぎやかな日本を取り戻す」と訴えた。地方を重視する思いがにじんだ
▼言葉が揺らぎ「ぶれ」に映ることは過去の総裁選でもあった。2018年は出馬会見で打ち出したキャッチフレーズの「正直、公正」が、支持を受ける参院竹下派(当時)などから反発され、対応が二転三転した。今後も党内などからさまざまな声が出ることも予想され、政策発表の場で整合性が問われることもあるだろう
▼和多理神社を選んだ理由はもう一つあった。「政治家になった原点に返りたい。党ではなく、国民を見る」。出馬表明での強い覚悟を総裁選で示し続け、地方重視や政治への信頼回復の道筋はぶれずに訴えてほしい。(吏)
石破茂の「面倒見の悪さ」 今の自民から見れば勲章では?(2024年8月28日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
★「退路を断つ」と自民党総裁選挙5度目の出馬に踏み切った元党幹事長・石破茂。1993年、宮沢喜一内閣の不信任案に賛成して離党し、一度は小沢一郎と行動を共にした。その後復党したものの党内ではそれを批判する向きもある。だが同じ時期、元幹事長・二階俊博も自民党を離れ復党していることはあまりとがめられない。石破は政界のうわさ通り、面倒見が悪く「フォローがない」「上から目線だ」といわれるが本当にそうなのだろうか。
★状況証拠はいろいろある。24日、地元で出馬表明をした石破は「政治生活の集大成、最後の戦い」と不退転の決意を示し「政治は変わる、自民は変わる。実現できるのは自分だ」と自信を示し、政治とカネについて「新体制になれば可能な限り早く国民に審判を仰がねばならない」と選挙を示唆し、裏金議員についても「自民候補として公認するにふさわしいかどうか、議論は選対委員会で徹底的に行われるべきだ」と国民が待っていた覚悟を示した。だが翌日には「新体制で決めることだ。まだなっていない者が予断を持っていうべきではない」とトーンダウン。27日には「1回決めたものを覆すのはあるべきだと思わない」と党の処分の見直しは行わない考えを示した。古くは派閥に否定的だったものの15年には自ら派閥をつくり仲間を集めた。メンバーには党の政策通が集まるが、どんどんグループを離れ、所帯は小さくなる一方だ。そこで「面倒見が悪い」という話が出る。
★ところが、カメラの前で面倒見が悪いという議員は1人もおらず、もっぱら記者の伝聞や、政治評論家の発言に刷り込まれている。「今考えればこの『面倒見』というのは、潤沢な裏金がある議員がカネやポストで派閥を維持する“普段の自民党”でしかない。それができていないと批判する議員や記者はどうなのか。面倒見の悪さは無論、言葉や配慮が足りないこともあるが、今の自民党から見れば、それは誇らしい勲章ではないか」(自民党中堅議員)。自民党の総裁選も複雑だ。
(2024年8月26日『新潟日報』-「日報抄」)
ドイツ文学者で随筆家でもあった池内紀さんが「古民家の教え」という一文で、本県の木造家屋について書いている
▼屋根裏では曲がった木が梁(はり)として使われていた。北国のスギなどは積雪の重みで根元が湾曲することがある。曲がった梁は火縄銃に似ているため鉄砲梁とも呼ぶ。山の雪の重さに耐えた木は屋根を支える材としてぴったりだ
▼高度経済成長期を境に、全国にあった伝統建築は「古くさい」と次々に消えていった。城下町や宿場町の家並みも、新建材で様変わりした。「町は一挙に醜くなった」。池内さんは古さの価値を再評価すべきなのにと嘆いた
▼日本国憲法は公布から78年。最高法規としての歴史はそう古くないようにも思えるが、公布から不変の未改正憲法としては「世界最古」という。わが国にとって戦力不保持を第一義とする平和憲法は柱や梁といえる。時代は移ろい、改正すべきか。それとも守り続けるべきか
▼「あれを残していれば」。折々の節目でそんな声をよく聞く。一方で、いま政治は大きな転換点に立つ。岸田文雄首相の後継を選ぶ自民党総裁選には、空前の数の出馬が取り沙汰されている。同時期には立憲民主党の代表選も重なる。憲法をはじめ、国の柱や梁についての骨太の議論が聞きたい。
政治とカネ 2事件 うやむやにするな(2024年8月26日『山陽新聞』-「社説」)
「政治とカネ」を巡る事件が後を絶たない。先月、自民党に所属していた国会議員2人が相次いで東京地検特捜部の家宅捜索を受けた。自民派閥の政治資金パーティー裏金事件の全容がいまだ解明されていない中、別の疑惑が新たに発覚し、強制捜査事件に発展した。国民の政治不信は深まるばかりだ。
2人は、選挙区内の有権者に違法に香典を渡したとして公選法違反の疑いが持たれている堀井学衆院議員(比例北海道)と、秘書給与を巡る詐欺容疑がある広瀬めぐみ元参院議員(岩手選挙区)。共に東京の議員会館事務所などを家宅捜索され、自民を離党した。広瀬氏はその後、議員を辞職した。
堀井氏は地元有権者に対し、秘書や親族を通じて自身の名前を記した香典を提供した疑いがある。公選法は議員本人が葬儀に参列した場合を除き、選挙区内で香典を渡すことを禁じている。事務所内で複数回、違法性の指摘があったが、堀井氏が提供を続けるよう秘書らに伝えていたとされる。事実ならば悪質と言わざるを得ない。
裏金事件との関連も疑われる。安倍派に所属していた堀井氏は、派閥から計2196万円の還流金を受け取り、政治資金収支報告書への記載を怠っていた。政治資金規正法違反容疑でも告発されており、特捜部は捜査過程で、違法性が疑われる資金の流れを把握したとされる。裏金が香典の原資になったのかどうか徹底解明する必要があろう。
自民は2月、堀井氏も対象だった党内調査で「還流金を違法に使った例はない」と総括していた。裏金が原資になっていたのであれば、調査の信ぴょう性は根底から崩れてしまう。調査のずさんさとともに、裏金事件の全容を解明する必要性が改めて浮き彫りになるのは間違いない。
一方、広瀬氏は公設第1秘書の妻を第2秘書に就け、勤務実態がないのに国から給与をだまし取ったとして摘発された。詐取金は数百万円に上る可能性があり、大半は広瀬氏が受領したとみられる。
広瀬氏は当初、事務所のホームページで、リモートワークでの支援者リスト作成など第2秘書の勤務実態はあったと主張していたが、議員辞職の際にコメントを発表し「事務所の経費捻出のため」と事実を認めた。しかし、記者会見など本人が直接説明する場はなく、家宅捜索の時に「後でしっかり説明させていただく」と発した約束は守られていない。
堀井氏も次期衆院選への不出馬を表明したが、その後は雲隠れを続けている。身を引いて終わりではなく、選挙で選ばれた者として説明責任を果たすべきだ。
議員に押し上げた政党としての責任も問われよう。9月には自民の総裁選がある。二つの事件をうやむやにせず、教訓として「政治とカネ」の議論を深めねばならない。
次々に名乗り出る政治家たちは、国民の政治不信をどれだけ切実に受け止めているのか。
自民党は岸田文雄首相の後任を決める党総裁選について、9月12日告示、27日投開票とする日程を決めた。裏金事件を受けて派閥の拘束が弱まり、40歳代2人を含む11人が出馬を模索する異例の展開だ。来秋に任期満了をひかえた衆議院は解散・総選挙が近いと見込まれ、「選挙の顔」として刷新感を打ち出せるかに注目が集まる。
だが重要なのは「刷新」のイメージではなく、打ち出す政策の内容だ。事実上、次の首相を決める選挙となるだけに、論戦の内容を厳しく見極めたい。
総裁選は367人の国会議員票と、党員・党友による同数の地方票の計734票で争われる。1回目の投票で過半数を獲得する候補がいない場合は、上位2人の決選投票となる。
選挙期間は過去最長の15日となるが、巨額を投じるPR合戦などは慎むべきだ。裏金事件であらわになった自民党の金権体質が国民の不信を招いた点を忘れてはならない。徹底論戦を積み重ねてもらいたい。
気になるのは、どの議員からも裏金問題に真剣に取り組む姿勢が見えないことだ。
例えば、最初に出馬会見を開いた小林鷹之前経済安保相は、実態解明に「党の調査には限界がある」と消極的だった。裏金に絡んで処分を受けた安倍派議員の処遇改善にも理解を示した。果たしてこれで、「新たな自民党に生まれ変わる」ことができるのか。
共同通信が8月に実施した世論調査では、岸田首相の退陣が裏金事件からの「信頼回復のきっかけにならない」とする回答が78・0%に上った。事件を受けて設置を決めた政策活動費を監査する第三者機関の具体化もこれからだ。
知名度の高い候補が口々に「刷新」「改革」を唱え、表紙だけを替えて総選挙に臨む-。そんな思惑なら国民に容易に見透かされることを、党も候補者も自覚する必要がある。
歴代の勝者たちがモノクロ写真でずらりとあしらわれている。中央に赤い字で「ザ・マッチ」と銘打つポスターは、格闘技の興行の宣伝かと見まがう。自民党が来月の総裁選に向けて作成した
▲いずれも首相や総裁として時代をつくった26人。男だらけで、じっくり眺めていると、何人かの顔に「政治とカネ」問題が透けて見える。ロッキード事件にリクルート事件、佐川急便事件、モリカケ問題、そして元法相夫妻による大規模買収事件…
▲ポスターからは政治不信を招いた裏金事件を恥じる気持ちが感じられない。作成には人工知能(AI)も用いたという。〈裏金〉だけでなく〈旧統一教会〉や〈ジェンダー平等〉といった要素を省く仕掛けでもあるのだろうか
▲総裁選に立候補を目指す議員は10人以上もいる。その誰もが「自民党は生まれ変わる」と口をそろえる。そのフレーズはポスターの面々が過去の総裁選で繰り返してきたものではないか
改革という言葉(2024年8月24日『高知新聞』-「社説」)
「だいたい国の施策で、改革と名の付くものに国民や高知、地方にとって良かったためしがない」。その少し前の時代から郵政改革、三位一体改革と「改革」という言葉の大安売り。「改革と名の付くものは要注意です」
政治アナリストの伊藤惇夫さんはリクルート事件の後、自民党の本部で政治改革に携わった。しかし、その後も「政治とカネ」の問題は後を絶たない。著書「永田町『悪魔の辞典』」では改革という言葉をこう定義する。「人気取りや、悪さの言い訳に絶好の看板」
本物の辞書には、改革とは国家の基礎に動揺を及ぼさず、暴力的ではない変革とある。より過激な「革命」よりも、日本人は改革という言葉を好むといわれる。裏金事件を受けて退陣する岸田首相も、次は「改革マインドが後戻りしない方で」。
その自民党総裁選。出馬会見に臨んだ議員は「新たな自民党に生まれ変わる」。ところが、駆けつけた支援議員には裏金づくりに関わった者もかなりいたと報じられた。覚悟の上でつくった風景か、そうならざるを得ないほど裏金議員が多いということなのか。
改革、刷新といった言葉が飛び交う秋の政局になる。言葉の内実は国民の側も要注意で見極めたい。
9月の自民党総裁選は党の体質刷新や政策転換を競う好機だが、実質的に始まった選挙戦から伝わるのは党改革や政策を巡る論争ではなく、立候補に必要な20人の推薦人が集まったか否か、立候補表明はいつかという話題ばかり。
問われるべきは、岸田文雄首相が再選断念に追い込まれた派閥裏金事件の実態解明、関係者の処分と再発防止に向けた政治資金改革に加え、高額献金被害などが相次いだ旧統一教会(世界平和統一家庭連合)が同党の政策に影響を与えたか否かだ。党首交代によって不問に付されてはならない。
党総裁選管理委員会は「9月12日告示、同27日投開票」の日程を決めた=写真。現行規定になって最長の選挙期間には耳目をひきつける狙いがあるのだろう。
総裁選にはすでに立候補を表明した小林鷹之前経済安保相のほか石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相、林芳正官房長官、河野太郎デジタル相ら10人が立候補を目指しているとされる。多様な人材が名乗りを上げられる状況が、岸田氏が率先した「派閥解消」の効果だとしたら歓迎はしたい。
小林氏は「自民党は生まれ変わる」と言いながら、政治腐敗の温床とされてきた企業・団体献金や政策活動費の廃止などの抜本改革には言及せず、現状維持の姿勢。裏金に関わった安倍派議員からも支持を受け、裏金の実態解明には消極的だ。
政治への信頼は、経済や社会保障、外交・安全保障政策を遂行するための基盤である。推薦人の確保や立候補表明の時期を語る以前に、党の体質刷新や政治改革にかける決意、目指す政策・理念こそ語り、競うべきではないか。
今回の総裁選では世代交代も焦点になる見通しだが、仮に若い指導者が誕生しても自民党の金権腐敗体質が自動的に改まるわけではない。私たち有権者は「お祭り騒ぎ」に惑わされず、政治が本当に変わるのかを見極めたい。
通例の12日間前後より長い15日間とすることで、党の刷新感をアピールする狙いだ。
国のトップを目指す政治家たちがどんな考えを持っているのか、国民に見える形で、丁寧な論争を展開してもらいたい。
最大の争点は、派閥の裏金事件を受けた党の信頼回復だ。
政権党に巣くう金権体質の原因がどこにあり、どうすれば根絶やしにできるのか。そもそもいまだにはっきりしない裏金問題の真相をどう究明するか。
候補はこれらの論点から逃げてはいけない。抜け穴だらけの政治資金規正法の再改正を含め徹底討論しなければならない。
気になるのは、裏金事件に真正面から向き合う姿勢を示す候補が少ないことだ。
初めて正式に出馬表明した小林鷹之前経済安全保障担当相は事件で安倍派議員が役職から外されている現状に疑問を呈し、党の調査の限界も指摘した。
党を代表する候補者たちはこれらの問題に当事者として対処する自覚を忘れてはならない。
今回、立候補がしやすくなっているのは、各派閥の解散表明により、議員への縛りが弱まったためだと言われる。
ただ実際は派閥の議員同士のつながりはなお濃厚に残っており、総裁選になればその人脈を通じて戦う構図は変わらない。
派閥は過去に何度も解消しては復活してきた。「派閥解消」が表面的ではなく、実効性あるものなのかが問われている。
野党第1党である立憲民主党も9月7日告示、23日投開票の日程で代表選を行う予定だ。
そのためには自民党総裁選に埋没しない論戦を繰り広げ、対立軸を明確にすることだ。
「政治とカネ」の問題にどう取り組むのか。党を再生するというのであれば、その姿勢と道筋を示すことが先決だ。
退陣表明した岸田文雄首相の後任を決める自民党総裁選が、9月27日に投開票される。選挙期間は12日の告示から過去最長の15日間となる。地方を含め候補者による論戦の機会を増やし、党の刷新をアピールする狙いがある。
そもそも、首相が再選不出馬に追い込まれたのは、派閥裏金事件への対応が迷走し、国民の政治不信が高まったためだ。
総裁選は11人もが立候補に意欲を示す乱立模様だ。
会見には、組織的に裏金を作っていた安倍派から、支援する中堅・若手が多数同席した。党の処分を受けた議員もいる。会見に先立ち出演したインターネット番組では、処分を受けた議員が要職から除外される現状に疑問を示した。
総裁を目指す他の議員にも、政治資金問題に正面から向き合う姿勢は見えない。これでは国民の信頼回復はおぼつかない。
自民ではこれまで派閥がカネと人事を差配し、その合従連衡により総裁を選んできた。多くの派閥が解散を表明している今回の総裁選では、従来のような派閥力学で動くのではなく、政策や人物本位によるリーダー選びが実践できるかが問われている。
事件が表面化して以来、党内から改革を求める動きは乏しい。衆院議員の任期満了が来年秋に迫る中、不信の目は党全体に向けられている。
裏金事件をうやむやにしたままでは、選挙目当てで「顔」をすげ替えるだけだと国民から見透かされる。求められているのは、開かれた論戦を通じて党改革の本気度と政策の中身を競い合うことだ。
自民党総裁選 生まれ変わる契機にできるか(2024年8月21日『読売新聞』-「社説」)
自民党が、岸田首相の後継を選ぶ党総裁選を「9月12日告示、27日投開票」の日程で実施することを決めた。新総裁は、10月初旬にも首相に指名される。
閣僚や若手ら11人が出馬に名乗りを上げており、2000年代以降の総裁選で最も多かった5人を上回る激戦となる見通しだ。立候補予定者は20人の推薦人集めに全力を挙げている。
従来の総裁選は、派閥の 領袖りょうしゅう を候補者に掲げ、推薦人も派閥単位で決める、という派閥による調整機能が働いてきた。
しかし、派閥の「裏金」事件を受け、首相が派閥解消を表明したのに続き、麻生派以外の各派も相次いで派閥の解消を決めた。
今回の総裁選では、茂木派からは茂木敏充幹事長と加藤勝信元官房長官が、岸田派からは林芳正官房長官と上川陽子外相が、それぞれ出馬の意向を表明している。実態としても派閥の締め付けが利かなくなったことを示している。
それに伴い、党所属議員も、派閥の意向に左右されず、推薦人となることが可能になった。
立候補者本人も推薦人も、なぜ次期首相にふさわしいと言えるのかを説明できなければならない。自民党全体が、生まれ変わっていくのにふさわしいかどうかを、問われる形となっている。
今回の総裁選のもう一つの特徴が、世代交代の動きだ。
当選4回で49歳の小林鷹之前経済安全保障相が出馬を正式表明した。当選5回、43歳の小泉進次郎元環境相も出馬に意欲を示している。このほか、閣僚経験が豊富な石破茂元幹事長や、河野太郎デジタル相らも立候補する考えだ。
ベテランと若手の候補による活発な論戦を期待したい。
総裁選の選挙期間は15日間と、1995年に現行の総裁公選規程ができて以来、最長となる。
日本を取り巻く安全保障環境はかつてない厳しさにある。人口減少など内政の課題も山積する。公開討論会で、外交、内政ともに具体的な政策を示してほしい。
派閥の事件にどうけじめをつけるのかも、主要なテーマとなる。各候補は討論会などで自らの考えを明確にすることが重要だ。
総裁選では自民党自身が問われていることを、党所属議員が重く受け止める必要がある。
派閥に縛られぬ自民総裁選で論戦活発に(2024年8月21日『日本経済新聞』-「社説」)
自民党が総裁選の日程と選出方法を決めた。岸田文雄首相(党総裁)の任期満了に伴うものだが、現職の不出馬を受けて実質的に次の首相を選ぶ重要な選挙だ。派閥の解散も相まって、後継に10人以上の名があがる異例の混戦となっている。多様な人材による活発な論戦を通じ、政治への信頼回復につなげるべきだ。
日程は9月12日告示、27日投開票となった。発信の機会を増やすなどの理由で、選挙期間は15日間と過去最長にした。それでも時には1年以上にわたりリーダーの資質を見極める米大統領選などと比べればはるかに短期決戦である。
国会議員票367票と、同数の全国の党員・党友票をあわせた計734票を争う。1回目の投票で過半数を得る候補がいなければ、上位2人の決選投票となる。
いち早く立候補を表明したのが小林鷹之前経済安全保障相だ。閣僚経験はあるが、衆院当選4回、49歳は党内で若手と目される。石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相といった世論調査で上位の面々や、同じ派閥に所属していた複数の議員が意欲を示す動きもある。
政治資金問題を受けて麻生派を除く派閥が解散し、そのくびきが外れたことで多くの議員が手をあげやすい環境となった。出馬が一部の有力者の意向や派閥の合従連衡に大きく左右されにくくなったのは歓迎すべき傾向だ。
立候補には党所属の国会議員20人の推薦人が必要で、ハードルは低くない。出馬にこぎつけられる顔ぶれは3週間以上先の告示日までに絞られていくだろう。
2025年10月の衆院議員の任期満了まで1年余りある。党内には総裁選で国民の関心をひき付け、その余勢を駆って新総裁の選出からほどなく衆院解散・総選挙に持ち込もうとの声もある。しかし選挙目当てだけで総裁を選ぶのはもってのほかだ。
どのように経済再生を軌道に乗せ、激動の国際情勢のもとで外交を展開するのか。そうした政策論争はもちろん、国家観や国を率いる見識を厳しく吟味しなければならない。せっかく延ばした選挙期間を、内向きの集票活動ではなく徹底した討論に割いてほしい。
今回は選挙にかかる費用を減らそうと、告示前の郵送物の配布の自粛を求めた。「政治とカネ」の批判を意識した取り組みで、さらに工夫の余地がないか検討してもらいたい。
自民総裁選 政策を徹底的に論じ合え(2024年8月21日『産経新聞』-「主張」)
自民党は任期満了に伴う総裁選を9月12日告示、27日投開票の日程で行うと決めた。
岸田文雄首相の後継を決める選挙だ。国の舵(かじ)取りを担うには誰が最もふさわしいかを示す必要がある。「政治とカネ」の問題で失った信頼を回復させるのも急務になっている。
選挙期間を今の総裁公選規程ができた平成7年以降最長の15日間としたのは妥当だ。
国会議員票367票と党員・党友による地方票367票の計734票を巡る争いとなる。過半数を獲得した候補者がいない場合は、上位2人が決選投票に臨む。
これまでは派閥単位で特定候補を推すことが多かったが、麻生派以外が派閥解消を決定した影響で派閥の拘束はほぼなくなった。若手の小林鷹之前経済安全保障担当相が立候補を表明したほか、なお10人程度が出馬を模索している。
名乗りを上げる政治家には政見や国家観、具体的な政策を国民に示し、徹底的に競い合ってもらいたい。派閥による支援の有無や世代交代に焦点があてられがちだが、真に問われるべきは政策の中身である。
重要なのはいかに日本を守り抜くかという点だ。
平和と繁栄の基盤となる安全保障政策では、防衛力の抜本的強化を今後も進めねばならない。中国や北朝鮮は核・ミサイル戦力の強化に走っている。ロシアによる核の恫喝(どうかつ)も脅威だ。抑止力と対処力の向上に向けた政策を、国際情勢に対する認識とともに聞きたい。
国の根幹をなす安定的な皇位継承策については、男系(父系)継承を確実にすることが求められる。
安倍晋三元首相がテロリストの凶弾に倒れてから2年以上が経(た)った。昨年4月には岸田首相に演説会場で爆発物が投げられる事件も起きている。
民主主義を揺るがす事態はあってはならず、暴力による言論封じは絶対に許されない。安全が確保された環境で政策論争が十分に行えるよう、演説会場の警備に万全を尽くしたい。
自民党総裁選 政治とカネの具体策語れ(2024年8月21日『にして』-「社説」)
「政治とカネ」の問題で、自民党政治に対する国民の信頼は失墜した。新総裁選びには、信頼を取り戻すための具体的な論戦が不可欠だ。
自民党総裁選の日程が9月12日告示、27日投開票と決まった。選挙期間は前回の12日間から15日間に延びた。情報発信の機会を増やし、派閥の政治資金パーティー裏金事件で落ち込んだ党勢を回復させる思惑があるのだろう。
先週、岸田氏が不出馬を表明したことで立候補の動きが活発になり、10人を超える名前が挙がる。まず小林鷹之前経済安全保障担当相が立候補を表明した。
これまでと違い、脱派閥の総裁選となる。麻生派以外は解散を決めた。派閥の縛りが解けることで、自由闊達(かったつ)な選挙になることを期待する。
とはいえ、立候補に必要な国会議員20人の推薦人集めには、派閥の影響力が少なからず残りそうだ。派閥の合従連衡が選挙戦を左右することがあってはならない。
再選に意欲を示していた岸田氏が退くのは、国民の信頼を失うことになった裏金事件などの責任を取るためだ。であれば、後任を決める総裁選で問われるべきは、やはり政治資金の問題である。
岸田氏が決着をつけられなかった懸案について、全ての総裁候補は明確な考えを国民に語るべきだ。
日本が直面する諸課題を解決に導く政策は、国民の信頼があってこそ実行力を伴う。政治資金を巡る課題にお茶を濁すようでは、信頼回復はおぼつかない。
岸田氏は退陣表明の記者会見で、総裁選に向けて「新生自民党を国民の前にしっかりと示すことが必要だ」と述べた。3年前の総裁選でも、岸田氏はほぼ同じ言葉で自身をアピールしていた。
3年後の自民党の姿はどうか。多くの派閥が解散を決めた半面、政治資金問題に象徴される旧弊をまとったままで「新生」には程遠い。
選挙が有利になるように、またも「看板」をかけ替えるだけの内向きな総裁選になる懸念は拭えない。
自民党員だけの選挙ではない。国民は政権選択の選挙に備え、候補者が何を語るかに耳を澄ましている。
「ステーキ政治」から見える世界(2024年8月21日『琉球新報』-「金口木舌」)
県内の格安ステーキ文化は終わりを迎えつつあるようだ。円安や飼料価格の高騰で牛肉が値上がりしている。これまでのように「安くておいしい」というわけにはいかない。店側も経営は厳しかろう
▼かつての「料亭政治」に代わる「ステーキ政治」だろうか。自民党派閥の裏金問題は終わったわけではないのに、忘れてしまったかのよう。ステーキ店という舞台装置がなくても意見交換はできる。これでは政治は変わらない
▼党総裁選に多数が名乗りを上げている。裏金問題で多くの派閥が解消した今、いかなる政治力学が働くのだろう。きっと会食も増えるだろう。言いたいのは、つつましい庶民の暮らしを見つめてはどうかということ
▼そんなことを考えながら、近所のスーパーに買い物へ行った。牛肉は高め。安い挽肉を買い、店を後にした。ため息一つ。この気持ち、会食好きの面々に分かってもらえるだろうか。