戦後79年が経過し、戦争経験者の高齢化により、記憶の継承が年々難しくなっている。聞き取りが困難な人も増える中、戦争を経験していない世代が残された史料を基に、新たな「語り部」として教訓を受け継ぐ取り組みが進む。(山口登史)
◆「爆弾の破片が腕を…」迫真の語り
「至近距離で爆弾が破裂します。爆弾の破片が左腕を傷つけ、血が出て止まりません…」。戦傷病者史料館「しょうけい館」(東京都千代田区)で11日に開かれた講座で、高峰章さん(65)=東京都東大和市=がマレー半島やシンガポールでの戦闘に加わった男性に関する講話を、身ぶり手ぶりを交えて披露した。
沖縄で自ら撮影した写真を交えて講話する大野真理子さん=東京都千代田区の「しょうけい館」で
母方の伯父が20代前半で戦死するなど高峰さんにとって「身近なところに戦争があった」。「人間の生活の基本は平和であると思っている。戦争体験を話すことを、平和を考えるきっかけにしたい」と、4年前からしょうけい館で語り部として活動する。男性本人に会ったことはなく、しょうけい館が所蔵する証言映像や自ら調べて得た知識を活用し、戦争を知らない世代にも伝わる説明を心がける。
◆恩給受給者は1401人に減少
しょうけい館は戦争経験者の証言映像を多く所蔵し、体験記をまとめた冊子も作ってきた。しかし、介護が必要になるなど、本人が経験を語る機会は年々少なくなっている。担当者は「聞き取りが難しくなる事例が近年は増えている」と明かす。
講話に出てくる爆弾の破片の展示を見る高峰章さん=東京都千代田区の「しょうけい館」で
総務省によると、国から恩給を受けている元軍人はピーク時の1970年度末は139万798人だった。2012年度末に10万人を、20年度末に1万人を割り、今年3月末現在で1401人まで減った。
「女性の目線で戦争の記憶を残したい」という大野真理子さん(65)=埼玉県戸田市=も、史料を活用して、沖縄戦で多くの犠牲者を出した「ひめゆり学徒隊」の体験を伝えている。沖縄を巡り、自ら見聞きしたことを講話に盛り込み、「当時何が一番つらかったのかを、常に考えるようにしている」と話す。
◆「もう少し聞いておけば」悔恨も
父親は戦時中、陸軍に徴用され、近年亡くなった。戦争体験をあまり語らなかったといい、大野さんは「もう少し聞いておけば」と悔やむ。「戦争の記憶を忘れず、いかに未来につないでいくか。現代を生きる私たちに与えられた課題と思って、今後も続けていきたい」と講話に取り組む。
高峰さんと大野さんは、戦中戦後の経験や苦労などを伝える厚生労働省の「戦後世代の語り部」として活動する。同省によると、しょうけい館と昭和館、首都圏中国帰国者支援・交流センターの3施設で計54人が登録している。